新因果獣神皇誕生
信頼のおける友人たちと共に京都を訪れていた、虹炎神と因果獣の関係者達。
だが観光を楽しんでいた所に漂う不穏な気配、そして現れた異形の化け物。
皆の力でなんとか敵を撃破したものの、その黒幕には因果獣皇マーアリアの父、因果獣神皇ドゥームドラッヘが関わっているという。
作戦失敗を悟ったドゥームドラッヘが逃亡を図る前に、マーアリアとフラーウム・ティラメイトはいち早く追跡に向かっていた――。
「とりあえずフラーウムさん達を追わないと!」
『ええ!』
このまま仲間の事を放ってはおけないと、ソラウ・エクステリアは後を追いかける事を提案。
彼女の相棒エスパスも、その意見に力強く同意する。
「よし、うちらも行くか!」
『マーアリアさん達の元へ行きましょう!』
「おう! 急ごうぜ!」
リュカシオン・カーネーションと精霊王アロナフィナ、そしてエリン・エーテリオンも反対する理由はない。
きっとフラーウム達はドゥームドラッヘと戦いに行ったのだ。それを放っておいて自分達だけ京都観光の続きなんてできるはずがない。
「行こう、みんな!」
この事件にきっちりと決着をつけ、全員で旅行を楽しもう。
決意を固めた一同が、走り出そうとしたその時――。
『待って欲しいのだ』
バァーンと謎の効果音を共に、丸っこい梟のような生き物が一同の前に現れる。
それは狂気の生命体ラーミア。ソラウの故郷クロノドラグマ星では次元三大災害のひとつに数えられる、超常的な生き物だ。
「えっ……どうしてラーミアがここに?」
『ラーミア達のベストプレイスを荒らした奴は許さないのだ(バァーン)』
まさか京都で遭遇するとは思わず困惑するソラウだが、ラーミア達は以前からこの地に棲み着いていたらしい。
そこで騒ぎを起こしたドゥームドラッヘに対し、怒り心頭の様子だ。
基本的には友好的なラーミアが災害とまで呼ばれる理由は、一度危害を加えられると徹底的に「敵」を排除する性質にある。そのことを知っている賢明な種族は、彼らの恨みを買うようなことは絶対にしない。必ずや恐るべき報復が待っているからだ。
『ワルドラーミアを呼んだから外道は終わりなのだ(バァーン)』
そして愚かな事に、ドゥームドラッヘは彼らの逆鱗に触れた。
ラーミア達がユーベルコードを発動すると、彼らが崇拝する梟世界の「神」が現世に降臨する。
「え……? 何これ?」
『ひえぇぇぇ! ワルドラーミア!』
【梟世界神・ワルドラーミアの梟誕】。
それは悪魔の胴体に梟の頭部をくっつけたような、普通のラーミアとは外見からして別格の存在であった。
周りに5色の龍を従えて顕現したワルドラーミアに、ソラウは目を丸くして、エスパスは悲鳴を上げる。
『ワルドラーミアなのだ(ゴゴゴゴゴ)』
ただのラーミアにはない迫力を身にまとって、名乗りを上げるワルドラーミア。
この存在感だけでも、彼が梟世界の神と呼ばれる理由が分かるだろう。
「ワルドラーミア……? そんな奴いたのか……」
「私、こんなのがいるなんて知らなかったぞ……」
『私もです……』
リュカシオン、エリン、アロナフィナの三名も、やはり困惑している。
表情に少なからず緊張の色がうかがえるのも当然だろう。もしコイツが敵であったなら、全員で戦っても簡単には倒せなさそうだ。
『ワルドラーミアのIQは500.なのだ、それより加勢はいらないのだ(ゴゴゴゴゴ)』
