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輝く蝶、林檎の姫、そしてカクリヨ崩壊

#カクリヨファンタズム #戦後 #幽世蝶 #プレイング受付中

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 満月が南の空に高く昇っても、その屋敷からは笑い声が響く。
 しゃんしゃんしゅるり、しゃんしゅるり。
 妖怪達の馬鹿騒ぎ。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々。踊って笑って酒を飲み。麻雀、丁半、ポーカー、バカラ。チップが飛び交う賭場エリア。庭では相撲幽世場所の始まり始まり。飲み比べに大食い対決。幽世の宴では挨拶代わり。
 今日も明日も明後日も。幽世の宴は終わらない。

 その屋敷の庭に、きらきらと輝く蝶が何匹も飛び交っていた。さながら星屑を降らせたかのよう。幽世の風景をより幻想的に見せるその蝶の名は、幽世蝶。
 幽世蝶が群生で現れた時、幽世の崩壊が近づいているという。

 ☆―――☆―――☆―――☆―――☆

「皆様は、この蝶をご存知でしょうか」
 リリアナ・グレイ(遺された宝珠、或いは喪失の淑女・f42333)は虫かごを顔の前に掲げる。その中にはきらきらと輝く蝶が入っていた。
「これは幽世蝶。カクリヨファンタズムに生息する蝶です。そして―――この蝶の群生が現れる時、幽世に崩壊が迫っていると言われております」
 虫かごを降ろし、リリアナは目を伏せる。虫かごを愛おしそうに撫でながら。
「この蝶は、先程私がカクリヨファンタズムのとある屋敷を訪れた際に捕らえたものです。屋敷では宴会が開かれておりました」
 幽世蝶は不思議な霊力により、世界の綻びをグリモア猟兵より早く感じ取ることができる。更には幽世の危機を誰かに伝えるかのように、幽世崩壊の原因となるものの近くを舞うという特徴がある。つまり―――。
「カクリヨファンタズムの消滅を企む者が宴会に参加している、ということです」
 猟兵に与えられた任務。それは消滅の元凶となるオブリビオンを見つけ出し、倒すことである。

「私も幽世を訪れた後、この事件についての予知を見たのですが……」
 言葉を紡いでいくにつれて、歯切れが悪くなる。必死で思い出そうとするように額を手で押さえた。
「その映像はいつもより不明瞭で……どのような事件を、どのようなオブリビオンが起こすかは、私には分かりません」
 詫びるように礼をする。体を起こして、リリアナは続けた。
「ですがこの幽世蝶を探せば、自然とオブリビオンも見つかることでしょう」
 幽世蝶の特徴を利用して、幽世蝶が周囲を舞っている妖怪を捜すのだ。その妖怪が幽世崩壊の元凶となるオブリビオンに違いない。
「皆様には、宴会に参加しているオブリビオンを見つけ出し、倒して頂きたいのです。幽世の崩壊を食い止める為に」

「といっても、折角の宴会です。まずは宴会を心ゆくまで楽しみ、英気を養うのが良いと思います」
 宴会の盛り上げ役を買って、輪の中心になるも良し。宴会の催し―――相撲大会や賭博に参加したり、観戦したり。妖怪達や同行者と語り合い、酒を酌み交わし穏やかな時間を過ごすのも良いだろう。楽しみ方は十人十色、好きに過ごして欲しい。
「その中で幽世蝶の舞う妖怪を見つけられたら、怪しまれないように近づいて、戦っても人や物の被害が少ない場所まで誘導して下さい」
 そうしたら、後は戦うのみだ。

 猟兵一人一人を見回し、リリアナははっきりと述べた。
「今回の任務は、一つの世界の存続が懸かっております。しかし、今までに幾度も世界の危機を救った皆様ならば、幽世の消滅を食い止められると確信しております」
 グリモアを顕現させる。猟兵達の姿が光に包まれる。

 いざ、危機迫るカクリヨへ。


雨野つくし
 こんにちは。こちら雨野つくしです。今回はカクリヨファンタズム!ここ、事ある毎に消滅の危機に瀕しているような……?そうでもないか……?

 第1章:宴会に参加し、オブリビオンを探しましょう!宴会をどう楽しむかは自由です。未成年キャラクターさんの参加も可能です。ただし飲酒はできません。お好きなドリンクをどうぞ!
 また、オブリビオンを見つけたら何とかして人気のない戸外へ誘導しましょう。オブリビオンの詳細は断章にて。
 第2章:オブリビオンとバトル!骸魂を祓い、カクリヨファンタズムの崩壊を防ぎましょう!

 アドリブ・連携がNGでしたら、プレイング冒頭に「アドリブ/連携NG」とお願いします。複数プレイングも、プレイング冒頭にお相手のお名前かfから始まるID、もしくはその両方をご記入下さい。
 プレイングは各章の断章が公開されてからになります。

 それでは、カクリヨ崩壊阻止任務の始まりです。皆様のプレイングをお待ちしております!
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第1章 日常 『酒盛りでもいかがかな?』

POW   :    力自慢と腕比べをしよう!

SPD   :    賭け勝負でもどうだい!

WIZ   :    飲み比べで競おう!

