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ぐるぐる🌀アイドル！

作者：にゃあら

●アイドルはつらいよ
　アイドル☆フロンティア――この世界の人間の心には、精神には、必ず『骸の海』が存在している。骸の海を抱えている人間はふとした瞬間、これを解放してしまいそうになるほどの『闇』に魅入られる可能性を抱いていた。
　そんな世界のとある学校――体育館の片隅――男子生徒の一人が、ふと、思う。ぼくは……ぼくは、アイドルが大好きなんだ。でも、ぼくが好きなのは只のアイドルじゃない。一生懸命、頑張って、それでも、倒れてしまうような、そういうアイドルが大好きなんだ。我慢できない。ぼくはもっと、バラエティ番組みたいな企画で、無様を晒しているアイドルが見たいんだ。ねえ、皆もそう思わないかな……？
　あ……ああ、俺もそう思っていたんだ。私も、ドジっ娘アイドルが大惨事を起こしているところがもっと見たい。だろう？　そうだろう？　だから、ぼくたちでたくさんのアイドルを……この学校に招いて、滅茶苦茶にしてやるんだ！！！
　もちろん、アイドルだけじゃない。ぼくたち以外の生徒や先生も巻き込んで、盛大に、ぐるぐるかき回してやるんだ！！！　そうして出来上がったのがこのステージ。その名も――無様を晒すまでぐるぐるしないといけないステージ！！！

●なんか見た事あるんだけどたぶん気の所為
「ぐるぐるバットの時間……え？　ちょっと違う？？？」
　グリモア猟兵、吐院・ぐるめの勢いはいつもの通りだ。
「アイドル☆フロンティア……の学校でちょっとした騒ぎが起きているらしいよ。なんでも、骸の海を解放してしまった生徒たちが『無様な姿のアイドル』を見たいとかなんだとか。それで用意したのは『無様を晒すまでぐるぐるしないといけないステージ』なんだって。え？？？　ぐるぐるバットは勿論、他にも色々あるって？　遊園地のコーヒーカップとか……。あ、ステージに集めないと生徒たちは迷惑行為に走るんだって。一網打尽ってのが正解みたい。それじゃあ、頑張ってね🌈」
　グリモアが輝いて。

第1章 冒険 『ぐるぐる☆アイドル』

POW   :    ぐるぐる〜☆ SPD   :    ぐるぐる〜☆ WIZ   :    ぐるぐる〜☆ 👑7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　説明しよう！
　無様を晒すまでぐるぐるしないといけないステージとは！
　書いてある通りである！！！
　欲望を満たす為にこのようなステージを作り出してしまった生徒達！　もしも、アイドルがステージ上で無様を晒すほどぐるぐるしなければ、一般人に手を出してしまうかもしれない！！！　頑張れアイドル！！！　君達の頑張りが奇行に走る生徒達を『ステージ』に引き寄せるのだ！！！　バットとかコーヒーカップとかは既に用意されてるぞ！！！　各自、思いついた何かでぐるぐるしよう！！！
　🌈！！！


