ニュー・エンデバース
●決まっていたこと
浮遊大陸の寿命とは即ち、中核をなす天使核が浮力を保てず雲海に沈むことを指す。
すべての物事に終わりが必定。
なら座して待つしかないのか。
人間が生きる以上訪れる終わりを前にして立ち止まることだけでいいのか。
違うと思うから人は懸命に生きようとするのだ。
藻掻き、苦しんでなお、歩み続けようとする。
それがどんなに悲しみに満ちていた道程だとしても、だ。
「急がなくても大丈夫ですからね~」
イリアステル・アストラル(魔術の女騎士・f45246)は自分の言葉がなんの慰めにもならないことを理解していた。
彼女は思う。
自らの身体……つまりは、ガレオノイドである彼女は巨大な飛空艇へと変身し、その巨体に多くの人々が乗り込む姿を見て思う。
彼らは故郷を喪う。
浮遊大陸が沈む。
それは避けようのないことだった。
寿命と言って良い。
「できるだけ荷物は最小限にしてくださいね~。いくら私が大きいからと言っても限度がありますから~」
「いや、助かった」
勇士たちは偶然居合わせたイリアステルがガレオノイドでよかった、と心底感謝していた。
この浮遊大陸から別の浮遊大陸へと移動するにしても人々を運ばねばならない。
ブルーアルカディアは空の世界だ。
陸は雲海に浮かぶ浮島。
そして、雲海に落ちればどうなるかなど言うまでもない。
無論、死である。
そして、消滅でもある。
今まさに沈みゆく浮遊大陸も消滅する。しかし、浮遊大陸は再び雲海から浮かび上がることもある。
だが、それは故郷の凱旋ではない。
雲海に沈んだ浮遊大陸は、再び浮上する時、そこに無数のオブリビオンを満載しているのだ。
人が住める場所ではなくなってしまっている。
故郷がオブリビオンに占められた光景など見たくはないだろう。
だが、それが現実なのだ。
「いいえ~私でなくても手を差し伸べますよ。魔法使いや魔女でなくとも。私は、手伝いましたよぉ」
「それでも例は言わねばならんよ」
「大変な時はお互い様ですから~」
「準備の方、急がせる。もう少し待っていてはくれないか」
「構いませんよぉ」
勇士の言葉にイリアステルは言葉を放つ。
時間は多くない。
だが、沈みゆく浮遊大陸から離れたがらない人々がいる。
故郷が沈むのならば、己たちも共に沈むのだと言う者たちがいるのだ。
無論、浮遊大陸が雲海に沈めば彼らの生命はない。
だが、故郷を離れて暮らすことに忌避感を覚える者だっているのだ。言ってしまえば、疲れてしまったのかもしれない。
生きることの儚さ。
「それでも生きていく」
それが人間の強かさだ。
イリアステルに、残りたいと、故郷と共に雲海に沈みたいと思う者たちの心を慰めることはできない。
彼女ができるのは、ただ飛んで届けることのみ。
ガレオノイド――飛空艇である彼女にとっては、今までも、これからも変わらないことだ。
程なくして、勇士たちの説得によって沈む浮遊大陸に残ると言っていた者たちがイリアステルの元へやってくる。
「これで全員だ。頼めるか」
「えぇ、おまかせください~無事に送り届けますから~」
「魔獣の類は俺達に任せておいてくれ」
「頼もしいですね~それでは、行きますよ~」
背後には雲海に沈んでいく浮遊大陸。
イリアステルは己の体、甲板上で嘆く声が上がるのを聞いた。
それは彼女自身にとっても辛いことだ。
けれど、辛いことも苦しいことも生きていくには必要なことだ。
もちろん、少なければ少ないほどいいかもしれない。
「それでも必要なことなのですから~喪うことは新たに得ること。なら」
嘆く後には新天地。
涙に濡れた瞳に映るは夜明けの光――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