暗闇の中で、細く尖った鉱石が地へ落ちる。黒を吸い込んだようなそれは、先に地へ重なった同胞と触れ合う瞬間だけきらめく音を立てた。
ぽつり、ぽつり、と刹那のきらめきを奏でる鉱石達は、元は水晶だった。水晶は樹木の形を取り、それが幾つも連なり合って森となっていたのだ。
透明だった木々はしかし、今や夜空よりも暗い黒に塗り潰されていた。
影の城。
外の常識が通じなくなったその中で、取り込まれた水晶の森は侵入者を阻むように広がっている。
もし黒き水晶の森へ足を踏み入れた者がいたならば、心を蝕むような声を耳にする事になるだろう。
――嗚呼。
水晶の落葉に混じって、聞く者の内面を握り潰すかの如き声が響く。
――アレは私のもノだっタのに。
ぎしぎしと声が揺らぐ。黒く染まった水晶は、その音が持つ狂える響きを少しも減じてはくれない。
――何処へ連れテ行ッた?
水晶の葉が落ちる。声の持つ重みに潰されたように。
――返せ返セかえせカえせカエセ!
漆黒の水晶の森で、聞く者の精神を蝕む声はいつまでも響き続けていた。
「みんな、集まってくれてありがとう」
ロッタ・シエルト(夜明けの藍・f38960)は、グリモアベースに集った猟兵達へそう言ってお辞儀をした。
「闇の救済者戦争で、わたしたちの拠点になった『影の城』のことは覚えてるかしら」
デスギガス災群の中から突如として現れ、猟兵達の頼もしい拠点となった影の城。それと同様のものが、ダークセイヴァー上層で発見され始めたのだという。
「その影の城が、第四層の辺境にいた『異端の神々』の巣窟になってるみたいなの」
異端の神々は肉体と理性を持たない不可視の存在であり、オブリビオンに憑依しその身を乗っ取る事から『狂えるオブリビオン』とも呼ばれる。彼らは上層の絶対の支配者である、闇の貴族からも恐れられているのだ。
それ故に、異端の神々が住み着いた影の城は、周辺地域も含めて魂人はおろか、闇の種族さえも踏み込めない『禁域』に指定されているという。
「つまり、わたしたちが異端の神々を滅ぼしても、しばらくの間は禁域指定が解除されることはないわ」
異端の神々を討ち倒し、影の城を制圧する事が出来たなら。
この『禁域』を、魂人達の保護地域や闇の救済者達のアジトとして利用出来る可能性がある。
「やってみる価値はあると思わない?」
目的の影の城の中へは、グリモアベースから直に転送が可能だ。
影の城の内部は半ば異空間と化しており、訪れた猟兵達はまず水晶の木々で構成された森に出迎えられる。
「この水晶の森は、最初は普通の水晶でできてたんだけど……影の城に取り込まれた影響で、黒一色に塗り潰されてるの」
漆黒に染め上げられた水晶の森は、滞在するだけでも猟兵達の精神と肉体を蝕んで行く。しかし、この森の脅威はそれだけではない。
「水晶の森にいる間じゅう、中にいる人は異端の神々の声をずっと聞き続けることになるわ」
狂えるオブリビオンたる彼の者の声は、水晶の森よりも深く早く猟兵達の精神を侵略して行く。何らかの対策を講じなければ、狂気に呑まれてしまうかもしれない。
「水晶の森を抜けると、異端の神々に体と魂を乗っ取られたオブリビオンが待ってるわ」
このオブリビオンは異端の神々によって、体も精神も奪われている。理性を持たない異端の神々には、説得の言葉も通じないだろう。
けれど。
もし、水晶の森を抜ける過程で、異端の神々が狂気に陥った理由を拾い上げる事が出来たなら。そこを言葉で突けば、僅かなりとも動揺を誘う事が出来るかもしれない。
「危険な場所だけど、狂気に呑まれないようにがんばって」
気をつけて、行ってらっしゃい。
ロッタはそう言って、掌にグリモアを浮かべた。
牧瀬花奈女
こんにちは。牧瀬花奈女です。ダークセイヴァー上層のシナリオをお届けします。各章、断章追加後からプレイングを受け付けます。
●一章
冒険章です。影の城に取り込まれた、漆黒の水晶の森を抜けて下さい。内部を進むだけで肉体も精神も蝕まれる場所ですが、それに加えて異端の神々の声が常に聞こえて来ます。何らかの対処をしなければ、狂気に呑まれてしまう可能性があります。
●二章
ボス戦です。闇の種族の肉体と魂を乗っ取った、異端の神々との戦いです。異端の神々に理性は無く、説得はほぼ不可能です。しかし、一章で異端の神々が狂気に陥った理由を見付けた場合、そこを突けば戦闘が有利になります。
●その他
再送が発生した場合、タグ及びマスターページにて対応を告知致します。お気持ちにお変わりなければ、プレイングが戻って来た際はそのまま告知までお待ち頂ければ幸いです。
第1章 冒険
『汚染された水晶の森』
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POW : 強い心を保って水晶の汚染を退けろ
SPD : スピードで突破汚染される前に走り抜ける
WIZ : 対処法はある知恵を以て水晶の森を攻略せよ
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
転送された水晶の森の中は、事前に聞かされていた通り漆黒に塗り潰されていた。
一歩を踏み出した猟兵達の内側を、細かな棘のようなものが刺す。長居すれば、それだけ精神も肉体も消耗する事になるだろう。
――嗚呼。
森の中を進み始めた猟兵達の耳に、胃の腑を重たくする声が届く。異端の神々の声だと、猟兵達はすぐに察した。
――どウシて、アレを連れテ行ッた。アレを何処へやッタ!
異端の神々の声は、水晶の森よりも強く猟兵達を苛む。無策で聞き続ければ、その内面は決して平らかではいられないだろう。
――アレはワタしのモノ。ナぜ勝手に取り上ゲた!
けれどこの声の中に、この影の城に住まう異端の神々が狂気に陥った理由が潜んでいるのかもしれない。
――返せ返セかえせカえせカエセ!
