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望んでいるわけでは、ないのに。
●破局思考
夕刻の駅前のロータリー。帰路を急ぐ人、まだ話し足りない学生達、駅周りの居酒屋のメニューボートの前で思わず足を止めるその人は復興作業の帰りだろうか。
そこに、そこに――。
電車から降りた人々を更に家の近くまで運ぶ筈のバスが――ああ、運転手はどうやら意識を喪っているらしい。
違う違う、と、商店主は|頭《かぶり》を振った。|なんで《・・・》? |こんな事を妄想してしまうんだろう《・・・・・・・・・・・・・・・・》。そんな悲惨、決して望んだりしていないのに。
妄想も疑問もわずかのことだ。何となく胸に燻る不安感には蓋をして。チェーン系列の居酒屋には負けられない。小料理屋とまではいえないけれど、誰も見ていない下らないテレビバラエティーの音をBGMに、瓶ビールの一本と手作りの惣菜たちで、今日も常連の一日を労う、それが彼の仕事なんである。
空のビールケースを店前のいつものところに置きにきただけ、さぁ戻ろう、とした彼の目に映る山々。|あそこ《・・・》からバスで降りてきた連中も今日は来てくれるかしらん、と思うと同時。
今はまだ、|彼の脳内でだけ《・・・・・・・》決壊を起こす――山の中のダムの姿。
●
私から見るととても煌びやかに見えるのですけども、と前置くグリモア猟兵は『|エンドブレイカーの世界《中世ファンタジー風》』と呼ばれる世界の出身で。
「赴いて頂きたいのは、ケルベロスディバイドの、ダムの麓の町。ダムというのは、もの凄く巨大な溜め池……あぁ、それは皆さんご存知なのですね。
何といって観光地などないようです。駅と呼ばれる場所の回りに商店街があって、田畑があり、あと学校。そして家々の間に公園など点在するような」
つまり、極普通の片田舎の街だと謂うことを説明しながら、エルンスト・ノルテ(遊子・f42026)は集まってくれた猟兵たちに続けて頼んだ。
「ダムというのが相当に大事の建造物らしくて、その麓たる町も先の大戦の被害がゼロとはいえず。建物が崩れて田畑に瓦礫の入ったり、若い方々も学業の再開に至らず学校や町を掃除をしているそうです。
そんな風なので、出来たら復興の手伝いをしながら……待機していただきたいのです」
ここまでの、あまり知らぬ世界の説明に苦慮する淡い笑い顔から一転、目を細めて表情を引き締めて。
「ダムの破壊を諦めきれぬ|残党《デウスエクス》が、現れます」
どんな、と誰かが問えば、それが――と言葉を濁して。
「予兆の中の姿が、一定でなく……、人々の気持ちを利用するタイプの敵かと。
……ケルベロスディバイドは長く強大な相手と戦い続けている世界かと見受けます。それに負けず立て直し続ける人々はとても強い、強いが、それ故に――ほんの少しの不穏の妄想、漠とした不安を誰にも言えず黙って抱えていても可笑しくはない」
再び顔を笑顔にして、だから、とエルンストは言う。
「復興作業を手伝ったり、或いは街にはカフェや飯屋もあるようですから散財で貢献したり、ね。そんな中で当地の方と言葉を交わしてあげてくれませんか。
本当に市井の方々です、愚痴を聞いてあげるでも良いし。今日の夜は何を食べたい、落ち着いたら何をしたい。そんなささやかな希望を聞いてあげたり。音にして耳にすれば人はそれを活き活きと、自分の胸に思い描けるものですよね」
きっとそれが、続く残党戦で皆さんの力ともなってくれるはずだ、と。
言うべきを語り終えたエルンストの手の中で、グリモアが輝きを増す。
「そうして描いた未来を、皆で実現してまいりましょう。
その為の第一歩を、宜しくお願いします」
紫践
県民は誰も心霊スポットと思ってないが、
YouTubeでは心霊スポット扱いされている。
そんなダムの麓住まい、紫践と申します。
●戦後シナリオ
ふっと、悪いほうを考える、を利用するデウスエクスが参ります。
いつ来る等は気にしていただく必要は今回ございません。二章で遅れることなく対面できます。
一章は市街地探索です。
掲示のPSWは余り気にされずに、ご自身が何をしたいかを大事にしたプレイングでご参加ください。
二章は集団戦です。
敵は破局思考を破滅思考へ導くタイプで、かつ、破滅志向の強さが力となるタイプです。
ダムは水場でもありますし、現在の予兆の主な姿は『竜』となります。
一章の感じが上手くいけば、出会ったときには現実にいる爬虫類にグレードダウンしているかも。
以上です、宜しくお願い致します!
