●騒乱の狼煙
「ふむ。十二分とはいかんが……まあ、贅沢は言うまい」
平野に整列した集団オブリビオンを眺めやりつつ、鎧姿の青年がつぶやく。その気配は精悍を通り越して獰猛ですらあり、人の味を覚えた大灰狼のごとくであった。
彼の視野に収まる軍勢は、人型にまで肥大化した花が槍を携えたような歩兵、ざっと一大隊分といったところ。彼自身としては歩兵よりは騎兵を揃えたかったところだし、頭数ももっと欲しいところだった。が、これ以上時間を掛けたとして時間に比例した成果が見込めるかは微妙なところだったし、何よりこれ以上ぬるま湯めいた状況に己が身を置くことが耐えがたかった。
「さて……つまらぬ奴らが蔓延りきる前に、天下を蹂躙するとしようか」
●乱世の魔王
先に勃発した帝都櫻大戦は、サクラミラージュのみならず他世界さえもカタストロフの危機に陥った、猟兵の戦史でもまれに見る大規模なものだった。
その最中、猟兵に助力したキャンプ・フォーミュラのキャンピーくんの世界移動能力によって、各世界の実力者たちが馳せ参じてくれた。おかげで大戦は猟兵らの勝利、カタストロフの回避も成ってめでたしめでたし。
……と、ここまでは良いのだが。
何の気紛れかわからないが、キャンピーくんは実力者たちを元の世界に戻すことなく、どこかへと去ってしまった。実力者たちといえど彼らは自力では世界間を移動できないため、必然、彼らは異世界にて足止めを食らった格好になった。
そんな事情でもって、斎藤・福を筆頭にした首塚の一族も、封神武侠界からサムライエンパイアに帰れないという状態が続いていた。
特に首塚の一族は人数が多いため、安全に世界を渡るのは難しい。だが、色々と情報を集めた結果、これという方法が見付かったそうだ。
その方法とは、楽浪郡に時折出現する渾沌化オブリビオンを捕縛し、そのエネルギーを利用して世界移動を行うというものである。
渾沌化オブリビオンとは、体の一部が異形化することで予測不能な攻撃を繰り出せるようになった、通常のオブリビオンよりも強力な個体を指す。これを、首塚の一族のユーベルコードである鎖で捕縛したいのだという。
しかし、首塚の一族の鎖は出すのに時間が掛かるという欠点があるので、これを補うために猟兵の協力が必要になる。
つまりは、彼らが鎖を打ち出せるようになるまで渾沌化オブリビオンの攻撃を食い止め、ついでに死なない程度にダメージを与えて捕縛のための隙を作ってやらなければならないのである。
「……ってわけで、ここからが本題だ」
大宝寺・朱毘(スウィートロッカー・f02172)が、グリモアベースに集結した猟兵たちを見回しつつ、言った。
「お待ちかねの渾沌化オブリビオンが出現するっていう予知があったから、首塚の一族たちと一緒に現場に向かってくれ。で、そのオブリビオンなんだが、封神武侠界の三国時代の英傑の一人で……姓を董、名を卓という。結構メジャーだろ?」
董卓。かつて大権を手にして朝廷をほしいままにし、『魔王』とも渾名された怪傑である。元は有能な将軍で求心力も持ち合わせており、西涼で大きな影響力を持っていたとされている。
今回出現した董卓は気力、体力ともに充実した青年期の姿であり、指揮官としての能力もさることながら、個人の武勇も侮れぬものとなっている。しかも、渾沌化によって異形を得ている――のだ、が。
「普通は体が変化してるモンだが、どうも今回の董卓は、追加で大きい刀を持ってるっていう状態みたいでね。恐らく、この刀を使ったユーベルコードを操れるようになっている」
このユーベルコードの詳細については、予知の段階ではわからない。ぶっつけ本番で対処するしかない。
それも、手加減できるかわからない相手だというのに、殺してしまってはいけない、という制限まで付いている。
「面倒くさい注文をしてるのは、わかっちゃいるけど……世話になった人らを無事に故郷に帰してやるためだ。何とか、頼む」
言って、朱毘はペコンと頭を下げた。
大神登良
オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。大神登良です。
戦場は、広い荒野のようになっている高原です。視界は拓けており、これという障害物もありません。
なお、斎藤・福をはじめとした首塚の一族も同行していますが、直接的に戦闘の役に立つことはないと思ってください。
第一章は、集団オブリビオンとの戦いです。これというギミックはありません。
第二章は、渾沌化したボスオブリビオンとの戦いです。オープニングでも述べられていますが、殺すのではなく弱らせて捕縛することが目的なので、上手に力加減を図ったプレイングをお願いします。
また、渾沌化によってP、S、Wいずれの場合でも、追加で「リプレイ執筆時まで内容を明かさない、秘密のユーベルコード(既存いずれかをアレンジ)」を使ってきます。対策がなければ必ず詰むというほど強力ではありませんが、注意しておいて損はしないでしょう。
第三章は、近くの街でちょっとしたお祭りがあるので、骨休めを兼ねて参加します。斎藤・福をはじめ、首塚の一族と共に語らうこともできます。
それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
第1章 集団戦
『百花兵・戦』
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POW : 散らせ、殺意集う軍勢の花よ
【共通の敵対者を殺害する為に戦う仲間】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[共通の敵対者を殺害する為に戦う仲間]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD : 散らせ、戦槍振う闘争の花よ
【奇怪な動き】で敵の間合いに踏み込み、【花びら】を放ちながら4回攻撃する。全て命中すると敵は死ぬ。
WIZ : 散らせ、敵軍呪う大輪の花よ
【敵への殺意】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
イラスト:8mix
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
饗庭・樹斉
帰還まであと一歩な予感…!
でも最後にいるのはやっぱ強敵だよねー。
魔王に渾沌化とか鬼に金棒?でもこっちだって後に引くつもりもないし、まずは花っぽい配下から蹴散らして憂いなく帰れるようにしようか!