　三半規管をいじめてくれ。
　頭の中をぐるぐると、ぐるぐると回っていた、幾つかの悩み。それらを纏めて、全部全部、吹き飛ばす事が出来たのであれば――それは、流れ星のように、綺麗な輝きを倣うに違いない。きっと、時間の流れに晒されても――フレッシュさは失われないのだ。新鮮な果物のように、それを搾って作られたジュースのように、のど越し爽やかなアイドルにオマエは……。いや、残念ながらジュースを運んでいたら、こぼしてしまうような偶像なのではないか？　なんか思ったアイドルと違うけど、そんなの、頑張って変えてみせるよ！　まったく健気なものではないか。成程、お騒がせなアイドル、ファンが多くなるのも納得だ。
　そんなお騒がせ☆アイドルとなってしまった佐々・星乃華、今回の舞台は学校である。今にも、欲望に呑まれてしまいそうな生徒どもの前、トタトタ、ステージの上へと駆けていく。あ、あの子かわいい。なんだろう。こう、なんて言うか、守ってあげたくなる……。舞台袖から転がってきたのは棒状の何かしら。これは……バットだ。野球でもするのだろうか？　いいや、違う。このステージの名前は無様を晒すまでぐるぐるしないといけないステージ！！！　バットぐるぐるとか体育祭以来？　体力には自信あるから楽勝だね！　早速フラグを建築していくではないかトラブル☆ミーティア、あと体育祭以来って事はやった経験はかなりありそう。良い？　アイドルたるもの、いつだって全力！　バットぐるぐるする際はしっかりと額を付ける！　目を回さなくちゃ意味がない、わかった？　イマジナリー・ティーチャーからの教えだ。忠実になろう。
　それじゃいっくよー！　ちゃんと数えてよね！
　あとは簡単だ。いや、簡単ではない事なのだが、兎も角。恥ずかしがらずに、何も考えずに、狂った独楽をイメージしながら、回る、回る、めっちゃ回る。成程、口にしていた通り『体力』はたっぷりあるようだ。回る、回る、ぐるぐるぐるぐる、回る。まぁ回ればなんとかなるはずだけど……あれ……あれれれ……？　足元がふらふらだ！　や、やば……結構、目が回ってきた……というか、ちゃんと、みんな、数えてる……？？？　数えてない。無様を晒すまでぐるぐるするのだから、回転数なんてあってないようなものだ。そろそろ、止まらないと……って……うわぁ！　倒れそうになった。咄嗟にバランスを取ろうとした結果が――バットへのジャイアントスイング。あ、すっぽ抜けた！！！　そして倒れた！！！
　あぅ……目が回ったよ……。
　大の字だ。世界がぐるぐる回って、自分が何処にいるのかもわからない。わからないのはバットの行方もだが――ゴッ――観客席の床にぶっ刺さった！！！
　怪我人いなくて良かったね。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　これはもう、最後には……皆様に、喜んでもらえれば……。
　音もなく――花もなく――下手より、芋虫のように這い寄ったのは魔王代理サマである。まるで序盤に出現する雑魚モンスターのように、ぺこぺこと頭を揺らすサマは既に『無様』と表現しても差し支えないか。ふへへ……無様な姿が必要って……えへ、言いました？　ざわつく観客席。生徒達は口々に「あんなアイドルいたっけ？」「いたような、いなかったような」とハテナ・マーク。それは、わわ、わ……私なんかが役に立てるかもしれない貴重な……あ、いえ、ごめんなさい調子乗りました私なんか覚えてすらもらえてないですよねダメですよねごめんなさい。声が小さいくせに早口ではないか魔王代理サマ、これじゃあ誰の耳にも届きやしない。無様に「なる」ですもんね、最初から無様だったら、これからなる事は出来ませんものね、ごめんなさい……。正解だ。大正解ではないか。だが、それでも……魔王代理サマ、安心してほしい。君だってアイドルになれるのだ。
　あ、わ、私なんかが道具を占領するのは……ひひ、もったいないですので……その、バットも、コーヒーカップも、アイドル様の為に、とっておいてください。えっと、勝手に、床でぐるぐるしてますね？　ごろごろともいいますが……。いもむし！　圧倒的なまでの芋虫だ。芋虫が吃驚するほどの芋虫っぷりではないか。全速力でぐるぐる、ごろごろ。あ……ゴミか埃でも、ついでに、身体で回収できれば……ふひ……私にしては役立った方……。いや、確かに、モップが必要ないくらいには拭い取れた。されど、しっかり目が回っているのだから自分が――何処にいるのかなんて、わからないのでは？
　お、おい……あの子、何処に……。
　そっちは……あ！！！　あぶない！！！
　クソザコナメクジに相応しい、とても書けないくらい惨めなポーズとは何か。その答えはシンプル。ぐるぐるごろごろ、舞台から落っこちてからの――後頭部をゴッ！！！　からの――なんとか返しだ！！！　ひん……目が、星が、回って……ふひひ……。
　無様だ。みじめだ。ちょっと流石に、かわいそう。
　飛翔能力？　目が回ってて忘れてたんだよ、たぶん。
　あと、その服装だと見えちゃってませんか？　魔王代理サマ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　時間は残されていない。残されていなくても、ぐるぐるする。
　アイドル――偶像――人々を虜にする彼等、彼女等の存在は、文字通りに多様性の塊だ。性別の類は勿論、その懐の深さは『種族』にも至り、あらゆる『もの』はアイドルたり得る。たとえば、テレビの電源を入れるとしよう。其処に映し出されているのは――可愛い可愛い、小動物である。……アイドルの醜態を見たいとは。もっと言えば、アイドルが目を回しているところを見たいとは。許すまじなのです。ぷんすこ、そんなオノマトペが聞こえてきそうだ。舞台袖で待機をしていた羊角の女性は、なにか、モフっとしたものを抱えている。許すの？　ああ、もしも此処が舞台袖でなかったら、今頃、騒ぎが起きていた事だろう。ふしぎなぬいぐるみを彷彿とさせるモフモフが、不意に、口を開いたのだ。許さないという意味です。モフモフ……モフットボール・クラウディンはこくりと頷いた。わかったよ、ステワルド！　ボクたちで生徒さんたちを止めようね。いざ、アイドルの世界へ。
　とことこ、とことこ、執事姿の女性とはこうも、人の目を惹きつけるものだろうか。ぴたりと、舞台の真ん中に立ったステワルド。ここは……我が120ある家事や執務のひとつ。『ぐるぐる体操』によってぐるぐるバットに備えるのです。両手で作った握り拳。いったい、あの執事姿の女性は……執事姿の羊は……何をするつもりなのだろうか。
　ぐるぐる・ぐるぐる、●●●●ぐるぐる――。
　アウト！！！　なんかこうダメ！！！　いやまあ、執事姿のクールな女性が『それ』やったら可愛いけど！！！　ありがとうございます！！！　ボクも転がるの得意だから……。ぐるぐるしているステワルドの周囲をぐるぐるするモフットボール。視線だけで追いかけていた生徒さん数名が目を回して倒れた。誰か保健室に連れてって。
　あ、ちなみに、ワタシは他人を一切傷つけることはできず、代わりにクッションのような柔らかさを継承しているのです。ぶつかっても安心なのです。ちょっと前に後頭部ぶつけて目を回していた娘を助けてやれ。そうして、全校生徒が集うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

