●
――|愛し子よ、目覚めなさい《Talitha Kum》。
悲しい。痛い。辛い。痛い。苦しい。痛い。
「こちらが現世に顕現された救世主様にございます」
救世主、ってだぁれ? 僕は救世主なんて名前じゃないよ、僕の名前は――、
「あなた方を苦痛から解放してくださいます」
痛い! 痛い! 痛い!
「ああ、本当に痛みが消えた」
「救世主様があなたの罪過をお引き受けくださいました」
ねえ、あなたの痛みは僕が引き受けたけれど、――僕の痛みはどうしたらいいの?
――ならば私が引き受けよう、哀れな愛しい子よ。
「奇跡だ……」
「見ろ、あの光を。神が祝福しておられる」
「彼こそが救世主だ!」
違うよ。痛い。怖い。こんな化け物が神様のわけないのに、何で誰も気付かないの――?
●
「神様は神様でも邪神なんだよ」
超次元の渦から滲み出た邪神が、『救世主』と呼ばれる少年の身体に憑依しているのだとカー・ウォーターメロンは言った。救世主。如何にも胡散臭い邪教崇拝の気配を察した猟兵の表情に、カーはこくりと頷いた。
「他者の痛みを担う力を持って生まれた息子さんをそう呼んで、新興宗教を立ち上げたみたいなんだよ。……ダークセイヴァーでよく聞く話だけど、他の世界でもたまに居るんだよね。|聖痕《スティグマ》持ちの人間」
聖痕。この世の痛みを引き受け溢れる光で人を癒やす、聖なる傷跡。両親は我が子の能力を利用して信者を増やしている。
「で、邪神……この場合はUDC組織では『憑依型UDC』って呼んでるんだけどね――に話を戻すけど。顕現に失敗してるみたいで本来の肉体を喪失しちゃってるんだよ。だからこの少年を宿主にして休眠状態にあるんだけど、特定条件……この子の場合は『心身が限界を感じた時』に肉体の主導権を邪神に明け渡しちゃうんだ」
過度に信者の苦痛を聖痕の力で肩代わりすれば、邪神が表に出てきてしまう。ならば休眠状態の時にどうにか出来ないのかと問う猟兵に、カーは首を横に振った。
「休眠中は何をしても、それこそユーベルコードの力ですら宿主に作用しちゃうみたい。だから邪神が肉体の主導権を得た時……少年を乗っ取って活動している時に撃破するしかないんだよ」
それでは少年の命を奪う事になってしまうのではないか。その懸念には「五分五分なんだよ」と答えた。
「邪神が肉体の主導権を得ると何らかの怪奇現象を引き起こしちゃうんだけど……極力犠牲を出さずに対処出来れば、邪神が力をつけるのを防げるんだよ。そしたら憑依型UDCだけを撃破するのも可能だと思うんだよ」
怪奇現象に巻き込まれるとしたら、恐らくは周囲に居るであろう信者達だ。年端も行かぬ子どもに苦痛を押し付けて、奇跡だと喜ぶような大人達。
「思う所はあると思うけどね。どんな人間でも、邪神の供物にするわけにはいかないでしょ?」
まずは『信徒の苦痛を救世主が救済する』という名目の醜悪なショーに紛れ込み、邪神が少年を乗っ取る現場に居合わせる必要がある。よろしくね、とシャーマンズゴーストが赤い手をひらひらと振った。
宮下さつき
通常シナリオを一年以上出しておりませんでした。ただいま戻りました宮下です。
しばらくひっそりゆっくりな運営になりそうですが、採用数の少ない宿敵さんやフラグメントを中心にシナリオを書かせていただこうと思います。
●世界
UDCアース、憑依型UDCシナリオです。
一章潜入、二章で怪奇現象に対処し、三章ボス戦の流れになります。
邪神のみを撃破できた場合、聖痕のある少年はUDC組織が保護してくれると思います。
それではよろしくお願いいたします。
第1章 冒険
『アンダーグラウンド・ショータイム』
|
POW : キャストとして参加して潜入する
SPD : ショーのスタッフとして潜入する
WIZ : 客とした潜入する
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
サンディ・ノックス
自分の子どもに奇跡の力があると知って
救世主をさせるなんて親のすることじゃない…!
俺は自ら進んで救世主の役目を務めたけど
ずっと親はそれを止めようとしていた
それが親ってものじゃないのかな
だから少年の親のことが信じられない
彼らは悪だ
だけど邪神の思うとおりに事が運ぶのも癪なので
親へのお仕置きはUDC組織に任せるか
途中で痛い目に遭わせるかもしれないけど
今日の演目は「奇跡を目にして信じる者」
奇跡の噂を耳にして現場に入り込み
救済を目にして驚き感激してみせよう
少年に助けに来たことは悟らせない
作戦のためとはいえ申し訳ないな…
黒猫には隙があれば親の狙いを探してもらう
私腹を肥やすのが目的なら本当に許さないんだからね
「夢みたい、また歩けるようになるなんて」
車椅子から立ち上がった女性を、夫と思しき男性が抱き締める。「足が痛い」と呻いた少年の声を掻き消す喝采の中で、サンディ・ノックスもまた感極まったような素振りで手を叩いた。
(「――今日の演目は『奇跡を目にして信じる者』だから)
周囲は信者か、彼らに勧誘されて入信を考えている者ばかりだ。目に涙を浮かべる少年に駆け寄ってやれない事を申し訳なく思いつつも、サンディはこの場における普通を装う。口々に奇跡を称える人々の言葉に耳を傾ければ、「いつかお父さんの病気も……」「信仰心が強い信徒なら……」といった会話が聞こえた。
(「……なるほどね」)
信仰心の強さ。一番わかりやすい指標があるとすれば、――『献金』ではなかろうか。
(「子どもを利用してまで私腹を肥やそうとする人間が居るなんて思いたくなかったけど」)
サンディの視界には、彼が居るホールとは別の部屋が見えている。青年と五感を共有する黒猫が、サイドボードの陰から女性を見つめていた。恐らく少年の母親だ。昏い顔をしている少年と、顔立ちだけはよく似ている。その彼女が、先程『救済』された信者から布施を受け取っている。
(「自分の子どもに奇跡の力があると知って救世主をさせるなんて、親のすることじゃない……!」)
聖母のような笑みを繕った所で、関心は代償に苦しむ我が子でなく金に向いている。それがサンディには信じ難かった。かつて自分が救世主の役目を負った時、親は何度も止めようとしたものだ。
――それが親ってものじゃないのかな。再び少年に目を向ける。彼が度々救いを求めるように視線を向ける先に居る教祖が父親だろう。澄ました顔に酷薄な印象を受ける。
(「邪神の思い通りに事が運ぶのは癪だから、両親の処遇はUDC組織に任せる事になりそうだけど」)
彼らが途中で痛い目に遭う可能性は捨てきれないな、と小さく笑う。
(「必ず助けるよ」)
深い海の色をした目を細め、壇上を見つめた。
大成功
🔵🔵🔵
天星・暁音
【天星零と共闘】
あれは俺と同じ力…だね
全ての人も物も植物も世界もあらゆる痛みに共苦する力
強すぎる痛みに体は傷ついて血を流すのにすぐに治る
