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訓練狙うは血塗れの赤鱗

作者：寅杜柳

●ウシの訓練、狙う恐竜
　グリモアベース。
「獣人戦線の事件が予知されたっす」
　力士の風格のグリモア猟兵、押出・ハリマ（気は優しくて力持ち・f44111）は集まった猟兵達にそう切り出す。
「場所はヨーロッパ、内陸のウシ獣人が多く住んでる都市っす。頑張ってウシ獣人達は訓練を重ねているみたいなんすけど、ここに幻朧帝国のエージェントが逢魔弾道弾で破壊工作を企んでって予知が見えたっす。なので、エージェントがやってくる前に都市に向かい、現地のウシ獣人と交流しつつ逢魔弾道弾を持ち込んだエージェントを迎え撃ってほしいってのが今回の依頼になるっす」
　破壊工作が成功したら街は逢魔が辻、街は壊滅状態になってしまうだろうとハリマは言う。
「それで現在その街の広場ではウシの兵士が色々訓練してるみたいっす。銃器の扱いとか軍隊風の訓練もあるっすけど、接近戦とかユーベルコードを使っての模擬戦も需要があるみたいっすね。重傷になるような怪我はさせない程度に皆も参加して訓練してみるのも悪くないと思うっす」
　そして訓練中のウシ達を狙ってエージェントはやってくるのだと、ハリマは説明する。
「逢魔弾道弾設置にやって来る幻朧帝国のエージェントは恐竜人の『陸軍大尉・茂木竜迅』ってオブリビオンっす。どうも血に飢えてるみたいでこっそり逢魔弾道弾を起爆すればいい所を、わざわざ真正面から来てウシ達を斬りまくってから目的を遂げようとしてるみたいっすね。ヤバいやつなので気を付けて戦ってほしいっす」
　そして得た予知について説明を一通り終えたハリマは、雷気のグリモアを浮かべ転移の準備を始める。
「今のところ猟兵に覚醒したウシ獣人はいないっすけど、多く事件を解決していけばもしかしたら新たに覚醒するものも現れてくるかもしれないっす。ケルベロス・ウォーももう終わりが近く、他の世界に新たな問題も出てくるかもしれないっすけど、こちらの獣人達もできるだけ助けていってほしいと俺は思うっす」
　そうハリマは話を締めくくり、グリモアの力で猟兵達をウシ達の多く住まうヨーロッパの都市へと転送したのだった。

第1章 日常 『鍛錬あるのみ！』

POW   :    真っ向から力をぶつけ合い鍛え上げよう！ SPD   :    速度や技術を競って磨き上げよう！ WIZ   :    戦術や戦略、獣呪術を活用した戦いを試してみよう！ 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

