ツミ重なる重なる
●積み
「ぷっきゅー!?」
それは馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の屋敷の一室から響く悲鳴めいた鳴き声だった。
勿論、巨大なクラゲ『陰海月』の鳴き声である。
彼が他世界であるケルベロスディバイド世界の大いなる戦い、ケルベロス・ウォーから戻ってきた時、部屋で目の当たりにしたのはいくつもの段ボールの箱であった。
山積している、というのが正しいだろう。
さながら城壁。
茶色の段ボール城壁が出来上がっていたのだ。
「きゅきゅー!?」
彼からしてみれば、一体何がどうなっているのかという状況なのだろう。
一ヶ月丸々屋敷を留守にしていたのだ。
当然、多くの荷物が届いただろう。
置き配をお願いしているのだとしても限度というものがある。
玄関口に置きっぱなしにしているわけにはいかないというわけで、留守を任せていた『夏夢』が『陰海月』の部屋に運び込んでいたのだろう。
ありがたい話である。
しかし、これだけの数。
覚えがない。
いや、覚えしかない。
これは全て『陰海月』が予約注文していた新作プラモデルなのだ。
「きゅー……」
新商品に再販品。
あれやこれや諸々である。
前倒ししていたり、遅れていたものが一気に5月に集中してしまった結果であった。
「きゅー……」
こんなことになるなんて、と『陰海月』は途方にくれていた。だが、途方にくれていても、この段ボールの山は片付かないのだ。
それに急かすにように二又の猫『玉福』が『陰海月』の足元によってきている。
「にゃー」
「きゅ」
早く段ボールをよこせ、と言わんばかりである。
猫とは四角い箱を見ると入り込みたくなるものなのだ。
「きゅきゅ」
とにもかくも開封しなくては始まらない。
いざ、ダンボールカッター!
じゃんじゃんばりばり段ボールを開封すれば、待望の新商品が飛び出してくるではないか。
あれもこれもみんな楽しみにしていたものだ。
ケルベロス・ウォーはどれも大変な戦いだったけれど、思いがけないご褒美がもらえた気分であった。
「にゃあ」
『玉福』が空いた段ボールに身を滑り込ませて鳴く。
なかなか悪くない、という具合なのだろう。
その様子を見ながら『陰海月』はせっせと段ボールからパッケージされた箱を取り出しては喜びの声を上げる。
さあ、どれから作ろうか?
嬉しい悩み。
パッケージを眺めているだけでワクワクしてくる――!
成功
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