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あの夏・ノスタルジー

#UDCアース #【Q】 #憑依型UDC

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●だって、世界があついから
 ぼくたちは世界を救いたいわけじゃないんだ。
 結果的に世界を救うことに繋がるかもしれないってだけで、救世主になりたいわけじゃない。
 あの頃の夏を、取り戻したかったんだ。ただ、それだけ。
「|令佳《れいか》、ごめんな……」
「ううん、だいじょうぶ!れいか、がんばるよ」
 6歳を迎えたばかりの愛娘にする仕打ちではないとわかっている。
 この悪天候を鎮めたいと活動するカルトじみた研究者たちに、愛娘を実験材料として預けるなど、親のすべきことではない。
 ぼくたちは非難されるべきだ。ぼくたちは糾弾されるべきだ。ぼくたちは罰せれるべきだ。
 だけど、だけど――だけど!
「だって、れいかだっていやだもん。なつ、あつすぎるもん」
「すまない、令佳ぁぁぁっ!」
 それでも、ぼくたちはあの夏を取り戻したかったんだ!
 だけど、いくらなんでも本人の意思を無視して渡すなど、そこまで非道にはなれなかった。
 ぼくたちはただ、過去の、昔の、あの夏を話しただけだ。
 麦わら帽子と夏着で虫取りに出かけたり、川で遊んだり、プールに出かけたり、ラジオ体操したり。縁側で冷たい清涼飲料水を飲んで、桶に水をはってスイカを冷やして、扇風機の風を浴びながら風鈴の音色を聞いて。
 そんなあの夏を話しただけだ。そうしたら令佳の方が乗り気になってくれた。
 令佳も、パパとママが過ごした夏を過ごしたいって。プールで、川で、虫取りして遊びたいから頑張るって。
 勿論、令佳を預けるにあたって、苦痛を伴うようなことはないか、どんな方法でこの季節を鎮めるのか関係者全員に確認はした。
 科学者たちは皆、口をそろえて言ったんだ。
 苦痛はない。虐げることもない。ただ少しオカルトじみているので怖いことはあるかもしれない、と。
 具体的には、この天候を司る概念――わかりやすく【神さま】――を愛娘の身体におろして、ご要望をお伝えするのだが、それがちょっと怖いかもしれない。お伝えしたらお帰り願う、と。
 まるでおまじないのような内容に、ぼくたちは少し安心してしまった。否、油断していたんだ。コックリさんのようなものだと、そんな風に考えていた。

 それが――それが、こんなことになるなんて!

●そうね、世界あついよね
「夏が暑いのはわかります。どうにかしたい気持ちもわかります。昔の夏に戻ってほしいって気持ちも、わからなくはないです。桂澄は昔の夏など知りませんが、昔はここまで暑くなかったと母様や師匠は言っています。しかしです、コックリさんだって帰らないときがあるんです。神さまも帰らないかもしれないって、想像つかないんですかね……?」
 藤原・桂澄(彷徨う蟲使い・f45332)は白いシャツに短パンというラフすぎる夏先取りの格好で、麦わら帽子を団扇がわりにぱたぱたしながら首を傾げる。片手にはちゃっかり葡萄色のアイスキャンディーだ。
「状況を説明します」
 桂澄はまずしゃくりとアイスキャンディーをかじってから状況を説明した。

 まず、昨今の異常気象を鎮めようとカルト的な手段を含めて研究をしている研究団体があった。
 研究者たちは異常気象の象徴として、ある年号の概念が擬人化されて扱われていることに着目し、その概念を【神さま】として祀り上げることで、 どうにかできないかと閃いたそうだ。
「まあ、日本なら古来からよくある手法です。例えば、牛頭天王とかがそうですね。牛頭天王そのものは疫病神ですが、悪さをしないようご機嫌伺いする目的で始まったのが祇園祭と言われています。今回もそれでどうにかできないかと閃いたわけです。実例ある手法を一旦、用いてみるのは実験、研究の基礎ですね。着目点としては悪くないと思います」
 ただ、問題はここからだったわけです。と続ける桂澄。
 しゃくりとアイスキャンディーふたくちめもしっかり堪能する。
「概念を祀るにはまず、ナニカにおろす必要があります。おろすには依り代が必要です。依り代には条件が必要です。今回、たまたま研究者の身内に条件のあう娘がいたので、その娘に概念をおろそうという話になりました。おろすこと自体は成功したそうなんですが――帰ってくれないんだそうです」
 神さまはとてもとても我儘で強欲だった。
 祀っても祀っても満足してくれず、お帰り願っても帰ってくれない。
 帰ってほしいなら、まず褒めて!頑張っているんだから、まずはいっぱいいっぱい褒めて!とわんわん泣いてみたり、甘いものを頂戴とおねだりしまくってみたり、おもちゃをあれこれとほしがってみたり。
「|神さまの人格のまま《・・・・・・・・・》外に出たい、というワガママ以外は概ね叶えてあげていたそうですが、とうとう神さまが堪えきれなくなったんでしょう。研究所を破壊して、脱走しようとしています。結論としては、このワガママ神さまを倒して物理的に帰らせてくださいっていう依頼です。ついでに、研究資料を見つけたら破棄してしまってください。この研究は下手すると、とても危険なことになりかねないです」
 現状、研究者たちは神さまの起こした体調不良に見舞われているが、神さまをどうにかすれば助かるそうだ。手助けするか否かは現場に一任するが、それよりも研究資料の破棄を優先して欲しい、と桂澄は言う。
 何故なら、今回はワガママ神さまが癇癪おこして大暴れしているだけだが、誤って、もっと危険な神さまがおりてくる可能性もあったそうだ。その場合は、猟兵たちですら手に負えるかどうかもわからない。
 しかし、と桂澄は続ける。
「神さまをどうにかするにしても、このままだと全ての物理ダメージが依り代の娘に跳ねっかえり、依り代の娘が死んでしまいます。ですので、神さまの人格を表に引っ張り出した状態で、ぶっ倒す必要があります。神さまが表に出てくるタイミングは、なんと――かくれんぼで依り代の娘を見つけたとき、娘の名前ではなく、神さまの名前で呼びかけることだそうです」
 オカルトの儀式めいていて大変、面白いです。
 桂澄は残りのアイスキャンディーを食べきってしまうと、棒だけを手のかわりに振る。
「依り代の娘の名前は|令佳《れいか》です。神様の名前は、天候破壊少女・れいちゃん、です。ええ、名前が酷似していることが依り代の条件のひとつでした。呼びかけのときは、くれぐれも間違えないように、注意してください。よろしくお願いします」
 桂澄はぽすっと麦わら帽子をかぶる。
「あ、重要なことを忘れていました。呼びかけは、れいちゃん、と心より親しみを込めるのがポイントだそうです。心より、です。心をこめてください。かくれんぼの舞台は、まずは地上階の古びた洋館です。れいちゃんは見つかったら地下の研究施設に逃げるので、名前を親しみ込めて呼びかけながら追いかけつつ、ついでに資料を破棄しつつ、れいちゃんの人格を維持したまま、ぶっ倒してください。頑張ってくださいね」
 そうして、研究所へと続く屋敷の扉は開かれた。


なるーん
 あついです、なるーんです。
 やることは簡単です。

 第一章:かくれんぼする
 れいちゃん、って呼んであげると、れいちゃんの人格になります。
 親しみを込めてください。親しみを込めてください。重要です。

 第二章:おいかけっこする
 おいかけっこして、研究資料破棄しつつ、れいちゃんの人格を維持する。
 引き続き、れいちゃんと遊びます。呼びかけは親しみを込めて。
 研究者たちを助けるかどうかはご自由に。

 第三章:れいちゃんぶっ倒す
 ぶっ倒す。

 以上、よろしくお願いします!
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第1章 冒険 『惨劇の館』