手裏剣?投げるっぽいアレの投擲に注意しつつ距離取ってUC起動、遠間から観察して呪歌に必要な波長を見出すね。
敵が巨大化したらサイズ差利用して敵の懐に勇気出して飛び込んで同士討ち誘いつつ攻撃を凌ぐよ。
波長見いだせたら呪詛乗せたその波長の歌を歌い回復不能ダメージ与えながら天雲を叩きつけるように斬って一気に畳み掛けてくね。
これだけ広々した場所なら歌もよく響くし、周りの兵も纏めて削っちゃおう!
※アドリブ絡み等お任せ
董・白
【心境】
「魔王…董・卓…ですか…。」
おじい…いえ、相手が何者であっても…私たちは戦うだけです。
【行動】
まずは何であれ、その魔王の場所まで赴かなねばなりません。
おどきなさい!!
霊符と化血神刀を手に戦います。
『破魔』の『道術』を込めた霊符を『投擲』し牽制しつつ、同時に『おびき寄せ』の術で投擲した霊符に引き寄せます。
集団戦はこの囮が役に立ちます。
『霊的防護』『結界術』で防御を強化しつつ、『武器巨大化』の術で巨大化した化血神刀で『切り込み』『なぎ払い』ます。
●地獄に挑む
野っ原にずらりと居並ぶ『百花兵・戦』らは、頭部が花、身体が茎のより合わせのような何かで構成された、植物怪人といった風情の人型オブリビオンである。耳目もなければ、口も見受けられない。それでどうやって意思の疎通を図っているのか不明だが、きちんと隊列を組めているからには、まあ何かしらの手段はあるのだろう。
ついで、そんな兵らに整然たる戦列を組ませているからには、指揮する将の統率力が確かなのだろうということも想像ができる。
「まあ、このタイミングで現れるってなったら、やっぱ強敵だよねー」
饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・f44066)はうっすらと苦笑しつつ言った。
首塚の一族を帰還させられるだけのエネルギーは、あと一歩で集まりきりそうなところまで貯まっている……とは、これと同種の依頼を幾度かこなしな樹斉の所感であった。渾沌化オブリビオンはいずれも難敵ばかりだったが、大詰めとなった今になって出現した存在ともなれば、まあ容易な相手であるはずもない。
「魔王に渾沌化とか、鬼に金棒みたいな感じ?」
「魔王……」
樹斉の独白を耳にした董・白(尸解仙・f33242)は、きゅ、と唇を噛んだ。
その渾名を持つ傑物は、彼女にとっては、とても大きく、複雑な感情を呼び起こすものだった。喜怒哀楽、好悪、愛憎――どれでもあるかもしれないし、どれでもないかもしれない。
だが、何であれ猟兵たる者がこの場でなすべきは、戦うことだ。
「――……」
最前列で槍を構えていた百花兵の一隊が、【散らせ、敵軍呪う大輪の花よ】をもってその身を肥大化させる。頭の位置は一気に十数メートルほどに至り、それらが隙間なく横並びになった様は、緑の肉体をもって形成した城壁のようだった。
ただの一瞬でそんなものが眼前に出現すれば、どれほど肝の据わった戦士であれ、ほんんの短い間であれ、呑まれる。
樹斉と董白の足が、ごくわずか――瞬き一つか半分だけ、鈍る。それだけの間に、百花兵らは槍を突き出してきた。
「――う!?」
「わ……!」
槍は百花兵の身体に比例して巨大になっている。それが城塞級の高さから一斉に超速度で突き出される様は、剣山刀樹が逆落としに雪崩れを成している、とでもたとえたものか。
樹斉と董白は圧されるように後退し、次々に降り注いでくる槍撃を回避していった。
しかし必然、猟兵が退いた分だけ百花兵の壁は迫ってくる。また、迫るついでに隊列を半円状に展開させていった。猟兵たちを包囲するように、素速く、淀みもなく。
半円が真円となって包囲が閉じられれば、揉み潰されるのを待つのみになる。
「っ……だったら!」
状況を察した董白は、左手を一振りする。途端、手品よろしくその五指の間に札が一枚ずつ出現した。
間髪入れずしてそれを空へ向かって放り投げると、四枚がそれぞれ別々の方向へ飛び散っていく。蝶のようにヒラヒラと揺らめきつつ、燐光を放ちながら。
それだけ、といえばそれだけだった。強いていえば、見る者の注意を惹きつけやすくなる幻術が施されてはいるが、オブリビオンが相手ではどれほど長くても数秒程度で見破られるだろう。
しかし、数で劣る戦いの中で少しの間でも敵の注意を逸らせるのは、大きな意義がある。
「よしっ!」
地面を蹴った樹斉が、山吹色の疾風と化して巨槍の雪崩へ割り込む。董白によって先刻に比してわずかばかりにまばらになった、槍の連撃。その刹那と刹那の間に滑り込むようにして、百花兵の足下にまで肉迫する。
この間合いならば、無理に樹斉を攻撃しようとすれば同士討ちが発生する。畢竟、百花兵らは槍を引っ込めて樹斉から距離を取ろうとするが、樹斉はへばりつくように追随した。
そのかたわら、声を張り上げる。
「白さん、呪力は扱えますか!?」
「え、呪力……? まあ、道術、仙術の類が専門なので、似たようなものなら!」
戸惑いつつも、董白は答えた。
「ならば……ええと、金剋木! 金気の力による攻撃は、こいつらに抜群の効果があります!」
それは【不治の調律(チューニング)】によって得られた呪力の情報だった。樹斉自身は呪歌の使い手だが、董白が扱うならば歌に限らずだろう。
「なるほど!」
董白が右手をブンと振るうと、刹那にやはり手品のように剣が出現していた。
刀身が蛇行した形状の、両手用の大剣――いや、人の扱うようなサイズなどではなく、キリンの首ほどもあろうかという巨大さだ。
脇構えめいた姿勢で引き絞るように身を捻ったのが一瞬。その次の一瞬に、董白は巨大な龍形剣を横薙ぎにした。
「おどきなさい!」
ヴン! という風斬り音を伴う剣閃。
振るったのは小柄な董白だが、万仙陣の影響下で超常の威力を実現させたそれは、百花兵の城塞にもスケール負けしていない。百花兵らは剣を防がんとするように槍を縦に構えたが、猛威の一閃は杉の巨木のごときそれらを爪楊枝同然に斬っ払った。
「――今だ!」
さらに同時、樹斉の口から呪歌――歌というか、声を超越した音波が発された。樹斉自身の言葉の通り、その歌には金気の呪力が込められている。遮るものなき野原にその歌はよく響き、巨躯を隙なく揃えた百花兵は冗談のように薙ぎ倒されていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
仁堂・義右衛門
ふぅ、やれやれ、面倒な事に巻き込まれたモノじゃの。いやはや全く・・・面白いじゃねえか!強者との死合いこそ武士の誉れ、血沸き肉踊ると言うものぞ!後の事は斬り捨ててから考える、往くぞァ!