第1章 日常
『市街地散策』
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POW : 歩き回って、見て回る
SPD : 走り回って、声を出す
WIZ : 室内に入って、調べてみる
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エリー・マイヤー
崩れた家屋、荒れた畑、傷ついた街並み。
それでもここには残っている。
活気も、希望も、尊厳も。
まったく、うらやましいことです。
さて、ボヤいてないでお仕事お仕事。
今の私は、DIVIDEの指令をうけてやってきたケルベロス。
ってことにして、復興作業に従事します。
細かいところは、たぶん長官がほどよく調整するでしょう。
【念動ハンド】で見えない手をたくさん出して、色々やります。
ゴミ拾いに、瓦礫の撤去に、危険な高所の作業に。
人の手は、いくらあっても困らないものです。
話を聞くのは、得意ではありませんが…
まぁ、ため息をついている人がいたら、愚痴くらいは聞きましょうか。
吐き出せば、多少は気が楽になるものです。
●|重なる《レイヤード》
瓦礫や纏められたゴミ袋が、|独りでに浮いて《・・・・・・・》回収に来た白い軽トラックの荷台に積みあがっていく。
「すげぇええええ!!」
「浮いてるー! ちょ、センセー、動画取りたいっ!」
「でもゴミ撮るってさぁ、どーなん?」
「そこにケルベロスさんと皆で立てばよくない? 先生撮ってよー!」
「センセー、美人のおねえさんと並んで動画とるチャンスって!」
「やっかましい! 手を動かせ手をー!!!」
高校生達の感嘆と爆笑と教師の怒号と入り混じり響き渡る畑。勿論、ゴミが独りでに浮くわけがないので、それはケルベロスさんと呼ばれている美人のおねえさん――エリー・マイヤー(被造物・f29376)の|PSY-HAND《念動ハンド》のお陰であって。
集積作業の合間、エリーがそれらの声に何とはなし、畑を振り返るなら見通しが良い。騒ぐ学生達の向こうには、田舎の町に浮いて見える突然の巨大な集合住宅の端が大きく丸く欠けた様。駅があった辺りの精々5、6階建ての商業ビルも割れたり欠けたりしていたのを思い出す。
――思い出すから、エリーの胸の裡、図らず重ねる風景。
窓という窓のかけたビルだったものの名残。街というものがかつてあったと示すだけの巨大な墓石群、その物陰で息を潜めて嵐の過ぎ去るのを祈る人々――。
「エリーさん! この車って持ち上げられますかー!」
いつの間に、集積車はいなくなり、一部の学生達が口々、おねえさん、エリーさんと呼びかけてくる。
彼らの顔も格好も土に汚れ。分厚い長靴にゴム手袋。お揃いの、お世辞にも格好良いとはいえない白い二本線の走る臙脂色のジャージ。騒ぎながらも、教師に言われるまでもなく学生たちは手だけは止めずに畑に転がり落ちた車の、まずはパーツであるとか、木片というには大きすぎる砕けた木であったり、残念ながら……壊されてしまった墓石であったりを土から掘り出す作業は止めずにいる。慣れたように。
慣れているのだろう、実際。
何か収穫があるわけではない、マイナスをゼロに戻そうというだけのこのような虚しい作業に。ケルベロスディバイド、この世界の地球に生きる人々も決して優しい道を歩んでいるわけではない。先日それを目の当たりにしたばかりだ。