普通のラーミアと口調は変わらないが、妙に威厳のある態度でワルドラーミアは言う。
その知能の高さで状況はすでに把握しているようだが、加勢がいらないとはフラーウムとマーアリアの事を言っているのだろうか。
「どういうことですか?」
『ワルドラーミア砲を放つのだ(ゴゴゴゴゴ)』
ソラウが訊ねると、ワルドラーミアはそう言って両手の親指と人差し指を組み合わせる。
空に向かって突きつけた指先には、膨大なエネルギーが貯まっていき、五色の発光や空間の歪みが生じる。
有り余る神のパワーが周囲の概念を狂わせ始めているのだ。
「なにを……うわっ!」『きゃっ?!』
「うおっ!!」
『これは……!』「すごい力だな!」
誰もが驚愕する中、放たれたエネルギーの砲撃は遠く彼方に飛んでいき――一同の視界から消えた。
何処に着弾したのかは確認できなかったが、おそらく目標に命中はしたのだろう。それはワルドラーミアの反応を見れば分かる。
『じゃあワルドラーミアは帰るのだ、さようならなのだ(ゴゴゴゴゴ)』
「え……ええ……お、お疲れ様です!」
『あ……ありがとうございました!』
ひと仕事終えたワルドラーミアは、そのまま虚空に消えていく。おそらく元いた場所に帰っていったのだろう。
何が起こったのか結局よくわからないまま、ソラウはそれを見送って、エスパスは焦ってお辞儀していた。
『悪い奴はラーミア達がやっつけたから残りの京都旅行を楽しむのだ(バァーン)』
『さようならなのだ(バァーン)』
『悪さをする奴はワルドラーミアがやっつけてくれるのだ(バァーン)』
ワルドラーミア砲の発動を見届けたラーミア達も、自分の住処に帰っていく。
狂気の生命体の名にふさわしく、嵐のように現れて嵐のように去る、奇妙不可思議な連中であった。
『ラーミアさん達って皆に怖がられた理由も何か分かった気がしますね……』
これまではちょっと可愛い謎生物くらいに考えていたアロナフィナも、今のでラーミアへの認識を改めたようだ。
あれらを敵に回した者がどうなるのか。それはこの後でドゥームドラッヘの末路を確認すれば分かるだろう。
「と……とりあえず速く行こう!」
怒涛のラーミア旋風が過ぎ去って、はっと我に返ったソラウは急いで走りだす。
ラーミア達はああ言っていたが、かといって自分達が何もしないわけにはいかない。
フラーウムやマーアリアがまだ戦っているのなら、せめて加勢しなければ。
「そうだな、行くか」
『ええ!』「おう!」『うん!』
その後をリュカシオンが追いかけ、アロナフィナ、エリン、エスパスが続く。
果たして戦況はどうなっているのか。敵は因果律すら操作するユーベルコードの使い手、たとえ弱体化していたとしても容易く倒せはしないだろう――。
●
仲間達が急行する一方、フラーウムとマーアリアはまさにドゥームドラッヘと戦闘の最中だった。
因縁の相手――特にマーアリアにとっては実の父との戦い。だがそこに親子の情はなく、本気で互いを滅ぼさんとする殺意の応酬が繰り広げられる。
『…………』
『クソクソクソクソクソクソ! 何でこうなったんだ!』
そして大方の予想に反して、戦況は父の劣勢に傾いていた。
無言で攻撃を仕掛けるマーアリアに、ドゥームドラッヘは悪態を吐きながら防戦一方。
(因果を曲げているのに何故攻撃が外せないだと?!)
