ケルベロス・ウォー③〜薔薇は赫月に狂い咲く
忌まわしき聖域には、呪いが満ちている。
穢れを『敢えて』溜め込み、呪力を高めたその場所は『妖剣神社』と呼ばれた。
世界は赤く、天を仰げば赫い月。
呪いによって擬似的に再現されたそれは、魔力と狂気も微々たるものなれど、確かに内包し。
光と共に振り注げば、花すらも狂わせた。
●
「ほう」
園守・風月(薔薇花園の守人・f37224)が、己の腕を食い破って咲いた花の表面を撫でた。
黄色に珊瑚色、淡紅色に杏色。四色に彩られた花弁が広がるそれは、薔薇でありながら日本の花に見られる慎ましやかさと品のよさを感じさせる。
……尤も、|人から生えたもの《・・・・・・・・》という事実がどうしても、忌避感を生むのは致し方ないことであろうが。
だが今、『|己の《・・》』薔薇のことはどうだっていいと風月は言う。
「『妖剣神社』の一社から新たに要請だ。『呪いの武器』の仕上げに協力して欲しいと」
呪いの武器。
妖剣士たちが自身の呪いで以て、新たな、そして強大な呪いを編み上げ宿すことで、永遠回廊すら食い破るための。
そのための聖域の生成は既に成っており、呪いも発動していると言う。後はそれを、成就させるだけ。
「貴殿らに託したいという武器。赫月季と呼ばれる刀剣だそうだ。柄も刀身も血を吸ったような真紅の刀は、柄に茨を纏って一見、手に取ることすら拒む妖刀だ」
蕾でありながらなお、硬く閉じた花弁に赫を窺わせるその薔薇は、茨を通して使い手の痛みを切れ味へと直接変換する。
主に痛みを求めるとは、刀としては余りに傲岸不遜であるが。痛みある存在を斬るということは本来、そういうことなのかも知れない。
兎にも角にも、そうして蕾が完全に花開いた時。使い手の痛みと敵の血を吸って、真紅の薔薇が見事に狂い咲いた時。呪は成り、妖刀・赫月季は完成すると言う。
聖域の赫い月に誘われ、敵は姿を見せるだろう。猫人に擬態したそれは、その本質は花である。しかし偽りでも赫月に狂い、斬られれば血の如き赤き飛沫を散らす。
花の呪いの生贄には、余りにも相応しい。
「リレーのバトンのように。貴殿らで赫月季を繋ぎ、花散らし、花咲かせ、呪と成せ。狂気を力に変えて行け。その身を厭わず、この戦の勝利を色濃くと願うのならば!」
風月の掌に、|薔薇《グリモア》は四色に輝く。
だが、猟兵たちが手に取るべき花の色は。鮮血の赫、唯一つ。
絵琥れあ
お世話になっております、絵琥れあです。
たくさん血を吸うぞー!!
戦争シナリオのため、今回は1章構成です。
第1章:集団敵『マスター・ビーストの猫人』
戦場は擬似的な赤い月と赤い夜が再現された妖剣神社です。急造ですが鳥居や小さな社もあります。
敵は攻性植物ですが、猫のウェアライダーに擬態しているためか、呪いで再現された紛い物とは言え、満月の影響で狂月病に似た凶暴性を得て、目に映るもの全て無差別に攻撃してきます。
同士討ちを誘発することも可能でしょうが、トドメは『紅月季』で刺すようお願いいたします。呪いの成就のために。
なお、使い手にも痛みを求めるとは言っていますが、血さえ吸えればいいようなので、痛覚遮断などはOKです。刺突・出血無効、遠隔操作などの出血を防ぐ系ユベコや技能がアウト。
※アウト系の技能は使うと宣言しなければ適用しないものと見なしますので、技能持ってるから参加不可能ということはありませんのでご安心ください。
また、妖剣士の皆様に助太刀要請することも可能です。
しなくても問題はありません。必要に応じてお声がけください。
公開された時点で受付開始です、が。
今回もかなり書けるタイミングにムラが出そうです。
その為、採用出来るかどうかは人数とタイミングと内容次第でまちまちになります。ご了承ください。
なるべく🔵獲得に貢献したい気持ちではありますので、多めに採用は取りたく思いますが、それゆえお誘い合わせなくとも他参加者と一緒のリプレイになる可能性もありますこと、ご了承いただければ幸いです。
また、場合によっては逆にサポート多めでお届けする可能性もございます。
それでは、ご縁がありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
第1章 集団戦