先ずは小手調べ!此の程度で倒れてくれるなよ!壱式・雷土(イカヅチ)、シィィィッ!(距離を詰めてからの居合いの一閃、その反動で旋回しての斬り下ろし)
(奇怪な動きを見せたら、ユーベルコード刃結界を発動)
此れは貰ってやる訳にゃいかねぇな!
我が閃塵の中で細切れろ!肆式・閃塵旋風(ツムジカゼ)!そゥりゃァ!(居合いを起点に旋風の如く回転し無数に斬りつける)
確かに俺は齢七十になる爺ィだがなぁ、爺が弱いと思ったら大間違いよ!若者にゃ若者の、爺にゃ爺の戦い方っちゅうモンがあるんだ!
(敵の周りを回るように移動して、槍の突きや薙ぎに対応する、隙あらば懐に飛び込む)
武士道とは死ぬ事と見つけたり、とは良く言ったモノよの。じゃが、儂の死に場所は此処ではなかった様じゃの。ま、人生は長い。そう急ぐ旅でもあるまいて、ほっほっほっ。
ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
さて、さて、斎藤さん達が帰れるまであともうひと頑張りって所かね。
そうでなくてもオブリビオンが何かやらかそうとしてるんなら止めないとだし、
どちらもきっちり片を付けるとしようか。
相手は集まると強化される花の歩兵か。
ならまあ、隊列を崩してやればいいかな。
斎藤さん達に派手にやるからもう少し離れてないと危ないよって注意したら、
【轟嵐雷駆】で相手を吹き飛ばしながら敵陣を突っ切るのを何度も繰り返して、
まともに集まって動けないように蹴散らしていこうか。
十分集まる前なら槍で突かれても衝撃波で弾けるかな。
さあ、面倒事はさっさと終わらせるとしようか。
●雷を裂くような
「もうそろそろ、帰れそう?」
「そうですね。必要エネルギーが賄えるまであと一歩、というところでしょうか」
ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)の言葉に、斎藤・福は微笑を浮かべながら言った。
「これも、猟兵の皆様のご助力があってのことです。ありがとうございます」
「お互い様さ。元々、助けてもらったのはこっちだしねぇ。それに……」
言いつつ、ペトは巨骨でできた戦斧を肩に担ぐようにして構えた。
「オブリビオンが何かやらかしそうなら止めないとだからね。さ、これからちょっと派手にやるから、もうちょっと離れていて」
「はーい」
福は首塚の一族を指揮すると、距離を取るように後退していった。
距離を取ったところで……という感も、ないではない。遮蔽物も何もない野っ原で、しかも敵は超常存在オブリビオンともなれば、少々の距離などあってもないようなものである。
とはいえ、だからこそ他にそうしようもないともいえる。
ならば、さっさと片付けるに如かず。
「さて――」
ペトが視線を百花兵らの方に向けてみると、それらの狙いはすぐに知れる。密に、密に集結して、槍をハリネズミよろしく構えようとしている。
「――やらせないよ」
ペトは斧を握る手は人に似せたまま、足は豹のごとく、胴は獅子のごとくとなる。
しなやかで力強く、そして迅い。【轟嵐雷駆(テンペスト・チャージ)】がペトの体そのものを雷撃の砲弾に変えて、百花兵の隊列へと飛翔する。
百花兵は数を集めて一丸となれば強化されるという性質を持つらしい――となれば、十全に集まられるより前に突き崩す。強引なようで、合理的ではあった。
百花兵の槍衾と、雷光を纏った骨斧が激突する。互いに物理的質量を遥かに上回る衝撃を生み出すが、圧で勝ったのはペトの方だった。整然とした列を組み上げていた百花兵らを押し退け、陣に穴をこしらえる。
と。
戦列の乱れたところに畳み掛けるように、仁堂・義右衛門(人間の剣豪・f44479)が駆け込んできた。
「シィィィッ!」
細く鋭い呼気と同時に、腰だめにしていた打刀を抜き打ちにする。
ペトに押し負けていたところに超速度の斬撃を浴びせられ、百花兵は胴を両断された。
「――何じゃい、小手調べのつもりだったんだがな」
義右衛門はしわまみれの顔に獰猛な笑みを浮かべ、言い放つ。見目からしても明らかに老境にあると知れる七十男にしては、剣にも言葉にも脂っ気が多すぎる。
「――……」
仲間の死に動揺するでも、何を言い返すでもなし、百花兵らは素速く後退していく――この辺の動作の滑らかさは、流石の統率の取れっぷりといえようか。
そして、一拍だけ間を置いて。
百花兵の体が解けるように崩れ、人の形をやめた。緑の茎だか蔓だかが野放図に伸び、槍がそれに絡まっているような、奇妙な姿となる。
そんな魔物めいた姿となった百花兵らは、頭の花を振り乱すようにしながら、腕ともつかぬ蔓を蠢かせつつ槍を振り回してきた。
喰らったら死ぬ。
そう義右衛門は直感し、肌を粟立たせた。恐怖ゆえ――では、ない。強者との死合いは武士の誉れ。血が沸き肉が踊って、武者震いが起きたのだ。
でたらめな角度から迫り来る十数の槍の穂先目がけて刀を振るう。刺突と斬閃がかち合って、無数の火花が散った。
いくつもの剣戟は、時間にすればほんの一瞬だったろう。その一瞬が過ぎた時、槍の圧に押された刀が義右衛門の手から弾き飛ばされていた。
目鼻の先に、三途の川。
しかし同時に、義右衛門の左手は刀の仕込まれた白樺の杖の柄を握りしめていた。
「――俺と貴様の、生死の境目よ」
【刃結界「生死一線」(ジンケッカイ「セイシイッセン」】によって進みの遅くなった時間の中、逆手で抜刀した義右衛門が旋風のように転げ回る。乱雑な格子状に繰り広げられた斬閃の網は、同じく乱雑に視界を埋めていた百花兵の蔓の体を刻んでいった。
