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ピルグリメイジの応報

#バハムートキャバリア #バハムートウェポン #潔斎者たち #熾盛 #オーデュボン

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●怨念返し
 円卓の騎士『スルーズル』は、湾岸の城塞都市を再び旅立った。
 巡礼の旅はいずれもが容易いものではないことは言うまでもない。
 いつだって道は険しいものだ。
 遠回りに見えるかもしれないが、いつだって正しいのは長く険しい道なのだと彼は知っていた。
「うむ! 今日はなんとも巡礼日和! 良い日照りだ!!」
 彼はそう言うが、すでにもう夏の日照りであり、指すような太陽の光が肌をジリジリと焼いて汗を肌から噴出させている。
「暑いな!! うん! これは暑い!! が、心頭滅却すればなんとやらである!!」
 彼の声は無闇矢鱈と荒野に響く。
 声がクソデカすぎるのだ。
 そんな彼の言葉に荒野の一部が、動いた。
「ん? んんんっ!?」
 円卓の騎士『スルーズル』は、景色が陽炎のように揺らめくのを見ただろう。

 陽炎は、一瞬で彼の傍を走り抜ける。
 警戒していなかったわけではない。
 だが、『スルーズル』は一瞬で大地に膝をついていた。
 何をされたのかわからなかった。
 急に足の力が抜けたのだ。
 そして、膝つく彼の頭上から声が響く。
 揺らめく空気の奥に現れたのは、黒き獣騎であった。

「すまぬ、人間族。非礼を詫びよう」
 獣騎から放たれた言葉に円卓の騎士『スルーズル』は立ち上がろうとして、剣を大地に突き立てた。
「……立てない、だと!? 貴殿は、一体……!!」
「……ほう、我が呪い、掠めたとは言え、息絶えることなく喚くとは。なんたる剛毅か。名うての騎士とお見受けする」
「円卓の騎士『スルーズル』! 今ここで決闘をというのならば!!」
「あいや、またれよ。確かに我は獣騎。されど汝と『今』争うつもりは毛頭ない。我にはまずやらねばならぬことはある。円卓の騎士『スルーズル』よ、一つ尋ねたい」
「……いいだろう! 尋ねられたのならば答えるのは騎士! なんなりと!」
「『サクラ』という魔法使いを知っているか」
 その名に円卓の騎士『スルーズル』は、僅かに眉根を釣り上げた。

「知っている!」
「そうか、であれば所在を知りたい」
「知ってどうする!」
「無論……過去の戦いにおいて卑劣なる術をやつに掛けられた。我が一族もろともに生命を落とすことになった……その復讐を為す」
「……魔法使い殿はひどく悔いておられる。だが、あの御方は我らには無くてはならぬ御方! 確かに貴殿の怒りは尤もだ! だが、私とて円卓の騎士! 人々を守る剣であり盾! であれば!!」
「円卓の騎士『スルーズル』よ、我は汝と『今』争うつもりはない。現に汝は万全ではない。何故ならば、我が部族を滅ぼした『バハムートウェポン』は既に汝を傷つけている」
 その言葉に『スルーズル』は再び膝をつく。
 確かに彼の顔に生気はなかった。
 青ざめた顔で黒い獣騎を見上げる。
 口惜しいが、黒い獣騎の言う通りだったのだ。

「……だが!」
「それでも戦わんとする高潔さ、万全でない貴殿と戦うことはできない。全ては魔法使い『サクラ』に復讐を遂げた後よ。円卓の騎士『スルーズル』、この勝負預けさせて頂く」
 その言葉と共に黒い獣騎は陽炎のように揺らめき消えていった――。

●バハムートキャバリア
 グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます。バハムートキャバリア、その過去の戦いにおいて人間族は百獣族を滅ぼし尽くしたことはご存知のことかと思います。ですが、人間側には、無限の寿命を持つ魔法使いがついていたことはご存知でしょうか?」
 その言葉に猟兵達は頷く者もいただろう。
 百獣族を滅ぼした過去の戦いにおいて、魔法使いの中には卑劣な術でもって百獣族を滅ぼした者もいるのだという。
 今回、そうした卑劣な術によって滅びた百獣族がオブリビオンとして蘇ったのだという。

「魔法使いの寿命は無限といわれています。今回の事件の発端となった魔法使いの方も存命中です。そして、その方は湾岸の城塞都市に在住しているようなのです」
 その魔法使いに復讐を果たそうとして百獣族が襲来する、ということなのだった。
 それだけであったのならば、よくある事件である。
 しかし、ナイアルテが語る言葉は恐るべきものであった。
「その百獣族が手にしている武器……キャバリア用兵器『バハムートウェポン』が問題なのです」
 そう、その『バハムートウェポン』と呼ばれるキャバリア用武器は、かつて魔法使いによって生み出された非道な呪いを帯びたものなのだ。
 百獣族のオブリビオンは、嘗て己が受けた策謀と屈辱を魔法使いに浴びせ返すことで、過去の恨みを晴らそうとしているのだ。

 とは言え、だ。
「魔法使いの方は、今では過去の行いを恥じているようなのです。放っておけば罪滅ぼしとして抵抗することなく百獣族に殺されてしまうでしょう」
 当然、因果応報であることに違いはない。
 だが、それでも改心した魔法使いを義や情によって助けなければならない。
 なぜなら、その『バハムートウェポン』の効果は、無差別なのだ。
 一体どのような無差別的な効果があるのか。
「『バハムートウェポン』は呪いを齎す兵器。今回、魔法使いの方に復讐しようとしているオブリビオン『獣騎イフリィト』が手にしているのは……『ライフ・アブソーバー』。無差別に生命を吸い上げる武装なのです」
 つまり、『獣騎イフリィト』が魔法使いに復讐を果たそうとして湾岸の城塞都市に迫れば……。
「はい、そのとおりです。無差別に生命を吸い上げ、城塞都市の人々は死に絶えるでしょう。それを知るからこそ魔法使いの方は、己の生命だけで事を収めようとしているようです」
 これは捨て置くことはできない。
 仮に『獣騎イフリィト』が復讐を果たしたとて、『バハムートウェポン』を手放すかはわからない。
 復讐に駆られるままに力を振るわないとは限らないだろう。
 故に止めねばならないのだ。
 ナイアルテは、その危険性故に猟兵達に魔法使い『サクラ』を救い、『獣騎イフリィト』を止めるべく猟兵達をバハムートウェポンに送り出すのだった――。


海鶴
 マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
 バハムートキャバリアにて、嘗ての非道の復讐を果そうとするオブリビオンを止めるシナリオになっています。

 ※全ての百獣族(獣騎)は、例えスライムのような異形種族でも、会話によるコミュニケーションが可能です。彼らはいにしえの聖なる決闘に則り、正々堂々と戦いを挑んできます。

●第一章
 日常です。
 百獣族に狙われている魔法使い『サクラ』は、湾岸の城塞都市に来訪しているようです。
 どうやら嘗ての非道をくいる故に普段は城塞都市にはいないのですが、買い出しなどのために訪れているのです。
 このタイミングで『獣騎イフリィト』の来訪を予見していたのか、自らの生命でもって贖おうと城塞都市をでていこうとしています。
 城塞都市の城下町は今、行商人の来訪によって賑い、ごった返しています。
 この中で魔法使い『サクラ』に接触し、考えを改めてもらうなどするとよいでしょう。

●第二章
 冒険です。
 前章の結果、魔法使い『サクラ』も思い直すことでしょう。
『百獣族イフリィト』の持つ『バハムートウェポン』に対抗しうるもう一つの『バハムートウェポン』の所在を伝えます。
 ですが、それは魔法使い『サクラ』の住居である塔にあり、厳重に封印されているのです。
 その封印は、踏み込んだ者の僅かでもある悪心を読み込み、悪の騎士として放つトラップが仕掛けられています。
 この封印を守るあなた自身の悪心の騎士を討たねば対抗手段である『バハムートウェポン』果てに入らないでしょう。

●第三章
 ボス戦です。
 バハムートウェポン『ライフ・アブソーバー』を携えた百獣族が迫ります。
 前章にてこちらも『バハムートウェポン』を持ち抱いていることができれば、バハムートウェポンの効果を打ち消すことができ、真っ向から戦うことができます。

 それでは過去から迫る因果、その応報に殉じようとする魔法使いを救う皆さんの物語の一片となれますように、いっぱいがんばります!
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第1章 日常 『行商人来訪』

POW   :    冒険に必要な品を買い込む

SPD   :    行商人と交渉し、安く良い品を手に入れる

WIZ   :    魔法の掛かった品に気付き、購入する

イラスト:みささぎ かなめ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「……来るか」
 フードを目深に被った奥で、翡翠の瞳が空を見ていた。
 この湾岸の城塞都市に迫る気配。
 それをつぶさに感じていた。
 怨嗟。憎悪。
 そうした感情が空気を伝わって己の背中に伝わってくるようだった。
 風が目深に被ったフードを跳ね上げ、その美しい女人と見紛うかのような顔立ちをさらす。艷やかな黒髪が風になびき、城下町にいた人々は皆一様に視線を釘付けにされてしまっていた。
 あまりにも美しい。
 流れる黒髪に翡翠の瞳。そして、女人の如き顔。
 それを城下町の人々は誰もが知っていた。
「魔法使い『サクラ』殿ではないですか! 言ってくだされば!」
「さあ、こちらにどうぞ。いつもありがとうございます。あなたの魔法で我々は多く救われているのです!」
「『サクラ』様、ありがとう、この間の風邪の時、よく聞くおくすりをくれて!」
 人々は口々に魔法使い『サクラ』を取り囲む。
 その様子に魔法使い『サクラ』は特に表情を変えなかった。少し、つっけんどんとも言える顔立ちのまま、ふい、と顔をそらした。

「理由になってない」
「いやいや、なってますってば! 俺達はみんなあんたに感謝している!」
「そうだぜ、どれだけ助けられたか!」
「『サクラ』様、これ、どうぞっ! あのね、花冠差し上げようと思って」
 そう言って差し出される花冠を見やり『サクラ』は息を吐き出した。
 花を好むと小さな少女は知っていたのだろう。
「……ふ」
 その姿に『サクラ』は小さく笑み、少女の前に膝をついて花冠を受け取る。
 しかし、彼は立ち上がり、引き止める人々を交わして人混みに紛れていく。
「急がなくては」
 このままでは多くを巻き込んでしまう。それだけは、と――。
エリアル・デハヴィランド
…あのスルーズル卿ともあろう方が、か
卿は確かにむさ苦しいところがお有りであったが、燃え盛る炎の情熱と武勇に優れた円卓の騎士であった
卿も私同様に巡礼の旅の最中であっただろうが…呪いを受けても無事であれば「穴があったら入りたい」と悔やんでおられる事であろう
これ以上バハムートウェポンによる呪いの被害を広げないようにするには…件の魔法使いを、この港湾都市で探すしかなかろう

幸い特徴は予兆で聞き及んでいるのもあるので、人集りを中心に当たってみるしかあるまい
運良く出会えれたのであれば…嘘偽りなく名乗り、スルーズル卿に降りかかった呪いに付いて話そう
… イフリィトと何があったかは問い質さない
まずは取り付く島をだ



 円卓の騎士『スルーズル』。
 音に聞こえしは、その轟く武勇である。
 大雑把であると評価されることで知られる彼の戦いぶりは、しかして直に目の当たりにするだけでただの風評であったと知らしめるものであったことだろう。
 そんな彼の力量は言うわずもがなである。
 だが、『スルーズル』の膝を刃交えることなく、地に付けさせたのが『バハムートウェポン』である。
 恐るべき力だ、とエリアル・デハヴィランド(半妖精の円卓の騎士・f44842)は思っただろう。
「……あの『スルーズル』卿ともあろう方が、か」
 確かにむさ苦しいことは承知している。 
 だが、彼の燃え盛る炎のような情熱と武勇を一蹴してしまえるのが、『バハムートウェポン』なのだ。

「卿の塊根の念は、理解できる……であれば、私ができることは、かの呪いの被害の拡大を防ぐこと……」
 エリアルは巡礼の旅を一時中断して、湾岸の城塞都市へと舞い戻っていた。
 行商人の商隊がやってきているのだろう。
 城下町は賑わっていた。
 人々でごった返しているし、どこに件の魔法使いがいるのかわからない。
「やはり、足で稼ぐほかない、か」
 どの道、件の魔法使い『サクラ』がいなければ、『バハムートウェポン』に対抗するための『バハムートウェポン』に手をかけることすらできないのだ。
「不幸中の幸いであったのは、特徴が得られている、ということ、か」
 エリアルは周囲を見回す。
 そこかしこに出店が軒を連ねている。
 もし、魔法使いが何かしらの買い出しに着ていたのならば、目撃されているであろう。

「もし、失礼だが魔法使い『サクラ』殿をお見かけしなかっただろうか」
「騎士の方、『サクラ』様ですか? ええ、先程あちらの方に……」
「かたじけない。何か買わねばと思うが今は時間がないのだ。これにて許されよ」
 エリアルは硬貨を店主に握らせ、足早に人混みの中をかき分けて進む。
 どこだ、と視線を巡らせる。
 黒髪、翡翠の瞳。女人の如き美しい顔。
 その容貌は目立つはずだが、見当たらない。

 そうしていると人混みが一層濃い場所があることに気がつく。
「もし! 魔法使い『サクラ』殿とお見受けする!」
「……」
 無言のまま、人混みの色濃い渦中にあったフードの者が振り返る。
「私の名は、エリアル・デハヴィランド! どうかお耳に入れたきことがあり、無礼とは承知の上でお声がけさせていただいた!」
「……デハヴィランド家の……いや、ここではよそう」
 振り返ったフードの者は、翡翠の瞳でエリアルを見つめる。

 エリアルの出自を理解しているような眼差しであった。
「わかっているだろう。あんたが今語ろうとしていることは、ここで話すべきことではない。徒に民に混乱と不安とを覚えさせるべきではないことくらいは」
「では……!」
「向こうで話そう」
 エリアルはそう告げられ、城下町の外れへと伴われて歩んでいく。
 人通りが少なくなった路地にてフードを外した魔法使い『サクラ』がエリアルを見据える。

