アヤネ・ラグランジェ
城島・冬青f00669との2人ノベルをお願いします
シナリオ「ここにいる、から」のその後、外伝エピソードです
ハッピーエンドおまかせでお願いします
「ところでアヤネさん、ハネムーン行きませんか?」
ソヨゴは唐突に部屋にいたアヤネに話しかけた。
だらしなく椅子に座って雑誌を読んでいたアヤネは椅子から転げ落ちた。
「大丈夫ですかアヤネさん?」
「なんだってー?!」耳まで真っ赤にしたアヤネは大慌てで聞き返す
「あっ!正確には婚前旅行ですが」
ソヨゴが米国に来てアヤネと暮らし始めてから1年と数ヶ月が経過していた。
この国であれば同性婚に障害はないし、結婚する将来は決まったようなものではあるのだが。
しかし、まだソヨゴの家族には一緒に住んでいることは知らせているけど恋人同士であることは言ってない。お父さんやお兄さんがどんな顔をするのか……悩みの種は多いのだ。
「んー、まあ、バカンスはいいネ。行こうか!」
ようやく呼吸を整えたアヤネはソヨゴに笑顔で答えた。
思い返してみれば二人で旅行というのは今までしたことが無い。
仕事のついでとかで異世界を渡り歩いているので、いろんな場所に二人で行ってはいるのだけど。
この世界で一緒に、は初かもしれない。
フロリダのマイアミでワニを見るのもよし。
少し足を伸ばして大西洋の孤島で過ごすのもいいだろう。
「で?」
アヤネは困惑しきった顔でソヨゴに問いかけた。
「とっておきの場所です」とソヨゴが言った時点で嫌な予感はしていた。
しかしダークセイヴァーに来るのは想定外だった。
青い海と広がる空から一番かけ離れた場所だ。
正直ここには嫌な思い出しかない。
ああ、あの二人の住む場所か。記憶を辿ってアヤネは理解した。
ソヨゴは彼らが無事に過ごしていると信じてここに来たのだろう。
実際どうなのか。アヤネは楽観視できない。
どうか、ソヨゴが悲しむ結果になりませんように。
アヤネはソヨゴに気づかれないようにそっと十字架に祈りを捧げた。
城島・冬青
リプレイ後日談を兼ねた旅行シナリオをお願いします。
場所はダークセイヴァーのどこかにある小さな集落、ふじもりMSが過去に執筆したシナリオ「ここにいる、から」にて登場したロア、リオのその後のお話です。
彼ら姉弟を含む生存した村人達は領主の襲撃から逃げ延びた土地で追撃や災害にも遭わずひっそりと暮らしています。冬青とアヤネはここで畑の手伝いをしたり持ち込んだ食料で料理をしたり、牧歌的な旅行をしたいと思ってます。運が良ければ夜には厚い雲の間からダークセイヴーの星々が見られるかもしれません。本編が重く暗い話なので、のんびり旅行&静かであたかな後日談シナリオにしていただけたら嬉しいです。
「アヤネさん、ハネムーン行きませんか?」
冬青は唐突に部屋にいたアヤネに話しかけた。
だらしなく椅子に座って雑誌を読んでいたアヤネは椅子から転げ落ちた。
「大丈夫ですかアヤネさん?」
「なんだってー?!」耳まで真っ赤にしたアヤネは大慌てで聞き返す
「あっ!正確には婚前旅行ですが」
冬青が米国に来てアヤネと暮らし始めてから1年と数ヶ月が経過していた。
この国であれば同性婚に障害はないし、結婚する将来は決まったようなものではあるのだが。
「んー、まあ、バカンスはいいネ。行こうか!」
ようやく呼吸を整えたアヤネは冬青に笑顔で答えた。
・
・
・
婚前旅行!とウキウキなアヤネが「とっておきの場所です」と冬青に連れて行かれた先は…どんよりした曇り空と荒廃した大地が広がる…ダークセイヴァー上層!