それでも。
(――それでもここには残っている。
活気も、希望も、尊厳も)
「わかりました。危ないから離れて」
弾ける学生達の笑顔に、淡々と返す言葉の後ろで、うらやましいこと、と零すエリーの心は、それでも不思議と穏やかに凪いでいる。
超技術の結晶たる彼女自身に、何か自覚のあるわけではないけれど。彼女のような存在をどうにか繋いできた|故郷《アポカリプスヘル》の人々は、|何かに間に合ってくれ《・・・・・・・・・・》と、それを為したはずなのだ。
その希望の叶う世界の景色――、間に合う世界を、写す瞳に曇りはない。
●しえんのゆく先
燻らせた紫煙が、畑の向こう、オレンジに染まる街並みに|重なって《レイヤード》。
「あら、先生は喫煙者です?」
生徒たちを帰宅させた教師が、自身の車に寄りかかるようにして一服をする姿に、そう声を掛けるなら、教師が飛び上がるようにして携帯灰皿をジャージのポケットから取り出すから。
大丈夫という代わり、エリーはこの日初めて薄い微笑を作って浮かべ、自身も煙草の箱を揺らして見せた。
立ち上る二本の紫煙。
「……いつまでこういう日が続くのでしょうね」
教師の苦笑に首を傾げるなら。
「あ、いや。都市部に比べたら、ここの被害などはいい方なのでしょうけどもね。子供たちが不憫で」
人によっては、最前線を戦うケルベロス――エリーは便利なのでそう名乗っただけなのだけれど――に対してこのような物言い、責めているようではないかと憤慨するかもしれない、際どい言葉かもしれない。
「……」
故郷を、先の戦争の舞台となった決戦配備の都市を思えば、エリーには豊かとみえるこの田舎町の景色も、今、目の前のことに対処せねばならない教師にとっては、きっと先の見通せぬ毎日なのだろうと察して。誰しもが自分の場所で戦っている事を知っているから、エリーは何も言わない。
「子供達に明るい未来がくるものか、……最近は|嫌な想像《・・・・》ばかりしてしまって」
無言の優しさにポロリと零れる言葉たち。
梅雨に向かうどことなくべたついた空気に、煙の融けていく先だけを見上げ、エリーは言う。
「皆、いい笑顔でした。……先生の教えがいいのかしら」
声色は、常と変わらず淡々と。
だから、言葉は紫煙と同じ――、空に融けいるように、或いは胸に、染み入るように。
大成功
🔵🔵🔵
マキナリ・ウドウ
POW
とりあえず食堂に行こう。異世界に来たときは食事が楽しみなんだ。なんせ俺の世界(サイバーザナドゥ)じゃ合成品ばかりだからねえ。
店主、オススメのものをひとつ頼むよ。俺は猟兵でね、戦争が終わってから各地の様子を見て回ってるんだよ。
まぁホントは戦争どころか、この世界に来るのは今日が初めてだが調子よく言っておくさ。
ほう、悪い想像をしてしまう?
人は最悪の事態を想定し、それを回避するために備える事ができる。そういう力があるんだ。それが今は少しだけ敏感になっているだけだ。じきに落ち着くさ。
ダムが心配なら見に行こう。なに、これも俺達のお勤めってヤツだ。
こんな調子で土産物でも買いながら商店をハシゴしよう。
●
はーい、今日のランチ、おまちどうさまと小柄細身の中年女性が、カウンターに小鉢のひとつだけと少し寂しいしょうが焼き定食を置くならば。
「おぅ、どうも」