POW   :    屋敷の中を歩き回り、UDCを捜し出す。気力と体力のいる作業だ。

SPD   :    屋敷の中に異常がないか、確認する。頭よりも、手先の器用さが重要だ。

WIZ   :    屋敷の間取りを把握し、効率的に捜す。立体的に建物を把握するには、かなり頭を使うだろう。

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●どんな惨劇に見舞われているのか、とくとご覧いただこう
 ほんのりと埃臭い洋館に足を踏み入れた瞬間、猟兵たちは何やら嫌な予感がした。
 ずきり、と頭が痛むのだ。なんというか、あの、気圧が低いときに感じる煩わしい痛み。
 ずきり、ずきり――そして、彼も恐らくそんな頭痛に見舞われているのだろう。
 吹き抜け玄関から確認できる2階廊下に、こめかみを抑えてふらつく白衣を着た男がいた。
 猟兵たちには気付いていないようだ。というか、それどころではないのだろう。
 顔が土気色で、脂汗が浮いている。口元を抑えているので、吐き気もあるのかもしれない。
「れ、れいちゃ、見つけ」
「ごめんなさい、パパ。しんけんにあそんでくれてないから、やーよ!だって」
 絞り出したようなか細い声にこたえる、溌剌とした少女の声。そしてパタパタと逃げていく足音。
「れ、れいか。ああ、どうして、こんな、ことに」
 男はふらりその場で倒れ込んだ。
 ――かくれんぼの続きは、猟兵たちに託されたようだ。
 さあ、まずは少女を見つけて、呼びかけようじゃないか。れーいちゃん、って親しみ込めて、ね!
樂文・スイ
やー、ほんとあっついよなぁ最近
つっても温暖化だって自然の摂理っしょ?
ヒト個人でなんとかすんのは無理ゲーだって
だいたい神サマのワガママ、聞いた感じだと可愛い限りじゃん
俺でよけりゃあいくらでも遊ぶし褒めてやるぜ?
甘やかすのは得意分野っすからね、せいぜい神遊びにつきあうとしますか!

低気圧っぽいけどこれ要は霊障とか呪いみたいなもんっしょ?
だったら耐性あるしそんなしんどくはねえかなー

れーいちゃん、もういいかーい?
お兄サン運もいいし、探し物にはけっこう自信あるんだぜ
どこに隠れたって見つけちゃうぞー、観念して出ておいで!
見つけたらすかさず逃げ道のない方向にさりげなく誘導
ほら、れいちゃんみーつけた!ってな



●かくれんぼしーましょ!
「やー、ほんとあっついよなぁ最近……」
 と、ぼやくのは樂文・スイ(欺瞞と忘却・f39286)くんだ。此度も遊びに来てくれてありがとね!
 そんでもって、そう、本当、ここんとこずっとあっついよねー。
 野菜も溶けるし、腐るし、大根は土中の温度があがりすぎて割れるし、ザリガニも水温上昇による低酸素でぽこぽこ死んでいる。既に夏は消えて死季って感じ。知ってるかい? 今や暑すぎるからプール中止ってこともあるんだって。
「つっても温暖化だって自然の摂理っしょ? ヒト個人でなんとかすんのは無理ゲーだって」
 まあね。でもほら、それが自然の摂理と言えど、人間、地球外では長期間生存不可なので。今のところ。
 無理ゲーとわかっちゃいるけど、生きるためにはどうにかする方法を見つけたかったんじゃないのかなぁ。人間が安全に生存できる環境からはちょーっと外れて来てるしねぇ……。
「とは言えなぁ……ま、いっか。まずは神サマ甘やかすのが先っしょ。意分野っすからね、いくらでも神遊びにつきあうぜ。お邪魔しまーっす、と」
 ナチュラルに地の文と会話しながら、玄関マット並べられていたやたらカワイイ動物さんスリッパに履きかえて――選んだのはピンク色のうさぎさんです――いざ、お屋敷探索開始だ!
 スイは、視界の範囲をぐるり、確認する。玄関死角に監視カメラはあれど、怪しいのはそれくらいか。
 屋敷全体の雰囲気は洋物ホラーゲームによくある、如何にも、という感じだと受け取れる。
 しかし、地上階はあくまでカモフラージュとして誂えられているだけなのか、人の営みの名残りは少ない様子。
 その証拠に、一歩踏み込むたびに重厚な赤色カーペットからふわり埃が舞った。
「ふーん……インテリアはいいもん置いてるみたいなのになぁ」
 花瓶に活けられた花だけが唯一生気を感じさせるばかりだが、まあ、今は神サマが優先だ。スイは少女の声と、駆けて行った足音の方向にぺったぺったと歩いていく。
 さて、2階にあがって廊下によく目を凝らせば、小さな足跡の痕跡があった。子どもながらのうっかりか、そこまで気が回らないのか。辿ればすぐに見つけられそうだが――足跡をたどるたび、少女に近付くたびに、こめかみが嫌に疼く――ような気が、する。
「気圧って霊障とか呪いみたいなもんって思ってたけど、」
(なんかちげぇな、これ)
 ――タネ明かしは第三章で。
 とはいえ、気圧症っぽい症状はれいちゃんのユーベルコードの残滓ではある。
 猟兵であり、なんらかの|耐性《・・》が効果を発揮して、スイくんには一般人ほどの症状はあらわれないようだ。精々、こめかみが脈打つように、本当にほんのちょっとだけ痛む程度だ。
 頭振った瞬間にたまにある、今一瞬、痛かったかもしれないなぁ、って感じることがあるような、そんな程度。だから、気にしなければ行動に一切、支障はない。
 スイは、引き続きかくれんぼを優先することにした。
 けど、いくつもの部屋への分岐がある廊下の先、ひと部屋ひと部屋を確認するほど手間をかけるつもりはない。
 スイくんはそれはそれは心を込めて――というか、本気で遊ぶつもりなのでわざわざ意識しなくとも――親しみをこめて、名前を呼びかけてみた。
「れーいちゃん、もういいかーい?」
『あ、おにいちゃんは真剣に遊んでくれるのね! まぁーだ、だよー!』
 部屋のひとつよりお返事ひとつ。
 先ほどの少女よりは声色がやや異なっていた。表情が伺えるならば、喜色満面の笑顔が容易く想像できる。
「そーかそーか。お兄サン運もいいし、探し物にはけっこう自信あるんだぜ」
『本当かなー? れいちゃんみつけられるかなー?』
「どこに隠れたって見つけちゃうぞー、観念して出ておいで!」
『やーだよー! れいちゃんをちゃんとみーつけてー!』
(おーおー、可愛い神サマじゃん)
 足音はカーペットに隠して。声が聞こえた部屋の入口に立ちふさがるようにして、声をかけてみる。
 呼びかけに答える声は、もそっと篭って響いていて――ああ、これはクローゼットか、押し入れか。とにかく、室内の身をすっぽりと隠せる場所に居る。
 ドアを開ける物音など、むざむざ響かせるわけもなし。そっと室内に身を滑らせ、素早く周囲を見渡して目星をつけた。スーツが仕舞えるような、縦長のクローゼットがひとつ。
 「どーこかなー?」
 呼びかけは返らず。されど、狐耳は確かに拾う。息を呑み、身を縮めたときの衣擦れを。
 キィ、とゆっくり開かれるクローゼットの扉――そう、スイは、殺人鬼なのだ。
「みぃーつけた」
 隠れる|獲物《・・》を見つけるのは、逃げる獲物を追い詰めるのは。
「ね、お兄サン、見つけちゃうぞーって言ったっしょ?」
 得意に、決まってる。
 れいちゃんは、電灯の逆光で表情を伺えないスイを見上げながら。
『ほんとだ、見つかっちゃった!』 
 スイに全く恐れも抱かずにただただ、きゃらきゃらと笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スミス・ガランティア
うーん! 人の子達の気持ち、分からなくは無いなあ。
我も暑いのとか熱いのは苦手だからね。そうお願いされたら何とか力になりたくなっちゃうよ。なんなら我が喚ばれたかった……

でも、わがままで強欲なのはよろしくないね。ちょっとお灸を据えるためにも、頑張ろうか。

ってうわ! お父上の体調がやばい!
【生まれながらの光】と、【幻影使い】としての冷たい氷の幻影でどうにか体調を癒してあげられないかな?