「細切れろ! そゥりゃァ!」
斃れた端から新手が入れ替わり立ち替わり槍を突き入れてくるものの、義右衛門は無間に刃を振るいつつ駆けていった。槍が貫くのは、置き去りにされた義右衛門の影ばかりである。
そして、数秒の後。
敵陣深くに突き進んでいたペトが、進んだのと同じ勢いと威力と速度をもって戻ってきた。義右衛門につきっきりだった百花兵は背後からの雷撃の砲弾に反応さえできず、あっという間に吹っ飛ばされた。
「――!?」
この段になって、数を減らされようがどうしようが整然としていた百花兵らの戦列が、ようやく乱れた。槍を構えんとするがその切っ先はうろうろと定まらず、高速で暴れ回るペトと義右衛門、優先すべきを判じかねているのがありありとわかる。
こうなれば、元より個の戦闘力で勝っている猟兵にとっては、集団オブリビオンとて脅威たり得ない。
さらに数秒が経ったころには。
「――ふむ」
「ぬ……今ので最後かの?」
ペトと義右衛門は周囲を見回したが、軍を成していた百花兵らは今や一兵も残っていなかった。
「ふむ……武士道とは死ぬ事と見つけたりとは言うが、儂が死ぬのは今ではなかったようじゃな」
「そりゃそうでしょ」
肩をすくめつつ、ペトは言った。
「本当に面倒なのはこれからなんだ。こんなところで脱落されちゃ、こっちだって困るよ」
「ほっほっほ、確かにのう。まあ、人生は長い。いずれ良き死に場所にも巡り会えよう……焦る旅でもあるまい、か」
義右衛門は目を細めた。
真の面倒事、あるいは強者との死戦という本命は、なるほど、まだこれからである。
百花兵をいくら蹴散らしたとて、それを率いていた将たる渾沌化オブリビオンは、十全にて控えているのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『🌗魔王『董・卓』』
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POW : 方天画戟「蚩尤」
単純で重い【方天画戟 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 暗黒闘気「共工」
【バトルオーラ 】で触れた敵に、【暴力と野心が具現化した暗黒闘気】による内部破壊ダメージを与える。
WIZ : 董卓軍「刑天」
レベル×1体の【量産型「呂布」 】を召喚する。[量産型「呂布」 ]は【最強】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
イラスト:クニ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「董・白」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●噂に聞こえた凄い奴
UDCアースの創作物等において、董卓といえば肥満体で描かれる場合が多い。これは、史書においてそう述べられているからで、彼が横死した際に遺体のへそに灯心を差し込んだところ脂の多さゆえに数日間燃え続けた、といった逸話もある。
しかし、それは恐らく朝廷で権力を握った後のことであろう。元を正せば彼は優れた武略を誇った勇将であり、特に馬術、弓術の腕前は抜きん出ていたという。そもそも、呂布や関羽の愛馬として有名な赤兎馬を、最初に乗りこなしていたのは董卓である。
封神武侠界においての彼が史上でどうなのかは、不明である。が、少なくとも今まさに猟兵らの眼前にある董卓は、武勇抜群であった軍人時代の姿であるに違いない。面構えは艶やかで覇気に満ち、重たげな鎧に身を包みつつ所作は軽やかで、そもそも体型からして引き締まっているのが知れる。
「やはり、貴様ら第六猟兵を相手取るには不足だったか。いかんな、どうにも俺という男は、血の気が多すぎて慎重さに欠ける……」
言葉の割には、覇気に満ちた面に後悔の痕跡らしきものはなく、爛々と物騒に輝く双眸を猟兵たちに向けている。
「だがしかし、今の俺の手にはこれがある。蔡邕が言うには、かつて覇王と謳われた項羽の佩刀だったという」
右手に方天画戟、左手にその項羽の刀とやらを握りしめて軽やかに振り回しつつ、魔王『董・卓』は獰猛げに言う。
「さて、天は俺を覇王にしたがっているのか? あるいは四面楚歌の後に滅ぶことを望んでいるのか? まずは、この一戦にて問うとしよう」
~~~~~
項羽刀「窮奇」(【宝貝「雷公天絶陣」】アレンジ)
自身が装備する【雲のように起伏のある刀身を持つ刀】から【斬撃波と暴風】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【風圧ひるみ】の状態異常を与える。
饗庭・樹斉
うーんやっぱり強そう!
項羽の刀?も強そうな…でも皆を無事に帰す為に負けちゃいられないよね!
なんか縁ありそうな人もいたし、上手く弱らせつつ後に繋いでいかないとね!
とにかくあの暗黒闘気には触れないように…って刀の風圧凄い!
天雲地面に突き立てて吹き飛ばされないようにしつつ呪殺弾を放ち董・卓を牽制、UC起動して呪言で思考力を奪ってみるね。
どんなに力がすごくてもそれを運用する頭が鈍ってちゃ十分に発揮できないし、その状態なら不運への対処もワンテンポ遅れるはず。
その隙に敵の暴風をほんの一部操り引き抜いた天雲の刀身にサーフボードのように乗って空へ、真上から重量乗せた叩きつけ食らわせるよ!
