みんなのバレンタイン~Valentín del Sol
今日もその名の通り、此処は暖かな光の当たる場所。
窓の外から見える海も、晴れた冬の陽が降り注いでキラキラと輝いている。
そんな、アックス&ウィザーズ世界の辺境地域に佇む、海の見える邸宅『太陽の家』で。
親しいいつもの皆の賑やかな声とともに、ふわりと漂ってくるのは、甘やかなチョコレートの香り。
そう、何せ季節はバレンタイン――バレンタインといえば、やはりチョコレート!
というわけで、みんなでわいわい楽しく挑戦するのはそう、チョコレート作り。
このヴィクトリア・アイニッヒ(|陽光《たいよう》の信徒・f00408)が暮らす、海の見える小さな一軒家は、アックス&ウィザーズの世界にあるのだけれど。
この世界に、チョコレート作りを行なえるあれそれが揃っているのか、と疑問に思うかもしれない。
でも、そこは無問題。此処に集う皆は猟兵であることもあって。
ヴィクトリアをはじめとした、他の世界を行き来できるグリモアを持つ者だっているのだから。
剣と魔法の世界・アックス&ウィザーズにありながらも、グリモアを用いた異世界の生活物資搬入をやっていて。
他世界から色々と持ち込んでいるため、生活レベルに関しては、現代地球世界と同様のレベルであるというし。
だから、材料や器具だって、ばっちりと抜かりなく揃っているのです!
というわけで、チョコレート作りにチャレンジするキッチンだって、現代地球となんら変わりない設備が整っていて。
どんなチョコレートにするか、どういうチョコレート作りの時間になるのか……皆も、どきどきわくわくなのである。
そんな『太陽の家』は、先述したように、ヴィクトリアが暮らす一軒家であるのだけれど。
アックス&ウィザーズ世界のイメージのような、いわゆるファンタジー感溢れる建物ではなく、内装は現代家屋風で。
この家に集う娘たちは、縁あってこの家に身を寄せる猟兵達であるのだという。
そして集う少女たちの母親代わりなのが、ヴィクトリアである。
そんなヴィクトリアは、常に清楚で穏やかな善性の人であって。
同時に、その性質を決して曲げない信念の人でもあるという芯の強さを秘めていて、皆からも信頼を寄せられていて。
母親代わりを自認するだけあって、家事は手慣れたもの。
だから料理に関しては一家言有りで、当然、お菓子作りもお手の物である。
ということで今回は、旅団の娘達のチョコレート作りのサポート役になるだろう。
そしてそんなヴィクトリアと共に、皆の世話役になるだろうのが、長女ポジションの秋月・信子(|魔弾の射手《フリーシューター》・f00732)である。
信子は、かつては女子高に通う文学少女であったため、現代世界風のチョコレート作りに関しては、普通に知識もあるし、作業だってこなせるから。
今回は家主であるヴィクトリアと一緒に手作りチョコ教室を開いて。
太陽の家に身を寄せる子達に、チョコレートの作り方を教える講師として、立ち回ることになりそうだ。
そんなヴィクトリアと信子、ふたりの先生が受け持つだろう生徒は、大体講師ひとりにつきふたりの面倒を見ることになる……のだけれど。
和気あいあいとした、穏やかで楽し気ないつもの雰囲気のキッチンで、思い思いにチョコを作りはじめた娘たちの中でも。
ヴィクトリアが一番気にかけているのは、リリエッタ・スノウ(ちっちゃい暗殺者・f40953)。
いや、チョコレート作りをはじめるとなれば、まずはエプロンを着用することからなのだけれど。
最初はうっかり、間違った知識で。
「んっ、よく分らないけどリリも着てるよ」
「! リリエッタさん、エプロンを着ける時は服の上からで大丈夫ですよ」
服を脱いでエプロンを着用しようとしたから、危うく裸エプロンになるところだったリリエッタ。
でもちゃんとヴィクトリアから、エプロンは服の上から着るものだと教えて貰ったから。
今度は間違えずに、無事に服の上からエプロンを着用しました……!
