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『より善い|明日《ミライ》の為に』と彼は謳う

#バハムートキャバリア

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#バハムートキャバリア


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 ●保守と革新
 「いいのかなぁ、俺ァ怖いよ」
 「そうはいってもなぁ。お偉いさんがやれっつーんだからよ」
 人足の二人は木馬に積まれていく丸太を前に地べたに座って煙草など吹かしている。周囲には斧が木を打つ、コンともタンともつかぬせわしない硬質の音、荷積みたちの木を持ち上げる際の掛け声が満ち、時折、倒れるぞの大声が響くなら、ずずんと地の揺れるのを感じる。
 「実際、この、こんもりした森がよ、畑のあちこちにあるのは邪魔じゃねぇか」
 「そんでも、昔の、百獣族の、何かだろ。ご先祖から受け継いできた鎮魂の森じゃねぇの」
 俺ァ怖いよ、ともう一度。言って一人が煙草を揉み消し立ち上がる。
 「古いもの壊さなきゃ、新しいもんは作れねぇだろ」
 いつまでも昔と同じ事をやっていたってよ、と応じた男も立ち上がる。
 何せ長い時を育つままにされていた木を切っている、一本でも丸太のいかほど太いことか。それを積んだ木馬を操作しようというのだから、彼らにとってこれは毎度毎度が命がけの作業。尻の土を払うのを滑り止めの代わりにしたならば、さぁ、お喋りの時間はおしまいだ。

 ●善き羊飼いか、それとも羊飼いの少年か
 「街の騎士団もさるもので。何故にこれほどの規模の騎士団を用意していたかと違和感を覚えるほどです。百獣族との戦いはどちらの勝つものか、分らぬ感じでありました」
 見た予兆の中の戦い、まだ今は起きていない悲劇を振り返りながら、エルンスト・ノルテ(遊子・f42026)が猟兵達に語りかける。

 大河の恵みを得て、豊かで広大な農耕の街がある。
 そこを百獣族が襲うのだと。

 「ただ、勝敗はどうあれ、このままでは、あまりにも被害が大きすぎます」
 攻撃の余波に今は緑の、のどかな田園は見る間に焼けていく。人造竜騎と獣騎の巨体の争いは家々を砕いて、瓦礫は市民の、騎士の、百獣族の死体の上に降り注ぐ。飛び散る肉片、広がる血溜まり。
 そうして、あらゆる者共の死の上に、人類の守護者がその羽を広げ浮かび上がる。血塗れてなおのこと神々しく、振り抜かれ掲げられる神の大剣は、いまだ地に立つ者たちへ血と檄を飛ばすのだ。

  ――続け! 我がの剣の示す先こそ、真実、人の為の世である!

 「あれが、きっと執政官だったのでしょう」
 |彼《か》の人のうちに燃えるは理想か野望か、人造竜騎の|面《つら》のあっては伺えませんでしたが、とエルンストは肩を竦める。
 「何にせよ、です。どうにか事態に介入して、被害を抑えて頂きたい」
 百獣族の側の言い分は予兆では判然としなかったと言い、だがそれ自体は多分避けられぬだろうと続けて述べる、その根拠。
 「執政官の指揮の元、街では、再編の、再開発のと、既に色々と行われているようなのです。
  その辺に百獣族の眠りを覚ました一因があるかと思います」
 これらの事業の性急さ、急激な変化については市民の評価も分かれている様子だと言う。

 街はどこへ向かおうとしているのか。
 それを指揮する人物がどのような人柄か、何の動機か。
 意見の分かれている今だから、人々から聞きだせる話もあるかもしれない。

 「漠然とした情報のみでお願いすることになり申し訳ないが、現状、ご説明出来ることは以上になります。

  どう介入し、誰に組せばこの悲劇は最小となるか――あとは、皆さんのご判断に託します」


紫践
 都会の方は縁遠い光景かと思いますが、田畑の中、住宅地の中の唐突に小さな林。
 地方あるある。神社だったり古墳だったり、するのですけども。
 禁足地とかいう響きが大好き、紫践と申します。

 ●一章
 『古いものをリセットして、新しい形を作っていこう』

 バハムートキャバリアの世界では、かなり特異な意志かもしれません。
 この街の執政官の未来志向――果たして信用できるものかどうか、まずはお確かめ下さい。
 街ブラしながら住民とお喋りが出来ます。
 街の簡単な説明は断章で用意しますが、読む読まないどちらでも差し支えない程度です。

 ●他
 バハムートキャバリア世界では、人造竜騎を借り受けることが可能です。
 一章で借り受けるプレイングに成功した上で、二章三章の戦闘に参加された場合に限り、
 ジョブ・装備に人造竜騎のない方であっても、人造竜騎を使用した戦闘プレイングが可能です。

 以上です。宜しくお願い致します。
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第1章 冒険 『村・街を調査せよ』

POW   :    手当たり次第にあちこち回り、調査する

SPD   :    何か怪しい所はないか、足を使って調査する

WIZ   :    聞き込みなどから情報を整理・推測した上で独自に調査する

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ●アタラクシア領《エスシオ》
 作付けの終わった様々の形の緑の揺れる田園風景の先に、街はある。

 いつの間に木馬から本物の馬に曳かれる形に変わっていた丸太たちは、城壁の途切れた一角で門番たちの確認を受けると、街の中へ入っていく。
 活気に満ちた街だ。市場に見える人々は元よりの住人だろうか? バルのようなものや軽食を売る露天の前では、出稼ぎか、先までの人々と多少鈍りの違う労働者達が、昼間から杯をぶつけ合っては笑い声を上げている。
 あちこちと立つ揃いのサーコートを来た街の騎士たちが、どこか粗野な印象の傭兵かといった風情の一団と親しげに会話を交しているのも見受けられた。
 そのような街中。飲食店や市場に、対面には一帯を治めるシティホール、一際豪奢で大きな建造物があるその間――大通りを抜けて、やがて丸太たちは川沿いの倉庫群へと運び込まれる。
 川に浮かぶ大きな船が行き交う様が倉庫の立ち並ぶそこからはよく見えた。大穀倉地帯であるこの辺りの収穫物は、ここで保管され、大河の港を通して流域の様々の街へ売られていくのだ。

 一つの街に二つの顔。田園と港の街、エスシオとはこのような街である。
響納・リズ(サポート)
「皆様のお役に立てるよう、頑張りますわね」

移動時には、急ぐ要素があれば、サモン・アーティアを使って移動します。
洞窟など罠が予想される場所では、慎重に進み、万が一、けが人が出た場合は、回復UCにてすぐに癒します。
調査の際は、タロットを使っての失せもの探しや、礼儀作法を使っての交渉。聞き耳等を駆使して、情報を得ようとします。
交渉時は相手の機嫌を損ねないよう気遣いながら、気持ちよく話してくれるように進めます。

共同で進む際は、足手まといにならないよう、相手を補佐する形で参加したいと思います。

アドリブ、絡みは大歓迎で、エッチなのはNGです。



 ●夢に酔う
 淡いライムイエローのワンピースの裾が歩くたびに軽やかに揺らぐ。シンプルなシャツワンピースは、この街を歩くのに華美なものは馴染まないだろうと選んだもの。羽織るボレロも5分丈袖のスッキリしたデザインで、けれどそれを縁取るレースの甘さくらいは楽しませて欲しい。
 キラキラと春の穏やかな日差しを返す大河。川面を抜け上がってくる爽やかな春風。日よけを兼ねた白いつば広帽の端を飛ばぬように押さえて、響納・リズ(オルテンシアの貴婦人・f13175)は、その心地よさに、知らず微笑んだ。

 港湾地区――「あの辺りは再開発が随分進んで」と門番はいっていた。だから、響納は得るもののあるかも知れないと散策している。
 物流の拠点だった無骨と実利のその場所の一角は、他所から訪れた者の為の憩いの場、つまり観光地と作りかえられており、町人とはまた違う、小奇麗な服装の人々のまばらにベンチに掛けて船を眺めたり、カフェの立てたパラソルの下でカップを片手に談笑している。
 それらを認めた響納は、それまでの微笑にわずか苦味を滲ませた――自分も観光だけで来られたなら良かったのだけれど、と。

 すっごく嬉しいです、と響能と同じ年頃に見えるその女性はにこり笑った。苺とソイミルクを合わせたドリンクを響納の前に降ろし、トレイを胸に抱えて。
 率直に、街の雰囲気の、色々変わっていっているのですってね、と問うた響納に答えてのことだ。
 「私の家、農家なんですよぉ。私も小さな頃から畑仕事ばっかりで。今、こーんな可愛い服を着て、お店で働けるなんて夢みたい!
  だからパンタレイ様には、あ、この街の偉い方なんですけどっ。感謝してます~♪」
 「ふふ、制服、お似合いですよ」
 心から響納が言えば、ありがとうございますっ、と、軽く身をくねらせ、スカートを揺らめかせながら女性もはにかむ。
 「うちの親なんかは、不満たらたらなんですけどねぇ。何せ若手がこっち――街の方に出ちゃって、人手が足りないものだから。でも、だから、お役所は効率? 考えて道を引きなおすとか、色々やろうって言ってるらしいんですけど。親世代は昔ながらみたいなのに拘りが凄くって……結構、揉めてるみたい」
 肩を竦め、大げさに溜息をついてみせるも、その表情は朗らかなままだ。
 一方の響納は、頷きを返すに留め、胸の裡、その名をなぞる――執政官、パンタレイ。
 聞いてきた予兆とはまた別の、この街の行く末の抱えるほのかな危うさの芽。施策の齎した地区間の、世代間の分断を知っていように尚、強引に……そこまでして、何を追い求めている?
 響納の巡る思考を断ち切ったのは、私は信じてますけどね!と言い切る給仕の夢見る笑顔だ。

 「この畑と港の田舎町が、アタラクシア領で一番有名な街に生まれ変わるって話!
  ノエマやアパシアなんかより、ずっとずっと――!!」

 ありがとうと見送る給仕の背、口つける苺のソイラテ。
 その酸味が、響納のなか、いつまでも消えないでいる。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘルゲ・ルンドグレン
うーん……活気があるのはいいことなのだけれど。
こういう改革?っていうのを進めていくのは色々と問題があるのが常ってものよね。
色んなところでもそうだったもの!
とはいえ、まずは調査からね
問題があるならまずはどんなものなのかを見極めてからじゃないと

調査の基本は足、という方針で買い食いをしながら街中を歩き回って話が聞けそうな一般人を中心に手あたり次第に話を聞いていきましょう
買い食いした物をこれ美味しいですねー旅の途中でここに来たんですよーという体で話を振っていくわね
街の発展ぶりに興味を持っている感じで話を進めつつ、再編や再開発についての話を聞いていくわ!
不満とか不安とかそーゆーのも含めてね!


