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Fabrication.
●誰が為の自分。
「オレたちを棄てた」
氷点下の声色に、あの子達とこの子らは違うと、銀槍を構えた|耳の尖った《・・・・・》女がきっぱりと告げる。
「違わない」
緊迫する空気を分らず無邪気に跳ね回る|仔犬《・・》の一匹が、頼りなく火かき棒で対抗する男を押し倒すと、首に顔を埋めじゃれ付くようにして――喰いちぎる。
あがる絶叫に|限界《・・》を感じ女が駆ける、ヒトどもは下がっていろと叫びながら。仔犬を銀槍で払い、助け出し――既に絶命したとしても尊厳だけは――それでも、仔犬を刺し貫くまでが出来ずに振り返るなら、凍れる|獣騎《イヌ》はそこにいる。
「……どうあっても、見逃してやるつもりはないか」
女の問いに返る言葉はない。冷え切った心の温度のそのままに、獣騎を中心としてパリパリと地の凍りついていくだけ。それを返事と受け取って、女が、僅かに残った|神の残滓《タイタニアキャバリア》を呼び、纏うから、獣騎の瞳は更に絶望に凍っていく。
過去を、罪を――これたちは受け入れるつもりなどないのだと知って。
●
――ちょっち、状況悪そうっスよねー。
てへへ、と力なく笑いながら後頭部をかくグリモア猟兵の少年は、一先ず観たままの場面の一部を告げて。
「感覚的に、|猟兵《センパイ》たち送り届けられるタイミングって、正に仔犬ちゃんが飛びかかろうかってとこになりそうなんスよね」
グリモア猟兵の少年――ヒカル・チャランコフ(巡ル光リ・f41938)の周りを遊ぶ海月も|忙《せわ》しく、また、手の内のグリモアもどんどんと輝きを増していく。時間がないというように。
「あっ、場所はバハムートキャバリアっす!
でも、|人造竜騎《バハムートキャバリア》は一個もないから……騎士さんはいないのかも? 代わりにさっき話した、蝶の翅の――、タイタニアキャバリアでしたっけ、それがいて。だから、妖精っつーのがいるのかな?」
今はキャバリアは一個と数えないと突っ込むより、喋らせて少しでも得られる情報のあるなら得た方がいいだろう。言葉を飲み込み、ぐっと押し黙る猟兵たちの様子に気付いた風もなく、ヒカルは思いつくまま喋り続ける。
騎士さんいないってのもそうなんスけど、そもそも変なトコなんスよね、と。
「色んな家の庭に土団子に煙突生えた、そういうのがいっぱいあって。
この村の規模感でそんなに皿使います? ってくらい、外の棚に皿とかマグとか同じの沢山積んであるんス。それも仔犬の|獣騎《オブリビオン》にガッシャンやられてましたけどー! ギャハハ!」
なるほど、陶工の村。敵は犬型の獣騎で2タイプ、うち1つは冷気を操る。
騎士は見当たらないが、どうやら妖精族がヒトに加勢をしている。
この少年から得られる情報としてはこれで充分だろう。
猟兵たちが装備の確認をしているのに気付いて、ヒカルが笑う。
「いいっスか! 流石先輩方は頼りになるー♪
さっきもいったンすけど、開幕バトルになると思うんで、気ぃつけて下さいね!」
ヒカルの手を離れ。
海月とグリモアが猟兵の前で舞い遊ぶなら、そこに戦場が口を開ける。
紫践
ベンチャー社長のインタビュー写真的な例のポーズ。
最初に『ろくろを回している』と形容した方へ、
尊敬の念が止まない紫践と申します。
●シナリオ。
陶工たちの住まう村。
ヒトを挟んで、普段、中々姿を見せないに定評の妖精族と、獣騎が睨めっこ中です。
ヒトは妖精族の勧めに従い避難中。
妖精族は一応、槍や細剣、杖で武装はしていますが10名程度です。
ヒトは避難中、妖精族はその支援と己が身だけは護れるということで、考慮頂く必要ございません。
敵を倒すことに集中して下さい。
一章:集団戦。
二章:ボス戦。
三章:焼き物の街をお散歩。
●『タイタニアキャバリア』
皆さんより弱いですが、銀槍のタイタニアキャバリアが一騎、出陣します。UCは以下。
ご指示があれば指定のものを使います。ない場合は回復役に回ります。
『POW:バタフライ・ブレイブ』
自身の【タイタニアキャバリア】から【黄金の燐ぷん】を放ち、正面からの全ての攻撃を無効化する。
『PSD:タイタニアルーン』
【創造のルーン】を描く。装備品に描いた場合は目にした者を友好的な気分にし、生物に描いた場合は負傷を回復する。
『WIZ:妖精獣騎の帰還』
体高5mの【妖精獣騎】に変形する。レベルm半径内に【土】の精霊を放ち、敵にダメージ、味方に回復を与える。
●キャバリアレンタル。
今回に限っては『NG』となります。
今回の村に騎士はおらず、借りられるような人造竜騎はありません。また1章時点で戦闘中ですので、戦闘の為に妖精からタイタニアキャバリアを借りることも出来ません。
これに関するプレイングは考慮しません。お気をつけください。
第1章 集団戦
『獣騎チャールズ・スパニエル』
|
POW : ワオーン!
