ケルベロス・ウォー⑧鎧か、檻か
●無い筈の殻に篭る。
「俺は賢いっていうのが何なのか、もうよくわかんないスわ……」
自分の愛銃のタンクを椅子がわりにして。肩を竦め、自身もどこか海月めいたグリモア猟兵はいう。
「まぁね? クラゲがヤドカリの発想を得たって意味じゃ賢いかも? けど、それで宇宙一賢いは誇大広告でショって。オレ達は公正公平な宇宙市場を護るため、誇大広告を許さないマンとして戦わないといけないんスよ!」
|十二剣神《グラディウス・トウェルブ》『聖賢者トリスメギストス』――あの巨大クラゲと!
1人盛り上がり、立ち上がって固めた拳をプルプルと掲げ上げながら、ヒカル・チャランコフ(巡ル光リ・f41938)がいう。アレの話しをしていたんだ、やっと話が判った猟兵の数人が立ち去ろうかとしていた足を止めヒカルをみた。
つまり、戦場に送ってくれるのだな、と理解して。
●それは身を守る鎧か、それとも己を囲む檻となるか。
既に聞き及んでいるか、拳交えたかという先輩もいるかもしれないが、と前置いてヒカルが続ける。
「今まで決戦配備してたやつの中に、|聖賢者《あっち》の部下? スパイ? がいて。
そのせいで『ディフェンダー』って呼ばれてる決選配備がパクられてて。それを身の周りに置いてね、硬くなったわーってゴキゲンしてるンすよ、トリス……トリスメギス、トスが!!」
長い名前を思い出せてドヤ顔である。
「気ぃつけてもらいたいのが、何をパクッたかの話で。『グランドロンロボ』ってヤツなんスよ。
オレらが追い詰めてる、アイツが追い詰められてるからと思うんスけど、この状況で頼りになりそうなカチカチ感に惹かれたンか、オレがみた予兆の街じゃそれを回りに並べまくってたんで」
金属妖精――グランドロンが謹製のロボ、それ自体も脅威であるし、先ほどからヒカルがヤドカリの発想といっていた通りで、場合によってはそれを身に纏ったり、投げたりと敵は最早生き残る為に手段選ばぬつもりのようだ、と告げる。
「なんで、ひとつはコイツをどーにか直接処理ってぶん殴る、になりますよね」
それか、と加えるのは。
「もうひとつは、他のポジションの決戦配備は変わらずこっちで動かせそうなんス。自分で扱い方に見当つくとか、現地の種族の人と交流持った先輩は応援頼むとか? それで相殺狙ってから叩きいくか」
この辺りを押さえておくと戦いやすいのではないか、と告げたヒカルは慌しくそのまま自らのクラゲとグリモアを遊ばせ始める。
「時間ないで、バタバタ申し訳ねーんスけど休憩なし、このままいって欲しいっス!
何が賢者じゃ、チョーシのんな、と! 誰が宇宙一賢いか! 知らしめてやりましょーよ!?」
最初といってることが違うが、言葉に乗せた気迫だけは変わらずに。
そしてゲートは口を開けた。
紫践
クラゲも大好き。
紫践と申します。
今夜貫徹の構えです。
●シナリオとプレイングボーナス。
敵はトリスメギストス+グランドロン。
どちらかだけ対処すればいい、ではありませんので、その点はご注意ください。
プレイングボーナス……トリスメギストスを支援している決戦配備に対処する/決戦都市に残った決戦配備を駆使して戦う。
宜しくお願いしマス。
第1章 ボス戦
『十二剣神『聖賢者トリスメギストス』』
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POW : |決戦配備聖賢者《ポジショントリスメギストス》
全身を【奪った|決戦配備《ポジション》】装甲で覆い、身長・武器サイズ・攻撃力・防御力3倍の【決戦配備聖賢者】に変身する。腕や脚の増加も可能。
SPD : |決戦配備投擲法《ポジションスナイプ》
【侵略機動で奪った|決戦配備《ポジション》】を手または足で射出する。任意の箇所でレベル×1個に分裂でき、そこからレベルm半径内に降り注ぐ。
WIZ : |決戦配備戦場《ポジションバトルグラウンド》
全身に【侵略機動で奪った|決戦配備《ポジション》】を帯び、戦場内全ての敵の行動を【|決戦配備《ポジション》についた武装】で妨害可能になる。成功するとダメージと移動阻止。
イラスト:del
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
メリーナ・バクラヴァ
誇大広告よりも、個人的にはあのベルセルク言語ってやつの聞き取りづらさが気に食わないのですがうぉっほんともかーく!