そんな一番の末っ子ポジションであるリリエッタが危なっかしいから、ヴィクトリアは基本的にはそちらに付きっきりになりそう。
そしてそんなふたりのやり取りを眺めているのは、ザイーシャ・ヤコヴレフ(|Кролик-убийца《殺人バニーのアリス》・f21663)。
ザイーシャは、元ロシア圏内の寒村出身という出自のアリス適合者であるが、諸々の経緯があり、アリスラビリンスに足を踏み入れたという過去があって。
ゲーム感覚で殺しちゃう殺人鬼となってアリスラビリンスで『遊んで』いたのだけれど……ふとした事で出会ったヴィクトリアに保護されたのだ。
そして、記憶に残っている本当のお母さんのように感じた彼女に懐いて、「ヴィーシャ」という彼女独特の愛称で呼んでいるくらい慕っているのである。
それに以前は、太陽の家における末っ子ポジションは、ザイーシャであったのだけれど。
でもそれから月日も流れた現在では、末っ子ポジションはリリエッタへと変わって。
今のように、これまで構ってくれてた|お母さん《ヴィーシャ》もリリエッタに付きっきりになったわけで。
ひとつひとつ丁寧に色々と教えるヴィクトリアと、どこか感情が希薄である印象は受けるがそれを聞いては頑張るリリエッタをみれば、ザイーシャはこう思うのだ。
(「ちょっと嫉妬しちゃうけど、私もお姉さんになったのね」)
だってそんなザイーシャは、興味本位で銀誓館学園中等部に通いはじめて。
そして今年の春からは、高等部へと進学するのだ。
だから、昔のザイーシャなら『遊んじゃう』ところなのだけれど。
太陽の家での生活と、生まれて初めて通った学校の学園生活で、社会性と人間性の成長はしている……そう、彼女自身が言うように、お姉さんになっているから。
「だったら、お姉さんらしくひとりでチョコを作らないとね?」
今日のチョコレート作りに対する意気込みだって、ばっちりお姉さん。
いえ、その手に握るちょっぴり怪しい小瓶の正体は……今はまだ、秘密なのです。
そして、皆もばっちりエプロンをきちんと、勿論服の上からそれぞれ着用すれば。
いざ、チョコレート作りの始まり! なのですけれど。
きりりと男の子かと間違えられるほど頼もしい女の子、メディア・フィール(人間の|姫《おうじ》武闘勇者・f37585)も、しゃきんと調理器具を手にしているものの。
実は彼女は、不器用ではないのだけれど、王子様然とした姫勇者であったからか、料理経験はあまりない。
それに現代風調理器具の扱い方も、しっかりとは把握していないから。
ここは、太陽の家では年長者の長女ポジションであり、家主のヴィクトリア不在の際には家事全般をこなしたり、妹のような存在の娘達の面倒を見る、しっかり者のお姉さん……信子先生の出番!
猟兵として覚醒する前の女子校寮生活の経験が活きているその手際で、メディアに教えながら作業を一緒にしていくことに。
そして今回は、そんなリリエッタやメディアでも比較的簡単にできそうなチョコレートを作ることにして。
溶かしたチョコレートを可愛いハートの型に入れて固める、スタンダードなチョコ作りに挑戦することにしたのだけれど。
「ボクはチョコレートを溶かして、型に流す役をしようかな?」
「じゃあ、まずはチョコを溶かして……いや、待って、直接火にかけるんじゃなくて、湯煎して溶かすのよ」
「湯煎?」
料理経験がないメディアが、チョコレートを溶かすべく直火にかけようとするのに、待ったをかけて。
「チョコを刻んだボールをお湯につけながら溶かすのよ」
「お湯につけながら……こうかな?」
「そうそう、いいんじゃない?」
慣れない調理に悪戦苦闘しつつも、信子先生の生徒は褒めて伸ばす方針の丁寧な指導の元で。
チョコレート作り初挑戦ながらも色々と教わりつつ、真剣に着々と作業を進めていくメディア。
無事にチョコレートを湯煎で溶かし終われば、次は絞り袋に入れて型に流し込む作業へ。
「なかなか難しいね……!」
「利き手だけに力を入れて絞ってみたらいいわよー。両手でギュッと絞っちゃうと、手の熱でうまくいかないのよ」
「利き手だけに力を……」
「ふふ、上手に絞れてるわよ? あともうちょっとで完成ね」
そんな、着々とチョコレートを型に流していくメディアと信子と、役割分担して。
リリエッタとヴィクトリアが今度は、チョコレートを湯煎して溶かすことに挑戦!