さて、相手は新しい概念の新しい神。
なれば子供扱いも許されよう。【優しさ】を以て接してあげて、いつも人の子達にしているみたいに友好的に茶目っ気と親しみを込めて「れいちゃん」と呼びかけて構ってあげようか。



●神さまと遊ぼう!
「お、お父上ーーーっ!?」
 お屋敷にお邪魔した途端、依り代の娘の父親らしき男性がぶっ倒れまして。
 人好きなひんやりの神さま――スミス・ガランティア(春望む氷雪のおうさま・f17217)くんは思わず叫んだという。
 人の子たちの気持ち、わからなくはないなぁ……我もあついの苦手だからなぁ……寧ろ、我が呼ばれたかったなぁ……とかいろいろ考えていたけれども、吹き抜け玄関から見上げてもわかるくらいに、あんまりにも顔色悪いお父上の見事な倒れっぷりに、それどころじゃないね!? と猛ダッシュで階段を駆け上った。
 因みに、玄関のフロアマットに並んでいるカワイイカワイイ動物スリッパから、スミスくんが咄嗟に選んだスリッパは涼しげカラーのペンギンさんスリッパである。ピコココココ、ってピコピコサンダルみたいな愉快な音が鳴っていたけれども、お父上に意識が向いているスミスくんはそれに気づいていなかった。ピココココ。
「お父上、お父上~……?」
 倒れた男の傍に屈んで頬をぺちぺち。苦渋の表情のまま、う、と僅かに身じろぐ男。反応を返した様子にほっと安堵の息を吐いてから、スミスくんは耳を傾けて呼吸を確認する。か細いけれども安定はしているようで。
「命に別状はないようだね、これで少しは楽になるだろうか……」
 多少はマシになるだろうと手の平サイズの氷を幻影で作り出すと、こめかみのあたりにそっと添える。おまけにスミスが元より纏う神聖な光を、氷を添える手より流し込むようにイメージして。まさに、手当て、ともいえる応急処置のおかげで男の顔色はよくなっていく――やがて、男の表情は穏やかなものに。
「よし。おや?」
 ちょうどそのタイミングで。
『やーだ、れいちゃん、まだ遊ぶもーん! れいちゃんが飽きるまでずーっとずっと遊んでちょーだい、お兄ちゃん!』
 こっちだよー! と、きゃっきゃと笑う少女の声と駆けていく足音が聞こえてくる。
「おやおや。わがままで強欲なのはよろしくないね。ちょっとお灸を据えるためにも頑張ろうか」
 まだまだ続く様子のかくれんぼに、早速と加わる様子のスミスくん。2階は個室がメインなのだろう、軽く周囲を見渡しても多いと感じるくらいにとにかく部屋数が多いので、人手だってきっと必要だ。
「神が言う【ずっと】など、ろくなことではないからね。幼いならば尚更だろう」
 ――あ、我は違うよ! とカメラ目線でウィンクぱちり★ スミスくんも神様だからね!
 そう、だからこそ、わかるのだ。わかってしまうのだ。神という存在の圧倒的な理不尽さと、そして人間との時間感覚の解離を。死のない概念だからこそ、神の言う【ずっと】はもはや、永遠だ。猟兵といえど、人間に付き合わせていい時間ではない。
 故に、神の相手は神がいい。スミスは深呼吸ひとつ、さあ、呼びかけはいつもみたいに親しみを込めて。
「れーいちゃん、今から我もくわわるぞ! 上手に隠れられるかな~?」
『本当? じゃあ、ちゃんと10数えてね! もういいよーもちゃんと言ってね! れいちゃん、がんばるね~っ!』
 返ってくる反応はまっこと人間の子どものように幼い。これならば子ども扱いしても、寧ろ歓迎されるくらいか。構って構って構い倒して、満足させてしまおう。
 スミスは思わず頬を緩ませつつ、壁に顔を向けて目を瞑って。
「いーち……にー……さーん……しー……」
 ゆっくりゆっくり数を数えてあげるのだった。
 さあ、かくれんぼはまだまだ続くぞ! 神様と神様のかくれんぼ、どっちが先に飽きるのか、どっちか先に疲れるか――あとは、気力と体力勝負だ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

御梅乃・藍斗
実の娘を依代にするって…
子は親が望んでいるならそうしたいと言いますよ、害為す危険があるなら止めるのが保護者のつとめでしょう
自分のやったことを後悔して憔悴しているのは自業自得といいますか…最も同情されるべきは娘さんですからね

何事にも真剣に、が僕のモットーなので
遊びといえど手は抜きません
体調不良に関しては【白い嘘】で紛らわしつつ

れいちゃん、どこですか?
洋館内の間取りを【情報収集】しつつ声をかけて回ります
神といえど人格的には幼いようですから、あくまで優しく穏便に
ずっと見つけてもらえないのは、それはそれで寂しいでしょう?
実を言うと僕、君みたいな妹がいたらなって思ってるんですよ(末っ子なので本当に妹に憧れていたことがある)



●それはまるで兄妹のように
「れいちゃーん、どこですかー?」
『っふふふ、お兄ちゃん、探してるほうこう、ぜんぜんちがうよー。こっちこっち!』
「あれ、そっちだったんですか。じゃあ、今、行きますね」
『きゃーっ』
 ああ、そのやりとりはまるで本当の兄妹のように。御梅乃・藍斗(虚ノ扉・f39274)の呼びかけに彼女は無邪気に笑って、応えて、逃げていく。軽やかな足音をしっかりと聞きつつ、それでも敢えて明後日の方向に進みながら、藍斗はれいちゃんとのかくれんぼを純粋に|楽しんでいた《・・・・・・》。
「ふふ、なんだか懐かしいですね」
 藍斗には兄と姉が|いた《・・》。
 温厚な兄と溌剌な姉。ふたりとも藍斗にはとても優しく寛容で、幼い頃もこうして遊んでもらっていた記憶がある。
 そんな兄姉に構って貰ってばかりだった藍斗も、成長していくうちに下の|弟妹《きょうだい》がいる友達を見て、妹という存在に憧れていた時期があったのだ。
 穏やかで、あたたかで、幸せな記憶がよみがえる。
「――僕に妹がいたら、こんな感じなんでしょうか」
(なんて、もう在りえない話ですけど)
 言いながら自嘲の笑みがこぼれた。
 血の繋がった下の|弟妹《きょうだい》など、もう二度と出来ようはずもない。その可能性を――藍斗は、自ら、潰した。ずきり、罪の痛みと同時に鈍痛が襲い来る。こめかみの血管が脈打つような、頭の痛み。ほんのりと込み上げる、吐き気。頼りなげな光源すらまるで閃光のように白く視界を支配する。キーン、という耳鳴りが彼女の声を遠ざけた。
(これは……少々、堪えますね)
 ざらり、上着のポケットから取り出した錠剤を嚙み砕いて、飲み込む。不調は、誤魔化さないと。彼女と、遊び続けないと。強迫観念めいた思考は、依代の少女の事情を慮ってのこと。
「実の娘を、依代にするって……何としてでも止めるのが、保護者のつとめでしょう」
 少女の前で語ることで、少女が望むように仕向けたのではないか――藍斗はそう考えていた。
 まだまだ無垢と言える年頃、親が望むように願うように、子は無意識でも従ってしまうものだ。おかあさんが、おとうさんが、喜んでくれるなら! 真の無償の愛は子どもから親へ与えられるものという通説もあるほど、子どもは残酷なまでに献身的で愛情深い。
 そんな愛情に気付いていなかったとしたら。否、気付いていたとしたら余計、質が悪い。子に降りかかるリスクを十分に考慮せず、自らのエゴを優先したのであれば――果たしてそこに、親としての愛情はあったのだろうか。あったとしても、充分なものだったのだろうか。
「自業自得ですよ……最も同情されるべきは娘さんですからね」
 幾分か顔色を良くしながらも今だ伏せる男を、藍斗は少しの軽蔑を含む眼差しで見下ろした。もし男に手を貸すならば、それは少女が救われてからだ。藍斗は男を無視して、かくれんぼを続ける。
 彼女を探して、呼びかけて。彼女が笑って、応えて、逃げて、隠れて。洋館をまるっと贅沢に使った、盛大なかくれんぼ。その最中に度々襲い掛かる不調は、その都度都度で誤魔化して。
「れいちゃんはかくれんぼが上手ですね。こっちですか?」
『も~こっちこっち。お兄ちゃん、はやくはやく。れいちゃんをみーつけてー!』
 仕方ないなぁ、って廊下の突き当りの部屋。ドアの裏に身を隠したまま、手だけをひらひら振って合図するれいちゃん。ヒント大盤振る舞いな今だけの妹に、藍斗はふふっと微笑む。
 抜き足差し足忍び足、見つけた、とドア裏に隠れた彼女を見つけたとき。
『お兄ちゃんが本当のお兄ちゃんならよかったのに、』
 膝を抱えた女の子が、少し寂しそうな表情を見せて、藍斗を見上げた――果たしてそれは、|少女か彼女《どちら》の本音だったのか。
 彼女はすくり、と立ち上がり、藍斗の脇をすり抜けて駆けていく。
『ねえ、まだまだれいちゃんと遊んで! 次はおいかけっこね!』
 そうして彼女は暖炉を潜り抜けたその向こう、隠された研究室へと降りていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『研究所を調査せよ』