ディフェンダーを纏っているということは、敵さんにも俊敏な動きは難しそうですね?
よろしい、でしたら我々もクラッシャーを要請します♪
重機の如き丈夫な戦闘ロボ的なものに応援をお願いしまして、纏うグランドドロンロボを強引に引っ剥がしていただきましょうっ!
剥がされかけたその隙間に、影で忍び寄った私が【終幕】の影絵を叩き込んでいきます。
決戦配備の投擲に対しても、【終幕】の影絵は揺らぎません♪
164mの範囲で、影絵を繋いだままアクロバットに動いて翔んで躱していきます!
●
小さな詠唱の声。囲むガジェッティア達の手の内――浮かび上がる白色とも黄色ともつかぬ魔力はパチパチとその表面に小さな雷を走らせる。彼らの中央に鎮座するのは、脇に両輪を抱えた大砲だ。但し、決戦配備に相応しい超大型の。
黒い砲身を覆うは魔力を減衰なく伝える金の意匠。戦中、猟兵の助けを借り、精緻に組み上げられた古代の超兵器が、流し込むガジェッティアの魔力で、今、目を醒ます。側面にあった長さの違う5つの太い蒸気筒たちが高速で斜めに立ち上がり唸り始めるなら、シリンダ機構が、|砲耳《トラニオン》の歯車たちが動き出し、平衡機が徐に砲架を引く――その圧倒的な大きさの砲身を持ち上げ始める。
最前線へ向かう青髪の女性はウィンクをひとつ残すと蝶のように去っていった、勝利を約束して。思い出す笑顔に釣られる様に一瞬細められた眦。
「託しますね、この星の未来」
街から仲間に向き直り、指揮官の位置にあるガジェッティアが声張り上げる、撃ち方用意、と。
――撃て!
配備されていた大砲たちが一斉に、……カプセル状の何かを放ち、そして覗く。
「……3、2、1、弾着――今っ!!」
●今
(ありがとうございますっ!)
メリーナ・バクラヴァ(リスタートマイロード・f41008)は胸の裡で、ガジェッティアの技師達に礼を言う。その表情はだからこの戦況に――グランドロンロボを中に浮かべ、柵のように檻のように纏うトリスメギストスを前にして微笑む。
彼らは確かに弾道ミサイルに載せ届けてくれた。
――ここに立つのは一人でも、私は一人で戦っているわけじゃない、からっ!!
グランドロンロボたちの胸に正確な弾着を見せた金属カプセルは見る間に変形――これもガジェッティアの扱う魔導兵器によく見られる機構だ――を遂げると、サイズは劣るものの、人型――ロボとなってグランドロンロボに組み付いていく。
関節部に取り付くようにするガジェッティアのロボを嫌して剥がんと気を取られ、ジタバタと腕を動かし始めるグランドロンロボたち。ガジェッティアたちがこの最前線に立てぬ以上、事前注入しておいた魔力以上は動けぬとは事前に聞いていたから、メリーナは駆ける。
見上げても視界に収まりきれぬように巨大な青に向けて。巨大さが遠近感を破壊し、ちっとも近づいている気がしなくとも、だ――生んでもらった僅かな機会、必ずやモノにする!
目指す距離――164m。
一方、集中力を欠く壁たちの|様《ザマ》に中央の当代随一の賢者は言う。
「我『聖賢者トリスメギストス』が策略はこの地のグラビティチェイン以外の全てに対する期待を最初から排除しているその品質を要求するものではなくつまり使い途とはこの様である」
中空に浮き、トリスメギストスを囲うロボたちは、ゆるりゆるりと回転を始める。やがて檻は海月の青を、三つの月の様な金を隠す円筒へと姿を変えはじめ――。
(な、何……んもぅ! ベルセルク言語ってやつの聞き取りづらさが気に食わないのですが!)