クローネ・マックローネ
NGなし、絡みOK、アドリブ歓迎
【WIZ判定】
真剣口調でいくよ

召喚したサキュバスメイドちゃん達と共に【情報収集】を行うよ
調べる内容は、市民から見た執政官と事業による変化について
それと…この街やその周辺の伝承かな
今回戦う百獣族についての情報が得られるかもしれないからね
【コミュ力】や【愛嬌】を発揮して住民から聞き込みを行い、集めた情報を【瞬間思考力/世界知識/伝承知識】で整理するね
こちらが集めた情報は他猟兵にも【情報伝達】するよ

UCは『クローネちゃんのできる子達★』
【情報収集】技能を100レベルにするね



 ●共にいるということ
 指先に残る砂糖の粒。パッパと両の指を擦りあわせて払う。それは、美味しかったミニドーナツとの別れの儀式だ。
 「あぁ……、あっという間に居なくなるのね」
 でも別れがあれば新たな出会いもあるのよねー、あっけらかんと告げて、皿の上、次の1つを摘まむなら、横に伸びてくる黒い指が別なドーナツを摘まみ、応じる。
 「アタシは最近は見てくれだけじゃなくて、中身も大事かなぁって」
 すっとぼけたようにいいながら、食べやすく半分にドーナツを割るのなら、揚げた際の熱で溶けかけたショコラがトロリとこんにちは。
 これよ、これー! ねー大事よねー! うら若き女性二人が笑いあう街角のカフェのテラス席。ヘルゲ・ルンドグレン(魔導騎士・f44787)とクローネ・マックローネ(|闇《ダークネス》と|神《デウスエクス》を従える者・f05148)の二人だ。

 戦場では冷徹な猟兵たちも、今は風景に溶け込んで。周りの席も老若男女様々な組み合わせの人々で埋まっているし、横を行きかう沢山の人やモノ。
 色んなトーンの声が賑やかに交じり合う。そうすると不思議と発された一つ一つの言葉の|縁《ふち》が溶けて、意味を持たぬ響き――ざわめきとか呼ばれるもの、に生まれ変わること。クローネはそれに、何か、近しさめいたものを感じて、瞼を伏せる。溶け合う感覚に身をゆだねるのはけれど一瞬のこと。
 「それで……、どうだった?」
 開かれる瞼の奥、その瞳に猟兵の鋭さを讃えて。
 「色んな人がいて活況なのはいいことだけど」
 行きかう人々を見るともなしみていたヘルゲの瞳もまた、同じ強さでクローネに向き合う。

 「改革? 難しいよね。だって……、そう、|色々なヒトがいる《・・・・・・・・》んだもん」

 ●共に生きるということ
 ヘルゲは、街のあちらこちらを歩いて回った。最近、この街が勢いのあるときいて見に来たのだと。
 「貴方のように若い人がおひとりで?」
 「大魔法使いを、目指しているからね!」
 そして、人造竜騎を手繰る者であると嘘偽りなく答える。これらの問いの多くが嘲りではなく、心配からきていること。この世界の多くの住人に共通する気質を、己もまたこの世界の住人たるヘルゲは良く分っている。

 だからか、ヘルゲには、住民たちの正直な気持ち、というのはよく集まった。聞いてほしかったのかもしれない。
 地に足ついたような具体的な話をするなら、例えば宿。収穫のような繁忙期にだけ訪れる期間労働者や、陸路・水路の荷運びに従事するような者の為の素泊まりの宿といったものは昔からこの街に多くあったという、周りには大衆的な食堂なども成り立って。
 ところが、街の別な一角があっという間に改修されて、そこに観光客なるものを迎える地区というのが生まれたのだ。大きくて立派な宿、小奇麗なレストラン。いまやこの街の宿といえば、その辺りを指すと。ある者たちにはチャンスともなったのだから、悪いとは言えないのだろう、でも――。

 「今やこの街の宿といえば、そちらなんです。街のどこもここも、無かったはずの日なたと日影の出来たような気持ちがして……寂しいみたいな……ごめんなさい。気持ちの話ばかりで」
 「ううん! お話してくれてありがとう。色々急に変わって、気持ちが追いつかないよね」
 話してくれた素泊まり宿の娘の後ろを、身なりの良い家族連れが通っていく。こんな場所もあるのかというように、興味深げに。そして、幸せな家族の空気感と共に、周囲を見回しながら。

 執政官、とはなんだろう。
 誰を向いて、どこを目指せば正解?
 断ずるなんて出来ない。どんな場所でも悩みがあることは知っている。けれど、でも――。

 「『ここは託された街だから。とにかく、私も真面目に続けていくだけです』って。何度か、聞いたの。託された街って。でもそれより先に気持ちに寄り添ってあげたくって」
 深掘りできなかったと言外に報告するヘルゲに、クローネがウィンクをひとつ。
 「それについては、メイドちゃん達と1つ話を拾えたよ」

 ユーベルコードを発動して呼び出すサキュバスメイドたちと共に、クローネも聞き込みをしてきた。クローネ本人を含めれば10人。街に5、そして、田園区に5、分かれて多くの話を聞いた。
 田園地区まで出られたのはこのマンパワーのあってこそだ。持ち前の愛嬌と交渉力、田園地区に戻る住民の馬車の空の荷台に乗せてもらい、眺める畑の緑の先に素朴な家がまばらなりに固まって立ち並んでいる。
 そこで聞いた。この辺りの成り立ち――伝承を。

 「この街はね、|百獣族に譲ってもらった《・・・・・・・・・・・》そうよ」

 そう告げ回想するクローネの裡――農民たちの表情は、今テラスの横を行きかう者にない哀しみの色があって。
 「じゃあ、木の神を信奉していたのかな?」
 畑の縁で野草をとる老婆の横に、同じように座り込んで、クローネが言われた百獣族の特徴に思いを馳せるなら。
 「そうよぉ、木の獣騎だっていうから。
  この辺りを開いてねぇ、街を作って――だけど、人の子もよくよく強くなったから、それならばむごいことになる前にってね。託して他所へゆくんだって。それで、|見とくのだって《・・・・・・・》」
 その約束が、ほら、あそこ――そう、老婆の指差す先に林とも呼べぬ木々の塊が見える。
 木も草も共に生きとるでしょう。そういう風にいなさいってねぇ、あちこちにあれがあるのよ、と。
 「……伐ってしまうと、どうなるの?」
 「さぁ? それは分らんねぇ……けれど、恐れ多いことよぉ」

 その時問うたクローネも、今話を伝え聞くヘルゲも、伐ればどうなるものか、知っている。
 譲ってくれた、託してくれたという表現が歴史の真実かどうかは判らない――それは二人とも良く知っていて。けれど、見ておくと宣言したことは、きっと事実だったのだ。
 |百獣族《かれら》は共生の|約束《ねがい》の伐られるのを、|見た《・・》のだ。
 或いは伐られたものこそは、姿を、生き方を変えて残った彼ら自身かもしれなかった。

 「執政官は、その昔話、知らないのかな?」
 ヘルゲが聞けばクローネが頭を振る。
 「街の人でも農村部の人でも、住民にこれを知らない人は居ないって」
 そうでしょうね、とヘルゲは思う。過去を引き継ぐ――バハムートキャバリア全体を覆うこの意志の強さに、悩み苦しんだ過去すら、彼女にはあるから。

 「他の猟兵にも、伝えにいこう」
 カップに残ったぬるい紅茶を飲み干して、クローネがいう。もとよりその意思を持って動いていた彼女とヘルゲが最初に出会って、このティータイムが始まったのだ。
 「そうだね。一旦分れて、また落ち合おっか」
 ヘルゲが応じながら通りへと目を向けるならば、クローネも釣られるようにして。

 知っていて、何故。
 知っていて、尚。 
 何を導こうというのだろう、全てを踏みつけにして。

 ――二人の座るテラス席からは、豪奢に幕を垂らし旗を翻す、そのシティホールが良く見えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

賤木・下臈
荘子曰く「人は皆有用の用を知れども、無用の用を知るなきなり」。無用と切り捨てたものが、実は知らない所で用を担っていた、という話は古今東西に広く存在します。古いものを何でもかんでも切り捨てるというのも、考えものですな。

百獣族に対する殺戮は人類にとっては「昔の話」「古いもの」なのでしょう。否、殺戮は我々にとっては「今」のことだ。そう百獣族は思っているのかもしれません。

騎士団は違和感を覚える程規模が大きいといいます。百獣族の復活も、その先にある激戦も、承知の上なのでしょうか。だとしたら、敢えてそうする目的は?そもそも執政官とは何者か?労働者たちに酒を勧め、話を聞いてみましょう。


ベルト・ラムバルド
アドリブ上等

スクラップ&ビルドってやつ…?
過去より蘇るはオブリビオン!…だったか?
この世界の過去から蘇るは…竜騎の力を手にした人間達に滅ぼされた悲劇の百獣族か…

だが私は猟兵で騎士のベルト・ラムバルド!蘇る過去を倒さねばならん…行かねばならんのよ!

騎士や傭兵連中から話を聞くか…?
…いや待てよ?こういう場合…酒場に務める女性たちに聞いてみるか!

酒場にやってきた労働者や騎士達が酒と女に口元が緩んであれこれと話しているやもしれない!

という訳で酒場に来てUCを発動し酒場に務める女性達に流し目を飛ばして
彼女達の心をめろめろにして執政官様とやらの話を聞いてみるぞ!

…え?お酒?しょうがないなぁ…一杯貰おうか…



 ●目と目が合う
 大衆酒場の入り口手前。
 さてさて参りましょうかと、そんな風情の男性二人が、はたと動きを止める――目があった。

 ((あ。この人/方も猟兵か……))
 
 「……調査だから、ねぇ?」
 真面目に。あくまでも真面目に真昼間から酒場へ来たのだ。酒は人の口を軽くするのだから。
 ちろり。忙しく駆け回る給仕のおネエさんをつい横目で見、慌てて目の前の男性に目を戻すと、ベルト・ラムバルド(自称、光明の暗黒騎士・f36452)がいう。
 言われた側の賤木・下臈(おいしいクッキーです・f45205)は、応じて頷く。
 「えぇ、調査ですとも」
 賤木は割と本当に真面目に、ここへ来たのだけども。先の説得力しか感じないベルトの目の動き――良き。
 そういうの、嫌いではないのである。

 かくして猟兵二人は連れ立って。
 いざ行かん――|大衆酒場《戦場》へ!

 ● " 酔 う "
 その食堂は活況だ。
 無駄な装飾など一切ない、|実《じつ》だけの空間に満たされた人と熱気。ある一団は今からの仕事をこなす為の糧を喰らい、別の者たちは仕事上がりの一杯を煽る最中を、愛嬌ある給仕たちが慌しく飛び回っている。

 「……荘子曰く「人は皆有用の用を知れども、無用の用を知るなきなり」と」
 とりあえずカウンター席を勧められて、座る二人。軽食を待つ間、賎木が周囲の労働者達に目を配りながら――話を聞きやすそうな一団を探す為だ――なんとはなし、そのように切り出した。
 「そーし?」
 ベルトの中にその名はなく首傾げるなら、賎木が続ける。
 「無用と切り捨てたものが、実は知らない所で用を担っていた、という話は古今東西に広く存在します。古いものを何でもかんでも切り捨てるというのも……」
 この街のものにとって既に過去なる出来事、なくしてしまえというそれが、これより|来《きた》る百獣族には今の無念なのだろうと、賎木は、そう考えている。
 「スクラップ&ビルドってやつ……?」
 この街の、と答えてから、そうだねぇとカウンターに肘をついて顎を乗せ。慌しい厨房――それは仕事もなくボンヤリ過ごすよりはずっと良いことのはずだ――を見るともなしのベルト。
 過去に囚われ続けながら今を生きるこの世界で、過去を無用と解体し、今を組みなおす。その志の善きものであれば、騎士たるベルトはこの街の|百獣族《過去》を斬る覚悟でここに居る。

 そんな僅かの会話の合間に早々と届くのは春キャベツのパスタとやら。旨そうなその匂いに鼻をひくつかせたなら、この話は一旦ここまでだ。あとは、街のものに話を聞いてみなければ判断のしようがないこと。酒に飲まれぬようにまずは腹に物をおさめましょうかと二人、フォークを取った。

