アルカディーテ島でレッツ・バレンタイン!
●カカオを一から作れるのか――いや苗からでは間に合わない
「アルカディーテ島でもバレンタインやるで!」
開拓者達のリーダー的存在、御年54歳の濱城・優茂は言った。だが、そもそもカカオの苗など近辺の小さな島々はおろか唯一の有人島であるユートアレス島にも存在しない。
なので、優茂と参加した猟兵達開拓者で代用品になりそうなアルカディーテ島の特産物を探す事になったのである。
「そもそも、こういう常夏の島は殆ど今まで無縁だったからな……何があるんだ?」
リコは晴空に問う。
「そうだな、例えば果実とかならすぐ見つかるんじゃねぇかなぁ」
それにメアリーは激しく反応してソワソワした。
「果実!? 甘くて美味しいの見つからないかな……」
メアリーはアポカリプスヘル育ち故に、美味しい食べ物に飢えていたのである。
一方、ミーグとゼノヴィアは海の方へと向かった。
「オレ達、海ノ幸ヲ、獲ル」
「|海のミルク《牡蠣》とか……色々ある筈です」
「今ノ時期ナラ、冬牡蠣ダナ」
二人はSAN値直葬されそうなビジュアルをしているが、間違っても魔獣ではないのでうっかり討伐しないようにと島で仕事をしていた他の開拓者達全員に|おふれ《テロップ》が出された。島で仕事をしているモブ開拓者は、案外多いのである。
●地上組は甘い果実を探せるか――
「さーて! 果実果実っと……、おっ早速見つけたぜ! こりゃあ小さくて採れねえな」
巨人の体格のまま探索を続けていた晴空は小さな木の実を見つける。
「ふむ……見た感じ、さくらんぼの仲間に見えるが」
リコが採取を手伝いつつ、メアリーが実食してみる。
「すっ……!」
メアリーが口に含むと口をすぼめる。
「す?」
「酸っぱい……けど美味しい!! それにプチプチした食感がたまらない!」
頬を抑えて嬉しそうに食べるメアリー。
「そうか。しかし甘くは無いな……チョコには合わなそうだ」
リコが肩を落とす。その間にも晴空は果実を探す。
「おっ! これデカくて食えそうだな!」
「いやそれはアカンて……あっ!」
優茂が突如静止しにかかったにも関わらず晴空が口の中へと大きな果実を放り込むと、顔が萎んで口がアスタリスクのような感じになる晴空。
「しっっっっっぶッッ!!!」
「そうなんや……その木の実デカいのはええんやけどな、熟しても渋くてとても食べられへん、って言おうとしたんやけどなぁ!」
「水! 水ーーッ!!」
晴空は急いで樽の水を飲んだのだった。
●一方、海中組はというと――
「冬牡蠣、見当たりませんね……」
ゼノヴィアは苦戦していた。
「アルカディーテ島ハ常夏ダカラ、冬牡蠣トハ言エ、生育環境、チガウ……ノカ?」
常夏の冬牡蠣とはつまりどっちの牡蠣なのだろうか。アルカディーテ牡蠣を探しに右往左往するミーグ。
「オ、コレハ……!」
そこにあったのは、どっぷりと肥えた牡蠣のようなもの。あまりにも力士レベルで肥えていたので別の海産物に見えなくもない。
「力士牡蠣、ト名付ケヨウ」
「これ……本当に牡蠣ですか?」
ゼノヴィアは首を傾げた。
「一先ズ、地上デ検証ダ」
二人で精一杯の力を込めて引きはがして、ミーグやゼノヴィアですら両手に抱えるサイズの力士牡蠣を地上へと持ち帰ったのだった。
●ひとまず実食 力士牡蠣は甘いのか――
「コレダ」
ミーグによりドン! と置かれたのは説明不要なデカさの牡蠣。優茂も驚いて思わず腰を抜かしかけた。
「こらでっかい牡蠣やな!?」
「これは甘いだろう……!!」
リコも思わず興味をそそられた。
「優茂さーん、他にも木の実採って来たんで一緒に実食しようぜ!」
晴空がズンズンと沢山の木の実を持ってきた。
「木の実がこんなにあるなんて、住みたくなっちゃうかも……ハッ、実食タイムだよね!」
