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ウシの鉄道を守れ

作者：寅杜柳

●ウシの鉄道狙うは恐竜
　獣人戦線、イングランド。
　狂気の超大国に支配されたこの地に走る魔導蒸気機関車は多くの荷物や人員を輸送し、超大国に抗う獣人達の大きな助けになっている。
　その鉄道の道中にウシ獣人の街がある。近くにあるサメの街から輸送された鉱石を精錬施設で精錬や加工を行い、更に各地へと運んでいくその鉄道は命綱であり常に賑わっている。車両は幾つかに分かれていて、中程にある食堂車は安くて量も多い｜糧食《レーション》料理で鉄道を利用する獣人達を満足させている。
　街と街を繋ぐ動脈とも言える存在――だからこそ、悪しき幻朧帝国のエージェントの逢魔弾道弾を用いた破壊工作のターゲットとして狙われてしまったのかもしれない。

　グリモアベース。
「お疲れ様です。今日は皆様に獣人戦線のイングランドで起こる事件の阻止に向かって頂きたいと思います」
　白に近い銀獅子の姿をしたサーマ・マルヴァス（華やかな獅子王・f37974）という魔王はそんな風に切り出す。

「イングランド北部のウシ獣人達が多く住まう街に、逢魔弾道弾を使った破壊工作が行われることが予知されました。具体的な手段は工作員の『陸軍大尉・茂木竜迅』が街と街とを繋ぐ鉄道に途中で飛び乗って来て、持ち込んだ逢魔弾道弾をウシの街の駅に到着した瞬間起爆、駅を中心に逢魔が辻に変えるというなんとも荒っぽい作戦です」
　それを防ぐ為に皆様の力を貸していただきたい、とサーマは今回の作戦の詳細を語り始める。

「まず皆様にはエージェントが狙っている機関車に近くの駅から乗車して頂きます。目的地のウシの街に着く前に途中で乗り込んでくるエージェントを始末する、というのが大まかな内容ですね。乗ってくるタイミングはウシの街近くに森があって、そこに入る瞬間に木々の中から最後尾の車両の屋根に飛び乗ってくるようです。そこで待ち伏せしておくといいかもしれませんが、隣の街からその森に着くまで結構時間はかかるようなので、食堂車で｜糧食《レーション》料理を楽しんだり、窓の外に流れる風景を楽しみつつ準備を整えておくのもいいかもしれませんね」
　因みに乗客も乗務員も大半がウシで、割と気のいい方々が多いので話すのもいいかも知れません、とサーマは付け加えつつオカリナの形をしたグリモアを手に取る。

「上手くやれるなら飛び乗ったタイミングで屋根から叩き落して機関車や乗客の安全を確保して戦うのもいいでしょう。機関車の中や屋根の上では白兵戦を得意とする向こうに分があるでしょうし……ともかく街に辿り着かせず撃破できればそれで大丈夫です。今回も無事獣人達を守れるように、どうかよろしくお願いします」
　そうサーマは締め括るとグリモアを輝かせ、獣人戦線のイングランドへと猟兵達を導いたのであった。

第1章 日常 『スチーム・トレイン』

POW   :    豪華な食事を楽しむ。 SPD   :    客車でくつろぐ。 WIZ   :    風景を楽しむ。 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

●旅番組も定番ですよね
『もうすぐ発車します。切符をお持ちの方はお急ぎください』
　そんな肉声のアナウンスが駅の構内に響き、ウシ獣人達が機関車へと乗り込んでいく。
　街と街とをつなぐこの魔導蒸気機関車、その向かう先のウシの街が幻朧帝国のエージェントに狙われていると予知した猟兵達は、その悲劇を阻止するために乗り込んでいく。
「世界に蔓延る悪を懲らしめるネガティブアイドル鬱詐偽さん、ただいま参上」
　そして機関車に乗り込む前に、音駆螺・鬱詐偽（帰ってきたネガティブアイドル・f25431）というバーチャルキャラクターは陰鬱な表情でカメラドローンに向かっていた。
　いつもの恥ずかしい台詞（鬱詐偽談）を欠かさず言いつつ、番組仕立てでオブリビオン襲来、撃破までを放映できるように撮影しているのだ。
　どちらかといえばアナウンサーとかリポーターの仕事のような気はするが背に腹は代えられない。番組の為である。
「右手に見えますのがこの地方の動脈でもある魔導機関車よ。獣人達だけでなく重い鉱石とかも簡単に輸送して……」
　ドローンの後ろ側に置いたカンペを読み上げながら説明する鬱詐偽、この後は乗り心地とか色々旅番組風に撮影していく流れになるのだろう。
　自分もこの機関車についてもマイナスイメージになるような事を言わないように言葉を選びつつ、後々やってくる襲撃に憂鬱になりながら鬱詐偽はアイドルらしく番組の映像を撮り溜めしていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