自分の痛みではないから決して痛みは消せない
俺はあの人たちから逃げたけど
あれは俺だったかもしれない
痛みを押し付けて楽になっても生きていれば痛みは生まれる
その度に押し付け続けるなんて本当は悲しいことなんだけどね
キミの力は俺が貰うから…
零には後で怒られちゃうかもだけど…傍いるから…大丈夫
貴方の貴方達の痛みを僕にください
お客に紛れてなるべく存在感を消して、UCでもって周りの人々の少年の痛みを自分にも引き受けます
決して苦しい様子などみせません
あの人たちは両親
アドリブ歓迎
天星・零
天星暁音と参加
enigmaの効果で別人格の夕夜と
零『本当人間って…暁音大丈夫かなぁ…』
夕夜『依頼とか普段なら気にしねーけど、暁音とも縁がありそうで心配だなぁ』
行動
指定UCとUC冷たい死の顕現で自分達の身分や姿、出生、話し方などを全てを偽って潜入しつつ、【情報収集】や周りの状況、推測をしつつショーを盛り上げつつ、次の章に他の猟兵達が行きやすいように工作、サポート
バレないように必要なら悪役を演じたり様々な姿で対応
零(さて、いつ狩りを始めようか…本当は全員狩ってやりたいけど…)
暁音が共苦で辛い状況なのは分かっているので虚飾を使って見えない支えを作ってなどさりげなく暁音をサポート
武器お好きに
アドリブ○
「本当、人間って」
天星・零は口を衝いて出そうになった言葉を飲み込んだ。身の上を偽り大勢の信者に紛れている今、迂闊な事を言うわけにはいかない。
(「暁音、大丈夫かなぁ……」)
傍らの天星・暁音に視線を向ければ、毅然と振る舞ってはいるが表情に翳りが見られた。
「依頼とか普段なら気にしねーけど、……暁音とも縁がありそうで心配だなぁ」
実体化した別人格の『夕夜』も機微を捉えていた。無理もない。少年の境遇は、暁音の生い立ちにも通ずるものがある。――当の本人は何を言うでもなく、周囲の信者と同じように礼拝が行われるホールへ静々と向かっているのだが。
(「キミはこんな所でずっと耐えてるんだね」)
この場に居るのは『救済』される事を望んでいる者達ばかりなのだから当然ではあるのだが、建物全体に満ちている『苦』の気配を暁音は敏感に感じ取っていた。聖痕を奇跡の力としか認識していない両親にはわからないだろうが、救世主の彼は今、苦悩という名の毒を浴びせ掛けられているようなものだ。毒をかき集めて我が子を漬け込むなど正気の沙汰とは思えないが、この世には信じ難い悪徳が存在する事を暁音も零も知っている。
席へと着いた三人は顔を上げ、壇上を見る。年端も行かぬ少年が苦痛に喘ぐ間近で、奇跡の恩恵に預かった信徒が快癒を悦び祝福されている。全く趣味の悪い寸劇だよな。夕夜が呟いて、零が小声で気付かれちゃ駄目だよと窘める。
(「悪趣味だって点は夕夜に全面同意だけどね」)
二度と上演出来ないよう幕を引くには、この潜入を成功させなければならない。眼前で行われている茶番にさも心の底から感動したとばかりに手を叩いて見せながら、零は信徒をつぶさに観察する。
(「信仰心が強い者が救済されるって報告してきた猟兵が『信仰心の指標は献金額ではないか』って推測を添えてたけど。……間違いなさそうだね」)
信者は老若男女様々で一見すると構成比に偏りはなさそうだが、救済されているのは身なりの良い者ばかりだ。金品を差し出さなければ救われない、清々しい程分かりやすく惨たらしい。このような所に暁音を長く居させたくないが仕方あるまいと、――せめて少しでも支えになれればと霊力を操れば、零のさりげない気遣いに気付いてしまったのだろう、暁音は困ったように笑んだ。
「零? 心配ないよ、俺……」
「ここの椅子、あんまり座り心地よくないよね」
だから座りやすい椅子にしちゃった。にんまりとした笑みを浮かべれば、釣られるように暁音も笑った。
「もう、零ってば。そんな事に力を使ったの?」
じゃあそういう事にしておくよ。零の真意には気付いていたものの、くすくすと笑いながら不可視のクッションに身体を預け、暁音は救世主となってしまった少年を見つめる。
(「……あれは、俺だったかもしれない」)
自分は|両親《あの人達》から逃げたけど。暁音は回顧する。創傷や病魔を引き受けた身体は治りはするものの、受けた痛みを忘れる事など出来やしない。いくら肉体は癒えても絶えず痛みに苛まれている。自分と同じ力を持つあの少年に逃げるという選択肢はなかったのか、救世主として祭り上げられてしまった。
(「本当は、キミの痛みも引き受けてあげたいけど」)
憑依型UDCだけを撃破するには、彼が心身の限界を迎えなければならない。だから今はこの苦しみを分かち合う事しか出来ないけれど――暁音は少年の為に祈る。
痛みを押し付けて楽になっても、生きていれば痛みは生まれる。
その度に押し付け続けるなんて……本当は悲しいことなんだけどね。
苦を顔に出さず祈り続ける暁音は、ふいに腕にぬくもりを感じた。横目で左右を確認すれば、零が、夕夜が、両隣で自分を挟み込むように間隔を詰めていた。その安心感に、苦痛が和らいだ気がした。
(「俺には二人が、支えてくれる大切な家族がいる。……零には後で怒られちゃうかもだけど」)
健気に祈る暁音の姿を眺めながら、零は事件解決の算段をする。
(「さて、いつ狩りを始めようか……本当は全員狩ってやりたいけど」)
藁にも縋る思いで来ている信者もいるだろう。だからといって奇跡に目を曇らせて、子どもの犠牲を見て見ぬふりする信仰が許されてなるものか。それぞれ異なる想いを抱いたまま、救済ショーは進行していく。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
穂垂・玄慈
クソが。
ガキ踏み台にして奇跡なんて名乗ってんじゃねえぞ。
俺達パラディオンも似たような事してるけどな。それは望んでのことだ。望んでねえのにガキがあんな目にあってるのは見るにたえねえよ。
ま、そんなことを大っぴらに言ったら潜入失敗だからな。ガキのためにも心の中で、と。
客として潜入しつつ、救世主に【祈り】を捧げるふりでもするかね。願うのはもちろんガキの無事だが。
とりあえず救世主サマとやらの健康状態も見とくか。くそ、同じ世界(ケルディバ)なら教会に担ぎこんだんだけどな。
ギュスターヴ・ベルトラン
救済を見届ける信徒の一人として【祈り】を捧げつつ参加する
…そうしてねえとマジで怒りが抑えきれねぇ
祈ることで、今は耐える
主よ
行われんとする非道を前に、あの子の嘆きに目を瞑るぼくをお赦しください
そして、邪なるものに我が怒りを振るうこともお赦しください
あの子が呻いた瞬間、空気が如実に変わった
その騒めきに紛れてUCを展開
暴きたいのは邪神じゃなく、あの子の情報だ
…邪神に肉体を明け渡す条件が『心身が限界を感じたとき』
真に助けるなら、身体だけじゃなく心も助けられてこそだろ?