ただ波動や拳をぶつけ合っているように見えても、実際には遥かに高次元の戦いが行われている。
因果獣ならば因果を捻じ曲げて、物理的に防がなくても攻撃が「当たらない」ようにするのはできて当然。
ましてや神皇の称号を持つドゥームドラッヘなら、ほとんどの攻撃は避けるまでもないはずなのだ。
にも関わらずマーアリアの攻撃はドゥームドラッヘに飛んで来ている。
この事実が意味する事はひとつ。娘の因果操作が自身を上回っている事実に、父は激しく動揺していた。
『ティナを殺された日……一度も忘れた事は無かった』
猛攻を続けるマーアリアの瞳には、怒りの炎がめらめらと燃えている。
距離を取って様子を窺っていたフラーウムは、彼女の発した「ティナ」という名前に聞き覚えがあった。
(ティナさん……確かマーアリアの妹さんですね)
とある依頼で助けた、人間とバルバの夫婦の結婚式に参列した時、式場でマーアリアが話してくれたことだ。
彼女の妹――ティナは結婚式に殺されたと言っていた。自分達の父に、身勝手な理由で。
その父は既に死亡し、オブリビオンとしても倒されたはずだったが。性懲りもなく骸の海から蘇ってきたか。
『あの生意気なガキか? 馬鹿な……ぎゃあ!』
嘲り笑おうとするドゥームドラッヘの頭を掴み、そのまま殴り飛ばすマーアリア。
愛する人とともに幸せに生きるはずだった妹を、理不尽に殺し、あまつさえ侮辱した。
その罪を償うには、もはや命だけでは生ぬるい。因果律の果てまでその存在を根絶しなければ気が済まない、という剣幕だ。
『ぐぅぅぅ……俺は因果獣神皇なんだぞ! 何故お前が……資格が無かったお前が!』
思いもよらぬ劣勢に苛立ち、地団駄を踏むドゥームドラッヘ。
なぜ娘に押されているのかも分からぬ愚かな父に、マーアリアは冷たく言い放つ。
『貴方が弱くなったのでは? ここはワルドラーミアの住処ですし暴れたから制裁を受けたのでしょう?』
『な……何故、それを……ぎぃ!』
ワルドラーミアの名を聞いた瞬間、露骨なまでに動揺するドゥームドラッヘ。
そんな彼を嘲笑しつつ、マーアリアはさらなる攻撃を仕掛ける。
『あの化け物の名前を出すな!!!』
逆上したドゥームドラッヘは半ばヤケクソで反撃を仕掛ける、が。
ただ闇雲に因果獣のパワーを撒き散らすだけでは、マーアリアはもちろんフラーウムにも通用しない。
(シオンさんが怪我させたのは間違いなくドゥームドラッヘが呼んだ連中でしょう……ですがそれがここに住むラーミア達の逆鱗に触れ、ワルドラーミアが出てきた……そんな所でしょうか?)
敵の攻撃を回避しながら、フラーウムはワルドラーミアがドゥームドラッヘを襲った経緯を考察する。
概念を破壊し、森羅万象を滅する梟世界神の砲撃は、物理法則を超越して、すでに着弾していたのだ。
その結果は物理的なダメージではなく、ドゥームドラッヘの能力の大幅な弱体化という形で現れた。
(……まあ聞く必要は無さそうですね)
ドゥームドラッヘの声色を聞けば、訊ねるまでもなくそれが真実だと分かる。
明らかに威力の乗っていない攻撃を、フラーウムは死霊のマフラーをなびかせながらひょいと躱す。
『ケー(因果獣神皇は継承されれば持っていた力を失う……だからマーアリアの妹を殺したのか? ドゥームドラッヘよ……)』
彼女の肩にとまっているオベイは、因果獣神皇の力やシステムについて、より深い知識を持っていた。
その予想が正しければ、ドゥームドラッヘは自らの権勢と力を保つためだけに、実の妹を手に掛けたということになる。
「マーアリアの妹が殺された理由がそんな自分勝手な理由ですね」
マイペースであまり物事に動じないフラーウムも、これには流石に不快感を露わにする。
オブリビオンだからという理由だけではない、あの獣は裁かれるべき悪だ。
ドゥームドラッヘを逃亡させないために、彼女は【因果獣神皇・レイジング・オベイ・ディストーション】に変身し、燃えるチェーンソーの翼を羽ばたかせる。
『クソが! 俺が本調子だったなら、お前らなんてなあ!』
対するドゥームドラッヘの形勢は悪化する一方だ。
フラーウムが退路を絶ち、マーアリアが正面から攻める。2人の連携によって逆転の機はことごとく封じられる。
もし彼自身が言うように因果獣神皇の真なる力を発揮できていれば、もっと善戦できていたのだろうが――。