猟兵達は狂えるオブリビオンの声を聞きながら、水晶の森を進み始めた。
サンディ・ノックス
わあ、聞いてはいたけど本当に俺の黒水晶に喰われたみたいだ
俺は魔力と、融合している「悪意」という思念を使って水晶を生みだし戦う
悪意をもって使役する水晶は真っ黒で、刺さったものとなんでも同化してしまうんだ
あまりに似て見えるのでしげしげと森を構成する水晶を見てしまうけど
声が聞こえてきたら仕事に戻るよ
俺はヒトと話す時、相手に共感して相手の考えを読むけれど
狂気に至った者相手だとそうはいかない
落ち着いて淡々と言葉を聞き、客観的な視点を持つよう心掛けながら狂気に陥った理由を探そう
狂気に呑まれないよう、親友達に貰ったプレゼントを握りながら
UCで呼び出した小人達にもずっと攻撃してもらって
思考をクリアにし続けよう
●
漆黒に染まった水晶の森を見て、サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)は、わあと小さく声を上げた。
「聞いてはいたけど、本当に俺の黒水晶に喰われたみたいだ……」
ぽつりと鳴る水晶の落葉が、体の内側を引っ掻く。サンディは、ふっと小さく息を吐いて、一部に朱の走る黒い剣で空を撫でた。
小さな手足を持つ、生物を模した水晶が、瞬く間にサンディの周囲を埋め尽くす。楽しげに宙を舞う水晶達は、森の木々に負けぬほど黒い。融合している『悪意』という思念の雫を、魔力へ落として生み出した水晶は、夜を吸ったような色へ変じるのだ。
水晶達は小さな手足を動かし、サンディの心身を蝕もうとする木々へ尖った魔力弾を放つ。魔力を突き立てられた木は、躍る水晶達と次々に同化して行った。
森の木々と、楽しげに舞い踊る水晶達。二者はあまりにも似ていて、歩きながらも思わずしげしげと水晶の木を見てしまう。
――嗚呼。
臓腑を重たくするような声が、サンディの意識を仕事へと引き戻した。
「ヒトと話す時は、相手に共感して相手の考えを読むけれど」
独り言つサンディの耳を打つのは、理性の欠片も感じ取れない響きだ。狂気に至った者に、暖かな心を持つヒト相手と同じ方法は通用しない。
――あレは私のもの。ドうシテ取り上ゲた!
懐に入れた指に、硬いものが触れる。サンディはそれを贈ってくれたヒトを思い浮かべて、手の中に握り込んだ。そうして、ただ淡々と声に耳を傾ける。
――何処へヤっタ? 何故作リ変えタ!
この異端の神々は、怒り狂っている。
親友達から受け取ったプレゼントを握りつつ、サンディは客観的に声を分析した。狂気へ己を引き込もうとする力は、手の中にある暖かい想いが跳ね除けてくれる。
――返セかエせカエセ返セ!
この叫びの中にあるのは、執着だ。
「執着していたものを、奪われた……から、か」
サンディはそう察すると、森の中を歩く速度を上げた。宙を舞う黒水晶達も、木々への攻撃を続けている。
森を抜けようとするサンディを追うように、狂えるオブリビオンの声は黒の中に響き続けていた。
大成功
🔵🔵🔵
キラティア・アルティガル
かくも惨き世界で
無辜の民の安息所を確保するは是じゃ
外道なれば遠慮も無用
予知を為せし同胞に挨拶し参ろうぞ
「見事ではあるの」
思わず感嘆の声が出たぞえ
歪みより解き放たれ透き通る様に
なればより美しかろう
「それだけでも甲斐はありそうじゃ」
零れ落ちた黒水晶を踏みしだき征くが
砕ける音も美しいの
じゃが、混じるは怨嗟の声か
何ぞ奪われた事を嘆いておるようだが…
聞く限りでは相手は生者であったかや
しかし、なればどのみち
狂神と永劫に添う事は無理ではあったろうの
己を失わぬ為に
もっと愉快な仲間達の手も借りようぞ
「済まぬがよしなに頼む」
意見も聞けまた心の守りとなろう
「のう、おぬしらはどう思う?」
鼓舞も受けつつ踏破を目指すぞえ
●
骸の海に浮かぶ世界の中でも、ダークセイヴァーは住む者にとって取り分け凄惨な世界だろう。そこに無辜の民の安息所を確保する事を、キラティア・アルティガル(戦神の海より再び来る・f38926)の悟性は是とした。待ち受ける相手が外道となれば、愛用の大鎌を握る手が鈍ろう筈も無い。
予知を為した同胞に挨拶をして、キラティアは影の城の内部へ降り立った。
「見事ではあるの」
自らを出迎えた水晶の森を前に、思わず息を含んだ声が零れる。影の城に取り込まれ、漆黒に染め上げられてなお、水晶の木々が作り出す森は感嘆するに十分だ。
歪みより解き放たれ、透き通る様になればより美しかろう。
キラティアはその様を思い浮かべて、ふっと口元を緩めた。
「それだけでも甲斐はありそうじゃ」
一歩を踏み出すと、零れ落ちた黒水晶が靴底の下で儚い音を奏でる。その音すらも、キラティアの耳には美しく響いた。
――返せかえせ返セかエせカエセ!
きらめく音に、怨嗟の声が混じる。理性無きその声は、体の内側を抉ろうとするかのようだ。
「何ぞ奪われた事を嘆いておるようだが……」
――アれは私のモノ。どウしテ連レて行っタ!
聞く限りでは相手は生者であったかや。
異端の神々の声に耳を傾け、キラティアは考えを巡らせる。奪われたものが生者であるならば、どのみち狂神と永劫に添う事は出来なかっただろう。
――何故作リ変えタ! 私の、ワたシの……!