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 妖怪達の宴会は、賑やかさを増していく。輪になって踊り、賭場は熱を帯び、野次が飛ぶ。
 終わらない宴。三日三晩続いた宴。中には疲れを感じ始めた客もいた。

 屋敷の角部屋。そこに座り込む影一つ。酒を飲みすぎたのか赤ら顔でぐったりしている。
 こっくり、こっくり。舟を漕ぎかけた時。誰かに肩を叩かれた。顔を上げると、そこには綺麗な赤いドレスを来た西洋妖怪。酒のせいだろうか、周りをきらきら光る何かが飛び回っているのが見える。
「お口直しに、美味しい林檎はいかが?」
 小鳥の囀るような声。さながら御伽噺のお姫様のようだ。美しい手で赤い林檎を差し出す。
 酔った妖怪は暫く考えたが、そうこうしている内に眠りこけてしまった。
「あらら、残念。他の人を探すとしましょう。林檎爆弾だって数は少ないし」
 西洋妖怪は軽い足取りでその場を去った。
グラース・アムレット
アドリブ歓迎

不安定な世界なので、崩壊の一手はひとつひとつ潰していかなければなりませんね

皆さんが楽しんでいる場は好きなので
陽気な妖怪さんたちとお話できたらと
最初は賭博場へ遊びに行ってみましょう
ポーカーは出身世界で仲間の奪還者たちとたまに手遊びでやってましたね
懐かしいわ
私は強くもなく、弱くもなくだったのですが
他のゲームも習ってみたいです

お酒も気になりますが、最近流行りのジュースって何がありますか?
遅ればせながらタピオカは少し前に挑戦したので
新しい飲み物を開拓してみたく!

あとは幽世蝶も探しつつ
チェイサー代わりのジュースを持って見回りに
酔っ払いの妖怪さんに声掛けを
お酒も飲み過ぎると毒ですからね……



 きらきらと光る月の明かりが水面で揺らめく。庭の草木を風が揺らす。静か。その言葉がよく似合う。
 その一方で"嵐の前の静けさ"という言葉もまた、浮かぶのである。

「不安定な世界なので、崩壊の一手はひとつひとつ潰していかなければなりませんね」
 耳を澄ますと、不吉な予感を吹き飛ばすかのように屋敷から楽しげな声がする。これぞ、カクリヨファンタズム。
 思わずグラース・アムレット(ルーイヒ・ファルベ・f30082)は頬を緩ませた。陽気な妖怪達と話すのはさぞ楽しいことだろう。任務とはいえ、楽しみだ。

 屋敷に一歩、足を踏み入れる。目の前に広がるのは大宴会。笑い声の中を潜り抜けていく。右を見れば馬鹿騒ぎ、左を見ても馬鹿騒ぎ。世界の終焉が迫っている、とは到底思えない。
 ふと前を見ると、筆で雑に「賭場」と書かれた板が置いてある。その奥では、妖怪達が机を囲んで騒いでいる。
「賭け事、というのも面白そうですね」
 入口に立っていた化け狸からチップを受け取った。
「ここではチップ以外のものを賭けるのは禁止だよ。まあ、ゆっくりしておいき」
 彼女にお礼を言って、きょろきょろと辺りを見回す。机毎にゲームは違うようだ。何となく、一番近い机の輪に加わってみる。
「おっ!お嬢ちゃんもやるかい?ちょうど今から始めるとこなんだよ」
「はい。お願いします」
「ポーカーのルールは知ってる?」
「はい。昔仲間達と手遊びでしておりました」
懐かしいわ、ぽつりと呟く。希望の見えない世界で、仲間達と笑い合っていた日々の鮮明な記憶が蘇った。強くも、弱くもなかった。負ける時もあれば勝つ時もあった。結果は人生に何の影響も及ぼさないのに、勝敗に一喜一憂していた。
 それは、今も変わらない。
「それじゃ、始めるよ」
カードが配られる。

「スリーカード」
「ツウ・ペアだ。負けたなぁ」
「うちも同じく」
 隣の妖怪がカードを表に向ける。
「ストレート」
場が沸く。残るは一人。グラース。彼女の手札に周囲の視線が注がれる。裏返されたそれは――
「フルハウスだっ!」
思わず笑みが溢れる。やはり勝てるのは嬉しい。運が良かった。もしかすると今日はラッキーデーなのかも。

「ふう……楽しかったわ」
幾つかの机を周り、様々なゲームをして。思ったより勝てた。チップもいつの間にか増えている。
 手に汗握る展開が続いたからか、グラースの喉はカラカラだ。何か飲むものは――
「あれは……」
部屋の隅に飲み物を売っているブースがあった。大半はビールや日本酒、焼酎などなど。つまりお酒。それはそれで気になるが、それよりも興味をそそるものがあった。
「なんでしょう……?サジージュース?」
名前だけではどんなジュースか見当もつかない。訝しげな顔をする彼女にウェイトレス妖怪が声をかけた。
「あー、それはちょっと前にUDCアースのほうで流行ったジュースです!ちょっと癖のある味ですけど、慣れたら美味しいですよ!」
ちょっと飲んでみます?とウェイトレスが小さなコップに注ぐ。
こくりと喉が動く。美味しい。
「これを頂けますか?」
「はーい!」
受け取ったジュースを飲み干す。水で割ってあるのか、さっぱりとしている。
「美味しかったです」
「ありがとうございましたー!」
今度は何をしようか。行く宛を決めず歩くのも悪くないかもしれない。あの馬鹿騒ぎだ。どこも楽しそう。