…きちんと関わった中で知るべきことと分かっちゃいるけどよ
ああ、でもこの空気は信仰じゃねぇ、ただの消費だ
胸糞悪い
「お隣失礼」
信者の中に角が生えた青年の姿を認め、ギュスターヴ・ベルトランは声を掛けた。現地住人には違和感を持たれないはずの頭頂部に視線を感じていた穂垂・玄慈は「同業か」と呟いて、少し奥に詰めた。ベンチ型の椅子に腰を下ろした彼に、玄慈は小声で問う。
「……ここの世界の礼拝堂ってのはこんな感じなのか? 他世界の教会はよく知らねえんだ、疎くて悪いな」
ギュスターヴは素早く辺りに視線を巡らせ、すぐ「いや」と否定を口にした。色の付いたガラスを隔てても、壇上の照明は嫌に明るく感じられた。
「救世主を壇上に上げて、まるで小劇場だ。奇跡を見世物にする意図が透けて見える」
オレは悪徳に鼻が利くんだ、そう答えたギュスターヴに、なるほどなと玄慈も頷いた。文化の違いという言葉では片付けられない不快感の答えがわかった気がした。
(「……クソが。ガキ踏み台にして奇跡なんて名乗ってんじゃねえぞ」)
見世物という評価に改めて少年の健康状態に目を向ければ、妙に強い照明は少年の顔色の悪さを誤魔化しているように思える。その身から溢れる光で肉体は治癒しても、引き受けさせられた痛みの記憶は残り続ける――強度の精神疲憊にある可能性が高い。
(「俺達パラディオンも似たような事してるけどな、それは望んでのことだ。望んでねえのにガキがあんな目にあってるのは……」)
――見るにたえねえよ。口から零れ出そうになる憤りを、歯を食いしばって堪える。引き攣りそうになる口元を、救世主に祈りを捧げるていで組んだ手で隠した。
(「願うのはもちろんガキの無事だが」)
虚ろな顔をした少年の前に、無情にも新たな信徒が連れてこられた。奇跡を安売りするかのようなショーはまだ終わらない。ギュスターヴも顔を顰めそうになり、祈る事で平静を保つ。
「主よ」
行われんとする非道を前に、あの子の嘆きに目を瞑るぼくをお赦しください。そして、邪なるものに我が怒りを振るうこともお赦しください。祈る猟兵の目の前で、少年が苦痛に顔を歪めた。
(「あの子が呻いた瞬間、空気が如実に変わった……!」)
観客は見る間に回復した信者を、少年が奇跡に輝く所ばかりに目を向けて、悍ましい邪神の気配に気付きもしない。
(「オレらに意識を向ける者もいねえ。きちんと関わった中で知るべきことと分かっちゃいるけどよ――暴かせてもらう」)
少年を本当に助けるのなら、その心までも救いたい。その一心でギュスターヴはユーベルコードを発動した。
少年の名は、秋山・翔太。母親の小さな怪我を治した事で能力が発覚。元々原因不明の痛みを理由に小学校は休みがちではあったが、――今は両親の宗教活動を理由に通学すらしていない。
(「我が子の学ぶ権利すら奪って宗教を興すか。ああ、でも、こんなの宗教ですらねぇよ。この空気は信仰じゃねぇ、ただの消費だ」)
胸糞悪いと吐き捨てそうになるのを堪えて少年を見守っていたその時、異変が起きた。
「……もう嫌だ!」
拒絶を口に出した少年の顔を、赤い血が伝う。次に、腕から。足から。腹から。傷口が開いては癒え、癒えてはまた開く。
「ッ、おい、あれ……!」
「駄目だ、まだだ。堪えろ」
「わかっちゃいるけどよ、本当にあの救世主サマは大丈夫なんだろうな……? くそ、|同じ世界《ケルディバ》なら教会に担ぎ込むんだけどな」
今にも駆け出しそうな玄慈を押し止め、ギュスターヴも歯噛みする。救う為とはいえ、限界まで追い詰められる子どもに今手を差し伸べる事が許されないとは。錯乱する救世主の姿に周囲の大人達は困惑するばかりで、助けようとする者は居ない。
「もう誰も僕に近づくな! ……ああ、そうだよ。何もかもが無くなれば、僕は苦しまなくていいんだ。――全部全部全部! 壊れて消えろ!」
哀哭。涙の代わりに血を流す少年から、瘴気が滲みだした。少年の肉体を器に、憑依型UDCが顕現する。
「休眠状態からお目覚めのようだ」
まだあの子の名前くらいしかわかってないってのに、取って代わられちまった。ぼやいたギュスターヴの隣で、玄慈はアリアデバイスへと手を伸ばす。
「あの邪神サマ、随分と寝起きが悪そうじゃねえか」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『体腔に巣食う悪意』
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POW : 力ずくで取り押さえるか、気絶させてUDC職員に引き渡す。
SPD : 極めて精密な攻撃で体内のUDCを破壊するか、摘出する。
WIZ : 魔術的手段で肉体を傷つけずに体内のUDCを破壊する。
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
少年から滲み出た黒い靄が、小さな虫を形作りながらホールの中に広がっていく。信者達は状況を理解する間もなく、突然我を忘れたかのように咆え、猛り狂い、――邪神の影響を受けていない猟兵達に襲い掛かる。
状況を分析した猟兵の一人が、『寄生虫型UDC』だと予想した。邪神の瘴気に含まれていたのだ。
UDCに操られているとはいえ、彼らは一般人だ。猟兵達の敵ではない。だからと言って殺してしまえば、邪神はそれらを糧に強化されてしまうだろう。極力命を奪わずに無力化する必要がある。
サンディ・ノックス
まず状況確認
猟兵以外のヒトはみんな寄生されておかしくなってるのかな
もし無事なヒトが居たら安全な場所に逃がさないといけないね
そう、この場のヒトを死なせるつもりは無い
少年の両親は怖がらせるために理性が残ってたら救出を遅らせるけど
信者達は救われたかった弱いヒトってだけなんだ
責める気が起きない
ただ無力化させる能力に長けてるわけでもないから
解放・小夜を使って一時的にどんどん信者の動きを止めるけれど
長期的な無力化は同業者に任せる
もう邪神が顕現したから少年――翔太さんに声をかけていい段階のはず
声を張って伝えよう
たとえ今はまだ届かなくても
壊すよ
きみが見ていた化け物を
なによりきみを苦しめていた大人たちの世界を!
穂垂・玄慈
【Wiz】
……一般人も巻き込んできやがったか……これはやばいな……下手に力込めたらやらかしそうだ。【落ち着いて】対処しなくちゃな。
十字架型アリアデバイスを起動。ライブの準備だ。【浄化】の【奇蹟】を込めた【歌魔法】でどうにか寄生虫型UDCを祓えねえか試してみるぞ。
お前らにはもったいない歌だが、邪神の腹に収めるわけにもいかないんでな。ありがたく受けとっとけよ!