戦闘力のない、レベル×1体の【かわいい小犬 】を召喚する。応援や助言、技能「【鉄壁】」を使った支援をしてくれる。
SPD : ビックリドキドキ、ロボ発進!
【くち】から【自動追尾する大量の愛玩犬 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : ファイヤーワン!!
【正々堂々と戦う犬 】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[正々堂々と戦う犬 ]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
イラスト:アイカワ
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
そこは元々私達の場所だった。|魔力《チカラ》を込め練り上げた土で、杯やレリーフを作る。焼き固める。出来上がったものを|支配階級《バルバロイ》たちへ納める。どの位繰り返したかは分らない、それでも従順であれば不干渉の毎日だった。不干渉を平和と錯覚するような凪いだ毎日。
ある時、ヒトの奴隷、が連れて来られた。それで――その程度で何か変わるはずもなくて。
●
「アタラクシアは迎えにきたかって……領主様がここに来たことがあるか? 爺さん」
「こんな田舎に来るかよ。俺のガキの頃からだって一度だってねぇし、俺の爺さんからだって聞いたことねぇよ、そんな話。大体おめぇ、今の領主はプラグマ様っつーんだろがよ」
居ないなら呼んでこいと言われてもどうすればいいのだ。死人を呼べと? 誰を呼べば、|百獣族《・・・》は納得する。少なくともこの小さな|焼き物の村《オストラキスモス》には、あれと対峙できそうな騎士はいない。大人達の間に沈黙が降りる。
「どうする、|騎士団のある最寄の街《リベルタス》まで馬飛ばすっつっても」
大人達が遠くの馬舎を見る、馬牛はこの村では共同財産でありどちらも農耕や運搬の為の存在だ。
「……向こうのいう日にようやっとあちらに着く位だぜ」
●
あの子はどれ程チカラをつけたというのだろう。
余った土くれを捏ね回し、『ホラ、見てみて』と笑った幼児――アタラクシアは。名前だってその当時は誰も知らなかった。興味も無かった。僅かの期間ここにいたあの子は、見張り隊の入れ替えと共に去ってしまった。燃える様な赤毛、窯の中の炎のような、その印象だけを残して。
何を作ったと問えば、わたしのかみさまとイヌの出来損ないのような土人形を小さな手で掲げてみせた。支配者を象って、誇らしげに笑いながら。こんな他愛もない一瞬を今でも鮮明に覚えているのは、奴隷とは――私達も含めて――何と哀しいのだと、初めて私にそう意識させた出来事でもあったからだ。
それが。あの時の土人形が、閃光に包まれて。
光の去った鬨には|支配者《バルバロイ》の前に立ちはだかるように。
白銀の、ああこれが――『|人造竜騎《・・・・》』、ヒト達の呼んだ守護者。
これなら、勝てると思った。アレがこちらにつくならば――、|利用《・・》できるならば。
ヒトの反乱が、他に混じってあの子の名前が今更この山間にまで聞こえ始めた頃、百獣族が僅かばかりの見張りどもまで引き上げねばならぬかと混乱を見せ始めた頃、あの子の置き土産がヒトの守護者と変じた、|その時は《・・・・》。