狂えるオブリビオンの声は、キラティアの精神を喰らおうとするかの如く荒れ狂う。キラティアは小さく息を吐いて、手にした大鎌で緩やかに弧を描いた。
瞬きを一度するだけの時間が過ぎ、キラティアの周囲に大勢の小人が現れる。やあと陽気に挨拶をする様が、この漆黒の中では仄かな光のように見えた。
「済まぬがよしなに頼む」
小人達がそれぞれに笑顔を浮かべ、わらわらと水晶の森の中を歩き始める。異端の神々の声が途切れる事は無いが、明るく元気な小人達の姿はキラティアが己を保つ手助けをしてくれた。
「のう、おぬしらはどう思う?」
先程浮かんだ考えを言葉にして尋ねれば、小人達はこくこくと頷きを返す。彼らにも、この声は執着していた生者を奪われた事を嘆いているように聞こえるらしい。
「答えを得る為にも、ここを踏破せねばの」
小人達の鼓舞を受け、キラティアは漆黒の森を進んで行った。
大成功
🔵🔵🔵
クリストフ・フロイデンベルク
ふむ? 事前に聞いてはいたが、確かに|アレ《異端の神々》の振り撒く怨嗟の声が騒々しいな?
返せと言われても何の事やら分からんし、そもそも弱ければ奪われるのは自明の理。
それを喚き散らす事しか出来ない愚者の泣き言など聞くに値しない。
だが……良いだろう。
この森を抜けるまでの暇つぶしとして聞いてやろうではないか。
くくく、さあ存分に語ると良い。
私の【狂気耐性】だけでもこの程度の狂気に呑まれるとは思えんが……
まぁ、業腹ではあるがUC【嚮後の聖域】と|神聖魔法で結界《【浄化+結界術+祈り】》も展開しておくか。
狂えるオブリビオンたる|アレ《異端の神々》も浄化してやれば多少は意思を読み取り易くなるだろうしな。
●
黒く染まった水晶の森を、クリストフ・フロイデンベルク(辺境の魔王・f16927)は肩に載せた黒猫と共に歩いていた。
――何故連れテ行ッた! 私のワタシの……!
豪奢なブーツが足元の水晶を踏む音に、異端の神々の声が被さる。使い魔の黒猫が、ぐるると喉を鳴らした。
「ふむ? 事前に聞いてはいたが、確かに|アレ《異端の神々》の振り撒く怨嗟の声が騒々しいな?」
クリストフは一旦足を止め、異形の骨で作られた魔杖を地面に突き立てる。
――返セ返せカエせカエセ!
聞く者の臓腑を抉るかのような声に、ふうと小さく息を零す。
返せと言われても、クリストフには何の事だか分からない。そもそも、弱ければ奪われるのは自明の理。それを喚き散らす事しか出来ない愚者の泣き言など、聞くに値しなかった。
「だが……良いだろう」
魔杖を再び持ち上げて、クリストフは笑う。
「この森を抜けるまでの暇つぶしとして、聞いてやろうではないか」
くくく、と喉の奥から笑みが零れた。
「さあ存分に語ると良い」
両腕を広げたクリストフの呼び掛けに応じてか、異端の神々の声が大きくなる。
――アれハ私のモノ。許さない許サナイゆるサナイユルサナイ!
心の内側を引っ掻くような声に、クリストフは軽く眉を寄せた。狂気に対する耐性は備えている。それだけでも、この程度の狂気に呑まれるとは思えなかった。
けれど。
「まぁ、業腹ではあるが、念を入れて悪い事もあるまい」
歩みを再開させつつ、魔杖を高く掲げる。清浄なる光が、瞬き一度の後に水晶の森に降り注いだ。失われた過去の歪みをも正す光は、森の中を世界の加護に満ちた聖域へと変化させる。
「狂えるオブリビオンたる|アレ《異端の神々》も、浄化してやれば多少は意思を読み取り易くなるだろうしな」
更にと展開した結界術が、吸い込む空気を清めてくれた。
――何故作り変えた! あれは、あれは、ワタシのものダったのに!
異端の神々の声が、ほんの少しその狂気を緩める。
「なるほど。執着していた生者を、人ならぬものに変えられたか」
ならば狂気に陥るのもおかしくはない。
クリストフは頭上より注ぐ光の中を、迷い無く進んで行った。
大成功
🔵🔵🔵
葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と
影の城は鉄壁城塞だ
確保して此処の人たちの護りの要としたい
「対処療法しか出来ないのは苦しいけど」
でもやんないより絶対良い
何時も通り拳と武器を合わせて往こう
先の景色は…異様てか威容ってか
「綺麗だけど…寂しいね」
吹く風も空虚の色してる気がする
切れ切れの…これが『声』か
瞬間的に眩暈が走った
「拙いな」
直ぐお菓子をどうぞで状態異常解呪チョコ作る
「これでOK!」
念の為結界術も励起してククルカンも出しておくよ
「恨み節…」
是非抜きで彼らの大切な何かだったんだろうね
「けど、なら何故追ったり取り返さなかったんだろ」
強大な力でも叶わなかったのが解せない
「聞いたら解るかな?」
兎に角先を急ごう
凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と
新しい影の城の制圧
それは何よりも重要な事だからな
気合を入れて相棒と拳と武器を合わせて向かおう
「それでも必要な事だからな。行くぞ、時人」
確かに何かが蝕むのを感じるけど
相棒のチョコで回復しながら
互いに声を掛け合いながら進むよ
「あぁ、なんていうか…物悲しい、だな」
今進む俺には相棒が居て
それがどれだけ心強い事か
だからこそ聞こえる声に
対比での悲しさを感じる
そう感じたし相棒も気にしているから
「なぁ、何を取られたんだ?」
返事があるかどうかはわからないが
当たり前のように声に問いかけてしまう
「いやまぁ、五里霧中だからって思ってな」
もし返答があるなら道を進みながら
その思いを聞いていくよ
●
影の城が鉄壁の城塞である事を、葛城・時人(光望護花・f35294)と凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)はよく理解していた。銀の雨降る時代を駆け抜けた二人の記憶には、その堅牢さと頼もしさが色濃く残っている。
確保して此処の人たちの護りの要としたい。
時人がそう願うのも、自然な事だろう。陸井もまた、新しい影の城の制圧を、何よりも重要な事だと感じているのだから。
「対処療法しか出来ないのは苦しいけど」
黒い水晶の森を前に、時人は軽く握った拳を陸井へ突き出した。応じる拳が、すぐに差し出される。
「それでも必要な事だからな。行くぞ、時人」
こつん、と互いの拳を合わせ、次いで右手に握った武器を揃って差し出す。やらないよりは絶対に良いと、打ち鳴らす響きも消えぬ間に水晶の森へ足を踏み入れた。
漆黒一色に塗り潰された森の景色は、ぐいと強い圧力を持って時人の視界に迫る。時折響く落葉の音も、足元で鳴る水晶の砕ける音も儚いというのに。
「綺麗だけど……寂しいね」
水晶の葉を揺らす風すらも、時人には空虚の色を宿しているような気がした。
「あぁ、なんていうか……物悲しい、だな」
陸井の視線が、黒に染まった木々を撫でる。吸い込む息は何処か冷たく、肺腑をちくりと刺して来た。
――返せ……返セかえせカえせカエセ!