※アドリブ絡み等お任せ
董・白
【心境】
「…お爺様...いえ、もう何も言いません。」
全ては過ぎ去った過去の話。
あれはただ混沌化オブビリオンの人違い...です。
【戦闘】
『道術』で強化した『結解術』を展開し、守りを固めます。
呂布...あのケダモノ...量産されるとは忌々しい。
『武器に呪詛を纏う』打神鞭の風『属性攻撃』で呂布をまとめて『吹き飛ばし』ます
項羽の力予想以上に侮れませんね。
なら…その力...見事封じて見せます。
封魂符に術をかけ『リミッター解除』し霊力を『限界突破』させます。
宝貝縛竜索を『投擲』し項羽刀ごと『捕縛』し『禁呪』の『封印術』で見事その力を封印してみせます。
皆さん、今のうちです!
【その他】
アドリブ、連携OKです。
ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
今後を天に問うなら占いでもやっててほしいんだけどねえ。
まあこっちもアンタの力を利用しようとしてるわけだし、
暴力で決めるのが好みだって言うなら相手になろうか、
さて、斬撃波と風圧、それに方天戟の一撃か。
出来るだけ獣のように身を屈めて風圧の影響を最小限に抑えつつ、
斬撃波は斧で切り払って防ぎながら走って接近。
相手が方天戟を使おうとしたら噴気孔を使って一気に長物じゃ届きにくい懐まで飛び込んで、
【牙砕甲破】で思いっきりぶん殴るよ。
アンタは項羽じゃあないし覇王にだってさせない。
悪いけど、ここで何も成さずにとっ捕まってもらうよ。
バルタン・ノーヴェ
全員リクエストによる、各シナリオへの救援プレイングです。
長らく滞っていたり人手が足りてない時など、ご自由にご利用ください。
台詞のアレンジ、行動のアドリブ、他猟兵との連携歓迎。自作PBWも採用歓迎です。
ユーベルコードも指定外の、公開中から適当なものを使用してもらって構いません。
HAHAHA!
グリモア猟兵殿の要請に応じて参上デース!
お困りのようデスネー? ドントウォーリー! ワタシが手伝いマスヨー!
アタック、ディフェンス、他の方への支援! おまかせくだサーイ!
白兵戦、射撃戦、集団戦もボス戦もオーライ!
冒険の踏破や日常への奉仕活動も得意であります!
臨機応変に対処可能デース、よろしくお願いしマース!
●――がやらねば、誰がやる?
この式典が何を意味するのかはわからなかった。ただ、大人たち――何となく『偉い人たち』だということは知っていた――に連れられ、促されるままに金色の小さな塊を受け取った。
その後、周囲の人々は口々に「おめでとう」だとか「立派でしたよ」などと声を掛けてきたが、まるで意味はわからなかった。
後に、この金の塊は祖父からの贈り物であって、自分が『偉い人』の仲間入りをしたことを知った。
知りはしたが、しかし、それでもやはり意味までは理解できなかった。
「おや? 敵はまだ軍勢を隠し持っていたようデスネー。てっきり、全て蹴散らせたモノだと思ってましたが」
目を細めつつ、バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)が言う。
なるほど彼女の言う通り、魔王『董・卓』の周囲には、いつの間にやら武装した人影が三、四十……いや、もっと多いくらいか、出現している。
ただ、それは先刻まで猟兵たちが戦っていた集団オブリビオンとは姿形が違うし、纏った気配も違う。
「――あれは……」
軍勢を一見した董・白(尸解仙・f33242)は、表情を思い切り歪めた。
「呂布! あのケダモノが、数を……!?」
「え、呂布って、あの呂布?」
董白の言葉に、饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・f44066)は目を丸くした。
言われてみれば、明光鎧を着込んだ大柄な体躯、二本の長い触覚めいた飾りのある冠、そして大きな方天画戟と、音に聞こえた呂布の特徴そのままの姿をしている。それが、複製を繰り返したかのように同じ顔、同じ体格の者どもで、軍勢を作っているのだ。
「うわあ、話に聞いたことはあるけど、強そうだね……って、呂布ってあんなにいっぱいいて良いもんなの? 反則じゃない?」
「同感デスナ。しかしそれはまあ、そういうユーベルコードと割り切るしかありまセーン」
バルタンはジャラリと極太の鉄鎖をたぐった。鎖の先端は、一方はバルタンの腕に装着された厳つい手甲に、もう一方は巨大な鉄球につながっている。
「狙うは敵将の首一つデース! 突破しマショー!」
「首獲ったらダメなんだけど!?」
樹斉が思わずツッコミを入れるが、とはいえ、突破しなければならないのは実際確かだった。
ぶんぶんと鉄球を振り回すバルタンを先駆けに、猟兵らは【董卓軍「刑天」】の軍勢へと突撃していった。
「力こそパワー!」
先手はバルタン。一直線に駆けつつ、ただただシンプルに力の限りに鉄球を振り下ろす。
対して量産型呂布は密集隊形を作り、それぞれの方天画戟を重ね合わせて刺々しい巨華めいたオブジェをこしらえた。
どぎゃぎゃ! と、けたたましい金属音を伴って鉄球とオブジェが激突する。破滅的な衝撃波が空間をひび割れさせ、鋼鉄を斬り刻むべく荒れ狂う――が、生まれたのは単純な拮抗だった。鉄球が方天画戟の刃を潰すこともなく、方天画戟の刃が鉄球を割ることもなく。
と、動きの止まったバルタンの両脇から挟撃するように、方天画戟を振りかぶった呂布らが跳びかかってくる。
「おっ、と――!?」
「やらせないよ!」
右の呂布が振り下ろした一撃は、バルタンが抜き打ちにしたファルシオンをかち合わせて止める。
左の呂布の一撃は、すんでのところで割り込んだ樹斉が、大剣天雲を盾にして受け止めた。
そして攻防の拮抗が生み出した一瞬の隙間を縫うように、跳躍した董白がバルタンの頭上へと身を乗り出す。
「忌々しい獣の群れが……散りなさい!」
董白が身を捻りつつ打神鞭を振るうと、軌跡に沿って烈風が発生した。バルタンとの衝突で均衡を保っていた呂布の集団は、その暴力的な風圧を堪えることはできなかった。仰け反るような姿勢で倒れる――と思いきや、地面に転げることさえもできずに宙を舞って吹っ飛ばされる。
「ほう」
呂布らの様を一瞥した董卓は、しかし、余裕げな態度を崩さない。
「そこそこ出来るらしい。しかし、そんな微風ではなぁ!」
昂揚の混ざり込んだ声を張り上げつつ、項羽刀を横薙ぎにする。
当然ながら猟兵の誰一人、その刀身の間合いからは遠く離れている。が、項羽刀に斬られた空がどす黒く逆巻く暴風に塗り潰され、董白が生み出したそれよりも数倍する風圧が猟兵らを襲う。
「うわぁ!?」
バルタンと樹斉は剣を地面に突き立て、荒れ狂う暴風に耐える。董白は吹っ飛ばされる寸前だったが、二人に抱きかかえられるようにして難を逃れた。
しかし、風圧に耐えるのが精一杯で、身動きが取れない。
必然、暴風と一緒に飛来する斬撃波に対して、防ぐもかわすもできそうにない。
「まずい」
三者の誰の胸中にも、同じ言葉が浮かぶ。
しかし刹那、三者を追い越すように躍り出る大きなイワトカゲめいた影があった。
ばきん!
