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はねうさバレンタイン!〜チョコっとティーパーティー

#シルバーレイン #ノベル #猟兵達のバレンタイン2025

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#猟兵達のバレンタイン2025


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柿木坂・みる



殺風景・静穂



天見・日花





「こんにちわーっと……おおぅ、すっごいね」
 教師業にも束の間の息抜きをと。いつものように銀誓館学園のご近所にあるカフェ『はねうさぎ!』を訪れた天見・日花(虹の縁環・f44122)は、素直な感想とともに店内を見渡した。
 パステルピンクで彩られた明るい店内を飾るのは、リボンやフラッグガーランド。
 カウンター隅っこにどーんと陣取る巨大うさぬいの表情もこころなしか楽しげだ。
「やっほー、日花ちゃん、うふふ、いい感じでしょ?」
 にこにこと手を振るのは、教師仲間でもある姉御こと羽柴・輪音(夕映比翼・f35372)。
 丸型やらハート型のバルーンやらを手にしているあたり、どうやら飾り付けの手伝い中らしい。
「やー、すっごいね。なになに、今日誰かの誕生日とか……」
 あったっけ、などと言葉の終わらないうちに、
「日花ねー、いらっしゃーい! そしてハッピーバレンタイン!」
 カウンター席から飛び出した、柿木坂・みる(希望の羽・f44110)の満面なる笑みと言葉。そこでようやく、今日が何の日だったかを思い出す。
「そうだった、さっき生徒とチョコ交換した時は覚えてたのにこっち来る間にすっかり抜け落ちてたわ」
「えー、こんなきゃっきゃうふふの一大イベントを忘れちゃうなんて!」
「大丈夫、今思い出したし。貢物はちゃんとこの通りあるからセーフってことで」
 持ってきた紙袋をほれほれと掲げて見せる。ちなみに中身は巷で流行中らしいドバイチョコレートに、ちょっとしたいい感じのあれやこれや。
「わーい、やったね! よろしい、献上品に免じて赦して遣わすって、大王も言ってる!」
「なぬ、大王とな」
 ちょいちょいと、(みるの操作で)手を持ち上げる巨大うさぬいを見つめる。
 これは色々物語をお持ちに違いないと挿絵画家の私が言ってはいるし、実際何やら話したそうにうずうずしている|みるちゃん《後輩》も気になるとの先輩な私の意見ももっともだ。けれど、ここは時を待てという、教師としての私の発言に従うことにする――コンマ数秒満たない脳内会議の後、その御前にお高いヤツをお供えしておいた。
 ドバイチョコは皆で食べるとして、あとは持ち寄りコーナーに良さ気なヤツを置いていくことにしよう……などと思いながら巨大うさぬいの前で恭しく日花が手を合わせたところで。

