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止まらざるものと、されど変わらざるもの

#ダークセイヴァー #ノベル #永生者とて不変ではなく #けれど、だからこそ。無常の世界の中で尚、決して消えないそれを #人は昼の導きとし、夜の標とする。 #見えずとも。夜にも日輪は輝き、昼にも月は見守るのだから。

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#ノベル
#永生者とて不変ではなく
#けれど、だからこそ。無常の世界の中で尚、決して消えないそれを
#人は昼の導きとし、夜の標とする。
#見えずとも。夜にも日輪は輝き、昼にも月は見守るのだから。


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ロイド・サングルガット



メイルーン・アルカディア



ユーリック・アークライト




 昏き世界の、尚深い暗闇より彼等は生まれた。
 吸血鬼の始まりたる真の祖。それが、同じ日、同じ夜に三人。
 夜を統べる貴種の王として、互いに覇を争おうとも不思議の無い彼等は、けれど仲睦まじくあった。
「斯様に簡素では我等の格にそぐわぬであろうよ。なあ?」
 輝く金髪、傲慢で高慢なメイルーン。生まれた時には既に成熟していた肉体に付随する様に身に着けていた衣服のシンプルさに不満を零しつつも、当然の様に同意を求める物言いは二人を同等の相手として認めている顕れと言える。
「魔力操作で好みの服装を作れば良いだろう。訓練にもなるしな」
 美しい銀髪、控えめで真面目なユーリック。生来の能力を試す良い機会だと宥めながら、向ける貌は大事な仲間を見るそれ。表情の変化が豊かな彼の心は二人に対し詳らかだ。
「おお、これが果実だね。実物はこんな風なのか……ほらユーリック、メイルーンも触って見なよ。柔らかいだろう?」
 深き闇色の黒髪、穏やかだがマイペースなロイド。外界に興味津々な彼は、二人の「話聞けよ」と言う顔を物ともせず鈴生りの実に夢中だが……その気安い態度は二人を兄弟の様に親しく思っていればこその物でもある。
 名も姿も力も知も全て予め備えて生まれながら、紛れもなく生まれたてでもある超越者達。彼等は子供の様に無邪気にぱやぱやと喋り、懇意に相和して……されど祖となるべき身として、知ろしめす地を重ねる愚は起こさぬと言う事か……別々に別れ旅立った。
 何れ、また再会する事を固く誓って。


 そうして永き時を経た再会の折。
 三者は一様に過去には沈まず、揃って猟兵の身となっていた。
 かつての談笑通り装いこそそれぞれの好む服装にこそ変われど、その姿は皆変わらないまま。
 けれど、内面は。

 サングルガットの姓を己に付けたロイドの居城。文明の進んだ異世界の技術や知を取り入れ快適に整えられた其処で、三者は旧交を温める。
「あまりに赤いものだから、山葡萄の汁を思い出したよ」
 マイペースさは変わらぬ城主……いや、大人の落ち着きを身に付けた上でのんびりと表情一つ変えず、美しい大粒の宝石に対しそんな事を言うその様は……寧ろ天然ボケにランクアップしているとも言えるか。
「最上級のルビーだろう、山葡萄に例えてやるな……」
 諫めるは、アークライトを名乗る様になったユーリック。
 かつての控えめさが物悲しさと物静かさに。真面目さは硬質な気配へと変じている。
「そこは血を連想しろよ吸血鬼なんだから」
 姓をアルカディアと定めたメイルーンは傲慢を愛嬌に、高慢を親し気な態度に持ち替えた好青年へと様変わりだ。
「にしても電気は魔力で代替にしてもネット回線はどうやってるんだ」
 後、ややツッコミ気質になったかも知れない。
「ああ、それはだね……」
 飄々と答え説明するロイドの返しも噛み合ったものだ。
 酒を飲み交わし、互いの離れてからの話をし合う三人の変化は一見その程度。
 だが勿論、違う。内面の変化は大きい。上天を覆う夜の帳が如く。