第2章 集団戦 『グリード・コレクター』

POW   :    欲望の大口 【長い舌と大きな口】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【味】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。 SPD   :    欲望の魔顎 【肩から生えた牙つき触手】で敵の肉片を捕食する。自身の身体部位ひとつが変異し、敵のユーベルコードひとつを使用可能になる。 WIZ   :    欲望の巨兵 戦闘中に食べた【欲望の対象】の量と質に応じて【肉体が巨大化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。 イラスト：ワジマ　ユウスケ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　さあ、始まりました！
　新コーナー！
　アイドルと一緒にぐるぐるしよう！！！

　はい！　この企画では！　生徒の皆さんがアイドルと一緒にステージ上でぐるぐる、ぐるぐる、目を回す企画となっております！　おっと、ご安心ください！　このままではアイドルの方が有利になってしまいますからね！　生徒の皆さんにはオブリビオンとなってもらいます！　こうすると公平さが出るって事ですね！
　グリーーーーード！！！
　ちなみに、アイドルの皆さんが目を回して、フラフラして、｜おいしい《🌈》事になってくれた場合もオブリビオン化は解除されるそうですよ！　ええ、そういう企画ですので！　では皆さん、ご一緒にどうぞ。
　レッツ・ゴー・サイクロン！！！
　あ、バットは勿論ですが、コーヒーカップやクネプフェなど、様々なぐるぐるを用意しておりますので、アイドルの皆さん、工夫してくださいね？