なぜ観光とは無縁そうな世界であるダークセイヴァーに…??と困惑するアヤネは冬青にとある小さな集落へと連れて行かれる
そこにいたのは以前2人が助けた姉弟(リプレイ「ここにいる、から」)ロアとリオ、2人は襲撃から逃れた人達と静かに暮らしていた…。
導入はざっくりこんな感じです
お忙しいとは思いますがどうぞ宜しくお願いします。
諸々おまかせで冬青とアヤネさんは好きに動かして下さい。試される大地そのものである過酷なダークセイヴァーですが1箇所くらい幸運な村があっても良いと思います。
●灰の空
「青い空、白い雲、輝く太陽……とまではいかないけれど、ネ」
「そうですね。でも私、どうしてもここに来たかったんです」
アヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)の言葉に、城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)は屈託なく笑った。その笑顔に、軽くアヤネの胸は痛む。
「……でも」
でも。言いかけて、アヤネはその言葉を飲み込んだ。
「いや……元気にしてると、いいネ」
不安だったのだ。でも不安な言葉を口にして、冬青の顔を曇らせたくなかったのだ。
だから言葉を飲み込んだ。飲み込んでことさらいつも通り、行こうか、とアヤネは頷いた。冬青は一つ、瞬きをした。瞬きをして、それから、
「アヤネさん」
にっこり笑った。
「大丈夫です」
それだけ。アヤネの言葉を察しているのか、察していないのかさえもわからなかった。
けれど、その笑顔ひとつがアヤネの胸に落ちてきた。……それだけで、温かいものが広がった。
何の根拠もない大丈夫です、とその笑顔が、酷く尊いものに感じられて。
「そうだネ。それじゃあ……行こうか」
頷いて、アヤネは一歩、踏み出すことができたのだ。気付かれないように、そっと十字を切って。
救いない暗闇の晴れぬ世界、ダークセイヴァーへと……。
●婚前旅行
それは、数日前のことであった。
いつものようにアヤネは部屋で雑誌を読んでいた。
「アヤネさーん。何か飲みます?」
「あ、飲む飲む。ソヨゴと同じものをネ」
丁度自分で何か飲むつもりだったのだろう。冷蔵庫を覗き込んで冬青が言うので、アヤネはそれにこたえる。米国で一緒に暮らし始めて一年と数か月。はじめは照れもありぎこちなかった二人でも、それだけ経てば自然にそんな話もする。冬青はオレンジジュースをアヤネの前に置き、自分は立ったまま飲みながら何となくテレビをつけた。
「アヤネさんアヤネさん」
「ん?」
テレビにはちょうど旅番組が流れていて、エジプトの秘密! なんていかにも胡散臭そうな番組が放送されていた。英国なのに何となく日本の胡散臭さ感じさせる番組だ。
「ハネムーン行きませんか?」
それで、まるでスフィンクスを見に行きませんか、みたいな体でアヤネは語りつけた。
一瞬、アヤネは何を言われているか理解できなかった。
「なんだってー?!」
そして、気付いたら椅子から転げ落ちていた。
「は、は、ははははははははは」
「いや、ファラオの墓じゃないです」
「ハネムーン!!」
なんでそんなに冷静なのだ。寧ろなんでそんな当たり前みたいな顔をしてるんだ。とアヤネは言いたい。おかしい。これでは逆ではないか。昔はアヤネが冬青を赤くさせていたというのに! こんな! けろっとした! 顔で!
「あっ! 正確には婚前旅行ですが」
真っ赤になるアヤネに、更に冬青は追い打ちをかけた。言葉が。言葉がいちいちなんていうか、……なんて言うか、
「いやらしい!!」
「ええ!? な、なにをいってるんですか!」
アヤネの言葉に、「いやらしいって言うほうがいやらしいんじゃ……」なんて冷静に返されて、さらに顔が赤くなるアヤネではある。
言いたいことはいっぱいあるが、それにしても、とアヤネは必至で頭を回転させる。思い返してみれば二人で旅行というのは今までしたことが無い。仕事の都合でいろいろな場所に行ったし、楽しい思い出もある。けれどもそれはあくまで依頼であり、最初から最後まで二人きりということはあまりない。
さらに言うと、この世界で一緒に、は初かもしれない。だったら、
「(フロリダのマイアミでワニを見るのもよし。少し足を伸ばして大西洋の孤島で過ごすのもいいな……。ソヨゴは絶対キャンプとかそういうアウトドアが好きそうだけど、僕としてはゆっくりできる場所も捨てがたい。最近だとモルディブとか、いっそスイス……)」