切れ切れでありながら、強い芯を持った声が二人の鼓膜を揺する。
これが『声』かと思った刹那、時人を眩暈が襲った。陸井の肺を刺す空気も、鋭さを増している。
「拙いな」
呟く間もあればこそ、時人は錫杖を鳴らしてユーベルコードを起動した。瞬く間に現れた解呪用のチョコレートを両腕で受け止め、半分を陸井へ渡す。
「これでOK!」
「ああ、助かる」
チョコレートを一切れ口に入れれば、心身を苛む棘が溶けるように消えて行った。
今進む俺には相棒が居て、それがどれだけ心強い事か。
口の中に残る甘い味を感じつつ、陸井は異端の神々の声へ耳を傾ける。自らの傍らに無二の相棒がいてくれるという事実が、嘆く声の悲しさを際立たせていた。
――どウして連れテイった! 何故アレを選んダ!
「恨み節……」
念の為にと結界術を展開し、|白燐蟲《ククルカン》も呼び出した時人が、しゃんと錫杖の銀鎖を揺らす。聞く者を内側から苛もうとする声は、大切な何かを奪われたと悟るに十分だった。
「けど、なら何故追ったり取り返さなかったんだろ」
狂えるオブリビオンとも称される彼らは、闇の種族からも恐れられている。その強大な力を持ってしても叶わなかった事が、時人には解せない。
「聞いたら解るかな?」
碧眼が、水晶の木々を見据える。そんな時人の隣で、陸井はふっと、当たり前のように口を開いた。
「なぁ、何を取られたんだ?」
右手に握ったガンナイフが鳴らす、かちりという音が、漆黒の森の中で大きく響く。異端の神々の声が、一瞬だけ止まったような気がした。
「いやまぁ、五里霧中だからって思ってな」
そう陸井が笑って見せた直後、声がまた聞こえ始める。
――あれハ私のモノ。何故作リ変えタ!
荒れる声から身を守るべく、二人はまたチョコレートを口に入れた。
――許サないゆるさないユルサナイ!
「作り変えたって……いま言ったよね」
「ああ。もしかすると、奪われただけじゃないのかもしれないな」
大切なものを奪われた挙げ句、おぞましいものに作り変えられたのだとしたら。
二人はチョコレートを呑み下し、先を急いだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
天城・潤
友人のリグノア(f09348)さんと
「ありがとうございます」
同胞の益になる事です
お誘いは有難く
戸惑われたお顔ですが
ここ暫くで感情が身に着かれた様子も
嬉しいですね
しかし腹立たしい…
上位の父を殺すのも苦労したと言うのに
彼らが尻尾を巻いて逃げるとは
「必ず倒します」
大変美しい光景ですが
「これは死美ですね」
狂える神々が全てを死滅させたのでしょう
執心の元が何であれ
それが命あるものなら間違いなく
「絶命で終わったのでは」
それならどう足掻いても無意味です
無意味…凡ては…無に…
強く手を取られ我に返りました
狂声に自我を失い掛けたようです
「ありがとうございます」
もう一度お礼を口にして
推察と蓋然性を高めつつ急ぎましょう
リグノア・ノイン
友人の天城様(f08073)と
御礼の言葉に少し戸惑いますが
御礼をしたいのは私もです
魂人の方々や闇の救済者の為
少しでもお力になる為
お誘いしたのは私なのですから
「此方こそ、|Sehr beruhigend《とても心強いのです》」
天城様自身思う所もあるでしょう
ですからその助力にもなれたらと思います
「|Ja《肯定》向かいましょう」
機械のこの身に蝕みは無意味です
しかしこの水晶の森と声に
どこか美しさを感じてしまいます
これがどういった物か言葉にできずにいると
天城様が言葉にされています
「|In der Tat《成程》終の美、なのですね」
ですが私達が望む物はその先
手を取って声をおかけします
「今は、進みましょう」
●
天城・潤(未だ御しきれぬ力持て征く・f08073)が影の城へ赴く事を決めたのは、友人であるリグノア・ノイン(感情の渇望者・f09348)から誘いを受けたからだった。
黒く染まった水晶の森を前に、潤はふっと口元を緩めてリグノアの方を向く。
「ありがとうございます」
お礼を言われ、リグノアは赤い瞳を何度も瞬かせる。色白の面差しに浮かんでいるのは、戸惑いの色だ。
「同胞の益になる事です。お誘いは有難く」
その表出は未だ淡いものではあったけれど、出会ったばかりの頃と比べれば、リグノアは確実に感情を身に着けている。その事実が、潤の内面に暖かな光を届けた。
「御礼をしたいのは私もです」
胸の内でゆらゆらと動くものを撫で付けて、リグノアは潤を見上げる。魂人達や闇の救済者達の為、少しでも力になる為と、同行を願ったのはリグノアなのだ。
「此方こそ、|Sehr beruhigend《とても心強いのです》」
この影の城は、異端の神々が住まう故に、周辺地域も含めて禁域に指定されているのだという。それを思うと、潤の腹の底に小さな火が灯った。
上位の父を殺すのも苦労したと言うのに、彼らが尻尾を巻いて逃げるとは。
「必ず倒します」
そう言った潤の瞳に浮かんだ微かな揺らぎに、リグノアは気が付いていた。潤はダークセイヴァーの出身だ。思う所もあるだろう。その助力にもなれればと、水晶の森へ向けて一歩を踏み出した。
「|Ja《肯定》向かいましょう」
森の中へ入った途端、引き攣ったような声がリグノアの耳を打つ。
――アれを何処へやッた? あれはワたシのものダ!