 あれからユーリックは、温厚な吸血鬼として従属種を増やし、やがてその内の一人を愛し婚姻を結んだ。真面目だった彼らしい、実直で優しい道程。
 けれど幸福な生活は、オブリビオンによって齎された伝染病によって壊される。
 強壮さ故に一人病に侵されず、愛する妻と一族が生きたまま苦しみ続ける様をただ見るしか無かった真祖は。その苦しみから救う為、悉くの首を刎ね介錯した愛深き主は。そうして砕け折れた己の心を無理やり押し固め、今此処に在る。
「お前たちの顔が見られて良かった……本当に良かった」
 唯一……いや、唯二残された最後の家族。メイルーンとロイドに会う為に。
「一曲弾こうか?」
 途方も無く深く重い友情の滲むその言葉に対し、けれどだからこそあえて変わらず飄々と。浮遊する鍵盤『黒白刃鍵』を準備し始めたロイドは、ユーリックとは真逆にかつて真祖として一大勢力を築いている。だがその覇道も過去形、今はもう無い。
 従属種達に対し放任主義を貫いた結果、主より力だけを与えられ制約を受けなかった彼等はやがて増長し人類の敵と成り果てた。そうして吸血鬼狩りに一人残らず滅ぼされ……だがいと強き真祖である彼だけが討たれず、一人に戻った。
 残されたと言う意味では、ユーリックに近い身とも言えるが……その内心は大きく違うだろう。
 けれど。
「……そうだな。曲目は任せよう」
 それで友の気遣いを受け取らぬ道理もない。頷いた雷鳴卿に応じ、奏でられるは希望の魔曲。
「この酒も美味しいよ。僕なんかつまみ作ろうか?」
 心に感動と言う名の慰撫を与えんとする旋律が流れ始めた中。杯を軽く掲げ問うメイルーンの声には、その軽い調子の言葉とは裏腹にユーリックを本当に心配している情が籠められていた。
 彼が祖となった一族は、ある意味で最もなだらかな道程を歩んでいる。
 ユーリックが直系の従属種を余り作らず、主に従属種同士で子を為す事で増えた結果強力な個体が少なく、やがて迫った吸血鬼狩りに対する戦力に欠けた事が最も大きな危機。
 けれど超越者たる真祖……それも三人の中で最も魔力操作に優れる彼は、魔法で小世界を作り生き残った従属種達を移住させた。つまり、彼の一族は数こそ減れど未だ現存している。それは成果と言って良いだろう。
「確かに、酒だけと言うのも味気ないね。頼むよ」
 瞑目し曲に聞き入っているユーリックに代わり答えたのはロイドだったが、墜楽卿はよし来たとばかりに立ち上がった。かつて傲慢で高慢だった彼が、対等なる同族の為とは言え率先して炊事場に立つ。
 ましてや実の所、ロイドがフィンなる不死鳥と契約し太陽を克服したと聞いたメイルーンは彼にライバル心を抱いても居るのだが……けれどその対抗心は、友情や親愛と競合も矛盾もしないのだ。
「味付けは大蒜で良いかな?」
 ジョークを飛ばす位は正にご愛敬。
「ああ、良いアクセントになるだろう」
 返されたのは軽口の応報か、或いは真祖故の余裕から来る天然か。
 真夜中の太陽と謳われる彼の場合、本当に常備している可能性も無いでも無いけれど。

 会話を交えながらも揺らがぬ音色を堪能しながら、ユーリックは目を開き改めて見る。お揃いの、それこそ最高級のルビーが如く紅い瞳に映る同胞達。
 顔が見れた、また会えた、その幸運と喜びを改めて噛み締める。
 多くを奪われた彼が、砕けた心がどれほど痛もうと、今にも崩れそうでも、これだけはと決して離さぬ大切な絆。何よりも重い想い。
 メイルーンは、二人は死なないと思っている。心配はしても、それでも、大丈夫だろうと。
 平素明るく気ままな享楽主義の態度の彼らしいその楽観は、けれど矢張り絆の発露だ。共にあり続ける永い行く末が潰えぬと信じる強さ。
 ロイドは、逆にいつかは終わりの日が来ると割り切っている。二人の事を心から大事に思って居ると同時、どれ程強大な身であっても、自分含め死は必ず訪れるのだと。
 その諦念とも取れる現実的な見方は、それでもやはり絆故と言える。限りあるとしても、何時か喪われるとしても、だからこそ今を慈しむ愛。

 家族、友、同胞、仲間、どの様な銘であれど構わない。
 あの始まりの夜から変わったものは沢山ある。喪われたものとて幾らもある。けれど。それでも。
 さあ、喝采を。そして乾杯を。
 変わらぬものもが、確かに此処に在る。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2025年05月25日


挿絵イラスト