『マスター・ビーストの猫人』
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POW : りまーが ほろわろ なうぐりふ
【鉤爪】で近接攻撃し、与えたダメージに比例して対象の防御力と状態異常耐性も削減する。
SPD : ますたーびーすと ほろわろ なうぐりふ
【噛み付き】【蹴り】【尾による打撃】で攻撃し、ひとつでもダメージを与えれば再攻撃できる(何度でも可/対象変更も可)。
WIZ : ろう ろう りまーが
戦場内で「【りまーが」または「ますたーびーすと】」と叫んだ対象全員の位置を把握し、任意の対象の元へ出現(テレポート)できる。
イラスト:8mix
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
鳥羽・白夜
血を吸う妖刀ねぇ…俺のブラッディサイズも似たようなもんか。赤い月に赤い夜っつーのがなんとも言えねえな…
今回は愛用のブラッディサイズは置いて赫月季を借りていく。仮にも魔剣士だからな、刀も扱えねえことはねーよ。
茨に血を流しても、元より自身の血液を媒介に技を繰り出すことも多いし慣れたもの。痛みを求めるというのもなんとなく分かるから痛みもあえて消さずに。ツバつけときゃ治るだろ…終わったらトマトジュース飲も。
黒影剣発動、理性なくしてるっぽいし姿隠せば俺のことは認識できないだろ。
UC効果で【生命力吸収】、弱らせて同士討ちも狙いつつトドメは赫月季で。
闇に隠れて襲撃すんのが吸血鬼で魔剣士の俺のやり方なんでな。
●
赫の世界。
真紅の光に照らされて、影が揺らめく。
(「血を吸う妖刀ねぇ……」)
月を仰ぐ。
鳥羽・白夜(夜に生きる紅い三日月・f37728)の青い瞳が、眩しげに細められた。笑ったのではない。ただ、赫が目に痛かった。
(「ま、俺のブラッディサイズも似たようなもんか。赤い月に赤い夜っつーのがなんとも言えねえな……」)
苦いものが胸を過る。
今は、それを見ないことにした。
愛用の|紅い月の刃《ブラッディサイズ》は置いてきた。
代わりに握られたのは、赫い刃に赫い柄。
綻びを待つ赫い薔薇。
血を吸って染まる茨。
妖刀『赫月季』。
この身は魔剣士。
闇に染まりし暗殺の剣。
既にその手は真っ赫に濡れた。
滴る血が、茨を染めた。喜ぶように蕾が震えた、気がした。
痛みは敢えて消さなかった。求められているものが、白夜にはなんとなく分かる気がした。
「元より、自分自身の血液を媒介に技を繰り出すことも多いし、慣れたもんでね」
尤も聞いてはいないだろうがと、眼前の敵を見遣る。
押し寄せる緑の波は、しかし今や赫に塗られて彩を変えた。
そしてその目――のように見える、何かが、あの月に似て真っ赫に、爛々と、輝いて、いる。
(「とは言え『目に映るものを攻撃する』ことはできるらしいけど……理性なくしてるっぽいし、姿隠せば俺のことは認識できないだろ」)
それこそが闇の剣士の本領。
闇がこの身を、赫からも隠してくれる。
そして、花の波の合間を縫うようにして駆け抜ける。
(「闇に隠れて襲撃すんのが吸血鬼で、魔剣士の、俺のやり方なんでな……っと!」)
すれ違い様に一閃。
それは闇を纏えば赫と言うより赫黒く。
闇が生命を吸い上げ蝕む。見境なく同胞にすらその爪の切っ先を向け、崩れ落ちる身体を狙って首を刎ねた。
果たして首と言うのが正しいのか、白夜には分からなかったが。
それもこの、赫月の舞台では些末なこと。
血を流し、血を啜る。花散らし、花開く。
赫い世界を、なおも赫く染め上げる。
刃も柄も、べたり血に塗れた。
(「えらい出血した気がするけど、ツバつけときゃ治るだろ……とは言え、そろそろ潮時か」)
回復と、自身への労いを兼ねて、後でトマトジュース飲も、と独りごちては、影より白夜の姿は出でて。
「……後は任せた!」
屍の、或いは散った花の山の向こう。
赫月季を、三日月描いて放り投げた。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第三『侵す者』武の天才
一人称:わし 豪快古風
ふむ、出血…まあ、悪霊にも血潮は流れておるだろ。よく流血するし。
というより…その方が燃えるでな?
