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ケルベロス・ウォー③〜冥月狂鳴

#ケルベロスディバイド #ケルベロス・ウォー #メリュジーヌ

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●月と冥府の少女
 水面に雫が落ち、映り込んだ月影を揺らす。
 その光景を見つめる少女の微笑みは月光のように淡い。
 静かに細められた双眸は不思議な燦めきを宿しているが、其処に宿るのは死への渇望。
「ふふ……もっと、もっと首を刈らないと。死の数が足りないわ」
 その少女――フィノーラは笑う。
 彼女は見た目こそいたいけな少女だが、デウスエクスの一人だ。死神を自称するフィノーラは人の命を刈り取り、死者を使役する力を持つ存在。そんな者が今、ケルベロス・ウォーの混乱に乗じて動き出している。
「さぁ、まずは誰を殺しましょうか。……あら?」
 フィノーラが踏み出そうとしたとき、不意に上空で何かが揺らいだ。
 振り仰いだ空には満月が浮かんでいる。
 だが、今宵の月はもっと違う形だったはずだ。月光は大地に強く降り注ぎ、まるで狂気を孕んだかのような揺らぎを見せている。|あの子《弟》もこの月を見ているかしら、とフィノーラは呟いた。
「不思議なこともあるものね。でもいいわ、わたしの月の方が綺麗だもの」
 首を傾げたフィノーラは気にせずにいたが、彼女は知らない。
 その満月はデウスエクスに対抗するべく投影された、儀式魔術による狂鳴の満月だということを。

●狂鳴せし時
 全世界決戦体制の最中、新たに動き出したデウスエクスがいる。
 ミカゲ・フユ(かげろう・f09424)は人々の虐殺が始まる未来を予知しており、猟兵達に危機を伝えた。されどそれはまだ先のことであり、今から動けば被害が出る前に敵と戦える。
「みなさんは、扇動と慰撫を司る妖精種族『メリュジーヌ』を知っていますか? その方達が儀式魔術を使って、戦場の上空に『狂鳴の満月』という偽りの月を投影してくれています」
 それは狂月病を引き起こすほどの月光を齎すもの。
 狂月化した猟兵は、たとえウェアライダーでなくとも重い狂月病に似た狂気の発作を発症する。だが、同時に莫大な身体能力の強化を得られるものでもある。
 此度の敵はかなりの力を秘めており、そうまでしないと倒せない相手というわけだ。
「湧き上がる力は相当なものです。ですが、無限の狂気にも耐えなければいけません。そうすれば強力なデウスエクスとも互角、いえ、それ以上に渡り合えます」
 狂鳴の力、或いは現地で儀式魔術を巡らせているメリュジーヌと協力して戦うことが勝利の鍵。
 ミカゲは少し心配そうに仲間を見つめたが、すぐに信頼の眼差しを向けた。
「みなさんなら、きっと……ううん、絶対に勝てると信じています!」
 そして、ミカゲは皆を送り出す。
 狂鳴の満月が強く輝く、此度の戦地へと――。


犬塚ひなこ
 こちらは『ケルベロス・ウォー』
 ③ジャマー〜『狂鳴の満月』のシナリオです。

●👿『フィノーラ』
 鎌で命を刈り取ることを得意として、死者を一時的に蘇らせて使役する少女。
 冥府の海から来た死神と自称しているが真偽は不明。猟兵に近しい故人を召喚することもあり、厄介な戦い方をする相手です。どうやら弟がいるようですが……?(こちらのシナリオに弟は登場しません)

●プレイングボーナス
『メリュジーヌと協力して戦う/「狂月化」して戦う』

 時刻は夜。現地には儀式魔術を行っているメリュジーヌがいます。
 魔術を途切れさせないようにメリュジーヌに協力するもよし、狂月化に身を任せたり、果敢に耐えたりしながら戦うもよしです。ご自由にどうぞ!
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第1章 ボス戦 『フィノーラ』

POW   :    ギロチンフィニッシュ
【簒奪者の鎌】で対象の【首】を攻撃する。自身が対象に抱く【憐憫】の感情が強い程、[首]への命中率が上昇する。
SPD   :    月の微笑み
【自身の足元】から、戦場全体に「敵味方を識別する【水面に投影された月】」を放ち、ダメージと【狂気】の状態異常を与える。
WIZ   :    冥府の使い
【冥府の海】から【歴戦の戦士もしくは猟兵に近しい故人】を召喚する。[歴戦の戦士もしくは猟兵に近しい故人]に触れた対象は、過去の【トラウマ】をレベル倍に増幅される。

イラスト:弌月

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠マリアベラ・ロゼグイーダです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

マシュマローネ・アラモード
【月に酔う】
狂える月の魔力……瞬間的なら、私も持てる力を解放しましょう!

