配信者シアンについて語るスレ【2スレ目】
●ファンスレ
配信者シアンについて語るスレ【2スレ目】――を何気なくクリックする。
いつもならしないことだったが、織部・藍紫(シアン・f45212)は予感めいたものを覚えて人間の指でクリックした。
「……まずい」
思わず口元に手を当ててしまった。
人間ぽいな、と思ったのはここだけの話だ。
『シアンに彼女ができたんじゃないか』
シアンというのは、配信者としての名前だ。
そこで恋愛絡みの話をしたからか、上記のようなコメントが書き込まれているのだ。
これには藍紫も、少し拙いことになっているのではないかと危惧した。
配信者というのは、言うまでもなく人気ありきな側面がある。
それが全てとは言わないが、例外なく人気というものは配信者のステータスの一つであろう。疑うところもない。
それ故にガチ恋勢というものが生まれやすい。
どうしたって生まれてしまう。
言葉を知った当初はまるでわからなかったが、人間というものは恋に生きる生き物だということを身を以て体感した身としては胃がひっくり返るような思いである。
『きっと告白はシアンから。その場の勢い付きで』
『シアン、押しに弱そう』
『シアンって、デートコース決めるのにテンパりそう』
『これさぁ、しばらくは彼女側がリードする関係になるんじゃね?』
書き込まれたコメントは正鵠を射るようなものばかりだった。
悲しいけれど、嬉しいような。
誰かに理解されることは嬉しいことだ。だが、見透かされるということにもなることをまだ藍紫は知らない。
「わしんこと、よう見とるなぁ……ん、なになに?」
『何か人間初心者って感じだしなぁ、シアン』
『大人の男としての線引きはちゃんとしてそう』
『わかる。そこに信頼ある』
「ホンマ」
マナーをよくわかっているファンたちである。
藍紫は深々と息を吐き出していた。
良いファンを持ったと涙腺がゆるくなる。
これがリアルタイムで流れてこようものなら、涙腺が馬鹿になっていたところである。
滂沱の涙というやつである。
しかしである。
『今度、シアンに聞かれてもいいようにデートプラン考えてみようぜ!』
『水族館とかいいんじゃね?室内で涼しいし』
『室内いいな。今、春どころか夏になりかけだもんなぁ、気温』
「なんでやねん!」
読み進めたコメントに藍紫は思わず画面外でツッコミを入れていた。
思わずコメントを入れるところであった。
あくまで、ここはファンスレッドなのだ。本人降臨なんて一番やってはならないことである。
だから、藍紫は己の指を掴み上げていた。
「あっぶなぁ……なんで仮想デートプランで盛り上がっとんのやろ……でも、水族館なぁ」
行ってみたい気がする。
しかし、だ。
問題はどう誘うかだ。
だが、誘い方がわからない。
どうしたものか。
「いっそ配信で聞いてみるか? いや、それこそおもちゃにされるだけか……いやいや、でもそこはこんな良いファンもいることやし、真摯に応えてくれるんと違うかなぁ」
藍紫は知らない。
自分の存在が、このアイドル☆フロンティアにおいて人々の心から骸の海を溢れ出す切っ掛けになるかも知れないという可能性を。
確かにファンスレッドの治安は良いものであった。
けれど、それはここがあくまでファンスレッドだからだ。
ガチ恋勢にはガチ恋勢の庭があるものなのだ。
あくまで知らないだけ。
知らぬが仏。
そういう言葉もある通りである。
例え、花園の周囲が阿鼻叫喚の地獄絵図であったとしても、当人以外が燃えているだけなのだ。
まあ、それが世界を滅ぼすことだってあるよね――。
成功
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