　モフットボールは疲れていた。それもその筈、執事服な羊さんがオブリビオンの慾を満たしてくれるまで逃げ回っていたのだ。や、やっと攻撃が止んだよ……？　ステワルド？　大丈夫？　綺麗なポーズだ。いや、きっと、彼女は動けないだけである。気を抜いたらそのまま、地面に吸い込まれてしまうかもしれない。
　少しだけ時間を遡って……。

　グリーーーード！！！
　暴食の罪な見た目をしているくせに強欲だ。強欲に加えて、もしかしたら、ちょっとだけ色欲も有しているかもしれない生徒さん達だ。な……なんと恐ろしいオブリビオンなのでしょう。これが、この世界特有の、人の心に骸の海がある現象なのです。皆サマ……絶対に、絶対に、助けるのです。心意気は十分だ。気合も十二分とも謂えよう。ガッ！　と執事服な羊さんが手にしたのは今度こそ得物である。そう、このぐるぐるバットの力で……！　構えとやらも完璧だ。この、ホームラン予告めいた姿勢はグリード・コレクターの視線だって集めてしまう。……本当になんとかなるのかなぁ？　そもそもボクら、アイドルらしい能力ないよ？　その点は安心してくださいモーラットさん、ステージに上がった時点で誰でも彼でもアイドルですから。いや、そういう事ではなくて、技能の……。誰と話しているのです？
　ふふん、実はあるのです。ここはワタシに任せるのです。ドラグナー・デューティズ！　説明しよう！　ドラグナーガールは命令を受けると即座に出現し、あらゆる技能がレベル100で使えるのだ！　これで執事服な羊さんが選択したのはアイドルダンス。これで、ワタシも立派なアイドルです。それも、ぐるぐるバットアイドルダンスができる……極めて珍しいアイドルなのです。踊れ遠心力――！　そんなユーベルコード持ってたの！？　あと回るのは良いけどしっかり額を付けないとダメだって。
　わかっていますです。あ。ワタシはがんばって回り続けるので、｜モフットボール《モフモフ》は気合で避けるです。捕食用の触手が狙っているのは何故かモフモフな方だ。おわっ！　危ないな！　て、いうか、オブリビオンの相手はボクなのかー……。
　モフモフが華麗な前転回避を繰り返している間、ステワルドさんは●●●●よりもぐるぐるするとよろしい。これは……思っていたよりも、目が回るかもしれないです。なんだか、角が重たくなったような気がするです。よろよろ、よたよた、ぷるぷるぷる。倒れそうになったけれども如何にか立位！　き……決めポーズ……決めポーズは……これ、です。客席の皆へのピース・サイン。よく頑張った！　かわいいよ！　羊ちゃんこっち向いて！！！　グリード・コレクターの攻撃がぴたりと止んだ。
　カワイイ（カワイイ）。
　可愛いは世界を救う。そういうものだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　神様との邂逅――お父さんの正体――至る事には至ったが、未だ、本当のお父さんとは顔合わせすらも出来ていないか。いや、きっとお父さんはオマエの心の中にいる。ふしぎなぬいぐるみのように、イマジナリー・フレンドのように、立派なオマエを愛しているのだ。あレ……？　ナんかこれちョッと｜本体《るシェら》ににテる……？　成程、オマエは如何やら胴体の方、可愛らしい方こそを、チョウチンアンコウの如くに定めているのか。ちら、ちら、と視線をやられたグリード・コレクター。オブリビオンと化した生徒さん達も不思議そうな面だ。だメー！　ボくのほうガ　かわいイんだからね！！！　魔術師に対してやったように、他の猟兵にやったように、オマエの可愛いアピールは客席の皆さんにも刺さってくれたのか。ルシェラちゃん可愛いよ！　こっち向いて！　アハ！　アハアハアハ……！　なんだか正気とは思えない哄笑も響いているが、これも、オマエの魅力と謂えよう。