気にした風もなく、配膳に愛想よく笑みを返す男。これこれ。|異世界《よそ》に来たときの楽しみなんだよな、と、心から楽しみに、マキナリ・ウドウ(首輪付き・f45204)が箸を持ち上げる。まずは、どうしようか。味噌汁で口を湿すかと、ひと口啜る。広がる温みと塩味。具も豆腐にわかめと何と言って特質すべきこともない味噌汁ではあるのだけど、本物と思えば感慨ひとしお――|サイバーザナドゥ《俺のトコ》じゃ、合成品ばかりだ。
「ボランティアの人? はじめましてだよね」
満足げに白飯を、肉をとかき込む愛想の良さそうな――時にそれは軽薄そうと形容されることもあるのだけれど――|青年《マキナリ》に、カウンターの向こう、厨房から主人がにこりと話しかけてくる。
時間は14時手前、店のピークも過ぎた時間。店の端に据えつけられたテレビからの笑い声が響く。あと2組ほどがテープル席に。まったりとした空気と、女将さんや大将の気安さは、様々の世界で情報収集にも当たっているマキナリには好ましいものに映る。
「そんなとこだよ。異世界からのケルベロスってやつ」
「あらぁ! やっぱりぃ! お兄さんこの辺じゃ見ないいい男だと思ったのよぉ!」
異世界のケルベロスといい男に何の因果があるのか分からなくて、思わずあはは、ありがとうと声を立てて笑ってしまう。民衆からケルベロスは強く支持されているという話は聞いてはいる。実際この世界に来たのは今日が初めてなのだけれど、|データの通り《・・・・・・》だ。
「オマエはどうして言うことがそう雑なんだ。すみませんね、お客さん」
「ま、褒められて嫌な気持ちはしないから」
「トウキョウの方は大変だったみたいですね。まぁこの辺も、……どこもそうかぁ」
有り難いことです、と大将がマキナリにぺこりと頭を下げてくる。何と答えようか、考えて。
「……あちらはDIVIDEに所属のケルベロスが、今復興を頑張っているんでね」
余所者の自分はこちらに応援に来た風に。狙った通りと受け取ってくれたようで、それ以上は追求を受けなかった。女将さんはあらぁもう嬉しいわぁ有り難いわぁと御機嫌だ。テーブル席の客にお茶を注いで回りながらそう話すものだから、マキナリと同世代と見えるその客達も本当本当と頷いて、いやいやと返すマキナリと和やかな応酬のひと時。
その時、テレビが一際、どっと沸いた笑い声を響かせた。
「やってるんだな、こういう番組」
マキナリ含めた皆が釣られたようにテレビを見る。そのままマキナリが問うなら、これは録画ですよと大将が苦笑いで答えた。
「飯食う時くらい、ああいう、……忘れたいじゃないですか」
今、どこのチャンネルみても、お上の指示だとか計画だとか、ああいう話ばかりでしょう、と。
「それなら大将、ご自慢の録画見せてやったら」
テーブル席の一人がからかうように言えば、向かいの一人がオレはもう見たくねぇよと笑う。
「ご自慢?」
「うちに取材がきたことがあってねぇ、ホラ見てあそこ! サイン貰ったのよぉ」
女将の指す壁を見れば、ビニールのかけられた色紙が飾ってある。あの芸人さん知ってる? と聞いてから、ああそうか、|異世界《よそ》から来られたんでしたっけと、女将さんの愛嬌のある自己完結は止まらない。
「なーんか、あれも本当のことだったのかなぁって。あの芸人さんトウキョウのひとだったけど、無事かなぁ」
「いやねぇ、すーぐそういうこといって。ケルベロスの人が頑張ってくれたのにあんまりじゃないの!
