甘やかビター・デイズ
●後輩くん
言葉は投げかけられるものだ。
だから、放つ時は慎重にならなければならない。
言葉は意味という重さを持つ。
軽々しく放つことのできるものではない。それが強い思いであれば尚更のことだ。
心の内側から取り出して、振りかぶる。
それだけでも相当な労力であろうことは言うまでもない。
バイト先の後輩くん。
ひたむきだった。
素直だった。
それは好ましいものだった。
「聖愛さん! 好きです! 俺と付き合ってください!」
あまりにもストレートな言葉に池神・聖愛(デリシャス☆マリア・f45161)は身を固くした。
告白だ。
これは告白なのだと頭が僅かに遅れて理解する。
アルバイト休憩のバックヤードで、彼から告白されて聖愛は戸惑った。
一度あることは二度ある。
いや、これはそういうものではない。なら、モテ期。いやいや、それも違う。
混乱する頭を鎮めるために聖愛は頭を振る。
「あの、えっと」
「好きなんです!」
「そ、それはちゃんと言ってもらえたから分かってるんだけど、お、落ち着いて?」
「でも、俺……!」
勇気を振り絞ってくれたということは聖愛にもわかっている。
肩が震えている。唇が震えている。瞳が潤んでいる。
どんなに不安だっただろうか。
どんなに心細かっただろうか。
どんなに勇気を振り絞っただろうか。
それを思うと胸が痛む。
けれど。
「ありがとう」
その言葉に後輩くんの顔が明るくなる。
けれど。
「ごめんなさい。私、実は……」
応えなければならない。
誠実であらねばならない。そう思って全てを話した。
全てはタイミングだったのかもしれない。
それがたとえ、追い風でなくて向かい風吹く逆境めいた状況だったのだとしても。
「お付き合いしている人がいて。本当なんです。本当に最近のことだったので、話す機会がなくて……」
だからもし、自分の態度が思わせぶりだったのだとしたら、心苦しい。
彼の想いに応えられないことに心が痛む。
「い、一体」
どんなやつなんですか! と後輩くんは聞けないようだった。
それもそのはずだ。
諦めきれない。
けれど、諦めなければならない。
心に蓋はできないから、そんな感情が溢れそうであった。
「素敵な人なんですよ」
そう告げるのが、精一杯だった。
がっくりと肩を落とした彼に掛けられる言葉は多くはない。
どんな言葉だって慰めにはならないだろう。
少し、ぎこちなくて、少し苦い――。
成功
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