【赫眼】
UCで覚醒と月の魔力に乗せて、放つのは重力と斥力の|権能《プリンセスエフェクト》!

モワ!儀式を行うメリジューヌの皆さまに近づけさせません!
舞うように飛翔し、斥力(吹き飛ばし)で弾き、重力で抑えますわ!

あくまでも瞬間的な強化、攻めるにしても、刹那の一撃。
不可視の力、重力と斥力を縛る鎖と破砕する槌として、確実な一打をお見舞いしましょう。

月の魔力……うさぎの皇女としては、何か特別な力として身に宿しておきましょう、いつかの決戦の時まで……!


蓮見・津奈子
身体に滾る力。其に身を任せたいという衝動。
何も考えず、只々力を振るう――常ならば、人たる縁さえ捨てる行いと避けていたのでしょうが。
今は、それが敵に立ち向かう鍵であるなら。

狂気に身を委ね、求めるがままに戦いましょう。
最低限、敵味方の区別はつけますけれども。

狙いは単純明快。
敵へと掴みかかり、【怪力】の限りに肉鉤を喰い込ませ。
発現・奇鬼怪力を発動し、滅茶苦茶に【ぶん回し】、周囲へ叩き付けていきます。
敵の攻撃は致命にならない程度に受け、後は【回復力】による自己再生頼み。
狂っている以上、細かいことまで思考は回らないでしょうから…。
只々、この力を叩きつけるのみ…です。


エルセ・リーリャ
月は狂気であり狂気とは女也・・・・いあ、別にどうでもいいけど。
偶には狂気に委ねていいかもしれない。実際興味があるから、ボクの中に狂気があるのかどうかあるとしたらどんなものか?
さあ、飲み込まれる前に駆け抜けようそして敵を討ち果たそう!
水面に映る月の狂気はもとより狂気に包まれているので関係ない。
月の攻撃はザグナルで受け流して・・・・やれる?やるしかないけど!
後は、受けるがいい全てを破壊する創世の一撃を!
これだけの範囲躱せる?



