サーマ・ヴェーダは恋慕の交歓か
メルヴィナ・エルネイジェ
二人がバレンタインチョコを交換し合って、メルヴィナがルウェインに体液入りチョコを食べさせるノベルをお願いします
アドリブその他諸々歓迎です
●バレンタイン前日
「あの日からそろそろ一年になるのだわ」
メルヴィナは去年の事を思い返していました。
ルウェインにお詫びの代わりにチョコを贈った日の事です。
「今度は普通に贈るのだわ」
海竜の大剣の呪いは発現していないので、ルウェインはきっと約束を守り続けています。
約束は自分が言い出した事ですし、そのご褒美にチョコをプレゼントしてもいいと思ったのです。
●メルヴィナ、台所に立つ
今回は準備する時間があったので、自分で作ってみることにしました。
作っている最中に思い出すのは、チョコを渡した時のルウェインの顔です。
あの笑顔と反応は気持ち悪かったなと思いました。
「ただのお詫びの代わりだったのに、あんなに喜んで……バカみたいなのだわ」
これで普通にチョコを贈ったらどんな反応をするのか、想像すると気持ち悪い半分楽しみになってきました。
●黒いおまじない
そんなルウェインの顔を思い出していた時、ふと思いました。
ルウェインは性格は兎も角、顔は良いのです。(だってイケメンに定評のあるサキチ絵師様にちよこ絵師様デザインですし)
気持ち悪いのも自分に対してだけなので、性格を知らない女性から見たら魅力的に思えるかも知れません。
ひょっとしたら他の女からチョコを沢山貰っているのではと思いました。
もしそれがきっかけで、他の女に絆されたら?
海竜の大剣の呪いがあるとはいえ、実際に呪いをみた事はないので、ただの言い伝えという可能性もあります。
「そんなのは許せないのだわ」
メルヴィナはふと巷で噂のおまじないを思い出しました。
それは、チョコに自分の体液を混ぜると、食べた相手は自分のことしか考えられなくなるというおまじないです。
「私はいま、とてつもなく気持ち悪いことをしているのだわ……」
メルヴィナは自分の指にそっと包丁の刃を添えました。
●一方のルウェイン
「あの日から間も無く一年だな……」
ルウェインは去年のバレンタイン当日の事を思い返していました。
メルヴィナからチョコを貰った時のことは今も記憶に深く刻まれています。
「思えば俺はメルヴィナ殿下から頂いてばかりだった。このままではダメだ。何かの形で感謝の気持ちをお返しせねば!」
というわけでチョコを献上する事にしました。
●チョコ交換
バレンタイン当日、ルウェインはメルヴィナが呼ぶまでもなく海竜教会に訪れていました。
「メルヴィナ殿下! こちらをご献上させて頂きたく!」
メルヴィナは跪くルウェインからチョコを渡されました。
「これは? チョコレートなのだわ?」
「はっ! 恐れ多くも自分はメルヴィナ殿下より頂いてばかり。この感謝の思いを形にしてご献上せねばと愚考した次第であります!」
「別に……私が勝手に贈っただけなのだわ。大剣はリヴァイアサンが渡すよう言ったものだし……でも貰っておくのだわ」
メルヴィナはちょっと嬉しくなりました。
するとルウェインがチョコを手渡した時、メルヴィナの指に包帯が巻かれている事に気付きました。
「メルヴィナ殿下、その指は? まさかお怪我を!? 殿下を狙う不届者の仕業ですか!?」
「な、なんでもないのだわ! チョコを作ってた時にちょっと切っただけなのだわ! それよりも、これなのだわ!」
メルヴィナはチョコをルウェインに贈りました。
「今度はお詫びとかじゃなくて、普通にあげるのだわ」
「なんたる光栄!」
ルウェインは大喜びです。
「でも手作りだから美味しいかわからないのだわ」
「手作りですって!? メルヴィナ殿下の!? なんと! 至極恐悦!」
「だから、この場で食べてみてほしいのだわ」
「はっ! メルヴィナ殿下のお言葉とあらば! 直ちに!」