(どこまでいっても戦人)
さて、『紅月季』を借りよう。なぁに、これでも使えるUCはあるでなぁ。しっかりと握って…いざ。
ははは、赫い月とは…ほんにわしにも似合う場であってな。わしの別名『紅炎狼』でな。
その鉤爪は四天霊障による武器受け、そして流して体勢を崩していく!
トドメがこの武器でなすというのなら…そのまま、UCを『紅月季』で使いて敵を砕くようにな!
悪霊が呪いに怯むものか。むしろ、呪いを溜め込むのは得意ぞ!
●
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は――その第三『侵す者』は。
己の掌へと、その視線を落として。握り、開いた。
自らの目からしても、生けるもののそれだ。
しかしその実、彼は、彼らは、死んでいる。
四人で一人、四悪霊。
(「……まあ、悪霊にも血潮は流れておるだろ。よく流血するし」)
それが真なるものなのか、或いは幻なのか。
『侵す者』にも、いや、『馬県・義透』にも、分からない。
だが、どちらか、などと気にも留めない。そのようなことは些事であり、何よりも。
(「というより……その方が燃えるでな?」)
どこまで行っても、『侵す者』は武人であった。
武の天才と謳われた彼は、その才を生前も死後も、求められるまま、ないし赴くままに振るい続けた。
そして、それは今もなお、変わらず。
「さて、『紅月季』……借り受けようぞ」
掛け声と共に、赫い三日月描いて飛んでくる、それを。
寸分違わず、掴み取った。
ぞぶり、と。
茨がその手を貫いた。
しかし、大胆不敵に笑う。
「なぁに、これでも使える|技《ユーベルコード》はあるでなぁ」
茨が食い込むのも、どこ吹く風で。
しっかりと、その柄を握り直す。
蕾が歓喜に震えた。
「いざ」
押し寄せる第二の波。
それすら今は、赫く染まった。
この世界では全てが赫い。
赫でないものを、赫へと変じ。
元より赫く在るものは、より赫を深める。
それは血であり、それは赫月季であり、そしてそれは、『侵す者』であり。
「ははは、赫い月とは……ほんにわしにも似合う場であってな」
視界から侵食し、狂わせてしまいそうなほどの光さえ。
『侵す者』にとってはどこか、心地よくさえあった。
「わしの別名『紅炎狼』でな。その名に違わぬ戦を、此処に!」
四天霊障展開、無念の情調が敵を阻む。
咆える猫、猫を模した花、その全て紛い物の刃は、真なる|狼《けもの》の前には届かない。
流された刃は主すらも振り回し、狂気に憑かれて儘ならず、風に翻るのみの花となる。
そして花とは、火に依って焼き尽くされるもの。
「悪霊が呪いに怯むものか。むしろ、呪いを溜め込むのは得意ぞ!」
この刃が、赫月季が求めるのならばくれてやろう。
『斬る』のでは生温い。侵掠如火、それは火のように。
赫の刃で赫の舞台ごと打ち砕き、赫の世界が、爆ぜる!
大成功
🔵🔵🔵
熊ヶ谷・咲幸
お騒がせ☆アイドル×力持ち、12歳の女の子です
戦闘時など、アイドル⭐︎フロンティア以外ではコンパクトを使って変身しますが、なぜかなかなか開かないので、力技で【こじ開け】て変身します
がむしゃらに頑張るタイプで【怪力】による正面突破が
全身図にあるハートのついたロッドからビームを出すと、そのビームを掴んで巨大化したロッドをぶん回して敵を一掃します
「ハアアアアトフル☆ハアアアアケエエエエン!!」
周りの建物とか壊しちゃったらごめんなさい!