例の言語に乱れた思考は、うぉっほんと咳払いで切り捨てて。ともかく。
「大柄だと動作がのんびり見えるのは錯覚? それとも実際そうなのですか?」
賢者へ茶目っ気と共にメリーナが問うが地上の全てを見下す賢者から返るものはなく。反芻せねば噛み砕けぬような言葉たち、なくて良かったかもしれない、なんて。
速度に押し出され飛んで来るロボを、かつての経験が教える身軽さでひらり高く、高く飛んで交す。地に突き刺さるロボのその上を更に駆け抜けて、スカートは風に遊ばせ、更に前へと空を駆ける。
(――遅い。そして、|無意味《おしまい》です)
空舞うメリーナが地に描く影。
やがて『彼女の影である事』を放棄し、輪郭がぐずぐずと崩れ、大地を侵食し始めるそれに、漸くと完成した動く円筒に視界を阻まれる賢人は気付いただろうか?
どれほど堅牢な円筒の砦も、飛んでくる弾頭のようなロボたちも、等しく覆いかぶさる|終焉《カゲ》の物語、神をも押し潰すほどの|重厚《おも》さから逃れることは許されない。
舞台の完成を以って、地面へと軽やかに着地を決めたメリーナは、右腕を胸の前に、膝を揺ると曲げると優雅に一礼をする。
そして告げる、演者にしてただ一人の観客、聖賢者トリスメギストスへ向けて。
――さぁ、はじめましょう。
この戦いの『|終幕《フィナーレ》』を!
大成功
🔵🔵🔵
リリエッタ・スノウ
んっ、リリもトリスなんとかをやっつけにいくよ。
グランドロンの人が作ってくれたロボットを奪い取るなんて許せないね。
決戦配備のスナイパーを要請して、長距離ミサイルをどんどん打ち込んでもらうよ。
ミサイルの迎撃にグランドロンロボを使っている隙をついて、【ライトニング・バレット】で攻撃。
グランドロンロボを投げつけようとする手足(触手?)をしびれさせて援護のミサイルと一緒の飽和攻撃でトリスなんとかを仕留めるよ!
んっ、宇宙一賢いとか言ってたけど、賢い人はリリにも分かるようにお話してくれるような人だよ。
※アドリブ連携大歓迎
エリー・マイヤー
硬い物で防げば、自分は無敵。
硬い物で殴れば、敵は死ぬ。
実に効率的で、理にかなった戦法です。
なるほど、聖賢者の名は伊達ではありませんね。
実に見事な知略と言わざるを得ないでしょう。
さて、雑な冗談は程々にして、お仕事お仕事。
決戦配備はスナイパーを要請。
アイスエルフさん達に凍結魔法陣をぶち込んでもらいます。
グランドロンを凍てつかせて、動きを鈍らせましょう。
ついでに触手も凍らせられて一石二鳥です。
私自身は【念動アーツ】で、敵を目指してマッハで突撃。
動きの鈍った機械と触手を躱しつつ、装甲の隙を縫ってぶん殴ります。
見た目ゼリー状で、殴打は効きにくそうですが…
まぁ、凍らせれば砕けるでしょう。たぶん。
●
「我『聖賢者トリスメギストス』は今や全ての枷より解放されベルセルクとして|先に立つもの《ア・プリオリ》として第六のお前達に相対するものである豊かなる叡智がただ唯一の真理が導くものとは不安の影を照らす光であるか否それこそは全ての存在が根持つ根源の不安を明るみとして故にその深き海の底へと引き渡すものなり」
「んっ」
トリスメギストスを取り囲む円筒の檻の動きが再び遅くなり、堕ちるグランドロンロボたちがその度に地を揺らし突き刺さる。既に罅入るビル群が度重なる衝撃に耐え切れず倒壊を起こし、そうして巻き起こるのは土煙などという言葉では形容しきれぬ『見通せぬ』世界。
光届かぬ深海の、というほどではないが、鉛の色が全てを覆う中で、口元と鼻を肘の内側で庇いながら、それでもリリエッタ・スノウ(ちっちゃい暗殺者・f40953)は細めた目を、|そこにあるはず《・・・・・・・》の三つの満月から外さない。
(トリスなんとか……グランドロンの人が作ってくれたロボットを奪い取るなんて許せないね)
雑に壁に、盾にとされている金属の巨人達、その建造に関わった全員が裏切り者ではなかったはずだ。もやもやとした気持ちは今|二人《・・》の纏う空気と同じなら。
その土煙を切り裂き払う――氷のミサイルこそは、許せない、許さないの強い気持ちとまた同じだ。