●月光の魔力
 狂鳴の満月が輝く夜。
 煌々とした光が大地を照らしていく最中、強い風が吹き抜けた。
 揺れた髪を片手で抑え、マシュマローネ・アラモード(第一皇女『兎の皇女』・f38748)は空を見上げる。
 あの月は扇動と慰撫を司る妖精種族、メリュジーヌ達が浮かべたもの。行使するだけでも危険を孕むものではあるが、上手く扱えば悪しき存在を討ち倒す力となる。
「これが、狂える月の魔力……」
 例えるなら、月に酔うような感覚があった。マシュマローネは己の中に新たな力が宿っていくことを確かめながら、満月から視線を下ろす。
 同じくして、蓮見・津奈子(真世エムブリヲ・f29141)も狂鳴の影響を感じ取っていた。
 身体に滾る力。其に身を任せたいという衝動。
 そういったものが沸々と湧き上がってきている。何も考えず、只々力を振るいたいと思えるほどだ。
(――常ならば、人たる縁さえ捨てる行いと避けていたのでしょうが)
 しかし、津奈子は暴虐の意志に冒されてはいなかった。
 これが敵に立ち向かう鍵であり、扱うべきものだと理解しているからだ。無論、狂気の片鱗は宿しているのだが、求めるがままに敵に対峙することこそが此度の戦いを有利に導く。
 津奈子は今回の敵である、フィノーラを見つめる。
 するとデウスエクスの少女は好戦的に双眸を細め、月のような微笑みを向けてきた。
「あなた達の首も刈ってあげましょうか?」
「月は狂気であり狂気とは女也……いあ、別にどうでもいいけど」
 敵の問いかけに対し、エルセ・リーリャ(星を穿つ|射手《サジタリウス》・f44388)は頭を振った。猟兵側には狂鳴の満月の力が宿されており、フィノーラにもまた冥府の使いとしての狂気が巡っている。
 対峙する双方に、狂月の力があるのならば――。
「偶には狂気に委ねていいかもしれないね。ボクの中に狂気があるのかどうかあるとしたらどんなものか、実際に興味があったから丁度良かったよ」
「ふふ、可笑しな人。でもね、狂う前に殺してあげるわ」
 フィノーラはエルセの物言いに対しての返答を紡ぎ、簒奪者の鎌を振り上げた。
 それは彼女なりの宣戦布告だ。
 そのように判断したエルセは前に踏み込み、共に戦う仲間達に呼びかけた。
「はたしてどうなるかな。さあ、飲み込まれる前に駆け抜けよう。そして敵を討ち果たそう!」
「えぇ、私も持てる力を解放しましょう!」
 先ず仲間の声に応えたのはマシュマローネだ。その瞳が真紅に輝いた刹那、マシュマローネは空の月を背にするようにして高く跳躍した。同時に月の魔力に乗せて、解き放つのは重力と斥力の|権能《プリンセスエフェクト》。
 赫眼の戦兎はそれだけでは止まらない。
 マシュマローネはフィノーラとの距離を詰め、儀式を行うメリジューヌに意識を向けさせぬようにした。
「モワ! 好き勝手にはさせませんわ!」
「いいえ、わたしの思うままにさせてもらうわ」
 双方の視線が間近で重なり、重力と鋭い鎌の一閃が拮抗した。されどマシュマローネは怯まず、そのまま舞うように飛翔していった。斥力で刃を弾き、更なる重力で敵を抑えにかかったのだ。
 次の瞬間。
 マシュマローネが巡らせた縛る鎖が迸り、破砕する槌が敵を穿つ。刹那の一撃に乗せられたのは狂月の力。それによってフィノーラの体勢を大きく揺らがせることができた。
「……!」
「皆様、今ですわ!」
 マシュマローネはあくまでも瞬間的な強化として、確実な一打のために月の力を行使するだけに留めている。それゆえに追撃を他の仲間に願い、射線をあけるために一度身を引いた。
 呼びかけに応じた津奈子がフィノーラに迫る。
 その狙いは単純明快。
 一直線に敵へと掴みかかり、持ち前の怪力を発揮していくだけ。力の限りに肉鉤を喰い込ませた津奈子は、フィノーラの身を引き裂くつもりだ。更にそこへ見舞われるのはとっておきの一撃。