他にもロッドはビームを剣状にしたりシンプルに鈍器にしたりします
ユーベルコードは指定した物や公開されている物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します
●
この熊ヶ谷・咲幸(チアフル☆クレッシェンド・f45195)は、いわゆる近接パワー型のアイドルである。
パワーのみならず、タフネスやスピードだって兼ね備えている。その上、若さゆえまだまだ伸びしろ、すなわち成長の余地があるのだ。某星の守護霊さんにも迫るレベル。
……尤も、その分射程や精密性には難がある。今も変身のためのコンパクトを力技(言葉通りの意味)で開けようとしている。
「んぐぐぐぐ……あ、あかない……わあッ!!」
やっと開いたと思えばすってんころりん。とは言え、こういったことには慣れっこなのか、受け身を取って無傷だった。
だが、この日はこれだけでは終わらなかったのだ。
「えっ、何か飛んでくる〜!?」
咲幸の方に飛んできたそれを、慌ててキャッチ! ……したはいいのだが。
「いったーい!? 手にトゲが刺さっちゃいました……うう、ただでさえ失敗ばっかりなのに……アイドルなのにこんな怪我してって言われちゃう……!」
後でしっかり治療しなければと思いつつも、そう言えばこの剣で戦わなければならないのだったかと思い出す。正直痛いので、咲幸としてはすぐにでも手放したいところだったが、己を奮い立たせて我慢した。
ともあれ、舞台は既に整っている。ならばここはステージだ。どんなに真っ赫であろうとも!
「チアフル☆クレッシェンド! 希望の光であなたの呪いを浄化します!」
……うーん、むしろ浄化しちゃうとマズいかな!
まあ、言葉の綾というヤツだ。決めポーズもバッチリキメて、レッツ・パフォーマンス!
赤いハートのキュートなロッドと、真っ赫な薔薇の蕾の剣(と書いておけば多少可愛いかも知れない)をクロスさせ、それからロッドを天高く、赫い月を指すように掲げて。
まるで月から光を集めるように、赤い光が収束する。光線としても飛ばせそうなそれを、咲幸はなんと思いっきり引っ掴んだ!
「ハアアアアトフル☆ハアアアアケエエエエン!!」
そして掴んだビームと合わせて巨大化したロッドで、迫りくる第三波を残らず薙ぎ払った!
遠心力の勢いで、社まで叩き壊しそうになったが、それは慌てて寸でのところでストップした。
「よ、よし! 今回はうまくいったかも! ……あれ、でも何か忘れてるような……あッ!!」
……赫月季、敵を斬ってないですね……?
「またやっちゃったよ〜!! 待って待って、まだ消えないでー!!」
涙目で屍の山をザクザクやる咲幸。これはこれで怖い絵面。
そして最後の一刺しを終えて、刀を抜き取ろうとした……が、抜けない。
「あれ? あれっ? ……わあッ!!」
力任せに引き抜いたら、刀はすっぽ抜けて宙を舞い、咲幸も再びころんとひっくり返っ。
「わ〜ん、ごめんなさい〜!!」
まあ、飛んでいった刀は誰かがいい感じにキャッチしてくれるでしょう。
たいへんよくできました!
大成功
🔵🔵🔵
インディゴ・クロワッサン
「んっふっふー… 何もかもが赫いとかテンション上がるねー!」
借りた刀に僕の血を吸わせながら、テンション高めでお送りするよー
「そんな僕は藍色なワケだけど… それはさておき、|僕《半吸血鬼》の血のお味は如何かなー?」
返事は無くてもしかたないね!さ、戦うぞー!
UC:限定的解放・藍薔薇の戒め を発動して
「さ、暴れておいで!でも止めは僕と刀が貰うからね!」
|Vergessen《愛用の黒剣》と|藍染三日月《愛用の斬霊刀》を暴れ狂ってる敵の群れの中にどーん!!!
僕は確実に弱った敵を仕留める為にも、目立たない様に闇と赫に紛れながら、死角から居合とか串刺しとかで傷口をえぐる様に攻撃して暗殺しちゃうぞー!