とはいえ先程の裸エプロン未遂もあったように……リリエッタは、デウスエクスに対ケルベロス用の暗殺兵器として育てられたということもあって。
実は、超世間知らずの常識知らずに育てられた幼女なのである……!
しかも今回のチョコレート作りに関しても、あまりよくはわかっていなくて。
けれどよく分からないなりに、任務と理解して頑張っているのです。
というわけで、やはり予想通り、ヴィクトリアがしっかりとつきっきりで、リリエッタの作業を手伝ってあげることにして。
彼女の背中からそっとへらを持つ小さな手を一緒に取っては、くるくるとチョコレートを溶かすサポートをしてあげて。
今回のチョコレート作りを任務だと理解している彼女の奮闘を、優しく的確に導いてあげる。
そして、真剣ながらも和気あいあい、和やかで楽しく作業を進めていって。
湯煎して溶かしたチョコレートを、全てハートの型へと絞り出して。
トッピングの生クリームを泡立てたり、皆でお喋りしたりしながら、チョコレートが固まるのを待つ。
けれどそんな中……お姉さんらしく、一見きちんと作業をしているように見えるザイーシャなのだけれど。
信子がメディアに、ヴィクトリアがリリエッタに、チョコレート作りをそれぞれ教えている間に。
そっと手にするのは、例の何やら紫色の液体が入った、ハートの蓋がされている小瓶。
お姉さんらしくしているし、信子やヴィクトリアの手を借りなくても、チョコレートを作ったこともあるから。
チョコレートをくるりと溶かしていきながら、そっと混ぜるのは――そう、『おまじない』の材料。
そんな訳で、今年もお気に入りのボーイフレンドへと贈る手作りチョコレートに『おまじない』をかける……いや、自分に愛の呪いをかけるザイーシャなのであった。
それから、冷やしていたチョコレートが上手に固まれば、皆で好きなようにわいわいとトッピング。
泡立てた生クリームを乗せてみたり、カラフルなスプレーをかけてみたり、星のようなアラザンをふりかけてみたりだとか。
それにやっぱり、チョコレートペンで皆で描いてみるのは、太陽の模様。
そしてたまにちょっぴりだけ、味見という名のつまみ食いとかしちゃうのもまた、チョコレート作りの醍醐味……?
そんなこんなで、ちょっぴり最初は間違った知識があったり、慣れていなくて悪戦苦闘したりもしたけれど。
ふたりの先生の的確で丁寧なサポートや、先制からの教えを生徒たちが熱心にきちんと聞いて真剣に頑張った甲斐があったり。
ちょっぴり怪しい挙動をしていた娘もいたのだけれど……それはそれとして。
「チョコレート、上手にできましたね」
ヴィクトリアがそう微笑んで言うように――『太陽の家』のチョコレート作りチャレンジ、大成功です!
それから贈り物にする分は、ラッピングするためにとっておきながらも。
作ったチョコレートの試食タイムも、また美味しく楽しくて。
そして最後の作業はそう――キッチンのお片付けまで、勿論しっかりと皆で分担してやり遂げます。
成功
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