POW   :    片っ端から調査する、敵がいたら倒す

SPD   :    重要そうな所にあたりをつけて調査する、敵に気づかれないよう行動する

WIZ   :    魔力の痕跡を追って調査する、敵を懐柔する

イラスト:カス

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●まだまだ遊びましょう
 地下へ続く階段を降りた先は――もう、あからさまにそういう研究所だった。
 薄暗い電灯の下、一体、なんのために作られているのか、脈動する肉片が浮かぶ培養槽が規則正しく立ち並ぶ。
 ともすれば足を引っかけてしまいそうなコードが床を這い、デスクには研究資料の束が散乱していた。
 その中で、ところどころに白衣を着た人間たちが倒れ伏せ、呻き、もがいている。
 空気循環システムは稼働しているようだが、それでもすえた臭いが立ち込めているあたり、何人かは嘔吐している様子。
 土気色の顔色からは滝のような冷や汗、胸元を掻きむしり呼吸浅く喘ぐ様子は陸にあげられた魚のよう。
 そんな中を少女は、鼻歌混じりにご機嫌に、きゃっきゃと笑いながら駆け抜けていく。
『がっ……ぅ』
 少女がよこぎれば、デスクにもたれて項垂れていた研究者が胃の中身をぶちまけて床を汚した。
『あはは、ごめんなさーい。でも、れいちゃんをそういう風に決めたのは、おじさんたち。だからじごーじとく、だよね』
 少女がくるり踊るように踵を返して、腰ベルトにささった試験管からピンク色の液体を散布した。春のような香りがすえた臭いを上書いていく。
『うぅ、ぅ』
 苦しむ声が、増える。
『ふふふ、あはは!』
 少女が笑う。
『さあさ、おにーさんたち、 おいかけっこして、あそびましょ! ひとりいっかい、れいちゃんにたっちしてね!』
 少女が、笑う。年相応に、きゃらきゃらと笑う。
『れいちゃん、さっきよりほんき、だすね!――このまほうの|おくすり《・・・・》で、|寒く《・・》したり|暑く《・・》したり、|気圧《・・》をいっぱい低くして、ぐあいわるーくしてあげる!』
 ざばっと撒かれた液体が霧となり、研究所一体に立ち込める。
『おにさんこちら、てのなるほうへ』
 あはは、あははは、カミが、嗤った。
スミス・ガランティア
うっ……暑い……これは割とまずいね。本気とやら、確かに本気なのかも……でも放っては置けないから【気合い】となけなしの【環境耐性】でどうにかしのいでいくよ。

さて、研究資料もどうにかしなきゃいけないんだっけ……とりあえず研究員たちを資料からよけて……よっこいしょ。人間は氷で火傷するらしいからね。(凍傷のこと)

よし、そしたら指を鳴らして【氷結の世界】発動。資料をみーんな氷の塊にしちゃうぞ★
研究員たちはそれで文字通り頭を冷やしたらいいよ。あとは我達が何とかするからさ。

れいちゃーん、あんまり奥まで行くと暗くて危ないぞー? って、もちろんれいちゃんのことも心配と親しみを込めて呼びかけるよ。



●今夏、最大の猛暑
 はてさて、昨今の猛暑は地球の気象システムの異常が原因らしい――。
 今も昔も太陽はちっとも変わらない。燦燦と|宇宙《そら》より恵みを注いでいるだけ。
 それを調整する地球側が故障したのだ。いや、壊された、とも言う――人間の、手によって。 
『ゆきだるまさんをとかしちゃお! あつくなーれ!』
 その責を一方的に押し付けられたカミサマは、押し付けられた|責《権能》を|薬《・》として振りかざす。
 新たな試験管の中身をざばっと撒き散らせば、瞬く間に、夏が室内を支配した。
 ねっとり肌に纏わりつく不快な湿度が、重く、息苦しさすら感じる熱さがスミスを襲う。
「うっ……暑い……これは割とまずいね」
 たらり、人のように額から汗が流れた。産まれたてといえど仮にも少女はカミサマだ、神様にだって容易く影響を与える。されど、神様歴はスミスの方がはるかに上なので――。
「よし、此処は気合いでしのぐぞ」
 うん、実に人間らしい神様だった。
 それにスミスに|お天道様のご機嫌伺い《天候操作》はできなくても、環境を合わせてしまうことくらいできる。湿度が高いということは、空気中の水分が多いということ。ならばそれを冷やしてしまえばいい。
 氷の神の息吹がそよげば、ひやり、スミスの周囲だけに冷気が漂った。
「これで幾分かはマシだな。れいちゃーん、あんまり奥まで行くと暗くて危ないぞー? 」
 少々手間取っている間に、少女はきゃっきゃと楽しそうに奥に駆けて行ってしまった。僅かでも依り代の少女に意識を戻すわけにはいかない。引き続き声かけは怠らずに、まずはサブミッションに取り掛かる。
 よっこいしょ、と研究員たちをデスク周辺から引きずり離して、散らかった研究資料をデスクにまとめて――そこには清掃員みたいなことをする神様がいた。青いマントが清浄さを感じさせるものだから、尚更、それっぽい。
 そんなお片付けの最中、資料の一部がスミスの目に入り、思わず眉をひそめた。
「これは……、」
 人間の少女を依り代に使うのは、あくまで実験段階。真っ新な神の肉体を製造し、それに降ろして飼い慣らす。研究資料とばかりに難解に書かれているが、要約すればそういうことらしい。他にも細かく書かれているが、続く内容も少々不愉快なものばかりだった。
 くしゃりとまるめて、デスクに放る。指を鳴らしてデスクごと資料を氷塊へと変えた。
「研究員たちはそれで文字通り頭を冷やしたらいいよ、あとは我達が何とかするからさ」
 人間に融かせよう筈もない永久の氷塊は、酷暑の中でもただ静かに佇む。
「火傷しないようにしてやっただけ、我は優しいぞ? 神を不当に扱えばその応報は時に末代まで及ぶからなぁ」
 絶対零度の眼光が人間たちを見下ろす。
『おにいちゃーん、あそんでよー!』
「おお、そうだったそうだった、今行く。さあ、れいちゃん、足元に気を付けて逃げるんだぞー」
 カミが乞うての神遊び。追いかけっこは暗い昏い、研究所の奥へと続く。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