シャオ・フィルナート
痛みなら、慣れてるから…
(痛覚はあるが感情欠如で表情や態度に出ません)
普段の武器の代わりに赫月季を手に
そこにいつも通り氷の魔力を纏わせる事で
薙ぎ払う事で敵を凍り付かせる凍結攻撃
死星眼を発動する事で
視界に入れた敵から生命力吸収しつつ催眠術をかけ
行動力を鈍らせながら
敵の攻撃は高い集中力と気配感知で即見切り回避
暗殺の早業で死角に入り込み死角攻撃
更に指定UCを発動し、刃物…
つまり赫月季での攻撃と速度を強化しながら
素早く切り裂いていく範囲攻撃
この技、味方の攻撃は必要だけど…
別に、自分だっていいわけだから…
茨の傷だけで足りないのなら
俺の腕でもなんでも、斬ってあげる
吸っていいよ
俺の血も、奴らの血も…沢山…
●
「んっふっふー… 何もかもが赫いとかテンション上がるねー!」
見上げれば赫い月。
その光が照らす、空も大地もまた真っ赫。
社も鳥居も赫ければ、押し寄せる花の波すら赫々と。
「そんな僕は藍色なワケだけど……」
赫を受けてなお、藍として在るインディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)は、この空間で余りに異質だった。
「それはさておき、|僕《半吸血鬼》の血のお味は如何かなー?」
その手には既に、真紅の刀。
真っ赫な花を夢見て眠る、蕾に抱かれた赫の刃。
(「返事は無くてもしかたないね!」)
それでもテンション高めな一時の主に呼応してか、はたまた藍から滴る赫を啜った昂揚か。
蕾は歓喜するように、震えている。それで十分だった。
「よーし、戦うぞー!」
愉しんでいる。赫の舞台を、心から。
上機嫌に弾んだ声に、応えて浮かぶは罪の黒剣。そして藍と月の名を冠した、破魔の斬霊刀。
「さ、暴れておいで! でも止めは僕と刀が貰うからね!」
限定的でも、藍薔薇の戒めを解かれた二刀は狂喜乱舞するかの如く。
敵も味方も見境なく、赫を寄越せと荒れ狂う花の茨の只中へ。
「どーん!!!」
威勢のいい掛け声と共に、赫い地をも割る勢いで、進撃した。
花散る、繰り出される黒と藍の閃きの下に。正しき月夜の色こそは、これなのだと誇示する如く。
(「僕は確実に弱った敵を狙って……」)
その、藍黒の闇色に、インディゴは溶けて紛れた。
己自身を影として、赫の波間すらも縫って。
(「さ、暗殺しちゃうぞー!」)
静かに、密やかに、刃を振るえば、世界が染まる匂いがした。
抉り、刺し貫く度に、己の手を喰い破って咲く、赫が咲った。
蕾が微か、僅かながらに綻びかけていると知る。
敵、味方、そして己の赫は、美味だったろうか。
言葉はなくとも雄弁に語る花の彩に、インディゴもまた、愉快そうに笑った。
●
やや、あって。
またも赫で三日月描いて飛んできた刀を、シャオ・フィルナート(悪魔に魅入られし者・f00507)は一切の躊躇なく、掴み取った。
茨が少女と見紛うほどに、細く白い手に喰らいついた。その藍の彩すら塗り潰そうとするかのように、赫は飛沫のように舞う。
だが、シャオは顔色ひとつ変えることなく、痛みに柳眉を顰めることすらしなかった。
(「痛みなら、慣れてるから……」)
慣れている。
痛みはない、わけではないのだ。
ただ、ぽっかりと穴が空いたように、己から抜け落ちた『| 《かんじょう》』が、苦悶の顔の作り方を奪った。
この痛みを表す術を、今のシャオは知らない。だが、それで構わないと、この場においては思った。
(「普段の武器とは違うから、少し変な感じ、だけど……」)
痛みのことを差し引いても、慣れない感覚ではあるが、それでも刀剣には違いない。
平素、戦いの中でするように、氷の魔力を宿し纏わせ、全て凍てつかせる碧の刃と化す。
赫が碧に覆われてもなお、そこに咲く赫が砕けることはなかった。
薙ぎ払えば敵の花は凍りつき、掌中の花は悦びに打ち震える。
赫月季が、歓喜にその身を震わせているのだ。
「……行こう」
ひとつ、瞑目して。
ひとつ、長い瞬きから覚めるよう、目を見開く。
そこに覗くは死星眼。赫をも貫く金色の星であり、右目に宿る死神の眼でもある。
その瞳に映る生命を吸い上げて、緩慢に、しかし確かに永劫の眠りへと誘う凶星の眼差しだ。
猫模す花の動きが鈍る。
如何に、その牙が鋭かろうと、その踵が硬かろうと、その尾が撓ろうとも。
研ぎ澄ませた集中力ならば、その緩みきった動きでは、その気配を感知し見切るなど、容易いこと!