『ケー(だがな因果獣神皇の資格を失う条件もある、それは因果か時空を司る者に認められるか……因果獣神皇に相応しく無いと因果に判断された時など……)』
焦燥するドゥームドラッヘに、オベイが告げるのは冷淡な真実。
すでに彼は、娘を殺してまで執着し続けた神皇の資格を失っているのだと。
「つまりティナさんを殺した地点でその資格を失ったのですか?」
『ケー(いや、ワルドラーミアの森羅万象滅を喰らったのだろう、因果を操る才能だけはあったからなあの男)』
本来ならとっくに失っていたはずの資格を、因果を欺いてまで保持していたのは大したものだが。
長年に渡る僭称が破綻したのは、やはりワルドラーミアの住処で暴れたのが原因だったようだ。
逆説的にそれは、因果にも作用するワルドラーミア砲の凄まじい威力を物語っていた。
そんな経緯はどうあれ、神皇ではなくなったドゥームドラッヘは一介の因果獣と同じ。
立場や実力で言えばマーアリアと対等――いや、因果獣皇となった娘のほうが今や格上だ。
『生まれ持った因果を操る力だけは強かったようですけど……鍛錬を怠ったのですね!』
『ぐわああ! ……あの化け物にやられてなければ……』
マーアリアが放った概念破壊の波動が、ドゥームドラッヘを大きく吹き飛ばす。
この戦闘中、少しずつだが彼女の翼と角が大きくなっているのは、力が増している証だろうか。
長い年月をかけた鍛錬の成果は、才能に驕り成長することを止めた|過去の遺物《オブリビオン》を、遥かに凌駕していた。
『クソッ! ここは退くしか……』
現状では勝てないと、屈辱と共に認めざるを得なくなったドゥームドラッヘは、全力をもって逃走を図る。
いくら弱体化していると言っても『敵対者が負けた相手を因果律からそのままの状態で召喚する』という彼のユーベルコードは脅威だ。態勢を立て直して再び策を練られると、非常に厄介なことになりかねない。
「逃がしませんよ」
それを許さないためにいるのがフラーウムだ。
次元跳躍して敵の逃走経路に回り込んだ彼女は、チェーンソーの翼と両腕の銃剣から因果断絶の斬撃波を放った。
『ぐぎゃっ!!』
吹き飛ばされ、戦場に戻されるドゥームドラッヘ。
そこには、鬼神の如き形相を浮かべたマーアリアが、拳を握り締めて待っていた。
『今から貴方に振るう拳は……全てティナの分だと思いなさい……』
妹の仇を討ち、無念を晴らさんがため。
万感の思いを込めて、因果獣皇は先代の愚王に鉄槌を下す。
『これも! これも! これも! これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも……ティナの分だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
拳の軌跡が閃光としか捉えられないほどの速度。
一撃一撃が必殺級の威力でありながら、終わりの見えない猛ラッシュ。
どれほど必死に因果を歪めようと、もはや相手には、そのうちの一撃すら防ぐ力も残っていない。
滅多打ちに殴り飛ばされたドゥームドラッヘは、断末魔の絶叫を遺して消滅する。
仮にも元・因果獣神皇の最期としては、あまりにも無様な死に様であった。
『はあ……はあ……終わった……』
「マーアリア!」
全ての力を出しきったのか、精根尽き果て崩れ落ちるマーアリアに、慌ててフラーウムが駆け寄る。
オブリビオンは殺されても骸の海から復活するが――奴は二度と復活しないはずだ、と2人は確信していた。
猟兵的に言えば「宿敵」にあたるマーアリアに敗れ、さらにフラーウムから因果断絶の斬撃波を受けたのだ。
因果律レベルで完全に消滅させられたドゥームドラッヘが蘇生する可能性はゼロである。
言葉通りに、彼女達は過去の因縁を断ち切ったのである。
「マーアリア、鏡を見てください!」
『これは……?!』
戦いを終えてすぐに、フラーウムはマーアリアの姿が変わっているのに気付く。
悪魔の如き翼と角は、戦闘中からさらに大きく、神々しいほどの威厳を放ち。
それを教えてあげると、マーアリア自身もかなり驚いていた。
『……まさか私が因果獣神皇に?』
堕落した先代の神皇を討伐した功績が、どうやら因果か時空を司る者に認められたのか。
マーアリアは父にかわって、新たな因果獣神皇になっていたのだ。
「良かったですね……マーアリア!」
『ケー(おそらくワルドラーミアか……)』
突然の襲名ではあったが、これはドゥームドラッヘが完全に滅びた事の裏付けにもなる。