 相撲を観戦し、妖怪達と語り合い、時には踊る妖怪に合いの手を入れたり、ちょっと歌ってみたり。いつの間にか時は過ぎていた。月はもう高く昇っている。
「疲れたわ……少し休もうかしら。幽世蝶も、見つけないと」
あの喧騒が随分と小さくなった。虫の音が疲れた体を癒やし、そよ風が優しく頬を撫で、火照った体を冷やす。
 部屋の隅に腰を下ろす。ふう、と息をつく。視線は暫く虚空を彷徨ったあと、隣で眠りこける妖怪に向いた。
「酔いつぶれてる……」
心做しか顔色も悪い。何かしてあげられることはないだろうか。グラースは何かを思いついたような顔で喧騒の中へと戻っていった。

 戻ってきた彼女の手には、さっきのジュース。弱炭酸水で割ってもらった。これならさっぱりするだろう。他にも酔っ払いがいるだろうと見当をつけ幾つか持ってきておいた。
「うーん、うぷ」
苦しむ妖怪。グラースはジュースを一つ手渡す。
「さっぱりしますから、これをお飲みください」
「ありがとねぇ〜……」
「お酒も飲み過ぎると毒ですよ」
顔色が良くなったのを見て、彼女は他の酔っ払いの元にも届けに行った。

 残り一部屋。幾つもある休憩室の最後の一部屋。ここに届ければこれで終わり。今のところ幽世蝶は見つけられていない。
 失礼します、と襖を開いた。ひらり。何かが飛んでくる。きらきらと輝くなにかが。それはのグラースの周りでくるりと身を翻す。
 グラースは思わず息を呑んだ。目の前に立つ西洋妖怪の周りに輝く蝶、幽世蝶が群れていたのだから。喉まで出かかっていた驚きを何とか飲み込み、平然と話しかける。
「あら?もしかしてあなたも酔っ払いさん達に声をかけていらっしゃるのですか?」
ちらりと籠に目をやる。赤い林檎の山になっている。赤いドレスに赤い林檎。揃えたのだろうか。
「うふふ。ほら、お酒ばっかりだったら疲れちゃうじゃない。あなたも?」
笑顔でええ、と返す。この妖怪を、どう外まで引きずり出そうか。
「このジュースを配ってるんです。そうだ。これ、何かのフルーツを使ってるんだけど今切らしちゃってるみたいで」
相手の反応は特になし。気づかれてもいないだろう。
「外にその木があるらしいので今から取りに行こうと思うのですが……付いてきて下さいませんか?」
姫の眉間に僅かにしわが寄る。
「ほら、果実って重いでしょう?私だけでは皆さんが満足する量を持って帰れそうになくて。手伝って頂けると嬉しいのですが……」
姫は暫く考え込むと、口を開いた。
「わかったわ。手伝ってあげる」
僅かにグラースの口角が上がる。
「では、行きましょうか」
戦場へと。そう、心の中で付け加えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

劉・久遠
酒盛り――それは甘美な響き(日本酒好き
もちろん猟兵の仕事は忘れてへんけど、せっかくの宴会やもの
妖怪さんらと仲良ぅ酌み交わして楽しまんとね

ブースで酒を買い、人懐っこい笑顔浮かべ
「ボクも混ぜたってー♪」と酒飲みの輪に混ざろ
日本酒やったらいくら飲んでも酔わんけど、仕事やしほどほどにせんと
これは何の宴なん? と妖怪さんらのお話聞いたり
ご機嫌で歌や演奏披露したり、一緒に楽しく踊ったり
移動して麻雀卓囲んだりと宴を楽しみます

適度なところで幽世蝶探しに動きましょ
まだ見かけてへんってことは人気の少ない所かな
自然に見えるよう屋敷内をフラフラ彷徨う酔っ払い演じ
誰か外の空気吸いに連れてってくれへんかなー?

アドリブ歓迎



 暗い小道に人影一つ。日はとうに沈み、東の山の端に月が覗いている。夕暮れの中揺れる手提げ提灯の光。
「酒盛り――それは甘美な響きやな」人影――劉・久遠(迷宮組曲・f44175)は軽やかな足取りで、灯りのついた屋敷へと向かった。

 垣根の隙間からちらりと中の様子を見る。光と音を極限まで詰め込んだかのような喧騒。つんとつつけばエネルギーが大爆発を起こしそうだ。久遠の鼓動が高鳴る。
「せっかくの宴会やもの、楽しまんとね」
勿論猟兵の仕事も忘れていない。でも、あの中で繰り広げられる"楽"の嵐に身を委ねてみたいという思いが渦巻く。好きな日本酒を、愉快な妖怪達と酌み交わす――なんて楽しそうなんだろう。

 人混みをかき分け、辿り着いた販売ブース。日本酒を買い、試しに一口。
「美味しいわ、これ」
もう1瓶欲しいところだが、酔いにくい体質とは言え戦いの前に飲みすぎるのもよくない。控えることにした。
 ざっと辺りを見回す。いい感じに入れそうなところは――
「おっ、あの集団楽しそうやな」
小走りで近寄り、妖怪の肩をポンと叩く。
「なあなあ、ボクも混ぜたってー♪」
「おう、こっち座れ」
ガタイのいい東方妖怪が彼の隣を叩く。人懐っこい笑顔を浮かべ、飛び込むように着座。
「中々いい酒買ったじゃん。それ美味しいよな」
「儂もそれにすれば良かったかのう」
「いいや、アンタの酒だって結構良いやつだぜ」
和やかな会話が進む。
「そういえば、これは何の宴なん?ただの宴……にしては規模が大きいな」
「知らん。辺り一帯にさ、ここで宴をやるって張り紙がぺたぺた張られてたんだ」
「宴って聞けば、カクリヨに住まう者としては行かずには居られないよなあ」
いかにもカクリヨらしい、あっけらかんとした答えだ。ちょっと危機感を持って欲しいところではあるが。
「ありがとな。まあ、楽しければそれでもええな」
向こうの方から歌が聞こえる。踊りだしたくなってしまう。体がうずいて仕方ない。
「皆で踊りにいかへん?」