可愛らしいラッピングを解くと、そこにはちょっと不恰好なチョコが収められていました。
「これがメルヴィナ殿下が直々にお作りになられた……!」
ルウェインは目を輝かせました。
「ではさっそく!」
チョコをじっくり味わうルウェインの様子を、メルヴィナはじーっと見つめていました。
「なんと……これは……メルヴィナ殿下のお味がします! そしてこの香り! まさしくメルヴィナ殿下ご自身の!」
メルヴィナは自分の味と香りと言われてビクッとしました。
「その! ごめんなさいなのだわ! 騙すつもりじゃなかったのだわ! ただあなたが他の女に――」
「メルヴィナ殿下の温もりが伝わってくる逸品です! ンアッー!」
メルヴィナが全部言い切る前に、幸福感が暴走したルウェインは叫びました。
「ええと、その、美味しかったのだわ?」
「はい! とっても!」
「そう……なら、よかったのだわ」
ルウェインは満面の笑顔で即答しました。
メルヴィナは我知らず笑顔になっていました。
しかしルウェインの言う通り、チョコからメルヴィナの味と香りがするのは当然です。
何故なら、チョコにはメルヴィナの血が混ざっていたからです。
だいたいこんな感じでお願いします。
ルウェイン・グレーデ
●人数
メルヴィナ
ルウェイン
以上2名です。
●ルウェインはチョコの混入物に気付いてたの?
ほんのり血の味がすることに気付いていました。
「手をお怪我なされた時に血が入ってしまったのだろうか? おいたわしや……ん? つまりこのチョコレートにはメルヴィナ殿下の一部が含まれていると? つまり俺は今、メルヴィナ殿下を味わっているということ……!? いかん! そんな不埒な発想は! メルヴィナ殿下が文字通り血の滲む努力をしてお作りになられたチョコレート! 一片に至るまで堪能せねば! やましい思いなど断じてない! 断じて! 断じて!」
●前日譚
思い返してみれば、とメルヴィナ・エルネイジェ(海竜皇女・f40259)は一年を振り返った。
多くのことがあった。
それは思い出しただけでゾワゾワとするものばかりであったが、しかし、たった一人の男のことばかりを思い返すものであった。
メルヴィナのここ一年といったら、その男に振り回されっぱなしであったというのに相応しい。
時に嫌悪した。
けれど、嫌悪も度が過ぎれば感覚が鈍ってくるもの。
それが気の所為や気の迷いだと言われたのならば、その通りであるとも言えたが幸いなことにというか、不幸と言うべきか。メルヴィナは気がついていなかった。気に留めなかったというのが正しいのかも知れない。
彼女にとって必要なのは真実のみである。
嘘偽りのない誠。
只一つ。
その誠が実を結ぶことを願ってやまない。
「あの日からそろそろ一年になるのだわ」
彼女は海竜教会の自室で独りごちる。
あの日、メルヴィナはルウェイン・グレーデ(メルヴィナの騎士・f42374)にひどいことを言ったお詫びにとチョコレートを贈った。
思い出してまたゾワゾワきたが、それよりも今のメルヴィナには仄かに熱を帯びたものが込み上げてきているように思えてならなかった。
「今度は普通に贈るのだわ」
そうしようとメルヴィナは拳を握りしめる。
あれから一年。
早いような短いような。
怒涛と言えば怒涛の時間であったことは言うまでもない。
そんな中でルウェインは機械神『リヴァイアサン』から大剣を賜ることになった。
それは巫女であるメルヴィナの騎士になる、ということである。
そして、同時に呪を身に帯びることでもあった。
不実を働いたら死ぬ。
そのボーダーラインが何処にあるのかをメルヴィナは知らない。
もしかしたら、メルヴィナが嫌だと思ったのならば、即座にルウェインの身を大剣の呪いが襲うのかも知れない。
だが、今のところ呪いが発動した気配はない。
であれば、それは逆説的にルウェインが己と交わした約束を護り続けている、ということである。
「……」
少し考える。