 ――発現・奇鬼怪力。
 よろめいたフィノーラを滅茶苦茶にするべく、その身体を掴んだまま周囲へ叩き付ける。
「……っ、あ――」
「まだ終わりませんよ」
 短い声を零すことしかできないフィノーラに対し、津奈子は思うままに振る舞った。敵からも反撃としての鎌撃が繰り出されているものの、致命傷になるような傷は刻まれていない。
 自らの血を散らしながら戦う津奈子だが、そこには自己再生が働いていた。静かで穏やかな様子に見える津奈子もまた、狂気に己を晒している身。
 一時的であれど狂っている以上、細かいことにまで思考が回らない状態だ。
 だが、それも織り込み済みでこの戦いに参戦している。
「只々、この力を叩きつけるのみ……です」
 最初から決めていた思いを言葉に変え、津奈子は怪力を巡らせていった。
 フィノーラに繰り出される攻撃はもちろんそれだけではない。津奈子もほぼ同時に動いており、マシュマローネや津奈子とは別方向から敵に立ち向かっていた。
 水面に投影された月がフィノーラの反撃として巡っているが、エルセにはほとんど効いていない。もとより狂気に包まれているゆえ効果が薄いのだろう。
 これもきっと、儀式魔術を行い続けているメリュジーヌ達のおかげだ。
 そして、エルセは複合兵装ザグナルを掲げることで敵に対抗した。一閃を受け流しながら身を翻すことで痛手を負うことなく対応できている。
「……このままやれる? やるしかないけど!」
 ふとした自問からの自答は早く、次の瞬間にはエルセによるユーベルコードが放たれていた。
 それは|破壊の創世雨《トリムルティ・ブラフマン》。
「――受けるがいい、全てを破壊する創世の一撃を!」
 無数に分裂した光の矢が天から降り注ぎ、フィノーラを貫いていく。エルセはザグナルを構えており、いつ次の攻撃が繰り出されてもいいように備えていた。
 その間も光矢は激しい雨の如く、デウスエクスの力を削っていった。
「これだけの範囲攻撃、どこまで躱せる?」
「何よ、こんなの……反則級じゃないの」
「逃げてもまた捕まえるだけです」
 フィノーラは苦しげな声を落とし、創世雨から逃げるように後方に下がる。だが、その動きを津奈子が逃がすはずがない。再び敵の身を掴んだ津奈子がフィノーラを抑え、そこへマシュマローネが巡らせる斥力が加わる。
「モワ! 逃がしませんわ、絶対に!」
 うさぎの皇女として月の魔力を受けながら、マシュマローネは宣言した。
 狂える月の魔力を特別なものとして身に宿した彼女は、いつかの決戦の時に思いを馳せる。
「容赦はしません」
「ボクの中にある狂気の形を見つけるまで付き合ってもらうよ、フィノーラ」
 津奈子とエルセも間髪をいれずに攻撃を加えていき、攻防は更に激しさを増した。
 この戦いの決着をつけるため。
 そして、ケルベロス・ウォーにおける完全勝利を得るために――猟兵達は全力を揮ってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
あやー、藍ちゃんくん、ダクセ出身ですのでお月様とはお隣さんみたいなものでっすがー。
あっちもこっちもお月様な状況は流石にとってもレアなのでっしてー!
メリュジーヌさんのお月様と、フィノーラのお嬢さんのお月様のデュエットなのでっす!
ダブルお月様ステージなのでっすよー!
素敵なのでっす!
二重の光と狂気を浴びて、藍ちゃんくん、歌うのでっす!
無限×2の狂気なんのその、喜んで歌い狂いましょう!
狂いに狂ってる今の藍ちゃんくんにしか歌えない歌を!
狂鳴にして共鳴の歌を!
ええ、ええ、ええ、ええ!
この歌はメリュジーヌの皆様との合唱だけに非ず!
フィノーラのお嬢さんの月もあってこその歌なのでっす!