「楽しかったわ〜、次は何しようか?」
 歌ったり踊ったり。時には楽器も演奏したり。お酒の効果もあってか、気分が高揚している。今ならなんでもできてしまいそうだ。
「なあ、麻雀しようぜ〜!」
グループの1人が声を上げる。麻雀。楽しそうだ。賭け事というのも宴に付き物。
「負けへんで〜」

 ちょうど一つ終わったところで、久遠はふと外を見た。すっかり暗くなっている。そろそろ、仕事を始めなければ。
「ごめんな〜、ちょっと疲れてしもたわ」
断って席を離れる。名残惜しいが、カクリヨの為。今後ろで楽しむ彼らを守るのが、猟兵の仕事だ。
「まだ幽世蝶は見かけてへんな」
ということは、人気の少ない場所だろうか。見る限りどこもかしこも人でごった返している。これは屋敷を虱潰しに捜すしかなさそうだ。怪しまれないよう、酔っ払いのフリをして。もしかすると、そうすることで向こうから寄ってきてくれるかもしれない。

 ふらふらと屋敷を彷徨う久遠。ふと、一つの看板が目に入った。
『この先 休憩室』
隣の襖を開くと、通路が先に続いていた。人気もない。十中八九、ここにいると考えていいだろう。
 暫く彷徨っていると、とある部屋に行き着いた。中から声が聞こえる。女性の声。近寄ってみる。部屋の中から何かが飛び出してきた。小さく輝くそれは、幽世蝶。心の中でガッツポーズ。
 此処は一つ、芝居を打つとしよう。
「ふああ〜」
間抜けな声を出して部屋の前に倒れ込む。完全に酔っ払いのそれだ。
「あら?」
部屋の中の女性がこちらに近づく。赤い裾が視界の中で揺れる。
「あ〜、おねえさん、ちょっと立ち上がるの、手伝ってくれへん?」
彼女が手を差し伸べる。それを取って立ち上がるも、ふらりと彼女に寄っかかる。寄っかかられたほうは嫌そうな顔をしたが、すぐに笑顔で引き離そうとした。
「自分で立てないの?それならこの部屋でゆっくり……」
降ろそうとする彼女を手で制する。
「いやぁ〜、ちょっと外の空気が吸いたくてな?でも1人じゃ歩けへんから、一緒に外に来てほしいんやけど……ええか?綺麗なおねえさん♪」
上目遣いで彼女を見る。頬が紅潮している。いくらオブリビオンといえど取り憑かれているだけだ。このあたりは普通の妖怪と何ら変わりない。彼女はふいとそっぽを向いた。
「まあ、それほど言われるのなら……仕方ないわ」
2人は寄り添って、屋敷を後にした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

青梅・仁
此処に住んでると滅亡の危機なんて日常茶飯事になってくるというかなんというか……
ちったぁ落ち着いてくれねえかな……
だが、ま、幽世蝶が報せてくれるのはありがたいよな

たまには宴会にも顔出してみっかね
最近は知り合いとばかり呑んでいたからな
酒を飲みつつ最近どうよ、なんて妖怪達の近況も聞くとするか
皆が日々を過ごせてるのを聞けたら安心する

幽世蝶の舞う妖怪を見つけたら声をかけてみる
おーい、お前さんもこっちきてちょっと呑まない?
酒である程度酔わせたところで大丈夫?って聞いてみるかね
ちと飲ませすぎたか?ごめんな?
少し静かな所で落ち着いた方が良いかもな
こっちの方なら五月蝿くないはず
気遣いつつ被害が出にくい場所へ誘導



 カクリヨファンタズム。現代地球と骸の海の狭間の世界。それ故に不安定な世界。そこに住む者にとって、世界滅亡の危機なんて日常茶飯事なのだ。だが、慣れきっている訳でもない。特に界を守る猟兵にとっては。
「全く……ちったぁ落ち着いてくれねえかな……」
夜闇の中、田んぼの畦道を歩く青梅・仁(鎮魂の龍・f31913)はちらりと前を見る。
「だが、ま、幽世蝶が報せてくれるのはありがたいよな」
きらきらと輝く一匹の蝶。彼を導くかのように飛んでいく。向こうに見える屋敷へと。
「たまには宴会にも顔出してみっかね」