普通に贈る、ということはまた去年のように、となるのだろう。
だが、それでは味気ないような気がした。
ルウェインは、その身でもって呪いを受けようともまるで関係ないと言わんばかりに、己が言い出した約束を守っている。
であれば、だ。
「ご、ご褒美、なのだわ。うん、そう、これはご褒美。よくがんばっているルウェインに対するご褒美なのだわ」
そう、単純にご褒美なのだ。
メルヴィナはよくわからない言い訳を己にしながら自室から出て海神教会に備わっているキッチンに立つ。
目の前にはチョコレートの材料。
と言っても、湯煎するための鍋であったり、型であったり。
生クリームにココア。
あとは肝心なチョコレート。
溶かして型に流し込む、というのはあまりにも芸が無いと思ったし、ご褒美だというのならば、物足りないと思われるのも癪であった。
どうせなら、ルウェインが喜ぶ顔が見たい。
「……あの時のルウェインの顔……」
ぞわっとした。
反応と顔は気持ち悪かった。
まるでミサイルのようにかっ飛んできたのも、ちょっと嫌だった。
それでも。
「ただのお詫びの代わりだったのに、あんなに喜んで……バカみたいなのだわ」
刻むチョコレート。
まな板と包丁のぶつかる音。
リズミカルではないけれど、手間暇という意味ではこれもまた大切なエッセンスであると言えるだろう。
思わず、笑みがこぼれる。
市販の品であれだけの反応を示したのだ。
なら、これが自らの手作りのチョコレートだと知ったのなら、ルウェインはどんな顔をするだろうか? どんな風に喜んでくれるだろうか?
そればかりが気になってしまう。
「でも、相変わらず気持ち悪いことを言いそうなのだわ」
くすり、と思い出して笑う。
楽しみ半分。
気持ち悪い半分。
どちらにしたって、ルウェインは大喜びだろうとさえ想像できた。
しかし、同意にメルヴィナはルウェインの顔を思い出して、その手が止まった。
そう、顔である。
ルウェイン・グレーデ。
エルネイジェ王国の男爵である。貴族としては末端とも言えるが、今はメルヴィナの騎士である。
身分というのならば、王族である己と差があると言うこともできるだろう。
「……性格は気持ち悪いのだわ。けれど、あの切れ長の眦……さらりと流れる銀髪……肌も男にいては白い……顔立ちだって、悪くはないのだわ」
思い出してみても、そうなのだ。
ルウェインは、その奇行が先立ってしまっているためにメルヴィナは意識したことはなかったが、なかなかに男前である。
今風に言うなら、イケメンというやつであるし、顔が良いのである。
メルヴィナが傍におらず、なおかつ黙って立っているのならば、騎士としてこれ以上なく目立つ存在である。
「性格は気持ち悪いのだわ」
二度、メルヴィナは呟いた。
確認するようだった。
確かに気持ち悪い。
だがしかしだ。その気持ち悪さは己にだけ向けられている。他の女性にあんな風になったルウェインは見たことがない。
もしもだ。
仮に、としよう。
想像でも仮に、と前置きしておかねばなるまい。
ルウェインの性格を知らず、彼の外見だけを気に入る女性はいるかもしれない。
イメージする。
奇行に走らぬルウェインを。
「……なんだかキラキラしているのだわ」
そんなルウェインに群がる貴族の子女たち。
きゃあきゃあと黄色い声に囲まれている彼をイメージする。確かに彼は己の騎士である。己が騎士の評判が上がることは、やぶさかではない。むしろ、王族としてである。それは結構なことである。
多くの貴族からの覚えもめでたいことだろう。
大いに結構なことである。
主である自分の立場というものもあるので、それは良いことである。
だがしかし。
それはそれでなんか腹が立つ。
ルウェインの何を知っているのか。
気持ち悪いところも含めてルウェインだというのに。それを見ずにただ外面だけを見て騒ぎ立てるのはいかがなものであろるか。
誠を尊ぶというのならば?