メアリーはアルカディーテ島にメロメロになりかけていた。
「それじゃあ牡蠣を茹でる間に木の実から行こか!」
あれから採取してきたのは、黒くていびつな木の実、茶色くてごつごつした木の実、白くて柔らかい木の実。
「まずは黒い木の実からやな……あ、そうや口直しにコレも用意したんで良かったら皆飲んで欲しいねんけど」
それは――キノコや雑草という名の薬草をたっぷり煮詰めたお茶を竹筒に注いだもの。どう見ても苦そうである。
「こ、これは……」
差し出されたものなので有難く頂いて、味覚が何だかおかしくなってきたゼノヴィア。
「オレ、牡蠣少シ貰ウ、ダケデ良イ」
ミーグはそれとなくキノコ茶を回避した。
「おっ、美味いな」
リコは普通にイケるタイプだったようだ。
「うーん……苦い……」
メアリーは何とも言えぬ顔を見せた。
「へぇ、優茂さんが作ったお茶かあ……それじゃあ実食!」
特にじゃんけんもせずに自ら進んで黒い木の実を食べた晴空。
「あーこれはイケ……酸っぱッッッッッ!!!」
酸味は遅れてやってきた。そして晴空は思わず口直しにキノコ茶を飲み――。
「ブフォォッッ!!!」
思いっきり噴き出したのだった。
「……何やってるんだ? とにかく、酸っぱいんだな? じゃあ次は茶色い木の実か」
リコは冷静に、心の奥で大爆笑しながら茶色い木の実を口に含んだ。
「まあ、いけなくも……お?」
「お? 何や? イケるんか?」
優茂が期待する。
「この遅れて来るのは……ビターチョコ、いやカカオ99%……!?」
結構苦いが、甘さも若干あるようだ。
「良い線行ってるみたいだね、っていうかカカオなんじゃないのその木の実」
茶色いし怪しいと訝しむメアリー。
「それじゃあ、白い木の実食べてみるよ!」
メアリーが白い木の実を実食してみる。すると――。
「あっ、美味しい!!」
「何だぁ、そっちがアタリかよぉ~」
晴空は甘さで黒い方を引いて黒星の気分であった。
「具体的ニ、美味シイ、ッテドンナ感ジダ?」
ミーグが尋ねる。メアリーは少し考えたのち、
「……薄めた珈琲みたいな?」
と返した。珈琲なら物資として飲んだ事はあるだろうか。
「そうしたら、黒いのは置いといて茶色と白の木の実をベースに作ったら良さそうやな!」
優茂はカカオ99%と薄めた珈琲の苦さでチョコを作れないかと考えた。
「問題は甘さですね……」
ふと、ゼノヴィアは力士牡蠣を見つめる。
「そうや。この牡蠣の甘さで攻めたる!」
美味しく茹だった力士牡蠣を順番にスプーンで掬ってみる開拓者達。
「弾力モ、凄イナ……」
なんと、そもそもスプーンで掬える弾力ではない硬さだった。力強く「ほじくる」が正しいだろうか。ミーグが一口食べると、明らかに良い方のリアクションを見せる。
「美味イ!」
「じゃあ私も……あっこれは、想像以上に美味しい……!?」
ゼノヴィアも、思わずほっぺたがとろけて落ちそうなリアクションを取る。
「それだったら安心だな! ……うめぇ!!!」
先程まで頬がこけそうな感じだった晴空も、ニンマリの美味しさである。
「どれ、俺も行こう……こ、これは!!」
リコのテレビ画面がカーニバルし始めた。
「そんなに美味しいなんて、じゃああたしも!! ……何これ昇天しそう……!!!」
至福の美味しさに思わず天へと還りそうになったメアリー。
「ほな、甘味はこれで決定やな! ……めっちゃ美味しいやん……!!?」
優茂が最後に食べる。流石キングサイズ牡蠣である、とっても甘くて美味しいのだった。
●念願の牡蠣チョコ作り
「ほんなら、ベースは決まった事やしチョコづくり始めていくで!」
「おー!!」
優茂と晴空はまず茶色い木の実を砕く所からだ。
「こっちはあたしに任せて!」
メアリーは白い木の実を砕いていく。
「サテ……牡蠣ヲドウヤッテ、チョコニスルカ……」