 「お兄さんたち、他にご注文はぁ?」
 上げ気味の強請るような語尾に、気安い言葉。だが憎めないのは、その笑顔の明るいから。あと、えっと……、あぁ豊かでいらっしゃいますねぇ、とドコの話とは言わないけれど。
 皿を下げながら問う給仕。昼のピークの終わったか、少し空いて見える席もあるから、追いだしではないのだろう。もう少しお金を落としてくださいなといった感じのその微笑に敢えて乗ろうではないか。
 持てる全力で大人の男の余裕の笑みを発動しながら、ベルトが返す。
 「お酒? しょうがないなぁ……一杯貰おうか……」
 手が空いてるなら君もどう、奢るよ、なんて。そこに賎木の加勢が入る。
 「私達は旅の者でございまして。どうせならこの街の方と話しながら楽しく飲みたいところです」
 「あぁじゃあ、あのひと達! 常連なの!
  ほら、あの人なんか騎士団の偉い人だって。街のことにも詳しいわよ。話つけてきてあげるわ!」
 幾ら歴戦の猟兵たちといえど、この戦場に於いては、日夜荒くれもの共をあしらっている給仕が勝つに決まっていたのだ。
 案内されるがままにテーブル席へ移動して。私も後から来るからー! 奢ってくれるって、いったよね? と手をふりふり、軽やかに踵返す給仕。待ってるからとほんの少し切実の滲む声を掛けたベルトの肩を、既に出来上がった体躯のいい壮年がバシバシと叩く。
 「旅の人だって? どうだい、行き先の決まってないならこの街の騎士団に勤めないか」
 「……皆さんは全員、騎士団にお勤めでいらっしゃる?」
 賎木が引き受けて問う。いまベルトを叩いた男は、私服とはいえ小奇麗ではある。身分のありそうな。同席の他の男たちはといえば、彼と似た属性のものもいれば、目つきの少し粗野なものも居て。
 「俺とコイツも、誘われて加わったんだ。中々待遇いいぜ」
 コインを弾いてキャッチすると、その粗野な男がにやりと笑う。
 「以前は何を?」
 「騎士崩れの野党どもってのが方々で問題になってんだろ? 俺らは元々、商団の用心棒やってたんだ」
 納得の行く経緯に賎木が頷いて。しかし、では――。
 いったいよ、と苦笑いしながらベルトが横の壮年に尋ねるのは、賎木と同じ素朴な疑問。
 「なんだって騎士団をそんなに強化してるんだ?」
 「あの人は負けられないからさぁ!」
 「あの人って?」
 「パンタレイ様よ――執政官でわれ等が騎士団長さま」

 では負けられないとは? 誰に?
 酒を飲み交し、時々給仕の魅力に癒されながら、聞き出せた話というのは、本当に、本当に下らない――。

 「そんなの、単なる自己顕示欲じゃないかっ」
 直情型のベルトが、バンっと大きな音を立ててテーブルを叩いたなら仕事を上がって横についていた給仕がそーんなに怒らないのとケラケラ笑う。酒の場の力か周囲の男達も気にした風はない。
 「アタラクシアじゃノエマとアパシアって街以外はおまけみたいものでパッとしないもの。アタシは嬉しいわ♪」
 「分かるー! どこもここと似た様なもんでさ」
 賎木はふむと考え込んでしまう。
 アパシアという街の執政官と、このエスシオの執政官は同期なのだと、彼らはいった。気に食わない同僚が大きな街を任されて、だからパンタレイという男は見返してやろうとこんな事を始めたのだと。
 「執政官殿はそのうち、円卓に独立を申し出るつもりだと俺は思うね」
 元よりの騎士団員という男が得意げに推論を披露すれば、男は勝負しねぇとな! やんやと周りが盛り上がる。その中で一人、ベルトだけが歯噛みして――アパシアの執政官を彼は知っている。
 この街の野心家と比べれば、そりゃ消極的、だったかもしれない。自分もそこにイラついたりしたのだけれど。でも、襲い掛からんとする百獣族にすら心を砕いて、街のこれまでを、これからを思って――そういう。
 思いに沈むベルトに、賎木がそっと囁く。
 「酒の席での上司に対する批判めいた見解と受け取ってもよいでしょうが――下臈は、これが軸、真とみます」
 その言葉に、ベルトが顔を上げるなら、賎木は小さく頷く。

 理想や理念とは掲げるもの――人を動かすものではない。目の前の彼らが執政官の方策を歓迎しているのは何故だ? ああ、先ほど傭兵は満足げに金貨で遊んでいたではないか。
 そんな矮小な嫉妬でここまでを出来るか、ということを、人間は往々しでかすものだ。力を得たならその分だけきっと、苛烈に。
 かつて、百獣族の皆殺しをこの世界の先人が選んだように。

 ベルトは皮袋をテーブルに置く。それをみて賎木が席を立つ。
 「いやはや、確かに。オトコには勝負しないといけない時というのが、あるよな」
 面白い話が聞けてよかった、と、そして――。

 その時だった。酒場の戸の激しく開かれたのは。
 「召集だ!」
 馬鹿ども、どれだけ飲んでやがると暴言のあと、ああもういいからこい、と地団太を踏むように。
 そして叫びあげた、百獣族だと。

  「決闘の申し出が来たんだよ!!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『獣騎バイアクヘー』

POW   :    ウィングドレディ・ラッシュ
【超高速飛行で接近し、手足の鉤爪】で近接攻撃する。低威力だが、対象が近接範囲から離脱するまで何度でも連続攻撃できる。
SPD   :    フーン器官最大駆動
【体内の磁気操作器官「フーン」】を最大駆動させ、【超々高速飛行による突撃】で対象の【身体】を攻撃する。既にダメージを受けている対象には威力2倍。
WIZ   :    ハスターブラスター
【超高速飛行をしながら、頭】を向けた対象に、【口から放つ魔力光線】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:ひろん

👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ●流れるのは所詮、他人の血なのだから。
 「人類の悲劇を繰り返すなと?」
 最奥。大きな椅子にゆるりと腰掛ける執政官は、報を聞き押し寄せた人々ですし詰めの会議室を見回すと、はははと声を上げて笑う。固唾を呑む人々の沈黙の中、彼の笑い声はよく響いた。

 百獣族の要求は街を明け渡し、ヒトがこの地から去ることだ。
 敵の総大将から一騎打ちにてそれを賭けようと要求されたエスシオの街は、執政官パンタレイは、否の回答を出した。

 「何故ヒトが去らねばならない? 何故決闘など飲まねばならない?
  我等がしたわけでない約束とやらに従って、細々と生きねばならないなんて道理のあるものか。
  それに仮に総大将を討ったとて、今押し寄せているという、あの羽音の煩い奴らが、次は仇のなんのと騒ぎ出さない保障はどこにある?
  名分が立てばいい……決闘などどうにだって、好きに起こせるのだ」
 違うかね? 執政官の穏やかな笑みも声色も、だが、そこまでだった。
 
 ――ならば、殲滅を。

 「繰り返しというならそうなのだろう、奴らの敗北という歴史は繰り返されるわけだ。
  今度こそ、完膚なきまでに」
 勇気ある長老の一人は、それは違うと食い下がる。崇高なる決闘とは過去を悔い、二度と多くの血を流さぬために。だからヒトもまたそれに倣ったのでしょうと。
 その声を受け、|代わりに決闘を引き受けても良いと申し出るもの《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》たちすら居るのだけれど――。

 臆するなと飛ぶ檄。執政官が机を激しく打ち、椅子を倒して立ち上がる。
 「決闘など不満の目くらまし、一時凌ぎに過ぎぬ!
  世界は変わらねばならない、かつてヒトがそうしたように、だ!
  悪習を、悪因を――今こそ過去の亡霊を討つのだ!」

 真の平定の先、我らもまた、新たな|段階《ミライ》へ至るために!
 今流さずして、いつ流す――この血潮を!

 言葉に酔った騎士たちの、怒号のような重く激しい同意と熱が部屋を満たす。満足したように力強く頷いた執政官の演説は続く。

 世界を覆う恐慌――蘇る百獣族の脅威。
 その完全排除を成し遂げた暁には、アタラクシアの城。いや円卓は認めざるを得ないだろう。
 エスシオを、騎士パンタレイとその騎士団を!
 
 「さぁ、迎え撃つぞ!
  我々こそが、|人造竜騎《カミ》を奉じた始祖の騎士たちの、その意志を継ぐ者たちであると世に証すのだ!!」

 ……。
 要職にあると見える執政官の傍らの男が住民の避難を指示し、一部の騎士たちがそれに応えて、人を掻き分け部屋を出ようと動き始める。
 それに続くように、部屋を出ようとする少数のものたちがいた。話の通らない執政官にいつまでも関わっていられない。既に差し迫った脅威、押し寄せる百獣族。兎も角もまずは対処せねば。

 このままでは――血が流れる、多くの血が。

 逸る気持ちで、ようやっと抜けた人垣。
 そして猟兵たちは駆け出す、城門へ向かって。
賤木・下臈
この世界における決闘の掟をはじめ、あらゆる取り決めは多くの流血の末に成り立ったことでしょう。「騎士道は血と涙で編まれたもの」。余所者意見ですが、私はそう思います。執政官は、それでも、まだ血を流し足りないとおっしゃるか。貴方はたとえ百万人が死んだ戦の後でも、次の戦にも、次の次の戦にも、平気な顔で挑むことでしょう。その剣の切っ先が百獣族にのみ向けられるという保証も、どこにあるのですか?
嘆いても詮無いこと、まずは獣騎を退けねば。混戦ならば、この手を打ちましょう。敵のみを穿つ雷の矢を降らせ、動きを鈍らせます。
「紅の 古き掟を 鳴る神の |響《とよ》むがごとく 聞けば畏し」



 ●厳つ霊
 方々で組まれる隊、飛ぶ号令。
 二十歳になったろうか、まだかもしれぬ。己を追い越して、慌てたように他の者について駆けてゆく青年。垣間見る横顔の何処か甘い曲線の頬も、血に、体液に、塗れ汚されていくだろう。見開かれた瞳、動くことを止めた瞳孔。斃れ込む彼のその目の前を別の足が駆け抜けて、既に血に濡れた青年の頬を更に貶めるように土を跳ね上げ汚していく――それは嫌な妄想というには、もっと生々しくて鮮明な未来予想図だ。数多の世界を、場面を、渡り歩いてきた彼にとって。

 (「騎士道は血と涙で編まれたもの」と――)

 賤木・下臈(おいしいクッキーです・f45205)は、破戒僧だ。今更殺生がどうのと、言いたいわけではない。果敢ないヒトが大いなるを得んともがく時、血を、命を、贄として。それは、この世界であっても同じ、というだけ。
 (……決闘の掟をはじめ、あらゆる取り決めは多くの流血の末に成り立ったことでしょう)
 自分は余所者、と考える彼はだが、余所者だからこそ。世界の別がありながら、変わることない人の生き様を俯瞰する。

 その余所者たる賎木が立ち尽くす様は川の中の岩のようにして。詰め所から、或いは庁舎から城門へ向かう者たちが、彼の居場所で流れを割り、再び合流を果たすと、城門の方へ流れていく。
 邪魔だと押されよろめく賎木を、別の誰かは支えんとして腕を伸ばすのだ。爺さん早く逃げなと心配げな言葉を振り返り気味に投げかけて去っていくその背。様々。様々の人々が流れていく、悲劇の口へ。

 だから、賎木は半身を返し、振り仰ぐ。
 |人造竜騎《バハムートキャバリア》。
 庁舎の屋上に立つカミは、風雲急を告げる地上を睥睨する。背に広がる六片に雷の走るようにして、光の線が描かれるなら、器は今、魂をその内に宿したということ。

 「まだ血を流し足りないとおっしゃるか」
 大空に舞い上がる威容。鋭角で構成された体格の大きさに対して小さなカミの頭は、戦いを前にして興奮もなければ、悲しみもない。何の色も浮かばない。それは器に過ぎないのだから。
 そう、カミに問うているわけではない。その内にいて、神に成ったつもりの|その男《パンタレイ》に、問うている。

 「貴方はたとえ百万人が死んだ戦の後でも、次の戦にも、次の次の戦にも、平気な顔で挑むことでしょう」

 人造竜騎は、右手に携えた大剣を真っ直ぐと横に掲げ、城門を指し示す。

 ――その剣の切っ先が百獣族にのみ向けられるという保証も、どこにあるのですか?