しっかりと内面もまた見なければならないだろう。
どれだけ外見が整っていても、心根が腐っていては意味がない。
そういう意味では、ルウェインは己にしっかりと忠義を示してくれている。不実など働いていない。
ある種の誇らしさと気持ち悪さが同居しているが、まあ、それはそれである。
「……でも、ルウェインは」
頭を振る。
いや、そもそも何の心配をしているのだ?
まさか盗られるとでも?
いやいや。それは、ない。ない、と断言できる。できるはずだ。そんなはずはない。
けれど、と思う。
あれでいてルウェインは男前である。二度目であるが目を瞑ってもらおう。
「ひょっとして他の女からチョコを沢山もらっているのではないのだわ? ルウェインのくせに生意気なのだわ!!」
ダン! と包丁がまな板に叩きつけられる。
チョコが刻まれるどころか砕けていた。
まな板まで真っ二つになるところであった。
「ふーっ! ふーっ! ま、まさか、チョコもらっただけで絆されるのだわ!?」
ダン! とメルヴィナの手がキッチンのシンクをへこませるほど叩きつけられる。
いや、それはない。
なぜなら、あの大剣……海竜の大剣は巫女のパートナーが不実を働かぬための監視機構でもあるのだ。
それの発現がないということはルウェインは、不貞を働いていないし、心変わりもしていないということだ。
「ふーっ……けれど、本当に? 呪いが発動するなんて、本当なのだわ? ただの言い伝えで、そんなことは起こり得ないかもしれないのだわ……?」
そこまで呟いてメルヴィナは爪を噛む。
苛立つ彼女のクセだ。
爪を噛む音が響く。
湯煎のためにお湯を沸かしていた薬缶が、けたたましい音を響かせる。
メルヴィナの激情に呼応しているかのおゆだった。
「そんなのは許せないのだわッ」
ただならぬ雰囲気であった。
許せるわけがない。
不貞の証拠となるものがないから許せ、と? 許せるわけがない。許しておける訳が無い。だが、それを確かめる術は、まるで反応していない。
であるのならば、やるべきことは一つ。
大剣が呪わぬというのならば、己が呪う。
そう、古今東西、恋のまじないは数多く存在している。
この世界においても、存在しているのだ。
「確か……チョコに自分の体液を混ぜると、食べた相手は自分のことしか考えられなくなるというおまじないがある、と聞いたことがあるのだわ」
まな板を両断する寸前で止まったままの包丁が視界に入る。
体液。
そう、体液である。
想像する。
己の体液が呪いになることを。
ルウェインの体の中で、一生残り続ける呪い。己意外を考えられなくなったるルウェイン。
それを想像してしまった。
ぞわり、とルウェインの奇行を目にした時と同じ感覚がメルヴィナの体の真芯を駆け抜けた。
群がる女たちがどれだけルウェインに触れようとも、己はルウェインの体の内側にいる。手垢をつけよとしても、彼の体の深いところに己がいる。
手出しできない場所で、最も深い場所で、その臓腑に己がいる。
消そうとしても消せない呪い。
だから、触れるな、と威嚇するようであったし、またルウェインを内側から見つめることと同じだった。
ぞわ、ぞわ、と身に奔る感触にメルヴィナは止まらなかった。
手にした包丁の腹に彼女の瞳が映る。
切っ先に指先が触れて、赤い珠が生まれる。
雫となて落ちた先は、湯煎されたチョコレート。
「私はいま、とてつもなく気持ち悪いことをしているのだわ……――」
●海竜の大剣
るウェインは海竜の大剣の刀身に映る己を認め、思い出す。
昨年の今日という日を。
つぶさに思い出す事ができる。
くっきり、すっきり、はっきり、どっきりと思い出すことができる。