「あんたが心配しているのは、獣騎が迫っていることだろう」
「それも、であるが。問題は」
「『バハムートウェポン』か」
「『スルーズル』卿は、すでに呪いを受けているとのこと。であれば」
「……これを解決せよ、と。だが、あれも騎士だ。己が身に降り掛かった呪いなど、自らの手で打ち破れるだろう。あれはそういう騎士だ」
 何の心配もない、と『サクラ』は言う。
 話はそれだけか、と告げる『サクラ』にエリアルは、取り付く島を得ようと歩み出すその背中を追うのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イウェイン・レオデグランス
拡声器みたいではあるが、実力はあるあの騎士が膝をつく呪いの武器……
しかも生み出した贖罪の魔術師を止めろ、と
俺にゃちょっとばかり肩が重い気がするんだがね
とはいえ、袖擦り合うもと言うし、無視は出来んか

人々から魔術師の向かう方向を聞き出し、その方面の城塞都市の出入り口辺りで待機

製作者であるのなら、その質も知っているだろうし、
何より|この世界のヒト《我々》が|百獣族《彼等》に何をしたかなんざ重々ご存じだろう
その贖罪で命を捧げるというなら其れも結構

だが、その後は?
|百獣族《彼等》が貴殿の生命のみで留飲を下げて引き下がる保証は?
其れが無い以上、貴殿をこのまま見送る訳には行かない
こちとら野良でも騎士なんでな



『バハムートウェポン』、その力は実力ある騎士を一瞬にして膝をつかせるほどのものである。
 いかなる力なのか、イウェイン・レオデグランス(狂飆の騎士・f44938)は予測することしかできなかった。
 呪いの武器であることは知っている。
 そして、その呪いの武器を作り出した魔法使い。
 その魔法使いはこのまま放っておけば、贖罪のために無抵抗のまま『獣騎イフリィト』に殺されてしまうのだという。
「俺にゃちょっとばかり荷が重い気がするんだがね」
 イウェインは肩をすくめた。
 しかしながら、袖すり合うも他生の縁という。
 無視はできない。
 確かに過去の罪は消せないし、贖えない。
 贖おうとすれば、今生きる魔法使いが『獣騎イフリィト』に殺されるしかないのだろう。
 命を奪うということは、そういうことだ。
 しかし、生命を奪い返したとて、生命が戻るわけもない。

 ならば、やはりここで優先されるべきは、やはり義理と人情というものであった。
「無視は出来んか……あぁ、知ってしまったものな」
 イウェインは息を吐き出す。
 湾岸の城塞都市の城下町は人々でごった返している。
 なぜなら、今城下町には商隊がやってきており、様々な物品に溢れかえっているからだ。
 そんな人混みの中にイウェインは、ほとほと参ったと言わんばかりの顔で道行く人々を呼び止めて、魔法使いを見なかったかと尋ねるのだ。
「魔法使い様? ああ、『サクラ』様のことか?」
「ああ、ここにおられると聞いたのだが、御姿が見えんのでな」
「あの御方なら、向こうに歩いていかれたよ?」
「そうか、助かる」
 イウェインは彼がこの城下町から離れようとしていることを察知して、城門に向かう。

 すると向こう側から一人のフードを目深に被った者が歩いてくる。
 ただならない雰囲気である。
「『サクラ』殿とお見受けするが」
「……なんだ、アンタは」
 フードの奥から翡翠の瞳がイウェインを見つめていた。
「いやなに、『バハムートウェポン』……その性質というものをご教授頂きたいと思ってな。『獣騎イフリィト』……」
「承知している。だから、俺はこの街を離れる」
「だろうな。お前さんが百獣族に贖罪として生命を捧げるつもりだということも俺は知っている。其れも結構だと思う。だが」
 イウェインは砕けた口調になっていた。
 眼の前の魔法使い『サクラ』は、そうしたことにこだわりがないように思えたからだ。

「だが、だ。その後は?百獣族がお前さんの生命のみで溜飲を下げて引き下がる保証は?」
 イウェインはどうしても、百獣族の憎しみが其れで終わるとは思えなかったのだ。
 猛る復讐の炎は、果たされたとて消えるものではない。
「其れがない以上、貴殿をこのまま見送るわけにはいかない」
「……これは俺の個人の問題ではないと置き換えたいのか」
「そうとも言うな。もっと言えば、『バハムートウェポン』だけでもどうにかしたい。お前さんが生命で贖ったとて、『バハムートウェポン』は消えやしないんだからな」
 その言葉に『サクラ』は僅かに考える素振りを見せた。
「こちとら、野良でも騎士なんでな。民のことを第一に考えさせてもらうぜ」
 イウェインはあくまで己の立場を表明するのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

百鬼・甚九郎
ふーむ? なるほどのう。
儂としちゃー殺したんだから殺されるじゃろってなもんじゃが。
いま人を助けてるとか、善行を重ねてるとか、そんなんかつての被害者からしちゃー知ったこっちゃなかろーもん。
儂もそうじゃが、殺しの罪を償うなんざ不可能なんじゃよ。許せる相手はすでに死んでんじゃから。

なんで追跡しつつーの、別方向から説得するとしようかい。
おぬしが死ぬと、こやつらがめっちゃ困るぞい。おぬしのおかげで生きてる奴らが多いようじゃからの。
あとな、無抵抗で殺られるとか最低じゃぞ。全力で殺しに来てるんじゃ、全力で抵抗するのが戦士の礼儀じゃ。オラッやる気出さんかい!



 殺したから殺される。
 それは百鬼・甚九郎(茨鬼童子・f17079)にとって見れば、当然と言えば当然の結末である。
 奪うから奪われる。
 因果応報というやつである。
「問題は、殺されが側がオブリビオンとして復活してきとるってところじゃのー」
 勘九郎は、ふーむ、と首をかしげる。
 普通、殺された者は蘇らない。
 だが、百獣族はオブリビオンとして、このバハムートキャバリアに復活を遂げている。
 人間族への復讐。
 それは当然の権利とも言えた。

 だが、不幸なことに贖うべき遥か昔の人間たちは死に絶え、子孫しかいない。
 罪を犯した者はなく。
 罪過に贖う相手もいない。
 これがこのバハムートキャバリア世界の縮図であり、問題点であった。
「此度は違うようじゃのう。当時の人間……否、魔法使いがおる、と。そんで、そいつが今は人を助けてるととか、善行を積んでるとか、そんなんかつての被害者からしたら知ったこっちゃなかろーもん」
 はあ、と官九郎は城下町にて大きなため息を吐き出していた。
 己もそうだ。
 殺しの罪を贖うことなどできない。
 許しを与えることのできる者はすでに死んでいるし、贖おうにも贖えないのだ。

 官九郎は城下町からでていこうとしていた魔法使い『サクラ』が他の猟兵に足を止めている背中に呼びかける。
「おぬしが死ぬと、この街の連中がめっちゃ困るぞい」
「……元より迷惑をかけている」
「自覚ありかい。だがの、街の連中に少しばかり聞いただけでも、おぬし、結構評判よいぞ? おぬしのおかげで生きているなんて言い出す連中の多いこと」
 それは魔法使い『サクラ』が贖罪の意味も込めて、人々に尽くしている証明でもあった。
 だが、官九郎が言ったように、百獣族には関係のないことだった。
 そうしたところで、嘗ての生命が元に戻ることなどない。
 だからこそ、悲劇は繰り返されて連鎖していくのだ。

「それに意味はない」
「わかっておるんなら、余計にじゃろ。おぬしが無抵抗で殺られるとか最低じゃぞ。おぬしを慕う者たちにとっても、何よりも、おぬしを復讐の相手と定めて来ている百獣族にもの。全力で殺しに来てるんじゃ。全力で抵抗するのが戦士の礼儀じゃ」
「俺は」
「戦士じゃないとか言い出すんじゃなかろうな。生きてる限り、生命は戦いの連続じゃ。そんな湿気た面して、相手も憤懣が募るばかりじゃ」
 官九郎は『サクラ』の背中を叩く。
「殺した過去を悔いているのならば、背中を伸ばせ。オラッ、やる気出さんかい! おぬしのやるべきことは、己が罪過に向き合う気概じゃ。うなだれて首を差し出すことではないわい――!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

杓原・潤
名前が分かってる有名人なら、色んな所でその辺の人に片っ端から声かけて、サクラさんって人どこにいるか教えて?ってお願いすれば分かるはず。
うるうのおねだりは結構効果的だからね!
これがサクラさんにも効いたら楽なんだけどなぁ。
どちらにしても説得はしなきゃね!

あのね、皆があなたを慕ってるのは分かるでしょ?
あなたは皆を遠ざけたいのかもだけど、多分そうは行かない。
つまりあなたが殺されたら、皆は百獣族を憎むよね。
また同じ事の繰り返しになるかもよ?
それか一族を滅ぼされた復讐ってなったら、あなたの関係者全員殺さなきゃ収まらないかも知れないよ?
昔の事で今の人達を傷付けない為にも……ねぇ、お願ーい!手伝って!



「ねーねー、おにーさん」
 杓原・潤(鮫海の魔法使い・f28476)は少しばかり甘えた声で湾岸の城塞都市の城下町、その商隊が来たことで賑わっている市場で働く若者に声をかけていた。
 彼女がこうして片っ端から市場の人々に声をかけているのは、探し人がいるからだ。
 魔法使い『サクラ』。
 過去の百獣族との争いにおいて、非道なる行いをしたと言われる当時を知る者。
 今は過去の行いを悔いている彼を潤は探していたのだ。
「『サクラ』さんって知らない? どこにいるのかわからなくって」
「ああ、『サクラ』様か。あの御方なら、さっきうちに来てくれてね。あんたもあの御方の世話になった口なんだろう」
「うん、そうなの。御礼をぜひとも伝えたくってぇ」

 潤は、するりと息を吐くように相手の物言いに合わせていた。
 彼女の上目遣いと年下であることを十分に利用した物言いは、市場で働く若者や年寄たちには効果てきめんであった。
「『サクラ』様は、もう戻られるようだ。今なら城門のあたりじゃあないか? 急ぐなら今だよ」
「ありがとう!」
 潤は早速城下町から出る城門へと走る。
 間に合うだろうか?
 もし、魔法使い『サクラ』が百獣族の到来を予見したのならばもう外にでているかも知れない。
 そう思って城門に向かうと、そこには幾人かの猟兵と会話しているフードの者がいた。
 きっとあれだ、と潤は確信する。

「あのね!」
「……千客万来だな。巫山戯ているつもりはないが」
「なのね、みんながあなたを慕っているの。わかるでしょ?」
 潤はこれまで市場で多くの人々に聞き込みを行ってきた。
 誰もが魔法使い『サクラ』に感謝していた。それはきっと過去の罪に贖うためのことだったのだろう。
 けれど、彼らにとってはそれが真だったのだ。
「あなたはみんなを遠ざけたいのかもだけど、多分そはいかない。あなたが殺されたら、あの人達はみんな百獣族を憎むよ」
 潤にはわかる。
 慕う感情はポジティヴな感情だ。けれど、そうした感情は一手でひっくり返り、ネガティヴな感情に変わる。

 それは、きっと延々と繰り返される。
「また同じことの繰り返しになるかもよ? ううん、きっとなる」
「……だから、誰かが断ち切らねばならない。俺を殺そうとしている百獣族に、それができないとは思わない……いや、これは俺の願望だな」
「でしょう! それに、一族を滅ぼされた復讐なんだよ。なら、あなたの関係者全員殺さなきゃ収まらないかも知れないよ?」
 この湾岸の城塞都市丸ごと関係者だと百獣族は見定めるかもしれない。
 過去は変えられない。
 なかったことにはならない。
「昔のことで、今の人達を傷つけていいなんて、理由になってない。そうでしょ!」
「……」
「ねぇ、おねがーい! 手伝って! 復讐の連鎖を断ち切るっていうんなら、わかるでしょ!」
 その言葉に『サクラ』は翡翠の瞳を伏せて天を仰ぐ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルマ・フィーリア
……【SPD】?
過去に何があったのか、その時その百獣族とその魔法使いの人が何を思い、
そして今、何を思っているのか……ボクには解らないけれど。
それでも、知ってしまった以上は見過ごすことはできないよ

ハイドラキャバリアの『ドラグリヴァーレ』には町はずれに隠れてもらっておいて、町の人に話を聞きながら魔法使い……サクラさんを探しに行くよ

その罪滅ぼしが間違っている、なんてボクには言えないけれど、
かつての行いが非道であったというのなら、なおさらその相手に同じ道を歩ませる訳にいかないし、

何より……できるならそのバハムートウェポンそのものも何とかしたいんだ
その為の力を借りる事はできないかな……?



