居候、甚だ疑問を呈するも
●居候
基本的に、蛇は卵生である。
数千種類に近しい種の蛇の中には、卵胎生を行うものだっている。
まあ、どちらにしたって、蛇は変温動物であるのだから、気温が重要な要因となっていることは変わりないだろう。
普通の蛇だったのなら。
そう注釈がつくのは、織部・藍紫(シアン・f45212)が普通の蛇ではないからだ。
「どこに! エメラルドグリーンの宝石っぽいものから生まれる蛇がおんねんえ!!」
そんなふうにツッコミを入れたが、居候して世話になっている家の者たちは、まあ生まれたし……程度の認識でしかなかった。
「いや、わしがおかしいんか? 気にしているわしのほうが変なんか?」
そうかも。
ふしぎなことは起こるのである。
何が起きても変じゃないのが世界なのである。
「これでもか!?」
背中を見せる。
そこには三日月型の模様が入っている。
人の姿でも、蛇の姿でも、その模様は背中に背負われていて、消えることはない。
たしかに珍しいのかもしれない。
だが、そういう模様もあるのかもしれないね、と頷いているのだ。
困惑ばかりが込み上げてくる。
仮に模様が入るのだとしても、鱗やらでドット模様かモザイク模様みたいにガビガビになる筈の曲線すら、綺麗に弧を描いているのだ。
どう考えてもおかしいはずだ。
おかしい。
うん、おかしい。
おかしい、よな? と藍紫は確認するが、居候している家人たちは、まあ、服着なよ、と言う程度であった。
むしろ、上裸でわめきたてている方が余程おかしい、というのだ。
普通にスルーされた気分である。
いや、実際スルーしている。
「だ、誰かツッコミをしてくれる人はおらへんのかい! こ、このままじゃ、わし一人が空回りしてスベり散らしているみたいやんけ!」
実際、その通りである。
だが、家人たちはそこまで抜けているわけではないようだった。
オレオレ詐欺などといったものに引っかかった試しがない。強引なセールスや勧誘だってのらりくらりと躱しているのだ。
「なんで? なんなん、この家……」
がっくりと肩を落とす。
どんなに己の出生を語って聞かせたところで、この家では己はふしぎな生物、蛇でしかない。
それも、『ちょっと』珍しい程度の蛇。
そういう認識なのだ。
落とした肩が地につくほどにげんなりした気分になり、藍紫は深い深いため息を付いたが、家人たちはまるで気にも留めていなかった――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