●機関車に揺られ縁を繋いで
　そして出発した魔導蒸気機関車。
　窓の外にはイングランド北部の凪いでいる海や草原の景色が流れていき、乗客のウシ達には見慣れたものらしくて外に注意を払っている者はあまりいないようだ。
「へえ、見えるのは小さな粒だけどこれがそれなのかい？」
『こいつ自体は含有量が少なくて使い物にならない屑石の欠片なんだが、ちゃんとしたのを磨き上げたり加工するのが俺達の仕事だ』
「へー、鉱石ってそんな風にして綺麗な宝石になるんですねー」
　そんな客室で赤茶の髪の少女熊ヶ谷・咲幸（チアフル☆クレッシェンド・f45195）、そしてライダースーツ姿の数宮・多喜（撃走サイキックライダー・f03004）の二人は職人のウシ獣人達と談笑していた。
　大柄なウシ獣人達に比べれば小柄な二人で少々怖気づいてしまいそうなものだが、持ち前のコミュ力で親し気に話しかけてくる多喜に、興味津々に色々尋ねてくる咲幸にウシ達も警戒心を解いて色々話をしてくれているのだ。
　海底や近くの離島から掘り出した鉱石を乗せた貨物車を後方に繋いだこの機関車、乗客として鉱員や職人の獣人達が多く、特に機密とかと関係ない自分の仕事に興味を持ってくれるのなら、ついつい口も軽くなって好意的になってしまうというもの。
『掘り出すのも大変だが、加工する方も結構プレッシャーあって大変なんだぜ？』
「それはそうですね……肝心な時にドジしちゃったら台無しですし」
　お騒がせなアイドルである咲幸は自分がかつてやらかしたドジを思い出しつつウシ達との話に花を咲かせていく。
　その話に相槌を打ちながら、多喜は外の風景を見る。
　海の風景、草原の風景――オブリビオンが待ち伏せしているのは森の入り口らしい。
「そういえば次の駅……その手前にあるっていう森まであとどれ位かかるんだい？」
『そうだなあ。今の風景だと後10分ぐらいか？』
　多喜の質問に壮年のウシが外を見遣りながらそう答える。
　乗り込んでくるのは後部車両、そろそろ移動して待ち伏せしておいた方がいいかもしれない。
「それじゃちょいと席を外させて貰うよ。もうちょっと後ろの客室者の方にも待たせてるのが居てね」
　そんな風に話を切り上げて、咲幸と多喜は席を離れ後部客室、その後方の車両へとオブリビオンを迎撃する為に向かっていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

第2章 ボス戦 『陸軍大尉・茂木竜迅』

POW   :    武器は刃のみに非ず 【鞭のようにしなる強靭な自身の尾】のスイングで近接範囲の敵全員にダメージを与え、100ｍ吹き飛ばす。 SPD   :    血塗れ緋竜 【炎を纏わせた日本刀】で攻撃する。命中すると【敵の返り血と緋色の陽炎】を纏い、レベル分間［炎を纏わせた日本刀］の威力と切断力が上昇する。 WIZ   :    死線は此処に 【全身に燃え盛る炎の如き緋色の刃の鱗】を生やした【鏖殺】形態に変身する。毎行動時、敵味方問わずランダムな対象を合計10回攻撃する。 イラスト：月夜野サクラ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●森に隠れし赤鱗
　やがて景色を置き去りにしながら魔導蒸気機関車は森へと差し掛かる。
　森の中を突っ切る形で引かれた線路伝いに機関車は速度を落とすことなく運行していく。
　そして機関車の最後尾が森へと入ろうとしたその直前、線路近くの大きな木から一人の赤い獣人が車両の屋根の上に音もなく飛び乗り着地する。
　幻朧帝国のエージェント『陸軍大尉・茂木竜迅』――この機関車に不法乗車してそのままウシの街の駅で逢魔弾道弾を起爆させ逢魔が辻へと変えてしまおうとする邪悪なオブリビオンだ。
　しかしかのオブリビオンを阻むべく、車両の連結部から屋根へと跳躍して猟兵達が戦闘態勢を取る。
　一瞬驚いた表情をする竜迅、しかし即座に予知されていたということを認識して鞘から刀を抜き放ち猟兵達に構えるのだった。