クソッ、この歌で少しはガキも鎮まらねえか……? 祈りよりも先に美味いもんで元気づけてえのに願っちまうよ……
ギュスターヴ・ベルトラン
オレには体内に巣食うピンポイントなUDCをどうこう出来る程の力はない
蝋燭に【浄化】の火を灯し【祈り】を捧げることのみだ
主よ、どうか力をお貸しください
彼らに必要なのは断罪による死ではなく、生きて悔いる機会なのです
拡声器を用い歌でUCを発動
おう、音痴ってツッコミしたやつ後で別件でシバきあげるから覚悟しとけ
…じゃなくて、大事なのは己自身で今の己の有様に気付くこと
ただ一瞬で良い【声を届かせる】
悔悟せよ、回帰せよ、己を省みよ
邪神の供物と成り果ててはいけない
動きが鈍れば彼らの周囲を【結界術】で動きを縛り、暴走を封じる
自らの有様に気付いて、正気を取り戻せるならば…それこそが救いの入口となるだろう
正気を失くした信者の劈くような奇声に、穂垂・玄慈は辟易とした表情をした。
「一般人も巻き込んできやがったか……」
自分に向けて拳を振り回されても、玄慈は無反応を貫いた。ど、と肩に鈍い衝撃。殴りつけられた痛みは大した事なかったが、信者の拳頭が赤くなっている。どうやらこのUDCは一般人に寄生して暴れさせる事は出来ても、強化する効果はないらしい。
(「肉体の強度はヒトのままってか。下手に力込めたらやらかしそうだ」)
迂闊に反撃すれば、相手は簡単に命を落とすだろう。再度腕を振り上げた信者と玄慈の間に、庇うようにサンディ・ノックスが割って入る。
「猟兵以外、みんな寄生されておかしくなってる……みたいだね」
サンディは信者の拳を手の平で優しく止め、そっと受け流す。信者は転倒したものの、勢いは殺してやったのだから怪我はないはずだ。――とはいえ表情一つ変えず立ち上がる様子は意思のない人形が動いているかのようで、映画に出てくるゾンビに似た不気味さを感じさせた。
「……痛覚も機能してないって事かな」
「これは……やばいな」
脆弱でありながら逡巡を知らない。猟兵の敵とはなり得ないが、厄介ではあった。放っておけば自滅しかねない危うさすらある。自分に掴みかかろうとする信者達を振り払いながら、ギュスターヴ・ベルトランはシニカルに笑う。
「つまり体内に巣食うUDCだけをピンポイントにどうにかする必要がある、と」
「何か良い策があんのか?」
「オレに出来るのは祈りを捧げる事くらいだ」
ギュスターヴが指し示したのは傍らの祭礼用の白い蝋燭。浄化の灯りを点せど、信者はお構いなしに手を伸ばす。火傷させるようなへまはしないが、どうにもやり難い。
「まあ、俺も似たようなもんか」
玄慈も十字架型のデバイスを起動するが、飛び掛かってくる信者を傷付けぬようにいなすのも限度がある。
「今日のライブは、ちぃっとばかしマナーの悪い観客が多いようで」
奇しくもこの場に揃った聖職者は歌に纏わる能力らしい。であれば俺が、とサンディが前に歩み出た。
「彼らの動きを止めれば何とかなる?」
「できるのか?」
「無力化させる能力に長けてるわけでもないから、一時的なものだけどね」
――そう、この場のヒトを死なせるつもりは無い。信者達を見つめるサンディの凪いだ水面のような瞳に、冴え冴えとした光が宿る。
(「この信者達は救われたかっただけ……弱いヒトってだけなんだ」)
一人の少年の犠牲に目を瞑るしかなかった彼らを、責める気にはなれなかった。サンディはその身に宿した力を、双眸から解放する。
「じっとしていて、ね」
暴れ回る信者達に向けられる、視線。全てを見透かすように、見通すように、射抜くように――、魔力を孕んだ視線が、質量を持ったかのように信者達を抑えつけていく。
(「あれは少年の、――翔太さんの両親か」)
視界の隅に捉えた教祖達の様子は理性から凡そ遠く、その他大勢と変わらない。反省を促したかったと思わなくもないが、ひとまずやるべき事はやった。サンディは信者達から視線を逸らす事なく、仲間に問う。
「どうかな」
「視線一つで動きを封じるとか、やるな。十分だ……!」
アリアデバイスを顔の前で構え、玄慈は口の端を上げる。今ならば信者達に妨害される事もない。浄化を願い、奇蹟を乞い、彼はその身を以て霊験を現す。
「お前らにはもったいない歌だが、邪神の腹に収めるわけにもいかないんでな。……ありがたく受けとっとけよ!」
言葉遣いこそ粗野な印象を受ける玄慈だったが、紡がれる歌はまさにパラディオンのそれだった。かつて自身の窮状を救った彼らのように、己に霊瑞を降ろす。近くに居た信者が喘ぐように口を開閉し、黒い靄を吐き出し始めた。
「クソッ、この歌で少しはガキも鎮まらねえか……?」
「ま、根気よくいこうぜ」
救世主の少年は心ここに有らずといった様子で未だ瘴気を振り撒いている。だが、確かに玄慈の歌は信者達の体内に巣食う寄生虫を揺り動かしていた。追撃を加えるべく、ギュスターヴもメガホンの形をした拡声器を手にした。
――主よ、どうか力をお貸しください。彼らに必要なのは断罪による死ではなく、生きて悔いる機会なのです――、ギュスターヴは神に希い、尊き魂を謳う。
「Parce que tu as du prix à mes yeux...」
朗々とした、ただ思っていた音とずれている歌声が響き、玄慈がちらと振り返る。
「おう、音痴ってツッコミしたやつ後で別件でシバきあげるから覚悟しとけ」
「まだ何も言ってねえだろ!」
そうだ、大切なのは音程よりも、ほんの一瞬でも良いから声を届かせる事。悔悟せよ、回帰せよ、己を省みよ。ギュスターヴは歌を通して呼び掛ける。
「……苦痛から救われようとして、痛覚も意思も失くすなんて皮肉だよな」
彼らは己自身で今の己の有様に気付くべきだ。その為にも、まずは正気になれ。邪神の供物と成り果てるな。ギュスターヴに呼び戻され、――信者の表情に自我が戻り始める。
(「自らの有様に気付いて、正気を取り戻せるならば……それこそが救いの入口となるだろう」)
ギュスターヴの声が届いた。UDCの支配下から脱して混乱している者にはサンディが集団ヒステリーだと嘯いて、この場から離れるように促していく。邪神の領域内から、生贄となるはずだった人間が減っていく。少年の目に、微かに光が戻ったような気がした。
「……祈りよりも先に美味いもんで元気づけてやりてえのにな。――願っちまうよ」
少年を見つめ、玄慈が呟いた。あの両親は飢えさせる事はないだろうが、美味しく食事が摂れているかとなると話は別だ。同じくサンディも気遣わしげな表情を向ける。
(「たとえ今はまだ届かなくても」)
あと少しで救いの手が届きそうだ。サンディは声を張り上げた。
「……壊すよ。きみが見ていた化け物を。なにより――きみを苦しめていた大人たちの世界を!」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
天星・零
【暁音と連携】
零『まぁ、人がやったことだし僕らがどうこうする問題じゃない。
でも、依頼は受けたからにはやらないとね』
戦闘
enigmaで夕夜と
零が指定UCを使って、UDCと寄生信者に対して生命力などを奪い、暁音や周囲の猟兵の支援
UDCには容赦なく
信者も動かれると面倒なので動けるけど抵抗できないくらい衰弱するレベルで生命力を奪う
零『辛いと思うけど人を不必要に犠牲にしてまで幸せになろうとした罰だと思ってね。よかったね…これが猟兵としての依頼で』
猟兵としてじゃなかったら死ぬより辛い目に合わせてたかもしれないと信者に優しく微笑んで
基本は暁音に戦闘を任せ自分は支援に回るが、接近してきた場合仲間が危ない場合は、装備してるアイテムで迎撃
殺しはしないけどギリギリ何かあっても大丈夫なラインまでは容赦なく
アドリブ歓迎
武器などはアイテム欄のものを自由にお使いください
天星・暁音
【天星零と連携】
……手加減はするよ
でも、俺も許せないし、許したくはないんだ
子供や老人は撫でるように、それ以外は少しくらい痛い目にあってもらうよ
所謂、鉄拳制裁ってやつだよ!