全身を兵装化された機械の体のリグノアには、心身を蝕む声や森の影響は出ない。
けれど。
――許さナイ許さないユルさないユルサナイ!
響き続ける異端の神々の声を、声に押されたように落葉を繰り返す水晶の森を、どこか美しいと感じている自分に気付いていた。
「これは死美ですね」
足元に積もった水晶の葉を踏みながら、潤がぽつりと口にする。この光景を美しいと思う気持ちは、潤の中にも存在していた。
自らの感じたものを言葉に出来ずにいたリグノアには、潤の表現がすとんと腑に落ちる。
「|In der Tat《成程》終の美、なのですね」
リグノアに頷きながら、潤は思考を巡らせていた。
狂える異端の神々が、全てを死滅させたのだろう。執心の元が何であれ、それが命あるものなら間違いなく――
「絶命で終わったのでは」
――何故作り変えタ! 返せ返セかエせカエセ!
それならどう足掻いても無意味だ。断ち切られた命を元通りにする事など、出来はしないのだから。
――私のモノだっタのに! ドウしてアレを選んダ!
無意味。凡ては、無に。
「天城様」
不意に手を強く握られて、潤ははたと我に返った。
私達が望む物はその先。赤い瞳がそう告げている。
「今は、進みましょう」
声を掛けると、漆黒の瞳が常の光を取り戻した。
「ありがとうございます」
もう一度お礼を口にして、異端の神々の言葉を反芻する。
「作り変えた、という言葉が気になりますね。絶命の前に、何かがあったのかもしれません」
「|Ja《肯定》私もそのように感じます」
推察と蓋然性を高めつつ、狂気に引かれないように。
二人は考えを止めぬままに、水晶の森を進んで行った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『デュランダル不死鳥騎士『ギリガム』』
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POW : 我が心…我が魂は叛逆する!お前達に!
【あらゆるダメージに耐えうる炎の不死鳥】に変身する。変身後の強さは自身の持つ【叛逆の意志】に比例し、[叛逆の意志]が損なわれると急速に弱体化する。
SPD : 不滅神聖国『デュランダル』の騎士達
召喚したレベル×1体の【デュランダルバード】に【量産型デュランダルと黒鎧】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
WIZ : これはお前達に向ける叛逆の輝きだ!
着弾点からレベルm半径内を爆破する【周囲をプラズマ化させる熱量の火炎弾】を放つ。着弾後、範囲内に【超高熱の浄炎】が現れ継続ダメージを与える。
イラスト:弐壱百
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「バーン・マーディ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
ぼう、と紅の炎が揺らぐ。
水晶の森を抜けた猟兵達を待っていたのは、至る所から炎を噴出させる赤き鳥だった。
――どウしてアレを連レて行っタ! 何故作リ変えタ!
しかしその肉体と魂は、森の中で声を響かせていた、異端の神々に乗っ取られている。理性無き声を紡ぎ続けるその様は、狂えるオブリビオンと呼ぶに相応しい。
――返せカえせ返セかえせカエセ!
翼から噴き出る炎が勢いを増す。このオブリビオンには、説得の言葉など通じないだろう。
けれど。
もしも、水晶の森で、異端の神々が狂気に陥った理由を見付けていたなら。
そこを突けば動揺を誘う事が出来る可能性は高い。
――許さナイ許サなイゆるさないユルサナイ!
異端の神々は狂気に落ちてなお、怒り続けているのだから。
猟兵達はそれぞれの武器を手にして、眼前の狂えるオブリビオンと相対した。
サンディ・ノックス
友好的な態度で異端の神々に話しかける
説得は通じないとわかっているし
最終的に殺すつもりもある
でも狂気に囚われるほど傷ついたのだなと感じたから
僅かでも楽になって骸の海に行ってほしいと思うんだよね
大切なヒトを奪われたんだね
そのヒトは尊厳も奪われてしまったみたいじゃないか
そりゃ許せないよね
敵のことを教えてよ
そいつを見つけたら君の代わりに殺してあげる、君の無念を晴らしてあげる
約束するよ
情報を教えてもらえたら約束を果たすつもりはあるけど
たぶん伝えられるほどの正気が残ってないと予想してる
そのときは仕方ない
俺の言葉に反応して生まれた隙をついて急所を突き楽にしてあげよう
でも約束は心に残してずっと忘れない
本当だよ
●
赤き鳥の姿を奪った異端の神々を前に、サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)は手にした黒剣の切っ先を下へ向けた。
――許さナい許さないユルサナイゆるさない!
狂気の中で怒り続ける相手へ、ふっと表情を緩めて見せる。
「大切なヒトを奪われたんだね」
浮かべた柔和な表情も、静かに落ち着いた声音も、狂えるオブリビオンと相対しているとは思えぬほど友好的だ。
説得は通じないと分かっている。最終的に殺すつもりでもある。
けれど、サンディは水晶の森の中で感じたのだ。この異端の神々は、狂気に囚われるほど傷付いたのだと。
僅かでも楽になって、骸の海に行って欲しい。
青い瞳に宿る光は、油断無く相手の様子を窺いながらも、何処か温もりを抱いていた。
赤い鳥の全身が炎に包まれ、不死鳥の如き姿へ変じる。それでも、即座に攻撃して来るような気配は無かった。
「そのヒトは尊厳も奪われてしまったみたいじゃないか。そりゃ許せないよね」
何故作り変えた。
森の中でも聞いたその言葉が、胸の内に引っ掛かっている。大切なヒトが、おぞましいものに変えられてしまったのなら。心が憎しみに染まるのも無理は無い。
「敵のことを教えてよ」
燃え盛る鳥は、サンディへ突進しようとして、一瞬たたらを踏んだ。
「そいつを見つけたら君の代わりに殺してあげる。君の無念を晴らしてあげる。約束するよ」
異端の神々の動きが止まる。瞬きを二度ばかりするだけの時間を置いて、影の城の空気を長い叫び声が揺らした。
――返せカエセかえせ! アレを私にカえせ!
