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ウシの血が誘うは恐竜人

作者：寅杜柳

●弱り目に祟り目とも言うけれど
　グリモアベース。
「ちょっといいかな。獣人戦線の人民租界のウシが多く住む街が狙われる事件が予知されたんだ」
　スーツ姿のクルースニク、鈴鹿・小春（万彩の剣・f36941）は集まった猟兵を前にそう切り出す。
「獣人世界大戦終結後も幻朧帝国のエージェントは世界各地で破壊工作を行おうとしている。未だ猟兵に覚醒した者がいない種族……今回はウシが多く住む街に逢魔弾道弾を設置して街を丸ごと逢魔が辻に変えちゃおうっていう酷い作戦で、当然阻止しないと大変なことになる」
　だからそれを阻止するために皆の力を貸してほしい、そう言って小春は彼の見た予知の詳細を語り始める。
「今回向かってもらうのは人民租界の北部、ワルシャワ条約機構の勢力圏に近い場所にある、｜須弥山型都市《シャングリラ・シュミセン》ではない小さな街だよ。最近敵が攻めてきて迎撃は成功したけど街のウシの兵士が大勢傷ついて入院、そして負傷で防衛戦力が減った所を幻朧帝国のエージェントは狙ってくるみたいなんだ。入院しているひと達もちょっと治療が追いついてないみたいだし、皆には入院している獣人の治療とか看護のお手伝いしつつ、逢魔弾道弾持って病院にカチコミかけてくるエージェント『陸軍大尉・茂木竜迅』を迎撃してほしい」
　そう小春は言って、懐中時計のグリモアを懐から取り出す。
「エージェントは隠れることなく真っ向からやってくるから見逃すことはないと思う。もし兵士の皆がいい感じに傷治ってたら援護とかもあるかもね。それから入院してるウシ達は現在命に別状あるひとはいないみたいだけど、今のままだと治療にかなり時間かかりそうな深い傷受けたひともいるみたい……まあ無理なものは無理だけど、できるなら可能な範囲で助けてあげてほしい。そして何よりもエージェントは絶対逃さないようにね！」
　そう小春は説明を終えて、懐中時計をキラキラと輝かせて光で猟兵を包み込んだ。
　その輝きが猟兵を導く先は獣人戦線の人民租界、小さな建物いっぱいにウシ獣人の怪我人がいる病院の前であった。

第1章 日常 『血に塗れた野戦病院』

POW   :    負傷兵や怪我人、薬や医療道具を運ぶ SPD   :    負傷者に応急処置や手術を施す WIZ   :    魔法や魔力で負傷者の体と心を癒す 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

●血に塗れていても救いはある
　獣人戦線、中国北部のウシ獣人の街の病院は負傷兵の治療、介護でてんやわんやであった。
　諸々物資が足りない、そもそも手術など外科的な治療を行える技量を持つ医師も負傷者に対して少なすぎる。
　緊急度の高い負傷の治療を優先して行っているからすぐに死者が出る事はないだろうが、ちゃんとした治療が行えない状況では完治までに時間がかかり、治療の遅れから後遺症が残ってしまう事もあるだろう。
　そんな絶望的な状況でも医者や看護師は、一人でも多く完治させるために倒れてしまう寸前まで自身に鞭打って仕事へと取り組んでいた。
　――だがこの街は幻朧帝国のエージェントに狙われていて、何もなければその治療の成果も水泡に帰してしまう。
　その悲劇を阻止するべくこの街にやってきた猟兵達は、エージェント襲来に備えつつこの病院の医者たちの手伝いを行う事にした。