助けてほしい。縋りたい。その気持ちを理解出来なくはないけどね…
まあ、しっかり気や魔力を徹して寄生虫はちゃんと倒すけどね
先に受け取った負と含めて、時折、隠しきれなくなった傷が開き血を流しながら治るを繰り返しながら、体術で殴るし蹴ります
拳や蹴り気や魔力を徹して寄生虫も打ち抜きます
老人や子供は撫でるように、まあ優しく
それ以外の大人には普通に、縋りたくなる気持ちに理解はできるけども、やはり許したくないので。
アドリブ歓迎
苦痛から逃れる事を、救われる事を願った者達が、瘴気の滓に侵されて見境なく暴れている。今この時だけは苦痛を感じずにいられるだろうが、そこに彼らの意思は無い。猟兵の誰かが皮肉なものだと呟いた。
「皮肉? 因果応報じゃないかな」
天星・零はモニター越しに世界を見ているかのような目で、眼前で起きている信者の暴走を眺める。
「人がやったことだし僕らがどうこうする問題じゃない。でも……依頼は受けたからにはやらないとね」
今回の件は、奇跡を騙って商売している所に超次元の渦から滲み出た邪神が顕現し、被害者に付け込んだという生者の世界での話だ。過程の一部に不快はあれど、進んで干渉したいとは思わない――猟兵の仕事として請け負わない限りは。
「まぁ、よかったね。これが依頼で」
犠牲を出さずに対処しなければならない状況だからこうするだけ。虚空で零の指が躍る。楽器に触れた事がある者であれば、それが笛の運指だとわかっただろう。
「呪いの演奏……お一つどうぞ」
信者には視認出来ない|虚飾《ボイド》の楽器、怨呪具『吸魂魔笛』がひゅるりと不可思議な旋律を奏でる。風籟にも似た筆舌に尽くし難い音色は、理性の無い信者達の耳にも届いた。鼓膜を震わせ、脳髄に沁み渡り、――ごそりと何かが抜け落ちる感覚に、信者達は振り回していた腕をだらりと垂らした。
ぱん、と軽い音。暴れる力を失くした信者を、天星・暁音は掌底で叩き伏せる。
「……言っとくけど、手加減はしてるよ」
小さな掌がインパクトした瞬間、信者に流し込まれた清浄な魔力が黒い靄を押し出した。行き場を失くして空中を漂う寄生虫型UDCを丁寧に潰し、暁音は床に倒れ込んだ信者を見下ろす。
「手加減は、する。……でも、俺も許せないし、許したくはないんだ」
「いいんじゃないか、許さなくても」
動かなくなった信者をまるで荷物か何かのように雑に掴み、夕夜が答えた。
「そりゃ当事者じゃない俺らが信者どもを痛めつけたところで、私的な制裁でしかないけど。暁音はあの『救世主』が受けてきた仕打ちに対して憤ってんだろ?」
本来は少年を庇護すべき親があの有様だ、きっと少年の為に怒ってくれる者は居なかったのだろう――今日猟兵達が訪れるまでは。
「だから思うようにやればいい。零は惜しみなく徹底的に暁音を援護するだろうし、俺は邪魔なやつらをこの部屋から放り出す」
憑依型UDCと戦闘になったら信者達の存在は足手纏いでしかない。夕夜は零と暁音が無力化した信者を拾い上げては、文字通り部屋から放り出しながら言った。夕夜の肯定に背を押されたように感じ、暁音は引き結んでいた口元を少しだけ緩ませた。
「うん。……天星流体術――」
――少しくらい痛い目にあってもらうよ。暁音は大声で意味の分からない言葉を叫びながら飛び掛かってきた男の腕を叩いて逸らし、覚束ない足元を払う。転倒した信者に蹴躓いた老人を軽く掴み、座らせるように尻餅をつかせた。「所謂、鉄拳制裁ってやつだよ」と言いつつも、必要以上の怪我を負わないよう気遣っているのが垣間見える。
「……優しいなあ、暁音は」
四方を信者に取り囲まれた零は、彼らの頭上へと飛び上がる。信者の手が届かない高さを浮遊しながら奏でる吸魂魔笛が、容赦なく彼らの生命力を奪っていく。――命に別状はなくとも、気力も体力も削がれた彼らは極度の疲労に似た虚脱感を味わっている事だろう。
「心身の限界……ね。辛いと思うけど、それを子どもに負わせようとしてたんだよ? 忘れないでね、人を不必要に犠牲にしてまで幸せになろうとしたって事」
――猟兵としてじゃなかったら、死ぬより辛い目に遭わせてたかもしれないね。零は信者を見下ろし、柔らかな微笑みを浮かべた。床に這い蹲り零を見上げていた信者はまともな理性などなかったにも関わらず、――否、理性が欠如していたからこそ、本能的な部分で――恐怖に身体を強張らせた。自分を見つめる優し気な瞳は、瀞のように穏やかで底が見えない。
蛇に睨まれた蛙のような状態の信者を暁音は哀れに思うが、痛みを伴う寄生虫の駆除を止めるつもりは更々ない。共苦の痛みは暁音をも苛み、時折隠し切れなくなった傷口が開いた。その度に垂れてくる血を手の甲で拭い、視界を確保する。
「……助けてほしい。縋りたい。その気持ちを理解出来なくはないけどね」
縋られた側は何に縋ればいいの。とうに克服した気になっていた昏い記憶が、足下から這い上がってくるような気がした。過去に引き摺り込まれそうな、嫌な感覚。
「暁音」
頭上から差し伸べられる、零の手。言外に「縋ってもいい」のだと。くすりと笑い、暁音は拳を振るい続ける。
猟兵に襲い掛かろうとする信者もまばらになり、粗方片付いたと思われた頃。邪神に肉体の主導権を奪われていた少年の顔に、微かな理性が戻った。
「……来ないで。来ないで、来ないで、こっちに来ないで――!」
明確な拒絶が響く。血を吐くような悲痛な声だった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『秋山・翔太』
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POW : 誰も僕に近づくな!
【他者を拒絶し物理的な衝撃を持つ悲痛な叫び】を放ち、レベルm半径内の指定した対象全てを「対象の棲家」に転移する。転移を拒否するとダメージ。
SPD : 何もかもが無くなれば僕は苦しまなくていいんだ。
全身を【自身から流れつづける血】で覆い、自身が敵から受けた【痛みを押し付ける全てを壊したい狂気】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ : 全部全部全部、壊れて消えろ!
【自身の血を操り生み出した刃の嵐】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
イラスト:スダチ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「天星・暁音」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
来ないで。お願いだから。痛いのは嫌だ。
――痛みの原因を消してしまえばいい。
違う。そんな事は願ってない。
――痛いのが嫌なのだろう?