総じてこれが、ルウェインの4K(きり)映像記憶である。正直気持ち悪い画質で思い出せる。
これもすべて彼が敬愛してやまず、忠義を捧げる皇女、メルヴィナに関連する事柄に限るのであるが、それはそれでやっぱり気持ち悪い。
「思い返せば、俺はメルヴィナ殿下から頂いてばかりだったな」
そう、この海竜の大剣とて、その一つだ。
去年の今日は図らずとも、メルヴィナからのチョコレートを賜る恐悦至極たる日となったのだ。去年の己が恨めしい。
まるで湖面に浮かぶ肉を加える己を見た犬が、ワン! と叫んで台無しになるアレに似ているようにも思えた。
であれば、だ。
ルウェインの動きは早かった。
そう、己の心は全てメルヴィナのもの。
であれば、与えられるばかりでは駄目なのだ。
「何かの形で感謝の気持ちお返しせねば!」
しかし、何をお返しすればいいのか。
まるでわからぬ。
皆目検討もつかぬ。
女性に贈り物など、そもそもしたことがなかった。そもそも、そんな機会など戦場にあって武勲を上げることに執心していた己にはなかったのだ。
母は、そうしたことをするより早く蒸発していた。
真にルウェインは女性とは縁遠き人生であった。
今の自分が信じられないくらいだ。
「ううむ。メルヴィナ殿下に相応しいもの、とは……」
大いに頭を悩ませる。
どうすればメルヴィナが喜んでくれるのか。そればかりを考え、かといって誰かに相談することもできない。
聖竜騎士団の誰かに、と思ったがどう考えても面倒な事に形変えなない。
もしかしなくても、己はあまり人付き合いというものが上手ではないのかもしれないとルウェインは愕然とするしかなかった。
「だが! やり遂げてみせる! 俺はメルヴィナ殿下の騎士! であれば、やってやれぬことなどないのだ! うおおおおっ! メルヴィナ殿下! メルヴィナ殿下ッ!!」
ルウェインは端から見れば、相当に気持ち悪い雄叫びを上げながらエルネイジェ王国の市街地を爆走する。
そう、皆目検討も付かぬというのならば、あらゆる店舗、その中を全て網羅して数を稼ぐのだ。
さすれば、メルヴィナに相応しき贈り物が見つかるはずなのだ。
愚直にも程がある。
だが、これしか己は知らないのだと街中を走るルウェインを目撃した狐耳の狙撃手や黄金きんぴか貴族やらがいたかも知れないということは、この際、伏せておくことにしよう――。
●交換
「メルヴィナ殿下! こちらをご献上させて頂きたく! 参上仕り申し上げますッ!!」
メルヴィナは、そう言って己が呼び出すまでもなく海竜教会に訪れ、膝をついて頭を垂れたルウェインの姿を見ることになった。
彼が手にしていたのは、メルヴィナの髪色と同じ包装紙でラッピングされたものだった。
「これは?」
「はっ! 恐れ多くも自分はメルヴィナ殿下より頂いてばかり。この感謝の想いを形にしてご献上せねばと愚考した次第であります!」
その真摯な瞳に射抜かれて、メルヴィナは気持ち悪いと思うより先に身の内が渦巻くのを感じたかも知れない。
「別に……私が勝手に贈っただけなのだわ」
ごにょごにょとメルヴィナは呟く。
海竜の大剣のことを言っているのだろうし、それは己ではなく『リヴァイアサン』からの贈り物だとも言えた。
けれど、ルウェインはそう感じていないようだった。
差し出したままの姿勢で固まっているルウェイン。
手を伸ばさなければ、ずっとそのままだろう。だったら、とメルヴィナな彼からの贈り物を手に取る。
「わかったのだわ、もらっておくのだわ」
そっけない言い方だった。
けれど、嬉しいと思えたのだ。
「……メルヴィナ殿下」
「な、なんなのだわ?」
「その指は? まさかお怪我を!? 殿下を狙う不届き者の仕業ですか!?」