 過去は変わらない。
 アルマ・フィーリア(鋼竜石の妖精・f44795)には過去の記憶がない。
 変わらない過去があるのだとして、今の彼女が如何にして形作られているのかを、彼女自身が知らないのだ。
 それは他者においてもそうだ。
 魔法使い『サクラ』は過去、非道なる行いで持って百獣族を滅ぼした。
 何を思っていたのか、アルマにはわからない。
 けれど、今の彼をアルマは知っている。
 湾岸の城塞都市の城下町で多くの人々から『サクラ』について聞き及んでいた。

 彼を探している途中でのことであったが、誰もが彼を知っていた。
「いつもうちの店を気にかけてくれていてね。仕入れやら食材の保存やら、智慧を授けてくださったんだよ」
「小さいころから遊んでもらっていたんだよ。ガキのころさ。悪ガキだった俺たちにも優しくしてくれたし、道理を説いてくれた。だから、俺達はやさぐれないでここにいられるんだだ。あの人のおかげだ」
「お母さんの病気を治してくれたの!」
「あの御方は……」
 様々な言葉があった。
 そのいずれもが魔法使い『サクラ』を思う言葉ばかりであった。

「……きっと罪滅ぼしのつもりだったんだろうな」
 アルマは、人々からの言葉を受けて、そう思った。
 滅私奉公とは良く言ったものだ。
 己を殺して、公に奉じる。
 言葉にすれば簡単なことだが、魔法使いは無限の寿命を持っているのだという。一体どれだけの時間、人々に尽くしてきたのだろうか。
 しかし、そんな奉仕の心が嘗て殺された百獣族に伝わるわけもない。
 言葉にしなければ伝わらない。
 そして、魔法使い『サクラ』は己の生命を差し出そうとしている。
 何も言わず。
 ただ、殺された恨みを一身に受けようとしている。

 アルマは、走る。
 城門にて猟兵達に呼び止められた魔法使い『サクラ』の翡翠の瞳を見た。
「その罪滅ぼしが間違っている、なんてボクには言えない。けれど」
 アルマはまっすぐに見て伝えることしかできなかった。
「かつての行いが非道であったというのなら、尚更その相手におなじみを歩ませるわけにはいかないでしょう!」
「……贖うには、生命しかない。そういうものだ」
「だったら、なおさらだよ! 百獣族は『バハムートウェポン』を使っているんだよ。呪いを振りまく武器! それを! あなた以外の人に向けないなんて理由はないでしょう!」
「だろうな。だが」
「あなたの生命を差し出すことは止められないかもしれない。けれど、呪いの武器の、その呪いそのものを他の誰かに向けさせないことはできるでしょう!『バハムートウェポン』、あれをなんとかするために力を貸して!」
 今を思うのなら、己の生命をいとわずとも、今から明日を生きる者たちを思えるはずだ、とアルマはそう叫んだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
うーん、卑怯な術で滅ぼされたことへの仕返しかぁ。
……誰かが悪かったってわけじゃねえんだよな。その魔法使いも百獣族のやつらも、ただ自分が「正しい」と信じたことを貫こうとしただけでさ。
……でも、件の魔法使いがそれを今になって悔いているって言うんなら……生半な言葉じゃ心に響かないかもしれねえなぁ。

そうと決まれば、説得の材料を探さないとな。
旅で培った〈コミュ力〉を活かして行商の人や城塞都市の子供たちと接触し、その『サクラ』っていう魔法使いの評判とか人となりとかを訊いて回る。金とかは……まあ、出せる範囲で。
そういう人達から話を聞けば、何かしら『サクラ』の心を動かすようなモンが見えてくるかもしれねーしな。



 非道は生命を傷つけるばかりではない。
 その魂の誇りすら傷つけるものだ。
 そうした傷は、因果となって応報される。そういうものだ。
 百獣族の復讐は正統性がある。
 なぜなら、彼らは人間族の凶暴性によって滅ぼされたのだ。生きるためでも、食らうためでもなく、ただ滅ぼすためだけに虐殺されたのだ。
 その仕返しなのだ、これは。
「……誰かが悪かったってわけじゃねぇんだよな」
 鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は思う。
 件の魔法使いも、百獣族も。
 ただ己が正しいと信じたことを貫こうとしただけなのだ。

 それがもたらした結果が、連鎖して今に至っている。
「……件の魔法使いが、それを今になって悔いているんだろうな」
 生半可な言葉では駄目だ。
 嵐はそう思った。
 己の言葉の薄っぺらさを見透かされてしまうと思った。
 彼が己の生命を差し出す行為は贖罪そのものだ。それを止める権利なんて嵐にはない。
 けれど。
「あのね、『サクラ』様は、いつも甘いお菓子くれるよ」
「遊んでもくれる。この間は空を飛ばせてくれたんだ」
「『サクラ』様、好き。優しいもの」
 そんな子供たちの言葉を聞き込みで得た嵐はますますもって、彼を殺させるわけにはいかないと思った。

 子供たちは素直だ。
 嘘をつかないわけではないが、しかし、その言葉は己がしてもらったことへの素直な感謝があった。
 なら、『サクラ』は良いやつなのだろう、と嵐は思った。
 大人たちだって同様だった。
 一様に『サクラ』に感謝していた。
 きっと、何年も何世代にも掛けて『サクラ』は人々を助けてきたのだろう。
 それは、罪滅ぼしでしかなかったのかもしれない。
 けれど、それでも彼の行いは人の善性を育むものであったのだ。

 嵐は、そうした人々の言葉を受けて走った。
 城門。
 城下町からでていこうとする魔法使い『サクラ』を猟兵たちが呼び止めていた。
「……またか」
 天を仰いでいた翡翠の瞳が嵐を捉えた。
「もううんざりかもしれないけどさ。おれ、あんたのことを聞いたよ。街の人達から。みんな感謝してた」
「お為ごかしをしていただけだ、俺はな」
「だったらなんだよ。あんたは、多くの人のためになることをしようとしていただけじゃないか。あんたがやった過去は消えない。けれど、あんたが今まで紡いできたのは、非道ばかりじゃあないだろ。ここで死ぬってことは、そうした善行も否定するってことだぞ!」
 嵐は言う。
 彼の行いの全てが肯定されるものではない。
 けれど、それはすべての人に対して当てはまる言葉だった。
 良いことも、悪いことも。
 全て織りなして、その人となりなのだ。
 なら、と嵐はやはり思うのだ。
「あんたは生きて、生き続けて、贖い続けなけりゃならない。悔いたのは、今に連なるためだ。きっと良い未来に繋がりますようにって祈りだ。それを自分で捨てることは許されない――!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

薄翅・静漓
偵察用の蝶を飛ばし道を確かめながら
人の流れを縫うように、『サクラ』を探すわ
その姿を見つけたら、静かに問いかけてみましょう

……あなたは、本当にそれでいいの?

答えがなくても構わない
けれど、それがたとえ、自分に課した罰だとしても……
あなたが死んでいい理由にはならないと、私は思うの

この賑わいも、草木や花も――
数多の生命が喪われるかもしれない未来を、私は見過ごせない
過ちを繰り返してはならないというのなら
どうすれば止められるのか……私は、それを知りたい



 青い蝶がひらりと飛ぶのを湾岸の城塞都市の城下町に住まう子供の瞳が捉えた。
 わあ、と小さな声を上げる様を、伝えられる資格情報から見やり薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)は僅かに笑んだかもしれない。
 彼女はユーベルコードによって水と光の蝶を城下町に放ち、件の魔法使い『サクラ』の姿を探していた。
 まずは追いつかなければならない。
 人でごった返す市場は賑を見せていた。
 誰も彼もが笑っている。
 商隊が来たからとも言えるが、もともとの人々の気質がなければ、ここまで穏やかに賑わうことはないだろうと静漓は理解していた。

 彼女の放った蝶がそんなにぎわいから外れた城下町の外につながる城門を捉える。
 艷やかな黒髪。
 翡翠の瞳。
 女人と見紛うほどの美しい顔。
「……見つけた」
 静漓は跳ねるようにして城下町の屋根を蹴って軽やかに城門へと飛ぶ。
 見下ろしたのは幾人かの猟兵と、魔法使い『サクラ』の姿だった。
 音もなく静漓は彼の前に立つ。

「……あなたは、本当にそれでいいの?」
「……そうしなければならない。それだけの理由が彼らにはある。それだけだ」
「そう、それがあなたが自身に課した罰なのね」
「罪は贖わなければならない。嘗ての俺は、ただひたすらに……非道だった。何故、そうしなければならないのか、その理由すら考えずに百獣族を滅ぼし続けていた。あの時は、理由なんてなかった。ただ滅ぼさなければならないと思ったから、滅ぼした」
 独白めいた言葉だった。
 彼にとって百獣族との戦いとは理由なき戦いだったのだろう。
 そして、今はそうではないと思っている。
「その罪過は、俺一人が背負えばいい。それだけでいい。殺される理由など、それで十分だ」
「私は」
 静漓は静かに告げた。

「あなたが死んでいい理由にはならないと、思うの」
 静漓は己が見てきた城下町の様子を見た。
 通りにはいくつもの街路樹があった。草花が咲き誇っていた。
 あのにぎわいは、人々の善性の現れだった。
 誰もが隣の誰かを想える者たちだった。
 それは、人の持ち得る性質であったかもしれないが、確かに育まれたものだった。それを『サクラ』が育んでいたこともわかる。
 だからこそ、静漓は告げる。
「数多の生命が失われるかもしれない未来は、あなたの死を切欠にしている」
「そんな過ちは繰り返させない」
「なら、どうすれば止められると思うの? あなたの生命が失われても、多くの生命が失われてしまう。それは、嫌だと私は思うの」
 そう、嫌だ。
 だから、静漓は問いかける。

「脆くて小さいけれど(ココロノママニ)、失われていい生命なんてない」
 静漓は『サクラ』を見やる。
 知りたい。
 多くが失われない、よりよい未来を掴むための方法を、と――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トラスト・レッドライダー
人々にサクラさんの行方を聞き、捜しつつ、
彼がどの様な人物でこれまでに何をしてきたのかをもっとよく知りたい
その上で、俺は俺の理想を彼に訴える他にない

嘗ての貴方のままなら、断罪で良かったのかもしれない
だが、人々は、貴方を慕っている。それは自死も隠遁もせず、過去を悔い改め今を生きる貴方が得た功徳だ。そんな貴方が、復讐に身を燃やす獣騎イフリィトに殺される。

それは贖いではなく、悲劇の再生産だ
救われるのは貴方の心だけで、彼はきっと救われない。人々は救われない

復讐に呑まれた彼を鎮める為に、今を生きる人々の為に、
我々は彼と正しく相対すべきだ。その為の力を、貴方は持っている筈だ

故に……我々にその力を貸してほしい



「彼はどんな人なのだろうか」
 トラスト・レッドライダー(レプリカントのデスブリンガー・f43307)は、湾岸の城塞都市に生きる人々にそう伝えた。
 魔法使い『サクラ』。
 彼は過去、百獣族との戦いにおいて『バハムートウェポン』を用いた非道なる行いでもって彼らを滅ぼしたのだという。
 そして、彼はこれを悔いた。
 今は、と伝え聞いた。
 だが、実際に彼と接する機会の多かったであろう人々の言葉の方が、彼にとっては重要だった。
 彼がどのような人物なのかを知りたい。
 己には理想しかない。
 だから、知らねばならないと思ったのだ。

「立派な御方だよ。俺も子どもの頃は、よっくしていただいたものだ。商売のやり方、人とのつながりの大切さなんかなを」
 市場に軒を連ねる店主の男は、そう言って笑った。
 己ばかりが得をしてはならない、と。
 確かに情は自分のためにならないように思えるかもしれないが、巡り巡って自分に返ってくるものだ、とも教わったのだと彼は言っていた。
 それは、結局のところ、人の善性を信じるものであった。
 人には悪性と善性とがある。
 だが、悪性ばかりを見ては、善性を見落とす。悪性を照らせるのは善性だけだ。なら、その光を増やせば、自ずと悪性の落とす影は追いやられるだろう。
 決して消えはしないが、それでも追いやることはできる。

「だから、感謝している。俺のようなろくでなしを導いてくだすった」
「そうか」
 トラストは礼を告げて城門へと走る。
 この城下町の人々は魔法使い『サクラ』に感謝していた。
 根気のいることだっただろう。人の悪性は決して拭えるものではない。だが、その悪性を己で律することができる。
 それを彼は伝えていたのだろう。
 だったら、とトラストは思う。

「嘗ての貴方のままなら、断罪でよかったのかもしれないな」
 トラストは『サクラ』の背中にそう告げた。
 悪性に染まったままだったのならば、そのままでも何の問題もなかった。
 悪は悪のままに裁かれればよかったのだ。 
「だが、人々は貴方をし合っている。それは自死も隠遁もせず、過去を悔い改め今を生きる貴方が得た功徳だ」
「……俺は、そんなものを求めていない。得る資格などないからだ」
「だとしても、だ。そんな貴方が、復讐に身を燃やす『獣騎イフリィト』に殺される」
 それは、違う。

「償いではない。悲劇の再生産だ」
「だが、それでも『獣騎イフリィト』の復讐は」
「焼け石に水だ。彼は救われない。救われぬ恩讐の炎は、きっと人々を燃やすだろう。人々だって救われない。復讐に呑まれてしまえば、きっとそうなる。なら、貴方は、我々は正しく彼と相対すべきだ」
 今を生きる人々のために。
 他ならぬ嘗ての当事者と、過去の百獣族。
「我々にその力を貸して欲しい」
 それは真摯なる願いであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ステラ・タタリクス
|エイル様《主人様》の!!!
というより、パッセンジャー様の香りですかね?これは

ライフ・アブソーバー……まるでオーデュボンの無敵皇帝パッセンジャーの無敵機械のよう
いえ、ヌル様がこの世界から転移しているならば
ライフ・アブソーバーもまた?
どうにもこの世界が『憂国学徒兵』のはじまりのように感じるのですが……
サクラ様にお会い出来れば何かわかるでしょうか?
っていうか、サクラってSOWの神器のひとつじゃないですか

ともあれ、サクラ様の所在を探さねば
パッセンジャー様と『一緒』ならば
艷やかな黒髪に虹の輝きをもつ瞳
充分に目立ちそうなものですが
ケルーベイム、貴方なら
ファフニールを取り込んだ貴方なら何かわかりますか?
ええ、見つけました

サクラ様はじめまして
ケルーベイムが操縦者のステラ
……『奉仕者』と呼ぶ方が増えてきましたが
少しお話をさせて頂いても?