樂文・スイ
わぁお、お手本みたいなマッドサイエンティストの研究施設じゃん
ヒマがあれば見学としゃれこみたいもんだけど、まあお仕事お仕事っと
とりあえずこの邪魔な|紙切れ《研究書類》は見通し良くするためにもUCで焼いとくかね
なるほどねぇ、呪いじゃなくて薬物か
「れいちゃん」は俺が思ってたより現実的なコだったわけだ
おあいにくさま、コッチは毒物にもそれなりに耐性はあるんだよな

それにこんだけ紙が散乱してるってことは|れいちゃん《カミサマ》の周りにだって当然あるってこった
そのあたりを狐火で狙い撃ちつつ【逃亡阻止】と【時間稼ぎ】、それからこっちの意図する方向に【おびき寄せ】
ほらほら、綺麗な髪やかわいい服が焦げちまったら大変だ
君こそ俺の手のなるほうへ、|幽世《あのよ》の蝶が導くほうへ



●カミこそオイデ
「わぁお、お手本みたいなマッドサイエンティストの研究施設じゃん」
 誰がやったかすっかり永久凍土に覆われたエリアを抜けて、右へ左へ。
 地上階の広さを考えるならば、地下施設もそれなりに広いか、それ以上か。予想しうる限りの空間に、肉片浮かぶ培養層が果たしてどれくらい立ち並んでいるのだろうか。此処では果たしてどれくらい冒涜的なことが行われていたのだろうか――深淵の先を知りながら、それでも覗き込みたくなる。そんな破滅的で悪趣味な好奇心が擽られる。
(ヒマがあれば見学としゃれこみたいもんだけど、)
 スイの事情など素知らぬ|鬼の獲物《少女》の笑い声は、研究施設の奥へ奥へと消えていく。子どもは待ってちゃくれないものだ、いつだって子どもの都合で振り回す。
 ――おにさん、こーちら!はやくはやく、こっちきてー!
「はいよー!」
 返事をしつつ、まずは別のお仕事だ。迷路のような通路を抜けて、重たい防火扉を開けた先はそこそこ広い部屋。まるで資料庫のような場所だった。無機質な書棚には紙の資料が無造作に詰め込まれている。
 さて、これは見学かわりの覗き見だ。目をざっと通すくらいなら、待ちぼうけするあの子も誤魔化せるか。それとも、すぐに追いついてしまう方があの子も退屈するか。
 とにかく、一枚、資料を手に取って目を通す。
「ふーん……」
 人間を依り代と用いるのはあくまで実験段階。神を降ろすに相応しい|真っ新《まっさら》な幼い肉体を造り、幼い神の自我に教育を施して――人の命ずるままに天候を操作する人造生命体を創る。それを兵器としての、軍事利用の検討。
「いやぁ、面白いほど冒涜的だねぇ。昔の夏に帰りたい、なぁんて所詮、表向きの理由だったってことか――ああ、いや、最初は本当にそれだけだったかもしれねぇけど」
 その些細な願いを突き詰めていくうちに、可能性に行き付いてしまったのかもしれない。深淵に堕ちて転がっていった希望は、泥に穢れた欲望へ――希望のまま、綺麗なまま、深淵の淵で留めてはおけなかったのだろう。
 そして、恐らく少女の両親はこれを知らない。研究者たちは被験者を得るためにこれを黙っている筈だ。ただし、語る理由も嘘ではないから、騙したことにはならない。手慣れた嘘つきがよく使う手法だ。騙してはいない、ただ、語らなかっただけ。
「いいねぇ、」
 その心の汚さが。ずる賢さが。己たちの欲望のまま、心赴くままに他を冒涜する。まるで同じ穴の狢。欲望のままに殺すのとなにひとつ変わらない。
 倒れてる研究者のひとりでも顔を覚えて、後日、月夜にひとつきお愉しみ――とまで一瞬過ぎったが、そこで|鬼の獲物《少女》がひょっこり資料室に現れた。おにーちゃん、おそーい! なんて頬を膨らませておかんむり。つまりは痺れをきらしたらしい。
「おんやぁ? れいちゃん、ちょーっと油断しすぎじゃねぇ?」
 こりゃあ丁度いい、スイは狐火をふわり漂わせ。魔法みたい! と束の間、喜んだ|鬼の獲物《少女》もその異様さにはっと気付いたときには既に遅し。
 神囲う紙束に炎灯れば、瞬く間に炎の囲い。かごめかごめ、と燃え盛るそれに|鬼の獲物《少女》は後ずさる。
「ほらほら、綺麗な髪やかわいい服が焦げちまったら大変だ。君こそ俺の手の鳴るほうへ、| 幽世《あのよ》の蝶が導くほうへ」
 唇に指をひとさし、悪戯に微笑む妖狐に――
『痴れ者が――依り代にあわせて戯れておれば調子にのりおって』
 憤る男とも女とも言えぬ歪な声が響く。老獪に笑む顔は、依り代の少女よりも随分と年離れて見えた。ぐぐ、と圧を増す天候の悪。振りまかれた薬剤が空気中の水蒸気を急速に冷やす。そして轟々降り注ぐ、恵みの雨が囲う炎を弱らせる。
『なぁんて、ね? おにーちゃん、ちょーっと油断しすぎじゃなぁい?』
 れいちゃんにこれくらいはどうってことないの、くすぶる程度まで弱った炎をぴょいと飛びこえてきゃっきゃと少女は逃げだした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御梅乃・藍斗
…ずいぶんと趣味が悪いですね
しかも自分たちで蒔いた種で苦しんでいる
彼女ではないですが、自業自得と言いたくもなります

【紅眼覚醒】を使用
業腹ではありますが、ここの所員に僕自身恨みがあるわけではありません
不要な犠牲が出るのも望まない
苦しみ悶えている人達も、それから「れいちゃん」も対象としてみなを眠らせます
眠っていれば恐ろしいものも見なくて済むし、多少なりと体調は回復するでしょう
彼女には…覿面に効くとは思いませんが、眠気でわずかでも思考や行動が鈍ればしめたもの
隙をついて【捕縛】で捕まえます

先程よりかなり不快感が強くなっているのは隠せませんが、僕は彼女を救わなくては
暑さ寒さ程度で怯むような半端な【覚悟】ではないんです
お兄ちゃんというのは、妹の悪戯くらいで倒れたりしないんですよ
望みどおりに遊んであげるから、疲れたら遠慮なくおやすみ