　ぼクはぐルぐるバットもでキるけど、きょウはちがうノでまわルんだー！　がらがら、舞台袖からやってきたのはオマエがすっぽり座れるような、大きな、大きな遊具である。こーひーカッぷはカわい゛いね！！！　なんダか、ぼくノしんセきみたイ！　ぐるぐる渦巻きの模様ではないか。カタツムリさんを彷彿とさせる模様ではないか。かわイいー！　ぐルぐる！！！　如何やら既に乗り込んでいたらしい。ぎゅっと握り締めたハンドルを独楽みたいにぶん回してやれ。みテー！　おとウさん！　ぼくハこーんなにぐルぐるでキるよー！　お父さんと呼ばれた――そう、勘違いした｜生徒さん達《グリード・コレクター》、父性を擽られたのか。パァアと眺めている。しャしんトってー！　おトうさーん！　グリードよりも可愛らしいと、他のアイドルよりも偶像らしいと、大絶賛ではないか、なり損ない。
　――バキッ！
　え、あレ？　猟兵の膂力によって、かわいいの暴力によって、ハンドルが先に目を回したようだ。アれ？　こーひーかっプこワれちゃッた？　オマエに制御が出来ないのだ。いったい誰が発狂する遊具を止められよう。はヤい！　はヤい！　うワー！！！　まるでレヴィアタンの大回転。近くで見ていたグリード・コレクター達が巻き込まれる！！！　この尻尾もふもふで……いい……。良い笑顔でお星さまになった。
　数分後、ステージ上で大暴走していたコーヒーカップが沈黙する。沈黙したカタツムリから這い出てきたのはナメクジか。ふらふら、くらくら、ぺしょぺしょ……。
　わアあぁあん！
　るシェらおうチかえルー！！！
　ずりずり、ずりずり、方舟はなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　きゅう……。
　本番前にしっかり目を回していた――二重の意味で――魔王代理サマ、誰かさんに介抱された結果、今は舞台袖でおやすみ中か。ピヨピヨ、回っているお星さまと戯れていたところ通りがかった何者かによって突き飛ばされる。ぎゃん！！！　幸か不幸かこのおかげで正気を取り戻し、そのまま、ステージの上へと転がされる。は……はへ？　わ、私はどこ。ここはだれ？？？　ようやく治まった眼球振盪、ステージの下にいるだろう何者かからの指示だ。アイドルと一緒にぐるぐるしよう！　クネプフェ編！　く……くねぷふぇ！？　なに？　なんて？　何処のどういう何ですかそれ！？　ちょっとクラクラしていた脳味噌が慌ただしさにやられる。ふと、視線を横にやったなら――独楽を思わせる何かしら。
　こ……これ、どういう物なんですか？　教えてオーディエーンス！　舞台上には既にオブリビオンと化した生徒さん達。グリード・コレクターの皆さんが近づいてきて何かしらの動画を見せてくれた。ふむ……ふむ……ふむ……さっぱりわかりません！　動画を見ても、もし、実演してくださった方が居たとしても、さっぱり、まったくわかりません！
　わからない事こそが最大のアドバンテージだ。グリード・コレクターの一体が魔王代理サマの両手をポールの上にのせる。え？　このポールを掴んで……上に乗る……？　え？　どうやったら回転するって？　ふへぇぇぇ……愚かにして無知蒙昧のみならず浅学浅慮で申し訳ありません！　いやいや、そんなことないよな？　少なくとも無知蒙昧と浅学浅慮がわかる時点で、そんなことない。グリード・コレクターの皆さんが何かしらお話をし始めた。ちょっと心配している客席の皆さん。う……うぅぅ……申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません……。土下座だ。綺麗な土下座だ。必死に土下座をする事で尊厳の消費に至り――埒外性への糧とする。……助けてゴブリンの皆さんー！！！　ざわつきは最高潮だ。ゴブリン？　アイドルがゴブリンを召喚だって？？？　いや、そんな、まさか深夜番組でもこんな展開、そうはない……。
　緑色の肌をした矮躯、成程、しっかり｜お約束《ゴブリン》だ。あの、私ここに掴まってるんで、めっちゃ回して貰えます？　無知蒙昧ではないし浅学でもない。浅慮という部分については――ほんの少しだけ、当て嵌まっているのかもしれない。