赫が奔る。
凍りつく体と眠りへの誘いで、傾いだ花を散らしていく。
その、奇跡的なまでの、『目にも止まらぬ神速』は、その実、赫薔薇ではなく、星と死の右目が血を求めたがため。
誰でもいい、というわけでなく、『主の味方』を求めての。
(「……とは、言っても。別に、自分だっていいわけだから……」)
己の最大の味方は、己だ。
シャオは、もう片方の己の腕を裂き、その血を自らの瞳と花の剣に捧げた。
(「茨の傷だけで足りないのなら、俺の腕でもなんでも、斬ってあげる」)
足りないのなら求めるままに。
綻びかけた花に、視線を落として。
「吸っていいよ。俺の血も、奴らの血も……沢山……」
赦しを得た花が、その赫が、ふわり柔らかく、開き始める。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
柊・はとり
主に痛みを求めるのは傲岸不遜だってよ
聞いたかコキュートス?テメェの同類だぞ
何だろうがこのクソよりは幾らかマシだ
偽神兵器を放り投げ赫月季を借り受ける
『事件です!事件です!』
おー光ってる光ってる
俺の痛みを他所の剣に取られて許せないなあ
キッショ…
って訳なんで血は幾らでもやるよ
少し冷たいが我慢しろ
クソ剣も吠えてる事だしUC使えんだろ
俺の血を通して赫月季に氷属性を纏わせ
凍結攻撃で敵を薙ぎ払っていく
本質が花なら冷えに弱そうって単純な閃きだ
継戦能力が俺の強みだ
敵の無差別攻撃の気配は第六感で察知し
見切って極力消耗を避け多くの呪いを集める
呪われてるのは今更
喋らないだけ随分気分がいいが
この刀も何を思ってんだろうな
●
赫い月の光が降り注ぐ。
それは、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)の上にも、そして、碧き氷の魔剣コキュートスの上にさえ、平等に。
「主に痛みを求めるのは傲岸不遜だってよ」
射貫く如きその視線は、命喰らいの刃に向けて注がれる。
「聞いたかコキュートス? テメェの同類だぞ」
その魔剣は意思を持つ。そして不機嫌そうに唸るような、そんな不協和音が、赫を震わせた。
「ま、何だろうがこのクソよりは幾らかマシだ」
眉間の皺を深める。
同時、赫い月へと|偽神兵器《コキュートス》を放り投げた。
既にはとりの眼差しは、己の刃を見ていない。
赫い軌跡は三日月にも似て、飛来する赫。
その柄を、茨が己の手を喰らうのにも意に介さずに、掴み取った。
ぞぶり、と鋭利な棘が、肉を貫く音がする。
何度も、繰り返し死している筈の体から、飛沫は赫く散っていった。
『事件です! 事件です!』
|由々しき事態《エマージェンシー》と言わんばかりに、魔剣が激しく明滅した。
放り投げられたそれは、いや彼は? 彼女は? ともあれ回転して満ちた月の赫をただの一瞬裂いた。が、すぐにそのまま、力なく地に突き立つようにして落ちた。
なおも碧い光が、腹立たしげに目を焼いた。
「おー光ってる光ってる、俺の痛みを他所の剣に取られて許せないなあ。キッショ……」
吐き捨てる。
それは本来己のものだと、声高に主張するかの如き魔剣の有様に、腹立たしいのはこちらの方だと思わずにはいられなかった。
ある意味、これはそのような『傲岸不遜な魔剣』への、意趣返しにもなるのだろうか。
「って訳なんで血は幾らでもやるよ。少し冷たいが我慢しろ」
未だ流れる赫に、今や生命の温度はない。
それでもと願うのならば、花に恵みをと望むのならば、叶えてやるのもまた一興。
「クソ剣も吠えてる事だし、ユーベルコードも使えんだろ……っと」
体温を失って、冷え切った血は凍てつく氷と成った。
それでも月季は、砕けない。開きかけの蕾が心地よさげに震えた。
「本質が花なら冷えに弱そうって単純な閃きだが、さて」
真相には辿り着いたか?