妄想の翼はとめどなく広がる。脳がフル回転を始めて様々なプランをはじき出す。が、それを悟られぬようアヤネは一息つき呼吸を整え、
「んー、まあ、バカンスはいいネ。行こうか!」
笑顔で伝えた。瞬間、冬青は笑顔になった。
「よかった! 私、行きたいところがあるんです! とっておきの場所です」
「(あ、これ、すっごい嫌な予感がする……)」
その笑顔を見た瞬間、モルディブのビーチで優雅にお茶をする夢をアヤネは捨てることになったという。いや、きっとまたいつか行けるだろう……。
「うん、ソヨゴが行きたいところで、いいヨ」
だから笑顔でそう返したのは、冬青への愛ゆえにであった……。
●そして、ダークセイヴァーへ
「……で?」
というわけで、今に至るわけである。
正直この場所はあまりに想定外であり、ついでに言うとアヤネにはこの世界は嫌な思いでしかない。
何かと悲しみばかりが漂っているような場所であるし、そもそも冬青にとっても楽しい記憶があっただろうかと、アヤネは首を傾げる。
「こっちです! たぶんこの辺……」
巧妙に枯れた森と岩に隠されて、驚くほど奥まった場所にある村。暫くすると、粗末ながらも丈夫そうな塀や壁に囲まれた、一つの集落が見えてくる。
そのころには、アヤネも冬青がどこに向かっているのかは見えてきていた。……かつて二人が救った。自分たちの家族になりたいと言ってくれた。ロアとリオ。その姉弟がいる村であった。
「行くのは、いいんだけど」
「けど?」
「これを婚前旅行っていうのは……」
「ええっ。アヤネさんったら、いやらしい」
「いやらしいって言うほうがいやらしいんだよ」
先日の会話を引き出して、二人は笑いあう。……決して、楽観視はアヤネはしていない。けれど、
「でも、いいよ。ソヨゴの、行きたいところだもの」
冬青が行きたいのならば、そうしよう。
そうして何かあった時は、必ず自分が彼女を支えるのだ。何があっても、傍で。
そう、気持ちを新たにアヤネは深呼吸、して。
「……行こうか」
彼女もまた、前を向いたのであった。
●二人のあれから
「……来るなら、前もって言ってくれれば、よかったのに」
「あ!? ええ、そうか。ごめんね……!」
「昨日の林檎、食べたりしなかった。冬青に、お腹いっぱいアップルパイ、食べさせてあげたかった……」
「!!」
そのダークセイヴァーの村は貧しそうであった。昔姉弟、ロアとリオが住んでいた場所とは比べ物にならないくらい、薄汚れた石で建てられた隙間風の吹く家と、粗末な家具。食生活も豊かなものではないことがしのばれた。
それでも、もてなしたかったとこぼす姉のロアに、一瞬で冬青の目に涙がたまる!
「大丈夫! 私、いっぱいお菓子も果物も持ってきましたから!! いっぱい作ってください、パイ!!」
「……! う、うん、いっぱい食べてくれる……?」
「喜んで!!」
いそいそと持ち込んだ鞄から果物を取り出す冬青を見て、思わずアヤネとリオは顔を見合わせる。
「……変わらないネ、彼女は」
「ええ。冬青さんもお変わりないようで何よりです」
少し見ない間に、この少年はちょっと大人びたかもしれない、とアヤネは思った。それも仕方のないこと、ダークセイヴァーは厳しい世界だ。子供のままでは、生きてはいけない。
「そっちの状況は、変わりないの?」
勧められた粗末な椅子に座りながらアヤネは声をかける。とはいえ、粗末だとしても椅子がある分だけ、上等なのだろうとアヤネは思っていた。リオも小さく頷く。
「はい。受け入れてくれた村の人たちも優しくて、一緒に来た人たちと協力して物を作ったりして、物々交換で何とか。姉さんは料理を作って村の人にふるまったりしてます」
「なるほど」
「でも僕は、何ができるか悩んでて……」
「……なるほど?」
パイが焼きあがるまでの間、アヤネはなんとなくリオの悩みに答えている。別段親身になってはいないが、それでも大人として悩みに答えてくれるアヤネはなんだかお姉さんっぽくも見える。ロアは料理という技術はあるがあまり人づきあいが得意ではない。相談には向かなかろう。ここぞとばかりにあれこれ相談するリオと、それなりに応えているアヤネを、冬青はにこにこしながら見ていた。
「アヤネさん、なんかかっこいいですね」
「そ、そうかい?」
「はい! 大人の頼れるお姉さん! って感じがします」