●悪しき赤鱗を迎撃せよ
　即座に交戦を判断した幻朧帝国の恐竜人エージェントは、四足歩行に近い身を低くした姿勢で猟兵達に切り込んでいく。
　手にした鋭い日本刀は当然厄介ではあるが、何よりも厄介なのは恐竜人の獰猛さ、そして身体能力。
『纏めてブッ飛ばしてやらあ！』
　長く頑丈な恐竜の尾をしならせ、一薙に猟兵達を機関車から弾き出そうとするオブリビオンを迎え撃つのはチャイナ服の瑠璃・やどり（チャイナウルフガール・f03550）、そして金の髪の美しい召喚獣『｜幽魔月精《アストラル・エレメント》』のティティス・ティファーナ（召喚獣「アストラル・エレメント（幽魔月精）」・f35555）。
　走る機関車の揺れる足場をものともせず走って接近する竜迅に、ティティスは体に装着した超大型レーザーキャノン、大型超電磁式弓矢に加え超小型の涙粒型レーザー砲台を浮遊させて展開、眼前のレーザーサイトスコープを通し狙いを定めてユーベルコード【フルバースト・マキシマム】を起動する。
　一斉に放たれるキャノンと浮遊砲台からのレーザー光線、エージェントはそれを掻い潜り近づこうとする。
　しかし左右に狭い機関車の上では逃げ場も少なく、超高速の矢が恐竜人の足を射抜きダメージを刻み込んで、そのタイミングでやどりが『双喜』という打ち出の小槌を大きくしたようなハンマーを手に真っ向から飛び込んでいく。
「いっくよー！」
　睨みつけてくる凶悪な爬虫類の目から目を逸らさずやどりが起動するユーベルコードは【跳！打！壊！散！】、
『させるかよ！』
　対する竜迅はよくしならせ加速をつけた太い恐竜の尾で迎撃、フルスイングされた双喜と恐竜人の尾が真っ向から衝突する。
　同じ性質を持つ両者のユーベルコードの衝突――その結果はオブリビオンが力負けして吹き飛ばされる結果に終わる。
　ティティスの射撃で勢いが落ちていた影響も大きいだろう。高速で走る機関車の屋根の上から吹き飛ばされたエージェントは線路へと落下――する寸前に最後尾車両の出っ張った部分に尾を絡めて落下は回避する。
　だが大きな隙はできている。それを見逃さずにティティスとやどりは前方車両へと通さぬよう各々の武器を構え追撃を仕掛けていく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●緋の鱗を近づけさせぬよう
　最後尾へと吹き飛ばされた幻朧帝国のエージェントに、雷撃の銃弾の支援射撃と共に一人の女性天使が剣を構え切り込んでくる。
　不安定な体勢から辛うじて銃弾を躱し剣に日本刀を合わせ、天使を力で強引に押し返す竜迅。
　天使は一旦後退、退いた先にいるのはサキュバスのミーガン・クイン（規格外の魔女・f36759）、
「中々楽しそうな相手ね♪」
　楽し気な様子で女性天使『ミュールフォン』を迎えるミーガン、主の言葉に無口なミュールフォンは何も言わず盾と剣を構え直す。
『舐めやがって……！』
　恐竜人の怒りが現れたかのように、オブリビオンの赤き鱗は炎の如く燃え盛る緋色の刃鱗へと変化、鏖殺形態へと変身した幻朧帝国のエージェントは日本刀を構える。
　その刃のみならず体に生やした緋の刃鱗は本来は味方をも傷つける力、しかし単騎である今は敵である猟兵のみを行動毎に合計10回ランダムで攻撃できるようになる厄介な力だ。
　もしウシの兵士等多数相手なら非常に厄介な力だっただろう、と前方車両から駆けつけてきた数宮・多喜（撃走サイキックライダー・f03004）は思考しつつ、先程支援射撃を行った魔導SMG『SMG-MP5udc』の術式オートリロードを確認しつつ迎撃態勢を取り直す。
　改めて切り込んでくるオブリビオン、近づかせれば厄介な相手だろうが、その前にミーガンは空中に魔法陣を描き出す。
「おおきくなぁれ♪」
　起動するユーベルコードは【拡大魔法】、魔法陣の正面にあったミュールフォンの剣が魔法陣より放たれた拡大魔法の効果を受けて巨大化する。
『なっ……！？』