「どうするの」
知らん、と返すと、そんなわけにはと口篭る。昔からジュニャはヒトに甘かった。
「あれはヒトが作ったんだ、ヒトに始末させたらいい」
口篭って俯いてしばし。顔を上げた、その瞳には。
「――私が教えたの、あの子に。土の扱いを」
強い決意と強い悔恨を湛えて。ジュニャが握り締める杖が小刻みと震える。
ヒトどものことなど、知ったことではないけれど。キャバリアを纏えぬジュニャはそれでもヒトの村にいくのだろう。仕方がない、と椅子を立つ。
「そして? 私はアレを騙し続けた責任を取れと?」
「スカーラ。それは」
アタラクシアは帰ってくると嘘をついた。ここで待っていれば必ず帰ると。
百獣族の報復が怖かったのだ。その危機が去った後にはアレ自体が――人造竜騎みたい、でしかなかった何かが怖かった。私達が騙し利用した事実が露見せぬように宥め続け、この地に縛り付けながら、早く早くと願った日々。そう、願っていた――アタラクシアの|命《チカラ》の尽きる瞬間を。アレの死の瞬間を。
それで終わったはずだったのに。
久方ぶりに手に取った銀槍に、こんなに重かったかしら、と思う。
●変化
全てを埋めた妖精族と、だから何も知らぬ村人たちと、幾重にも目醒めたオブリビオンとが、そして今、邂逅する。
そこに――。
イウェイン・レオデグランス
(騎士形態のカドワラデルで到着し、周囲の状況を見やって)
こりゃまたえらいかわいらしい獣騎の群れだな
悪さする奴らでなけりゃって気もせんでもないが
まさにヒトに悪さをしようとしてる寸前なら、無視は出来んよな
そこの|妖精《タイタニア》サンは援護と支援を頼む
斬った張ったはこっちの得意分野なんでな
……それに、迂闊に近付かれるとお前さんまで巻き込みかねんからな――!
(UCを起動させると同時にカドワラデルを獣竜形態に変形させ、小型の獣騎犬の群れを翻弄、|狂飆翼剣《きょうひょうよくけん》の刃や衝撃波に巻き込んでいく)
事情はどうあれ、ヒトに害為すモノに立ちはだかるのがこっちの仕事なんでな
悪く思わんでくれや
●今、この時。
だめ、と誰かの叫ぶ声がする。そんなセリフは聞いた話には無かったな、と思いながら。だが、|悪さの寸前《・・・・・》、そこに間に合うというなら――!
地面に突如広がる黒い影に気づいたのはそのイヌだけではない、あらゆるものが見上げる上空。
頂点の|光源《たいよう》を背にそれは、空にあっても黒く――ヒトの形をして。
イヌどもと人どもの間、地を揺らし降り下りた巨体。
「こりゃまた……えらいかわいらしい獣騎の群れだな」
機体から届く声は飄々と、それでいてガードなど殆どないブロードソードを構える姿に隙はない。声に明るさの滲むのは、起きる筈だった最初の悲劇を防ぐことの出来た安堵もあっただろう。
彼――イウェイン・レオデグランス(狂飆の騎士・f44938)はそうして戦場に立つ。己が竜騎から見れば確かに仔犬のような、それでいて人には恐ろしい脅威となるサイズのイヌたちの様子を測りながら。
「|人造竜騎《キャバリア》……」
腰を抜かした村人の漏らした言葉に、妖精たちが一斉に彼を見、そして再び聳え立つ巨体を見る。その高く広い背中を。
これが、ヒトの呼んだ守護者――本物の、|人造竜騎《・・・・》!