「ええ……。確かにソヨゴの前ではいつも可愛い僕になっちゃくからネ」
「もう、アヤネさんったら! かっこいいアヤネさんもかわいいです!」
ウインクするアヤネに、冬青は吹き出した。
「……二人も、全然変わらない、のね」
「うん、相変わらず仲良しだ」
そんな楽しそうな二人に、弟妹達も顔を見合わせて、ちょっと笑っていた。
●ハネムーンはアップルパイと共に
そうして出来上がったアップルパイは、以前冬青たちが食べたものとそん色のない出来であった。
ただ、それは材料を冬青が持ち込んだからであり、この村でこんな立派な贅沢品は作れないとロアは笑っていた。
「私も、今はただの炊き出しのおばちゃんよ」
「炊き出しのおばちゃんをバカにしちゃいけないヨ。食は大事なんだから」
「あ! そういえばクッキーの材料もありますよ! すごく残念ですけど、作ったら村の人に配ってあげてください!」
「……ありがとう」
そんな会話をしながらも、出来上がったアップルパイを一つのテーブルで囲む。
「婚前旅行?」
そうして改めて言われた言葉を繰り返すように、ロアが尋ねると、冬青は自信満々に胸を張った。
「はい!」
曇りなき笑顔。ロアとリオは頭を抱えた。
「私……初めてアヤネが可哀想だと思ったわ」
「おや、わかってくれるかい?」
「ど、どどどどどどどどどういうことですか、アヤネさん!!」
「でもね、そういう所が好きなんだ」
「ど……!! どどどどどどどどういう、こと……!」
三人で冬青を生暖かい目で見つめている。冬青はもう真っ赤だ。
「お二人とも本当に仲が良くて羨ましいです」
「あの、本当に、ここに来たかったんです!!」
居た堪れなくなって、悲鳴のように冬青は声をあげた。
「だって、心配だったから……!」
「はい。冬青さんの気持ちはありがたいしとても嬉しいと思います。でも、婚前旅行はもうちょっと、場所を考えましょう」
「ぉぅふ。あの優しかったリオまで……!」
「冬青。大丈夫。あなたなら……できる!」
「わかりました。考えましょう。アヤネさんを唸らせるハネムーンプランを……!」
力む冬青。きっと無理だろうなあ。なんて顔で見つめているリオ。本当に応援しているロア。そして、
「(たぶん三分ぐらいで知恵熱出すかな……その前に助け舟出さなくちゃネ)」
なんてアヤネは算段するのであった。
●村を見る
「といっても、見るところなんてないですよ……?」
「性分でね。好きなんだ、地図を描くの」
「ああ。前にそんなこと言ってましたよね」
あれ本当だったんだ。と呟くリオに、アヤネはウインクをした。
「……!」
「冬青さん。一瞬で心配になる顔しないでください。アヤネさんも、気を付けてください」
一瞬で何か言いたげな、なんというか不満そうな。ダイレクトにいうと焼き餅を焼きたいような。そうでないような。そんな顔をする冬青に、リオが呆れたように言うので、
「おっと失礼」
ちゅっ。
すかさずアヤネが冬青の頬にキスをした。
「……! ちょ、ちょちょちょアヤネさん……!」
冬青は真っ赤になる。あんまりにもわかりやすいその仕草が、自分でもわかっているのか、
「ほら、大丈夫になった」
にっこり笑うアヤネに、冬青は首をぶんぶんと横に振った。
「ふ、二人のいるところだから、見回って、安全とか少しでも確認したいんです!」
「……ありがとう、冬青、アヤネ」
ロアの言葉に。冬青は軽く鼻を描いて小さく頷いた。
それから、二人はいろんな手伝いをした。
周囲を見回り、危険にはいろいろな方法で対処したり、村の中で困っている人の手を貸したり、時に畑を耕したり、水やりをしたりして。
昔、ロアやリオがいた場所とは比べ物にならないほどの粗末で、ささやかで、不安定な暮らし。けれどもそこで、確かに彼らは細々と生きていた。冬青たちは自分たちにできる精いっぱいを行った。
そして……。
「……お花、元気ないですね」
最後にささやかな村の花畑にやってきた。
この花畑は、最後まで潰して畑にするかどうか悩んでいた場所だという。
それでも、憩いの場は必要だと。……本当に、一人暮らし用のアパートの一室、ぐらいの小さな場所でに植えられた花たちと申し訳程度に添えられたベンチがあり。そのベンチに腰かけて、二人はただ花を見ていた。
「暗いからネ。そもそも綺麗に花が咲き乱れること自体、この世界じゃ珍しいんだと思うヨ」
「そうですね……。でも、頑張って咲いてます」
「……うん」