祝福の言葉を贈るフラーウムと、これにもラーミアの力が関わっているかと推察するオベイ。
反応は対照的だが、ふたりとも勝利を喜ぶ気持ちは同じだ。
『ティナ……私、頑張るね』
妹の仇を討った達成感を噛み締めながら、マーアリアは両目を瞑り、決意を新たにする。
愚かな父と同じ轍は踏まない。これからは自分が因果獣神皇として、ふさわしい振る舞いを取らなければ。
ここに、因果獣の一族を巡る、ひとつの因縁が決着したのだった。
「マーアリアさん! フラーウムさん!」
勝利の余韻に浸る2人の元に、仲間達が駆けてくる。
最初に声をかけたのは先頭にいたソラウ。他の仲間も2人の無事を確認するとそれぞれ安堵の表情を浮かべる。
『終わったのね……ドゥームドラッヘを一人で倒すなんて……』
全速力で駆けつけたつもりだったが、どうやらもう戦いは終わっていたらしい。
宿敵を倒し、因果獣神皇に進化したマーアリアを、エスパスは心から労った。
「もうドゥームドラッヘってやつは復活しないんだな?」
『ええ……私とフラーウムの力で完全消滅させました』
エリンの質問に、マーアリアは晴れやかな表情で答える。
新たな神皇からのお墨付きだ。間違いはあるまい。
「よーし、それじゃ旅行の続きができるな!」
『そうですね、楽しみましょう!』
邪悪は倒れ、京都の街にも平和が戻った。
旅行の予定日は後1日残っている。観光を再開しようというリュカシオンの提案に、アロナフィナも賛成する。
もちろん、異論を出す者などいようはずもなかった。
「次はどこを見に行きますか?」『平安神宮はどうでしょう』
「僕は八ツ橋が食べたいな!」『私も! 戦ってお腹空いちゃった』
「じゃあ腹ごしらえにするか」『この近くに有名な料亭があるそうですよ』
「なら、全部行くか!」
戦場ではあれほど勇ましい猟兵達も、日常に戻れば若者らしく、かしましく。
邪魔が入ったぶんを取り戻すように、京都観光を満喫した一同であった――。
●
――後日、ソラウとエスパスの部屋にて。
京都から帰ってきた2人は、あの時の出来事を振り返っていた。
「……ねえもしかしてあの時の事件もドゥームドラッヘの仕業だったの?」
『ええ……そうみたいね』
ソラウが言う「あの事件」とは、一昨年のクロノドラグマ星でクリスマスライブ中に起きた出来事だ。
突如並行世界からソラウのオブリビオンが現れ、星内に潜んでいたオブリビオンのスパイも数多く摘発される事となった、あの事件。マーアリアから聞いた話だと、その黒幕もドゥームドラッヘだったらしい。
奴の能力を利用すれば、あのような事件を起こす事も可能なはず。
時空騎士として宇宙の秩序を守るクロノドラグマ星人は、ドゥームドラッヘにとっても目障りだったろう。
思わぬ事実が明らかになった時は驚いたものだが、あの事件は2人にとって成長の切っ掛けでもあった。
特に、契約者を死なせた失態と力を失った反動から、心に深い傷を負っていたエスパスは、あの一件によって立ち直ることができたのだ。
「今度はちゃんと僕達を守ってくれるよね?」
あの事件の後に約束した事。ソラウはエスパスを許し、エスパスはソラウを守る。
誓いに変わりはないかと問いかける歌姫の目を、時空神はしっかりと見つめ返して答えた。
『勿論……今度こそ守るわ』
彼女の決心が生半可なものや偽りではないことは、京都での戦いでも証明した。
かつて敗北した敵――厳密には違えど、同じ能力を操る化け物に、エスパスは一歩も退かずに立ち向かい。
そしてソラウも以前の自分とは違う成長ぶりを見せつけ、2人で過去の敗北を乗り越えたのだ。
『これからも一緒よ』
エスパスの償いはまだ終わっていない。たとえ死んでも罪は消えないのだと覚悟している。
だから生きている限り、絶対にこの罪からは逃げない。そして同じ過ちは二度と繰り返さない。
どんな強大な敵が次に現れたとしても――必ず守り抜く。
「うん、一緒だよ」
そしてソラウも、ただエスパスに守られるだけの身に甘んじるつもりはない。
歌姫として、騎士として、これからも成長を続ける。贖罪の道を歩み続ける時空神と共に。
大きなトラブルもあった今回の京都観光は、2人にとっては互いの絆を深める機会となったようだ――。
成功
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