鼓膜に突き刺さる叫びに、仇敵と思しき相手の情報は含まれていない。サンディは胸の内で軽く首を振り、朱が走る黒い剣の切っ先を持ち上げた。
情報を伝えられるだけの正気が、この異端の神々には残っていないのだ。ならば、仕方がない。
相手が動じている隙に、サンディは自らと融合した悪意へほんの少し意識を沈めた。黒剣の刃が昏く光る。
サンディのまとう穏やかな雰囲気とは不釣り合いに見える剣が、怒りと嘆きの声を上げ続ける異端の神々へ迫った。その身を包む炎が勢いを増すも、既に剣は目前にある。
黒剣が、燃え盛る紅を突き通して腹を裂く。開いた傷に、更に刃を押し込んだ。
異端の神々はもはや討つしかない。
それでも。
約束は心に残してずっと忘れない。本当だよ。
サンディは胸の内で呼び掛けて、静かに目を伏せた。
大成功
🔵🔵🔵
キラティア・アルティガル
美しき紅鳥に宿るは狂神
神々、と言うからには元々は神の一族であったものが
集合化したものかの
我が連れ去った訳ではないが相手と決めつけておるの
最早妄念のみが力か
哀れなるが…やはり我には断罪しか出来ぬ
叶わずとも言い聞かせよう
「探さず助けもせず今更奪われたのみを嘆いて何となる!」
おぬしが何ゆえそれをせなんだかは我には判らぬ
どうあれ時は過ぎた
恐らく長い永い時の彼方で最早彼我の隔てはあるまい
「おぬしらもその者も、とうに命は尽きておるのだ」
違いは唯、おぬしらがこの場に在ること
攻撃を大鎌でいなし凌ぎ宣言しよう
「ゆえに…貴様を殺す!」
宣言は旅路の餞
我が死の一撃にておぬしらを安らがせ
骸の海が底へ探しに逝かせようぞ!
●
影の城の中で躍る火の粉に、キラティア・アルティガル(戦神の海より再び来る・f38926)は緑の瞳をほんの少し細めた。
――返せカエせ返セカエセかえせ!
けれどもその瞳は、異端の神々の声を聞いて再び確と開かれる。姿は美しい紅鳥なれど、内に宿るは狂神なのだ。
神々、と言うからには、元々は神の一族であったものが集合化したものかの。
周囲の気温を上げるほどの熱量を持つ火炎が、ごうと音を鳴らし迫り来る。それを避けつつ、キラティアは考えを巡らせた。
――どウしてアレを連レてイッた! アレはワたしの私の……!
狂おしいほどの怒りが、まっすぐにキラティアへと飛んで来る。
この異端の神々が執着していた存在が誰であり、如何にして連れ去られたかなど、キラティアには知る由も無い。しかし赤き鳥の中で荒れ狂う者にとっては、目の前の存在全てが仇敵に見えているように思えた。
「最早妄念のみが力か」
そう思えば、心の奥底が仄かに波立つ。けれど、哀れに思えども、キラティアに出来る事はやはり断罪だけだ。
手に馴染んだ大鎌を構え、着弾した火炎弾が生んだ紅蓮の脇を駆け抜ける。体の側面が炙られるような感覚を覚えたが、それで足取りが緩む事は無い。
――許さナい許さない許サなイユルサナイ!
叶わずとも言い聞かせよう。
異端の神々が宿る紅鳥の正面へ、もう一度立つ。微かに吸った空気は灼けていた。
「探さず助けもせず今更奪われたのみを嘆いて何となる!」
キラティアの喝破に、羽毛の狭間から噴き出る炎が揺らぐ。
異端の神々がそうしなかった理由は、キラティアには分からない。だが、どうあれ時は過ぎたのだ。第四層の辺境から、この上層にある影の城へ住まう場所を変えるほどに。
長い永い時が過ぎたであろう今、彼岸と此岸の隔ては無い。
「おぬしらもその者も、とうに命は尽きておるのだ」
違いは唯ひとつ。異端の神々がこの場に在ること。
紡がれかけた二つ目の火球が、慄くように揺れて消える。宙に舞った炎の欠片を、キラティアは大鎌を振るって掻き消した。
「ゆえに……貴様を殺す!」
凛とした宣言を受けて、刃が鋭い光を湛える。
床を蹴ったキラティアが、異端の神々へ肉迫した。振り上げた大鎌の刃に、紅鳥の瞳が映る。
勇ましき宣告は、旅路への餞だった。死の一撃にて異端の神々を安らがせ、骸の海の底へ、求めるものを探しに逝かせるための。
振り下ろされた刃は、燃え盛る翼の片方をまっすぐに切断した。
大成功
🔵🔵🔵
クリストフ・フロイデンベルク
狂気に囚われた愚かな、そして哀れな|獣《ケダモノ》に何を言おうと無意味。
だが貴様はそれ程までに|執着した《大切な》ものが奪われたというのに何をしている?
連れ去られた?作り変えられた?それが何だ?
貴様がすべきは囀る事などではなく……
(もし私がユスミを奪われたのであれば……)
全てを……身も心も、髪の一本、血の一滴すら奪い返し、その愚物に……
(死を与えるなど生温いな。)
生まれて来た事を後悔する程の、自ら死を懇願する程の絶望を味わわせてやる事だろう。
……貴様はもう眠れ。
(UC【外なる神の降臨】で強化したUC【生殺与奪の権利】の光を放つ)
もし何処かで貴様の讐敵と相見える事があれば其方へと送り届けてやる。
●
――アレを何処へやッタ! 何故アレを選んダ!
片翼を失った赤き鳥が、それでも渦巻く怒りのままに叫び続ける。
「狂気に囚われた愚かな、そして哀れな|獣《ケダモノ》に何を言おうと無意味」
クリストフ・フロイデンベルク(辺境の魔王・f16927)は、魔杖を手にそう断ずる。だが、と薄い茶の瞳が僅かに細められた。
「だが貴様はそれ程までに|執着した《大切な》ものが奪われたというのに、何をしている?」
片方だけの翼を羽ばたかせる動きが、問い掛けを前に鈍る。召喚されかけていたデュランダルバードも、炎の片鱗を残して消滅した。
連れ去られた。作り変えられた。それが何だというのだ。
「貴様がすべきは囀る事などではなく……」
かつん、と魔杖の先端が床を叩く。
クリストフの脳裏に、花嫁にと望んだ少女の姿が像を結ぶ。もし自分が彼女を奪われたのであれば。仮定を思い浮かべただけで、腹の底が煮え滾る気がした。
「全てを……身も心も、髪の一本、血の一滴すら奪い返し、その愚物に……」
死を与えるなど生温い。
その時、クリストフは正しく魔王と化すだろう。
「生まれて来た事を後悔する程の、自ら死を懇願する程の絶望を味わわせてやる事だろう」
激してはいない。けれど内に熱を孕んだ声が、影の城に響く。火の粉の散る音が、それに小さく被さって聞こえた。
――許サないゆるさない返せカえせカエセ!