「……お前達、ヒトどもを下がらせろ!」
感慨は一瞬、一人の妖精族が指示を飛ばすなら、村人の腕を取って無理矢理と立たせながら妖精たちが動き始める。
「スカーラは?」
「私は共に打って出る!」
●
ひゃんと驚いて飛び下がった仲間の声に釣られイヌたちが集まりだす。頭を低く尻を上げ、右に左にぴょこんぴょこんと飛び跳ね間合いを計る、仔犬が関わりを覚える時のあのしぐさ。だが、此度は甘噛みでは済まないだろう。
「……何者」
騎士のいないはずの村。ペールオーカーの人造竜騎の横、タイタニアキャバリアが翅を使いふわり一気に並び立つなら、妖精が問う堅い声。
それと仔犬達の飛び掛るのは同時だから、返事は一拍遅れて。自己紹介はあとだ、と鋭く返すイウェイン――彼の駆る竜騎。振るう剣が、高く飛び上がった一匹を先ずは斬り棄てる。
「悪く思わんでくれや」
(事情はどうあれ、ヒトに害為すモノに立ちはだかるのが、)
騎士の務め。
一切の逡巡のない動作に、言葉に反して詫びるところなどないという、確かな信念と強さを載せて。
「征くぞ、カドワラデル!」
呼応し頼もしい背に展開する翼。瞬く間、ヒトのようであったペールオーカーは竜の如きに姿を変える。その二つ名、|狂飆《きょうひょう》の|獣竜《グリフォン》に相応しい姿へと。
見る間に開く距離に、焦るタイタニアキャバリアもまた、己に群がるイヌを銀槍で、薙ぎ、弾く。そう、弾く、だけ。かつての主人たちの従えた獣騎を前に、凪いだ心で覆い隠したあの頃の|従属《トラウマ》が蘇り、イウェインのように戦えないでいるのだ。
一方の獣騎たちは、相変わらず仔犬のように跳ね、駆け回り。その素直さのまま――蘇りを知ってか知らずか――生き残ることに貪欲で。大口を開け始めたと思えば、今度こそ普通といって差し支えないサイズのイヌたちが、次々と吐き出される奇妙で、ぞわりとする光景。
「あぶないっ」
前面のイヌを凌ぐのに必死で、背面から迫るそれらに対処できないタイタニア。中空で身を翻した竜の神速が届くも、護るに全振りをした竜騎の尾を、足をついに獣機が捕らえて容赦なく牙を立てる。
連動する痛み、伝わる不具合。だが、歴戦の騎士がこれしきであげる呻きなど無い。代わりのように、ひ、と息飲むタイタニアに示すのは、|ガードの無い《・・・・・》ブロードソードを振るう気丈さだ。
「斬った張ったはこっちの得意分野なんでな」
先と変わらぬ明るい声色が、そして騎士の厳しさへ変わる。
「貴殿もキャバリアを纏う者っ、そうだろう!」
尾を食む一匹をそのまま容赦なく持ち上げ、地へと叩きつけ――、目を覚ませと。
そこで漸く、タイタニアは『応』と勇ましく吼えた。銀槍を地に穿つならその|振動《よび声》に応え、土がポコポコと泡立ち小さくヒトのような形へと。地の精霊たちはそうして、ペールオーカーを、|獣竜《グリフォン》を登り融けていく――見る間埋まる傷。回復を経て、周囲を一掃したカドワラデルは再び舞い上がった。
「やるじゃないか、|妖精《タイタニア》サン」
だがあまりうかつに近付いてはくれるなよとイウェインの声。
「お前さんまで巻き込みかねんからな――!」
タイタニアの|翅《ココロ》を軽やかに浮かせた風が、そう不敵を纏うなら。
生まれた狂飆が、今、戦場に吹き荒れて――。
大成功
🔵🔵🔵
ヘルゲ・ルンドグレン
義を見てせざるは勇無きなり!
詳しい状況は分からないけれど、人々の危機を見逃すわけにはいかないわ!
ヘルゲ・ルンドグレン、義によって助太刀するわ!
うーん、見た目は可愛い獣騎だから少し気が引けるけれど……出し惜しみはなしで最初から全力全開!
集まれば集まるほど強化される……つまり、逆に言えば敵は一か所に集まるってこと!
【人造竜騎補給用魔石】を砕いてウロボロスに【魔力供給】!
更にここに威力を増強する詠唱を追加で【多重詠唱】してからのー……【星光砲】!
集まった敵をまとめて攻撃よ!
そっちが正々堂々ならこっちも真正面から勝負するまで!
これがアタシたちの全力だぁー!