と、ガラスの割れるような音を鳴らしつつ、斬撃波が砕け散る。
「――大丈夫かい?」
斬撃波を砕いたのは、ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)が逆袈裟に繰り出した巨大な骨斧である。ペトは地を這うような姿勢に加えて三人を風防に使うことで、今の今まで暴風の影響を最小限に留めていたのだ。
「た、助かりました」
バルタンの鎖にしがみついて風に耐えつつ、董白は礼を言った。
「しかし、項羽の刀の力は、予想以上です……」
「……そうだねぇ」
ペトも困ったようにぼやいた。足を爬虫類めいた形に変えて地面をつかんでいる彼女だが、それでも風に逆らって前進するだけの余裕はない。猟兵がお互いに風防になりつつジワジワ進むという手もないではないが、のろまな的と化した猟兵など、さほど時間も掛けずして斬撃波に斬り刻まれることだろう。
ついでに、視線を巡らせると、量産型呂布の軍勢が暴風域を避けつつ遠巻きに包囲しようと陣を展開しているのも、知れる。
キチキチと詰め将棋を指されているような感覚。ここで打開できなければ、本当に詰むかもしれない。
「ふーむ。少々破れかぶれデスガ、ここは強引に牽制を入れるしかないデショー」
身動き一つでも辛い風圧の中、バルタンはエプロンドレススカートの足元から、内蔵式大型ガトリングガンを覗かせた。
「あのブンブン振り回してる刀をちょっとでも止めて、こっちが突っ込む隙を作るのデース!」
「その作戦、賛成。ていうか、他に思い付くようなこともないし!」
樹斉も言う。
「オッケー! では五つ数えて一斉射撃デース! ファイブ、フォー、我慢できねぇゼロデース!」
スポーツカーのエンジン音めいた甲高い断続音と同時、ガトリングガンが火を噴いた。
秒間五、六十発ほども吐き出された弾丸は、董卓の暴風に煽られつつも吹き散らされることなく、董卓の元へと届いていく。
「狙いはわかるが、ぬるいわ!」
刀を返し、払う。蜘蛛の巣状に生まれた斬撃波が盾のように展開し、濃密な弾幕のことごとくを弾き落とした。
董卓がそれに手を煩わされた間、猟兵の目論見通りに暴風は止まる。しかし同時、董卓は呂布の軍勢を操っていた。半包囲陣形を一気に狭め、方天画撃を嵐のように振り回す。
が、途端。
「――燈燭和光、貂蝉交領!」
「……!?」
樹斉が叫んだのは【縁崩し(ディスコネクト)】呪言である。
同時、群れをもって一つの動物であるかのように整然としていた呂布の集団が、がくん! とつんのめるようにして足を鈍らせた。
「――何、だ!?」
董卓の表情が歪む間に、バルタンの振るった鉄球と樹斉の振るった大剣とが、直近に迫っていた呂布を殴り倒した。
とはいえ、そういつまでも呂布らの足並みが乱れっぱなしではあるまい。
それでも風の止まったこの瞬間ならば。
「その力、封じます!」
董白は限界以上に霊力を込めた【宝貝「縛竜索」】を投げた。
速い。三方に伸びた分銅付きの鉄縄が旋回しつつ、ライフル弾にも負けぬ速さで飛ぶ。
「そんな物で――!」
董卓が項羽刀を一閃させ、鉄縄を断つ――断った、と見えたが、しかし叶わなかった。金属同士のこすれ合う耳障りな異音と火花が弾けた刹那、旋回の勢いそのまま鉄縄は刃に絡みつき、董卓の手に巻きつき、腕を締め上げる。
単に腕が利かなくなったのでなく『振るえなくなった』という感触が、董卓にはあった。
さらによろめく彼の眼前に、縛竜索が投げられるのとほぼ同時に地を蹴っていたペトの姿が迫っている。前傾姿勢になりつつ、戦斧を引き絞るように振りかぶっているペトが。
「ッぐ、おぉ――!」
董卓は右手の方天画戟を逆手に持ち直し、串刺しにするように足下に叩きつけた。
ごしゃん! と、方天画戟の刃に絡め取られた斧が地面に打ちつけられ、八方へ亀裂を刻む。
斧だけだ。ペトはいない。
彼女は斧を手放して急加速し、既に董卓の真横にある。
「アンタは項羽じゃあないし覇王でもない」
ペトの鋼の拳が神速でショートアッパーの軌跡を描き、董卓の腹に突き刺さった。
諸将が連合して己に叛逆したという報は、彼を絶望させるに充分だった。
その諸将の大半は、他でもない彼自身が率先して要職へ就けた者だからだ。腐敗政治を声高に批判したために身分を穢されていたところ、彼が大いに便宜を図ったのである。それが、長らく続いた世の擾乱を鎮める策になると信じて。
彼は、天下を鎮めることができるのは彼以外にいないと考えていた。
しかし、裏切られた。清談を口にし、己の高潔ぶりを誇っていた連中は、彼の恩を仇で返したのだ。
あるいは、連中をして裏切らざるを得ないほど、彼は何かを間違えたのだろうか。
結局、彼にはわからなかった。何も。
「天は、俺が要らぬというのか」
首塚の一族が放った鎖が己の胴を捕らえたのを見やり、董卓はつぶやいた。もはや抵抗するだけの力が己に残っていないのは悟っている。
「天意を問いたいなら、占いでもやってりゃ良かったんだよ」
ペトは肩をすくめつつ、ふと、すぐ側に立つ董白に目をやった。
「……こう、何だ。何か言わなくていいのかい?」
「……何もありません」
董白は首を横に振った。
董白の祖父は死んだ。それが史実だ。眼前にいる男はオブリビオンであり、歪なる過去の亡霊であって、もはや祖父ではない。それが事実だ。
「そうかい。それなら、いいよ」
踵を返した猟兵たちの背後で、幾重にも重なったユーベルコードの鎖が、董卓を押し包んで地へと縛りつけた。
大成功