この人ったら最近ずっとこうなんです、ごめんなさいねぇ、もう」
「あんだけ何回も録画見せといて本当だったかなぁはないだろうよ、大将」
女将さんと他客は相変わらず朗らかなものだが、マキナリはこれかとピンときて。
真摯に視線を戻すなら、皆はそういうけどさぁと大げさに肩を竦める大将だ。一応どうにか明るく振舞おうとして隠し切れない不安の種のようなものが目の奥にちらついている。
「ずっと、こういうのの繰り返しなもんですからね」
飽き飽きしちゃうっていうか。小さく息を吐いて、大将が続ける。
「もういっそぜーんぶぶっ壊れちゃったらサッパリするんじゃねーかって。
いっそダムもドーンって。決壊でもすりゃ、綺麗、サッパリ……」
馬鹿なこと言って、と誰か言い出すのじゃないかという予想に反して、降りる沈黙。明るく見えた女将だってそう。繰り返される破壊と再生に、誰しもが疲れ果てているのだとマキナリは知る。
「そういうことを考えるのは、最悪の事態を想定し、それを回避するためにだ。
――備える、人の生まれ持った力」
人にはそういう力があるんだ、とマキナリはゆっくり、噛み含めるように、全員に聞こえるように言う。
「俺なんかは、特別力のあるように見えるかもしれないけれど。だからって生き延びてこられたわけじゃない。大将たちと同じ力でここまで生きてきたんだ。人の持つその力で。
大将たちは立派さ。なんだかんだと、そうやって様々を想定して備えて。諦めずに戦って生き延びてきたんだ」
それで今日、俺たち戦いに明け暮れる者同志で旨い飯を食う機会に恵まれたってわけだ。言い切ってから、少し冷めてしまった味噌汁を飲みきって、マキナリは笑顔を見せる。
「……アタシたちなんかは、そんなそんな!」
優秀なカンパニーマンとしてのマキナリが選んだ言葉でもあるし、人々のために命をも張る猟兵の心からの言葉でもある。音よりも実際は複雑なマキナリの励ましに、はにかんだ様に笑う女将が、調子を取り戻し始める。もう、ケルベロスの方にそんな風に言われたら照れちゃいますから、と目の端に滲むものを拭いながら。
この世界この町なりに頑張る大人達。いや、世界の別などないだろう。どの世界にあっても。
お互い様。誰しもが仕方がなくて、当たり前の毎日を繰り返す。褒められることなどないままに。
『貴方は頑張っている』
それでも、衒いのないその言葉を貰えたなら。
「ダムが心配なら、俺が見に行こう」
重要なインフラ施設であるダムがある為に、この片田舎も無事ですまなかったと、住民の誰もが理解しているから、先のような妄想も出るのだろう。その大将たちの考えは実際正しい。
「そう、ですね。あそこが何ともないなら――、実際はひと安心だから」
「なに、こんなことになったから、心が敏感になっているだけだ。じきに落ち着くさ」
だけどマキナリは嘯いてあげる。彼らの為に。
ケルベロスの方が確認に行ってくれるなら心強いよとテーブル席の男がいうなら、そうだろ? とマキナリは微笑んでからごちそうさんと席を立つ。
おあいそ、と告げればぺこぺこと頭を下げながらレジスタに回りこんだ女将が、最初と変わらぬ笑顔をみせた。
「すみませんねぇ、ほかの事で来られたのでしょうに」
「今日は旨いお勧め食わせてもらったからお礼さ。|俺達《ケルベロス》の|お勤め《サービス》ってヤツだ」
店を出るマキナリの背に再び明るい女将の声が掛かる。帰りはまたおいで下さいね、サービスしますから、と。
その言葉に軽く手を上げて応えるに止め、マキナリは見上げる。街並みの向こう、今はみどり豊かな山と見える、そこにあるはずのダムの姿を――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『病魔・破滅願望症候群』
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POW : 世界はこの方が滅ぼしてくださる
無敵の【自身が崇拝するデウスエクス】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD : お前達が否定してくるのなら……!