「えっ!?」
メルヴィナは己の指に巻かれた包帯をルウェインが目ざとく見つけたことに驚いた。
それは己が、『おまじない』をした確たる証拠であった。
どうして、と問われても答えようがない。答えられるわけがないのだ。
だから、動揺して言葉に詰まってしまった。
それを察してルウェインは更に激昂する。
「おのれっ! メルヴィナ殿下の珠の肌に傷をッ! かすり傷一つと言えども万死ッ! 許せぬッ!!」
「な、なんでもないのだわ! チョコを作っていた時にちょっと切っただけなのだわ! それりも、これっ、なのだわ!」
メルヴィナは、ずい、と薄水色の箱をルウェインに差し出す。
それは彼女が作り上げた手製のチョコレート。
その小箱にルウェインは、一瞬で激昂した表情を鎮めた。
変わり身が早すぎる。
「こ、今度はお詫びとかじゃなくて、普通にあげるのだわ」
ぐい、と押し出す。
メルヴィナは一瞬、強引すぎたか、と思った。
だが止められない。引っ込みがつかない。
「手作りだから美味しいかわから――」
「手作りですって!? メルヴィナ殿下の!? なんと! 恐悦至極!」
食い気味であった。
その様子にメルヴィナは本来ならば笑うところであったが、ぐ、と言葉を飲み込んだ。
本来なら、そこではい解散である。
だが、そうはならなかっ。しなかった。
「だから、この場で食べて見てほしいのだわ」
良くないことをしているという自覚はあった。
けれど、止められない。
「はっ! では早速!」
ラッピングを解くとそこには不格好なチョコが並んでいた。
恥ずかしい。
だが、ルウェインには関係ないことだった。
「これがメルヴィナ殿下が直々にお作りになられた……!」
目が輝いている。
ちら、と見るルウェインにメルヴィナは、どうぞ、と手で示す。
「では、さっそく!」
一口ほおばる。
おそらく彼の口内ではチョコが解れて溶けているのだろう。
じっくりと味わうような顔にメルヴィナは気が気ではなかった。
「なんと……これは……」
「ど、どうなのだわ?」
「メルヴィナ殿下のお味がします! そしてこの香り! 正しくメルヴィナ殿下ご自身の!」
びく、とメルヴィナは肩を震わせた。
身が熱くなる。
首から顔に、耳まで真赤にしながらメルヴィナは涙目になってしまった。
バレた。
バレてしまった。
己の『おまじない』が、バレてしまったのだ。
取り繕えない。
嘘を嫌う彼女である。己自身がつく嘘もまた嫌うのだ。だから、全て白状してしまおうとメルヴィナは口を開いていた。
「その! ごめんなさいなのだわ! 騙すつもりじゃなかったのだわ!」
ただ、とメルヴィナは続ける。
ルウェインが他の女に。
「メルヴィナ殿下の温もりが伝わってくる逸品です! ンアッー!!」
爆裂ルウェインだった。
鼻血がドバドバ出ている。
止まらない。
「え、ええと……その、美味しかったのだわ?」
メルヴィナは恐る恐る聞いた。
己の『おまじない』がバレたと思ったのだ。だが、ルウェインは、間髪入れずに満面の笑顔で答えた。
「はい! とっても!」
なら、よいのか?
喜んでもいいのではないか?
海竜の大剣の不実を呪う力は見えない。けれど、いいのか? 本当なのか? これが現実だというのならば、それはとても喜ばしいことだ。
メルヴィナは、知らず頬が緩んでいた。眉根が下がり、少し困ったように微笑んだ。
それはこれまで彼女が見せたことのない笑顔。
引き出したのは『おまじない』でもなんでもなくて、ルウェインの笑顔だった――。
成功
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