●自業自得の業の果て
 一面凍てついたフロアを抜け、豪雨の中で炎くすぶる部屋を横切り。
 ごろごろとみっともなく倒れる人間たちを踏まないように、床に散らばる資料で足を滑らせないように。
 追いかけっこするには悪すぎる環境に気を配りながら、少女の声がする方向に従って、藍斗は慎重に慎重に研究室を探索していた。
 転んだりなどしたら目も当てられない。兄として接するならば尚更、妹の前で無様を見せる訳にはいかないからだ。
 それにしても、だ。
「随分と、趣味が悪いですね」
 培養層の中には肉片がいくつか浮いている。その中には明らか人間の形をしているものもあった。
 吐き捨てるように呟いた声音は藍斗にしてはいつになく冷たく、刺々しい。
 どうしても、いつかの依頼の少女と重なるのだ。
 大人たちの都合で振り回されている少女と、そして少女に憑くカミサマが――ああ、不愉快極まりない。
「はぁ、いけませんね、少し落ち着かないと。ここの所員に、僕自身恨みがあるわけではありませんから」
 爪先で転がすくらいはいいのでは? なんて、床に転がる大人たちを粗雑に扱いそうになって、ひとつ、深呼吸。
 業腹ではあるが、不要な犠牲を望まないのも藍斗の本心なのだ。それに、今現在、呻き苦しんでいるだ。自業自得だが、それも因果応報。罰は既に受けている――とも、言える。
『お兄ちゃ~ん? なにしてるの? おそいよー! ちゃんとれいちゃんとあそんで!』
 痺れを切らした少女が、ぷんすこと頬を膨らませて藍斗の様子を伺いに来た。
 ぴょんぴょんっと大人たちを飛び越えて、無防備に藍斗の服の裾をくいくいと引っ張る。
「おや、追いかけっこ中ですがいいんですか?」
 少女が近くに来たことで気圧性の頭痛諸々が悪化するのを肌で感じながら、それでも藍斗は少女だけ微笑んだ。
『うん! れいちゃんからは、ありなの!』
「ふふ、はいはい、わかりました。少しだけ、待っていてくださいね」
 兄は、妹の手本でなければいけない。感情のままに振る舞うところなど、藍斗は見せたくなかった。
 ――それこそ、無様だ。
「全く、僕が、|彼女のお兄ちゃんで《・・・・・・・・・》よかったですね」
 ふわり、藍斗を中心にあたたかい陽射しの色をした甘やかな香りの霧が広がる。
 紅眼覚醒、対象を眠りへと誘い、癒しを齎す|奇跡《ユーベルコード》だ。
 大人たちのうめき声はたちまちに鎮まり、かわりに穏やかな寝息が聞こえてくる。
『んん、れいちゃん、なんだか眠くなってきちゃった……』
 そして、うつら、うつら、少女も眠気に船を漕ぎだした。重たい眼をこすり、藍斗に両腕を伸ばす。
『お兄ちゃん、抱っこ。追いかけっこ、もう、いいや~……れいちゃん、お部屋にかえる~』
 藍斗は一瞬、きょとりとしつつも。甘えん坊ですね、なんてまるで本当の兄のように少女を抱き上げた。
 背中をとんとん、っと叩いて。ゆらり、ゆらり、揺れてゆりかご。
 少女はまどろみながら、えへへ、と笑ってぎゅーっと引っ付く。
「はい、れいちゃん。捕まえましたよ」
『うん、ふふ、つかまったー……』
 お部屋あっち、って|妹《・》が指差すまま、|藍斗《お兄ちゃん》は妹を寝かしつけにゆっくりと歩く。
 その歩みは、本当に、とてもとても、ゆっくりで。まるで、抱えたぬくもりを惜しむようですらあって。
 そして、かつての自分がそうされていたことを、思い出し、懐かしむようですらあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『天候破壊少女・れい』

POW   :    春?秋?それなぁに?難しいよぅ、わかんない!!
【天候操作薬を散布して異常な寒波】を宿し戦場全体に「【れいちゃん頑張ってるよ?まず、ほめて!】」と命じる。従う人数に応じ自身の戦闘力を上昇、逆らう者は【熱波を放ち、急激な寒暖差による異常状態】で攻擊。
SPD   :    もう!暑いとか寒いとかみんな我儘だよぉ!
視界内の任意の対象全てに【天候操作薬を散布して爆弾低気圧】を放ち、物質組成を改竄して【気圧性頭痛や気圧性の異常】状態にする。対象が多いと時間がかかる。
WIZ   :    れいちゃん悪くないもーん!!
全身を【あらゆる異常気象を宿した霊体】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。

イラスト:塒ひぷの

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠唯嗣・たからです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●行きはよいよい、帰りは――
『でもねえ、わかんないの。れいちゃんね、かえりかた、わかんない』
 そこはまるでお城のお姫様が住んでいるようなお部屋。ふわふわゆめかわなぬいぐるみに溢れた天蓋ベッドの上で、れいちゃんはこてんと首を傾げた。
 たっぷりお昼寝してすっきりしたれいちゃんは、とってもご機嫌にお目覚めして。そして、たくさん遊んでくれたから帰る! とは言ってくれたものの――いざ、帰り方をたずねられれば、先の発言だ。
 中身こそ産まれたばかりの新生のカミサマといえど、外見はやっぱり小さな少女だし。特に藍斗は妹のような感情を抱いている女の子に対して、武力行使には躊躇いがある。故の質問だったのだが、これには肩を落とすしかなかった。
 使えぬようにした資料の中にも、カミの帰らせ方の記載があった記憶はない。そもそも恐らく、今回は、その帰らせ方を知るための実験だった可能性がある。資料を改めて望む情報を得られるかは――まあ、絶望的だろうか。
 猟兵たちが知るのは無理矢理|追い出す方法《・・・・・・》であって、|帰らせ方《・・・・》ではない。困った空気を察したれいちゃんは、ごめんね、とそれこそ困ったように笑う。
『えっとね、この子と相性がとってもよくってね。はがれようとしても、はがれらんないの。れいちゃんもね、こまってるんだ』
 だからね、とれいちゃんは――カミサマは、笑う。
『妾を助けると思うて、此度は全力で遊ぼうではないか。のう、猟兵ども――ああ、遊びには満足したぞ。だがなぁ』
 老若男女入り混じる多重声音が響き渡った。おもむろ立ち上がったカミサマの表情は、外見の齢より随分と離れた老獪な笑みを刻む。
『暴れ足りぬのよ』
 途端、部屋に吹き込む暴風が、部屋の装飾あらゆるをめちゃくちゃにする。
『さ、あーそぼ!』
ミーヤ・ロロルド(サポート)
『ご飯をくれる人には、悪い人はいないのにゃ!』
楽しいお祭りやイベント、面白そうな所に野生の勘発動させてくるのにゃ!
UCは、ショータイムの方が使うのが多いのにゃ。でもおやつのUCも使ってみたいのにゃ。
戦いの時は得意のSPDで、ジャンプや早業で、相手を翻弄させる戦い方が好きなのにゃよ。

口調だけど、基本は文末に「にゃ」が多いのにゃ。たまににゃよとか、にゃんねとかを使うのにゃ。

食べるの大好きにゃ! 食べるシナリオなら、大食い使って、沢山食べたいのにゃ♪ でも、極端に辛すぎたり、見るからに虫とかゲテモノは……泣いちゃうのにゃ。
皆と楽しく参加できると嬉しいのにゃ☆

※アドリブ、絡み大歓迎♪ エッチはNGで。


アス・ブリューゲルト(サポート)
「手が足りないなら、力を貸すぞ……」
いつもクールに、事件に参加する流れになります。
戦いや判定では、POWメインで、状況に応じてSPD等クリアしやすい能力を使用します。
「隙を見せるとは……そこだ!」
UCも状況によって、使いやすいものを使います。
主に銃撃UCやヴァリアブル~をメインに使います。剣術は相手が幽霊っぽい相手に使います。
相手が巨大な敵またはキャバリアの場合は、こちらもキャバリアに騎乗して戦います。
戦いにも慣れてきて、同じ猟兵には親しみを覚え始めました。
息を合わせて攻撃したり、庇うようなこともします。
特に女性は家族の事もあり、守ろうとする意欲が高いです。
※アドリブ・絡み大歓迎、18禁NG。