 賎木は、余所者だ。余所者で、古典に学び、数多を歩いて、そして人の世の不条理を知る――それは嫌な妄想というには、もっと生々しくて鮮明な未来予想図。
 而して届かぬ問いに、詮無きことと首を振る賤木は僧でもある。あの男だけを笑えるものか。清く正しく理想に、信念に生きたとて報われぬ不条理を往く、ヒトだ。神仏ではないと知るから僧なのだ。地を這う下臈、愚かしくも切実に。
 衆生をあまねく、そんなことは叶わぬと知っても挑む。大きく出るのは此方も同じ。

 「くれないの」

 一歩一歩と、先ほど剣の指し示した報へ、城門へと歩を進めながら、朗々詠い上げる声。怒号、悲鳴、あちらこちらの剣戟の隙間を満たすように柔らかくゆるやかに埋めるそれは|力ある言葉《いのり》。

 《紅の 古き掟を 鳴る神の |響《とよ》むがごとく 聞けば畏し》

 奉じられた歌に|響い《こたえ》て、厳つ霊は晴天の中、振り下ろす。百獣族を縫い付け留める幾条もの光の槍。場の全ての音を飲み込むほどのその雷鳴。

 霹靂は、この防衛戦の、攻守反転を告げる銅鑼となる――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベルト・ラムバルド
アドリブ上等

…馬鹿野郎め!執政官様はすっかり頭がのぼせていやがる!
結局真っ先に被害被るのは兵隊や庶民なのに!真の騎士道たるベルト・ラムバルドが行くぞ!

愛機のキャバリア操縦し空中機動で発進!

百獣族ならば死しても騎士の誇りがあるはずだ!
この私が相手をする!かかってこい!

自己主張と騎士道で迫る敵群を惹きつけ二刀の剣で切り捨てて行く!
敵の光線は盾で面を隠し、カリスマオーラ纏わせ防御
顔隠しても索敵と情報収集で敵の位置はわかるのよ!

数が多い!ならばこちとら騎士達を呼ぶぞ!

UC発動し自機と同型のキャバリアを召喚
集団戦術と大軍指揮で少しでも多く敵を減らして、街を護るぞ!

…こんな時に執政官様はどこにいやがる!?



 ●鼓舞
 きっとこうなっていると思った。
 鍛えてきたのは嘘ではないのだろう、そこに用心棒のような多少の実践の経験者も加わったとしても、だ。この世界の多くの住人たちは、平和にやってきたのだ。過去の所業を今を生きる規範に変えて。気の良くて、正々堂々と、そんな風に。今の、今まで。
 
 石壁を穿ち崩す光線、空いた穴から大振りの爪が差し込まれ、パンでも切る様にして穴を更に広げていく。城壁の崩落が伝える振動と重い音。巻き上がる土煙。届く声は悲鳴か怒号か判別がつかない。
 あぁ、始まりは何もかもが混乱している。

 (……馬鹿野郎め! 執政官様はすっかり頭がのぼせていやがる!)

 誰がまともに集団戦を戦えるというのだ、この世界で。
 分らなかった筈ない、気がつかなかった筈はない。あの男は数多の死が積み重なると知ってなお構わぬと、言い放ったに違いないのだ。己の野心の為に。
 何かの為に血を流すなんて、言葉では美しく響くとも、現実はずっとずっと、重く苦しく、惨めで惨たらしくて――それを。
 土煙が流す涕に張り付いて。しゃくり上げながら足もつれさせながらどうにか逃げ戻る、|この世界の《・・・・・》若い兵士を、ベルト・ラムバルド(自称、光明の暗黒騎士・f36452)は決して笑わない。結局真っ先に被害被るのは、実際には何が起きようとしているのか、知らない、知らされない兵隊や庶民なのだ。

 だから騎士はいる――それを代わりに引き受ける者として。

 「真の騎士道たるベルト・ラムバルドが行くぞ!」

 今はまだ遠い街の入り口に、雷光の降り注ぎ、敵を縫いとめるのをみたならば、ここが機と名乗りあげる。
 応えて中空にその|紫《し》は浮かぶ――キャバリア『パロメデス』だ。
 巨大なその掌が主を掬いあげるなら、硬く閉じられていた住宅の三階、窓のひとつが音を立てて開いた。
 息子が、いるんです。
 壮年の女性が叫び上げて指差す城門。慌てた様子の家人が彼女を抱えるようにして後ろに引くのがよく見えた。その二人に微笑みと頷きを返して、ベルトはパロメデスの中へと消えてゆく。

 『初めての戦場』に向かう人々、或いは逃げ帰る人々の上に、大きな大きな、影が落ちる。
 それが見たこともない型のキャバリア――|違う世界《クロムキャバリア》のものであるからして――であっても、風切るように街の中から城門へ向かう、大きな影の、見上げた先の紫。
 パロメデスは人々の目にどれ程頼もしく映ったことだろう。
 拡声されたベルトの名乗りは、どれ程、胸を震わせ、《希望》を与えただろう。
 助かるかもしれない、どうにかなるかもしれない、これならやれるかもしれない、と。それだけで生き抜ける場面ではないが、希望すらもてない者はだから一層のこと、生き残れない。

 図らず齎した特大の功績。
 弱き人々の盾たらんと名乗りあげ飛ぶベルトの目論見は、だが百獣族の注目をこそ引き受けること。果たして今、狙いの通りバイアクヘーの尖兵の、下を向いていた頭が素早くぐるりと水平へ向きを変える。光を湛えたその口はそのままかぱりとまるで頭部を半分に割るかの如くに開いて――。

 角度の薄くつけた|盾《ガラード》で光線を受け流すなら、素早い機動で更に上部からベルトに迫ろうかと狙っていた一匹を光が焼く。
 そこから暫し続くのは唸りあげる|天使核《エンジン》と羽音のランデヴー。何せどこに移動しても彼らはいる。
 (……数が多い!)
今まさに戦場のカリスマとしてのオーラを纏うベルトにとって一体一体は凌げぬレベルではないが、飛行も照準をつける精度も機械的な正確さでやっかいなら、昆虫的なその雰囲気――心通わぬような、未来の予測など描くことなくひたすらに己の業を繰り返す、その迷いのなさも厄介で。
 「ならばこちとら騎士達を呼ぶぞ!」
 一閃。パロメデスが一匹の腹を横薙いで振り抜いた大剣の軌跡に合わせる様にして、横一列と順に後ろに現れるのは――|大量のパロメデス《・・・・・・・・》だ。

 「このまま……突き進めーッ!」

 数には数を――戦場を指揮するベルトの|力ある言葉《ユーベルコード》。|幻影暗黒聖騎士団《ファントム・ダークパラディーノ》がそして往く。敵と同じくに、迷いはない。その、惜しむ命のない冷徹さで。
 「騎士ベルトが、ファントムたちがここにいる! 君たちも、決して生きるを諦めるなよっ!」

 ――街を護るぞ!!

 地上の者たちが一番欲しかっただろうその言葉。
 彼らもまた地上から送ることのできる支援で、或いは、自らの戦場を、精一杯に戦ってくれている。

 そこまでして、どうにか押し留める現状。
 ベルトの胸中は、どうしたって穏やかではいられなかった。
 鼓舞すべき者。戦局を導くべき者。いや、皆に先立ち、誰より先に自身が血を流すべき男が|戦場《ここ》にいないことに。いつまでも経っても来やしないではないか。

 (……こんな時に執政官様はどこにいやがる!?)

 それでも、今、ベルトは振り返る事を許されていないから。
 命を預かり譲れぬ彼の大剣が、掻き消えた|騎士《ファントム》の先にいた一匹を、切り裂いて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルゲ・ルンドグレン
まったくもう!
街の人に聞いた話から想像した以上にダメっぽい感じじゃない!
色々言いたいことはあるけれど、なんにせよ街を守らないと!
……あの執政官の思惑通りなのは気に入らないけれど!
行くわよ、ウロボロス!

城門から飛び出して、なるべく街の外で迎え撃つわ
あまり街は壊したくないけれどそうも言ってられないか……!
素早さが自慢ならその動きを封じるわ
嵐と暴風よ、彼らを捕らえ、引き裂け!!

動きは早くてもよろめき状態なら対応できなくはないわよ
動きの鈍った敵の動きを見極めながら鉤爪を魔法障壁で受け止めてダメージを抑えつつ、竜巻で巻き込んだ敵を魔力の刃で狙い撃ちよ!



 ●打って、撃って、討って出る先の
 縫い止め、街の入り口で押し留める仲間たちのなんと頼もしいことだろう。自身の事の様に、その能力を、姿を誇らしく思いながら、その更に先へ向けて少女は駆ける。
 私もまた、誇り高く――偉大なる魔法使いを目指すヘルゲ・ルンドグレン(魔導騎士・f44787)だ。

 百獣族が蜂のようにも見受けるなら、ヘルゲはさながら蝶のよう。後翅の尾のようにも見える薄桃のリボンの先は、駆ける彼女のスピードに下を向くことなく棚引き続ける。
 壁内、城門に近づくほどに動けぬ怪我人とすれ違うことが増え、それでも抗いを止めぬ勇敢な人々の間を抜け、ヘルゲは落ちた城壁の瓦礫を軽やかに踏んで飛び越える。
 目にする光景に何も思わないはずはなくて、だから、軽やかに飛ぶ彼女のその表情だけが、硬い。

 (……あの執政官の思惑通りなのは気に入らないけれど!)