「ん　いやしが　ひつようそうだね」
　白い海月のような印象のガムゴム人、ネッド・アロナックス（ガムゴム人の冒険商人・f41694）は負傷者多数の病院の状況を見て呟き、『サソリザのつるはし』を取り出した。
　それはゾディアックソードを加工して作られた不思議なツルハシ、重力を宿すそれで軽く病院の床を叩いてユーベルコード【ゾディアックサンクチュアリ】を起動する。
　つるはしから星座の重力が解放され、ネッドを中心に彼の守護星座である蠍座の光が降り注ぐ。
　その光は癒しを齎す優しい光、浴びたウシ達の傷が癒され、苦しげだった彼らの寝息が穏やかなものになっていく。
　物理的な治療をネッドが行っている間、バジル・サラザール（猛毒系女史・f01544）というラミア型のキマイラは薬剤師としての知識を活かし病人の治療を行っていた。
　戦場での傷から入った雑菌が全身に回り大変なことになりかけている大柄なウシ兵士に対し、彼女はヒュギエイアの杯があしらわれた薬箱から取り出した薬剤のひとつを注射器に吸い上げて、ユーベルコード【ハイパーデトックス】を起動する。
「……甲の薬は乙の毒、生かすも殺すも薬師次第、なんてね」
　極細の注射針をウシの腕に刺して薬液を注入すれば、彼の体内に広がっていた雑菌はあっという間に駆逐されていく。
　怪我人を放っておけない面倒見のいい彼女、この医術を必要とする病院にて自身の修得した医術を存分に活かし、医者と協力して負傷兵を一人一人病から解放していく。
　更にもう一人、飯綱・杏子（悪食の飯テロリスト・f32261）という｜食道楽の悪魔《グラトニー》は病院内の厨房を借りて料理を作っていた。
「何をするにしても、まずは腹ごしらえっすよ」
　エクストリーム調理のアスリートである彼女の調理の腕は一流、包丁で｜糧食《レーション》を上手く調理して栄養あるメニューを次から次へと作り上げていく。
　そして一部の重症患者の為には自身の激辛保存食――当然動物性ではないそれを切り裂いて材料に加え、特別メニューとして提供する。
　ユーベルコード【腹が減っては戦はできぬ】によりその料理を食べたならば負傷は治療される。星座の光による癒しに料理による治療が重なれば完治までの速度は更に上がるだろう。
「あ、その特別メニュー食べたら火を吹けるようになるからうっかりしないよう注意するっすよ」
　看護師にそう言い添えて、杏子はより美味い料理を作る為に悪魔の腕を振るうのだった。

　そして猟兵達の援助もあって、多くの負傷兵の傷は癒され軽傷だった者はすぐに退院できる程にまで回復した。
　降って湧いたような幸いに大喜びするウシの医者たち。
　しかしこの街に振りかかろうとしているのは逢魔弾道弾による災禍である。
　街の外周の方から何やら騒ぎが聞こえ始め、エージェントの襲来と察知した猟兵達は迎撃の為に、その方角へと向かうのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

第2章 ボス戦 『陸軍大尉・茂木竜迅』

POW   :    武器は刃のみに非ず 【鞭のようにしなる強靭な自身の尾】のスイングで近接範囲の敵全員にダメージを与え、100ｍ吹き飛ばす。 SPD   :    血塗れ緋竜 【炎を纏わせた日本刀】で攻撃する。命中すると【敵の返り血と緋色の陽炎】を纏い、レベル分間［炎を纏わせた日本刀］の威力と切断力が上昇する。 WIZ   :    死線は此処に 【全身に燃え盛る炎の如き緋色の刃の鱗】を生やした【鏖殺】形態に変身する。毎行動時、敵味方問わずランダムな対象を合計10回攻撃する。 イラスト：月夜野サクラ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●血に飢えた刃を止めろ
　病院から飛び出した猟兵達、すでに幻朧帝国のエージェントは近くまで迫っていた。
『何だ猟兵じゃねえか。全部斬ってやるしかねえな』
　飄々と言いながら刀を構える恐竜人『陸軍大尉・茂木竜迅』――逢魔弾道弾でこの街を逢魔が辻に塗り替えんとする邪悪である。
　迎撃せんと戦闘態勢を取る猟兵、そしてその背後から兵士達の声が響く。
『アイツが俺達の街を壊そうとしているのか？』
『病み上がりだけど援護します！』
『ここは突破させない、僕たちの街を守るんだ！』
　軽傷で動けるようになったウシの兵士達が武装し、病院の前で構えてくれている。
　見るからに素早そうな竜迅ではあるがこのウシの防御陣地を突破する事は困難だろう。
『……全員斬っちまえば問題ねえ！』
　苛立たし気に叫んだエージェントの刃が燃え上がり、そして街を守るための戦いの火蓋が切られた。