●
仔犬は期待にワン、とひと鳴きする。
そのクリクリとした愛らしく、機械質で冷たい茶色の瞳の中に、動かない男の子を映しながら――。
いや、嘘! と叫びあげる女性の声がする。戻ろうとする母親の腕を妖精族の男が必死と引いて。全ての視線の集中する先にその子はいる。転んだ時、ついた掌。仔犬に割られた陶器の破片の突き刺さり、血の滲むそれ。あげそうになる嗚咽を、唇を噛み締め、耐える。体を起こし、母たちへと向けて駆け出して。
だから仔犬は反応した。この場で唯一大きく動くものに。待って待ってという代わり、一気に距離を詰めんと跳んで――浮いた仔犬が弾き飛ばされる、前ではなく横へ。
「え」
キン、と辺りに響く音は金属同士の素早く打ちあった事実を伝える。そして紫に奪われる視界。ぽふと腰にしがみつく我が子の体温をぎゅうと抱きしめる母と、傍らの妖精。スピードに追いつけぬながらに周囲を滑るそれに視線をめぐらせれば、ぐるりと囲む城壁――|ウロボロスの輪《・・・・・・・》が完成するのを知って。
「よく頑張ったわ、少年!」
輪の一端がぐと持ち上がる。金属の蛇を見上げて、その声を聞いて。|人造竜騎《・・・・》と知った男の子は、涙と土とでぐちゃぐちゃの顔のまま、わぁ! と歓声をあげる。
義を見せざるは勇なきなり――事情など分らないが、今この時、この母子の危機を救えるならば。
「ヘルゲ・ルンドグレン、義によって助太刀するわ!」
●決闘
人造竜騎の登場に、各々好き勝手と家の垣根をガリガリ搔くだとか、地面を掘るだとか、家の窓から鼻を突っ込むだとか、つまるところ人の匂いを追っていた仔犬たちが、一斉と反応を示す。
(うーん、仕草だけなら愛いんだけどっ)
ヘルゲ・ルンドグレン(魔導騎士・f44787)の裡の小さな燻り。だって、その見た目も相まって|獣騎《コイヌ》たちは本当に可愛いかった――サイズと威力を無視できるならば、だが。垣根を搔くなら搔き壊し、掘る地面の穴の埋め戻しはどれ程大変か、気軽にあちこちと鼻を突っ込んでいるが、その家は再び、人が住むだろう家だ。
充分に自分と愛機『ウロボロス』に視線が集まった事を知り、そっと尾を持ち上げて。ウロボロスの巨体があれば、3人はイヌたちの視線に晒されず物陰を利用し上手いこと離脱する。離れていく気配にヘルゲは胸撫で下ろす。
(でも、命だけじゃ、駄目なんだよね)
命を助けることは大前提。だけれど――目に入る割れた陶器、この村の人々の生きる糧。人々の暮らし、『生きること』を護らねばならないとヘルゲは、今、学んでいる。
「掛かってらっしゃい!」
声を張るのもさらに気を引くために。群れは一斉に襲い掛かるかと構えていたが、予想に反し、一匹が自分が戦士だというように、ヘルゲとウロボロスの前へと堂々躍り出る。
他に比べれば、愛らしく小型と見えても――彼らもまた百獣族、誇り高き一族なのだ。そして、予想に反するもう一つ。
(……思ったよりっ!)