 屋敷に一歩足を踏み入れ、深呼吸。この空気、懐かしいような、新鮮なような……。ここのところ知り合いとばかり呑んでいたからだろうか。
「おーい、日本酒頼むぜー」
 早速酒を手に、昔馴染みの妖怪達に声を掛ける。壁際を陣取り、皆で輪になって座る。酒を一杯呷って、せきを切ったように話し出す。
「久しぶりだな、お前ら。どうだ?最近」
「まあ、いつも通りだよ。特に何も変わらん」
「そうねえ、本当。幽世蝶が出たとか噂になってるが、あたしたちにゃ関係ないし。こうやって、昼は働いて夜は宴会に出てって、楽しんでますよ」
皆、いつもと変わらぬ日常を過ごしているようだ。思わず息をつく。彼らがそうやって過ごせているのなら安心だ。
「おい、なんで笑ってんだよ、どうしたんだ?」
「わあほんと。何考えてたのよ?」
「いや、何でもない。……本当に何でもないからな!変なことなんか考えてねえよ!」
一同、爆笑。こうやって他愛ない話で笑える日々を守りたいと、切に願った。

 皆、酒が結構回ってきた。より話は過熱する。その騒ぎに誘われてか、いつの間にか他の妖怪も集まって大きな輪になっていく。
 一方で、仁としてはそろそろ幽世蝶を探しに行きたい。だが盛り上がる空気に水を差すのも無粋だ。いい機会が来ないだろうか。
 彼の目の前を、光が横切った。ふと飛んでいった先を向く。そこには赤いドレスに身を包んだ西洋妖怪が佇んでいた。
「おーい、そこのお嬢ちゃん」
視線がこちらを向く。
「こっち来て、ちょっと呑まない?」

「この酒、美味いんだよ。ちょいと呑んでみてくれ」
「ビールもいいねえ。あ、飲むか?」
「西洋妖怪なら、洋酒の方が口に合うか?」
 仁に勧められた酒を律儀に全て呑むオブリビオン。すっかり顔が火照っている。
「大丈夫か?」
彼女の視線が虚空を彷徨う。これは、酔っている。
「ちと飲ませすぎたか?ごめんな?」
「大丈夫……」
申し訳なさそうに彼女の顔を窺う。
「少し静かな所で落ち着いた方が良いかもな」
立ち上がり、戸を指す。その先は外。風も冷たい。酔いも一気に覚めそうだ。
「こっちの方なら五月蝿くないはずだぜ」
彼女の手を取り、一緒に外へと歩いていく。
「本当にごめんな。辛くなったら寄っかかっていいから」
「ええ……ありがとう……」

 田んぼの畦道を抜け、人のいない所へ。もう屋敷の灯りは見えない。酔いの覚めたオブリビオンが気付いた時には、もう彼の策は成就していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『紅玉姫』

POW   :    紅い林檎に死の口づけを
攻撃が命中した対象に【口づけてから投げる、いくつもの林檎爆弾】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【次々と発生する連鎖爆発】による追加攻撃を与え続ける。
SPD   :    だれが林檎に毒を塗ったの?
【おとぎ話の世界】から【七人の小人】を召喚する。[七人の小人]に触れた対象は、過去の【罪からくる良心の呵責】をレベル倍に増幅される。
WIZ   :    鏡よ、鏡。本当に恐ろしいのはだあれ?
対象に【溶解する、鏡写しの自身の真の姿】の幻影を纏わせる。対象を見て【畏怖】を感じた者は、克服するまでユーベルコード使用不可。

イラスト:なみはる

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ユイン・ハルシュカです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ほんとうは、こんなはずじゃなかった。

 猟兵共の策に嵌ったと気づいた時には遅かった。驕っていた。もっと早く計画を遂行していれば……。
 これで、幽世を滅ぼせると思ったのに。ここが滅びれば皆私と同じだ。私と同じように骸の海へと堕ちる。あの時、ここに辿り着けなかった私と同じように……。

 ああ!この体が私に抗っている!今は何とか繋ぎ止めているが、少しでも気を抜けば私はただの霊魂と化すだろう。そうすればこの世界に対して何もできなくなる!
 いや……まだマシか……滅んでしまえば、本当に何もできなくなる。目の前には猟兵。やつらは私を滅ぼせる。

「あいつらに勝たなきゃ。必ず幽世を滅ぼしてやるんだから……!」
賤木・下臈
この|下臈《げろう》、爆発の気配を感じて罷り越しました。下臈は自爆や爆発には一家言ございます。我々「あやしき下臈」は、太古の昔にカンブリア爆発に便乗して誕生し、勢い余って自らも爆発して絶滅したものですので。
あほな妄言はさておきこの下臈、爆発で人を傷つけるのは好まぬところであります。故にその林檎爆弾、阻止します。世界を手にかけ得る程のお方に、この身分賤しき下臈がどれほど伍し得るかは分かりませんが。

行動はUCによる自爆。攻撃対象なし。林檎爆弾の爆発を上回る勢いで自爆し、その爆風を我が物として抑制を試みます。後はお頼み申します。私は多分明日にはその辺から湧いてきますのでお気になさらず。



 月が照らす野原。紅玉姫は林檎爆弾を弄ぶ。林檎に刻まれた目と口から光が漏れ出ている。導火線の先端で火が揺らめいている。
 それらが光を発するものであるなら、賤木・下臈(おいしいクッキーです・f45205)の烏帽子の下の頭は月光を反射するものだろう。姫と下臈、2人の視線が交差した。