●戦いに備え日々鍛錬を
　獣人戦線は日々超大国による侵略が行われていて、戦いと無縁の土地が一月後には弾丸飛び交う最前線になっている事も決して珍しい話ではない。
　故に日々訓練を積んで戦いに備えることは、今戦火に晒されていない街でも当然。特に歴戦の猟兵であるなら昨年の戦いの戦果も十分広まっていて、その戦い方を学ぼうと兵士達は教えを受けたいと要請してくるのも当然だろう。
　快く受け入れた猟兵達は、己のもつ力の一端をウシの兵士達に示すように特訓を開始する。
「いっくよー！」
　チャイナ風の人狼少女、瑠璃・やどり（チャイナウルフガール・f03550）が明るくウシの兵士たちに言って、愛用の打ち出の小槌風の巨大ハンマー『双喜』を掲げる。
　ユーベルコードの破壊力をとりあえず直に見てみよう、という話だったのだが、【力！量！搭！載！】を起動したやどりのハンマーを見ているウシたちは付与されるなんかすっごいパワーに後退りしている。
「いっけー！」
　巨大な岩に叩きつけられる双喜、だが巨大ハンマーは大岩をぶち割ることはなく、立体映像に触れるかのようにすり抜けてやどりの肩を軸に一回転する。
　あらゆる物質を透過して対象の臓腑にのみダメージを与えるという直に受けたくない力だが、物理現象を超越したユーベルコードの柔軟さをウシの兵士たちに示すには十分な実例なのかもしれない。
　一方、
「それじゃ訓練を始めるわよ……どうかした？」
『いや……その……』
『……そろそろ夏も近いし、けど毛皮とかじゃないしなあ』
「この鎧は一族伝統のものよ、それがどうかしたの？」
　特訓のお手伝いにやってきたイネス・オルティス（隠れ里の女戦士・f06902）、至って言動は真面目なのだがその姿は少々目のやりどころに困るビキニアーマー。
　元からナイススタイルでもあるからウシの兵士達には少々刺激が強いようだが――すぐにそんな事を考えているような状態ではなくなってしまう。
　特訓開始、後方からの援護射撃を受けながらハンマーを構え突撃してくる荒々しいウシ達に、イネスは冷静に『巨獣槍』を構えて槍を回転、銃弾を弾きながら振り下ろされるハンマーを受け止める。
　そして地面をハンマーが砕くと同時、槍を薙いでウシの兵士を弾き飛ばすと、そのままアサルトライフルを向けている後方の兵に向かってダッシュで急接近して突いた。
　巨獣槍の穂先はウシの鼻先で止まる。訓練だから傷付くような無茶はやらないが、それでも実戦さながらの迫力を兵士達に感じさせただろう。
『これが猟兵……ユーベルコード使わなくてもこんなに強いんだなあ』
　イネスを見るウシ達の目は好奇ではなく尊敬へと変わっていた。
　幾らか模擬戦のような形式で特訓を手伝い盛り上がる二人とウシの兵士達、そこから離れた場所にいるお騒がせ☆アイドルの熊ヶ谷・咲幸（チアフル☆クレッシェンド・f45195）の周りでもどよめきが広がっていて。
『誰も勝てねえ…』
『何だあの力！？』
　いつもの如く変身アイテムであるコンパクトを強引にこじ開けて、アイドル姿に変身して兵士達を応援しようとしていた咲幸だったのだが、握手会のノリから猟兵の腕力とはどのようなものか、と何故か腕相撲をやる羽目になっていた。
　そして咲幸の規格外の剛力に筋骨隆々なウシの兵士達は僅かな抵抗すらできずに薙ぎ倒されていて。
　流石はクラッシュ☆エンドーー、
『チアフル☆クレッシェンドです！？』
　どこかへとツッコミを入れながら、やや意気消沈気味なウシの兵士達を励ます為にアイドル力を発揮し応援する咲幸。
　懸命に頑張る彼女の姿はきっと、この硝煙の匂い漂う世界の片隅に希望を灯すのだろう。

　そうこうして特訓を重ね友誼を深めていくウシの兵士と猟兵達。
　それを阻むかのように、街の外から殺意の鱗が迫っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

第2章 ボス戦 『陸軍大尉・茂木竜迅』

POW   :    武器は刃のみに非ず 【鞭のようにしなる強靭な自身の尾】のスイングで近接範囲の敵全員にダメージを与え、100ｍ吹き飛ばす。 SPD   :    血塗れ緋竜 【炎を纏わせた日本刀】で攻撃する。命中すると【敵の返り血と緋色の陽炎】を纏い、レベル分間［炎を纏わせた日本刀］の威力と切断力が上昇する。 WIZ   :    死線は此処に 【全身に燃え盛る炎の如き緋色の刃の鱗】を生やした【鏖殺】形態に変身する。毎行動時、敵味方問わずランダムな対象を合計10回攻撃する。 イラスト：月夜野サクラ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●赤鱗はウシを斬りたい
　予知通りにそのオブリビオンはウシの兵士と猟兵が訓練している広場へと真っ向からやってきた。
『任務ついでに斬りてえなあ……』
　そんな事をぼやきながら幻朧帝国所属の恐竜人のオブリビオン『陸軍大尉・茂木竜迅』は刀を抜いて警戒するウシ達に向けて舌なめずり、どこからどうみても血に飢えた邪悪な存在だ。
　このエージェントの狙いは逢魔弾道弾の起爆、されど今は眼前の得物を前に切り刻みたいという欲求が勝っていて、つまり真っ向勝負で刀を振るってくるだろう。
　ウシの兵士達が武器を構える。必要であれば彼らの支援を受ける事も可能だろう。
　そして恐竜人のオブリビオンがユーベルコードを起動、同時に応戦すべく猟兵もユーベルコードを起動し、このウシの街を守る為の戦いが始まったのだった。