一撃一撃は、掠る程度か、かせるものであったけども。
スピードは引けを取らぬ、小型な分小回りも効く。軽いフットワークで、仔犬もウロボロスの放つ魔法をかわし、そのまま飛び上がったなら、がぶりとウロボロスの指先に噛み付いた。噛み付いたから確実にぶら下がる後ろ足を掴み、投げる――痛み分けというには少しだけヘルゲに分が良いか。
勇敢に堂々と戦う戦士の様に、投げ飛ばされて尚、周囲の仔犬たちが沸き立つ。戦うものを受け止め、舐めて、鼓舞をするように。そうすれば、まるで傷などなかったかのように、戦士は再び軽々とした跳躍で跳び戻る。
「……なるほどね」
正確な仕組みはわからないが、これが仔犬たちの能力――先ほどから、何故この犬があの位置で見えるという時に攻撃をかわされたりしたのだけれど、きっと何かしらの交感能力のようなもの。仔犬たちが集まれば集まるほど、戦士のスピードなども増している。
なればこそ、戦う一匹だけでは駄目。この群れは逃せない。他と合流させるわけにはいかない。
それでも、数で囲むではなく戦士を出す彼らの選択は好ましくて。
これは正しく『決闘』であると思うからこそ。
「そっちが正々堂々ならこっちも真正面から勝負するまで!」
出し惜しみはしない、とウロボロスの中、ヘルゲの砕く秘石。何色もの魔力の奔流に、聖なる力を呼ぶヘルゲの多重詠唱が絡まり、蛇の隅々までを駆け抜ける。最初と同じ。今度は仔犬たちをぐるり囲うようにしてから螺旋と空に登ると、蛇はその大口を開けて。
「これがっ……アタシたちの全力だぁーーー!」
降り注ぐ清らかなる星の光こそ、この愛らしい決闘相手への敬意として。
成功
🔵🔵🔴
皇・銀静
機神搭乗
「主ー☆面白い世界だよね☆喋るキャバリアが一杯いるよ☆」
…お前らとは違うだろうが
……ふぅん…捨てられた…か
チャーなんとか達に
…僕はさぁ…昔婚約者が居たんだ…彼奴はさぁ…僕との婚約を破棄しやがった…世界が終わるかと思った絶望だったよ…
彼奴はよぉ…犬好きだった(気がする
だからなぁ…お前ら…ぶち殺してやるよ
(理不尽との叫びに対してせせら笑う)
|お前らと同じ《・・・・・・》だろ?此奴らはお前らを捨てた奴らじゃない
不条理に殺しに来るならお前らも不条理に死ね
「主ー…」
UC発動
槍の神発動
【念動力・属性攻撃・リミットブレイク・弾幕・功夫・切断】
槍で串刺しに
魔剣で切り裂き拳を叩き込んでの蹂躙開始
●
それは、何気ない一言だった――主、と。
「オマエ、ニンゲン?」
「ニオイ、ナイ」
「ヌクヌク、ナイ」
訝しげに、頭を下げ、囲むようにして。獣騎たちが警戒を露にする。香りがしない、体温を感じない――問われた側の金髪の少女は、返事をするでもなく、そのオリーブ色の瞳を好奇心一杯と見開いて、獣騎達の群れに顔を綻ばせた。ねぇねぇと傍らの男の羽織るローブの袖を引く。袖を引かれた男の方は、地面に目を遣って所在無さげにもみえるし、周囲へ関心薄にもみえた。『ん』とも『うん』ともつかぬ、気だるげな相槌だけを返して。
「主ー☆ 面白い世界だよね☆ 喋るキャバリアが一杯いるよ☆」
男が反応を返すより早く、その言葉に跳びかかってきたのは仔犬たちだ。
ウソツキ、と。
●だから、No Mercy
茶色の塊を、黄金の軌跡が払う。僅かの躊躇いもなしにその胴を切り裂いて、二つに分かれたそれは地面に落ちてもまだ駆けることを忘れられぬようで足を動かしていたけれど、やがて止まる。
皇・銀静(陰月・f43999)は、そんな仔犬の最期の代わり、見るともなし今振りぬいた己の魔剣の刀身、その黄金を見ながらポツリと零した。
「……お前らとは違うだろうが」
落ちる沈黙。
「それ、私に言ってる!?」
刀身と同じ、黄金の髪を持つ少女――グリームニルが漸く気付いて弾かれたように横を見れば、男からは同意も不同意もない。でも、金色を見ながら言ったのだから、多分、そうなんだろう。キャバリアと呼ばれるモノ同士ではあるけれど全然違うねって言っているのかな。思いながら少女はにっこり笑う。
主はいつだって、茫洋と掴みがたい。興味が尽きない。だから、傍にいる。賢者の石は貪欲なのだ。
一斉にいこう――急に滑らかな言葉が聞こえたのはその時だ。一匹のシェパードが、いつの間にやら|獣騎《コイヌ》たちの傍にいる。
「ミンナでウソツキをやっつけるんだ!