ミーグは悩んでいた。
「潰してしまえば……」
ゼノヴィアは勿体ないけどという顔で力士牡蠣を見つめた。
「どうせ最後には腹の中に収まるんだ。潰しても一口ずつ食べてもそう変わらないだろう」
「……ソレモ、ソウダナ」
リコに言われて、二人はモンスター的怪力で牡蠣を潰していく。勿論、出て来た汁も忘れずに使うのだ。
「こっちは砕き終わったで!」
「こっちも終わったよ!」
木の実組が粉砕し終えると、優茂がメアリーの砕いていた籠へと木の実を移す。
「潰し終えました」
ゼノヴィアが跡形もない力士牡蠣だったものを持ってくる。
「後はこれをミックス……どうやりゃいいんだ?」
晴空が素直に混ざってくれなさそうな木の実と牡蠣を見つめる。
「ミキサーならあるんやけどなぁ~」
優茂が自家発電機を持ってこようとする。まだソーラー&蓄電技術はアルカディーテには無いのだ。
「よし! じゃああたしの電気を使って!」
メアリーがヴォルテックエンジンを起動する。
「おおきにメアリーさん! よっしゃ! 起動や!」
●そしてミキシング中にも……
「実ハ、他ニモ牡蠣ヲ採ッテ来タンダガ」
「私も実は……」
ミーグは通常サイズ牡蠣を、ゼノヴィアは海ぶどう的な何かを持ってきた。
「それやったら、さっきの黒い木の実を有効活用やな!」
ミーグが黒い木の実を潰せば、牡蠣にまるでレモン汁のように果汁がかかる。
「見れば分かる……美味しいやつやん……!」
優茂は己の提案に思わず唾を飲んだ。
「番組が違うぞ」
リコは海ぶどうの美味しさにワッショイ! しながらツッコんだのだった。
「そういえばさ、熟してるけど渋い木の実あったじゃない? もっと暖めて更に熟したら凄く甘くなる……とかならないかな」
メアリーがヴォルテックエンジンでミキサーを動かしながら優茂に提案する。
「それは試した事無かったなぁ! ほな、今度やってみよか」
提案を受け入れてもらってメアリーもニッコリ。
「おっ、良い色になってきたんじゃねぇか?」
晴空がミキサーの中を見つめる。
「後はこれを型に流し込んで固めれば……いや、固まるのか?」
リコが訝しみつつも、どんどん型へと注がれていく牡蠣木の実チョコ。レモン汁風牡蠣と海ぶどうっぽい海藻を皆で食べながら、固まるのを待った。
「美味イ!」
「こりゃあイケるぜ!」
あんなに酸っぱかった木の実がレモンへと大変身である。唐揚げにも合うのではなかろうか。
●完成! 牡蠣木の実チョコ!
「皆、出来たで!」
数時間経って、夕方に取り出されたチョコはしっかりと固まっていた。
「ほな、食べてみよか!」
全員の皿へ行き渡ったチョコを確認して、優茂は手を合わせる。
「「「「「「いただきます!」」」」」」
「はむっ……」
全員で同時に口に含むと、口の中に広がるのは……海の香りと山の香りが同時に漂ってくる、うーん、何と表現したら良いものか。良いとこどりでもなく、雑味でもない。だが間違いなく味は「チョコ」に近い何かを感じる。これはチョコ。恐らく、チョコなのだ。
「チョコ……ですね」
「チョコ……ダナ」
「チョコ……だよね?」
「チョコ……か?」
「チョコ……だろ!」
「チョコ……って事にしようや!」
混ざった風味はともかく、味が一応完成したチョコを見て、これで来年のバレンタインも安泰だと思った優茂。次回、365日間の記録を一挙公開! 「激渋木の実を激甘に出来るか」こうご期待!
★一気に5種類の木の実を発見しました!
★アルカディーテ島でチョコの製法が確立しました!
★レアな力士牡蠣の発生を確認しました! 時期になれば不定期に現れる事でしょう。
★HAPPY――VALENTINE!!
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