けなげに咲く花々を、二人は無言で見つめる。
随分お手伝いして、忙しくしていて、二人は今夜、ここを後にする。そのため気を効かされたのか、それとも忙しいのか。今は二人きりであった。
「やっぱりハネムーン、もっといいところがよかったですか?」
花を見ながら、冬青はぽつんと呟いた。冬青とて、出かける前のアヤネの顔を見ていなかったわけではない。
けれども、自分の望みを通してくれた。それを素直にありがたいと思っていたし、アヤネが残念に思っていたなら、謝らなきゃいけないと思っていたのだ。
果たしてアヤネはしばし考えたのち、
「でもこれ、婚前旅行だよね?じゃあ、沢山いこう、婚前旅行」
そう、あっけらかんと言った。冬青は瞬きをして、言葉を咀嚼する。……婚前旅行。結婚前の旅行。……確かに、
「ええー。いいのかなあ」
結婚する前なら、全部婚前旅行かも。そう言いながらも、どこか懐疑的に首を傾げる冬青。
「いいじゃないか、なんだって。僕たちが善ければ」
案外真面目な冬青の言葉に、アヤネは笑ってあっけらかんと告げる。冬青は一つ、瞬きしてのち。
「……あのですね、アヤネさん」
「ん?」
「私、アヤネさんと一緒に居られて、よかったです」
「……」
真面目な、ストレートな言葉に。今度はアヤネがほんの少し、顔を赤くする番だ。それはよかった、と彼女も口の中でつぶやいて、
「……」
「……」
ただ、無言で花畑を二人眺めた。
その沈黙は、嫌なものではなかった。
「……僕も」
長い沈黙の末に、アヤネは言った。
「僕も、冬青と一緒に居られてよかった。そしてこれからも、冬青が一緒にいてくれる限り……」
一呼吸。
「僕は、きっとずっと幸せだ。それだけで」
「……はいっ」
私もです。と冬青もまた、満面の笑顔で答えた。
●またね
「それじゃあ、私たちは、これで」
そうして、何日かの滞在の末、二人は村を後にした。
「ええ、また、きて」
「その時は、もっとこの村はよくなっていると思いますよ」
ロアとリオは二人が見えなくなるまで手を振っていた。滞在中に何かと手伝ったりしていた村の人々もすれ違うたびに声をかけてくれて、なんだかほくほくした気持ちで冬青は出発する。
「また……か」
アヤネは楽観視しない。次会うとき、今挨拶してくれた人々がどれだけ生き残っているかなんてわからない。
「はい、また、です!」
けれどもご機嫌な冬青の顔を見ていると、そんなこと言うことすらもったいないことのように思われて、アヤネは冬青の顔を観察するにとどめている。
「じゃあ、次はどこへ行きましょうか、婚前旅行!」
「ん-。そうだね。バカンスがいいなあ。あとは……」
あとは。言いかけてうっ、とアヤネは詰まる。
「どうしたんですか?」
冬青がその顔を覗き込む。
「……あーいや。まだソヨゴの家族には一緒に住んでいることは知らせているけど、恋人同士であることは言ってないし……。お父さんやお兄さんがどんな顔をするのか……って……」
「あー……」
ここで不安にさせてもしょうがないので、素直に白状したアヤネに、冬青は一瞬、瞬きをして天を仰ぐ。いつだって灰色の空が二人を見下ろしていた。
「……黙っていれば、こう、なんかいい感じに……」
「それでも、いつかは言わなきゃいけないことだから」
アヤネは楽観視しない。むぅ、と冬青は唇を引き結ぶ。……それから、
「ま、まあ、明日考えましょう。私たちには、明日があるんですから!」
なんて。
両の拳を握りしめて主張した。
「それより私、行きたいところだったらいっぱいありますよ! 世界だって色々ありますけど、UDCだって言ってないところいっぱいあるんですから! 考えましょう、唸るような旅行プラン!」
「そうだネ。フロリダのマイアミでワニを見るのもよし。少し足を伸ばして大西洋の孤島で過ごすのもいいだろうし……」
「え。意外。アヤネさんって、そんなにサバイバル好きでしたか??」
「いや、冬青が好きかなあと思って」
「や、私だってもっとこう……もっとこう、好きですよ、富士山とか!」
「富士山登山はサバイバルじゃないの……?」
村はどんどん遠ざかっていって、やがて見えなくなっていく。
さよなら、ばいばい、またいつか。
そんな声もまた胸の内。いつか会える日を楽しみに、
二人は、次の旅路への相談を始めるのであった……。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