ニンゲンはアルジじゃない。ウソツキめ!」
体の透けたそのシェパードは、皇から目を逸らさず、獣騎達の前を行ったり来たりとしながら、流暢な言葉で獣騎たちを鼓舞する。
「ウソツキじゃないもーん☆ 主なんだから☆」
その言葉にぎゅうっと皇の腕をとって組むとグリームニルがべーと舌を出す。まぁ彼女にとっては、皇は主なのだけれど。双方なんとも言葉足らずの応酬と、反比例して高まる殺伐とした瞳の冷たさと。
「……ふぅん……捨てられた……か」
その爪は地面に突き立てられた。皇とグリームニルのいた場所に。
組まれていた腕は解かれ、剣を握る皇は片手を一度地面について、大きく背面跳びを。グリームニルはクルクルと何度もバック宙を決めながら追い縋る獣騎たちから距離をとる。それを口々に幼い悪態を|吐《つ》きながら、追い回す獣騎。
「チガウ、バカ!」
「ニンゲン、チガウ!」
「チガウ、チガウ! バカ!」
「オカエリ、スル! タダイマ、イウ!!」
ヒトがいなくなれば主は帰ってくると、つまりそんなようなことが彼らの主張のようだった。ここは主たちの場所なのだからいい子にすれば、帰ってくると。獣騎たちがいい子にしようと――人を殺し排そうとして、だが捉えきれぬ二人。徐々に子供の地団太を踏むように、苛々と大振りになる爪。粗の見えてくる連携。
「思い出して! バラバラにならないで!
ミンナが上手に奴隷を追い立てたらいつもアルジは褒めてくれたよ!!」
怒りと動きに翻弄され乱れる獣騎の連携に、必死とシェパードが獣騎たちのココロを宥め、指示を出す。
グリームニルは彼らと同じく指示があればいつでも、のつもりで穂先の二股となった槍をいつの間にやら構えているのだけれど、当の主の方は――。
「……僕はさぁ……昔婚約者が居たんだ……」
相変わらず、ここを、目の前を見ているのかいないのか。時に塀の上に、時に獣騎の背を踏んで.
シルカ、バカ! と話を聞く気のない獣騎たちから振り下ろされる爪と牙を跳び交わし、こちらも聞いちゃいない皇はぽつりぽつり語り始める。
「……彼奴はさぁ……僕との婚約を破棄しやがった……世界が終わるかと思った絶望だったよ……」
ガキン、と金属に金属の当たる強い音。
そこからはキィキィと金属の擦れる音、余りに不快なその音にグリームニルが、それを追っていた獣騎たちまでもが動きを止めた。皇が踏んだ獣騎の首に黄金の刃先をぐ、ぐ、と敢えてのようにゆっくりと押し込み立てる音だった。
血を地面に滴らせる代わりに、剣は獣騎から何かを吸い上げたようにして、刃を突き立てたそこから黒い粒子状のもやが黄金を穢すように纏わり、皇の手を伝って、立ち上っていく様。倒れこむその一頭を踏んだまま、心此処にあらず。溢れ出る暗き絶望の中心にいて、今だしつこく刃を押し込みながら、ポンメルをみつめるばかりの異様な皇の様子を、場の誰もが言葉もなく見つめる中で続く皇の語り。
彼奴はよぉ……犬好きだった、と。刃先が首を突き抜け、地面に触れる感触に、皇は初めてまともに見回した。己を取り囲む|獣騎《コイヌ》たちを。ああ、多分、そうだった気がする。犬が好きだった、かもしれない。
だから――。
「だからなぁ……お前ら……ぶち殺してやるよ」
ある――、途切れるグリームニルの言葉。|皇《あるじ》の意志によって、本来の姿を取り戻したからでもあるし、ウソツキ、バカ、シラナイと獣騎たちが一斉吼えあげたからでもある。
僕だって知らねぇよ、と皇が嗤う。嗤う皇に飛び掛る獣騎を今や見上げるばかりの大きさとなった|神機《グリームニル》の二股の槍が無言のままに刺し貫いて。
その陰にいて、もう一度皇がいう。知らねぇよ、と。
「|お前らと同じ《・・・・・・》だろ?
そうだ、此奴らはお前らを捨てた奴らじゃない。俺らはオマエらを棄てた奴らじゃない」
不条理に殺しに来るなら……お前らも不条理に死ね。
それが、最後。
ただいまもない、おかえりもない。さよならすらない――互い届けられない言葉達の代わり、ここに在るのは|No Mercy《蹂躙》だけ。
成功
🔵🔵🔴