香良洲・巽
ついに戦争か
…まぁ自分に出来る事をするだけで
此の世界を護る為にも

夜空に輝くような月、
メリュジーヌ達が浮かべたらしい狂鳴の満月
使える力なら何でも借りよう
地獄の焔を扱う身で今更
狂気も正気もあったモンでもないしな

狂月化に身を任せ
蒼焔を纏わせた鉄塊剣を手に
鎌持つ少女の姿に肉薄、
足元からも水面の月だったか…
どいつも此奴も狂わせるのが好きなこって
爆ぜて消え失せて仕舞えばいいんだ
邪魔するものは皆すべて
幾ら罪過を雪ぎ続けようとも
煉獄の焔が消えることもない
…此の両腕がある限り、



●響鳴せし力
 此の世界を護る為に。
 集った者達の思いは強く、戦場には確かな志が巡っていた。
 ついに訪れた戦争の光景を見つめながら、香良洲・巽(Krähe・f40978)はそっと独り言ちる。
「どんな状況であれ、自分に出来る事をするだけだ」
 巽が振り仰いだのは夜空に輝く月。
 あれは後方で儀式魔術を行っているメリュジーヌ達が浮かべた狂鳴の満月だ。どんな者にも狂月化を齎すほどの力は脅威にも成り得るが、今は手段を選んでいる場合ではないことも確か。
 それゆえに巽は、使える力なら何でも借りる気概でいる。
「狂気も正気もあったモンでもないしな」
 元より巽は地獄の焔を扱う身。
 寧ろ今更な事柄だとして、巽は冥府の鎌を持つデウスエクス――フィノーラを見据える。
 その傍ら、紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)も少女の姿をした敵を瞳に映していた。
「フィノーラのお嬢さんの月と、メリュジーヌさんのお月様。どちらも綺麗なのでっす!」
「いいえ、わたしの月の方が美しいわ」
 藍の声に対してフィノーラが首を振る。どうやらメリュジーヌ達への対抗心があるらしい。
 ダークセイヴァーの世界に生まれた藍にとって月はお隣さんのようなもの。だが、今のようにあちらにもこちらにも月があるのは不思議だ。
 そのため、フィノーラのように双方を比べて優劣をつけるということはできない。
「これはつまりデュエットなのでっす! ダブルお月様ステージなのでっすよー! 素敵なのでっす!」
「……調子が狂うわね。でもいいわ、誰であってもわたしの邪魔はさせないもの」
 藍の言葉にフィノーラが肩を竦めた。
 敵意を感じ取った藍はそっと身構え、巽も狂月に身を任せてゆく。
 巽の手の中、ゆらりと揺れたのは蒼焔。激しく燃える焔を纏わせた鉄塊剣を手に、一気に前に踏み出した巽はフィノーラのもとへ駆けた。
 瞬時の肉薄。そこからの一閃。
 巽の攻撃は容赦のない鋭いものだったが、フィノーラは刃で受け止めていた。
「そちらの実力はその程度?」
「いいや、今のは小手調べだ。それがどの程度か見たくてな」
 それ、と示されたのはフィノーラの足元。そこには水面の月が映っているが、巽は齎される狂気を振り払っていた。フィノーラからは皮肉めいた言葉が投げかけられていたが、巽はまったく意に介さない。
「どいつも此奴も狂わせるのが好きなこって」
 爆ぜて消え失せて仕舞えばいい。
 巽は邪魔するものは皆すべて等しくそうするのだと告げ、更なる攻勢に入っていった。罪過を浄化する蒼焔はフィノーラに注ぎ込まれ、その力を着実に削り取る。
 そこから続く攻防は激しいものだったが、巽が巡らせる煉獄の焔が消えることはなかった。
「……此の両腕がある限り、」
 止まらない。
 自ら止めようとすることもない。戦いの終わりを導いていくため、巽は全力で鉄塊剣を振るい続けた。
 その間に藍は声を響かせ、歌の力を広げていく。
「藍ちゃんくん、歌うのでっす!」
 無限の狂気などなんのその。苦しみや悲しみは抱かず、喜んで歌い狂うのが藍の流儀。
 狂いに狂って、今の自分にしか歌えない歌を紡ぐのみ。
「さぁ、狂鳴にして共鳴の歌を! ええ、ええ、ええ、ええ!」
 深く頷き、藍は心からの言葉と歌声を巡らせた。涙色の空に笑顔の虹をかける。明るい意志を込めた歌は、メリュジーヌ達との合唱になっていた。だが、それだけに非ず。
「なに……? この気持ち……」
「この歌は、フィノーラのお嬢さんの月もあってこその歌なのでっす!」
「面白い考え方だな。そんな狂気も悪くない」
 戸惑うフィノーラに藍が語りかけ、そこに巽が追撃を加えた。狂鳴と煉獄、そして共鳴する歌声。深く重なり合った猟兵の力はデウスエクスを倒す未来への道をひらいてゆく。
 藍と巽は、それぞれの思いを胸に戦い続ける。
 煌々と輝き続ける狂鳴の満月。その月光が示すのは、きっと――狂気を乗り越えた先にある、希望だ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月待・楪
氷月(f16824)と

狂月病の衝動なァ…抑える必要あんのか?それ
狂月化上等、どうせなら愉しんで壊して、潰して、踊って、遊ぼうぜ
だって、ヴィランの俺達にとっちゃ日常みたいなもんだろ?


ァ゛?何訳わかんねェこと言ってんだ
お前は、俺と敵だけ見てればいい
なァ、My Candy……浮気してんじゃねーよ蹴り倒すぞ

リミッター解除、念動力使った反動なんてどうでもいい、敵にも氷月にも俺と踊ってもらう
UCでヴィランに、カルタとガランサスを乱れ撃ちしながら、念動力でもねじ伏せ潰すように攻撃
氷月の雷の雨を見切って踊るなんて、最高に決まってんだろ

俺の、俺だけの望月がこれくらいでくたばるワケねーもんなァ?


氷月・望
楪(f16731)と
アドリブ歓迎

狂月病、ね
そういや昔、楪と一緒に行った依頼で知ったケド
悪夢の中の俺は人狼だったとか?
ま、前世とか悪夢のコトなんざ知らねぇケド
狂月病?狂月化?何故か抵抗感ねぇわー!

というワケで、狂月化一択
ハイになって暴れて、好き放題に遊ぶとか最高
言われてみればいつも通りじゃん!