●縛り、穿ち
「ふーん、やっと、ボスのお出ましか……」
　妖狐の政木・朱鞠（狐龍の姫忍・f00521）という忍者は、真っ向からやってきた幻朧帝国のエージェント『陸軍大尉・茂木竜迅』の頭からつま先までさっと視線を巡らせる。
　恐竜人――強靭な尾と獰猛な性質、緋色の鱗は炎のようでいて浴びた返り血に染まっていると言われれば信じてしまいそうでもある。
　そしてその嗜虐的とはっきりわかる表情は、恨みを晴らす為ではなく己の快楽――他者を傷つけ悦に入るタイプ。
「不安撒き散らした貴方の咎はキッチリと清算してから骸の海に帰って貰うよ」
　構えるのは使い慣れた拷問具『荊野鎖』、蔓薔薇のように不規則にスパイクの付いたそれを振るう彼女に対して、竜迅は殺気を放って。
『まずは手前から斬ってやるっ！』
　ユーベルコードにより日本刀が真紅の炎に燃え上がる。その鋭き刃は返り血を浴びる事で緋色の陽炎を纏い切れ味を増幅させる接近戦用の刃。
　白兵戦を得意とするオブリビオンが全速で切り込んできて、対する朱鞠は風に舞う木の葉のようにひらり、ひらりと刃を躱していく。
「我が身は枝垂れる柳葉……風の吹くままにそよぎ……向かう刃は我が身に届かぬ……」
　朱鞠が起動しているのは【柳風歩】のユーベルコード、恐竜人が纏う衣から生じる僅かな衣擦れの風から攻撃を予測し、化身忍者の身体能力で炎の日本刀を躱していく。
　そこに撃ち込まれる銃弾。精霊銃をジャグリングのように入れ替えながら、シェーラ・ミレディ（金と正義と・f00296）というミレナリィドールは両者から距離を取りつつ援護射撃を放つ。
　罪なき獣人達を己の快楽の為に傷つける――そんな醜い行いを許せない、シェーラの義侠心。
「猛り狂え砲声」
　ユーベルコード【彩色銃技・琴瑟相和】を起動して、精霊銃『羞花閉月』の引き金を引いて攻撃を重ねていく。
　ほんの少しばかり精霊銃に施された『狂い精霊』――つがいを失った精霊の封印を解除して銃撃の威力を増しているから、銃弾は頑丈な恐竜人の赤鱗も容易く貫いていく。
　銃弾を受けつつオブリビオンは舌打ち、被害を抑え込もうと不規則に走り回り射線を切ろうとするが、シェーラは冷徹にそれを見切り移動先の足元へ銃弾を撃ち込み牽制。
　足が鈍ったところに朱鞠の荊野鎖が巻き付いて銃創へと食い込んで、オブリビオンの生命力を啜るかのようにして体力を削り取りつつ拘束・
　そこにシェーラの精霊銃の弾丸と後方のウシの兵士達の銃弾がここぞとばかりに一斉に撃ち込まれていく。
『やりやがったな畜生！』
　自身の血で鱗を染めながら怒声を放ち、拷問具を振り解き構え直す竜迅に対し、羞花閉月を納め次の精霊銃を抜くシェーラと荊野鎖を手元に戻す朱鞠。
　猟兵とオブリビオンの戦いは、更に激しさを増していく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●白薔薇の花弁とおそろしき｜群れ《レギオン》
　怒声を放ちながら恐竜人の緋色の鱗がより鮮やかな燃え盛る炎の色に変色し、刃のように伸長していく。
　死線上の鏖殺形態、此処には彼の敵しか居らず、故にリスクなくその行動毎の10回攻撃の恩恵だけを得る事ができる竜迅のユーベルコードだ。
　爬虫類の瞳を血走らせ刀を振るうオブリビオンを前に、後方で援護射撃を行うウシの兵士達の間から響納・リズ（オルテンシアの貴婦人・f13175）がゆっくりと前に出る。
　この極悪な幻朧帝国のエージェントに遠慮は要らない――魔導杖『ルナティック・クリスタ』をリズは掲げ魔力を籠めていく。
　更に、
「世界に蔓延る悪を懲らしめるネガティブアイドル鬱詐偽さん、ただいま参上」
　こんな状況でも番組の為に欠かす事ができない台詞を、音駆螺・鬱詐偽（帰ってきたネガティブアイドル・f25431）は死にそうな表情で竜迅へと告げて。
『手前馬鹿にしてんのか！？　先に殺す！！』
「ひぃっ！？」
　殺戮欲求全開なオブリビオンの凶悪な威圧に鬱詐偽は反射的に恐怖心を感じてしまう。
　そしてそれが彼女のユーベルコード【リアライズ・バロック】の起動条件。恐怖心に召喚された162体のバロックレギオンはその恐怖を与えた竜迅へと一斉に襲い掛かると、それに合わせリズも攻撃にかかる。