 ――カラン。

 来客を告げる音と同時に扉が開く。
 現したのは漆黒の髪に白磁の肌の、羞花閉月なる娘――殺風景・静穂(計算ずくの混沌・f27447)の姿。
「まあ、可愛らしい」
 飾り付けられた店内を一瞥し瞬き一つ。そうしてその花顔にふわりとした微笑を浮かべる静穂へ、キラキラとした笑顔でみるは両手を広げて。
「静穂さんもいらっしゃいー!」
「こんにちは、みるさん。……もしかして、遅れてしまったかしら?」
「ううんー。むしろジャストタイミング! ね、輪音さん!」
「ええ。日花ちゃんと静穂さん来たら始めましょうかって話していたところなのよ」
「ちなみに私も来たばかりで今そこの大王の御前に貢物献上したとこだったから、静穂さんとそんなに大差ないっていうか」
「そうなのね、それならよかったわ。……ああ、貢物といえば、私もお土産持参したの。みるさんにお渡ししていいかしら?」
 優雅な微笑とともに小首を傾げつつ、差し入れの袋をみるへと手渡す静穂。
「お預かりしまーす! ……おおぅ、なんかすごく高級そう……!」
「ベルギーからお取り寄せしたの。皆が喜んでくれるかな、と思って」
 静穂自身はスイーツにはあまり明るくないけれど。パーティーであれば、それなりに値の張るものなら間違いないだろうと。静穂当人からすれば至って軽いノリで手配したものであったが。
「というかこのロゴ……!」
「メーカー? さあ、どこだったかしら」
 確か店舗が本場ベルギーにしかない王室御用達のチョコレート……だった気がする。
 静穂自身はあまりこだわりが無いゆえにピンとは来ていなかったけれど、どうやらみるにはわかったらしい。
「ありがとう、静穂さん! よし、これは大王への献上品としてわたしが直々に……」
 笑顔で応え、それからカウンター奥へチョコレートを仕舞おうとする、みるの腕をはっしと掴み、日花はにっこり微笑む。
「……みるちゃん、独り占めなしね?」
「……え、日花ねー、ナンノコト……」
 にこぉ!
 その高級らしい献上品は皆で分けるのが道理よね? と。|優しい笑顔の《無言の圧力をかける》先輩。
「アハハ、ソーダネ!」
 何事も食べ物の遺恨は残さないのが、人間関係円満の秘訣だゾ!
「よし、分かればよろしいー。……というかみるちゃん、先輩の圧力に屈したような顔しないの」
 そんなわちゃわちゃとした、みると日花のやりとりに、くすくすと笑いながら、輪音は言った。
「皆も揃ったし、そろそろ始めましょうか」
 すでにテーブルの準備はできている。あとはマスターの一声のみだと微笑む輪音に、みるもまた頷いて。
「うん、そーだね! それじゃ、初の『はねうさぎ!』イベント、略して『はねうさバレンタイン』はっじめるよー!」


 そんな|マスター《みる》による音頭から始まったパーティーではあったけれど。そうはいっても決して堅苦しくはないと、みるは微笑む。
「チョコとお菓子と飲み物をいただきながらおしゃべりする、それだけ!」
「でもそのいただくチョコやお菓子がいいのよね。イベント万歳。いっぱい食べるぞー」
 例年はもういい歳だしそんな大はしゃぎする程ではと思っていたけれど、なにせ今回は運命の糸症候群に罹患して若返ってから初めてのバレンタインで、ましてや花金だ。ハメを外さない理由などないだろう。
 早速とばかりに目についたボンボンショコラを一粒手にし、ぱくりとする日花。
「おいしー♪ これ誰が持ってきたヤツ? オシャレ度の高さ的にきっと静穂さんだと私の偏見は言ってるけど」
「正解ー! そんな日花ねーには、スペシャルなチョコのプレゼントだよー!」
 ――じゃじゃーん! 
 効果音を自ら口ずさみ。巨大うさぬいの横に置いていたピンク色の箱から星型のチョコ一粒を手に取れば、みるはにっこにこで日花の口元へ持っていき。
「わたしが食べさせてあげるねー!」
「あーん。……って雛鳥みたいね私」
 アプローチには素直に応じ、もぐもぐとする日花。
「日花ねー、おいしい?」
「お、中にソース入ってるんだ。これまた美味しいわ」
「やったー!」
「雛鳥ヒバナンさん、とても可愛らしいわ。わたしのチョコレートも気に入ってくれてありがとう」
 二人のやりとりに微笑ましそうにしながら、静穂もまたテーブルの上に広げられた茶器やお菓子を眺める。
「ティーセットのデザインもとても素敵ね。では、わたしはこちらのチョコレートのケーキを。……とてもふわふわで美味しいわ」
「ありがとー。それはわたしが作ってきたのよ。よかったら紅茶もどうぞ♪」
「まあ、輪音さんの手作りなのね。紅茶も良い香り……どうもありがとう」
「うふふ、紅茶はみるちゃんお手製のセイロンティーよ。わたし的にはこれまでで最上の出来だと思うのよね」
「え、ホント?! 練習の成果出てる?」
 褒め言葉に敏感に反応したみるがぐりんと顔を向けたなら、静穂もにっこり頷いて。
「お店でよく話題になっているお茶ね。ええ、とても美味しいとわたしも思うわ」
「やったねー! 輪音さんと静穂さんお墨付きだー!」
 飛び上がらんばかりに喜んだかと思えば、みるはおもむろにカウンターへと駆け寄り、座らせていた巨大うさぬいをよいせと抱き抱える。
「みるの紅茶を褒めてくれた二人には、大王からのプレゼントじゃよー! さぁ、あーんとするのじゃ!」
 チョコの入った袋を手にしつつ、抱き抱えたうさぬいを器用に操りながら、輪音と静穂の口元へ向けて星型チョコを持っていくみる。
「食べさせてくれるの? それじゃ、せっかくだから……はい、あーん」
 ――ぱくり。
「ふふふ、姉御も静穂さんも雛鳥仲間ね。静穂さん、どう? お味は」
「ふふっ、こんなふうに食べたのは初めてよ」
 ほんの少しだけくすぐったそうに、けれど楽しげに静穂は微笑んで。
「では、大王とみるさんへ、わたしからもちょっとしたプレゼントを」
 麗顔に悪戯っぽい微笑を湛え。静穂は、自らの口元に添えた人差し指を、巨大うさぬいの鼻先にちょんとして、得意の幻覚術を施せば――、