「アイスエルフさん達が、始めてくれましたね」
エリー・マイヤー(被造物・f29376)は口調こそ淡々としたものの、助かりますと感謝を口にし、要請に応えた矢弾が頭上を越えていくのを観、次にリリエッタの顔を見て。
そして二人小さく頷きあう。
第一射を無数のその|触手《て》に吸着した壊れかけのグランドロンロボで受けたトリスメギストスは、続く第二射の飛来を|視認《みと》めると一斉ともう動かないロボを中空に放り――触手たちがそれを打つ。
途端、砕け散るグランドロンの労の結晶が、氷の矢を迎え撃つ展開。
双方すり抜けゆくものがある。となれば不利は街を見下ろすほどの巨大クラゲに対して、金属片に襲われるいと小さき者どもたる妖精族――アイスエルフの側となるだろう。
「硬い物で防げば、自分は無敵。硬い物で殴れば、敵は死ぬ。
実に効率的で、理にかなった戦法です。なるほど、聖賢者の名は伊達ではありませんね。
実に見事な知略と言わざるを得ないでしょう」
賢者を名乗るトリスメギストスの対策はあまりにもシンプルで、思わず|皮肉《ジョーク》も漏れる。エリーの言葉に、珍しく年相応にむくれた様子のリリエッタがふるりと頭を振った。
「最初の、なに? ドロボーしましたを、いろいろ、いろいろ飾ったって。
宇宙一賢いとか言ってたけど、賢い人はリリにも分かるようにお話してくれるような人だよ」
そうですね、とここで始めてエリーが薄く微笑んだようにして。
「――では、手筈の通りに」
「んっ」
トリスメギストスが氷の矢に相対せねばならぬ間に、今だ氷を撃ち続けてくれるアイスエルフ達に甚大な被害の及ぶ前に――だから、二人は散開する。
●追い越していく、|第六の《ア・ポステリオリ》
聖賢者とは逆方向に、走って、走って、それから、登って、登って、登りきる。
どうにかぶら下がっていたといえそうな鉄のドア。開けるまでもない、外枠とドアの隙間を幼女はするりと抜けて飛び出す――屋上。
窓という窓は爆風に割れてしまい、空虚なコンクリートの箱と化したそのビルの上。生き残っていてくれていた高所にて、リリエッタが背のケースを降ろす。呑気に息を整えている間などない。
追いつかぬ息に震える小さなその手は、黒くつや消しのされた筒たちを取り出した。不安はない、幾度も共に死線を乗り越えた――その経験は手の震えを追い越し、問題なくLC-X12 Type ASSAULTをスナイパー仕様へと組み上げていく。
愛銃が用意整って漸くリリエッタは、すぅ、は、と大きく深呼吸し。
(んっ、リリもOK)
そこに響き渡るのは、リリエッタにも覚えのある音――身を伏せ覗くスコープで探す、覗く。その最初のものは。
駆ける足先から、振る腕の手先から、立ち上る澄み渡る春の空色が見る間に全身をベールする――エリーもまた駆けている。リリエッタとは真逆、聖賢者へ向けて。
その彼女の遥か頭上では、今また派手な衝突音。遅れて届くは衝撃波だ。砕けて落ち来る金属片、影を見て位置を知り。哀れな残骸を避け、或いは、地を這うようにして地という地を撫であらゆる|情報《智》を得んとスキャンするかのような触手たちを飛び越える為の足場とし。
「マッハで突撃です」
至れ音速へとばかりに駆けて――いや、それは願望とばかり言い切れない。高濃度のサイキックエナジーは彼女の身体能力をどこまでも高みへと押し上げる。エリーが音速の壁を破った証、パァンと響き渡る音こそが、リリエッタのスコープがエリーを捉えることを成功させた。
スコープの先で、エリーはついに走る事を止め、蠢く触手の踊る大気の海を、軽やかに柔軟に泳ぎ抜けていく。
時に触手に隠れ消えるエリーの姿を、しかし銃器の扱いに鳴れたリリエッタは移動の予測をもって捉え続ける。
いつ、とは事前に決められるはずもない。
けれどそれは必ず来ると猟兵たちの『経験』が告げている、そして掴む――。
追い縋るように、或いは、立ちはだかるようにエリーに迫る一際大きな触手。
届くアイスエルフの気概は触手を凍結させ、その射線とクロスを描くようにして、遂に放たれたリリエッタのライトニング・バレットが聖賢者の腹へと突き刺さる。