嘗ての非道、抱えきれない罪
ですがそれがこの地をはじめとした『人』の未来を切り開きました
どうせ死ぬならその命、預けて頂くことはできませんか?
今一度、ともに……向き合う機会を



「|『エイル』様《主人様》の!! というより、『パッセンジャー』様の香りですかね? これは」
 ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は鼻を退く付かせていた。
 嗅ぎ分けができるメイドは、何でもできるメイド。
 いや、違う。
 何でもできるメイドは、嗅ぎ分けもできるメイドである。
 間違えてはならない。間違えたのならば、それは全メイドへの風評被害になりかねないものであったからだ。
 そんな何でもできるメイドは、湾岸の城塞都市の城下町にいた。

 目的は魔法使い『サクラ』を探すためであった。
『バハムートウェポン』、『ライフ・アブソーバー』……その力は恐らく、生命を吸い上げるもの。
 それはまるでかつて対峙した屍人帝国『オーデュボン』の超人皇帝『パッセンジャー』の超機械を思わせるものであった。
 だが、ステラには一つの予測が立てられていた。
『ヌル・ラーズグリーズ』――辺境伯であった『ラーズグリーズ』辺境伯の娘であり、神隠しによりこの世界より消えた彼女は、百年前のクロムキャバリアへと転移していた。
 なら、『ライフ・アブソーバー』もまた転移したのではないか、と。
 だが、現に今『ライフ・アブソーバー』と呼ばれる『バハムートウェポン』は『獣騎イフリィト』の手にあるのだ。

「どうもこの世界が『憂国学徒兵』のはじまりのように感じるのですが……『サクラ』様にお会いできれば何かわかるのでしょうか? そして、『サクラ』、とは名前が一致しているだけに過ぎない偶然なのでしょうか? それとも……」
 必然なのか。
 嘗て、クロムキャバリアに現れた赤い二人羽織のキャバリア……『熾盛・改』を駆る片割れの搭乗者も『サクラ』と名乗っていたが、『パッセンジャー』と名を改めていた。
 必然であるのならば、いかなる関係があるのか。
「ともあれ、『サクラ』様」
 ステラは幾人かの猟兵と言葉を交わす魔法使いの姿を認めていた。

 同じだ。
 艷やかな黒髪、翡翠の瞳は、今は虹色の輝いていない。だが、同じ瞳。
 女人のごとき美しい顔。
 目立つ容姿だ。
 ただ違うのは、彼が憂う表情を浮かべていたことだ。
 超人皇帝『パッセンジャー』は、常に表情が変わらなかった。しかし、一度だけ、撃鉄を起こすように表情を激変させていた。
「『ケルーベイム』、か」
「ご存知なのですね。申し遅れました『サクラ』様。『ケルーベイム』の操縦者、ステラ……『奉仕者』と呼ぶ方も増えて来ましたが、少しばかりお話をさせて頂いても?」
「……『奉仕者』とは言いえて妙だな。そして、もっと言うならば、『ケルーベイム』に搭乗者がいる、というのも妙な話だ」
「それは、一体……」
「アンタが聞きたいのは、今はそれではないだろう」
「……ええ、嘗ての非道、抱えきれない罪。ですが、それがこの地をはじめとした『人』の未来を切り開きました」
「だが、それは今生きるものたちには関係のないことだ。子々孫々とは言うが、恨みは、嘗ての当事者である俺で終わりにせねばならない。それが理由だ」
「どうせ死ぬというのなら、その生命、預けて頂くことはできませんか?」
「理由になってない」
「いいえ、理由ならございます。今一度、共に向き合うためです」
「アンタたちが何故、それを行わねばならない」
「それが必ずや我が主人様の元へと繋がる路だからでございます。知らねばならない。その機会がある、それが理由でございます――」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『悪しき騎士との決闘』

POW   :    正面切って力一杯ぶつかる

SPD   :    相手の技を見切り、痛烈な一撃を返す

WIZ   :    相手の慢心を誘い、返り討ちにする

イラスト:ハルにん

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵たちの言葉に魔法使い『サクラ』は息を吐き出した。
 ゆっくりと城下町を彼はでていった。
 振り返り、彼は言う。
「どうした。付いては来ないのか? アンタたちの言うことは尤もだ。痛いくらいにな。だから、応えよう」
 彼についていくと、湾岸の城塞都市から離れた箇所にある塔にたどり着く。
 どうやら、そこが彼の住居のようだった。
 扉を開けた彼と共に踏み込むと魔法陣が猟兵達の足元に浮かび上がるだろう。
 光は、一瞬で猟兵達の体を包み込むように足元から頭頂部まで掛けあがる。
「心配するな。体に害はない。だが……」
 彼の瞳が虹色に輝いていた。
 その瞳に満ちる光は闇を切り裂く、造られた虹の輝き。

 猟兵達の前にはそれぞれ、己と同じ姿をした存在が立っていた。
「それはアンタたちの心にある悪心が形を成したモノだ。それを討てぬようでは、アンタたちに『ライフ・アンプリファイア』を渡した所で無意味だ。アンタたちの言葉は俺の伽藍洞の言葉を打った。だが、言葉だけでは力になり得ない」
 だから、と『サクラ』は言う。
「示してくれ。悪心を照らす善心こそがあることを――」
エリアル・デハヴィランド
●POW

…怒り、哀しみ、憎しみ
不条理を前にして誰かに負の感情を向けた事は無いとは言えない
写し身は私の原罪を罰するかのように浄罪の炎を滾らせた|聖槍《プルガトリウム》を向けるが、私は聖槍を構えることなくサクラの真意を思惟する

ふたつの聖槍は… 『ライフ・アンプリファイア』を見立てさせた物であろう
悪心は百獣族を滅ぼした残虐性であり、この状況はバハムートウェポンを用いた争いを意味するか?
…これを振るえば相手を倒せる
だが、振るえば誰かが悲しむ
その連鎖を止める答えは…穂先を納める事だ

正義は時に誰かを傷つける
正しさで誰かの心を切り裂くのなら…槍を抜く理由があるこそ抜かぬ覚悟も必要だと『騎士道の誓い』で示そう



 黄金のキャバリアが燃えている。
 それは怒りや悲しみ、憎しみを糧にして燃える激情であった。
 不条理に怒り、不条理を破り、不条理に泣く。
 その感情をエリアル・デハヴィランド(半妖精の円卓の騎士・f44842)は知っていた。
 負の感情とも言うべきもの。
 それを他者に向けたことがないとは言えない。
 騎士道で律していなければ、そうした感情は容易く誰かを傷つけるものであったことだろう。
 わかっている。
 だからこそ、写し身たる騎士の姿にエリアルは瞳を伏せた。

 戦わねばならない。
 だが、打倒さねばならないのだ。
 構えることなくエリアルは思う。
「……」
「どうした。戦わないのか」
 魔法使い『サクラ』の声にエリアルは息を吐き出した。
 問いかけられてはいるが、今は己の心に向き合わねばならないと思った。
『バハムートウェポン』。
 それは呪いの武器。
『ライフ・アブソーバー』と対を成す『ライフ・アンプリファイア』。
 ああ、とエリアルはまた吐息を漏らした。

「これは、二つの聖槍は」
 彼は己が手にした聖槍『プルガトリウム』の穂先を見やる。
 これは二つの『バハムートウェポン』に見立てたものなのだろうと思った。
『サクラ』の真意は推し量ることしかできない。
 だからこそ、悪心を善心で照らせと言ったのだ。
 ならば、悪心とはなにか。
 それは百獣族を滅ぼした残虐性ではないかと思ったのだ。
 そして、己たちが『ライフ・アブソーバー』を用いる『獣騎イフリィト』を『バハムートウェポン』を用いて戦うことは、今の状況と同じなのだろうと思ったのだ。

「……振るえば、相手を倒せる」
「そうだ。それが力というものだ。純然たるものだ。そのために造られたものだ」
「だが、振るえば誰かが悲しむ」
「見てみぬふりをすればいい。蓋をしてもいい。そうやって殺していけばいい」
 相対する鏡合わせのエリアルが告げる。
 わかっている。
 それが一番簡単なやり方だ。
 見なければいい。
 聞かなければいい。
 知らなかったと言えばいい。

 けれど、エリアルは正しい道を選びたいと思ったのだ。
 それはすなわち、この連鎖を止めることだ。
 復讐の連鎖。
「……なら、私がすべきことは槍を振るうことではない。穂先を納めることだ」
 正義は時に誰かを傷つける。
 そして、正義とは誰しもにあるものであり、唯一ではないのだ。
 だから、正しさは誰かの心をいつだって傷つける。
「これが私の騎士道の誓いだ」
 おろした槍の穂先は、敵を映さない。

 そこには敵はいない。
 なぜなら、誰かを傷つける鋭き槍を向けていないから。
 エリアルの心は晴れやかだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イウェイン・レオデグランス
|アブゾーバー《吸収》に対して|アンプリファイア《増幅》
そして、悪心の化身
何処だったっけな、最強と謳う盾と矛を売る者の逸話があったのは
俺が最強と言う心算なんざさらさら無いが、まあ其処は言葉遊びみたいなもんだろう

(こういうのが面倒で出てきた筈なんだがなあ、否応なく向こうからやって来られるのが騎士ってことかね)

とはいえ、騎士たる己を否定する心算なんざ無ければ、ここでじゃあサヨナラって訳にもいかん
悪心はそんな“責任”なんざ投げ捨ててしまえなんて言ってくるんだろうが
それが出来るんならこちとら野良騎士なんざやって無ぇんだよ
(対自分だからか、せめぎあいの苛立ちからか、普段の彼らしく無い荒い口調で言い放ち)



 イウェイン・レオデグランス(狂飆の騎士・f44938)はガシガシと音を立てるように己の頭皮をかいていた。
 苛立ち、というほどではない。
 魔法使い『サクラ』の後をついてやってきたのは、彼の住居である塔である。
 古めかしい塔であるのは質素倹約の証とでも言おうか。
 それは実際の所どうでもいいことであった。
 問題なのは。
「……悪心の化身と来たか。俺の写し身、だと?」
「そうだ。どんな高潔な人間にも悪心は僅かにでも存在する。悪心なき善心なく、善心なき悪心もなし」
『サクラ』の言葉にイウェインは息を吐き出す。

「んで、|アブソーバー《吸収》に対して|アンプリファイア《増幅》とはな。何処だっけな、最強を謳う盾と矛を売る者の逸話があったのは」
「説話だ。どちらにしたって、それは言葉遊びの範疇でしかない」
「はっ、そうだろうな。俺が最強だとのたまうつもりはないが、さらさらな」
 イウェインは、こうした試練めいたことが面倒で出奔したというのに、己が避けようとすればするほどに向こう側から己に近づいてくるものなのだな、と心底うんざりする。
 これが騎士というものなのだというのならば。
「責任に縛られて雁字搦めになって、動かないままにそのままにした事が悪い方に向かっていってしまうことに嫌気がさした癖に」
「あぁ?」
 イウェインは己の写し身である悪心の騎士、その言葉を聞いて眉根を寄せる。
 確かに、あれは己の中のものなのだろう。
 騎士たる己を否定する。

 見なければいい。
 だが、ここで背を向けるわけにもいかない。
 これは己が踏み込んだ事件なのだ。
 であれば、おいそれここでお終いにしてさようならというわけにはいかないのだ。
「そんな責任を感じるくらいならば、元より出奔する必要もなかっただろう。お前は望んで自ら縛につこうとしているではないか。捨て去ってしまえばいい」
「ハッ、それができるんなら、こちとら野良騎士なんざやってねぇんだよ」
 苛立ちが募っていく。
 口調が荒くなっていく。
 己自身だ。やはり、あれはと思う。

 だからこそ、負けてはならない。
 あれが悪心なのならば、そんなものに負けてはならないという気概があるのだ。故にイウェインは言葉でもって悪心の騎士を退ける。
「今更後に退けるかよ。踏み出す足は持てても、及び腰になるような足は、俺は持ち合わせてねぇんだよ――!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

トラスト・レッドライダー
振るわれるアンガーブレードをアンガーブレードで武器受け

贖罪の、戦いを終わらせる為と言いながら闘争を求め心を耽させる
俺の選択は結局、徒に新たな争いを呼び込んでいるだけなのではないか
終わらせたいと願いながら戦いを求めている。なら止まるべきではないか?
この懊悩こそが|俺の悪心《レッドライダー》であり、紛れもない、
俺の一部だ。
この自己矛盾と俺は、一生をかけて折り合いをつけていかねばならない。

己を信じ、情熱を燃やせ、己が悪心から目を逸らず、受け入れて制せ。
己が理想を以て、前に進め!俺は、戦える!!

『狂気戦乱を打ち払うモノ』アンガーブレードのプラズマ光を迸らせながら、
己が悪心の現身を圧し斬り己が内に戻す!



 赤いプラズマの奔流が走った。
 激突する衝撃が吹き荒れ、火花が周囲に散った。
 交錯する片手剣。
 高周波を発する刃同士の激突は、それだけで破壊を齎すものであった。
「諸罪の、戦いを終わらせる為と言いながら逃走を求め心を耽けさせる」
「俺の選択は結局、徒に戦いを呼び込んでいるだけなのかもしれない」
 わかっている、とトラスト・レッドライダー(レプリカントのデスブリンガー・f43307)は、火花の奥に見える己自身を認め、眉根を寄せた。
 これが魔法使い『サクラ』の言うところの試練なのか。
 悪心。
 かけらとてない者はいない。
 故に、トラストは、眼の前の己自身を認めるしかなかった。

 あれは確かに己の心の中にあるものなのだ、と。
「終わらせたいと願いながら戦いを求めている。なら、止まるべきではないか?」
 確かにその通りだ。
 トラストは写し身の己の言葉に一々感じ入るばかりであった。
 震える交錯した剣。
 互いの実力は伯仲。
 否、同一である。
 懊悩を抱えるトラストは、抱えたものの分だけ写し身に押しやられていた。

「……紛れもなく、|俺の悪心《レッドライダー》……俺の一部」
 分かっている。
 これは自己矛盾だ。
 一生をかけて折り合いをつけていかなければならないものだ。
 解決などできようはずがない。
 有史以来、多くの人間たちが抱えてきた懊悩を、己一代にて解決に導くことができるとは思ってもない。できるわけがないのだ。
 だが、トラストにはできることがある。
 他の誰もできることであったが、しかし、この己が抱えた懊悩を如何にかすることができるのは、他ならぬ己しかいないのだ。
「己を信じ、情熱を燃やせ。己が悪心から目を逸らさず、受け入れて制せ。己が理想を以て、前に進め!」
「できるのか? お前に」
 その言葉にトラストは叫んだ。
「俺は、戦える!!」

 理想は理想でしかない。
 わかっている。
 だが、理想なくば人は進めまい。
 理想すら抱けなくなってしまえば、現実の飲み込まれてしまうだけだ。
 そして、それは悪意によって捻じ曲げられてしまうものだ。
 だからこそ、誓わねばならない。
 狂気戦乱を打ち払うモノ(キョウキセンランヲウチハラウモノ)は、いつだって自分なのだ。
 故にトラストのユーベルコードが片手剣からプラズマの光をほとばしらせながら、写し身を鍔迫り合いのまま押し切り手を伸ばす。
「切り捨てて終わりなどさせるものか。これは! 俺の、己の悪心だ!」
 掴んだ写し身を引き寄せ、トラストは己が身に取り戻す。
 善心だけではだめなのだ。
 悪心がなくては、己が心のあるもの、弱さを弱さとして肯定できない。
 だからこそ、トラストは己が胸に悪心を取り戻すのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
まあ、別におれは聖人でもなんでもねえ、ただの人間だからな。そりゃあ悪い心、弱い心なんてのは人並みにある。
「それを言うなら皆一緒だ」なんて開き直るつもりは無えよ。
祖母ちゃんも言ってた。「どんなに逃げても目を背けても、現実はいつか必ず追いついてくる。自分で清算しなければ、自分にとって大切な誰かに、ツケを押しつけることになるんだよ」って。