異端の神々から返って来たのは、やはり怒りに満ちた叫びのみだ。クリストフは軽く目を伏せ、小さく息を零してもう一度開いた。
「……貴様はもう眠れ」
異端の神々の動きには、乱れが見られる。それが僅かなりとも落ち着きを取り戻す前にと、魔杖を振るった。炎とは違う、血のような深い赤を宿した光が、膨らんだ腹を深く抉る。
――アア……! 許サなイ返セかえせ!
クリストフに宿る刻印に、異端の神々の生命力が吸い上げられて行く。狂える叫びが痛苦の色を帯びた。
ぐらりと、赤い鳥の体が傾ぐ。
「もし何処かで貴様の讐敵と相見える事があれば、其方へと送り届けてやる」
よろめく異端の神々へ、クリストフは静かに告げた。
大成功
🔵🔵🔵
天城・潤
友人のリグノア(f09348)さんと
贄に大切な者が選ばれた…ですか
父が僕を贄に召し
母が喜び出した身の上で複雑ですね
「此処の上位者はこんな事ばかり」
怒りもこみ上げます
神意に逆らい連れ去りなんて良く出来ましたね
「残念ですがもう実態は分からないでしょうが…」
倒すしかありませんねと
呟きながら構えます
攻撃に合わせ
護剣・断罪捕食を詠唱
僕の体力は事実上無限に賄えます
範囲斬撃でリグノアさんを隠す事も出来ますね
「大技は任せますよ!」
切り結びつつ問いましょう
「その痛苦を与えたのは誰です…?名は?」
答えが返らずとも少しは止められるでしょう
「黄泉路へ…今は眠りを」
特定出来たらソレを神の代わりに倒すという約束を
僕も必ず
リグノア・ノイン
友人の天城様(f08073)と
|Sehr, sehr, sehr schön《とてもとてもとても素晴らしい》
なんという想いなのでしょう
強く求め、離れて尚想う気持ち
これはきっと私の知らない
まだ持ち得ていない感情
「とてもとても、羨ましい」
まずは各種ワイヤーで対象を捕縛
力を封じ込めた上で接近し
ナイフで致命傷を狙います
「|Ja《肯定》.天城様、総攻撃です」
想いと願いは決して忘れず
いつか連れ去った相手を討伐し
必ず仇は取りましょう
「後は、私達にお任せください」
先程の森で感じた身を裂かれる思いも
その気持ちも今は届かぬ物です
だからこそ今は静かな時間を与えましょう
「|Also《ですので》.今は、お眠りください」
●
――何故アレを選ンだ! 何故作り変エた!
赤き鳥に宿る異端の神々が、理性など欠片も感じさせない声で叫ぶ。
それを見る天城・潤(未だ御しきれぬ力持て征く・f08073)の目には、幾つかの想いが混ざり合い、複雑な色合いが浮かんでいた。
贄に大切な者が選ばれた。これまでに聞こえて来た声からは、そう察する事が出来た。それは悲劇と言えるだろう。
けれどそれに対する潤の気持ちは、簡単には言い表せない。父に贄にと召され、母が喜んで差し出した。それが、幼き頃の潤に起こった事であるが故に。
燃え盛る炎の照り返しが、リグノア・ノイン(感情の渇望者・f09348)の白い頬を朱に染める。
――返せカエセ返セかえせ!
|Sehr, sehr, sehr schön《とてもとてもとても素晴らしい》.
激しい感情の発露に、リグノアは内心で息を零す。
なんという想いだろうか。強く求め、離れて尚想う気持ち。それはまだ、リグノアの知らない、持ち得ていない感情だ。
「とてもとても、羨ましい」
静かな声が影の城の空気を揺らす。その間に、潤は脇差の鞘を払った。
「此処の上位者はこんな事ばかり」
水晶の森でも感じた、腹の底に火が灯る感覚がまた現れる。神意に逆らい連れ去りなど、良く出来たものだ。
「残念ですがもう実態は分からないでしょうが……」
倒すしかありませんね。
そう呟き、まっすぐに刃を構える。それと共に、リグノアがユーベルコードを発動させた。
ワイヤーが繋がったアンカーが紅く燃える腹部に突き立ち、ワイヤーネットが頭上から異端の神々を包む。動きを阻まれつつある事に気付き、赤き鳥は後退した。
「Möchten sie eine nachfüllung.まだ有りますのでご安心を」
異端の神々の背後に展開されたのは、空母すら減速させるアレスティングワイヤーだ。背に対し真横に張られたワイヤーが、その動きを止める。
異端の神々は反撃のユーベルコードを展開しようと、片方の翼を僅かに動かした。しかし、三つのワイヤー全てを受けた身では、如何なるユーベルコードを紡ぎ出す事も叶わない。
――許サなイ許さないユルサナイ!
叫びを聞きながら、リグノアは無骨なナイフを手に相手へ接近する。潤の刃がそれに合わせ、音を立てて変形した。全てを食らう口のように変化した刃が、大きく振り抜かれる。命を吸い上げられる気配はしたけれども、潤にとっては問題にもならなかった。
「大技は任せますよ!」
「|Ja《肯定》.天城様、総攻撃です」
大きく変形した脇差の刀身に紛れ、リグノアはナイフを胸へと突き立てる。異端の神々はワイヤーネットの隙間から、片翼の爪と嘴を繰り出そうともがいていた。
――嗚呼……返セかえせカエセ!