「この薔薇のように綺麗に滅して差し上げますわ」
　彼女が起動するのは【白薔薇の嵐】、月を象った杖と飾られた青のクリスタルが解けるように白薔薇の花弁へと姿を変えて、燃え盛る炎の如き恐竜人に花弁が襲い掛かる。
　バロックレギオンの群れと無数の花弁による攻撃は迎撃するに10では到底足りない、全てを切り落とす事は叶わず群れに襲われ花弁に切り裂かれるようにしてダメージを受けていく。
　そのままリズは白薔薇の花弁を操りウシ達に恐竜人の凶刃を寄せ付けぬように立ち回り、鬱詐偽は『バブル・ショック』から魔力の籠った泡を放って恐竜人の退路を断っていく。
　されどこの追い込まれつつある状況で、恐竜人はその獰猛な性質故に全く勝利を諦めることなく瞳に殺意をぎらつかせて、痛みを無視し地を這うような姿勢からダッシュしてどうにかこの状況を脱しようとする。
　猟兵とオブリビオンの戦いは、終盤戦に差し掛かろうとしていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●アイドル｜パワー《怪力》と疾走する燕
　白き花弁と恐怖心が具現化したかのような｜異形の群れ《バロックレギオン》達の猛攻を凌ぎ、どうにかダッシュで逃れた恐竜人のオブリビオンの頭上から、燕型の影が落とされる。
　宇宙バイク『エアハート』を疾走させその勢いで高く跳ねたアメリア・イアハッター（夢想空流・f01896）、そしてそのタンデムシートに搭乗しているのは熊ヶ谷・咲幸（チアフル☆クレッシェンド・f45195）。
　既に｜コンパクト《変身アイテム》をこじ開けて変身を完了した咲幸の姿はアイドル衣装、それを除けば普通の少女のようにも見える彼女ではあるが、意外と力は強かったりする。
「点火準備OK！　しっかり掴まってて、今から最高速だよ！」
　ヤドリガミの本体である古びた赤い帽子をぐっと被り直したアメリアが【Full Drive】のユーベルコードを起動、黒炎がエアハートを覆い更に加速させる。
　急降下する燕のような高速、更にはアメリアの騎乗技術で疾走するエアハートは、白兵戦に優れたオブリビオンと言えども容易に刃を命中させる事はできない。
　ならばとカウンターの構え、突進を耐えて強靭な尾で弾き飛ばして体勢を崩さんと即座に判断を切り替える竜迅。
　そしてアメリアは最高速度でオブリビオンに突進、咲幸を乗せたことによる通常の倍もの強烈な衝撃が襲い掛かる。
　意識が飛びそうになりながらもしっかとアメリア、そして咲幸を見据えるエージェントは真紅の尾を横薙ぎに二人を弾こうとする。
　だが、咲幸はそのカウンターで合わせてきた強靭な尾をがしっと受けとめ握りしめて、ユーベルコード【びったんびったん】を起動。
「や、やめてください〜」
　そのまま軽々と持ち上げて、疾走するエアハートからとん、と飛び降りつつオブリビオンを地面に凄まじい勢いで叩きつける。
『がはっ……！？』
　一撃で意識を刈り取られそうになる程の衝撃、轢殺ダメージだけでもギリギリではあったが、この追撃は致命的な一撃だ。
　そしてそのまま咲幸は頑丈な――かなりの力で振り回しても千切れたりしない、恐竜人の尾を持ち上げて。
『アメリアさん、お願いします！　せーのっ！』
　可愛らしく言いつつ可愛くない速度で恐竜人をぶん回し、そしてアメリアの居る方へと投げ飛ばす。
「うん、任せて！」
　意図を察したアメリアは黒炎纏うままのエアハートの機首を飛んでくるオブリビオンへ向けてそのまま正面衝突、轢殺のダメージでトドメをさしたのだった。

　猟兵達の戦いを援護していたウシ達は、消滅するオブリビオンの姿にわっと歓声をあげる。
　直に猟兵の戦いを見て、共に戦った彼らはきっと別の超大国の襲撃を受けたとしても、勇敢に戦う事だろう。
　そして猟兵達はウシの兵士達に別れを告げ、グリモアベースへと帰還したのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

最終結果：成功 完成日:2025年06月05日