 ――なんということでしょう。巨大うさぬいが、楽しそうに笑ったではありませんか!

「おお、大王が、」
「笑ったわ!」
「わわー! すごーい! 静穂さんどうやったの?!」
 三者三様のリアクションに、静穂は秘密、と言わんばかりに微笑み浮かべ、片目を瞑って見せるのだった。


「そーいえば、みるちゃん、その巨大うさぬい、大王って名前なの?」
 静穂による大王百面相の盛り上がりがほんのり落ち着いた頃合いで、|会心の出来なる《幻の》セイロンティーを飲みながら、心のうちに秘めていた質問を日花は口にする。
「よくぞ聞いてくれました、日花ねー。大王はね、正式な名前は『はねうさ大王』だよ!」
 それはそれは嬉しそうに、みるは巨大うさぬいをずずいと前に出す。
 「今日は特別にもふもふしてもいいよー!」なんて言いながら話し出すのは、|ぬいぐるみ《大王》にまつわる、みる自身のこと。
「大王はね、この店の開店祝いとして、買わせ……もとい、いただいた、特注品なんだよ!」
 買わせたって言うとちょっぴり人聞き悪いかな? と一応言い直してみる。
 とはいえ、|柿木坂教授《せんせい》がみるの願いを聞き入れてこの子を贈ってくれたことは事実だ。
「そんな名前だったのか大王」
 もしかして羽根あるのか大王。あったとしてその体型で飛べるのか大王。
 言いながらもふりまくる日花に輪音はくすくすとして、
「ちなみに、大王とお店の名前は、みるちゃんがうさぎさん好きなところから来ているの?」
「うん、そーだよ! あと、うさぎ好きは友達の影響なんだよ」
 大切な宝物をそっと見せるように、そう言葉を紡ぎながら。みるが想いを馳せるのは、友達との思い出。

 ――あのうさぎさんには羽が生えてたに違いないよっ!
 ――どうだろうねえ?

 あの時くすくすと笑っていた友達が喚び呼び出したうさぎに命を救われて、今みるはここにいる。
 うさぎ好きになったのも、この店や、大王が生まれたのも、友達のおかげだ。
「みるさんのご友人も、素敵な方なのね」
 お茶を飲みながら、みるの話に静かに耳を傾けていた静穂はそっと微笑む。
「そして、このお茶会も。とても新鮮。楽しいわ」
 こんな雰囲気のお茶会ははじめてで。最初こそ勝手がわからなかったけれど、気がつけばすっかり馴染んでしまっていた。
「改めてありがとう、みるさん」
「わたしの方こそ、ありがとうだよ、静穂さん! 日花ねーも、輪音さんも!」
 仲良しのみんなと気兼ねなくワイワイできる場所が欲しくて作ったこの店で、こうしてパーティーができたことが、素直に嬉しい。
「また、みんなでパーティーしようね!」
 大王をぎゅっとして。それぞれの顔を見渡し、みるは微笑むのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2025年04月29日


挿絵イラスト