そうだけど、そうじゃない。
救世主と呼ばれた少年と、肉体の主導権を奪いきれなかった邪神。二つの精神を宿したまま、『秋山・翔太』が猟兵と対峙する。
「救世主様? いかがなされたのですか……?」
UDCの寄生から逃れた信者が不思議そうに近寄った瞬間、少年は血相を変えて叫ぶ。
「誰も僕に近づくな! 帰れ!」
直後、信者の姿が掻き消えた。どうやら何処かに転移させられたらしい。
「……何もかもが無くなれば僕は苦しまなくていいんだ」
いや、そんな事は望んでない。望んでないんだ。自分の衝動的な発言に対し、言い訳のように繰り返す。かなり不安定な精神状態だ。
「翔太……?」
礼拝堂の隅に居た両親が口を開いた。ようやく理性を取り戻したようだが、――その呼び掛けは逆効果だったらしい。秋山・翔太は険しい表情を浮かべ、絶叫した。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ! 全部全部全部、壊れて……消えろ!!」
サンディ・ノックス
真の姿開放
金眼の赤い竜人に変化する
真っ直ぐ翔太さんのもとへ行きそのまま抱きしめる
肌同士で密接に触れ合って安心させるためと動きを抑えるためだよ
そして声をかけて頭を撫でてあげる
「思う存分、言いたいことを言っていいんだよ
言ってからその言葉は違ったとか思うかもしれない
でもね今はそうやって考えなくていい
思ったとおりを言って大丈夫
俺達、全部受け止めるから」
抱きしめている間に傷つけられるかもしれないけど
真の姿は見た目こそ人型だけど魔法物質の塊
血を流すことは無いから翔太さんの心配を和らげられると思うんだ
痛みそのものは感じるけどさ
あまりに多くのヒトの痛みを負ってきたこんな小さな子どもの前で
痛いなんて言えないよね
穂垂・玄慈
とうとうガキと対峙することになるのか……クソ、こんな時に限ってようやく本当の名前を呼びやがって、あの両親。
全て壊れろ、ね、そう思う気持ちは分からなくもないさ。あんな仕打ちを受けてりゃな。
でもな、お前は悪くねえのにあんな仕打ちを受けたんだ。そんなヤツの手を汚させてたまるかってんだ。
アリアデバイス発動。【スカイクリーバー】を歌うぜ。これで仲間を癒して、お前に誰も壊させねえ!
【奇蹟】よ! 希望よ!
あの少年を救え!
届け!
消えてしまえ。『秋山・翔太』の叫びに呼応するように、小さな身体から噴き出す血が四方へ飛散する。
「危ない!」
「クソッ!」
周囲を消し飛ばす勢いで放たれた血液の先には、少年の両親が居た。サンディ・ノックスと穂垂・玄慈は両親の襟首を掴み、半ば放り投げるようにしてパイプオルガンの陰へと匿う。
「危険だからそこから動かないでね、絶対に」
サンディは口調こそ優しいが、有無を言わせぬ気迫があった。両親の存在は少年を徒に刺激するだけで、この場においては何のメリットも無い。
「こんな時に限ってようやく本当の名前を呼びやがって、あの両親」
「でも死なせるわけにはいかない。だよね?」
「……ったり前だ。あんな親でも、あのガキは……傷付ける事を望んじゃいねえよ。勘だけどな」
全部壊れて消えろ。彼の願いの根底にあるのはきっと――、玄慈の言葉に「俺もそう思う」と同意を示したサンディの瞳は、爛々と輝く黄金色に変じていた。
「だから、まずはちゃんと話を聞いてあげなきゃね」
一歩前に歩み出たサンディ目掛け、容赦なく血の刃が飛来する。刃の嵐に真っ向から対峙したサンディは、禍々しさすら覚える黒い鎧に身を包み、重厚な竜翼を背負った。真の姿、赤き竜人。吹き荒れる刃に怯む事なく、少年に歩み寄る。
(「この姿なら血を流すことは無いから、翔太さんの心配を和らげられると思うんだ」)
魔法物質の塊に近しい身体。鱗に傷を刻まれ、被膜を裂かれ、それでもサンディは歩みを止めない。
「っ、おい、無茶すんなよ……!」
いくら血を流さずとも、それが彼の肉体である事に変わりはない。その身を削りながら少年のもとに行こうとするサンディを、――悪くねえ、と玄慈は笑う。
「ガキが『助かる』っていうその希望、手放すなよ!」
希望を抱き続ける限り、俺の|この力《ユーベルコード》が有効だからよ、と。十字架を掲げた。
「涙、尽く拭い去りて……喜びで満たし給え」
希望を謳う聖句を唱えた玄慈の声を、アリアデバイスが増幅する。玄慈の歌う『スカイクリーパー』が礼拝堂を満たし、――サンディの翼に刻まれた傷が消えていく。
全部全部全部、壊れて消えろ。秋山・翔太が叫ぶ度に、赤い衝撃波が猟兵を強かに打った。だが玄慈の歌声に背を押されたサンディは、赤い波に逆らい距離を詰めていく。
(「痛みそのものは感じるけどさ。あまりに多くのヒトの痛みを負ってきたこんな小さな子どもの前で……痛いなんて言えないよね」)
傷は玄慈の祈りが塞いでくれている。サンディは平然とした表情を装って、少年の前に立つ。
(「奇蹟よ! 希望よ! あの少年を救え! 届け!」)
声にめいっぱいの希望を乗せて、玄慈は歌う。サンディの手が、少年へと伸びる。
(「……届いた!」)
玄慈が見守る中、サンディが少年を掻き抱いた。少年から絶えず放たれる血の刃に傷付けられながら、サンディは彼の頭を撫でる。
「思う存分、言いたいことを言っていいんだよ」
「なんでっ、来ないでよ! 消えろ、消えろ!」
「言ってからその言葉は違ったとか思うかもしれない……でもね、今は考えなくていい。思ったとおりを言って大丈夫」
変わらず拒絶を口にする少年に、玄慈は歌の合間に言葉を投げかける。
「全て壊れろ、ね、そう思う気持ちは分からなくもないさ。あんな仕打ちを受けてりゃな」
少年の言葉を、まずは否定しない。言葉の続きを促していく。
「大丈夫。俺達、全部受け止めるから」
「……痛いのが、嫌だ。だから原因になる人間、消えちゃえって思って……っ」
少年の感情が溢れると同時、赤い刃が暴風となって猟兵達を弾き飛ばした。
「ほら! だから近付かないでって言ってるのに! 僕が我慢できないから、他の人が傷付く……!」
「違う! お前は悪くねえんだよ!」
やはりそれが本心だったのかと玄慈は口の端を上げた。少年は痛い思いをしたくないだけで、拒絶は誰も傷付けたくないからだ。邪神の甘言で攻撃的になっているだけだと確信し、玄慈は少年の言葉を笑い飛ばす。
「よく見ろよ。俺達の何処が傷付いてる?」
少年の目が見開かれた。自分の攻撃に晒されたはずの猟兵は、事も無げに立っている。
(「望んでもいねえのに手を汚させてたまるかってんだ。いくらでも癒して、お前に誰も壊させねえ!」)
不敵に笑む玄慈の隣で、サンディも微笑んだ。無防備に両の腕を広げ、傷一つ残っていないと見せつける。
「思ってること、ちゃんと言えたね」
血に濡れた少年の頬に、一筋の涙の痕が生まれた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ギュスターヴ・ベルトラン
