アペレンティス・シップ
●弟子入り志願
「やっぱりあの人しかいねぇ!」
声変わりしたての声が響く。
低いというよりは喉を引っ掻いたような声。ここからまた一段と大人になれば、声が落ち着いてくるのだと人は言う。
けれど、声変わりを待っている暇なんてない。
一刻も早く強くなりたい。
男だったのならば。
騎士を志したのならば。
強くあらねばならない。
強くなければ何も守れないからだ。
「なあ、最近あいつ付き合い悪くなったよな?」
「女でもできたんじゃね?」
「ないない。あいつにそんな色気なんてあるものかよ」
共に騎士を志した同年代の者たちが言う。
けれど、耳にしても反応しない。なぜなら、ある意味で己の行動は彼らの言う通りであったからだ。
「なあ、おっさん! 頼むよ! あの人のことを教えてくれ! 弟子入りしたいんだ! 強くなりたいんだよ!」
「お前、どう考えても、そりゃあ……」
酒場の店主は息を吐き出す。
血気盛んなことは若さの特権だ。勢い余って失敗することも。
けれど、猪突猛進では駄目だ。冷静さも持ち合わせねばならない。
「どうしてもなんだ! あの人がいいんだ!」
「……」
なら、と店主は言う。
「あの人はな、まず礼儀を求める。しっかりとしたな」
「礼儀……どうすりゃいい!」
「まずは言葉遣い。そして頼み事には挨拶の品というものが鉄則だろう?」
「つまり」
酒か? そういうことなのか?
なら! と若き騎士は店主から酒のボトルを買い取り、意気揚々と先日己たちを打ち負かして尚涼しい顔をしていた女魔法使い……いやさ、師匠と仰ぐべき者の家へと走る。
鼓動が高鳴る。
あれほどまでに流麗に剣を振るえたのならば、と思う。
あの日、あの時、己達では彼女の本気を引き出せていなかった。
まるで相手にされていなかった。
言ってしまえば、小手先で遊ばれただけだ。
あんな剣技を持つ騎士がいたなんて思いもしなかったのだ。
「たのもう! お頼み申し上げます!」
「うえっ? なになに~?」
勢いよく戸を叩く。
店主から聞いた家は此処だ。聞こえてきた声にも聞き覚えがある。
「弟子入り志願です!」
「で、弟子~?」
イリアステル・アストラル(魔術の女騎士・f45246)は首をかしげいていたが、しかし、理解する。
好奇心から来るお節介。
けれど、彼女はいつもそうだ。
「いいけれどぉ。ちゃんとお休みは取ってねぇ? 闇雲に修行したって駄目なんだから。それは約束して――?」
成功
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