「その痛苦を与えたのは誰です……? 名は?」
容赦無く胴を薙ぎながら、潤は落ち着いた水面のような声で問う。異端の神々の動きが、ほんのいっとき止まった。
潤が作ってくれたその隙を、リグノアは逃さない。
想いと願いは決して忘れない。いつか連れ去った相手を討伐し、仇を取るために。
想いを乗せたナイフが、大きく弧を描く。翼の付け根から腹を斜めに裂かれ、火の粉が舞った。
「後は、私達にお任せください」
「黄泉路へ……今は眠りを」
特定出来たらソレを神の代わりに倒す。その気持ちは潤も同じだ。
森で感じた思いも、狂気の中で荒れ狂う怒りも、ここでは何処にも届かない。
「|Also《ですので》.今は、お眠りください」
だからこそ、今は静かな時間を。
二人ぶんの願いを込めたナイフの刃が、深く、深く、異端の神々の胸部を刺した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と
凡その見当つくよね…
惨い奪われ方をして、狂った
「誰がしたかも分かんないのがな…」
理由も解らないし多分その犯人ももういない
聞く術もなく復仇の助けも不可能
此処に居るのは
「倒さなければならない敵だけだ」
やるせない
けどやるしかない
「ん、勿論だよ陸井。往こう」
ならせめて此処で
その苦しみを終わらせよう
「…光で、還すよ」
詠唱は闇入りだけど
光だけで送りたいな
終焉光詠唱
神も同技だけど陸井の手助けと
多重詠唱で数で圧倒
それでもプラズマは熱いけど
「ごめんな…」
通じなくても声を
「辛くて当たり前だよ…でも、此処にはもう誰も居ないんだ」
神宿る鳥をしっかり見据えながら
「だから、もうおやすみ、だよ」
凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と
少なくともあの声で
何があったかは察しがついた
それを実行した奴は許さないが
この先そいつを倒す為にも
今は狂った神に安らかな眠りを
「行くぞ、相棒」
相棒が考えている事も解る
だからこそ終わらせるという気持ちも
時人の言葉に頷きと返事をして
詠唱と同時に前へ出る
「分かった。敵の攻撃は任せてくれ」
着弾地点から範囲内に影響を及ぼすなら
此方へ届く前に爆破させてしまえばいい
切断の文字と共に生み出した弾丸を
両手で連射して敵の火炎弾へ叩き込む
「お前の攻撃は、届かせないよ」
敵にはきっと時人が声をかけてくれる
今は俺の言葉よりも相棒の優しい言葉で
光の中で眠れるように俺は迎撃し続けるよ
「頼むな、時人」
●
――嗚呼、許さナイゆるさなイゆるさないユルサナイ!
全身に傷を負いながらも、なお異端の神々は怒りの咆哮を上げ続けている。
赤き鳥に宿るものが狂気へ陥った理由。葛城・時人(光望護花・f35294)には、凡その見当が付いていた。
執着していたものを惨い方法で奪われ、狂った。
凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)も、水晶の森に響いた声から、そう察しが付いていた。
「誰がしたかも分かんないのがな……」
錫杖を持つ時人の右手に、力が入る。陸井はその隣で、両手にガンナイフを握っていた。
ひとつの存在が狂気に落ちるほどの、凄惨な行為。それを実行した者を、陸井は許すつもりは無い。けれどこの先でその相手を倒す為にも、今は狂える神に安らかな眠りを与えたかった。
如何なる理由で、執着していた存在を奪われたのか。時人にそれを知る事は出来ない。恐らくは、その犯人ももういないのだろう。聞く術も無く、復仇の助けも不可能。ならば此処に居るのは。
「倒さなければならない敵だけだ」
やるせない。その思いが錫杖の銀鎖を揺らす。
「行くぞ、相棒」
意識を切り替えてくれたのは、陸井の呼び掛けだった。両手のガンナイフの撃鉄を起こす音が、影の城に響く。
「ん、勿論だよ陸井。往こう」
――返せカエセ返セかえせ!
せめて此処で、その苦しみを終わらせよう。
相棒が考えている事は、陸井にも解った。だからこそ終わらせるという気持ちも。
故に。
「……光で、還すよ」
時人がそう言った時、陸井は何の躊躇いも無く頷いた。
「分かった。敵の攻撃は任せてくれ」
ユーベルコードの詠唱が開始されると同時、陸井は二歩ばかり前へ出る。異端の神々はこちらの動きに反応して、火炎弾を紡ぎ出していた。
グリモアの予知によれば、この火炎弾は着弾点から周囲に炎を巻き起こすのだという。
ならば此処へ届く前に爆破させてしまえばいい。
「俺は、護る為に」
宣言と共に、ガンナイフの弾丸へ戦文字の力が宿る。迸った弾丸は火球の中心を貫いて、激しい炎を二つに裂いた。火球は次々と放たれるが、陸井の連射する弾丸にことごとく両断されてしまう。
「お前の攻撃は、届かせないよ」
異端の神々へ言葉を掛けるのは、自分ではなく時人だと信じていた。そうであれば、相棒の優しい言葉が届くように攻撃を迎え撃つのが陸井の役目だ。
時人の詠唱は、光の果ての闇を見詰めている。それでも光だけで送りたいと、錫杖を振るって激烈な創世光を紡ぎ出した。
光が弾丸となって異端の神々へ向かう。火炎弾は無数に生み出されど、陸井の手助けと重ねた詠唱があれば、紅蓮の壁を突破するのは難しくない。
光の中で眠れるように。
「頼むな、時人」
ガンナイフの引き金を絞り続ける陸井へ頷き、時人は前へ進んだ。
「ごめんな……」
プラズマの熱を頬に感じつつ、時人は静かな月を思わせる声で言う。
「辛くて当たり前だよ……でも、此処にはもう誰も居ないんだ」
激しい光が、赤き鳥の片翼を抉った。神宿るその鳥を、しっかりと見据える。
「だから、もうおやすみ、だよ」
火球の連打が、ほんの瞬き一度の間途切れた。陸井の弾丸が胸へと届き、二つに分かたれた身を光が呑み込む。
そうして全ての光が消えた後、影の城には静けさだけが満ちた。
やがてこの城は、魂人や闇の救済者達の集う場となるだろう。
二人は小さく息を吐き、光に眠った異端の神々へ思いを馳せた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