 古い仕来りを、悪習と吐き捨てたあの瞬間が何度もフラッシュバックする。
 何か、変わっていくべき面はあるのかもしれない、人の営みも。それでも彼の提唱する方法が、古い仕来りと同じように、自分のような《見棄てられた境遇》を生むというならば、――ああ、今抱えられてすれ違う彼は生き残ったとて、最早自分の足で歩くことは叶わないだろう――それは間違っている。
 「想像した以上にダメっぽい感じじゃない!」
 考えるのはもう止めだ、あんな男のことは。今、頭に置くべきことはたった一つ。
 騎士たちの制止を振り切り、跳びだした城門の外。

 「街を守らないと! 行くわよ、ウロボロス!」

 蘇るものは百獣族だけにあらず。
 その|人造竜騎《キャバリア》もまた朽ちた遺跡に見棄てられた境遇から、見出された境遇へ。或いは蛇がヘルゲを見出したのかもしれない。そう思うほどに馴染む器に身を納めて、一人と一騎が一体となる。
 遂に姿を現した因縁の存在、人造竜騎に、こちらへ向かおうという|百獣族《バイアクヘー》たちの動きが一瞬止まる。春の緑を思わせるような意外と澄んだ瞳の中の黒。その虹彩が、緑を侵食し逆転する様。黒の結膜、黄の体色――。

 「イマサラ!」
 「|蜂蜜酒《ミード》ノ 約定 ヲ 破ッタ!」
 「母様 ヲ 侮辱!」
 許さない、お前たちが悪い、とガチガチと牙を、爪を、翅を鳴らして。一斉に向けられるのが、殺意ではなく怒りであることに気付いて、やりきれない。
 蜂蜜酒の約定というのは、多分、あの時、仲間から聞いた話に纏わる何か。昔には彼らとヒトの間にあった、|絆《ナニカ》なのだろう。
 心と誇りの傷ついて、傷つけられた彼らに、けれど、これ以上街の人を傷つけさせるわけにはいかない。そんな絆のあったというのなら尚のこと、だ。

 「アタシたちの魔法の力……見せてあげる!」

 そうして、八方から一斉に飛び掛る彼らを前に、ウロボロスは動かない。
 オートで魔法障壁を展開し、耐える、ひたすら耐えるひと時。ギィィィィィと金属の擦れる嫌な――障壁を突き破る爪がその装甲に傷を入れても。

 「空に渦巻く蒼穹の……」
 蛇の裡にいるヘルゲの、その詠唱を。
 「……大地の息吹を……」
 その魔力を。
 「……無窮の力を蓄え、螺旋を描く」
 何倍にも何十倍にも響かせる、その一瞬の為に。

 「「嵐と暴風よ、彼らを捕らえ、引き裂け!!」」

 ヘルゲの魔術は、己が尾を噛み閉じる事を止めたウロボロスの口から放たれる。
 増幅された|力ある言葉《サイクロンツイスター》が、果たして術者の望むとおりに、暴風を呼ぶなら、群がって蜂球を為していたバイアクヘーたちが次々と吹き飛ばされ、激しく城壁へと叩きつけられる。
 (あまり街は壊したくないけれど……!)
 そうも言っていられない。壁とヒトならダメージを追うべきは壁なのだ。

 一方のバイアクヘー達。まだ戦えるというように、爪を壁に刺し足でそれを蹴り上げる反動で飛び上がる。再びウロボロスへと向かってくるのだが、螺旋の風に躍らされたその酔いが、身を打ちつけた衝撃が、彼らをよろめかせ、本来の|機動力《スピード》を封じている。
 ウロボロスの張っていた魔法障壁に、今度はヘルゲが|魔力《ココロ》を重ねるなら、振り下ろされる爪はもう、脅威ではない。

 ヘルゲは撃つ、そして討つ。
 人造竜騎を駆るもの――彼女は|この世界《バハムートキャバリア》を生きる人々の守護者なのだから。
 視界にある全て、その風を以って、切り裂いていく。

 ずしり、ズシンと、一騎。また一騎と落ちて地を揺らすバイアクヘーたち。徐々に薄くなってゆく、層の先。
 やがて見えくる、今はまだ少しその遠い巨体は――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クローネ・マックローネ
NGなし、絡みOK、アドリブ歓迎
【SPD判定】
真剣口調でいくよ

…仮に、今回はワタシ達が退けたとしても
今のままでは…彼等はまたやってくるだろうね
「骸の海」から、|過去の亡霊《オブリビオン》は何度でも蘇る
何度でも何度でも…自分達が|納得する《ゆるす》まで

サイキックキャバリア『|黒御姉《クローネ》』に乗るよ
|聖なる決闘《トーナメント》の定めに基づき、名乗りをあげて正々堂々戦うね
実力を見せ付けて、騎士団や傭兵達に指示が出せる様になったら、【団体行動/集団戦術/大軍指揮】で指示するよ

ワタシから執政官や百獣族の長に言葉を届けるつもりはないよ
思う事はあれどそういう台詞は思いつかなかったし…言いたい事がある人を先に進ませるのが、今のワタシの役割なんでね

UCは『ワタシの飛翔形態変形』
回避力5倍の【機動力特化型飛翔】形態に変形して飛翔状態になって戦うね
敵が離れている時は射撃武器による【弾幕】をはり、近づいてきたら近接武器で【切断】するよ
敵の攻撃は【第六感/見切り/身かわし/空中機動】で避けるね



 ●望みの外の邂逅
 街中に百獣族の援軍が届きづらくなったことを伝令が伝えたか、新たに表れたのは、これまでより隊の規模を大きくした、立派な武装の騎士団員たちだ。
 百獣族を前にして、迷いなく振える剣、突き刺せる槍、投げ掛ける魔術――これまで前線を支えていた者たちとは明らかに錬度が違う。事前に聞いた予兆、騎士団はそれなりに戦えていたと、その話の通りに。
 (なんて男……)
 クローネ・マックローネ(|闇《ダークネス》と|神《デウスエクス》を従える者・f05148)の唇が一瞬、|戦慄《わなな》く。
 最初の者たちは端から生贄だったのだ。もし猟兵の干渉がなければ彼らに群がる百獣族を叩く、そういう算段だったのだと気がついて。

 押し返し始めた騎士達の故に止まる足、その隙間を抜け先駆けて城門の外へ至るなら、既に大蛇は戦いを始めている。
 「眠れないわよね」
 どの程度の真実の含まれるかは分らない『譲って去った』の伝承の当事者と、今、事実として身の内の獣性を如何なく全ての命に向けて発揮する執政官と。

 (……仮に、今回はワタシ達が退けたとしても)
 今のままでは、彼等はまたやってくるだろう。
 |宇宙《ソラ》を満たす「骸の海」から、|過去の亡霊《オブリビオン》は蘇るだろう。

 「何度でも何度でも……|自分《アナタ》達が|納得する《ゆるす》まで」

 人を護る。
 百獣族の眠れぬ想いも、受け止める。
 その方法がこの世界にある事を、クローネは知っているから。

 音にならぬ小さな口の動き、呼ぶ|もうひとりの自分《・・・・・・・・》。

 高いヒールの、地を割り刺して踏み止まる――火花が、散る。城壁を穿たんというバイアクヘーの鉤爪を受け流す黒い刀身の上を舐めるように。そのまま吹き飛ばすように剣を横に振りぬくなら、陽光に濡れたようにして、みどりの黒髪が|機体《カラダ》の動きを追い、流れてふわりと広がって――。
 サイキックキャバリア。
 『|黒御姉《クローネ》』こそ、その想い受け止めるに|相応しいワタシ《・・・・・・・》。

 イマサラという声と共に振り下ろされる次の鉤爪と敢えて暫しの鍔迫り合い。|あの男《ダレカ》の代わりに引き受けに来たのではないと、伝える為に。

 「今ここに! ワタシがアナタたちに申し入れるわ! |聖なる決闘《トーナメント》を!」

 突き出す黒剣に、声を乗せる。
 興るどよめきは、前の百獣族と後ろの人々の両方から。
 オレが、俺が、オデが、オレが――わらわらと群がり名誉を立てんと名乗りあげるバイアクヘーたちに。私も、私たちも街を護りますと誓う騎士達に。構わないわとクローネはいう。
 正々堂々と名乗り上げ宣誓を行って、それに組みしたいというもののあるならば。双方の同意を結ぶなら何対何になろうとよいのが|聖なる決闘《トーナメント》の約定だ。
 アナタ達もいいわね、と。
 百獣族と人との重なる「応!」に、機内のクローネは知らず小さく息を吐く。

 結局やることは同じなのかもしれない。それでも。
 過去と今の泥沼の『殺し合い』は、今、確かに心を取り戻し『闘い』へ。

 ヴォン――勢いの齎す低音と共に振り下ろされる爪。避けるではなく、急停止で空振らせるクローネ。飛翔形態を取る『黒姉御』の性能を、操縦者は如何なく引き出していく。己のみのことばかりではない。彼女の優れた六感は離れているバイアクヘーさえ捉えて。それが騎士を狙う横っ面、銃弾は視界を遮る弾幕となって襲う。
 「今!」
 指示に応えて地上の騎士たちがその推進部へと魔法を放ち、堪えきれず堕ちる一体。
 そこを隙と見た別なるバイアクヘーが背後から振り下ろす爪。くるりと回る黒髪はリボンのように黒姉御の周りに螺旋を描く。
 「待ってたわ」
 下から上へ真っ直ぐと切り上げる黒剣が、下りてくるその爪の合間を正確に手を切り裂いた。

 だが、その眼の闘志は失われず。アアアアアと高揚を音に、自らもぎ捨てる使い物にならぬ腕。

 「もういいよ」
 それが地に落ちる前に、受け止め、白き胸に抱く巨大。
 「お前たち、もういいよ」
 ――お馬鹿な子たち。わたくしはお前たちの望みの叶うならと思って。
 「わたくしの名誉に、|自己犠牲《いのち》など」
 千切られた腕を一層掻き抱くから、滴る体液に、胸の白は色を変えて。

 だから、腕のない彼は慌てたように残る鉤爪を向ける先を変えた――ははさま、と。

 ●申し出
 「昔もヒトは、こうしていたね」
 黒姉御を前にして、後ろを振り返りながら、柔らかい声色はいう。あぁ、だけれどこんなに立派では、なかったかもねぇ。作付の終わった緑たちに、朗らかな笑いの滲む。農道には春の草花が色を添えて。
 「花の夫婦の縁を結んで、そうしたらヒトと飲み交わすの。好きだった、この子たち」

 遠くから女がきたよ、と向き直る。獣騎のような出で立ち、ヒトの女――御前様たちのような。

 「ヒトも神を祀ろうなら……だから」

 たくさん、たくさん、話したわ、|二人きりで《・・・・・》。そう言うと、すらりと抜く細身の刀。
 「この子達は遠くに行って、わたくしはここで大地と交わったーー女は、約束の通りに。満足だった」


 けれど、あの男はいけない。


 一転、地を這う底冷えの獣騎の声。
 「……」
 何を返すべきか、何も返さぬべきか。黒姉御の内で、冷たさにクローネが身を硬くする。現れた総大将ーー目の前の獣騎の声色では無い。過ぎるのは自分自身も見た、見抜いた執政官の獣性。
 クローネの、その一瞬の硬直を解いたのは、ヒトの声だ。
 何を、何故だと口々に後ろから声を上げる騎士たち。壁の向こう、護るべき|住民《ヒト》たち。

 だが、騎士たちの声もまた、具現した嘘偽りではなかった昔話への戸惑いと、今を否定されたような憤りで揺れている。

 「……御前様たちに、申し出たい事があるよ」

 獣騎の腰に、小さな葉をつけた弦が垂れ下がる。帯飾りのようなそれもたま、春風に踊る。

 あぁ、この場所の何もかもが揺れて、揺らいでーーだから、足に力を込める。ヒールの捉える、大地。
 安易に答えは出さないクローネは、その揺らぎなさで、続く言葉を静かに待つ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『獣騎トレント『蛇柳』』

POW   :    忍法・樹霊分身
レベル×1体の【人間大の分身】を召喚する。[人間大の分身]は【土】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
SPD   :    忍法・木陣縛り
【刃の葉】【地下に巡らせた根】【硬度を増した蔦】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    忍法・落命霞
【攻撃性フィトンチッド】で命を奪った知的生命体の数に応じて威力が上昇する【毒の霧】で、レベルm半径内の対象を攻撃する。

イラスト:V-7

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は政木・朱鞠です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ●共に
 「わたくしは蛇柳、とれんとのじゃやなぎ」
 この子達はばいあくへー、自己紹介にそう加えた蛇柳の周囲に、生き残った彼らが集まっていく。来たの、来たんだと嬉しそうに弾む声、自分たちの払った犠牲を気にした風もなく。
 「お馬鹿な子たち。だけれど、犠牲を恐れて手を拱いたわたくしが一番の大馬鹿であったね」
 斃れた者たちを見遣る蛇柳の目。その視線の労わる先にバイアクヘーと騎士の区別はない。
 あまりに違う風貌の獣騎の現れに、うろばえた騎士の一人が、お前たちは同じ種なのかと問えば、いいえと返る。それから――。