……Honey?
狂月化関係無く殺意がヤバいし、もう蹴ってるよね!?

UC:悪辣なる紅
敵味方の識別?何ソレ?
愉快なパーティーに理性や正気は要らねぇ
楪なら赤雷乱舞でも上手く踊るだろうし
何なら、アイツの攻撃に巻き込まれるのも楽しい
【範囲攻撃】【鎧砕き】【暴力】

イカれてる?
コレが俺達のデフォだよ、バァカ



●愉悦に踊れ、狂月の紅雷
 狂鳴の満月。それは偽りの月光を齎し、狂気を与えるもの。
 されど無限の狂気は戦う者に多大な影響を宿し、途轍もない力となって巡る。協力者たるメリュジーヌ達が死力を尽くして投影している月は今、遥かな天で耀いていた。
「狂月病、ね」
「衝動なァ……抑える必要あんのか? それ」
 氷月・望(Villain Carminus・f16824)は偽りの満月が呼び起こす病の名を口にする。その傍らで、月待・楪(Villan・Twilight・f16731)は軽く首を傾げた。
 本来の病を患っている者には悪いが、自分達にとっては耐える必要などないものだ。そう思うのだと語った楪は頭上の月を振り仰ぎ、双眸を鋭く細めた。
 すると望が、そういえば、と口にしながら過去のことを思い出す。
 それは以前に楪と赴いた件の話。
「あのとき、悪夢の中の俺は人狼だったとか?」
「そういうこともあったなァ」
「ま、前世とか悪夢のコトなんざ知らねぇケド」
「違いないな」
 視線を交わし、小さく笑いあった二人は改めて前を見据えた。此度の敵は少女の姿をしたデウスエクス。彼女もまた月の力を使うらしいが、楪も望も脅威には感じていない。
 どんな力を使われようとも、二人でいる限りは何も怖くはなかった。寧ろ高揚してきているほどだ。
「狂月病に狂月化な。何故か抵抗感ねぇわー!」
「上等だ、どうせなら愉しんで壊して、潰して、踊って、遊ぼうぜ」
「選ぶ必要なく一択だ。ハイになって暴れて、好き放題に遊ぶとか最高!」
「そうだな。だって、ヴィランの俺達にとっちゃ日常みたいなもんだろ?」
「言われてみればいつも通りじゃん!」
 楪と望は月光を浴びてゆく。
 軽く笑い飛ばす勢いで前に踏み出せば、身体中に力が漲ってきた。それ以上に気分が上がってきており、底なしの戦意が湧き上がっている。
「妙にくらくらするな。戦えない程じゃないケド」
 望は口元に笑みを浮かべ、デウスエクス――フィノーラへの攻撃を開始した。楪もヴィラン・トワイライトへと変身しており、戦闘態勢を整えている。
 対するフィノーラは簒奪者の鎌を構え、くすくすと笑った。
「あなた達も死にたいの? どっちの首から刈ってほしいのかしら」
 相手はこちらを殺す気でいることを隠さず、どちらにしようかな、と指差しをはじめた。すぐに標的は望に決まったらしく、フィノーラは一気に距離を詰めていく。
 その様子を見た楪は片目だけを細め、少女に凄みをきかせた。
「ァ゛? 何訳わかんねェこと言ってんだ」
「……Honey?」
 戦意、もとい殺意までもが増幅されているらしく、その様子は普段以上に鋭い。
 望が楪に視線を向けると、彼は憤りのままに答えた。
「お前は、俺と敵だけ見てればいい。なァ、My Candy……浮気してんじゃねーよ蹴り倒すぞ」
「殺意がヤバいし、もう蹴ってるよね!?」
 雷電と火炎が敵に放たれる中、望はこれが狂化なのかと実感する。されど既に望自身にも狂月の力が宿っており、戦いへの思いは更に強まっていた。
 とにかく暴れられるならなんだっていい。
 敵と味方の識別すら面倒で、「何ソレ?」と言葉にした望。彼らにとっての愉快なパーティーに理性や正気は元から不要。蹴られたことだって気にしておらず、楪なら赤雷を乱舞させても上手く踊るだろう。
 狂気の中でも信頼は途切れておらず、寧ろ期待している。
 ――BANG!
 そして、望は銃のハンドサインで空を撃ち抜いた。
 そこから紡がれた悪辣なる紅は無数の落雷となり、戦場に鮮烈な色彩が疾走る。
 リミッターを解除した楪もカルタとガランサスを用いていき、目にもとまらぬ疾さで敵を乱れ撃ってゆく。それによってフィノーラは押されはじめている。
「何、この人達……強い……!」
「当たり前だろ?」
 楪はフィノーラに向け、更なる力を放っていく。反動などどうでもよく、敵にも望にも踊ってもらうだけ。遠慮のない攻撃だが、望自身も巻き込まれることをよしとしているようだ。
 ねじ伏せ、潰す勢いの念動力も交えていけば、フィノーラは一気に体勢を崩していった。
 楪も望も互いを巻き込むことに罪悪感など感じていないと知り、フィノーラは思わず呟く。
「おかしいわ、あなた達」
「今の状況のことか? 氷月の雷の雨を見切って踊るなんて、最高に決まってんだろ」
「そんな……」
「イカれてる? コレが俺達のデフォだよ、バァカ」
 フィノーラが慄く姿を軽く見遣り、楪と望はこれが当たり前だと示した。隣同士で立つ二人は同時に薄く笑み、片手の人差し指を口元にあてる。
「俺の――俺だけの望月が、これくらいでくたばるワケねーもんなァ?」
「そう、楪がこの程度で倒れるはずないからな」
 互いへの信頼があるからこそ、こうして戦えている。その感情はどんなことがあっても揺らぐことはない。
 赤雷と踊り、黄昏に沈める。
 彼らの紡ぐ力は眩いほどに戦場を染めあげ、戦いの終わりを導くものとなっていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
そう?狂気に溺れてもいいのね?
この娘ったら、学習能力が全然ないから狂気耐性のレベルを下げちゃってるのよ。
おかげですんなりと狂気に飲み込まれちゃったのよ。
さあ、時間もないことだし始めましょう。
オブリビオン化に狂月化、それに狂気を齎す月が二つもあるなんて、一体どうなっちゃうのかしらね?