それに……|悪い心《これ》だっておれという人間の一部分なんだ。
例えるならそれは、旅を続けている限り必ず背負わなきゃなんねえ、決して捨てられない荷物のようなもので。
さすがに愛着が湧く、なんてことは無えけど。
これをひっくるめて、|鏡島嵐《おれ》という人間なんだから。



 人は弱い。
 言うまでもないことかもしれないが、自らが強い者だと思う者ほど、脆弱性を抱えているものだ。ともすれば、それは根拠のない自信であるとも言えたかもしれない。
 いずれにしても、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は眼の前に現れた写し身の己の顔を見て、あれもまた己自身なのだと思っただろう。
「まあ、別に」
 己は聖人ではない。
 ただの人間だ。
 猟兵の力に覚醒しているだけ、と言われたのならば、その通りなのだろうと思う。
 弱い心など人並みにある。 
 弱さはいつだって人の心に悪を生み出す。

 それが自分にはないだなんて言えない。
「だろうな。そうやって恐れを肯定していれば、一先ず安心はできるものな?」
 写し身の嵐が言う。
 せせら笑うようだった。
 弱さを認め、強くあらねばならないとい思いを否定する。
 それが手っ取り早いからだ。
「『それを言うならみんな一緒だ』なんて開き直りはしねえよ」
 嵐は頭を振る。
「祖母ちゃんも言ってた。『どんなに逃げても目を背けても、現実は必ず追いついてくる。自分で清算しなければ、自分にとって大切な誰かに、ツケを押し付けることになるんだよ』って」
「それで、お前は清算できているのかよ。今だって怖い怖いと心が叫んでいるんだろ?」
「それは、そうだ」
 認める。
 写し身の悪心。
 あれも己だ。

 否定することはできない。
 眼の前の悪心を前にして逃げることはできない。
 己の心と向き合うことは恐いことだ。自らの醜さを突きつけられているような気がするから。
 だから、目をつむるのが一番簡単なことだってわかっている。
 簡単なのが悪いんじゃあない。
 嵐は自分が自分を構成する一つから逃げることを厭う。
 祖母の言うとおりだ。
 いつだって、そうなのだ。逃げたって、追いかけてくる。
「|悪い心《お前》だって、おれという人間の一部分なんだよな。例えるならそれは」
「旅を続けている限り必ず背負わなけきゃならないものだ。決して捨てられない荷物だ。それは時に責任とも言うのかもしんねぇけどな」
「さすがに愛着が湧くほどとは言えないけど」
「けれど、捨てられないだろう。自分自身だっていうんだから」
 愛着ではない。
 そんなものではない。
 それはもうとうに通り過ぎたものだ。
 あからこそ、嵐は手を伸ばす。
「お前ひっくるめて、|鏡島・嵐《おれ》という人間なんだからな――」

大成功 🔵​🔵​🔵​

杓原・潤
あー良かった、やる気になってくれたみたい!
でもそれなら、こんなトラップみたいなのは解除しといてくれたら良いのに!
まぁ良いや、うるうは魔法使いだけど……こーゆー勇者の試練みたいなのも、たまには楽しいよね!

これがうるうの悪心かぁ。
うーん、持ち主に似てやっぱりかわいいね。
でもこっちも負けない、それじゃ行くよ……ダンスで勝負だ!

うんうん、いい感じ!
でも悪い子なうるうには足りないものがある。
ただ目立って魅力を振り撒いて、自分の為に気を引くだけの動きも悪くないけど……やっぱり愛が足りないよ!
例え相手が自分の悪心だって、レスポンスを返して虜にしてあげる。
これが誘惑ってやつだよ!
ね、もうめろめろでしょ?



「あー良かった、やる気になってくれたんでしょ?」
 杓原・潤(鮫海の魔法使い・f28476)は魔法使い『サクラ』の周囲をうろちょろしながら、そう言った。
「やる気、というのならそうかもしれないが。だが、問題はここからだ」
「問題?」
 そう訝しむ潤の眼の前で『サクラ』の住居である塔が魔力を発露したのを知っただろう。
 魔法陣が潤の体を包み込み、彼女の眼前に彼女自身を生み出したのだ。
 写し身の潤。
 それは彼女の中にある悪心を形作った存在だった。
「えー、なんでー!? こんなトラップみたいなのは解除してよ!」
「駄目だ。アンタたちが『バハムートウェポン』を扱うに値するのか、そして、『獣騎イフリィト』を止め得るのか、それを俺は見定めなければならない」
「だからって」
 潤は抗議する。
 けれど、考え直したようだった。

「まぁ、良いや」
 潤は魔法使いを自称している。
 けれど、時にはこういう勇者の試練めいたことをしてもいいと思ったのだ。それに楽しそうだった。
「これがうるうの悪心かぁ」
「そうだよぉ。ね、二人で悪いことしちゃおっか?」
 ウィンクする写し身の潤。
「うーん、持ち主に似てやっぱりかわいいよね。でも、悪いことしちゃうかどうかは……ダンスで勝負して決めよ!」
「ダンス! うん、いいよー!」
 悪心と言えど、素直である。

 魔法使い『サクラ』は踊りだす二人の潤を見やり、なんだこれは、と思っただろう。
 二人して楽しげに踊り、こんなことできる? これはできないでしょ? あ、かわいい! かっこいい! そんなふうに二人がはしゃぎ倒しているばかいるのだ。
 それはあまりにんも場違いなものだったように思えたのだ。
 だが、二人の潤は構わなかった。
「うんうん、いい感じ! でも悪い子なうるうには足りないものがある」
「なになに?」
「それはね、ただ目立って魅力を振りまいて、自分のために気を引くだけの動きなんだよ」
「だって、目立ちたいもん。もっともーっと、うるうのことを素敵だってみんなに思ってもらいたもん」
「わかる。でもね、やっぱり愛が足りないよ!」
「愛? 愛ならみんながうるうを愛してくれたらいいじゃない!」
「そうじゃないよ。愛って捧げられるばかりのものじゃあないんだよ。うるうからもあげなきゃ!」
 ね? と潤はウィンクを飛ばす。
 それは、悪心の写し身である潤すらも虜にするものであった。
 愛ありきだからできることだ。

 自分も愛する。
 他人も愛する。
 そうやって愛は増幅していく藻なのだ。
「ね、もうめろめろでしょ?」
 潤はまたウィンクしてみせる。魔法使い『サクラ』は、やめろと、手で潤の視線を遮った。
「ふふ、照れ屋さんだってうるうにもうめろめろなんだから」
 そう言って潤は、悪心の潤とくっついて、ねー? と姦しくも笑うのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ステラ・タタリクス
ケルーベイムはセラフィムの願いを叶えるモノ
そのケルーベイムに搭乗者がいるのが妙……?
ん~なんとなく、解らないではないですが
『ノイン』様に相当する何者かがこの世界にも?
まぁサクラ様の言う通り、今は横において
サクラ様のお気持ちに応えなければ

真っ赤なケルーベイム……中には私もいるのでしょう
完全なる悪性に染まった
兵器としては向こうの方が完成度が上

ですが
|悪性《赤》と|善性《青》の間を揺れ動くのが人の良心で
人の良心こそが善性も悪性をも乗りこなすというならば!

ケルーベイム!いきますよ!

いかに速くてもその直線的な動き……!
武装は把握しています
ケルーベイム、致命傷を避けて耐えて……その時を
捉えました、今!

【ヘレヴ】!

テンペスタース展開、カウンター気味に叩きつけて動きを一瞬止めたら
こちらもスラスター突撃で真正面から
間合いを詰めたらフェリーレに持ち替えて連打
装甲をぶち破りつつ完全に動きを止めたところへ
コール! プロメテウスバーン!!

プロメテウスバーンの撃ち合いならば
決して負けません!




戦いに際しては心に平和を



 何故、という言葉は謎に対して呟かれても答えは帰ってこないものだ。
 だからこそ、真実とは常に隠れてしまう。
 ただ一つあるはずのものさえ、いくつもあるように思えてならなくなってしまう。
 そういうものなのだと言われて納得できるほどステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は浅はかではなかった。
『ケルーベイム』。
『奉仕者』と呼ばれる機体。
 魔法使い『サクラ』は言った。
『ケルーベイム』に搭乗者がいることが妙である、と。

 何故なのか。
 なんとなくわからなくはない、とステラは思っていた。
 これまでのバハムートキャバリアにおける慣例から紐解けば、『ノイン』と呼ばれる存在に値する者がいてもおかしくはないと思えたのだ。
 だが、今はそれにかまっている場合ではない。
『バハムートウェポン』を扱うに値すると認められなければならないのだ。
 その試練とも言うべき存在が眼の前に立っている。
 赤い『ケルーベイム』。
 それは己の中にある悪性であり、悪心の写し身だった。
「完全なる悪性に染まった兵器」
「それが正しい姿でもある。悪心持つ者が正しくない理由なんてない」
 魔法使い『サクラ』は言う。
 兵器としての完成度としては、あちらが上だろうとステラは思っただろう。

 だが、彼女は知っている。
「|悪性《赤》と|善性《青》の間を揺れ動くのが人の良心で、人の良心こそが善性と悪性をも乗りこなすもののはずです」
「そうかな。それは結局ただの言葉だ。そんな言葉に翻弄されているばかりでは」
「『ケルーベイム』!」
 迫るは赤い『ケルーベイム』。
 踏み込みの速さは随一であった。
 人間が搭乗していることを考慮しない加速。
 リミッターなどないというかのような動きで迫る赤い『ケルーベイム』のレン撃にステラは防戦一方になっていた。

 見上げれば赤い『ケルーベイム』は凄まじい速度でこちらに迫っている。
 追い込むように周囲を直線的であるが、スペックでも上回ることを証明するようであった。
「例え、速くとも、その直線的な動き……!」
 武装は同じ。
 であるのならば、ステラは『ケルーベイム』のフレアスカートのような装甲を跳ね上げ赤い『ケルーベイム』の一撃を受け止めた。
 貫通する一撃が重ねた装甲を貫き、『ケルーベイム』の肩に突き刺さる。
 こじ開けるように装甲を引き剥がしながら赤い『ケルーベイム』の胸部砲口が展開する。
『プロメテウスバーン』。
 瞬時にステラは理解しただろう。

 致命打は避けた。
 だが、悠長に待ってくれることなどない。
 だからこそ、ステラは即座に判断していたのだ。
「祈るものとて、剣を取らないわけではないのです!」
 ユーベルコードの輝きがアイセンサー荷と持った瞬間、スラスターを噴射せて、宙に一回転するように身を翻す。
 砲口の照準が合わず、赤い『ケルーベイム』が見をよじろうとする。
 だが、胸部砲口である限り、射角は制限される。
 故にステラは空中に逃げたのだ。
 放たれるハルバード。だが、それは赤い『ケルーベイム』に弾かれる。
 けれど、ステラは一対のトンファーに持ち替えて連打を叩き込む。
 赤い『ケルーベイム』の拳がトンファーと激突して砕ける。
 装甲が砕け、そのさなかに互いの胸部砲口が赤熱する。

「コール! プロメテウスバーン!!」
 放たれる熱線。
 その一撃の苛烈さは言うまでもない。
 ユーベルコードの光に後押しされた熱線は、赤い『ケルーベイム』のそれを上回る出力で持って熱線を押し返し、赤き悪心を撃ち抜く。
「『戦いに際しては心に平和を』――」

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルマ・フィーリア
【POW】
(光無き瞳、どこか相棒に似た色合いの「悪心」
会話は成立しません。淡々と、機械的に。「オブリビオンを滅ぼせ、役割を果たせ」と。

…それは|鋼竜石《金属細胞》より生じたアルマ達が決して逃れる事の出来ぬ、存在の根底に刻み込まれた呪縛。
「|鋼竜殲騎《戦闘兵器》としての本能」

そしてその言葉に呼応するように『鋼武の衣』等を構成する『鋼竜石』が暴走、増殖してアルマを覆い尽くし取り込もうとします。

事態を理解できないまま、それでもアルマは『古びたロングソード』を手に、今の「アルマ」という妖精の人格の元となった「今は亡き騎士の誓い」を胸に、自身と乗騎の内に刻まれし呪縛へと抗い、これを抑え込もうとします)



「オブリビオンを滅ぼせ、役割を果たせ」
 それは眼の前の光なき瞳から放たれているようにアルマ・フィーリア(鋼竜石の妖精・f44795)には思えてならなかった。
 淡々と、機械的だった。
 何処までも冷たい言葉に感情は乗っていなかった。
 いや、それは唯一つの感情から発せられたものであったのかもしれない。
 ただひたすらに役割を全うすることだけを求められ続けていた。
 まるで呪縛そのものだった。
 存在の根底に刻み込まれたもの。
 本能というのならば、それはどこまでもアルマを戦闘兵器として扱うものであったかもしれない。

「何が……!」
 アルマは困惑する。
 魔法使い『サクラ』が課した試練。
 己の悪心と向き合うこと。
 それを強いられている。けれど、アルマは困惑ばかりが募るのだ。
『役割を果たせ』という言葉に呼応して、身にまとう薄衣が変容していく。
 鋼竜石によって構成された衣が暴走しているのだ。
「何、これ……! 知らない、ボク、こんなの……!」
 呪いだ、と『サクラ』は言った。
「何言っているの!? 呪い!?」
「そうだ。呪われし、鋼竜殲騎。アンタは、無自覚なまま呪われている。その呪いはアンタを飲み込むぞ」
「わからない、わからないってば!」
 身を覆い尽くさんとする鋼。
 もがきながら手を伸ばす。