 「やっぱり、御前様たちは御前様たち同士ですら共に居られなかったのだね」

 ●旧い約束
 皮肉るでも、嘆くでもない、平坦だが柔らかい声色は淡々と願い出る。
 「御前様たちがここを通してくれるならば――」

  あの男を斬らせてくれるなら、
  わたくしたちは静かにこの地を去る事を誓おう。

 パンタレイ様を生贄に自分たちだけ安寧を得るなど、と血気盛んな騎士の大剣を構えるも、蛇柳に見える動きは軽く|頭《かぶり》をふるだけ。
 「わたくしじゃあ、ないの。それを望んだのは」

  女はいった。
  『私は与えねばならない、だからこの地に来たのです』
  ヒトは何も持っていない、ヒトは何も戴いていない。だからヒトには限りがない。
  疲れた、と女はいった。きっと今の代償に、と哂った。
  『私があなた方に向けるものを、いつか、ヒトはヒトにも向けるでしょう』
  ヒトに|頚木《カミ》はないのだから――……。

 「そうなったらわたくしたちの神が殺してやるでしょうとわたくしはいった。慰めてやりたかった。
  自分の名を掲げ、何も持たない者どもの為に戦い、わたくしを斬り、疲れ果てた女を」
 自己犠牲とは命を散らすに限らない。女は人生を捧げたのだと。
 「だから、わたくしはここにいる」
 決闘を交わした。約束は、誓いとは何よりも大事なことだ。神はその為に再びわたくしを地上に遣わしたに違いないと|蛇柳《オブリビオン》はいう。

 場にいる者達は、それになんと返したものだろう。
 騎士たちに過る――領主や執政官と住民の齟齬に揺れる我が街であり、他所の街であり、或いは騎士崩れが野盗と化して人々を襲う話。なにより、勝つためにこれらの犠牲は仕方ない、と言い放った時のパンタレイのあの顔と、斃れたものを見遣った時の蛇柳にあった空気。

 「ヒトには限りがない。だから、ヒトは強い。認めざるを得ない、全ての百獣族を廃した御前様たちのそのチカラ。だが、あの男は行き過ぎた――カミを創り、カミを纏い、今や自身がカミと驕る者。
  神とは己の戴くもの――地上に共には在れないの。アレは喰らうよ、御前様たちまで」

 それとも、どうするね。
 御前様たち自身で、始末をつけるかね――そういって、蛇柳が抜き身の刃を掲げ示す先にそれは立っている。

 城壁の上。六片の翼を雄々と広げ神々しく。
 己の治めるべき世界を睥睨する、|人造竜騎《カ ミ》は、そこに――。

――
 ●MSより。
 執政官がどういう人物であるかは定めてあるといった通りで、
 此度倒すべき相手は、己以外の誰の死をも厭わぬ、頚木なきヒトの成れ果てパンタレイとなります。
 能力は以下です。

 POW:スーパー・ジャスティス
 全身を【黄金のオーラ】で覆い、自身の【意志の力】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
 SPD:城壁戦法
 【盾】を構えている間、同じ戦場内の「自身と同じ方向を向いている味方全員」の防御力を4倍にする。
 WIZ:聖遺物の騎士
 【獣騎『バイアクヘー』】をX体召喚する。[獣騎『バイアクヘー』]は高い戦闘力を持つが「レベル÷X」秒後に消え、再召喚にはX時間必要。

 彼は自身を絶対と認識し、また彼に付き従う有能な騎士は街側には多く居ます。彼の持ち出した街に秘された遺物。そこから溢れる蜂蜜酒はバイアクヘーたちをも酔わせ従えます。
 能力の示す場面として。地上には騎士たち、中空に酔った獣騎たち、その壁を突破してカミを穿つ一撃を、と、このようにお考え戴けたらと思います。

 蛇柳の能力は掲示の通りです。指示があれば指示のものを振るいます。
 全ての命に関心を払う猶予はありません。
 執政官との早期決着を図って頂けますと被害は最小となるかと思いマス。
 以上です、ヨロシクお願い致します。
賤木・下臈
執政官に従う騎士たちを相手にしましょう。執政官の盾により身を固めるか。ならば歌で柳の花を呼び、心を攻めます。加えて蛇柳さんは木陣縛りを騎士たちにお願いします。
「現し身の 八十氏人は 古の 戦の道を 畏みて まつろふものと 言ひ継げる 言に違へず 剣大刀 腰に取り佩き 大鎧 身に取り纏ひ 土踏みて 天駆くること |八百秋《やほとき》の いや久しきに 我をおきて かみはあらじと |狂言《まがこと》や 人の言ひつる |妖言《およづれ》に 惑ふ人々 手向かひて 盾取り持てば 浅緑 染め懸く糸の 青柳の 再び立てり 君がため 今この時ぞ 咲くやこの花」
騎士たちよ、道を開けよ。



●重なる。
 蛇柳の向こうには、緑たちの風にそよぐ平原の広がる。彼女の刀に従って振り返るなら街の奥に、白のちらつきが帯びのように流れる、圧倒的な大河。
 そのどちらの上にも、畑が、船が、人の営みが重なって――人もまた、自然の一部で、|共に生きるもの《・・・・・・・》と知るから。
 「望まれるのであれば、道を開きましょう」
 屈強な騎士の間を割って現れたのは、杖代わりの大振りの枝を――それは皮の剥げ表面の艶めいて長い時を彼と共に歩んだと見えた――携えた細身の男。賤木・下臈(おいしいクッキーです・f45205)だ。
 蛇柳の申し出に『応』と、それは、最初の。
 だれが、なにが、どれが――今までと、今と、語られるこれからと、誰しもの胸中が情報に混乱し穏やかでない中の、賤木の率先躬行。それを今この場で必要とする人々がいた。指針――頚木、なのかもしれない、それでも。騎士たちの一部たちが、自分達もと声を上げる。
 獣騎は、膝下の高さの男にチラリ目を落とし、かわらず淡々とした声色で「では、共に」といった。

 ●
 「な、どういうつもりだ、おまえたち!!」
 こちらの騎士の剣戟を、巨盾を持ったパンダレイ軍の騎士が困惑の声と共に吹き飛ばす。地に転がる兵に追撃まではせずに戸惑った様子だ。
 しかし、剣を受け止める以上の、受けて返して吹き飛ばすその力――尋常ではない。
 (執政官の盾により、身を固めるか)
 賤木のその見立ての通り。
 傍ら蛇柳の、獣騎の巨体が薙いだ刀ですら。流石に幾人かの騎士を盾ごと打ち返すように飛ばしたのだが、盾を割ることが叶わない。それどころか、受け止め巻き込まれて倒れた者どもも含めて、彼らは再び盾を手に立ち上がる様子さえ見せて。

 「神の盾たれ、諸君!! 人造竜輝は此処に在る!」
 自身の身は酔うたバイアクヘーに、騎士より強いそれに囲ませて、中空の安全圏からカミは宣う。

 いや、酔うているのはあの男も――だから、隙がある。
 先行する騎士たち、蛇柳の戦いに、追従する賤木は実は僅かにだけ胸を撫で下ろしている。躊躇う様、パンダレイが付き従うもの達の心までを操ってはいない事を見て取った。そして見える範囲ではまだ、誰も命までは落としていない。
 再び前へ出ようという蛇柳を、すくと横に出した杖で制して。
 自分に降り注ぐ視線を知って顔を上げれば、蛇柳と目があった――と思う。人とは違うその面立ち。読み取れぬ感情。
 「御前様は、あの女に似てる」
 その目が、と蛇柳がいう。けれど、御前様はまだ諦めてはいないのだね、と。
 「ヒトには限りが、ないね」
 「ヒトだけではありますまい。あらゆるものが、きっと――」
 あやしき下臈といえども、花を愛で、山水を尊ぶことを知るものでございます、と|限りない世界《・・・・・・》を讃える賤木。続けて策を述べるなら、蛇柳がひとつ頷いた。

 そうして、賎木は朗々詠いあげる。
 チカラある|詩《ことば》に、蛇柳の腰帯のような垂れにもこもこと長団子のようにして柳の花開いた。そこから飛び出すのは日を受けて煌く小さな粒たちだ。賎木の詩に惹かれた風がそれを運び躍らせ、キラキラと。
 ああ、花は咲き、その育む粒が次の世代を生む種となる。
 |幾度《いくたび》も繰り返されてきた営み――誰の言葉があろうと、なかろうと。愛でるもののいようと、いまいと、木は立ち続ける――伝える為に、繋げる為に。

 舞う煌き、展開される浄土の如き光景。目を奪われたひとりの騎士の手から、盾が落ちる。去来するのは、人のカミの枠に納まらぬ、もっともっと大きなナニカとの、一体感。それでいて、地平の広がっていくような、開放感。
 そこに、刀を納めた蛇柳。育む。代わりその身から刃の葉が飛んでは、花粉と共に風に遊び、根が伸び、蔦が這い、騎士を捉える。
 |人類竜騎《カミ》の加護と、|獣騎《カミ》の加護の、ぶつかって打ち消しあう、その感覚に蛇柳は再び刀を抜いた。

 知って、詠い終わった賎木はいう、放心の者たちに染み入る声。

 「騎士たちよ、道を開けよ」
 静かな、けれど、力強い彼の言葉に、蛇柳は約束、確かに果たされた、と。

 ――いまは、まだ。
 けれど、きっと、この戦いの果てには、賎木の詩はいつまでも、語られ、継がれていくだろう。
 腰の花のひとつを捥いで開いた左に握りこみ、蛇柳は駆ける。

 『現し身の 八十氏人は 古の 戦の道を 畏みて まつろふものと 言ひ継げる 言に違へず 剣大刀 腰に取り佩き 大鎧 身に取り纏ひ 土踏みて 天駆くること 八百秋やほときの いや久しきに 我をおきて かみはあらじと 狂言まがことや 人の言ひつる 妖言およづれに 惑ふ人々 手向かひて 盾取り持てば 浅緑 染め懸く糸の 青柳の 再び立てり 君がため 今この時ぞ 咲くやこの花』

 繋いでみせよう、継いでみせよう。
 その為に、今、必ずやこの一筋を、あの男へ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城田・紗希(サポート)
基本的には考えるより行動するタイプ。
でもウィザードミサイルや斬撃の軌跡ぐらいは考える。…脳筋じゃナイデスヨ?
暗器は隠しすぎたので、UC発動時にどこから何が出てくるか、術者も把握していない。

逆恨みで怒ってる?…気のせいデスヨ。UCの逆恨みじゃアルマイシ。
ちゃんと説明は聞いてマシタヨ?(地の文と目を合わせない)

戦闘は、範囲系ユーベルコードなら集中砲火、単体攻撃なら可能な限りの連続使用。
必要に応じて、カウンターでタイミングをずらしたり、鎧破壊で次の人を有利にしておく。

……防御?なんかこう、勘で!(第六感)
耐性……は、なんか色々!(覚えてない)


シン・クレスケンス(サポート)
◆人物像
落ち着いた雰囲気を持つ穏やかな青年。
窮地でも動じず冷静な状況判断で切り抜ける。

◆戦闘
射撃(愛用は詠唱銃だが、様々な銃器を使い分けている)と魔術による広範囲攻撃が主。
魔力の操作に長け、射撃の腕も確か。
作戦次第では、闇色の武器を召喚(UC【異界の剣の召喚】)して前衛を務めることもある。