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第3章 日常
『子どもの日』
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POW : 早食い競争に参加しよう
SPD : 借りもの競争に参加しよう
WIZ : 仮装行列に参加しよう
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●屋根より高く
古今を問わず、子は宝である。
ゆえに、子供の成長を祈念する行事や祝祭日は、昔からどこにでも存在してきたといっていい。例えばサムライエンパイアでは、桃の節句に女の子の、端午の節句に男の子の成長を祝うという習慣があった。
また、未来を生きる子供が健康に、幸福に育っていけるということは、未来が明るいということへの期待、祈念であるともいえる。
そんなこんなで、今日という日。
健康たるには運動あるべしということで、子供らを集めて簡素な運動会めいた催しがあるのだという。
見物するも良し、参加するも良し。戦いの日々の合間の貴重な休息の機会を、思い思いに過ごすとしよう。
饗庭・樹斉
強かったー!
でもこれでサムライエンパイアに鎖は繋がりそう…かな?
半年以上大変だったし、この世界最後の休息ぐらいはゆっくりしてほしいなー。
催しには基本的に見物で参加。
皆元気だねー。…流石に僕が行くには歳がね!
借り物競争とかで大人が必要な競技とかあるんだったらどんとこいだけど。
福様もどこかで見物してるのかな?
子供が楽しんでる姿とかにこにこ見てそうなイメージかも。
もしできそうなら声かけて首塚の一族の人達とも一緒に見物したいな。
一仕事終わったんだからゆっくり休んでいいと思うんです…!
応援したり、持ち込んできたお弁当を頂いたり。
当たり前の日常過ごす感じで楽しめればな、と。
※アドリブ絡み等お任せ
●鼓腹撃壌
「元気だねー」
茶屋の縁台に腰掛けた饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・f44066)は、団子の串をつまみ上げつつ、つぶやいた。
彼の目の前で繰り広げられているのは、神社の参道を利用した、子供たちによる徒競走である。借り物競走の要素もあるようで、コースの中ほどに設置された箱から封書を取り出しては、ワッと散っていく。周囲には保護者たちや、見物の大人たち、彼らをターゲットにした屋台など、結構な人だかりができている。
若き青年たる樹斉とはいえ、流石に子供らに交じって駆けっこをするような年齢ではない。借り物の内容次第では協力するにやぶさかではないが、そうでもないならば見物に徹するつもりでいた。
「そういえば、福様もどこかで見物してるのかな?」
ふと、斎藤・福のことを思い出す。かの母性に満ちた首塚の一族の長であれば、こういった催しを心穏やかに見守っているようなイメージがある。
首塚の一族は、今回でサムライエンパイアへの帰還への目処が立ったはずだ。
この半年少々の間、彼らは情報収集から渾沌化オブリビオンとの対決から何から、とにかく苦労の多い生活を送ってきたのを、樹斉は把握している。大仕事を終えた今、帰還までの間をゆっくり骨休めに充てていてほしいと思う。
「どこかというか、ここにおりますよ」
「わぁ!?」
不意に背後から声を掛けられ、樹斉は危うく団子を落としそうになった。
振り返れば、微笑を浮かべる福の姿がある。周囲をぱっと見回した感じ、護衛の姿もない。やんごとない立場の方であるはずなのだが、気楽にぶらついていて良いのだろうか。
樹斉はそんなことも思わないではなかったが、福は平然としていたし、周囲の人々も福に対して特段に注目をしているという様子もない。ならば、まあ、問題ないのだろう。
「良いものですね。元気な子らを見ていると、平和を実感できます」
「ええ、同感です」
しみじみとした福の言葉に、樹斉は首肯した。荒れた世にあっては人々の顔は必然的に曇り、弱い立場である子供らにはしわ寄せが行きやすい。今、彼らの目の前にあるような光景は、天下の太平ぶりを推し量る目安になっているといえる。
強敵との戦いを終えたばかりの彼らは、今しばらくの間、この太平楽に浸る権利はあるだろう。
大成功
🔵🔵🔵
ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
やれやれ、とりあえず今回も何とかなったかな。
そろそろ斎藤さんたちも帰れるといいんだけど。
まあ、とりあえず今はのんびりしようか。
さて、子供の運動会ねえ。
子供や一般人相手に真面目にやって勝っても仕方ないし、
かといって手加減して互角にやるのも窮屈だし。
それに一仕事終わったばっかりだしね。
ごろごろしながらのんびり見物してようか。
おー、子供たちがんばってるねえ。
まったく、覇を競うなんて子供の運動会くらいでちょうどいいよ。
●万里同風
竜門に挑む鯉よろしく、少年たちが跳躍する。
その先にあるのは、細い糸で吊されたチマキである。何度かぴょんぴょんと跳ねた後、彼らはチマキを口にくわえてもぎ取り、再び競走へと復帰する。
「おー、がんばってるねぇ」
意識の三割ほど眠っているような半開きの目で眺めやりつつ、ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)はつぶやいた。