その怒りも嘆きも正当だ
だが今の狂乱した状態で力を振るえば…正気に戻った時、悔恨に変わってしまうだろう
…それすらも邪神の思う壺、なんだろうか
――主よ、赦したまえ
この身に満たす怒りは、あの子を喰い物にした邪神と外道へのもの
…これより、怒りのままに星の力を振るうことを赦したまえ
正気に戻った時に、悔やませない…って言うのは簡単だよな
…全部壊れろと願うなら、呼び起こした破壊の嵐を壊そう
【祝福】あれと【祈り】を込め、スレカの【リミッター解除】を
そして【魔力増強】でサイキックエナジーを上乗せした星の矢を放つ
翔太さんを邪神から解き放つために、その嵐は星が受け止める
邪神の思惑道理にはさせねえよ
いくら耳を塞いでも、|目覚めなさい《タリタ・クム》と囁く邪神の声は少年を苛んだ。その怨嗟を。その呪詛を。この世界にぶつければいいのだと。
「……消えろ。全部、壊れて消えろ!」
憎悪を口にしてはむずかる幼子のようにかぶりを振る少年を、ギュスターヴ・ベルトランは痛まし気に見つめる。
「その怒りも嘆きも正当だ。だが今の狂乱した状態で力を振るえば……正気に戻った時、悔恨に変わってしまうだろう」
少年の心の内は他の猟兵が引き出した。彼は本当に破壊と消失を願っているわけではない。ギュスターヴは少年の不安定な言動を肯定した上で、その後を危惧する。
(「それすらも邪神の思う壺、なんだろうか」)
よりにもよってこんな子どもに。不条理に歯噛みして、彼はスレイヤーカードを手にする。
「――主よ、赦したまえ」
この身に満たす怒りは、あの子を喰い物にした邪神と外道へのもの。聖なるかなと讃美歌のフレーズを口にすれば、ギュスターヴの頸木が外された。
「……これより、怒りのままに星の力を振るうことを赦したまえ」
彼の周囲で柔らかな光を放っていた『Cierges de dévotion』の炎が揺らいだ。より明るく、より熱く。清浄な灯りに当てられた少年から、邪神の片鱗が顔を覗かせる。
「嫌だ! 消えろッ!」
血の刃が放射状に放たれる。回避困難なそれに猟兵が傷付けば、――少年も『心』が傷付くだろう。
「正気に戻った時に、悔やませない。……って言うのは簡単だよな」
だが、オレなら出来る。莞爾として歌うはカンタータ。多少音を外したところで、後で笑い話にできるのならばそれでいい。
(「全部壊れろと願うなら、呼び起こした破壊の嵐を壊そう」)
祝福あれ。祈りと共にサイキックエナジーが込められた魔力の矢は光と熱を生みながら、破壊の嵐に立ち向かう。邪神から解き放とうとするギュスターヴの意志が、荒ぶ刃と拮抗する。
「その嵐は星が受け止める」
――邪神の思惑通りにはさせねえよ。破壊の嵐を、数百の星々が押し切った。ある種の神々しさを覚える輝きが、福音のように少年へと降り注ぐ。
大成功
🔵🔵🔵
天星・暁音
【天星零と連携】
そうだよね
分かるよ。誰も近づいてほしくない
何もかも壊れて消えてしまえばいい
そう思うのに
そう思う筈なのにそんなことしたくないよね
心底からそう思えてしまうのならきっとこの力は宿らない
君の力は全部、僕がもらうから…
安心して俺に任せて
って言っても気にするよ
だから、無理矢理にでも…ね
俺にとっては何時ものことだから、本当に気にすることないよ
だからどうか、これからは君が笑って過ごせますように…貴方の痛みを僕にください
ふふっ…ゆっくり休んで、楽しく生きて、そして君のその優しさが、こんな力がなくても誰かの力になれると信じるよ
戦闘で味方の痛みを引き受けて奪い癒やしボスの力も可能な限り奪って弱体化し援護します
最後には翔太を抱きしめて共苦の力を完全に奪ってしまいます
2度とこの力で悩むことがないように
可能なら翔太を自分の旅団で引き取る方針
説明はUDC組織になげます
力の使い方とかも教えたいし、本人が許すにしてもどちらにも時間は必要だと考えので
組織に任せるでもいいので判断は任せます
アドリブ歓迎UC自由
天星・零
【暁音と参加】
enigmaで夕夜と
零『「全てを壊してしまいたい」ね…』
『そもそも僕はそれをしたことで今があるから』
夕夜「残念なことにいなくなった方がいいやつはいるからな」
全体的な方針は暁音に
基本的に冷酷に判断
助かるなら
男の子に対しては
『君が助かる過程で何人もの人が傷ついた
それは仕方ないこと
だから、君が今度は誰かを助けられるようになりなね。
これからは君次第』
戦闘
指定UCと
『生贄なんてイドーラが受けた魔女裁判みたいだね
あっ、なんなら僕も似たようなものか』
『とりあえず…あの男の子を助けるよ』
暁音に負担がないよう指定UC+夕夜、零で動く
一応、第三者が来ないように気を配り状況を見ながら
戦い方はノベル時とほぼ同じ
零は通常時は涙絆、虚飾、Øなど
悪霊の姿になる時は→ Øが虚鏡霊術で作った斧(見た目は全身図参照。鏡ぽくない)、話し方が子供っぽく
基本的に男の子を助ける目的なので必要以上の被害は出さない
邪神だけを狙えるならその時は容赦なく
アンダーヘイルは所謂、犬猫のように固有のものを指す名で、名前はイドーラ
どうして、と『秋山・翔太』は言った。誰に問うでもなく、恐らくは独り言で、答えなど求めていないとばかりに耳を塞ぐ。それでも邪神の甘言が苛むのだろう、時折いやいやと首を横に振る仕草は酷く幼い。
「全部全部、壊れて消えればいい、なんてっ……どうして」
願わずにいられないんだ。掻きむしるように抱えた頭から血が流れた。
「『全てを壊してしまいたい』――ね」
その身に宿る邪神に心身を委ねてしまえば、その願望は容易に成せるだろうに。天星・零はそう思ったが、口に出す事はしなかった。きっと彼にその選択肢はないからこその、今の状況だ。
「……まあ、善性を失わずにいられるのは幸運だったのかもな」
こうやって猟兵の救いの手が間に合ったのだから、と夕夜が言う。これが邪神に迎合して易々と身体を明け渡していたら、猟兵達に任される仕事は少年の討伐となっていたかもしれないのだ。
「そう、幸運だった。今回は、だけどね。ただ耐えてるだけじゃ今後も搾取されるだけだよ」
「……知った、ふうな口っ、きかないでよ!」
これまで刃を形作るばかりだった血液が、少年を包んでいく。身を守る鎧というより、彼を閉じ込める殻に見えた。これも彼なりの拒絶の形なのかもしれない。
「知ってるよ。……そもそも僕はそれをしたことで今があるから」
零が物思いに耽るように遠くを見つめたのを隙と捉えたか、少年の身体から夥しい量の血が噴き出した。迫りくる血の刃を夕夜は『Ø』の一振りで打ち消して、苦々しく笑う。
「残念なことに、いなくなった方がいいやつはいるからな」
綺麗事ばかり並べても仕方ないもんな。夕夜も零も腹を割って話している事が伝わったのか、微かに嵐の勢いが弱まった。天星・暁音が歩み出た事に気付き、少年は「来るな、消えろ」とがなり立てる。
