境界の内側は、輪郭なす
●シアリング
段ボールの箱がある。
農園の名前が記された段ボールであり、その農園から直送されたものであることが見て取れるだろう。
内包されているのは、サツマイモだ。
手に取るっとカサカサとした感触がある。
ずっしりと重たく、また固い。
これは塊根、即ち、養分を蓄えている肥大化した根だ。
別名は甘藷とも言うし、唐芋とも言われている。
成分はデンプンやビタミンが豊富であるし、食物繊維も多い
「スウィートポテト、パタートゥ・ドゥース、、バタータ・ドルチェ、ふんふんふん~ん♪」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の屋敷の中で、鼻歌が聞こえる。
性別不明の幽霊がご機嫌に歌っていた。
作るのはサツマイモのザクザククッキーである。
サツマイモを蒸し、マッシャーで潰す。
ホックホクと立つ湯気すら甘い香りがするようだった。
ほぐれるようにして潰れたサツマイモに米粉を少々と砂糖を入れて、バニラエッセンスを加えるとさらに甘い香りが厨房に広がる。
かき混ぜてなじませたら、生地の出来上がりだ。
あとは生地を寝かせなければならない。
その間にキッチンのシンクの扉を開けると、そこにあったのはクッキーの抜き型。
いくつか手にとって見る。
「お猫様には、魚の形……『陰海月』ちゃんには、丸型かな?『霹靂』さんには……おお、これなんか丁度良いのでは?」
マンガ肉型なんてなんであるのかと疑問に思ったが、あるのだから気にしてはいけない。
この屋敷の主である義透たちには様々な形がいいだろう。
星だとか花だとか、抜き型はたくさんある。
そうして多くの抜き型を一度水洗いしてから、寝かせていた生地を取り出す。
麺棒で適当な厚さに伸ばして。
「いざ!」
ぽん、と押し込めば抜き型のとおりに生地が抜かれる。
猫の形であったり、魚であったり星であったり、様々に抜かれていく生地。
誰かを思って作るものは、いつだって心を軽やかなに跳ねさせてくれる。
「あ……自分のはどうしましょうか」
抜かれた傷を後はオーブンでカリカリになるまで焼けば良いのだが、そこで自分のものはどうしようかと考えが巡る。
見下ろす先にあるのは、肩を抜かれて穴だらけになった生地。
それをつまんで笑む。
「これでいいですね」
形は悪いが味は変わらないのだから、むしろ量がたくさんあってお得だ。
オーブンから香る甘い香りは、その出来栄えを教えてくれる――。
成功
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