「貴方が噂のオブリビオンですね?」
 下臈はしっかと目の前の姫を見つめる。それから、彼女の手中の林檎爆弾に目を遣った。
「それは爆弾でしょうか。成程爆発の気配はそこからですね。いやはやこの下臈、爆発の気配を感じて罷り越したもので。すっからかーん」
紅玉姫は思わず眉を顰めた。軽蔑の色が目に見える。そして驕り。負けるはずがないと踏んでいる顔だ。
「そう、この気配が分かるのね。ということは貴方の得物も爆弾なの?そうは見えないけれど……」
笑いを溢す姫。下臈もにこりと笑い返す。対抗心も憤りも感じられない。姫は不快を示した。
「下臈は自爆や爆発には一家言ございます」
彼は瞼を閉じ、昔を思い出すような素振りをする。隙を逃すまいと姫が爆弾を投じようとした瞬間、彼は語りだした。
「我々『あやしき下臈』は太古の昔にカンブリア爆発に乗じて誕生し、勢い余って自らも爆発して絶滅したものですので」
姫の眉間の皺が更に深くなる。疑いの眼差しを下臈に向ける。彼は開眼し、笑った。
「あほな妄言はこの辺で」
姫は息をつく。こんな事だろうとは思っていた、と呟いた。
 だが、すぐに我に返る。
「ねえ、ここをどいてくれないかしら?早く済ませたい用事があるんだけど」
「その爆弾で」
下臈の低い声。今までとは調子が打って変わった。
「人を傷つけるおつもりですかな?」
姫は嘲るように笑う。
「当然でしょう?爆弾は武器だもの」
「では、その林檎爆弾、阻止します。この下臈、爆発で人を傷つけるのは好まぬところであります故」
彼は内心、不安だった。世界を手にかけ得る程のオブリビオンに、身分賤しい自分がどれほど伍し得るか。それはやってみなければ分からない。下臈は覚悟を決めた。捨て身の一撃を。

「力尽くでも、どいてもらうわ!」
 紅玉姫の攻撃を喰らう。大したダメージはない。下臈が反撃しようとした瞬間だった。
「もう遅いのよ」
姫は手元の林檎に口付けをした。それを目にも留まらぬ速さで投げる。そのまま追尾弾のように下臈に迫る。
「さあ、どこまで耐えられるかしら!」
幾つも幾つも投げる。全てが下臈目がけて飛んでいく。一発目が着弾する、その時だった。
 轟音が鳴り響いた。自爆したのだ。ユーベルコード『G. E. R. O. U. ACT2』。誰かを攻撃はしない。ただただ姫の林檎爆弾を消費させるための自爆。
「なっ……!なんて愚かなの……理解できない」
口をぽかんと開けた姫を力強く睨む。口角を上げて。
「理解は結構。これが下臈の美学、下臈さ、ゲロイズム!不条理とナンセンスこそが美しいのです!」
彼にとって自爆とは下臈さの表現の一環。そこに攻撃の意思はない。
「何故そんなことを……自分の首を絞めるだけじゃない」
青ざめる姫。彼女の視線の先、炎の中の彼は高らかに叫んだ。
「なぜなら私は下臈だから!!」
爆風は他の林檎爆弾の爆風を相殺していく。その様子を、紅玉姫はただ眺めることしかできなかった。
「後のことは……お頼み申します」

 戦闘不能。戦闘継続不可。彼はグリモアベースへと送還された。

成功 🔵​🔵​🔴​

グラース・アムレット
アドリブ歓迎

骸魂は、生前に縁のあった妖怪を飲み込んでオブリビオン化する――とのことですが、紅玉姫とはどんな縁があったのでしょうね……

いきましょう、ゆきちゃん
狛犬を駆けさせて体当たりのシールドバッシュ
私は彼女の手元や投擲された林檎爆弾をアサルトライフルで撃っていきます
ペイント弾も使って色を撒き

ここは流れ者や過去の遺物など
色んなものを招き入れてくださって、私にはそれが心地よく感じます
体の持ち主の妖怪さんも一瞬とはいえ
あなたを迎え入れたのではないでしょうか?
ペイント弾やペイントブキを使ってUCを

溶解する自身は
あり得た出来事だったかもしれませんね
アポカリプスヘルは壊滅から生き延びた世界ですから



 オブリビオン「紅玉姫」をグラース・アムレット(ルーイヒ・ファルベ・f30082)は見つめる。骸魂は生前に縁のあった妖怪を飲み込んでオブリビオンと化す――ならば紅玉姫と骸魂にも何か縁があるはず。
 この骸魂が紅玉姫を飲み込んだのはなぜなのだろうか。骸魂は、姫をどう思っているのだろうか。知りたい。けれど今は戦わなければ。知るのは骸魂を祓ってからでも遅くはないだろう。

 林檎爆弾に手をかける紅玉姫。グラースも戦闘態勢に入る。青いふさふさの毛を撫でる。
「いきましょう、ゆきちゃん」
狛犬のゆきちゃんはそのまま駆け出していく。後方でグラースはアサルトライフルを構えた。
「倒れろ!」
紅玉姫は林檎爆弾を走るゆきちゃんへ投げる。しかし爆弾は空中で爆発。煙の向こうには、姫に銃口を向けるグラースの姿が。銃声が響く。籠、林檎を握る手元へと銃弾が飛ぶ。
「きゃああ!」
そこに、ゆきちゃんが体当たり。姫は尻餅をついた。
「まだまだよ……」
再び立ち上がる姫。グラースが銃を構え直したその瞬間。
 思わず息を呑んだ。目の前にいたのは紅玉姫ではない。自分だ。溶けゆく自分の姿が目の前にある。ゆきちゃんが蒼炎を帯びる。感情が昂るのも無理もない。畏怖が体を支配する。
 その一方で、グラースの心の奥底では何かが抗っていた。その声は段々大きくなる。気がついたときには、ライフルにペイント弾を装填していた。
「このままじゃダメっ!」
色を撒き散らす。次々と彩られる風景。ネオンピンク、蛍光イエロー、エメラルドグリーン。明るい色は心も明るくする。自然と畏怖は消え去っていた。
「このまま決めるわ!」
ペイントブキに持ち替える。空中に魔法陣を描く。カラフルな魔法陣は光を放つ。ユーベルコード『色彩の魔法陣』、発動。

