ベット・オン・ミー
●剣戟の音
木枯らしを打つような強烈な打ち込みの一撃によって、木剣の音が響く。
どちらかというと荒削りな、未熟さすら感じさせる音だった。
その音を至近距離で耳にしたイリアステル・アストラル(魔術の女騎士・f45246)は、今まさにその一撃を木剣で受け止めていた。
「打ち込みが力任せになってますよ~」
「こなくそっ!」
振るわれた木剣を押し返すのではなく受け流すようにして半身になったイリアステルを押し倒そうとしていた若き騎士は、勢いのまま地面に倒れ込んでしまった。
勢い余ったまま、つんのめるようにして顔から地面に突っ込んだ彼は、口の中を土の味一色にしながら、勢いよく立ち上がる
「ぺっ! まだまだ!」
振るわれるは長剣。
利点はリーチというより刀身の重みによる打撃に近しい一撃に膂力と体重を乗せることができる点にある。
若いとは言え、まだ体格の出来上がっていない騎士であれど、女性であるイリアステルからすれば勢いが付けば体重差で押し切られてしまうことだろう。
だが、柔よく剛を制すという言葉があるようにイリアステルは、その身のしなやかさでもって剛剣に届かぬとは言え、強烈な打ち込みをいなすのだ。
「はい、だめ~」
「くっ!」
「大振りすぎるよ~ほら、そこ、ここ」
両刃の片手剣の木剣を振るって手首の返しだけでいなす剣の動きと同時に刺突に切り替えてイリアステルは若き騎士の喉元に切っ先を突きつける。
「くっそ~……!」
「あは、私が魔法使いだからと、舐めてましたぁ?」
「身体強化の魔法! 使ってるだろ!」
「いいえ? 魔法は何一つ。それをやったら賭けになりませんから」
そういったのは、彼女が酒場で新米と言える若い騎士に声を掛けられたからだ。
最初は誂いのつもりだったのかもしれない。
しかし、今や辺境の酒場の前には若き騎士たちがへたり込むようにして肩で息をするばかり。
目の前の彼が最後の一人だった。
「ほらほらぁ、本気で来ないと、私から一本取れませんよぉ? お酌一つしてあげられませんねぇ、これじゃあ?」
「こなくそっ!」
「あはは、挑発に乗って動きが直線的になってますよ~」
やぶれかぶれでどうにかできるほどイリアステルは容易くない。
やれやれと酒場の主人はイリアステルのお節介めいた趣味を知るがゆえに溜息をつく。
その息を聞いたイリアステルは悪戯っぽく目配せし、若き騎士たちをこてんぱんにしてしまうのだった――。
成功
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