 だが、『サクラ』の翡翠の瞳はアルマを見るばかりだった。
 まるで自分の領分ではない、と言っているようだった。
「っ……うううっ! ボク、は……!」
 伸ばした手が掴んだのは、古びたロングソードだった。
 彼女は知らないことだったのかもしれない。
 今の『アルマ』を構成するのは、元となったものがあればこそだった。
 今は亡き騎士の誓い。
 それが彼女の核でもあった。
 自らと乗騎に刻まれた呪縛。
「飲み込まれてしまえば、それまでだぞ」
 その言葉にアルマは目を見開く。

 そうだ、とも思った。
 これが己の悪心だというのならば、抗わねばならない。
 この誓いが己を己たらしめるものなのだ。
「抑えろ……ボク! この呪いがなんなのか、なんでこんなことになっているのか、知らないまま終わるのは嫌だ!」
 それは彼女の意志ではなかったかもしれない。
 けれど、それでも己の中にあるものなのだ。
 始まりが違っても、今は己の一部。
 なら、とアルマは古びたロングソードを抱えて、身を覆う鋼を振り払うのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

薄翅・静漓
同じ姿、同じ声――けれど、その内にあるのは
怒り、嫉妬、傲慢、恐れ……私の中の悪心
綺麗事ばかりを並べてきた私を、あなたは責める
わかっているわ

生きるとは、誰かを守るために誰かを傷つけること
未来には絶望もあり、善が悪を成すこともあれば、その逆もあると
それでも私は、希望はあると信じていたいの
相反する心、私とあなた、どちらが悪心なのかしら

互いに掌を重ね、魂に宿る灯を起こす
姿は消えても私の中の悪心は消えない
心を見つめ、律し、共に歩み続けましょう
悪と善、どちらが欠けても、私はきっと歪んでしまう



「私を見なかったことにしても、あなたがなにか変わるわけではないはずなのに」
 そう告げられた言葉に薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)は僅かに眉根を寄せたかもしれない。
 いや、わかっていたことだ、と彼女は思っただろう。
 これは試練だ。
 己の中にある悪心。
 それを写し身として現す試練。
 鏡合わせの写し身は確かに彼女の中にある悪心そのものであった。
 同じ姿。
 同じ声。
 そのうちにあるものだけが違う。
 怒りと嫉妬。傲慢と恐れ。
 それらがないまぜとなったもの『だけ』が収まった写し身の言葉に静漓は頷いた。

「なのに、あなたはしたり顔で言うのね。知りたい、と」
「わかっているわ」
 責めるような悪心の写し身の言葉に静漓は頷いた。
 ふわりと近づく写し身の指先が静漓の青い瞳を指差す。
「その瞳で何を見て、何を知ったつもりになっているの?」
「生きることを」
「それでどうなったというの? あなたの知りたいという欲望のために、どれだけ傷つければいいの? 護ると言いながら傷つけることしばかりではないの?」
「それ、は」
生きることは、誰かを守るために誰かを傷つけることだ。
 未来には絶望があって、善が悪を為すことだってあるし、その逆もある。
 知っている。
 けれど、静漓は思うのだ。

「そんなどうしようもないものなんて守ってどうなるというの?」
「それでも私は、希望があると信じていたいの」
 鏡合わせの姿に静漓は静かに言い放つ。
 相反する心を示しながら、一体どちらが悪心なのかわからない。
 互いに掌を取るようにして合わせ、その魂に宿る灯火を熾す。
「……それを信じた先に絶望があったとしても?」
「それでも、私は知りたい」
 なら、と悪心の静漓はゆっくりと彼女の迸るオーラに消えていく。

「……」
 溶けゆくようにして消えていった悪心を己が胸にあることを感じながら、自身を見つめ直す。
 これは律しなければならないものだ。
「共に歩み続けましょう」
 善心だけでは駄目だ。
 悪心だけでも駄目だ。
 なら、と静漓は己の胸に、魂に溶けゆく悪と善とを思う。
「どちらも己だと認めたか」
 魔法使い『サクラ』の声が聞こえた。
 振り返った静漓は静かに頷いた。
 己の中の悪を否定はできない。肯定するだけでも足りない。
 受け入れ、認めることで初めて心の中に良き心が生まれる。未だ揺れ動く心のゆらめきこそが、それなのだと静漓は知ったからこそ、確信に満ちた瞳でもって『サクラ』を見据える。
「そうでなければ、私はきっと歪んでしまう」
 だから、静漓は己の胸に手を当てる。
 その先にあるものを見つめて進むために――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『獣騎イフリィト』

POW   :    激怒・魂の連鎖
【掲げた手のひら 】から、戦場全体に「敵味方を識別する【百獣族の霊が宿った炎】」を放ち、ダメージと【呪い】の状態異常を与える。
SPD   :    憤怒・哀の殲滅
【両腕の炎霊 】をレベル個に分裂し、【無数に燃え広がる炎】の如き軌道で射出する。個々の威力は低下するが回避困難。
WIZ   :    積怒・零の憑依
命中した【片足 】の【霊が宿った炎】が【重石】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。

イラスト:Kikalist

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠焼傍ヶ原・カレイカです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「……認めよう。アンタたちは『バハムートウェポン』を扱うに足る、と。だが、『これ』は敵を傷つけるものではない」
 魔法使い『サクラ』は試練を乗り越えた猟兵達に告げる。
 塔の外に出た彼は猟兵たちを前にし、そして背にそびえる塔を振り返ることなく、天を指さした。
 瞬間、背後の塔が鳴動する。
「バハムートウェポン……『ライフ・アンプリファイア』。それは生命を増幅させる力。そして……」
 その言葉に被せるように、一騎の人造竜騎が猟兵達の前に落ちた。
 それはなにかに吹き飛ばされたようであり、その駆体の全身には無事な箇所などないほどに傷ついていた。

「見事なり、人間族の騎士『スルーズル』! バハムートウェポン『ライフ・アブソーバー』によって生命力を吸われ続けてなお、我が双角を片割れとするとは」
 猟兵たちが見たのは、一騎の人造竜騎を吹き飛ばした炎纏う黒き獣騎であった。
『獣騎イフリィト』。
 その背に背負うのは槍の穂先のようであり、また二重らせんのようにねじれた塔じみた武装であった。
 それこそが『バハムートウェポン』、『ライフ・アブソーバー』であった。
 周囲にあるだけで生命力を吸い上げる呪いの力。
 だが、魔法使い『サクラ』の瞳は虹色に輝いていた。

「……確かにアンタたちが俺を恨むのはわかる。だが、俺は」
 背後にした塔……『ライフ・アンプリファイア』そのものが鳴動し、猟兵達は『ライフ・アブソーバー』が己たちより生命力を吸い上げるのと同等の生命力が湧き上がるのを知るだろう。
 そして、ボロボロの人造竜騎を駆っていた『スルーズル』の身よりも同様に生命力が湧き上がるのを感じたはずだ。
「アンタを二人目の俺にするつもりは、ない」
 そう、呪いの力は恐るべきもの。
 振るわれるべきではないし、振るってはならない。
 だからこそ、『サクラ』は『ライフ・アンプリファイア』をもって『ライフ・アブソーバー』を無効化しようと、長きに渡る時間の中で作り上げていたのだろう。

「己生命惜しさか、魔法使い! 例え、バハムートウェポンが無効化されようとも! 我らが怨念、今ここで変えさせて頂く!」
 抱えた恩讐。
 その炎が今、拭き上げるように天を衝いた――。
イウェイン・レオデグランス
推測は概ね当たりだったが
この塔そのものが『ライフ・アンプリファイア』だったとはな
元より人里ではなく此処で決着をつける心算だったということか

生命を喰われて尚の武勇、流石は轟響の騎士殿
此処からは此方が引き継ごう
「――|狂飆《きょうひょう》、カドワラデル。|出陣する《でる》」
(と、カドワラデルに搭乗し)

聞いて居なかったのか、焔獄の百獣族
魔術師殿は第二の自分を産む気はないと仰せだ
むしろその武器が振るわれた結果は其方の方がよく存じているだろうに
其れを繰り返す事を否定するからこその魔術師殿の選択だ
それに……いや、これ以上は詮無き事か
(UCを起動し、火力を増幅した騎士形態で狂飆剣を振るい立ち回り)



「まさか、この塔そのものが『バハムートウェポン』、『ライフ・アンプリファイア』だったとはな」 
 イウェイン・レオデグランス(狂飆の騎士・f44938)は、現れた『獣騎イフリィト』と魔法使い『サクラ』が励起させた二つの『バハムートウェポン』が、その互いの効果を打ち消し合っている様を見やり頷く。
 なるほどな、と彼は思った。
 どの道、『サクラ』は、人里である城塞都市ではなく、己の住居であるここで誰にも塁が及ぶことなく事態を収束させようとしていたのだと知る。
 なら、もう少し協力的になってもよかったんじゃあないかと思わないでもない。
 だが、それもまた意地なのだろう。
 己が騎士であるという矜持を捨てられぬのと同じように、だ。

 そして、ボロボロの人造竜騎をイウェインは見やる。
 コクピットの部分は無事だ。
 どうやら『獣騎イフリィト』も無闇に生命を奪うつもりはなかったようだ。
 中の『スルーズル』はおそらく無事だろう。
 そして、『ライフ・アンプリファイア』によって彼の吸い上げられた生命力は増幅され一命はとりとめたことだろう。
 であれば、何の心配も気兼ねも要らない。
「生命喰らわれてなおの武勇、流石は『轟響』の騎士殿」
「うむ! しかしかたじけない! 俺の人造竜騎は、もはや戦えぬようだ! なんとも恥じ入るばかりであるが!!」
「元気いっぱいじゃねぇかよ」
 なんだよ、死にかけていたみたいなのに全然元気じゃん、とイウェインはかすかに笑った。
 死んだ、とは思っていなかったが。
「まあ、そりゃ幸いってことだ。なら、よろしいか、『轟響』の。ここからは此方が引き継ごう」
「ああ、任せて申し訳ない!」
「こういう時は、ありがたいって言うトコだぜ」
「貴公が我の相手をする、と?」
「ああ、――|狂飆《きょうひょう》、『カドワラデル』」
 イウェインの背後にて立つは、狂飆の獣竜カドワラデル。
 グリオフォンキャバリアである駆体は人型。
 そして、イウェインが携えるは、鍵たる剣。
 宣誓は此処に相成った。

「|出陣する《でる》」
 瞬間、飛翔形態へと変貌した『カデワラデル』が飛ぶ。
 凄まじい速度で飛翔した駆体が、『獣騎イフリィト』に迫る。
 だが、その眼前に奔るのは無数の炎。
 視界を埋め尽くさんばかりの数で放たれた炎は、一瞬で『カドワラデル』を取り囲む。
「退いてもらおうか、狂飆の騎士! 我が狙いは、汝らではない。あの魔法使いだ!」
「聞いていなかったか、炎獄の百獣族。魔術師殿は、第二の己を産む気はないと仰せだ」
「黙れ! 我らが怨念は、我らがはらさねばならぬ。一方的に奪い、一方的また我の復讐の機会すら奪うつもりか!」
「そうかもな。だが、その武器が振るわれた結果、どうなるか知っているだろう! 其方がよく存じているだろうに!」
 そう、振るわれれば、生命を吸い上げる呪いがばらまかれる。
 
 そうなった時、いの一番に失われるのは、弱き者の生命だ。
「魔術師殿は、それを悔いておられる。そして、それを繰り返す事を否定するからこその選択だ! それに……いや」
 言うまい。
 詮無きことだ。
 飛翔形態から一気に炎を突っ切って騎士形態へと変形した『カドワラデル』が『獣騎イフリィト』へと迫る。
「繰り返さない、と……? あの卑劣非道なる魔法使いが、そういったのか?」
「ああ、だからこそ、其方をここで、止める!」
 イウェインは『カドワラデル』の踏み込み、そして、猛き風の如き刃、狂飆剣の一撃を『獣騎イフリィト』へと叩き込むのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杓原・潤
うん、大丈夫。
使ったのを後悔するようなものすごい武器なんて必要ないよ。
過去の過ちを反省して暮らしている皆の命……うるうが守ってあげる、絶対に!

恨む気持ちは分かる。
反省したって許せないのも分かる。
でも立場を変えただけの同じ事を、今さら繰り返させる訳にもいかないの。
うるうは魔法使いだから!

行くよテルビューチェ!
重石になって抜けなくなるなら、あえてそれを食らってあげる。
水になった装甲は絶対壊れないし、足に纏ってる炎だって受け止められるはず。
これだけ近くに来てくれたなら、テルビューチェの怪力を最大限活かせるよねぇ?
この足、もう抜かせないよ。
ここからは我慢比べ。
正々堂々、真正面からの殴り合いだ!