●暴れさせず抑えきれ
　幻朧帝国のエージェントである恐竜人、『陸軍大尉・茂木竜迅』は全身に緋色の刃の鱗を生やし猟兵達へと素早く切り込んできた。
　燃え盛る炎の如き鱗――これを生やした竜迅は全ての行動で敵味方区別なく合計10回の斬撃を追加で行ってくる。
　味方不在で周囲に敵のみの状況ではデメリットさえもプラスにしかならないその力を発動したオブリビオン。
　対する猟兵、選ばれし者にしか開けないというレジェンドパクトを開き変身した熊ヶ谷・咲幸（チアフル☆クレッシェンド・f45195）、彼女はプロレスのタックルのような構えを取っていて、近くにいるオーバーオール姿のミルディア・ディスティン（UDCの不可思議メカニック・f04581）も向けられた殺気に対し好戦的――どこか男性風に感じられる笑みを浮かべて構えている。
　そして二人から少し離れた位置にいるのは闇色の狼と梟の精霊従えしシン・クレスケンス（真理を探求する眼・f09866）という青年、彼は竜迅の動き出しの瞬間を冷静に見極めつつユーベルコード【隔絶結界】を起動する。
「我が友、月と夜の精霊ノクスよ。隔てる力を貸し与え給え」
　その言葉に梟の精霊はこくりと頷きばさりと翼を広げて力を解放する。
『……なんだ？　空気が変わった？』
　疑問を抱きながらもここまで来たなら斬る方が速い。
　思いっきり見えない壁に衝突し転倒してしまう。
　既にこの戦場はノクスの展開した異空間の迷路の中、梟のノクスが得意とする護りの力に複数の系統の術式を組み合わせて作られた外と全く同じ風景の異空間、砕くには骨が折れるだろう。
　その状況を理解できず混乱に囚われた竜迅、絶好の好機を見逃さず、荒熊の苛烈さで襲いかかる咲幸――だったが。
「えっ、あーっ！？」
　奇跡的なタイミングでリボンが縺れて転んでしまったのだ。それは悪いだけのことではなく、反射的に薙ぎ払われた竜迅の尾の下をくぐるようにして反撃を回避することができたのだが、体勢を崩した状態からは追撃を仕掛けることも出来ず、距離を取られて好機を逃してしまう。
　しかしその失敗により自動的に起動するユーベルコード【いっしょうけんめい☆がんばります！】、彼女からあふれるがんばりオーラが猟兵達、そして病院近くで防御陣形を整えているウシの兵士たちに届き加護を与えていく。
「やっちまいな！」
　荒々しいミルディアの声が響き、古代の戦士の霊が恐竜人に槍を構え襲いかかる。【サモニング・ガイスト】により召喚された霊はがんばりオーラの加護を受けて鋭くやりで牽制し、炎を放ちオブリビオンをミルディアに近づけさせぬように立ち回る。
　そしてそのオーラを受けているのはシンもだ。後方からスナイパーライフルを構え、狙い定めて放った弾丸は、竜迅の足を撃ち抜いた。
　がくりと体勢を崩す竜迅、そこに襲いかかる古代の霊と槍を刀で凌ごうとするが動かぬ足では難しい。直撃を受けたタイミングで炎を突っ切り低い姿勢で飛び込んできた咲幸がぶちかまし、その怪力で恐竜オブリビオンを吹き飛ばしたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