「紅ちゃん、プレゼントあげる!」
「わあっ!私甘い林檎大好きなの」
 戦場に笑い声が響く。ユーベルコードによって召喚された、骸魂と紅玉姫の思い出。それは残酷な程美しく、のどかだった。片方は幽世で生き永らえ、片方は辿り着けず狭間で斃れる未来が待ち受けているとは思えないくらいに。
「あ、ああ……」
姫が膝をつく。ぽたりぽたりと涙が落ちる。
「ここは」
グラースが語り出す。それを潤んだ瞳が見つめる。
「流れ者や過去の遺物など色んなものを招き入れてくださって、私にはそれが心地よく感じます――あなたのお友達も、一瞬とはいえあなたを迎え入れたのではないでしょうか?」
姫の目が見開かれる。そうだ。飲み込んですぐの頃は、今体が感じる抵抗を感じていなかった。
「じゃあ、なんで今私に抗うの……」
「きっと、カクリヨを護りたいんじゃないでしょうか。それか、あなたに罪を負ってほしくない、か」
姫は声をあげて泣いた。戦いも忘れて、泣いていた。

 最後の一撃を放つ直前、ふとグラースの頭の中に溶けゆく自身の幻影がよぎった。よく考えれば、あれはあり得た出来事だったかもしれない。アポカリプスヘルは壊滅から生き延びた世界であるから。
 アポカリプスヘル。そこにいる仲間達のことも、ふと浮かんだ。骸魂と姫のように仲良く遊んだ友達は、元気だろうか。
「また、会えるといいなあ……」
グラースは最後の一発を放った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

青梅・仁
随分切羽詰まってんなぁ……
辿り着けなかったことが、強い憎しみに変わっちまったのかな
それとも楽しそうな妖怪達が妬ましくなってしまったか

おじさん、ここに住んでるからさ
「滅ぼしてやるんだから」とか言われちゃうと見逃してあげらんねぇんだわ
それにお前さんがカクリヨを滅ぼしたとしたら
今お前さんが飲み込んでる妖怪も悲しむだろ?

鏡写しの自身の真の姿?
悪いが猟兵になってから邪龍の俺は何度か見てんだわ
溶解する程度の作りじゃあ怖がってやれねえな
なあ小吉?
『オレも慣れたなー。てかあいつちょっと溶けてね?だいじょぶそ?』

そんな幻影纏う必要も憾む必要もねぇよ
UCで幻影を押し流し、『居合』
思うことはあるんだろうが――眠りな



 紅玉姫は殺気に満ちた目で目の前の猟兵――青梅・仁(鎮魂の龍・f31913)を睨む。一方で、仁は敵を警戒しつつも穏やかな雰囲気を纏う。煙管を吹かす姿は、呑気とさえ言える。
「随分切羽詰まってんなぁ……」
「あなたのせいでしょ?」
「そもそも、なんでカクリヨを滅ぼそうとしてんだ?」
姫は押し黙った。カクリヨへ辿り着けなかったことが強い憎しみへと変化したのか、それとも楽しそうにカクリヨで生を享受する妖怪たちを妬ましく思ったのか、あるいはただ一緒になりたいだけか……真相は姫しか知り得ない。
「ま、答えたくねぇならいいけどな」

 それよりも。仁は姫の目を見据えた。子に諭すような表情で、彼は語りだす。
「おじさん、ここに住んでるからさ。『滅ぼしてやるんだから』とか言われちゃうと見逃してあげらんねぇんだわ」
姫は仁から目を逸らす。聞く気はないという意思表示。気にせず彼は続ける。
「それにお前さんがカクリヨを滅ぼしたとしたら、今お前さんが飲み込んでる妖怪も悲しむだろ?」
「うるさい」
ぼそりと呟いた。何度も何度も呟く。徐々に声を荒げながら。
「うるさいうるさいうるさい!!」

 憎悪を露にした姫を黒い靄が包む。それは一つの像を成していった。龍のような尾。赤く染まった右目。頬の鱗。仁の、真の姿そのものだ。
「鏡映しの真の姿、ねぇ」
その像が突然、どろりと溶け出した。次々と全身が崩れだす。普通の人間が見れば恐怖に苛まれるような光景だ。
 だが仁はといえば、平然とそれを眺めていた。
「悪いが、猟兵になってから邪龍の俺は何度か見てんだわ。溶解する程度の作りじゃあ怖がってやれねぇな」
隣に佇む少年の霊魂、小吉に同意を求める。
「オレも慣れたなー。てかあいつちょっと溶けてね?だいじょぶそ?」
「大丈夫だろ、幻影だし」