「……やれるか」
 その言葉は魔法使い『サクラ』から発せられた言葉だった。
「うん、大丈夫」
 杓原・潤(鮫海の魔法使い・f28476)は、その言葉にためらうことなく即座に答えて見せた。
 なぜなら、彼女は。
「使ったのを後悔するようなものすごい武器なんて必要ないよ。過去の過ちを反省して暮らしてるみんなの生命……うるうが守ってあげる、絶対に!」
「まさか、本当に……悔いているのか? あの卑劣非道なる魔法使いが?」
『獣騎イフリィト』は猟兵の言葉に愕然としているようだった。
 にわかに信じがたい。
 だが、猟兵達の言葉は真であった。

 もしも、バハムートウェポン『ライフ・アブソーバー』を無効化するのならば、その装備自体を破壊する……それこそ、目標を超遠距離で撃ち抜くための砲でもよかったのだ。
 生命力吸収が及ばぬ超遠距離からならば、それも叶う。
 だが、それをしなかったことが『サクラ』の悔恨を示していた。
『ライフ・アンプリファイア』は、生命力を増幅させる力。
 繰り返してはならない。
 過去の戦いで百獣族の生命を吸い尽くしたバハムートウェポン。
 それを仮に使われたとて、『ライフ・アンプリファイア』があれば悲劇は二度起こることはない。
「だが、それでも我らが滅びたのは……、貴様の、貴様のせいであろうが!!」
「うん……恨む気持ちはわかるよ。反省したって許せないのもわかる。でも、立場を変えただけの同じことを、今更繰り返させるわけにもいかないの」
 だから、と潤の瞳がユーベルコードに輝く。

 出現したキャバリア『テルビューチェ』が鮫を模した頭部、その顎を開き、力の奔流を解き放つように魔法で圧縮された水へと変貌していく。
「守ってあげる、絶対に!」
 命を守る。
 それが潤の戦いだった。
「我らの復讐は!!」
 放たれる蹴撃。
『獣騎イフリィト』の蹴撃の一撃は『テルビューチェ』の駆体を貫いた。
 重石のように突き刺さり、ぬけなくなる『獣騎イフリィト』の脚部。
 だが、『テルビューチェ』の駆体は水になっている。
 炎が消え続ける。
 だが、それでも『獣騎イフリィト』の炎は水を蒸発させ、さらに濛々と立ち込める水蒸気を放ち続けていた。
「この足、もう抜かせないよ」
「ならば!」
 膨れ上がる熱量。

 猛烈な炎と、水。
 それがせめぎ合うようにして互いを消そうと吹き荒れるrのだ。
「ここからは我慢比べ!」
「負ける謂れなど……ない!」
「ううん、負けるよ。正々堂々、真正面からの殴り合いなら、『テルビューチェ』!!」
 振るう一撃が炎と激突する。
「ぬ、うう……! 何故、我らの復讐、その成就を邪魔する! 我らの復讐に正当あり! それがわからぬわけではなかろう!」
「でもね、あの人だって、二度も悲劇を繰り返したくないって……そういったの! だから、うるうは守る」
「それが理由か!」
「それだけじゃない! だって!」
 激突する一撃と一撃。
 水と炎が周囲に吹き荒れる中、潤は高らかに宣言する。
「だって、うるうは魔法使いだから! みんなを守る良い魔法使いになるって決めたんだから、だから!」
 己は守るために戦うのだとユーベルコードの煌めく瞳でもって『獣騎イフリィト』の復讐の念に塗れた瞳を見据えるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
正当な理由があってやり返す。
それ自体は否定できねーし、もとよりそのつもりも無え。
もしも自分も同じ経験をしていたなら、おれはあっち側に立って戦ったかもしれねえ。

……だけど、ひとつだけ言えることがある。
かつてアンタらとサクラがぶつかり合ったのは、そして悲劇が齎されたのは、誰にもどうにもできないことだった。

その悲劇との向き合い方は、何も命で贖うだけじゃねえはずだ。
きっと辛く苦しい道だろう。「いっそあの時死んでいれば」ってこの先何度も悔やむんだろう。
……でも。あの人が自分の生命をそう使うと。背負うと決めたんなら。
それを邪魔する権利は、誰にも無え!

(恐怖に震えながら、獅子の背で襲い来る炎弾を迎え撃つ)



 百獣族の怒りには正当性がある。
 殺された恨み。
 虐殺された怒り。
 誰一人として生き残る事ができなかった悲しみ。
 幼子も、年老いたものも、男も女も。
 全て相差された憎しみ。
 彼らが復讐を抱くのは当然だ。
 権利だと言っても良い。
 鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は、そんな怒りや憎悪と言った感情が炎のように立ち上る『獣騎イフリィト』の姿を認め、否定することはできないと知っただろう。
 いや、元よりそのつもりもない。
 否定なんてするわけがない。
「正当な理由があるんだもんな……そうだよな。おれだって……」
 もしも、と考える。
 自分が百獣族と同じ立場だったのならば、きっと己は百獣族と同じように復讐に駆られて生きていたことだろう。
 そうかもしれない、と思ったのは己の心に恐怖があったからだ。

 感情に身を任せ、そのままに力を振るうこと。
 義憤に駆られることが悪いと言っているのではない。止まれなくなることに恐れを嵐は抱くのだ。
「だから」
 嵐は『獣騎イフリィト』の前に立つ。 
 恐怖に震えた足を隠すこともできなかった。
「勇気なくば、我の前に立つな、人間。汝はこの世界の者ではないな? であれば、我が汝と相対する理由はない。恐れを抱くのならば早々に立ち去るが良い。我は汝の背中を撃たぬ」
「……いいや。おれはアンタに一つだけ言いたいことがある」
「ほう。申してみよ」
『獣騎イフリィト』は、静かに炎を立ち上らせながら嵐に向き直った。
 猟兵達の言葉に感化されているのか、それとも魔法使い『サクラ』が悔恨と共に生きているという言葉を信じたのか。
 いずれにせよ、その瞳にあるのは復讐のみではなかったように嵐には思えた。

「かつてアンタらと『サクラ』がぶつかりあったのは、そして悲劇がもたらされたのは、誰にもどうにもできなかったことだった」
「いいや。人間族が己の未熟さを知っていたのならば、元より起こらぬ悲劇だった。かつての人間族は権利を欲していた。獣騎に変形できぬ未熟さを棚に上げてな」
「……そうかもしれない。けれど!」
「ああ、悲劇は起こるべくして起こったのだ。ならば、その贖いは生命でしか償えぬ!」
「いいや、違う! 何も生命だけじゃないはずだ。『サクラ』はこれから辛く苦しい道を歩むだろう!『いっそあの時死んでいれば』ってこの先何度も悔やむだろう! 未だってそうだ! これまでだってそうだったはずだ!」
「だから何だというのだ! 悔恨したとて、懺悔したとて、我が同胞が戻るか!」
 怒りが炎となって噴出する。

 それは無数に燃え広がる炎の弾丸。
 雨のように注ぐ炎を嵐は、焔纏う黄金のライオンを召喚し、迎え撃つ。
「戻らない! だけど、あの人は、自分の生命を悔恨と懺悔、そして二度と悲劇が起こらぬように使うと決めたんだ。それを邪魔する権利は、誰にも無え! アンタたちにだってだ! だから!」
 嵐は黄金の獅子と共に戦場を走る。
「おれは、あの人のこれからを信じたい! アンタだって、そう思ってるから、正々堂々おれたちと戦ってくれているんだろう! これが、聖なる決闘だっていうんなら!」
「……ッ!」
 そう、『獣騎イフリィト』は、正面から戦っている。
 それが、答えだと嵐は吠え、それに応えるように黄金のライオンは雄叫びを上げ、焔をかき消すのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルマ・フィーリア
……はぁ、はぁ……色々と、まだ頭の中が整理できてないけど…
やるべきことは変わらないよね……

余計なお世話なのかもしれないけれど、妖精アルマ・フィーリアとその人造竜騎ドラグリヴァーレが、その決闘を、代わりに受けて立つよ……!!

元より、できる事は限られてる、だから……真正面から受けて立つよ!
(……この力に頼るのは怖い、けれど……!)
相手の攻撃を装甲で受け止め、相手の足が重石と化したところを覆うようにして鋼竜石の装甲を高速で増殖再生させて動きを抑え込むよ…!
そしてそのまま……被弾部以外の装甲を増殖展開ッ!!全ドラグヘッドを攻撃態勢に!

至近距離からの、【ドラグブラスター】の一斉砲火を浴びせるよ!!



 荒い吐息。
 額に浮かぶ玉のような汗。
 アルマ・フィーリア(鋼竜石の妖精・f44795)は、自らが体験した事態に混乱していた。
 頭の中で事態を整理しようとしても、うまくいかない。
 けれど、やるべきことはただ一つだ。
 そう、『獣騎イフリィト』を止める。
「余計なお世話かもしれないけれど」
 そう、これは結局余計なお世話だ。
 かつての魔法使いと百獣族。
 その両者の間に自分が入り込む余地などないのかもしれない。けれど、介在すると決めたのだから、アルマに迷いはなかった。

 燃え盛るようにして立ち上る炎を見る。
『獣騎イフリィト』は猟兵達の言葉によって感化されていた。
 魔法使い『サクラ』が悔いて、心を改めているという事実を信じようとしていた。アルマもまた知っている。
 彼がどんな思いで、嘗ての戦いから生きてきたのか。
 寿命で死ぬことがない。
 魔法使いとは無限の寿命を持ち得ている。
 故に悔恨と共に沈むことすら許されない。歩み続けなければならないのだ。
「心を改めたというのならば、我は……!」
「その行き場のない感情、この妖精族が一人、アルマ・フィーリアと、その人造竜騎『ドラグリヴァーレ』が、決闘を、代わりに受けて立つよ……!!」
「……そうか。では、受けていただこうか! 我が炎を前にして汝が受け止められるのならば!」

 膨れ上がる炎。
 すでに『バハムートウェポン』は無効化されている。 
 であれば、ここからは自力が物を言う。
「いざ!」
 炎が爆ぜて、『獣騎イフリィト』の駆体が走る。
 それは矢のように鋭く、飛来する蹴撃の一撃。
 黒き楔のような一撃は『ドラグリヴァーレ』の装甲を容易く撃ち抜くようであったことだろう。
 躱す余裕などあるわけがない。
 アルマにできることは限られている。だから、真正面から受け止めたのだ。
 無数の竜の首。
 その重ねた首の装甲すら『獣騎イフリィト』の蹴撃はうがっていたのだ。
 駆体の芯を揺らす衝撃にアルマは呻く。
「ぐっ……!」
「力を抑えて、この『獣騎イフリィト』に勝てると思ったか!! 恐れよ、その力。されど、恐れるな己が意思を!」
 その言葉にアルマの瞳がユーベルコードに輝く。

 力に頼るのは恐い。
 けれど、アルマは受け止めきった蹴撃が重石のよう駆体に食い込む瞬間、覆うようにして鋼竜石の装甲を増殖させ、再生させ、抑え込もうとする。 
 だが、その装甲すら引き剥がす『獣騎イフリィト』の炎。
「ぐっ、くぅ……! でも、竜首、展開! 全ドラグヘッド!!」
 装甲が弾け、その内側から現れたドラグヘッドの顎が開かれた。
「いっけぇ! ドラグブラスター!」
 それは至近距離からの一斉砲火。
 己もまた巻き込まれる距離。
 だが、アルマは構わなかった。恐れない。例え、己の心に己が力への恐怖があるのだとしても、欠片とて残るのだとしても、それでもアルマは己の意思で戦うと決めたのだ。
 それを証明するように放たれた破壊光線が『獣騎イフリィト』の駆体を打ち据えるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トラスト・レッドライダー
繋いできたサクラさんの縁が、俺達を此処に至らせた。
それは、貴方を退ける為でなく、受け止める為だ!『変身!!』

『戦神の武芸』亡国の主と融合し戦神と成り技能強化
刺突ケーブルを展開し百獣族の霊宿る炎を自らに吸収【エネルギー充填】
呪いを己が理想への【情熱】と【呪詛耐性】【狂気耐性】で耐え
獣騎イフリィトへ肉薄、拳を振るう。拳を振るう。

事此処に至ってライフ・アブソーバーを振るう意味を、復讐が齎す悪果を、
貴方は分かる筈だ。それでも、理由が分かってなお止まれない!
感情は、心は、合理で止まらない!!今更止まれない!!!

【功夫】で槍をいなし、拳を受け止め、連打を撃ち込む。
炎を受け止め、焼け付く躯を【継戦能力】で駆動させ、拳を振るい返す。

ならば正義の怒りを燃やせ、獣騎イフリィト!その苦悩、怒り、悲しみを!
力に変えて振え、言葉に変えて告げろ!!俺達はその全てを受け止めて、前へ進む!!!

焦熱する空気を吸い込み【気功法】力へと変え【継戦能力限界突破】
【怪力】で拳を握り込み、全力の正拳を獣騎イフリィトへ拳を叩き込む!



 破壊光線の爆発の中から『獣騎イフリィト』は飛び出していた。
 そして、掲げた腕が天を見る。
 否、衝く。
 それはかつて虐殺された同胞たちの怨念めいた炎であった。
 天を焦がすかのような勢いで噴出する炎を『獣騎イフリィト』は操っていた。
 握りしめた拳が開かれた瞬間、天に集まった炎は一瞬で猟兵たちに襲いかかる。
 炎の雨。炎の嵐。
 そう形容するのが正しいほどの炎にトラスト・レッドライダー(レプリカントのデスブリンガー・f43307)の視界は赤く染まりきっていた。
「我を、我らが同胞の怨念を、退けられるか!」
「いいや、違う!」
「ならば、なんとする!」
 トラストは『獣騎イフリィト』に向き直り、告げる。
 過去より繫いできた魔法使い『サクラ』の縁が、己達猟兵をここに至らせた。
 それは、オブリビオンである『獣騎イフリィト』を退けるためではない。
「受け止める為だ!『変身』!!」
 トラストの瞳がユーベルコードに輝く。

 身に融合するジャイアントキャバリア。
 トラストを獣騎と同じ体高たる戦神へと変貌させ、迫る炎を己に取り込むのだ。
 流れ込む怨念が、彼の胸を満たしていく。
 いや、臓腑を焼いていく。
 受け止めきれるものではない。だが、トラストはその胸に理想を抱く。
 伽藍洞の、空虚な理想かもしれない。
 絵空事はどこまでいっても、絵でしかないのだ。
 絵に描いた餅以下の理想など、あったところで現実に何も影響を及ぼさない。
 だが、トラストは荒れ狂う怨念のエネルギーを我が身に九州市、刺突ケーブルを走らせる。それを『獣騎イフリィト』は拳で弾き、迫る。

「我らが同胞の怨念、容易く喰らえるものか!」
「だろうな。だが」
 戦いに酔っても。
 勝利に酔っても。
 満たされない理想の器がある。
 求める平和に届かぬ渇望が、器に巨大な虚として空いているのだから。
 ならば、怨念飲み込む器に底はない。
 穴が空いているばかりではないのだ。そもそも、底が抜けている。

 そして、それをトラストは己が情熱に変える。
 見果てぬ夢のような平和の実現のために、振るわれた拳とトラストの拳が激突する。
 互いに砕ける拳。
「事、ここに至って『ライフ・アブソーバー』を振るう意味を、復讐が齎す結果を、貴方はわかるはずだ。それでも、理由が分かってもなお止まれない!」
「そのとおりだ。我は止まれない。たとえ、魔法使いが卑劣非道を悔いたのだとしても、それでも我が同胞の生命は戻らない! それを!」
「それが、感情だ! 心だ! 合理では止まらないもののことを言う!! だから、いまさら止まれないのだ!!」
 放たれた一撃をいなす。
 砕けた拳で振るわれる一撃を受け止め、さらに炎をも飲み込んでいく。
 焼け付くように駆体が軋む。

 だが、それでもトラストは止まらなかった。
「この怒りは!!」
「それを正義の炎として灯せ、『獣騎イフリィト』! その苦悩、怒り、悲しみを!」
 焦熱する熱がトラストの肺を満たしていく。
 内功によって熱エネルギーが循環していく。
 限界を超える。
 駆体はとっくにひび割れている。
 いつ砕けてもおかしくない。
 けれど、トラストは踏み込んだ。

 これは、戦神の武芸(リスキル・ウォー)である。だが、振るうのは、己の理想である。
「力に変えて揮え、言葉に変えて告げろ!! 俺達はその全てを受け止めて、前に進む!!!」
 振るう拳が『獣騎イフリィト』を捉えた。
 ふるった拳の熱さを彼は知っただろう。トラストは拳の砕ける痛みすら忘れて、ただひたすらに過去を抱えて前に進むために振り抜くのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ステラ・タタリクス
バハムートウェポン『ライフ・アブソーバー』
嘗ての悲劇の源にして此度の戦いの切欠
それを相殺するとは、流石でございますサクラ様

であるなら、後に残るは恩讐のみ
真正面から叩き伏せましょう!