●血塗れ恐竜の最期
『ちっ、やるじゃねえか！』
　怪力に吹き飛ばされた恐竜人のオブリビオンは、空中で体勢を立て直して得物の刀に炎を灯し一気に燃え上がらせる。
　返り血と緋の陽炎を纏いつつ刀の切れ味を増したオブリビオンに対し、水の力を纏わせたルーンソードで仲佐・衣吹（多重人格者のマジックナイト・f02831）が切りかかっていく。
　軽やかに近づき燃える日本刀と斬り合う姿は飛び切りに優雅で、戦いの様子は一種の芸術のよう。
（「その鱗の色はキレイだけど……」）
　多重人格者である衣吹、今身体を動かしオブリビオンの相手をしているのはネイルという女性人格、緋色に燃える鱗は美しくて戦闘の場でなければよくよく見るのも悪くはないかもしれない。
　しかしこのオブリビオンの性根は破壊と殺戮、ネイルの好むキレイなものやカワイイもの全てをぶち壊そうとする、絶対に許せない存在だ。
　そして斬り合う両者に病院の方からウシの援護射撃が飛来、舌打ちしつつオブリビオンが銃撃に応戦する間に、蛇の下半身をうねらせバジル・サラザール（猛毒系女史・f01544）が風上へと移動する。
　――この病院には先程彼女が治療した患者も多くいる。
　せっかく治ったばかりなのにこんな戦闘狂のオブリビオンを近づけさせてなるものか、固く決意しながら薬箱から薬瓶を取り出してウィザードロッドで高めた魔力で毒性を増幅、風に乗せて竜迅のみに有毒の気体を流していく。
『しゃらくせえ！』
　しかし竜迅は炎刃を力強く振るい毒を火炎で熱分解、無毒化させた勢いでバジルへと切り込んでくる。
　しかし刃が届くその前に、ラミア型のキマイラの前にぱっと古めかしい印象の番傘が開いて敵の視界を阻む。
　それに構わず竜迅の炎の刃が鋭く振るわれるが、妖力に覆われた傘は頑丈な盾のようにその斬撃を防ぎきる。
　直後、番傘は閉じられてその柄がするりと引き抜かれる――仕込み番傘であったそれを、持主である柳・依月（ただのオカルト好きの大学生・f43523）という妖怪の青年が恐竜人目掛け鋭く振るった。
　白兵戦を得意とするオブリビオンの恐竜人は彼の斬撃を防げぬと判断、大きく後方に飛び跳ねて間合いから逃れる。
　だが依月は此処で更に追撃を仕掛ける。
「ここは数で攻めるとしようか」
　依月が起動したユーベルコードは【刀剣錬成：沛雨】、抜かれた仕込み番傘の刀身が複製され、空中に161振りの刃として出現する。
　念動力で操られるそれを依月はバラバラに操り飛翔させ、遠い間合いまで逃れたオブリビオンの全周を取り囲むように飛ばして一斉に襲い掛からせる。
『舐めるなァッ！！』
　オブリビオンも白兵戦を得意とする意地か、燃える刀と強靭な尾を巧みに操り刃の群れの猛攻を弾き凌ぎ切ろうとする。
　だが、その刃の嵐に紛れてネイルがユーベルコード【手裏剣投げ】を起動、不意討ち気味に投擲された手裏剣は竜迅の影を地面に縫い付けてその動きを拘束する。
「あとは任せたわよ」
　ネイルの言葉を受けたバジルが竜迅へと切り込みつつ、ユーベルコード【ガチキマイラ】を起動。
（「あんまり使わないのよね」）
　キマイラの猟兵の基本的なユーベルコード、しかし彼女にとってはあまり馴染みないその力により彼女の右腕はライオンの頭部に変形する。
　動きが停止した恐竜人の身体のあちこちに刃の群れが突き刺されば、更に首筋に獅子の牙が突き立てられて、そのまま頸椎を噛み砕かれた。
　致命の一撃を受けた幻朧帝国のエージェントの全身から力が抜ける。そして地面に崩れ落ちると、血塗れのエージェントは二度と起き上がることなく消滅していった。

　エージェントの消滅、つまりは猟兵達の勝利に湧くウシ達は無事怪我もなく、病院に逆戻り、となることはなさそうだ。
　無事逢魔弾道弾の破壊工作を阻止した猟兵達は、次なる戦いに備えグリモアベースへと帰還したのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

最終結果：成功 完成日:2025年05月02日