配信者シアンガチ恋勢隔離スレ
●ガチ恋
ガチ恋。 それは手の届かない存在に本気で恋をしている、と揶揄される言葉でもある。
だが、当人たちにとっては本気の本気なのだ。
気持ちを示すことでしか、己の胸の内に暴れ狂う感情と折り合いがつかないから、そうするしかないとも言えるだろう。
そんなガチ恋勢は、織部・藍紫(シアン・f45212)にも存在している。
彼には知る由もないが。
『これ、シアンに恋人できた!?』
『マ!?』
『誰、誰なのシアンを射止めたのは!!』
『シアン、何かの話をする時、関連すること経験してたりするから…!』
『恋愛ゲーしてる様子は…』
『ない!ゲーム配信は相変わらずRPG系の!』
とまあ、こんな具合なのであるから当人だけが知らぬが仏というやつである。
穏やかな生活には、時折鈍感さというものも必要になるのだ。
まあ、その心穏やかさとは裏腹にスレッドの住人たちは荒れに荒れていた。
阿鼻叫喚という言葉がふさわしかっただろう。
アーカイヴを攫ってみても、そんな話は一切でてこなかったのだ。
だが、これでもスレッドの住人たちはまだ理性が勝っている大人であった。
大暴れして、本人の目に止まってしまっては本末転倒である。
叶わぬ恋であっても、当人に嫌われたくないのだ。
「……あれ?」
そんなスレッドを見ていた一人は、首を傾げた。
何か、こう頭の端に引っかかっているものがあるのだ。だが、その正体を突き止めようとして首を何度もかしげてみる。
脳細胞が活性化する。
電流走るようだった。
「あっ――ッッッッ!!!!」
そう、彼女は喫茶店につとめている。
ウェイトレスとして。
そうなれば当然、接客をする。
お客様とニ言三言交わすことだってあるだろう。
彼女の脳細胞は、活性化し幾つかの記憶が紐づけられて結合していく。
「もしかして」
そう、職場にお茶をしに来たカップルの姿が脳裏に浮かぶ。
そして、配信画面とスピーカーから流れる声が繋がるのだ。
「いや、いやいやいやいやいや!!」
そんなことあるのだろうか?
確信が持てないが、確証はある。
だが、彼女はこの問題を抱え込むことにした。
何故なら、この手のスレッドには不文律があるからだ。
そう、『リア凸禁止』、だ。
「私は大人。私は大人私は大人」
念仏のようにつぶやき、手元にあったチラシの裏に思いの丈を書きつけ、スレッダーにイン。
チラシを刻む音がして、少し彼女は気が晴れるのだった――。
成功
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