◆特技
・情報収集
・機械の扱いにも魔術知識にも精通している

◆UDC『ツキ』
闇色の狼の姿をしており、魂や魔力の匂いを嗅ぎ分けての追跡や索敵が得意。
戦闘は鋭い牙や爪で敵を引き裂き、喰らう。

◆口調
・シン→ステータス参照
(※使役は呼び捨て)
・ツキ→俺/お前、呼び捨て
だぜ、だろ、じゃないか?等男性的な話し方



 ●
 「ううー……」
 城田・紗希(人間の探索者・f01927)は、参っちゃうな、と目に掛かるわけでもないのに何度と髪のサイドに手櫛を入れながら唸る。
 降り立った先で見たもの。向かい合う二つの軍隊――城田の日常を基準にするなら、歴史モノのドラマか映画の一場面のような。とはいえだ、城田とてUDCの尖兵にして猟兵。怪異やオブリビオンとの戦闘を知らぬわけではなし、それ自体に困惑があるわけではなくて、だけれど。
 「なかなか、込み入った場面のようですね」
 涼しい顔で戦場を見遣る傍らの男――シン・クレスケンス(真理を探求する眼・f09866)が言うなら、城田はこくこくこくと凄まじい速度で頭を上下する。問題は自分達はどちら寄りの場所に立っているかということだ。
 「こっちにオブリビオンで、あっちに人造竜騎? 人造竜騎って人間の――」
 味方なんですよね? シンを見上げ、続けた困惑の言葉は城田自身の耳にも届かなかった。地鳴りのように鬨の声が被ったからだ。双方の軍が動き始める。そのどちらもが人間と|獣騎《バイアクヘー》たちの混成部隊であり、それぞれの先導者は、城田の述べた通り。
 「――既に判断は下っているようです」
 場の為に、普段は出さぬ大きめの声で、シンは城田へと声をかける。その目は百獣族と共にゆく猟兵の姿を捉えている。それの向かう先を――人造竜騎を一瞥すると、傍らの黒き狼の背を撫でて。
 「サポートしましょう」
 ここで、漸くシンは一度城田に向き直り、薄い微笑で頷く。再び戦場に向きを戻したシンのその手は、ジャケットの下、ホルスターから愛銃を取り出し、先んじて駆け出す闇の塊を追い始める。
 「あ、待っ――ううー……!!」
 慌てて、背負う刀の紐を身から外そうとする間に開く距離。ワタワタと足踏みしながら――自分だってスマートに、こう、なんか、そういう。やりたかった、ああいうの。
 「こんな変な状況を作ったアイツが悪ーい!」
 多分。うん。誰に着けばいいか、動揺させるような、こんなの。|アイツ《人造竜騎》が悪いに違いない。皆もそんな感じみたいだし?
 遅れついでだ、カッコウつけていこう――抜いたサムライソードの刃先はずぴしっと人造竜騎を指して。
 「成敗ですっ!」

 ●
 この女っ――そんな声と共に振り下ろされるブロードソードの剣先をバック宙で回避する――、だけではない。跳んだ先を狙って横薙ぎに振り抜かれる別なる剣を、跳んだ勢いを利用して両の手で大地に突き刺す鞘で受け止める。
 その様は、|そうなると知っていた《・・・・・・・・・・》ように確信めいた動作。
 「ちょちょちょっ……!!」
 己の鞘を利用し、もう一段のジャンプを決め着地する城田は鞘に結んだ紐を引いてそれを回収し――。
 口ぶりこそは、慌てた風に。そうやって、騎士たちの間を軽やかに舞うから、騎士たちの苛立ちが募っていく。一発でも当てたなら叩きのせそうな――女、だから、余計に躍起になって。
 気を引いて、引いて、引けるだけ、引いて。
 (ま、まだ!?)
 城田の身軽さに騎士たちの苛立ちは最高潮に達する。一人が盾を捨て、両手で剣を構え振りかぶるなら、次々とそれに倣って――集団で踊りかかろうとする。
 「えぇ、こっちは可愛いJD一人ですよ。 あんまりじゃないですか、プライドないのかー」
 「じぇーでぃー? 何か知らんがっ、」
 その全てを言わせない。両者の間に飛び入るモノ――駆け抜けた黒い塊は、身を斜めに体を返し、城田の元へ。そうして、不満げに血のついた爪をその大きな舌で舐めあげる。
 「ケッ、物足りねぇな」
 「ツキさ~ん!」
 心底ホッとした城田の声に、シンの従えるUDCたる闇色の狼『ツキ』が姉ちゃん中々器用じゃねぇか、見惚れちまったわと深い声でくつりと笑う。
 「笑い事じゃないですよ」
 もうちょっと早めに、へたり込む城田に、そうかぁとすっとぼけて。
 「盾捨てるのを見てから、だろ? タイミングはばっちりだったろ」
 ツキが視線の先には、腹から、或いは腕から血を流し倒れこむもの達。常と違うのは、彼らにまだ痛みに呻くだけの余力が、生命が残されていること、――命じられたのは、彼らの無力化であるから。
 「シンに言われた通りにしたまでだぜっ」
 それじゃ、あとたのむぞ、というが早いか駆け出した闇色に、駆けられる言葉など、あっ……、位のもの。
 「もぅ……剣振りかぶられる前に来られたでしょう」
 口ではそういいながら、一先ず策のなった安心感にほんの少し空気を緩めた城田も膝についた土を払い立ち上がる。他の猟兵は、オブリビオンは、明らかに騎士たちを殺しきる事を避けていたから、城田とシンもそれに倣うことにしたのだ。
 あの人たちの命の漏れ尽きてしまう前にと、そして城田はぐったりとした騎士たちの元へ――。

 「上手くいったじゃねーか」
 「ツキ、お疲れ様」
 一方のツキはシンの元へ舞い戻る。
 このひと組、城田より先行した一人と一匹は、弾丸と爪を放って騎士たちの|尋常ならざるその盾《・・・・・・・・・》に気付いた。普通の人間に彼らの攻撃の簡単に弾けるはずのあるだろうか。それで最初はツキが戦場を舞い、シンと城田と話しをあわせた。
 人だけに限らぬが、眼前をチラつくものから興味を外すというのは難しいものだ。そして、戦場の高揚と――恐怖。己の生死すら不安定なこの場所で、僅かでも確実と見えるほうへ手を伸ばすだろうと。
 うら若き女性と闇色の狼の対比を持って生み出した『手の届きそうな確実』の幻想。騎士たちはついに盾を投げ出して縋った、その絶望の福音に。城田が縋る手の軌跡を読みきっているなど露知らず――……。

 「もうひとダンス、頼みたいんだけどね」
 いうシンの銃口が空を向き、破裂音――銃声を響かせる。狙いは確かで、けれど、空を舞う|獣騎《バイアクヘー》の動きがそれに勝る。貫けなかった腹、だが銃弾は掠め、漏れる体液。酔ったバイアクヘーは、陽気と何かを歌いながら、己の体液を掬い舐めあげる。そこに仲間達が酒だ酒だと群がって貪り、落ちる一体、やんやとあがる酔いどれどもの嗤い声。その様に気付いた街側の騎士たち、そして猟兵側の誰もが、――今出来るのは精々一瞬、眉を顰める、それだけだ。
 その中にあって、唯一、くつりと笑う闇の塊。
 「――楽しそうだなァ、混ぜて貰うとするか」
 酒盛りによ、と。跳んだ闇色が駆けくる騎士たちを踏んで更に高く舞う。狼といっても、その実はUDCであり、本物の狼より何倍も体格のよいツキではあるが、獣騎たちの間にあってはドッジボールのようにもみえて。けれどその大きな足の生む脚力で爪を、牙を避けて、跳ね回る。元より酔って狂ったバイアクヘー達はこれまた躍起となって追い回す。騎士たちが城田にそうしたように。
 (同じ策にハマるとは呆れる)
 冷徹さというのとも違う、けれど心の冷たく静まり返る感覚――シンは思う。人と獣騎と共に、と似たような陣容でいながら、敵方は全く『協力』しているとは言いがたい、いまだ奥にいて動かぬ人造竜騎は象徴的だ。
 対して自ら刀を振るい先立つ百獣族と先行の猟兵たち。共に戦い、庇いあい、動く|此方側《・・・》。
 (そういうことなのでしょうね)
 バイアクヘーの視線はいまやツキに集中している。誰に何故、鉾を向けるべきなのかを理解した男が、仲間達に紛れながら銃をホルスターに仕舞うなら、その手に古めかしい一冊が浮かび上がる。捲る前から音にすべき|呪言《ユーベルコード》の頁を明らかとして。

 「神を捕らえし鎖よ、我が名において今一度顕現し彼の者を捕らえよ」

 白銀の枷が、鎖が、伸びる先。
 ――|速度《はね》を捥がれ、地に落ちた|獣騎《むし》たちの。定めはひとつだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ベルト・ラムバルド
アドリブ上等

…大馬鹿野郎が!
執政官様がここまで頭どうかしているとは!
ここに来てオブリビオンでなく執政官退治か!…だがベルト・ラムバルドが行かねばならん!

百獣族の親玉よ!貴様はとりあえず城を築いて地上の騎士達の時間を稼いでくれ!

キャバリア操縦し空中機動で発進!
他の獣騎が追いつけないように執政官を高空にまで惹き付ける
剣を振るい盾を構えて敵からの攻撃を防ぎながら空中を飛び回り逃げよう

…そろそろか!
槍を振るい突進してきた敵めがけ串刺し攻撃!そんだけ速けりゃ止まらんだろうよ!
そしてUC発動し零距離巨大荷電粒子ビームを放ち鎧無視攻撃で撃ち抜いてやる!

止めは…百獣族に任せる!
…これでよかったんだよな…くそ…



 ●目を逸らさぬという強さ
 ――臆するな! 躊躇うな!
   人類の敵たる百獣族、それに組し愚かなる者どもに、正義の鉄槌を!!

 最奥の人造竜騎、拡声された檄。
 我が方に正義ありと謳いあげるその声は淀みなく力強く、自信に満ち溢れている。

 「……大馬鹿野郎が! 執政官様がここまで頭どうかしているとは!」
 こちらに街の者が、自身の部下がいるのが見えないか。何か――対話のようなもの、せめて、動揺のひとつくらい。もし一言、何故と問うてくれたならば。
 淡い期待は砕かれて、ベルト・ラムバルド(自称、光明の暗黒騎士・f36452)は、今一人の騎士の鎧の空きに呪われし細剣を差し込み、引き抜く――その横で。
 吹き飛ばされた者に止めをと楯をずらし剣を振り上げる隙間を逃さず、魔法の矢が打ち込まれる。振り上げたブロードソードもそのまま、感電した硬直のままに後方へ倒れる男。その剣が指し示していた上空では、バイアクヘーたちの爪と爪のぶつかり合っては離れて起こる火花があちらこちらと咲く。酔った短気がビームを放つのを察して体当たりする一体はけれど間に合わず、爪が酔いどれの首を切り落とすまで無軌道に放たれた光線がバイアクヘーの敵味方なく落としていく。

 (無茶苦茶だっ……!)
 感電男。あのような倒れ方、大丈夫な訳がなくて、それでも胸中で無事で居てくれと言わずにおられない。それでいながら、自身もまた、押し来る騎士の楯を、勝るスピードですれ違い、思い切りと脇を蹴り飛ばす現状。
 蹴り飛ばした男の起き上がらぬのをちらりと見て、ベルトは、考えるより先、百獣族の親玉よ! と指示を飛ばす。
 「貴様はとりあえず城を築いて地上の騎士達の時間を稼いでくれ!」
 纏まる思考は言葉の後に。
 兵科も錬度も同じとして、数は相手が勝る。けれど此方に猟兵がいる。先行する仲間達の奮戦もあって、半ばまでと歩を進めたのは、我がほうだ。つまり後方に敵味方問わず傷つき倒れたもの達がいて。