　ゴブリンはやる気十分だ。グリード・コレクターもやる気十分だ。何故かって？　より無様なオマエを間近で愉しめるからである。つまり、独楽だ。独楽が吃驚するほどの大回転だ。芋虫ごろごろがマシだと思えるほどの――轆轤のような所業である。
　あ゛ー！！！　加減！　加減！
　う゛あ゛ぁぁぁぁぁ！　ごめんなさい指示が悪かったですぅ！！！
　誰か゛と゛め゛て゛く゛た゛さ゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛！！！！！
　遠心力に負けた身体が吹っ飛んだ！！！
　魔王代理サマ、きっと地獄は降りてからだ。
　⭐が見えるのか、🌈が出るのか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　観客席に突き刺さった凶器――ひどく危ないで在ろう『それ』をオブリビオンと化した生徒の一人が回収する。こんな危ないものを、下手をしたら死人が出そうなものを、アイドルに持たせるだなんてとんでもない。目を回して、無様にぶっ倒れているところを視たい『だけ』なのだ。ならば如何して、アイドルを傷つけるだけの物質に『良し』の印を捺せよう。グリード！！！　我等、アイドルが無様になるほどぐるぐるするのを見隊！！！　取り敢えず大の字になっていたお騒がせ☆アイドル。ようやく、立ち上がる事に成功したのか。
　うぅーっ……。よろよろ、ふらふら、止まる寸前の独楽めいた感覚だ。頭がくらくらするよ。まだ、目が回っている気がする……。でも、なんか盛り上がったみたいね。右へ左へと頭を傾けて蝸牛を正すかのような行いか。震えていた眼球が、視界が、遂に現状を認識する。……みんなオブリビオンになってる！　これは力で……。成程、お騒がせ☆アイドルではなく星のエアライダーとしての埒外を活かせばオブリビオンなど一網打尽。されど、此処は舞台の上だ。舞台の上で、企画が続いているのであれば、やるしかない。そう、力じゃない。ここはアイドル☆フロンティアらしく戦うよ！　とりま、ぐるぐるバットで！！！　ぐるぐるバットを選んでくれたのは嬉しいが、おそらく、先程の危険なすっぽ抜けの所為だろう。オブリビオンが……生徒達が、全ての得物を握っている。バットがない！？　そんな……このままじゃパフォーマンスどころじゃないし、どうしよ……。
　客席の皆さんは如何やら危険性を理解していないご様子だ。何処からともなく投げ込まれたサイリウム。いや、違う。あれはサイリウムバットだ。これは……伝説の……！　いやサイリウムのバットって何！？　お騒がせ☆アイドルに相応しいノリノリなツッコミ。これにはオブリビオン達もニッコリである。元に戻すにはこれしかない！　ボクにはきっと『これ』しか残されていない……！　ええい、回るよ！　メッチャ回るよー！！　どれくらい回るかっていうとさっきの二倍くらい！！！　まだ、ちょっと、ヨロヨロするけど、なんとかなる、はず……いいや……する……！
　スターライト☆アイドルも吃驚な煌めきだ。きっと、母親から貰った髪飾りの効果でもあるのだろう。地面を蹴る、地面を蹴る、もっと、もっと、早く、速く――渦を描く！　視よ、これが光の竜巻の発生だ。ふらふら、ふらふら、若干の情けなさもご愛敬。アイドルの姿がまったく見えないのは如何かと思うが――舞台上にいたオブリビオン、巻き込まれてキラリと☆。最後に残ったお騒がせ。ピタリと止まるのか、徐々に減速していくのか。何方にしても――大の字ではない。棒だ。棒のように倒れたのだ。
　うぅ……ぐるぐる、するよ……。
　完璧で最高のリアクションではないか。
　かわいらしくて、骸の海も鎮まった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