●vs異常気象
 吹きすさび、荒れ狂う暴風は異常気象の体現と言えようか――気象操作の薬品が風に散らされ、部屋中に広がる。
 散布されたそれに空気中の水蒸気が急激に冷やされれば、それは雨に、雹に、雪に。
 雲が立ち込めて、雷雲。轟く轟音を背景に、霊体と化したカミサマはきゃらきゃらと笑った。
 猟兵たちの攻撃は身体を吹き飛ばさんばかりの突風に遮られ、射撃は竜巻に飲み込まれる。
 ――動けぬかわりにあらゆる攻撃を無効化するカミサマは。
『えっへへ、れいちゃん、動かなくったってお兄ちゃんたちのことひといきで吹き飛ばせるもんね。これくらいハンデにもならないもん』
 少女然としながらもカミサマらしき驕りを語る。
 されども、それは産まれたばかりで、猟兵がいかなるかを知らぬが故の無知だった。
「そんな悪いコトするなら、こっちはこのお菓子で守っちゃうのにゃ!!」
 まず魁と、ぴょんと飛び出したのはミーヤ・ロロルド(にゃんにゃん元気っ娘・f13185)。
 華奢な身体は容易く風に煽られて吹き飛ばされつつあるものの、いっそ猫の中空での身軽さやバランス感覚は卓越だ。
 猫は全身の筋肉を日常的に100%使える稀な動物、それが織りなす運動神経を埒外が使えば――どうなるか。
 猫そのものではあらずとも猫の特徴をその身に宿すミーヤは、器用に風に乗りながら愛用のガジェットをどしり構える。
 ――風が、雨が、嵐と荒れ狂うならば遮る何かが有れば良し!
「えーーーい!」
 ガジェットからぽぽぽんっと魔法のように放出される美味しい美味しいお菓子たちが、ぽぽぽぽんっと山のように積み重なっていく。
 クッキー、キャンディー、ビスケット。隙間はちょっととろけたチョコレートとキャラメルで甘~くかた~くくっつけて。ふわふわのマシュマロはもふもふんっと氷の礫を優しく受け止める。
 さあ、風を遮るあまりに可愛く頼もしい、お菓子の大傘ないしお菓子の大盾が出来上がり!
『わぁーっ! すごーいっ!』
 あまりにキュートなそれに、カミサマですら思わず多重声音で感嘆の声。
 きらきらと無垢な瞳が好奇心に輝いて、思わず一歩、踏み出した。動いた代償にぱたり、暴風が止む。
 その一瞬の隙を狙うのは、きらり煌く雨に濡れた銀色。カミサマは、お菓子に気をとられて気付かなかった。
 死角からカミサマに銃口向けたのは、アス・ブリューゲルト(蒼銀の騎士・f13168)。
 風は止めども、散布された薬の効果は部屋に滞留している。
 アスは、乱高下する気圧でずくりずくりと疼く頭痛に、極めてしっぶい顔をしながら引き金を引く。
「――油断したな」
 静かに囁く声は、鋭く響いた一発の銃声に掻き消えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

御梅乃・藍斗
スイさん【f39286】と
できる限り、手荒な真似はしたくなかったんですが…
さすがに武力行使は避けられない、と
|れいちゃん《あなた》を倒せば娘さんは戻ってくるんですよね。…信じますからね

スイさんにいったん囮になってもらいつつ、隙を見て【言論統制】でユーベルコードを封じましょう
投擲と捕縛には慣れていますからね、なるべく身体を傷つけずに無力化したいところです
あの荒れ狂う天候変化や体調への影響は極力受けたくない
とはいえ間に合わなかったときのため、懐に|鎮痛薬《白い嘘》は忍ばせておきます

暴れ足りないと言われましても、神の癇癪を受け止めきれるほど強靭な人間も施設もそうそうないもので
「遊び」で収まる範囲で退散してはくださいませんか?
…ただ、あなたを降ろしている子を救いたいのです


樂文・スイ
藍斗くん【f39274】と
カミアソビも佳境、ってとこか
いやあさすがに大人しく帰ってはくんねえよなあ!
藍斗くんはああ言ってるけど、俺は君の|遊び《大暴れ》に付き合う気満々だぜ?
さあ、全力でかかってこいよ!

と、煽るだけ煽って攻撃を【陰獣人を喰う】で受ける
いやあ、今のなんすかね、そよ風?
付き合うとは言ったけどマトモに技喰らうとは言ってないんだよなあ
藍斗くんが攻撃封じてくれてる間に肉薄して【急所突き】で攻撃
【フェイント】【闇に紛れる】で攻撃のタイミングは計らせねえよ?

俺は好きだぜ、|れいちゃん《君》のこと
無邪気で容赦なくて残酷、いかにもな荒魂だ
もう少し長く生きて、まっとうに信仰集めりゃいい神さんになれるんじゃね?
ま、現状ちょい迷惑なんで…おやすみ、「今は」な。



●物理で除霊するのが令和風なのじゃろう?
「できる限り、手荒な真似はしたくなかったんですが……さすがに武力行使は避けられない、と」
『んー、れいちゃんもかえりたいんだけど、はがれられないんだもん。おにぃちゃんはむていこーだと、れいちゃんをぶっとばしにくいでしょう? れいちゃんと、かくとうごっこしよ!』
 こてりと首を傾げたれいちゃんは、藍斗には変わらず妹然としたまま、えへへと笑って。
「いやあ、さすがに大人しく帰ってはくんねえよなあ! 藍斗くんはああ言ってるけど、俺は君の|遊び《大暴れ》に付き合う気満々だぜ?」
『あはは、人間の言うこと聞いて大人しく帰ったら威厳が台無しじゃろうが。狐!』
 煽るスイには神様然として。ころころと夏の天候のように変わる二面性は、まさに和魂と荒魂。
 さあ、室内の大気の状態はカミサマの気まぐれにより非常に不安定となる見込みです。
 ざっぱざっぱと水かけ遊びの気安さで散布される天候操作薬。ジェットコースターの如く乱降下する気圧がスイと藍斗を振り回す。
 晴れていても、急に黒い雲が広がったり、冷たい風が吹いてきたら注意が必要です。落雷や突風、短時間での道路冠水、河川の急な増水に警戒してください。
 決して狭くはない空間内でもくもくわいた雲、| 高気圧の《その》中心におわすカミサマはきゃらきゃらと笑った。撒かれた液体が湿度を齎せば、気圧の縁では――つまりスイと藍斗を襲うのは雷を伴う局地的豪雨、だ。
 ざあざあ、肌を打ち付ける篠突く雨で視界は不明慮。吹きすさぶ冷たい風が、二人の体温を容赦なく奪う。加えて気圧症による頭痛や関節痛、倦怠感。排水機能のない室内では、足元はあっという間に深い深い水たまり。
 屋外では、早めに建物の中など安全な場所に避難するようにしましょう――なんて、はてさて屋内は安全と一体、誰が宣ったのか? 荒ぶる天候の神様は|屋内《此処》に在るというのに!
「っ、俺は好きだぜ、|れいちゃん《君》のこと。無邪気で容赦なくて残酷、いかにもな荒魂だ――」
 ざぶり、ざぶり。水を蹴り進めるスイの後ろで、藍斗は鎮痛剤をがりと噛み砕く。
「暴れ足りないと言われましても、神の癇癪を受け止めきれるほど、強靭な人間も施設もそうそうないもので」
『かんしゃくじゃないよー! おにいちゃんとは、かくとうごっこ!』
 荒ぶる神様は今だ、|藍斗 《お兄ちゃん》の前では|れいちゃん《妹》で在るらしい。
 ぶうぶう頬を膨らませるその姿に、ふふとつい頬が緩む。けれど、
(ぼくは、|きみたち《・・・・》を救いたいのです)
 神様を降ろす少女も、少女に降りる神様も。藍斗は二人の|お兄ちゃん《・・・・・》なのだから!
 藍斗が静かに狙うのは僅かの隙。神が神らしく驕り、それが人間によってひっくり返されるとき。
 頭の内側から響く銅鐘を打ち付けたかのような痛みが、徐々に、鎮まっていく。嗚呼、煩悩消す鐘の音が遠退くついでに神様も鎮まらぬものか。これからやることは、寧ろ、逆なのだけれども。
「なあ、こんなもんじゃないだろ? 全力でかかってこいよ!」
 スイが、煽る。ひりつく神を前に、スイはただ手を広げて。
『ふん、おそれも知らぬか、痴れ者が――飛べ!』
 襲い来る突風は、しかし、スイの髪をいたずらに撫でるだけだった。
「はは、そよ風? 付き合うとは言ったけど、マトモに|かくとうごっこする《・・・・・・・・・》とは、言ってないんだよなあ。藍斗くん!!」
「わかってますよ!」
『え、わ、きゃっ!? わーん、なぁに、これーーっ!?』
 神の暴虐が人に届かず、無垢な瞳を見開いて驚愕する神様。その隙をついて藍斗が放った拘束具たちが、じゃらり、神を捕らえた!
 絡まった鎖を解こうともがくたびに、ぎりぎり、それは神の身を締め付ける。拘束具はもがく動きをぎっしり抑えつけ、足がもつれてどたんと転がり。やだーやだーとびしょぬれたベッドの上でじたばたする、れいちゃん。
 神様が泣けど喚けど、風は吹かぬし、雨は止んでしまうし、気圧はすっかり安定しちゃって、お部屋の天気だけはすっかり晴天だ。
「……、芋虫みてえ」
「スイさん?」
『ころすぞ、きつね』
 ふっと吹きだしたスイに、ぎりっとすごむ|兄妹《藍斗とれいちゃん》。わりぃわりぃ、とスイは一歩退く。藍斗は呆れ混じりに溜めた息を吐きだして、悪さをしすぎた|れいちゃん《妹》の前に屈んだ。
「遊び、で収まる範囲で退散してはくださいませんか?」
『むぅ……、かくとうごっこ、まけちゃったから。れいちゃん、かえるけど……かえるけどー……』
 |藍斗《優しいお兄ちゃん》に諫められたら、|れいちゃん《妹》はもう言うことを聞くしかないのだけれど――れいちゃんはじたばたやめて、途端に無抵抗。動かぬ手足を投げやりに投げ出して、だけど、自由な首だけはかたくなに意思表示。|藍斗《兄》からふいっと視線を逸らす。逸らす。逸らす。逸らしまくる。
「れいちゃん?」
 呼びかける|藍斗《兄》には、れいちゃんの態度に心当たりがあった。
 怒られすぎた幼い頃の自分に、果たして、兄姉たちはどう接してくれていただろうか。
『お兄ちゃんは、れいちゃん、じゃま? ちゃんと、かえる、けど……たいさんは、ちょっと、や』
 怒られすぎて、不貞腐れた| 藍斗《弟》を。なだめてくれた、兄姉たちは。
「邪魔な訳ないじゃないですか。今回は少しおいたがすぎただけですよ」
 そっと頭を撫でてくれて、本当に小さいうちは抱きあげてくれて。
『――また、遊び来ていい?』
「はい、どうぞ。妹が遊びにくるのを嫌がる兄などいませんよ」 
 背中をとんとんと叩いて、微笑みながら、あやしてくれた。
 兄姉たちの優しさが、ぬくもりが嬉しくて、|藍斗《弟》はすっかり身を委ねてばかりいた。今の、|れいちゃん《妹》のように。
「だけど、違う方法で、だなぁ」
 おーおーすっかり兄妹で、と揶揄うスイにれいちゃん、ふふんってドヤ顔。神様と神様に近いもの同士だからか幼心故か、れいちゃん、無性に張り合いたいらしい。
 こらこら、となだめつつ藍斗は頷く。
「そうですね。ぼくたちは、まず、れいちゃんが入っている女の子をご両親に返してあげないといけませんので」
『んー、それも、そっかぁ……だけど、これ、れいちゃんのせいじゃないよ?』
「それはまあ……はい、悪ーい人たちはお兄ちゃんが後できつーく叱っておきます」
 藍斗が思い返すのは床で寝転がっている研究者たち。彼らの処遇はUDC職員たちとしっかり話し合う必要があるだろう。長引きそうな後処理に、藍斗の研究者たちへの悪感情がちょっと積もる。
 それを察してにししと笑うスイとれいちゃん。れいちゃんは満足そうに頷いて。
『それじゃあ、いっか! じゃあ、いったん、れいちゃんかえるね! お兄ちゃん、あそんでくれて、ありがと!――ほれ、狐! デコピンせい、デコピン! なんらかの衝撃ないと剥がれん。が、いいか、くれぐれも優しくじゃぞ!』
「俺にはそういう感じなワケね、へえへえ。ま、もう少し長く生きて、まっとうに信仰集めりゃいい神さんになれるんじゃねェの? 現状はちょーい厄介なんで……おやすみ、」
 ピンっと弾かれる少女のおでこ。途端にかくり、と脱力した少女の身体を、藍斗はしっかりと抱き支える。
「今は、な」
「また、遊びましょうね」
 またね! そんな声のかわりに、藍斗の腕の中の少女の寝顔は、なんだかとっても楽しそうに微笑んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜(サポート)
『アタシの力が入用かい?』
一人称:アタシ
三人称:通常は「○○さん」、素が出ると「○○(呼び捨て)」