着弾点から走る雷撃は海の如き腹を波だたせ、揺らめかせるから抗えずくの字と曲がる聖賢者。
このようにして落ちてきた満月のひとつを貫く一条、割れ散る|触手《こおり》から飛び出した青空色の拳は、エリーのもの。
――立ちはだかる『より先なるもの』を、『より後なるもの』が捉え、追い越していく、その刹那を。
大成功
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カーバンクル・スカルン
グランドロンロボの殻に入ったクラゲねぇ……本物のクラゲならどれだけよかったでしょう。でもとっととオブリビオンを食い止めてカタストロフを煽るだけのお仕事に戻ってもらわないとねぇ。
【火焔車】を発動して、触れた瞬間に対十二剣神用に特注させていただいた車輪に拘束される罠を設置。まんまとかかれば炎でくるんで壺焼きに完成でございます。
だがこのままだとグランドロン装甲から飛び出せば逃げられてしまいます。そこで、出るタイミングを見計らっていたアイスエルフ有志による凍結魔法陣で迎撃していただきましょう。
アツアツから急の極寒、ととのわさずに一気に〆にかからせていただきます。
一刻・悪魅
今になって守りを固めたのは、時間切れまで粘る心算でしょうか?
しかし事前の入念な準備が示す通りの「力ある者」、決して逃しはしません。
その護りごと、全て断ち斬るとしましょう。
予めメディックに支援要請し、『決戦情報局』から奪われたグランドロンロボの大まかな構造を聞き出しておく。
その上で【戮導臨姐】により|鏖殺の気(可視化したどす黒い殺気)を変形させた翼を作り出し、高速で常に敵との距離を取るように飛翔《殺気・武器変形・空中浮遊》。
敵の攻撃の的を絞らせないよう動き回りつつ、|スレイヤーカードから取り出した長ドスによる、射程無限で直線上の全てを切断貫通する空間精神概念一切合切断裂居合切り《先制攻撃・武装召喚・居合・早業・切断・貫通攻撃・範囲攻撃》で直線上にあるグランドロンロボの足やスラスター等の駆動部を狙い動きを止めつつ、それを纏って護りを固めるトリスメギストスごと纏めて貫き断ち切る。
そろそろ、この戦いも終わってしまうのですね。
祭りの終わりと言っては不謹慎ですが、もの悲しさを感じずにはいられません。
●
「派手にやるじゃないっ」
見えた先行の猟兵の攻撃が――その実態が何であるかまでは今の位置からは窺い知れなかったが――黄金のひとつを貫通するのをみて、カーバンクル・スカルン(クリスタリアンの懲罰騎士・f12355)は快哉をあげる。己も続かん、と聖賢者の側面から迫ろうかというところだったのだ、が。
そのカーバンクルを、周囲の瓦礫を、染めては抜けてと次々と通過する黒。世界の明滅のようにも錯覚するその光景に、思わず足を止め空を振り仰ぐなら――鉄が磁石に寄せられるように、見事に組みあがったものから、まだ組み立ての途中と見えるものまで見境なく集められ空を滑るグランドロンロボたちがいる。
向かう先には触手が花開くように斜めと聖賢者の巨体を隠す姿。そこにグランドロンロボたちが吸着され、高速に組み上げられて生まれた次なる砦は、賢者を触手を花とするなら|萼《がく》と呼べるか、すり鉢状だ――登る側には反り返る壁となるように。
なるほど、これが、とカーバンクルは苦笑する。
「グランドロンロボの殻に入ったクラゲねぇ……」
本物のクラゲであればどれ程よかったか。賢者を称して、示すのはこんな半端な智恵か。
「……とっととオブリビオンを食い止めてカタストロフを煽るだけのお仕事に戻ってもらわないとねぇ」
口だけは確かに達者だからね――カラリ笑う柘榴石のお転婆娘は、そして再び駆け出した。笑顔の裏、グリモア猟兵もまた、その脳髄をフル回転させながら。
●
現れた金属の萼、その内で揺らめき咲く青い華。
すうと細められた目、一刻・悪魅(人造殺戮者・f45307)の指が滑らかな白木の表面を撫で――止まる。
(今になって守りを固めたのは、――時間切れまで粘る心算でしょうか?)