第3章 日常 『特訓☆アイドル合宿』

POW   :    走り込みや筋トレで基礎の基礎を磨く SPD   :    映える表現を追求する WIZ   :    効果的なリラクゼーションを編み出す 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　オブリビオン化していた生徒達は正気に戻った！
　……あれ？　ぼくは、いったい何を……？
　きょろきょろと、不思議そうな顔をしている生徒達。不思議そうな顔は刹那にして驚きと喜びに満ちたそれとなった。あ、アイドルだ……アイドルがいる……しかも、たくさん！　で、でも、なんだか皆、顔色があんまり良くない気が……もしかして。
　もしかして。ぼくのアイドル訓練法を試してくれたの？
　え？　違う？　ぐるぐるバットとかをして、目が回っただけ？
　なんだ！　似たようなものじゃないか！
　折角だから、ぼくの作った特訓メニュー、やっていかない？
　合宿になるだろうから、ちょっと、時間は貰うけどね。
　内容？　簡単だよ。

　自分の限界を超えるまでぐるぐるして、踊れるかどうかってやつ！
　もちろん、生徒達が君達をぐるぐるしたっていい！
　ぐるぐるする方法は君達で決めてくれ！

　頑張れアイドル！　負けるなアイドル！
　いや、負けてもいい。負けてもいいぞアイドル！
　それじゃあ、楽しんでいってよ。


　陽キャに混じれた気分だった。
　意識が朦朧とする中、何かが散らかる中、それでも思った事である。
　ピヨピヨと、お星さまとの邂逅に成功したのだ。クラクラと、七色の神との邂逅にも成功しかけたのだ。オブリビオン化から生徒さん達が元に戻って数時間後、ようやく魔王代理サマは眩暈その他からの復帰に至る。X軸方向の一次元的回転はやりました、最初の芋虫ごろごろです。XY軸方向の二次元的回転もしました、く……くね？　くねふぇふぇ……？　です。なんだか、復帰できていないようにも思えるではないか、魔王代理サマ。もしかしたら別世界のくねくねとやらとも目が合っていたのかもしれない。そ、そんなわけないじゃないですか。こんな、クソザコナメクジがくねくねに会ったなら、それはもう秒で目を回しますよ、ぐるぐるだけに。兎も角――じゃあ、次はXYZ軸組み合わせの三次元的回転ですね。そうか？　目玉だけではなく思考までぐるぐるしていないか。はやく正気に戻った方が良い。良いですね、わかりました。ぼく達生徒が何でも、用意するので、謂ってください。
　ふひ……。媚び諂うかのような、土下座するかのような勢いで生徒たちに感謝を伝えた。彼等、彼女等が魔王代理サマの為に用意したのは――トランポリンである。しかも、只のトランポリンではない。アイドル達が使用する、特注な、巨大な巨大なトランポリンであった。……いや本気ですか私よ？　ショックでどこか壊れました？　心とか？　心は既に襤褸雑巾だ。撹拌されているのは脳味噌、そうに違いない。それに……胴上げを組み合わせます。説明しよう！　胴上げとは！　複数の人間によって一人を祝う、ある種の儀式的なものである！　ええ、大勢で、私を思い切り胴上げ……滅茶苦茶にしてもらうのです。つまり、胴上げと謂うのは仮の姿。様々な方向のベクトルに力を入れ、ピザのように扱われたいと……。こうすれば、きっと、複雑に錐揉み回転するナメクジになれます。なれるかな？　なるんです。その状態でトランポリンに落下すれば――筆舌に尽くし難いほどのぐるぐるが味わえる。……あ、あの。それ、目が回るってレベルではないと……えっと……なんで、そんな、顔が赤いんですか……？　これには生徒も困惑する他なし。
　本当に？　本気でやるのか私？　まるで操り人形だ。まるで何者かの指示に踊らされるゲーム・キャラクターだ。まるで、私じゃない私が勝手に喋ってるみたい。何で？？？　きっと心の底から、脳髄の奥から、秘めていた感情が貌を出したのだ。色々な意味で目を回したいと……。マゾだから？？？　それはそう。あ、肯定した。