餓えた獣の如く押し寄せる花も、証明にはお誂え向きではないか。
一閃。その一薙ぎのみで最前列の時が凍てつき止まる。
しかし、これでは足りない。だが、何も問題はない。
(「継戦能力が俺の強みだ」)
足りなければ何度だって。
既にこの身は何度も死んだ。それに比べれば、この程度。
閃きも探偵には重要スキルだ。余りにも。
第六感でも何だって、使えるなら使う。
咆哮と共に月の光。
浴びてぎらり、爪は赫く光る。
それすら証明の妨げにはならぬ。
(「呪われてるのは今更だが、」)
赫の凶刃を見切って躱し、返す刀で花散らす。
出血こそ激しいが、見た目に反して体力気力は然程耗らない。
『ERROR! ERROR! 深刻な問題が発生しています!』
なお喚き立てる碧に、はとりの眉尻がひくりと動く、ひとつ。
改めて静かなものだと、血を流す己の掌中を見遣る。
(「喋らないだけ随分気分がいいが」)
それでも、思う。
この刀も何を思ってんだろうな――と。
――妖刀は花綻ばせるだけ。
大成功
🔵🔵🔵
龍之宮・翡翠
成程、血を吸い力を発揮するとは、妖刀らしい妖刀だな
刀の扱いは慣れてはいるが……俺に、どこ迄扱えるか
いや、そんな事は言ってられないか
必ずこの刀、妖刀として大成させてみせる
それが、鍛えた者たちへの恩義だと思うしな
気付けば目の前の地面に突き刺さっている『紅月季』を
手袋越しに茨が手に刺さるのも厭わずに手にする
当然痛みは避けられないし、受け入れる
その上で血を、いのちを吸われるのであれば、漣波なら相性も悪くない筈だ
発動した漣波で敵の体力を削りつつ、最後は『紅月季』を振りかぶって一太刀浴びせる
無事にこの刀が妖刀として
デウスエクス共を絶つ刃として花開く礎になるのなら、本望だ
狂い咲け、血赫の薔薇よ――!
●
再び赫は三日月を描く。
突き立ったのは、まさに龍之宮・翡翠(未だ門に至らぬ龍・f40964)の眼前。
(「成程、血を吸い力を発揮するとは、妖刀らしい妖刀だな」)
古来、妖刀伝説は血の逸話に事欠かない。
翡翠にとって、真正の妖刀を振るうのは初めてのことだった。刀剣の扱いには慣れていると自負している、が。それでも。
(「……俺に、どこ迄扱えるか」)
得てして、蛇の道とは険しいもの。
柄の花は五分咲き、といったところか。美しくも儚いはずのその姿は、しかし異様な圧すら感じる。
(「いや、そんな事は言ってられないか」)
頭を振る。
そして、手を伸ばした。
「必ずこの刀、妖刀として大成させてみせる」
――それが、鍛えた者たちへの恩義だと思う。
危険を顧みず、戦地へ赴き、献げられた、彼らの惜しみない助力へと、報いたい。
その一心で、苦痛も厭わず、避けられぬ痛みを受け入れた。
手袋すらも突き破り、茨が肉を貫けば、血飛沫が翡翠を染めた。瞬間の鋭い痛みと、緩慢に蝕む苦しみは、しかし、折れぬ心が幾分か押し留めてくれる。
流れる赫が、世界の赫と、同化する。脱力しかけるのを踏み留まり、負の感覚を散らすように瞬いた。
(「この血を……いのちを吸われるのであれば」)
柄を握り直す。
茨が食い込む。流れる血も、じわりと増す痛みも惜しくはない。
寄せては返す波で、心凪がぬ限り続く漣で、赫に塗れた緑を全て押し流そう。
「無事にこの刀が妖刀として、デウスエクス共を絶つ刃として花開く礎になるのなら」
――本望だ、と。
零した言葉は、咆哮によって掻き消える。
だが、だからこそ、衒いのない本心だ。
「空を疾走れ――漣波」
碧く流れる。翠に光る。
牙も、爪先も、尾を模した荊棘も、波に呑まれて届かない。
幾度繰り返しても、しかし翡翠は敵の命を取らなかった。
何故ならば。
「そして狂い咲け、血赫の薔薇よ――!」
赫を、月季の刃を、振りかぶる。
この一太刀が、全てだったから。
花に|血《みず》を、緑に|赫《のろい》を。
全てを糧に赫月季よ、花開け。望むままに与えよう。
それこそが、悲願なのだから!