自身が【拒絶感や拒否感】を感じると、レベル×1体の【崇拝するデウスエクスの尖兵】が召喚される。崇拝するデウスエクスの尖兵は拒絶感や拒否感を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ : 我らが神に祈りましょう
レベルm半径内を【病魔が活性化する領域】とする。敵味方全て、範囲内にいる間は【世界を滅ぼす・デウスエクスに協力する行為】が強化され、【世界を守る・デウスエクスに敵対する行為】が弱体化される。
イラスト:こおりおこ
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●偽装
ダムの周りは石に満ちている。
ダム底にあったかつての村落から上へと移動した墓石群、地蔵の為の小さな三角屋根、更に進むなら突然山側の木立に古びた小さな鳥居が見えてくる。石の下で眠るもの達が大事にしてきたのだろう山中の小さな社へ続く急すぎる階段は今は殆ど登るものもないのだろう。草と苔の緑がいっそ階段の石肌を白く見せる錯覚――。
大きなものなら、○○トンネル開通記念碑、帰郷の碑、□□ダム竣工記念碑。訪れたことのない者にも|想像のつきそう《・・・・・・・》な|石《メッセージ》が、あちらこちらと。
そうしてこれらの石というのは、初めて訪れるものは勿論正解の配置を知らず、それでいて、通勤に物流にと毎日の車窓から風景を見ている者は『あれ、こんな石のあったかしら』なんて、|思いすらしない《・・・・・・・》ものだ。初めてのものはダム湖の大きさ、水仕切る人造の石壁の堅牢に感嘆し、仕事のあるものは今日の業務に思い馳せながら通り過ぎるだけの場所。
点在する石たちは、そこに、《在る》《ありえる》が故に誰の心も捉えない。
それが、肝だった。
山肌。申し訳程度の苔むす小さな瓦の三角屋根。三面の古びた木の壁。|見た目だけが《・・・・・・》充分古びたそこに置かれた巨石の下が、雨でもないのにじゅわり、じゅわりと湿っていく。
《 偉大なる
偉大なる
偉大なる 》
刻まれた溝に僅かに残る墨のように、ゆるゆると染み出すどす黒い水分はいまや水溜りのよう。ふやかされた地面では石の重さを支えきることが出来ず、今は遠く|宇宙《そら》にいる賢人を讃える|言葉《いし》を音もなく飲みこんで、代わり、ゆらりゆらりと立ち上がるのは、|鎌首をあげる蛇《・・・・・・・》にも似た黒き水、そのもの。
だが、ああ。
水たちの、石を、祠を、割り砕くほどの水勢を得られなかったのは――。
マキナリ・ウドウ
仕事熱心だねえ。だけどアンタらの上司はもういないんだろ。宇宙に帰ったらどうだい、エイリアン君?
にこやかにデウスエクスに言葉を投げよう
ヒート・ノコギリを起動して刃を赤熱させる。ついでにその刀身にドーピング・タバコを押しつけて火を付けて吸おう。
挑発はこんなもんでいいか。
俺は敵が召喚してくる尖兵相手に防戦しよう。いや、普通に数の暴力に潰されそうなんだが
急いで離れた所に待機させていた戦車に通信する。撃て。
UC【機巧の守護者】。『Pi』と返事と共に戦車からミサイルが発射される。それを敵本体に誘導、着弾させる。できるだけダムへのダメージは最小限に抑えよう
ミサイル代は後でDIVIDEに請求しないとな
●駐車場
「仕事熱心だねえ」
誰もいない、一台の車も見えぬその広い広い駐車場に響き渡る声。
マキナリ・ウドウ(首輪付き・f45204)の言葉は、それでも、届けるべき相手に届いている。
夏の初めの濃い青空を映すこともしない不自然の黒い水溜りは、管理所へ向かう動きを止めた。太陽光でそうはなるまいに徐に蒸発するかのように立ち上る黒い靄。その中に幾つも輝く赤黒い光こそは、|彼ら《デウスエクス》の単眼であり、靄はやがて金属質の鱗を得て――。
その様子に興味のあるやらないやら、マキナリが胸ポケットから取り出した煙草ケース。うちの一本を、ケースにトントンと軽く打ち付けた。悠然とケースを仕舞うなら、今度は傍ら、アスファルトに突き刺してあった丸太用と思えるようなあまりに太いノコギリを事も無げに持ち上げる。鋸の刃が視界を遮らぬ角度で赤熱するそれを熱源に煙草へと手早く火をつける。
その角度が、一連のよどみなさが、なんとも、手馴れていて。
はぁ、と吐き出される煙。くつくつと笑うマキナリ。俺の調べじゃ狐狸の化かしならこれで消える筈だったんだが。残念だと、そう嘯いて。
「アンタらの上司はもういないんだろ。
……宇宙に帰ったらどうだい、|エイリアン君《・・・・・・》?」
呆れか苦笑か――或いは共感?