　突然巨大化した武器――剣の横幅だけで自身の身長を超えるサイズのそれに驚く恐竜人に対し、ミュールフォンは容赦なく巨大化した剣を真上から振り下ろす。
　咄嗟に装甲する機関車の側面に貼り付くようにして竜迅は攻撃を回避、剣は車両に当たる寸前で止められていたが、仮に直撃すればただでは済まなかっただろう。
　そして回避直後に車両の屋根に再び上るオブリビオン、緋色の刃鱗と日本刀で猟兵達を八つ裂きにしようとする。
　が、
（「こんな感じで十分かしら♡）
（「ああ、十分さ」）
　テレパスを通じたミーガンの言葉に多喜が思念波で応ずる。
　多喜が起動しているユーベルコードは【超感覚戦陣】、ミーガンと思念波により言葉を交わさずに即席の連携を取りながらこの銃撃を躱し辛い状況へと誘い込んだのだ。
「悪いね、アタシらには繋がるコツがあるのさ」
　飛び上がり屋根に着地しようとした瞬間を狙って魔導SMGから電撃纏う銃弾が放たれ、恐竜人の緋色の刃鱗の脆い部分を正確に狙い砕き穿った。
　そして同時に電流が恐竜人の体を駆け巡り、電撃で体がほんの僅かに硬直。その致命的な隙を狙い、停止していたミュールフォンの剣がそのまま水平に薙ぎ払うように振るわれ、壁が動き衝突してくるような勢いで竜迅に叩きつけられたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●平和な駅はもうすぐそこに
『ま、まだまだァッ！！』
　まるでハエたたきに叩かれるように、巨大化した剣を叩きつけられ機関車から弾き飛ばされたエージェントは、空中で体勢を整え森の樹の一本を足場にし、機関車に向けて全力で跳躍した。
　飛び乗ってからは再度前方車両を目指す、或いは機関車が森を抜けウシの街の駅に着くまで時間を稼ぐ――いずれも難しいだろうが任務達成の為にはその困難を乗り切らねばならない。
　必死の形相で飛び乗ってくる竜迅だったが、その位置には丁度コンパクトをこじ開け煌びやかなエフェクトと共に変身を果たした熊ヶ谷・咲幸（チアフル☆クレッシェンド・f45195）の姿があった。
　蹴ったりできる物の無い空中では姿勢変更は困難、だが恐竜人は自身のよくしなる頑丈な尾を思いっきり振り回す事で飛び乗る勢いを落とさぬままに待ち構えるアイドルを吹き飛ばそうとする。
　けれどもこの咲幸、別の個体ではあるがこのオブリビオンとは交戦経験がある。少々状況は異なるものの、苦し紛れの攻撃を見切れぬはずもない。
　野生の勘で尾の軌道を見切りしゃがんで薙ぎ払いを潜り、尾の根元に近い位置を怪力でがっちりと掴み、ユーベルコード【びったんびったん】を起動する。
「ぼ、暴力はやめてください～」
　可愛らしく言いながら可愛くない速度で恐竜人を振り回す咲幸、そしてそこに真っ赤なインラインスケートで緋色の髪の赤星・緋色（サンプルキャラクター・f03675）が、圧縮空気を駆動力に変えつつ高速で機関車の屋根を駆け飛び込んでくる。
　彼の起動しているユーベルコードは【薔薇の剣戟】、屋根から跳躍し空中で幾度かステップを踏みながら振り回されているエージェントの懐に飛び込んで一、二、三と空中ステップを踏みつつ蹴りの連撃を命中させていく。
　一撃一撃毎に薔薇の花弁を舞い散らせる高速の攻撃に、日本刀を燃え上がらせた竜迅の咄嗟の切り払いも間に合わない。
　そして、
「これでおしまい！」
　エージェントの胴体に撃ち込まれる強烈な蹴り、四連撃目となるそれは受けた敵に死を与える致命の死連撃。
　ぱっと咲幸が手を放して放り投げれば、線路へと落下する前に恐竜人のオブリビオンは跡形も残さず消滅したのだった。

　そして森を抜けた魔導蒸気機関車は、ほどなくして穏やかなウシの街へと到着する。
　逢魔弾道弾の起爆はない――平和を守りきった猟兵達はグリモアベースへと帰還したのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

最終結果：成功 完成日:2025年06月19日