宇佐美・ミミ
◎ (狂月病患者)

だめっ……だめだよぉ……!
ミミは『満月』を見ちゃだめだよって
おとうさん、おかあさんが言ってた。

こわくてぎゅうって目を瞑って。
『おつきさま』を見ないようにってするミミに
ぬーちゃんはほわほわってしてくれる。
なぐさめてくれるの?
それじゃだめだって、言ってるの……?

こわい、こわいよ。やだよ。
でも。
うん、わかった。一緒に、ぬーちゃん!

魔術のおつきさまに、ミミのニセモノのおつきさまを重ねて!
……そのあとはよく覚えてないの。

素早く動いて狂月化したウサギの手足で
ウサギ自慢の連続ケリケリ!
ダメージを再生して狂気を重ねて、暴れちゃう、かも。

……ぬーちゃん?
あれ、ミミ……どうしちゃったんだろ?



●其の月に狂えば
 儀式魔術によって、空に投影された狂鳴の満月。
 その月光は不思議なほどに強く、地上を照らしながら揺らめいているかのように見えた。
 空を見上げたフリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)の瞳が揺らぎ、その雰囲気が一気に変化していく。
「そう――今宵は狂気に溺れてもいいのね?」
 その口から紡がれた言葉は、普段のフリルのものではなかった。
 フリルであってフリルではないとあらわすのが相応しいだろうか。フリルもとい“彼女”はくすくすと笑い、偽りの満月の力を自身に漲らせていった。
「この娘ったら、うっかりしているのね。すんなりと狂気に飲み込まれちゃったわ」
 もし狂気への耐性があれば正気を保っていたのだろうが、今は違う。
 狂月化の影響でフリルを押しのけ、出てきているのは失われていた過去の断片――『銀狼の魂』だ。本来ならば大変な状況なのだが、デウスエクスと戦うべき今ならば寧ろ好都合だった。
 銀狼は前に踏み出し、此度の敵を瞳に映した。
「さあ、時間もないことだし始めましょう」
 オブリビオン化に加えて狂月化。
 それに今の空には狂気を齎す月がふたつもある。銀狼の力は無限に近いほどのものになり、デウスエクスすら圧倒する勢いになるだろう。
「これから一体、どうなっちゃうのかしらね?」
 本当はどんな展開が訪れるのかなどわかっているのだが、銀狼は再びくすりと笑った。
 そして――此処から、嵐や暴虐にも似た攻防が始まっていく。