敵が人の心を当てにするならば、事前にすべきは分っている。この世界に於ける自身の便利な立場を最大限に利用して完全な人払いを実行した此方も|仕事熱心な猟兵《・・・・・・・》の一人は、|見《まみ》えた敵へ、そう、にこやかに宣戦布告した。
●拒絶
帰ったらどうだい、エイリアン君――軽い響きで告げたそれは、実際選び抜いた言葉である。彼の者達はチカラではなく数でそれを為そうとするタイプ、集団であると聞いていたから。
引き出せるだけを引き出して、こちらで始末する、大いに勢力を削ぐ。
その為に選んだ《挑発》の言葉。
それが、マキナリの思う以上に、彼らに刺さったことを、知る。
「何故拒絶する?」
ゆらり鎌首擡げた単眼の黒蛇たちのどれかひとつだろうか、それとも一斉にだろうか。
「あの方の――、トリスメギストス様の叡智と破壊を何故受け入れぬ」
口だけは一斉と開けながら、たった一つの声色に怒気を滲ませて。
振りぬくヒート・ノコギリがその触手を切り抜くなら、今度こそ水蒸気があがる。視界を確保する為、その蒸気すらも斬るように、割るようにして駆け抜ける。一瞬だって足の止められない状況。ボトリと落ちた先端は見る間にアスファルトに吸われて黒いシミとなって、マキナリの軌跡を伝えている。
チッという舌打ちは音に。
(……さすがに、数が多い)
思いは胸の裡だけで。先ほどからマキナリは確かに紐状のものを斬ってはいる、いるのだが、それは|異星人《エイリアン》ではなくて、彼らが讃え、乞うて召喚される『トリスメギストスの触手』たちだ。
たった一人で――グルグルと彼らの周りを走り抜けるばかりの状況。
斬られた触手の残す軌跡は外へ広がる螺旋となって――圧されるようにして、|円の径が広がっている《・・・・・・・・・・》事実をみるから中心点の蛇が嗤う。
あがるマキナリの息遣いは、それでいて彼らまで届くほどとなっているのだから。祈り動かぬ蛇たちと駆け抜け武器振るうマキナリと、体力の消耗を考えるなら。
そうしてついに、今その頭と胴を切り離さんと振られた触手を切り裂いたマキナリの足首を、別な触手が掴む。
「――グラビティ・チェインは我が神にこそ」
●
山という地形は、都合がいい。開発された山というなら尚のこと。長距離運転者の為に、あるいは山林に纏わる様々の管理者の為に用意された簡易の駐車スペース。そこに覆いかぶさるような山の木々。
だから、それを置いておくことは、とてもとても簡単だった。
許された最大距離20,164M、そのすべてを使う必要などない。それよりも近く。そして高所から。つまりより高精度に。
|主《マキナリ》と電脳ネットワークによって繋がるその《戦車》が、ターゲットに正確に円の中心点――沸き立つ蛇を捕らえたなら。
『Pi』
その威容に似つかわしくない可愛らしい声をあげた。
●
「……アスファルトが割れた位で済んだなら、いいよな?」
伏せて爆発に備えたマキナリは、ごろり転がるとぐっと上半身を起こして胡坐をかく。
見遣る先、敢えて離れていった円の中心点である『着弾地点』は、最早蛇の鱗の欠片もわからぬようにして。割れたアスファルトというには、しっかり抉られていたが、それこそ一般人には|想像もつかぬ《・・・・・・》厚みをもつコンクリートは戦車の放つ一撃を見事耐え抜いてくれた。
修繕費の請求はDIVIDEに出せよと言わないと。なんて生々しい事を考えながら、埃まみれのシャツ、その胸ポケットから煙草のケースを取り出して。トントンと、先端を叩く意味のない儀式。
「俺も弾代の請求書、書くか」
安くねぇんだからと、すっかりつぶれて平たくなった紙巻の一本に、そしてマキナリは火をつけた。
成功
🔵🔵🔴
エリー・マイヤー
なるほど、破滅願望は病気の一種ですか。
…うちの世界にも、そこそこ蔓延してそうなのがイヤですね。
病魔として物理的に倒せるというのは、何とも便利で羨ましい。
まぁ、今はどうでもいいことですね。
お仕事お仕事。
サイキックエナジーを放出し、【念動サークル】を形成。
うっかり残ってる一般の方々には逃げてもらいます。
そして、敵病魔と召喚された尖兵の位置を把握。
適当な尖兵を念動力で掴み、振り回して敵にぶつけて攻撃します。
便利な鈍器兼盾ですね。
まぁ、途中で消えるかもですが、そうなったら別のを掴みます。
そうして尖兵を蹴散らしつつ、隙を見て敵病魔にも叩きつけて攻撃です。
尖兵が尽きたら、念動力で直接捻り潰します。
●操作卓
いつの間に同僚たちは何処に行ったのだろう?