基本は宇宙カブによる機動力を生かして行動します。
誰を同乗させても構いません。
なお、屋内などのカブが同行できない場所では機動力が落ちます。

探索ではテレパスを活用して周囲を探ります。

情報収集および戦闘ではたとえ敵が相手だとしても、
『コミュ力』を活用してコンタクトを取ろうとします。
そうして相手の行動原理を理解してから、
はじめて次の行動に入ります。
行動指針は、「事件を解決する」です。

戦闘では『グラップル』による接近戦も行いますが、
基本的には電撃の『マヒ攻撃』や『衝撃波』による
『援護射撃』を行います。



●さて、
 |同郷《UDCアースの人間》の後始末は|同郷《UDCアースに属する者》の方が都合がいい。
「それに、娘さんなら女のアタシの方が警戒されないだろうしねぇ」
 一時は大切な娘を大人の都合で振り回したとて、救出に尽力する程度の親の心があるのであれば、子どもの身を案ずる気持ちがあるのは汲み取れる。状況を鑑みる理性だってあるだろうが、とはいえ心というものは別の理屈で動くもの。救出されただけと理解はしても、親の心は穏やかではあるまい。
 数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は藍斗から依り代の少女を譲り受け、気圧症で床に転がっていた少女の父親へと引き渡した後、のらりくらりと研究施設をぐるりと巡る。
 凍てついた氷の山を力業で叩き壊しては資料を回収し、焼け焦げたり濡れすぎてとてもじゃないが読めなくなった資料も拾い集め、都度都度で倒れたままの研究員を叩き起こして事情聴取。ときに昔の夏を味わいたいなぞ、嘘のラベルで企みを隠蔽しようとする研究員はちょっと|小突く《仲良く》するなどもしたが、概ね調査は順調だった。
「まったく、とんでもないことをしようとしてるねぇ」
 全くもってよろしくない。女の気分と同じくらい安定しない天候のカミを、新しい概念に押し込めて降ろそうなど、全くもってよろしくない。ましてや、|日本《・・》でやるなぞ言語道断といえようか。かつて、偶然にも|神風《・・》に守られた逸話があるこの国で、天候のカミを、降ろそうなどと。
 ――案の定、資料には兵器としての運用も検討されていた形跡があった。逸話と新しいカミが紐づいてしまったら、本当に神様となってしまいかねない。
 猟兵の手にすら負えぬ邪神たちがちらほらと蔓延り始めているというのに。
「これ以上、厄ネタを増やすわけにもいかないんだよ」
 多喜は、いずれカミを降ろされる器となる予定だった、今こそ生命なき、ただの肉片浮かぶポットの電源を、ぽちりぽちりと切っていく。ケーブルを切断し、濡れた床に放り投げ。
「神様なんざ、人の手におえるわけがないのさ」
 本件の研究により誤った|信仰《・・》を集めたカミサマのそれは、削がねばなるまい。忘却の力はカミにも及ぶ。依り代の少女とその両親たち、そして研究員にはいずれ記憶処理が施されるだろう。
「さて、今回はどんなカバーストーリーが用意されるんだろうねぇ。それじゃあ、あばよ」
 準備を整えたら多喜は研究室を後にして、宇宙バイクに跨ぎ乗る。通電したままの大量のケーブルを濡れた床に放置すればどうなるか? 漏電で火事になるのは必須といえよう。
 証拠隠滅には火事がいい、多くを跡形もなく燃やし尽くしてくれるから。然程、時間はかからずに屋敷から火の手があがったことを確認してから、多喜は颯爽と去っていく。
 轟々、燃え上がる炎は空をも焦がさんばかりに黒煙立ち昇らせて――依り代もどきの肉片も、研究員たちの夢や野望も、そして束の間の兄妹たちが遊んだ痕跡さえも、跡形もなく炎で薙いでいった。
 ――え、火事オチなんてサイテーだって? エピローグだからいいんだよ!

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2025年10月15日


挿絵イラスト