 同じ頃、少し離れた場所にて。
 此処にも空に浮かぶ狂鳴の満月を振り仰いでいる少女がいる。
「あ……だめっ……だめだよぉ……!」
 宇佐美・ミミ(ふたりぼっち・f43700)は思わず目を逸らしたが、既に遅かった。途端に胸がぎゅうっと締め付けられるような感覚が巡り、強く目を瞑る。
 ミミは『満月』を見ちゃだめだよ――と、おとうさんとおかあさんが言っていたのに。
 とても強い光が大地に降りそそいでいたので無意識に見上げてしまったのだ。月を見ないように俯くミミだったが、ウサギゴケ攻性植物のぬーちゃんがほわほわと頬に触れてきた。
「ぬーちゃん、なぐさめてくれるの? ちがうの……? それじゃだめだって……?」
 薄く瞼を開いてみると、ぬーちゃんが月の方を示している様子が見える。こわい、やだよ、と涙を浮かべるミミ。しかし、ぬーちゃんはこのままでは危険だと言っているようだ。
「でも……」
 ミミもそのことはわかっている。
 同時に、ミミだってケロベロスだから、と別の戦場で決意した思いが浮かんだ。それにこの戦場ではメリュジーヌ達が懸命に力を紡いでいるのだ。
「……うん、わかった。一緒に、ぬーちゃん!」
 ――ひとりじゃなくて、ぬーちゃんが傍にいてくれるなら。
 勇気を抱いたミミは再び空を見上げた。狂鳴の満月に重ねてミミ自身の月を創造すれば、それは狂月となる。
 刹那、煌々と輝く双眸。
 ミミの瞳にはデウスエクスのフィノーラだけが映っている。彼女を標的として素早く地を蹴ったミミは、狂化したウサギの腕を振り上げる。そのまま一撃を入れたミミは振るった脚で相手を一気に蹴飛ばした。
「……っ、速い!」
「…………」
「あなた、正気じゃないわね」
 フィノーラは手にした鎌で連続蹴りを受け止めたが、ミミが狂気に染まっていることに気付く。その証拠にミミは普段の彼女らしい反応を示さなかった。
 するとそこへ、銀狼のフリルが放った衝撃波が飛んできた。
「あら、あなたも狂化しているのね。それなら一緒に暴れましょう?」
 フリルはミミに呼びかけ、フィノーラを倒す手筈を整えていく。本能的に仲間だと判断したのか、ミミはフリルに続いて次の一閃を放ちにかかった。
 其処から攻防が巡っていき、他の猟兵の攻撃が次々とフィノーラに繰り出されていく。
 誰もが狂化に耐え、或いは月の魔力を利用して果敢に戦った。
 そして、ミミとフリルは同時にデウスエクスを穿つ。ウサギ式の連続ケリケリに加え、銀狼として放つ鋭く的確な一閃。その攻撃は見事にフィノーラを貫き、そして――。
「嘘よ、このわたしが……そんな……。こんなことなら、早く|あの子《弟》に会っておけば……」
 フィノーラが映していた月が消えたかと思うと、その身体が崩れ落ちる。
 倒れたデウスエクスは鎌を取り落とし、もう二度と起き上がってくることはなかった。
 戦いが無事に終わったことでメリュジーヌの儀式魔術もおさめられる。狂鳴の満月が消えたことでフリルとミミも正気を取り戻していた。
「ふぇ? わたしはなにをしていたのでしょうか」
「……あれ、ぬーちゃん? ミミ……どうしちゃったんだろ?」
 辺りを見渡すフリルは普段の様子に戻っており、ミミも頭を撫でるぬーちゃんに揺り起こされた状態。少女達は戦いの間のことを覚えていないが、勝利を得たことだけはわかったらしい。
「ミミたち、やったんだね」
「ふえぇ、いつのまにか終わっていましたが……誰も怪我はないようです」
「これって大勝利だね!」
 少女達は笑みを交わした後、共に戦った仲間達に手を振った。
 今はきっと皆への労いと無事なことへの喜びを抱けばいい。此処には今、確かな勝利があるのだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2025年05月06日


挿絵イラスト