さっきから此処にいてはいけないような気がしている。可笑しいじゃあないか。そんな職務放棄は許されない。だからボクは――ボクは、操作卓のひとつひとつを確認する。
クレストゲート。アレの開く様を見たことあるか?
大雨の続いて、人々の此処に来れないような日には。慌しく入る気象予報、下流の川の水位情報、上昇し続けるこちらの水位、遂に出される放流の判断。そうしていよいよゲートは開き、飛び出していく水たちの、その暴力的で、あまりにも圧倒的な。
何もかも、全てを飲み込まんとするあの奔流を、今――。
●
これが最後と震える指先を、つつみこみ、止める白い手。
「こんなことしたいわけじゃない、そうでしょ?」
突然の背後の気配に弾かれたように男が振り返るなら、果たしてユウレイなどではない、青髪の女性が足もしっかり立っていて――。男は先ほど女性に包み込まれた右手の感触を左手で追うように、庇うようにしながら、叱られる子供のよう、しどろもどろにいう。
「あ、違く、て。あの、ボクは」
違うんですと、繰り返す。何が違うか分らないとエリー・マイヤー(被造物・f29376)は思う。この男はダムの水を押し止めるクレストゲートを開けようとした、それだけ。
こちらを振り向いた一瞬だけは普通に驚いた様子だったその顔は、今更何がばれるのを恐れてか焦ったように操作卓をちらり確認し、広いガラス面、その向こうの人造の湖面を眼にすると、再びうっとりと濁り始める。
「凄くて……。ね? 凄い量でしょう? 水が、凄い勢いで、それで」
ボンヤリと|取り憑かれた《・・・・・・》様子の男。
「ええ、そうね。貴方はそれを見たくなった」
さぞ、壮観でしょうねと感慨なく加えられる一言。
(なるほど、破滅願望は病気の一種ですか)
強大な力というものは、恐怖と感動の両方を人に与える。禁忌のチカラ。恐ろしいのに目が離せない――それがどんな結果を導くのか、考える事を放棄させるほどの魅力と威力。これならば、何かを、全てを一変させてくれるんじゃないか、根拠のない妄想だけが先行して。
エリーを拝むようにした、何処かの誰かの、勝手に見出す希望の、そして――。
男の瞳の中、人の手によって湛えられた豊かな水と、エリーの瞳の奥の、荒涼の砂に埋もれた都市の残骸の姿が交差する一瞬。
「……私は構いません、|お仕事《・・・》ですから」
強引に腕を取り、操作卓から引き剥がすように入口のドアへと容赦なく男を投げ飛ばして、操作卓を庇うようにエリーが立つ。
チカラの発露はこの敷地内をサーチする。弱者は留まれず場から排され、残る強者の位置をエリーに知らせる『念動サークル』の中にいて、今だこの場に留まっていられる一般人は、つまるところ既に敵、デウスエクスの支配下にある人間なのだ。
「その人ごと、|貴方《・・》を握りつぶしても」
実際、彼の腕は折れたろうとエリーは思う。その容赦なさが示す人質の価値のなさ。それは一種の拒絶でもあっただろうか。そうして、それ以上にエリーの思う通り――自分ならそうするという意味で――先ほど程度で折れて呻く人間の体の脆弱を嫌ったのだろう。
座り込んで動けない男から立ち上る黒い水蒸気は、赤き単眼の黒き大蛇となり、また、トリスメギストスの触手となって――具現する浅はかな願望、浅はかな妄想。ただそこにいて、誰かを何かを乞うて、世界の変じるのをみたいと夢見るばかり。
そこでエリーも初めてうっそりと目を細めた。
「……病魔として物理的に倒せるというのは、」
何とも便利で羨ましい――。
成功
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