愚かではないデイドリーム
●君が思い描き、君が作って、君が戦う
それが『プラモーション・アクト』――通称『プラクト』である。
作り上げたプラスチックホビーで、自ら操作し、戦うプラスチックホビー。
思い描いた形は、たとえ、それが夢や想像の中にしかないものであったとしても力強く世界に羽撃いていくものだ。
かちゃ、かちゃ、とプラスチック同士がこすれる音がする。
ぱちん、ぱちん、と工具が断ち切る音も聞こえてくる。
それは聞く者にとってみれば、心地よい音であった。またどこか心が浮足立つような音でもあったのだ。
ここは『五月雨模型店』。
アスリートアースのとある商店街の片隅にある模型店だ。
ここはプラスチックホビーを販売するだけでなく、組み立てや塗装を行うことのできる制作ブースが併設されている。
それだけではない。
実際に自分が組み立てたプラスチックホビーを『プラクト』で遊ぶことのできるホームでもあるのだ。
ふと見上げた視線の先にはホビーのプロモーションムービーがモニターに流れている。
新商品やアニメ作品などの予告なども放送されていた。
そこに差し込まれるようにして流れたのは、プラクトの世界大会、その前回大会の覇者であるチーム『五月雨模型店』のメンバーたちの試合のダイジェストだった。
「わあ~」
見上げて、『陰海月』は違和感に気がつく。
こんな声を自分は出せただろうか?
いや、出せない。
出せたとしても『ぷきゅ~』か『きゅ!』とか『ぷっきゅ』とか、その程度だ。
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)たちには、これで通じている。他の人間たちには曖昧に伝わっているかもしれないが、十分意思疎通ができていると言ってもよかった。
けれど、今日はなんだか違う。
制作ブースで組み立てているプラスチックホビーの感触もなんだか違うような気がした。
「『セラフィム』かっこいー」
組み上げたプラスチックホビーは人型ロボット。
アニメシリーズにもなった『憂国学徒兵』シリーズに出てくる主役ロボットの名前だ。
多くのバリエーションが存在していて、それだけでマニア心をくすぐる。
その中でも一番組み立てやすいデザインの『セラフィム』を『陰海月』は組み立てていた。
組み立てやすいけれど、確かにプラスチックホビーを組み立てたのだという満足感燃えられて、『陰海月』はご満悦であった。
そうしていると、塗装ブースの向こうから一人の少女が出てくる。
あ! と『陰海月』は声を上げた。
それは世界大会を優勝に導いた『アイン』と呼ばれる少女であったからだ。
「お、初めて見る顔じゃん! それに『セラフィム』作ってるんだ? いいよな、『セラフィム』。どの『セラフィム』好き?」
「え?」
思わず『陰海月』は首を傾げた。
『初めて見る顔』?
いや、はじめましてではないはずだ。
何回もおじいちゃんたちと一緒に戦っている。
忘れてしまったのだろうか?
「はじめてだよな? なんかはじめて会った気がしないんだけど、記憶にないんだよなぁ」
『アイン』の言葉に『陰海月』は、はじめて自分の体が人間の子供のものになっていることに気がつく。
「ええっ!?」
思わず、ショーウィンドウのガラスに写った自分のシルエットを見て目を見開く。
いつものクラゲの姿ではない。
人型、それも人間の幼子めいた姿をしている。
「ど、どどどどいうこと!? え、なんで? いつもみたいにプラスチックホビー作っていただけなのに!?」
困惑する『陰海月』。
それもそのはずだ。
こんなこと起こり得ないはず。なのに、現実には……いや、果たして現実なのか、これは?
だが、それ以上に言わねばならないことがある。
『アイン』が尋ねたことに答えなければならないのだ。
いつも思っていた。
彼女たちが思い、作り、戦うプラスチックホビー……『セラフィム』。
「ぼくも……『セラフィム』、かっこいいと思っていてて!」
「だよな! 私も好きだぜ。なんていっても、『はじまりのセラフィム』いいよな。大元になったデザインって感じでさ」
「そ、そうだよね! ほら、できたんだよ、一人で!」
「すっげー上手じゃん! 今度さ、一緒に『プラクト』やろうぜ! 今からでもいいぜ!」
「じゃ、じゃあ!」
そんな風に約束を交わす。
けれど、そこでなだか体がふわふわしてくる。
「きゅ?」
あれ? と思ったときには、『陰海月』は昼寝用の水桶から身を起こしていた。
何か夢を見ていたような気がする。
「きゅきゅ?」
おかしいな、と思ってふわふわと浮いて部屋に戻る。
何故か、お財布の中身が減っている。
それだけではない。
部屋には見慣れない……いや、つい先程まで見ていた夢の中で作った『はじまりのセラフィム』が棚に飾られている。
「きゅー?」
おかしいな。
首を傾げる『陰海月』。
そう、今日はエイプリルフール。
万愚節とも言われる嘘をついてもいい日――。
成功
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