 身をかがめる。刀の柄に手をかける。真っすぐに、幻影を見据える。
「そんな幻影、纏う必要も憾む必要もねぇよ」
彼の背後から、波が現れる。何百体もの怨霊を乗せて。彼らは禍々しいオーラ溢れる武器を手に愉しげに笑っている。ユーベルコード『怨嗟の海の誘い』。暗く冷たい波が紅玉姫を襲い、幻影を掻き消した。
「嘘っ!?」
ほんの一瞬、姫は、骸魂は気を取られた。その隙をついて姫の身体は骸魂の支配から脱した。戻ろうとする骸魂。しかし。
「思うことはあるんだろうが――眠りな」
居合斬り。瞬き一つの時間に抜かれた刃は骸魂を両断した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

劉・久遠
道術で視れば確かに姫の体内に不浄の気が、これが骸魂か
演技とはいえ寄りかかられたん嫌やったよなぁ
紅玉姫も、姫に縁ある骸魂にもごめんなと詫び
せやけど幽世を道連れにすんのは良ぉないからね
止めさしてもらいます

姫の体が抗うのを後押しするよう、楽器演奏で浄化の音響攻撃
爆弾は見切りで回避、或いは音響攻撃を合わせ相殺
姫のUCには『戦死する自分』を想起してまうね
常に頭の片隅にあるソレ、分かっとっても怖いよな
あぁでもヘアピンからうちの子の気配がする(霊的防護
「ただいま」を待っとる家族の為にも負けん気で克服
UCで自己強化し除霊の一撃を骸魂に
きっと骸魂も姫と共に辿り着きたかったやろなぁ
その寂しさ、姫と一緒に覚えとくよ



 紅玉姫の前に立ちはだかる劉・久遠(迷宮組曲・f44175)。その目は真っすぐ前を向いている。道術を使えば、姫の体内で蠢く不浄の気が視える。骸魂だろう。
 骸魂を敵として再認識したと同時に、姫に申し訳なさも抱いていた。姫に縁ある骸魂にも同様に。
「寄りかかられたん嫌やったよなぁ。姫さんも、骸魂さんもごめんな」
なら――姫が口の端を歪める。久遠を下から見上げる。
「ここをどいて頂戴?」
彼は姫から視線を外した。
「それは出来へん、堪忍な」
姫は不満そうに眉を寄せる。久遠は愛用のスラッシュギター『Labyrinth Suite』を構えた。右手にピック。
「幽世を道連れにすんのは良ぉないからね、止めさしてもらいます」

「そう。なら私の林檎をお食べなさい」
 そう口にする姫の額には汗が浮かんでいる。林檎へと伸ばす手も震えている。彼女を道術で視ると、不浄の気が何かに押さえつけられるようにゆっくりと小さくなっていく。
 本物の姫が、抗っているのだ。もし彼女が骸魂の支配下から脱せたならば、骸魂を滅ぼせる好機となる。
「姫さん、ボクもお手伝いすんわ」
ギターを掻き鳴らす。重なり合う音が連なった波を生み出す。彼の音は姫の身体に響いた。
「体の抵抗が強く……違う、私が弱く……!」
音は邪を破り、浄化する。久遠の演奏は骸魂の力を弱めていく。骸魂も負けじと無理やり体を動かし、手当たり次第に爆弾を放る。しかし久遠には届かない。音響攻撃が合わさり相殺され、空中で爆発するからだ。何発かは潜り抜けていくも、久遠は演奏を止めることなくひらりと躱す。
「こうなったら……」
姫は、骸魂はもう体力の消費を厭わなくなった。最後の力でユーベルコードを発動した。溶解する久遠の像を纏う。

 久遠は『畏怖』を覚えていた。姫の映す像を見るとどうしても『戦死する自分』を想起してしまう。戦死する。二度と家族には会えない。愛する家族に――子供たちの元気な声も、聞けなくなってしまう。その可能性は常に頭の片隅にあるけれど、分かっているけれど、怖い。そうなる未来も十分に考えられる故に。

 ふと頭に手を遣った。硬い感触。ヘアピンだ。椿と桔梗。娘にと買ったにも拘らず子供たちにつけられている。
「あぁ、このヘアピンからうちの子の気配がする」
「ただいま」を待つ家族がいる。こんなところで、負けられない。何としても家族の元に帰るんだ。心の雲が一つ残らず晴れていく。
「『おかえり』の笑顔のためなら、パパはなんぼでも強ぉなれますよ」
ユーベルコード『Returnee』で自らを強化する。体に力が満ちていく。それと同時に力を使い果たした骸魂の支配下から姫が抜け出した。霊魂の姿になった骸魂。再び戻ろうとする。
「させへんっ!!」
骸魂に飛びかかり、一撃。除霊の力を込めて。

 骸魂ははらはら塵と消えていった。かつて辿り着けなかったカクリヨの空へと。明るくなり始めた空を久遠は見上げた。
「きっと骸魂も姫と共に辿り着きたかったやろなぁ。ここに」
背後では、紅玉姫が木にもたれかかって眠っている。籠を大切そうに抱えて。その中には、爆弾ではない林檎が一つだけ入っていた。目と口が彫られている。そういえば、姫を飲み込んだ骸魂は元々――ジャック・オ・ランタンだったらしい。
「骸魂さん、キミの寂しさ、姫と一緒に覚えとくよ」
カクリヨに平和が訪れたとばかりに、朝日が大地を照らしていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2025年04月10日


挿絵イラスト