 これ以上侵させない、護りきる。
 ベルト・ラムバルドこそは、騎士である。

 「承った――忍法・樹霊分身」
 平坦な声。止まる足。どこからか吹き来る風が蛇柳の佩緒を揺らすなら散る葉が見る間と、形を変える。人と変わらぬサイズの|樹霊《トレント》たち――皆、体の何処かから木の、草花のが伸びている――へと変じたそれら。一部は|術者《じゃやなぎ》を護るように、残るものは一列となるべく散開する。
 先に基点となるものが土に手を翳すならば、土は仮初の命を得てスライムのように動き始め、土の去ったそこは塹壕となり、土スライムは壁の形となってその後ろへ立ち上がる。
意図を知り騎士たちがトレントのカバーへと回り始め、戦うには傷深いバイアクヘーたちが仲間を、人々を引き摺るように壁の後ろへ。
 ひとまずはこれでいい。そう、ほっとしながらも、ベルトの胸の裡の霧は晴れない。ひとまずは、今この場は。……そうして、この戦いの行く先は――。
 断ち切るように、上空から来るバイアクヘーが爪を振る。大した威力ではない、剣で弾くベルトが、それでもぎりりと奥歯を噛み締めるのは、感傷や逡巡の許されない今だから。ともかく、土壁が並ぶまでの時間を、安全を、確保しなければならない。

 そう思い、左手を持ち上げた瞬間に聞く――、|この世界《バハムートキャバリア》を生きる少女の覚悟を。

 迷いない言葉にはっとして、次の瞬間には不適に笑う。笑えば、溢れる。そう、|強者《カリスマ》のオーラが、周囲のものの足を止める。
 集まる衆目の中――その唇を左手のエンゲージリングに落とす気障も様になって。

 「ならば、尚のこと――ベルト・ラムバルドが行かねばならん!」

 瞬間の閃光。キャバリア『パロメデス』は浮かぶ。誰かの為の神ではない、キャバリアが。ベルト自身であり、|唯《ただ》パロメデスであるキャバリアが、騎士槍で刺し、楯で弾き、道を切り開いてゆく。
 キャバリアの中、示されるターゲットリング。眼前、串刺す酔いどれ蜂たちと、そのリングが重なる一瞬をベルトは待っていた。
 「いつまで神気取りでいやがるっ! 」
 騎士槍のシャフトを両の手で握り引くなら、スピアヘッドに走る光、5つと割れたランスの片がガシャリと後方に下がるなら、その内から覗く砲口――間断なく放たれる零距離巨大荷電粒子ビームは線上の全てを貫いて。

 「往け!!」

 人の営みの、命の上に胡坐かくカミを起す一筋。
 それは、誰かの為ではない、覚悟ある一人の為にベルトが通す光の道だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルゲ・ルンドグレン
そう、それが貴方の選択なのね
ならば、騎士としてこの力を揮いましょう!
我が名はヘルゲ・ルンドグレン!
そして、その愛騎ウロボロス!
暴虐を以て人々を支配しようとする貴方を討つ者よ!

蛇柳の手出しは無用!
これは今を生きるアタシたちの問題なんだから!
アタシたちの全力、見せてあげる!

高速の飛翔で護衛の騎士を飛び越え、一気にパンタレイの頭上へ!
上を取ったら機体の一部を蛇神変形!
機械の蛇に変形させた体でバイアクヘーたちを捕縛してからのー!
そのまま振り回して、他のバイアクヘーとパンタレイに叩きつけてあげるわ!

今を生きる騎士が戦うべきは過去の獣騎だけに非ず!
未来を喰い潰そうとするその非道は見逃せないわ!



 ●バハムートキャバリア
 「そう、それが貴方の選択なのね」
 ヘルゲ・ルンドグレン(魔導騎士・f44787)の声は、戦場を満たす金属音に掻き消される程度には、小さな声で。目は人造竜騎から離さぬまま、己が杖を振るい地に突き立てる、注ぐ魔力に艶かしく濡れた様に光る|体鱗《スネークスケール》、――杖から魔力の束が飛び出して、ヘルゲを斬らんと槍を突き出すその男に巻きついて締め上げていく。

 ――臆するな! 正義の鉄槌を!
  邪魔なる全てを殺さんという悪辣を、美しく覆い隠す言葉たち。
 ――円卓の定める『騎士道』に則って。
  息あるものは後ろへと、必死に叫びあげる誰かの声。

 『御前様たちは御前様たち同士ですら共に居られなかったのだね』と前に立つ獣騎は言った。正しく復讐の遣り方を心得た何も篭らぬ声色で。いっそ嗤ってくれたのなら、贖えずともほんの少し|罰《ゆる》されたように錯覚出来たかもしれないのに。

 「……清く、正しく」
 こんな時に|あの晩の兄《・・・・・》を思い出すのは何故だろう。ヘルゲは自分でも気付かぬまま、口の端をあげる。
 「清く、正しく」
 どうしようもない世界、どうしようもない私達。犯してもいない罪を贖う術なんか、ヘルゲに分かる筈もない。ポロリと、爪に落ちる騎士の首が転がって杖に当たる。そう、|大罪《セカイ》を覆う高潔のベールは、ポロリポロリと剥がれ続けて、ヘルゲは剥れた高潔を抱えてこの|世界《つみ》の底へ墜ちた側なのだから。でも、だから――。
 「清く、正しくっ!」
 だから、キャバリアは、ウロボロスはここにいる、ヘルゲと共に。

 「我が名はヘルゲ・ルンドグレン!
  そして、その愛騎ウロボロス!
  暴虐を以て人々を支配しようとする貴方を討つ者よ!」

 贖えぬ罪を身の内に循環するのではない、新たな罪を塗り重ねて忘れるのでもない。
 ヘルゲがそれを望むなら、|全ての罪を喰らわん《・・・・・・・・・》と、大蛇は今、その大口を開いて。

 狙うは一つ――|バハムートキャバリア《人造竜騎》のその首だ。

 ●
 共に、敵を弾き飛ばすのも、ここまで。
 往けという声に押されて、引かれる光の道のあとを追って最短を、ウロボロスが飛ぶ。その下を併走する緑色。
 (宣告、決闘、大事にするんじゃなかったの?)
 裏切られたような気持ちで騎士ヘルゲが厳しく告げる。
 「蛇柳の手出しは無用!」
 ウロボロスの中、映し出される獣騎へと。返るのは、竜騎と同じ速度で駆けているとは思えない、何も変わらぬ平坦な蛇柳の声。

 「御前様は子供だ」

 それは誰か、獣騎じゃない、蛇柳ではない誰かが、もっともっと前にヘルゲに掛けてあげるべき言葉だった。
 こんな時に、こんな場面で初めて触れるその言葉に、未熟といわれた様な悔しさに似た熱と、凝り固まった何かを解す温かさの同時に突き上げて、衝動のままに。
 「これは今を生きるアタシたちの問題なんだから!」
 叫びあげる、だから子供と笑われたって構うものか。もしかしたら欲しかったかもしれない言葉の代わり、ヘルゲを抱きしめ包みこむ冷たい温度が応えて身を震わす。

 「アタシたちの全力、見せてあげる!」

 『秩序の輝きと混沌の深淵が交錯する時――』
 ヘルゲの詠唱に、その手の内浮かぶ宝石の妖しい光は力を増して。音なく砕けた魔石の光の、力の奔流にヘルゲ自身は両腕で顔をかばう様にして目も開けられぬまま。圧倒的な魔力がウロボロスの全身を貫くならば、その姿を本来の――蛇神へと変えていく。

 「人の姿を捨てるか、何とおぞましき。それが|人造竜騎《キャバリア》だと?
  獣騎と馴れ合うに相応しい、半端者めがっ!」
 押し通る光の道を避け、ついに空舞うパンタレイが、ウロボロスの這う様を嘲笑う。大剣を払い、構えるその剣風にすら耐え切れず、飛ばされる|獣騎《バイアクヘー》など、なぎ倒される騎士たちのことなど、この男には知らぬこと。応えて鎌首を持ち上げるウロボロスが、ヘルゲが吼える。
 「おぞましいのはカミ騙る貴様のその傲慢!
  今を生きる騎士が戦うべきは過去の獣騎だけに非ず!」

 スラスターから大出力を放ち、大剣を突き出し楯を構え、空を滑るように黄金色の線となって向かうバハムートキャバリアと。

 「皆の者、見よ!! 人が願い、人が造りし神の下す、これが審判である!!」
 「未来を喰い潰そうとするその非道は、見逃せないわ!」

 驚き退こうとする黄色い獣騎たちをしなやかに絡めとり、待ち受けるウロボロスと。

 その下、飛ばされた者達をその柔らかい枝で受け止めるばかりの蛇柳に他に何が出来るだろう。

   巻き込め、世界を。

 そう祈りこめた、蛇柳の見るものは。
 過去に知らしめ、今に叩きつける、未来を告げるヘルゲの、ウロボロスの|一撃《スイング》が、偽りの黄金を剥ぎ人造竜騎の装甲を貫いて砕く、その一瞬であった。

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 獣騎が、百獣族が、何機ものキャバリアが争った戦場にしては――。
 喪われたものの前でそんな言葉は慰めにはならないとしても、それでもだ。猟兵たちの配慮もあって生きて残った、生きて残してもらえたもの達が語る戦場の真実は、街の隅々と直ぐに届いた。

 多くの者はこの街の旧い約束の、一部を知っていたと、それも大きかったかもしれない。

 「では、わたくしたちはゆくよ」
 戦死者を、怪我人を、街に運び入れる。バイアクヘーたちがその終了を告げたなら、蛇柳がいう。もう少し手伝ってはくれないか、と誰かが苦笑めいて問えば。

 「此度は誓いがあってのこと」
 ――|百獣族《わたくし》たちの無念の、まだあることを忘れないでおくれ、と、どこまでも平坦な声。

 「そう、だね。次は……子供とは言わせないから」
 「おみそれしました。あれは、わたくしが悪かった」
 初めて、くすりと笑うような声をして、ヘルゲの頭をひと撫ですると、するりと踵を返す――それが蛇柳たちとの別れ。

 背を見送りながら、この街はここから、どうなるものでしょうかと誰ともなし漏れた呟き。
 「見守っていただけませんかの」
 思いがけない返事に驚いて皆が振り向くなら、立っていたのはパンタレイに勇敢に異を唱えたあの時の老人だ。
 それは勿論、復興のもう少し済むまでは。キャバリアもあるのだし、と明るく答えるなら、有り難いお申し出と礼を述べて老人は続ける。
 「それだけ、で、なくじゃな。そうではなくて――、この街を治めて頂くわけにはいかんかな」
 「え、そんな大事なこと、今、お爺ちゃんが決めていいの?」
 貴方が当面代理となるのでは駄目なのですか、と別の誰かが重ねるなら、街の者にはそれを期待されるかもしれんと言いながら、自分はあまりに老いていると老人は首を振る。
 「正式には手続きを踏まねばならん。それでも、今ここを治められるものがいるとしたら」
 貴女様をおいて他にないと思うての、という長老の老いて硬く節だった手が、ヘルゲの柔らかい手をとって。

 「アタシ!?」
 響き渡る素っ頓狂という形容に相応しい大きな声に、衆目が集まる。
 えぇ!? よりにもよって、アタシ? もう一声と付け加えるヘルゲの声が変に裏返っているものだから、なんだか皆して笑顔になって。やがて巻き起こる笑い声は安堵の温かさに満ちていた。

 ちなみにこの話。老人が耄碌したわけではなく、場を和まそうとしたわけでもない、正式の申し入れとして後日ヘルゲに改めて告げられるのだが――さて、受けたかどうか。またいずれどこかで本人の口から語られることだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2025年06月10日


挿絵イラスト