　肯定をしたのであれば――ゾクゾクに狂ってしまったのであれば――あとは、生徒達に任せるしかない。身体を持ち上げられ中央へ、そのまま「ばんざい」の掛け声と共に。最初は胴上げだった。胴上げだったものがいつしか、丸焼きにされる豚のような気持ち。ああ、目が回る。悲鳴はないだろう。絶叫はないだろう。何故なら今、オマエはオマエを完全に見失っている。ギュルルルルルル！！！　トランポリンだ。地獄への入り口が迫ってくる。
　ここまでくれば『とても書けないくらい惨めな表情とポーズ』になるのは確実。だが、あえて、書かせていただこう！　たとえば、宇宙飛行士のする訓練。それを数倍過酷にしたかのような回転である。その回転の途中をスローで、カメラで捉える事が出来たのなら――カメレオンを彷彿とさせる目の玉の動き。最後は、白目だ。飛びますよ、レベル148×5km/hで。何が？　意識と尊厳が。後者については最初からではないか、可哀想は可愛い。
　星になった。魔王代理サマは星になった。
　流れ星になった。流れ星なのだから、お家に突っ込む。
　ひくひく。ひくひく。頭隠して尻隠さず。
　これは何ですか？
　はい。これは、｜地面《自宅前》に突き刺さっている魔王代理サマです。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　アイドルを応援する気持ちに偽りはない。
　アイドルの力になりたい、この気持ちは失せないのだ。
　揺れる世界と重たい羊の角、生涯分のぐるぐるから、ようやく回復できたのは何時か。ぐるぐるバットをしてからのダンスはたとえアイドルと化していても過酷である。いや、まさか、ここまで目が回るのがつらいなんて想像してなかったのです。ステワルド……？　大丈夫かな？　もし、まだ、気分が良くないなら、休んでいても良いんだよ。まったく紳士的なモフモフではないか。燃えるようなシュートは、燃え盛るモフットボールは、きっと、熱い心と優しい心で出来ている。ふぅ、いい回転だったのです。厳しいものではありましたが、ちょっとだけ、クセになった気もするのです。……ステワルド……？　えっと、その、なんというか、変わったオブリビオンだったなぁ……。なんだか、執事服の羊さんに奇天烈な属性が増えたような予感もするが、おそらく、幻覚の類だ。モフモフしたオマエは如何にか意識を現状に向けてみる。みんな、お疲れさま。三半規管が悲鳴を上げていそうだから、ここは少し横になってから、ぐるぐるバットに戻ろうよ。うん……？　まだやるのかな？　あれ？　まあいいや。と、いう訳で……クラウディン族秘伝の技……綿雲！
　綿雲とは何か、説明する必要もないだろう。モフットボール・クラウディンはモフモフだが、そのモフモフ度がより強烈になっていく。圧倒的だ。圧倒的なまでのモフモフしたボールではないか！　これは俗にいう人をダメにするクッションとやらも吃驚するほどか！　ボクの毛でゆっくり休んで、英気を養おう。ふらふら、ふらふら、目を回していた誰かさん達が一斉に寄りかかってくる。その肉団子な状態のところに執事、羊さんも仲間入りか。ワタシも皆サマにASMRして回るのです。囁きの内容？　たぶん、目が回っていて、彼氏に助けを求めるとか、そういう感じのやつじゃないかな。
　子守唄いくよー。
　もっふもふー♪
　もっふもふー♪
　まるで綿菓子だ。綿菓子にされるザラメだ。
　ぐるぐる、ぐるぐる、熱にやられて、溶け出すように。
　糸をひく眠気、やわらぐ悪心。

　みんな、元気になったね。それじゃあ、改めてぐるぐるバットをするよ！
　ワタシも、元気溌剌なのです。皆サマに負けないよう、全力でぐるぐるするのです。
　アイドルの特訓は終わらない。
　たとえ、目が回って、倒れたとしても、
　アイドルは絶対に立ち上がるのだ！

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2025年03月15日