……っておや?
あの二重らせん構造どこかで……
サイハ世界の『天空の螺旋階段』?
そう言えば殲術再生弾も生命力を奪っていましたね?
ライフ・アブソーバーもそのような使い方がある?
超人皇帝の無敵機械は自身の生命力に変換していましたし
本当はこんな戦いに使いたかったわけではないのでは?

いえ、戦いを前に失礼いたしました
獣騎イフリィト様?
いえ、お名前をお伺いしても?
ケルーベイムとその操縦者、メイドのステラ、参ります!!

そのバハムートウェポンが貴方様の強さではないでしょう?
ならば油断するべきではなく
私は全力でいくのみ
ケルーベイム、【カナフ】!
動きを封じる炎とて当たらなければどうということはありません!
この速度で、振り切る!
そこです!
フレアソードに炎を纏わせて一撃!

ケルーベイム……貴方が仕えていた主機は
まだこの世界に在るのですか?



 バハムートウェポン。
 それは呪いの武器。
『ライフ・アブソーバー』は周囲の生命力を吸い上げ続ける呪いに満ちていた。
 嘗ての悲劇の源。
 そして、今回の事件の切欠である。
 今は槍のように『獣騎イフリィト』が背に負っている。
「『ライフ・アブソーバー』は『ライフ・アンプリファイア』が抑えている。無効化されている。アンタたちは」
 魔法使い『サクラ』の言葉にステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は頷いた。
「流石でございます『サクラ』様」
「世辞はいらん」
「そうでございますか。であれば、後に残るは恩讐のみ。真正面から叩き伏せましょう!」

 ステラは『ライフ・アブソーバー』を見やる。
『獣騎イフリィト』の背に負った槍のようなバハムートウェポン。その二重らせん構造のような形になったバハムートウェポンにステラは見覚えがった。
 それは寸借は違えど、印象的な構造物であったのだ。
『天空の螺旋階段』。
 他世界でみた兵器。
 あれもまた生命力を凝縮した弾頭を放つ力を持っていた。
 そして、生命力を吸い上げる呪い。
 それは超人皇帝『パッセンジャー』の超機械も持ち得た能力である。
「……これは一体、どのようなつながりが……本当はこんな戦いに使いたかったわけではないのでは?」
「我と我が同胞たちの怨念を見よ!!」 
 膨れ上がる炎にステラは『ケルーベイム』のコクピットの中で向き直る。。

「戦いを前に失礼したしました。『獣騎イフリィト』様。いえ、お名前を伺っても?」
「今はただの『獣騎イフリィト』。何故ならば、今の我はイフリィト族の全てを負う者であるからだ」
「なるほど。一族を代表して、と。であれば、『ケルーベイム』とその操縦者、明度のステラ……参ります!!」
 瞬間、爆ぜた炎が周囲に満ちる。
『獣騎イフリィト』は、一瞬で駆体の拳と蹴撃でもって『ケルーベイム』を打ち据える。
 速い、とステラは思っただろう。
 油断していたわけではない。
 だが、それでも『獣騎イフリィト』の速度は爆発的な炎を受けて尋常ならざる速度を得ているのだ。

 そして、その加速によって得られた拳と蹴撃の鋭さと重さは、容易く機体の装甲を砕く。
 元より『ケルーベイム』は先んじた己の写し身の戦いによって装甲を喪っている。
 まともに受ければ、それだけで致命傷になりかねない。
「私も全力でいくのみ!『ケルーベイム』!!」
 ユーベルコードにアイセンサーが煌めく。
 砕けた装甲を廃し、『ケルーベイム』が大地を蹴る。
 超加速は、一気に機体を極超音速へと到達し、炎を切り裂きながら『獣騎イフリィト』の拳の一撃を躱す。
「躱すか、我が一撃! だが!」
 振るわれる蹴撃。
 それが本命の一撃であることは言うまでもなかった。
 確かに『ケルーベイム』は速い。

 しかし、その速さ故に回し蹴りのように放たれた蹴撃の軌跡は躱しようがない。
 加速するがゆえに大きな旋回でしか機動を変えられないのだ。
 振るわれた蹴撃を受ければ動きは止められる。そして、装甲を廃した『ケルーベイム』にそれを防ぐ手立てはない。
 勝利は間違いようがないものだった。
 だが!
「風の翼よ、在れ……カナフ!」
 瞬間、『ケルーベイム』の加速の機動が直角に折れ曲がるようにして空へと飛んだの。
 見上げる『獣騎イフリィト』の瞳。
 そして、広がる風の翼。
 空中で更に軌道を変える機体。
 それは急転直下。
 手にしたフレアソードの炎が膨れ上がり、『獣騎イフリィト』の胴部を縦一閃を刻み込む。

「『ケルーベイム』……貴方が使えていた主機は、まだ在るのですか?」
 機体は応える術を持たない。
 だが、ステラは広がる翼が炎を拭き散らすのを見ただろう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

薄翅・静漓
ただひたすらに……非道だった、と
彼はそう言っていたわ
理由なき戦いだったことを悔いて、罰を受けると
だからこそ……私は彼を守りたいの

薄翅・静漓と『セラフィム・クレセント』
この名において、あなたに――聖なる決闘を申し込むわ
互いに信念があって、きっとどちらも間違ってはいない
けれど、あなたが『ライフ・アブソーバー』を使うというのなら……
私たちは命を懸けてでも、あなたを止めなければならない

変形した『クレセント』で呪いを断ち切り
心に灯るオーラを、光の矢へと変えて――放つわ



 炎の一閃が『獣騎イフリィト』の胴部に縦一閃の一撃を叩き込んでいた。
 刻まれた傷跡から炎が噴出する。
 それは怨念の炎であった。
 かつて滅ぼされたイフリィト族の怨念。総意であると言っても構わないだろう。
 炎の苛烈さは、その強さを示していた。
「ただひたすらに……非道だった、と彼はそう言っていたわ」
 薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)は、その炎の凄まじさが、かつて魔法使い『サクラ』の行った卑劣非道によるものであることを知る。
 理由なき戦いだったこと。
 それを悔恨と共に過ごした年月がいかなるものであったのかは、創造するしかない。

「罰を受ける、と」
「であれあばこそ、であろう。我らが同胞は戻らない。生命は決して取り戻すことはできない。回帰しないのだ。だからこそ、生命に贖えるのは、生命だけなのだ! 心改たこと、それ自体は……」
 認めるところであるのだろう。
 だからこそ、この戦いはどこまで行っても聖なる決闘なのだ。
 わかっている。
 故に、退けないのだ。
「だからこそ……私は彼を守りたいの」
「ならば、決闘である。是非は、勝利者こそが得られるもの!」
 膨れがる炎。

 静漓の背後に現れた白銀のキャバリア――『セラフィム・クレセント』のアイセンサーが煌めく。
「……人造竜騎……ではない、だと? それは」
「サイキックキャバリア『セラフィム・クレセント』。この名において、あなたに――聖なる決闘を申し込むわ」
 静漓は思う。
 互いに信念がある。
 どちらも間違ってはいない。
 どちらも正しい。
 だからこそ、激突してしまうものなのだ。
「そのバハムートウェポンは呪いを振りまくもの。生命を吸い上げ続ける呪い。それを持つあなたを……私達は、生命を懸けてでも、止めねばならない」

 静漓の瞳がユーベルコードに輝くのと同時に、灯されるは熾火。
「思い、描く」
 伏し目の静漓は思う。
 かたち(カタチ)を思う。
 それは己が思い描く呪い断ち切る熾火の形。
『セラフィム・クレセント』の肩部と脚部の装甲が展開され、駆体の装甲に走る青いラインが明滅する。
 人の善性を信じる。
 それは静漓の思いであった。
 故に、呪いは断ち切らねばならない。

 形を変えた肩部と脚部。
 肩部は腕部が変じた弓状のパーツにあわさり、長大な弓へと変貌する。
 そして、脚部は避けるようにして四脚へと変貌し、大地に突き立てられる。
「心に灯した熾火を」
 放つ。
 光が集約され、矢の形となった一射が放たれる。そのエネルギーは膨大であり、流星のように『獣騎イフリィト』の胸へと走り、穿つのだ。
 排出された光が光の翼のように炎を拭き取らす。
「あなたに届ける。呪いは呪いのままにしない。これが、私のあなたヘ贈る潔斎の導――」

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリアル・デハヴィランド
●POW

なるほど、塔そのものがバハムートウェポンであったとは…
スルーズル卿、ご無事とは言い難いが健在で何よりでした

生命力を増幅させる賦活力、その逆に生命力を吸い上げる一対のバハムートウェポン…使い手次第で聖槍にも魔槍にもなるとは…度し難い
だが、私は試練で|魔法使い《サクラ》へ希望を示した
その誓いを裏切らず…獣騎イフリィトよ
スルーズル卿に代わり貴殿へ聖なる決闘を申し込む

右に持つはプルガトリウム
左に持つはライフ・アンプリファイア
ライフ・アンプリファイアを盾として百獣族の呪霊が宿った炎を祓い…囚われし魂を炎から解き放とう
獣騎イフリィトよ…貴殿の怒りと憎しみは『浄罪の聖槍』により晴らしてみせよう



 鳴動する塔。
 それは魔法使い『サクラ』の居住であり、同時にバハムートウェポンであったのだ。
 その名も『ライフ・アンプリファイア』。
 生命力を吸い上げる『ライフ・アブソーバー』に対を成すバハムートウェポンであり、生命力を増幅させる兵装である。
 そして、ボロボロの駆体をさらす人造竜騎をエリアル・デハヴィランド(半妖精の円卓の騎士・f44842)は見た。
 そこに居たのは『スルーズル』と呼ばれる騎士だった。
 ここまで『獣騎イフリィト』が城塞都市に迫っていなかったのは、彼が決死の覚悟で足止めしていたからだろう。

 その蛮勇は一歩間違えば、身を滅ぼすものであった。
 しかし、それでも。
「『スルーズル』卿、ご無事とは言い難いが健在で何より」
「うむ! お恥ずかしい限りだが! 後は任せてよろしいか、デハヴィランド卿!!」
「おまかせを。卿の戦いぶりを見せられて如何に退けようか」
 エリアルは胸穿たれた『獣騎イフリィト』を見やる。
 その傷口から溢れるは炎。
 怨念の炎だ、とエリアルは知っただろう。

 その背に負うのは『ライフ・アブソーバー』である。 
 槍のようにねじれた二重らせん構造を持つ兵装。
 生命力を吸い上げ、周囲を呪いに満たす武装。だが、使い方次第であれば、聖槍にもなり得るものだっただろう。
 だが、それが憎しみと共に振るわれるのならば、その呪いは威力を発揮するのだ。
 度し難い。
 けれど、エリアルはもう誓っているのだ。
「エリアル・デハヴィランド、貴殿との決闘を申し込む者である! 私は、|魔法使い《サクラ》に希望を示した騎士! 貴殿が!」
「ああ、そのとおりだ。心改めたとは言え、我が同胞たちの怨念は立ち消えぬ。であれば」
 やはり決闘で全てを決するしかないのだ。。

 誓いは裏切らない。
「『獣騎イフリィト』、『スルーズル』卿、『サクラ』殿に代わり、私が槍となろう!」
 手には二槍。
 噴出する炎が『獣騎イフリィト』より放たれる。
 凄まじい炎である。
 追い込まれてなお、この熱量であることは、『獣騎イフリィト』の抱える怨念の強さを示していた。
 だからこそ、エリアルは賦活された生命力を盾として突っ切るようにして走る。
 大地を蹴って、雄々しく咆哮する。
 それが架空の獣を示すただ一つ。

 怨念に囚われた魂は、その炎から解き放たねばならない。
「『獣騎イフリィト』よ……貴殿の怒りと憎しみ、そして一族の哀愁、その全てを!」
 煌めくユーベルコードの輝きが、『レナード』のアイセンサーに灯る。
 振るうは肉体を傷つける刃ではない。
 穿つは肉体ではない。
 浄罪の炎が聖槍への一点に集約される。
「この、浄罪の聖槍(プルガトリウム)にて晴らしてみせよう!」
 交差する拳と槍。
 火花を散らすも、その火花すら浄化していく炎があった。
 負の感情。
 怨念。
 憎悪と憤怒と哀愁とに満ちた感情、囚われた魂は行き場を失うものだ。
 だからこそ、導かねばならない。

 この浄罪の炎放つ槍の切っ先が示す先にこそ、潔斎行路はあるのだと。
 奪われた者たちが塗れた負の激情を取り払い、『レナード』は黄金の輝きと共に『獣騎イフリィト』の崩れ行く体を見やる。
「……見事」
「否、見事であったのは、貴殿らだ。浄罪の聖槍とて、その意思なき者を導くことなどできはしない。これは、貴殿らの選んだ道行き」
 エリアルはそう告げ、崩れ落ちた『獣騎イフリィト』と、その一族の無念とが光に溶けていくのを見送るのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2025年06月23日


挿絵イラスト