パン食い競争ならぬ、チマキ食い競走。以前はチマキの早食いなども行われていたらしいが、子供が喉に詰まらせたら危ないということでコンプラ的に禁止となり、今のような形になったのだとか。なるほど、チマキとてゴールした後にゆっくり食べた方が美味だろうから、これが良い形といえるだろう。
人一倍の食い気を有するペトとしては、一瞬ながら、このレースに参加したいと思わないではなかった。しかし、まさか子供らに交じって超常存在たる自分が本気で勝ちに行くのも大人げない話だし、かといって空気を読んで適度に手を抜きつつというのもかったるかろうから、気は進まない。
何より、ただ単にチマキが食べたいなら、別にわざわざ競走に参加せずとも、屋台で手に入れればいい。
幸いにして、賑わいを標的にした屋台は数も多い。チマキだけでなく、端午の節句の定番である柏餅やタケノコご飯のお結び、さらに出世魚ということでブリの握りばかりを出す寿司屋台、その他にもたこ焼きや人形焼きなどの祭り屋台の定番も見受けられる。ただ単純に食べ歩きするだけでも十二分に満足できるだろう。
ペトがもっちもっちと柏餅を頬張っていると、レースのゴール地点付近で歓声が上がった。
見れば、決着が付いたらしいのが知れる。一位だったと思しき満面の笑みを少年がいるかたわらで、負けたのだろう、火が点いたように泣きわめく少年もいる。生き死にを賭けた戦いでもあるまいに、それがこの世の全てであったかのように悔しがれるのは、今という一瞬に全てを注いで生きる幼さゆえかもしれない。
思わず、口元から微笑がこぼれ落ちる。
「そう……こういうのくらいで、ちょうどいいんだよ」
ついさっきに戦った男の顔を思い出しつつ、ペトは独りごちた。
「覇を競う、なんていうのはさ」
いかにも五月のそれらしい薫る風が、少しばかりの寂寥を含んで、ペトの顔をなでて通り過ぎていった。
大成功
🔵🔵🔵
董・白
【心境】
「平和...ですねぇ...。」
先の戦いを超えて、この平和は…少し...目の毒ですね
【行動】
緑茶を入れて、運動会を見守りながら少しセンチになっちゃいましたね。
『魔王』董・卓
いえ、あれはただのオブビリオン...そう割り切っていたつもりでしたが...まだまだ私も修行が足りませんね。
ですが、これで一つ心残りは払拭できました。
うん。まだ私は明日を歩いていけます。
さて、お姉ちゃんも一つ参加させてください。
仮装行列に参加します..えーっと厳選なくじの結果…お姫様?
うん『化術』でお姫様に変身(手品とごまかしながら)
「うん、お姉ちゃんは昔お姫様だったんだよ。」
さよなら...過去(おじいちゃん)
●往古来今
茶屋の縁台に座った董・白(尸解仙・f33242)は、緑茶をすすりながら目を閉じていた。
子供らと、それを見守る大人たちで賑わっているエリアからは、少しだけ離れている。家族たちが平和を満喫している様は、今の董白にとってはいささか目の毒だった。
「……私もまだまだ、修行が足りませんね」
今さっきの戦いを思い浮かべつつ、董白は淡く嘆息した。
割り切ったつもりだった。
そもそも董卓の姿は、董白の記憶にあるそれとはかなり違った。見た感じはせいぜい三十歳弱で、当然ながら董白が生まれるよりずっと前の時期の姿だった。仮に、彼の記憶が肉体年齢相応だったとしたら、董卓は戦っている相手が己の孫娘だと認識できてなかったことになる。
とはいえ、オブリビオンの性質は歪になるものなので、肉体と意識がリンクしているとは限らず、まあ結局はよくわからない。よくわからないまま戦い、よくわからないまま決着を迎えた。
それはそれで構わない、と董白は思っている。その点を明らかにしたところで、董白の行動が変わるわけではないからだ。あれはオブリビオン。董白にとって、戦い、討つべき存在。それが確かである限りは。
「――うん」
閉じていた目を開き、董白は立ち上がった。
そろそろ仮装行列が始まる。参加するつもりでくじを引いた彼女は、『姫』というお題を引き当てていた。よりにもよって、と思わないではなかったが、まあ文句を言うようなことでもない。
董白が着込んだのは、かつて彼女自身が着ていたような漢服だった。胸下にたくさんの宝玉で飾られた帯を締め、その下にたっぷりとした薄紅色の裳を広げ、上は広い袖に緻密な牡丹の刺繍が施された羽織を重ねている。さらに、頭も蝶をモチーフにした金色のかんざしを用いて飾れるだけ飾っている。
その姿でもって行列に加わろうと歩けば、必然、周囲の人々の目は董白に惹きつけられる。また、遠慮のない子供らは目を向けるだけでなくして、キラキラした顔で駆け寄ってもくる。
「おねーちゃん、すごい!」
「きれい! ホンモノのおひめさまみたい!」
口々に褒めそやす彼らに、董白は優しく笑みを向けた。
「うん。実は昔、本物のお姫様だったんだよ」
「そうなんだー!」
あっさりと信じた子供らは、さらに目をキラキラ輝かせた。
董白。かつて時の権力者の孫娘として生まれ、祖父に溺愛されて育つ。数奇なる運命の果て、愛する家族も己の命さえも失ったが、さらなる紆余曲折は彼女を猟兵として戦う僵尸にした。
過去と決別した彼女は、明日を歩く。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2025年05月14日
宿敵
『🌗魔王『董・卓』』
を撃破!
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