「そうだよね」
「っ、そうやって、わかったふりして」
「分かるよ」
穏やかに、だが芯のある強い声だった。暁音があまりにも真っ直ぐ見つめるものだから、少年は気圧されたように口を噤む。
「誰も近づいてほしくない。何もかも壊れて消えてしまえばいい。……そう思うのに」
自身に巣食う邪神のせいにしてしまえば罪悪感を抱かなくて良いのかもしれない。けれどそれを願っているのは他でもない自分で。
「……そう思う筈なのに、そんなことしたくないよね」
相反する願い。そんな矛盾を暁音は代弁する。自身が嫌と言う程味わった苦悩を口にする。理解者との邂逅に秋山・翔太の顔が驚愕に染まり、――瘴気に満ちた血の刃が吹き荒れた。
「違っ、僕はっ」
錯乱しているのが見て取れ、少なくともこの攻撃は少年の意思に反しているように思われた。どうも少年を奪われまいとして、邪神が不完全な力を揮っているらしい。まあ、そうなるよね――困ったように笑って、暁音は一歩、また一歩と少年へと歩み寄る。
「来るな! ……さっきからなんなんだよ! 消えろよ!」
「心底からそう思えてしまうのなら、きっとこの力は宿らなかったよ」
拒絶を叫ぶ度に傷口が開き、少年の肌を血が伝う。だが彼は異変にはたと気付き、己の身体を見下ろした。
「……いた、く……ない……?」
邪神に肉体を奪われたわけでもないのに、痛みを感じない。すぐに理由に思い至った少年は、暁音に顔を向ける。
「なんで、そんな」
少年と全く同じ位置の皮膚が真っ直ぐに割れた暁音は、同じように血を流して微笑んだ。少年と同じく瞬く間に傷口が塞がっていくが、――同じ力であるのなら、同じだけの痛みもあるはずで。
「……君の力は全部、僕がもらうから」
何でもない事のように言う暁音に、少年は愕然とした表情のまま首を横に振った。既に自分と同じ力を有していながら、更に背負い込もうというのか。
「安心して俺に任せて……って言っても気にするよね。だから、無理矢理にでも……ね」
暁音の手が伸ばされて、少年は身体をびくりと強張らせるが、安堵もしている事に気付く。でもこの力を渡してしまえば、この金色の男の子は――秋山・翔太は葛藤する。それは自分が散々苦しめられてきた、他者に痛みを押し付ける行為に他ならない。
『その通りだ。その苦痛は|神《わたし》に任せるべきなのだ、愛しい子』
「あああああ゙!」
暁音が差し伸べた救いの手を払い除けたのは少年でなく、黒く悍ましい何かだった。少年の輪郭がぶれて、重なるような人型の何かがそこにはあった。黒い何か――邪神の片鱗が黒い血の刃を生み出し、周囲に拡散する。無作為に放たれたように見えたそれが向かう先は、――物陰で震えていた少年の両親だった。
「あはは、苦し紛れもいいところだね。今更そんなの生贄にしたところで無駄だよ。焼け石に水ってやつ!」
霊力で作られた戦斧が横薙ぎに振るわれ、邪神の攻撃が霧散する。白い仮面に覆われた零の表情は窺えないが、からからと笑い声を立てる様は嗤笑の類でなく、ただただ楽しそうだった。
「それにしても生贄なんて、イドーラが受けた魔女裁判みたいだね」
『そうね。生贄はいつだって、弱い者が選ばれ、差し出されるものなのよ』
「あっ、なんなら僕も似たようなものか」
いつからそこに居たのか、零は傍らの女性へと話し掛ける。下半身を鱗に覆われた彼女は柔らかな表情で零と話していたかと思えば、次の瞬間には驚くほど酷薄な色をした瞳を邪神に向けていた。
「とりあえず……あの男の子を助けるよ」
『ええ』
イドーラと呼ばれた彼女が長い体をくねらせ、刃の嵐の間隙を縫い、音も無く邪神へと忍び寄る。無数に放たれる血の刃の尽くが、彼女の燃え盛る熱線によって消失していく。
「生贄がないとこの程度か。それで神を名乗るのは僭称ってやつだと思うぜ」
夕夜の『Punishment Blaster』が火を噴いて、邪神から零れた瘴気が押し返される。戦いの形勢は圧倒的に猟兵の流れとなっていた。泣きじゃくる少年に、暁音はにこやかに話し掛ける。
「ほらね。俺達、強いでしょ?」
「でもっ」
「俺にとっては何時ものことだから、本当に気にすることないよ」
「いつものこと、って……気にするよ……っ」
「じゃあ預けて。今はその邪悪な神様もどきを倒さなきゃいけないからね」
もっとも返す事は無いかもしれないけれどね――、暁音は彼が宿した邪神ごと秋山・翔太を抱き寄せる。
「だからどうか、これからは君が笑って過ごせますように……――『貴方の痛みを僕にください』」
暁音は『共苦の痛み』によって引き裂かれるような激痛を一身に受けながら、少年の聖痕に秘められた力を、邪神の力諸共収奪する。秋山・翔太の力を得た事で、暁音には邪神の姿がはっきりと見えていた。
「零、お願い」
「うん、僕にも見えてる」
少年を抱き留めている暁音に代わり、零がひらりと躍り出た。召喚された信徒を引き連れ、イドーラと共に霊力の斧を振り下ろす。
|目覚めなさい《タリタ・クム》と邪神が呼び掛ける。救世主『だった』少年は応えない。幕引きは存外呆気なく、少年に直撃したイドーラの熱線は邪神だけを灼いた。残された少年は実感が湧かないのか暁音にしがみ付いたまま呆然としていたが、顔色は幾分良くなったように見えた。
「ふふっ……ゆっくり休んで、楽しく生きて、そして君のその優しさが――こんな力がなくても誰かの力になれると信じてるよ」
ごめんなさい。正気に戻ってからというもの、何度も猟兵に頭を下げる翔太の前に零が屈む。
「君が助かる過程で何人もの人が傷ついた」
「……はい」
「でも、それは仕方ないこと」
顔を上げた少年と目が合い、零は少しだけ口元を緩めた。
「だから、君が今度は誰かを助けられるようになりなね。これからは君次第」
零の言葉を受けて、翔太は暁音と向かい合う。もう謝罪は口にしなかった。
「ありがとう」
「どういたしまして。……ところで今後どうするの? ――俺達と一緒に来る?」
既に保護出来る組織は確保しているし、このまま自分達と一緒に来てもいい。暁音の申し出に、翔太は――暁音の手を取った。
「翔、」
今更になって親らしい顔をした翔太の両親を夕夜が阻む。
「――他の猟兵から聞いたんだけどさ、お前ら子どもを学校に通わせてなかったんだって?」
「ちゃんと人間の司法に裁かれてね。然るべき機関には通報済みだから」
項垂れる二人を横目で見やり、零は翔太に視線を向けた。両親に支配された世界から旅立つ彼は、暁音に手を引かれ、眩しそうに目を細めていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2025年07月06日
宿敵
『秋山・翔太』
を撃破!
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