満開の時を迎えるまで、あとすこし。
大成功
🔵🔵🔵
劉・久遠
綺麗な赤やねぇ、と呟きながら赫月季を一瞥
……ボクの手は職人の手
治るとはいえ、それを自ら傷める真似はしたぁない
ほんの少し躊躇った後、深呼吸一つ
……それでもボクは職人であると同時に|猟兵《除霊建築士》やからね
痛み上等、こう見えて【負けん気】強いんよ(柄を握り
さぁいつも通り不敵に笑んでみせましょか
相手は団体さんやし、UCで弱らしといたら楽かな
【毒使い+マヒ攻撃】で麻痺毒の泥濁陣しつつ、自分と妖剣士さんらも強化
あんじょうおきばりやすーってな
あとは赫月季で【範囲攻撃+切断】でトドメ
攻撃は【見切り】回避
赫い月も綺麗やけど、やっぱりいつものがええな
早よ帰ろ、ボクの|お月さんとお星様《愛する家族》が待ってるわ
●
そして赫月季は。
その刃は、その柄は、その薔薇は、劉・久遠(迷宮組曲・f44175)の正面へと至る。
「綺麗な赤やねぇ」
呟きながら一瞥するその眼差しは、穏やかなものだった。
その胸中に反して。
(「……ボクの手は職人の手」)
傷を負っても治りはする。
理解している。……だがこれは、理解とは別の問題なのだ。
(「それを自ら傷める真似はしたぁない」)
信念であり、矜持であり、一言ではとても筆舌に尽くし難い、彼の、彼としての想いが柄を握るのをほんの少し、躊躇わせた。
深呼吸。吸って、吐いて、ひとつ。
(「……それでも」)
本当は、答えなど、心など――最初から決まりきっていた。
ただ少し、向き合う時間が必要だった。
大丈夫。もう、大丈夫だ。
「ボクは職人であると同時に|猟兵《除霊建築士》やからね」
手を伸ばす。
茨に覆われた赫を、握る。
「痛み上等、こう見えて負けん気強いんよ」
刺さる。
肉が裂ける。血が滲んで弾けた。
それでも、その横顔は、その表情は。
(「さぁ、いつも通り」)
――不敵に笑んでみせましょか。
飄々と、鷹揚と、戦地に至るもなお、あるがままに。
それでこそ、これでこそ。今も昔も、久遠という男の在り方だ!
「さぁて、相手は団体さんやし」
弱らしといたら楽かな、と。
赫の地は呪われて、ならばきっとこれもまた、彩りには相応しい。
舞台にちょっとした|刺激《アドリブ》を。気を繰り乱せば地脈の涙で毒を生む。
泉が湧き出るように現れたそれを展開すれば、敵も味方もその足元へと侵食する。
迫りくる、花の群れが止まった。
痺れ毒の戒めが、獣擬きの荊棘でさえも絡め取る。
そして、それを受けたのは、赫月季を拵えた者たちも。
毒も薬も使い方。毒は変じて薬となる。
久遠が『味方』と認めた者には清めとなり、その力を漲らせた。
「あんじょうおきばりやすー、ってな」
「ありがとう!」
代表らしき妖剣士は、妖刀を拵えたと思えぬほど純朴な、愛嬌のある青年だった。
しかし一度刀を握れば勇ましく、仲間と共に活薬の恩恵を受けて、鈍った花を取り囲む。
彼らの剪定によって狂える花は、最早風前の灯と化した。
「でも、最後まで油断しませんよってね」
最期の抵抗にと振り上げられた爪あれば、刃で弾いて往なすと直後。
返す刀で、残る花々を纏めて一気に刈り取った。
――同時。
久遠に縋りついていた、茨が離れた。
見れば掌中に薔薇は在り、紛うことなき満開。
赫は収束し、呪いを宿した聖域は最早不要となった。
「赫い月も綺麗やけど、やっぱりいつものがええな」
青藍を取り戻した夜空と、優しく煌めく月に、瞬く星。
風は穏やかで、血の臭いはもうしない。
ただ微か、花の香りが漂うのみである。
「早よ帰ろ、ボクの|お月さんとお星様《愛する家族》が待ってるわ」
妖刀は成り、久遠もまた在るべき場所へと歩き出す。
手の傷は、もう残ってはいなかった。
大成功
🔵🔵🔵