手立てを封じられても、頭のひとつを抜かれてもなお、動揺もなく、受けた刺激に即座に反応をしそれでいて動かず。賢者の残る二つの満月はだから、そのように結論しているのかもしれない。
圧倒的な強者であるという余裕を以って――嗚呼。
握りこむ、白木の鞘。
「『力ある者』……決して逃しはしません」
表情は凍りついた無表情のまま、けれど漏らす言葉にほんの僅かだけ滲む色こそ一刻の生の色。
刃の差し込む隙さえないのではないかと見えるほどに巧みと組み上げた金属の萼、その細胞のひとつひとつと言えるだろう、グランドロンロボたちは元より防衛を旨と組み立てられた硬質の巨人だ。
突き立てられぬ、差し込ませぬ。
新たなる形状を前に、アイスエルフ達の氷の冷たさもまた、熱伝導の仕組みかその効力を散らされてみえる。
目の前の情報と交差するのも、また情報だ――情報局のメディックたちは要請に頷く間が惜しいかのようにコンソールを叩くと既に持つアーカイブにアクセスし、また別のものは方々のグランドロンたちと通信し、迅速に集めてくれた。異なる機構、共通する機構、見せてもらった図面は頭の中にあって|鮮明《クリア》だ。
――左指の挟むカードで握る白木の鞘を撫でるなら、それは忽ち掻き消える。
そうして、ここに今もう一つの華が開く。
一片は獲物逃さぬその|意思《ココロ》を、もう一片に獲物逃さぬその|情報《リセイ》を。
可視化できるほどの|鏖殺の気《サツイ》は黒い花弁となって立ち昇り、一刻の背を咲き誇る。
「その護りごと、全て断ち斬るとしましょう」
●
宝石は、煌きと美しさで惹きつけるから宝石と呼ばれるのだ。
崩れ去ったコンクリートの街並みが作る開けた視界が、胸を打つ。そこにあった筈の大都会の一角は荒涼とした灰色の沙漠と化し、その中で、おぞましい金属とゼラチンのキメラが全てを吸い上げたかのように大輪を誇る。
(だけど、だから――心置きなく設置できるわ)
もう一度、築けばいい。このケルベロス・ウォーを勝って|終わ《〆》れたなら、描ける未来がある。それはグリモア猟兵の観る予兆ではない、カーバンクル個人の弾けんばかりの希望と信念――感傷は私に似合わないわと宝石は笑う。
美しく笑うその赤い煌きを、この荒涼の砂漠にあって誰が見逃すというのだろう。
萼を乗り越え、迫る触手。
あの一本では、物足りない――|掛からない《・・・・・》。それでも宝石は笑う。知っているお嬢様は。宝石は惹きつける、引き寄せる、幸運をも。
中空の黒点の中で、白が瞬く。スレイヤーカードから飛び出した横長い白木の棒を掴んで、縦に。そのまま流れるように押し下げる白木から抜く|長ドス《先ざし》――空を切り上げ放つ居合いは伸びる触手にあまりに遠く。けれど、その何が問題だというのだろう。
|戮導臨姐《りくどうりんね》――|陸《むつ》の世の代わり、空間を、精神を、概念を、一切を合わせ斬る黒い波動が刀の形を描いた次の瞬間には、触手を切断して。
「いい所に来てくれたわ!」
ピョンピョンとまるで年頃の少女が友達を見つけた時のように跳ねる『陽』が、こうして共に戦う『陰』を呼ぶ。それは相反するものではない、引き合って、引きつけあって巡る、回る、動かす――定め。それこそが、第六の猟兵の持つチカラだ。
「昇れますか、そのフックで」
続けざま襲い来る数多の青の鞭を、背中に咲かせた花で掻い潜り、手に持った長ドスを話す一瞬、逆手に持ち替え切り裂きながら、一刻が問えば。
「目に見える物全てが――真実だとは限らないんだよね」
