喜びと財布の天秤
●誕生日
プレゼントと言うものに必要なものは、心と少しばかりのサプライズ。
であると言うのなら。
やはり、こっそりひっそりと事を運ぶべきものであったのだ。
けれど、今年はどうやら様子が違ったようだった。
少なくとも、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)たちにとっては、寝耳に水状態であった。
今年もやってきた2月22日。
『陰海月』の誕生日である。
今年もどうしたものかと爺婆は頭を悩ませる。
一昨年はお菓子セット。
去年は工具セット。
じゃあ、今年もなにかのセットであろうというところまでは絞りきれていた。
「ぷきゅ!」
しかし、今年は違ったのだ。
彼からの提案というか、おねだりというか、リクエストというか。
示されたのは一冊の絵本であった。
「これが?」
どういう意図なのか測りかねて、そう尋ねる。
「きゅっ!」
開かれる絵本の中身。
当然、そこには色鮮やかな色彩でもって描かれた絵が広がっている。
どういうことなのだろうと詳しく話を聞く所によると、どうやら、その絵本作家の原画展があるのだという。
いいではないか、と思う。
行ってくればいいと思うのだが、どうやら事情があるようだった。
「ぷきゅ~……」
「なになに? 誕生日当日に行きたいと。けれど、チケット制である、と。ふむ」
そこまではいい。
どうやらチケットを購入するためには、支払い方法に制限があるらしい。
そう、クレジットカードである。
世はキャッシュレス時代。
現金を持ち歩くことのほうが少なくなってきているのだ。しかも、前払い制である。
となれば、キャッシュレスの手段を持たない『陰海月』からすればどうしようもない。
「きゅきゅきゅ!」
「そう言われては嫌とは言えませんよ。わかりました。任せてください」
悪霊である身。
しかし、クレジットカードなどこう、あれやそれやしてなんとかなるものである。
そういうところはうまいことやれているのである。
「これでいいんですか?」
「きゅっ!」
完璧、とパソコンの画面を指差す『陰海月』。
楽しみだな、という雰囲気が伝わってくる。当日になれば、もっと楽しいというオーラが身より発せられるだろう。
しかし、これだけでいいのだろうか?
チケット代も予定していたプレゼントの予算からすれば、小さなものだ。
正直に言えば余っていると言っていい。
しかし、その心配はない。
彼らが原画展に行けば、当然見ることになるのは原画ばかりではない。
そう、この手の催しに必ずあるのが物販コーナーである。
『陰海月』たちが向かった原画展も、その例に漏れず物販コーナーが設けられていた。
ポストカードやら、ぬいぐるみやら、何やら。
「……欲しいものはありますか?」
「きゅっ!」
「クエッ!」
これ! と『霹靂』と共に指差すのは、ぬいぐるみ。
ほんわか貝のぬいぐるみに、ほんわかナマズぬいぐるみ。
「ほんわか?」
感覚が違うものだな、と思いながらも財布の紐はゆるゆるである。
「ぷきゅ」
そして、もう一つこれ、と触腕が示したのは、貝殻型のクッキーの缶であった。
どうやら、お留守番をしている『夏夢』と『玉福』へのお土産にしたいと言っているようだった。
わかっている。
財布の紐はゆるゆるなのだ。
今ならば、ねだられるままに買ってしまうだろう。それはもうなんていうか、予定調和というか、定められた結末というやつなのだ。
「ええ、任せなさい」
相変わらず甘いことだと言われてしまうかも知れないが、この時が一番楽しいのだから、仕方ないのだ――。
成功
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