ヒーローズアースにも、愛の花咲くバレンタインが訪れる。ヒーローへの想いをおおっぴらに公言する者も居れば、ヴィランへの密かな想いを抱く者も居るだろう。
そんなシーズンであろうとも、パパラッチの仕事は変わらない。今日も今日とて有名ヒーロー達のスクープを狙って、男は街をうろついている。
空腹を覚えた男は、何気なく入ったスーパーで軽食を選んでいた。濃い味付けの安いホットドッグを手に取っていたところ、偶然にもよく目立つ顔を見かけた。
「あれは……ネライダ・サマーズか?」
恵まれた体躯をした男のかんばせは、ブルーとターコイズのオッドアイ。間違いない、と様子を見れば紙袋を抱えて、買い物帰りだろうとわかった。
――けれど、何か違和が在る。
それも当然のことだった、幾度も彼のスクープを撮るために追いかけていたパパラッチだからこそわかる、その表情。
あの浮いた話がひとつもないネライダが、情熱的な眼差しを一点へと向けているのだから。
「な……相手は誰だ!?」
その見目に関しては女性が放っておかないハンサムガイだが、なにせ問題はその性格。幼いこどものような趣味をしている彼を、大半のファンはかわいらしい弟分のように扱っている。
軽食選びなど忘れて物陰から観察を始めるも、店内は老若男女で賑わっていて誰を見つめているのか判別がつかない。
「くそ、一体誰を」
これを激写すれば、確実に贔屓にしてもらっている雑誌が多額の値段で買い取ってくれるだろう。諦めることなく観察を続けていれば、やがてネライダに声をかける者が居る。
「すまん、待たせた」
「いや大丈夫だ」
知り合いと思われる老人に、ネライダは軽く片手を挙げる。それから、
「……なぁ爺さん。あれ買ってかないか」
ネライダの指さした先、そこには生ハムの原木が――ん? 生ハム?
「塩分過多になるから駄目だ」
「ちゃんとすこしずつ食べるから」
真顔でぴしゃりと言い放った老人へと、ネライダが真剣な表情で駄々をこねている。え? 生ハム?
「真面目な顔で言っても駄目ぇ~。ほら帰るぞ!」
「そんな……生ハムの原木……」
未練がましく原木を見つめながら、ネライダはしょんぼりと肩を落として去っていく。
彼を見送るパパラッチも、なんともいえない気持ちのままで、再び軽食選びに戻るのだった。
成功
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