いたずら気に笑って、フックというより碇と呼ぶほうが相応しいのではないかというそれの鎖をカーバンクルが回し始める。あくまで、護身に留めるだけの、その攻撃。
「お願いがあるの」
今の状態ではアイスエルフ達の支援も有効打といえない。それはカーバンクルにも分っていて。
――頷きの代わり、ひらりその身を翻した一刻は己が太刀筋に似た直線で、大輪へ飛ぶ。
●波打ち際の砂の顔のように、消えていく
「物の道理を知らぬ無知蒙昧ども重みは詰む金属の堅牢をより強固としその金属のイデアが熱と電撃とを受け流す地を這うものは我が高みに至れずともこれより他お前達に道はないのだ……道外れ空に道を得んと驕り大それたものどもの末路を知らぬ愚かなる第六の猟兵達に教訓を今一度我『聖賢者トリスメギストス』が教授しよう……お前達の死を以って!」
金属の萼は、いまや鉢。元より見上げるほどに大きかった海の花は更にその身を二倍、三倍と成長させながら再生する。一刻の一閃――その手の白が放つ黒い刃に続けざま落ちる触手はそこから二股三股と分れ伸びるおぞましき増殖さえみせて。
そこまで大きくなってしまった賢者に、小さな小さな|一刻《黒》はまるで己にたかる蚊か蝿の様――その顔など、増して彼女の目線など――視認できぬ。
(いいサイズ感っ!)
少し引いて万事準備を整えたカーバンクルは聞こえぬと知っていて、音にする。
「頼んだわ!」
一方の一刻に言葉はない。代わり、次に刀を抜いた時、ついに、それは完成した。
グランドロンロボの足、スラスター機構、教えられた狙うべき部分近づいたから見えた駆動部。一度では足りなかった。積み重なるそれらの線を丁寧に、丁寧に、斬り、外す行為。
金属の鉢が崩壊を起こす――砂の城が波を受けて崩れる時の様に似て、その生命力を横溢させたが故に、クラゲはどろりと流れ出た。
そこに立ち上る紅蓮の炎の柱は、カーバンクルと同じ色。炎の中微笑むもう一人の自分はだから、その中では色を喪ったように見える。
「火焔車――今回の知恵比べは私達の方が一枚上手だったわねっ」
勝ちを確信し奢った賢者は最後の最後に攻勢に出た、出させた『陰』が。それを『陽』が焼き払う。そこに届く氷の矢弾。この地に生きる人々の意思の表れが点を打つ。
「アツアツから急の極寒、ととのわさずに一気に〆にかからせていただきますっ」
傍らに戻った急ごしらえの相棒に、そしてカーバンクルが微笑みかけるなら、無表情の一刻は、言葉の代わりその仕草で応える。
半歩と足を摺り下げ落とす腰――今日一番、最も基本で美しい型で白木の鞘を握り構えて。
賢者もまた波打ち際の砂の顔のように、ぐずりと解けて、消えていく。
●
「……祭りの終わりと言っては不謹慎ですが、もの悲しさを感じずにはいられません」
刀を納め、向き直る一刻が落ち着いた声で語るなら、少し早めのキャンプファイアーみたいだったものねとカーバンクルが笑う。
確かに、と生真面目ながら冗談に応じた一刻に、あら、案外話が出来るのね、と屈託ない。
そしてみる、焼け、凍え、斬り、融けたあと――元から何も無かったような。
感じる、長かったこのケルベロス・ウォー、ケルベロス・ディバイドを覆った恐ろしい大波が引いていく気配を。
「さぁ、他はどうだったか、聞きにいきましょう!」
「それと私達の戦勝の報告も」
陰陽はそうして並んで、駆け出した。
信じる勝利、捧げた勝利をその胸いっぱいに抱えて――。
大成功
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