コロりと進むよ冬の芋煮艇!
ヴィヴ・クロックロック
【芋煮艇】にて、よろしくお願いいたします。
口調は私の言い捨て、カッコつけます。でもポンコツぎみです。
■個人
ゲームをするなら鉄板をとかいいながらぐらサイとかイカサマサイコロ、多面ダイス持ち出すと思います、でも面子的に即看破されると思います。ラック値は良い時と悪い時の波が大きめです。
行事ごとに対してはテンションは静かに燃え上がってます。
●育てた芋から宇宙船
宇宙へ艇がスイと出た。
世の中クリスマスに浮かれて年末年始の商戦に乗り遅れるなと言わんばかりに大賑わいをしていたとしても、無限に広がる大宇宙に漕ぎ出した艇は立ち止まってなんかいられないのである。
その艇とは一見するとちっぽけな宇宙船『イモータル級二号艦艇』。
人呼んで『芋煮艇』である。
館内は不思議と広大。
どこになにがあるのか、どんな機能があるのかは船長すらも把握していないっていうから、さあ大変である。
『芋煮艇』のクルーたちは、今日もどんちゃん騒ぎを飽き起こしている。
寄っておいでよ、見ておいでよ、よいとこだよ『芋煮艇』。
芋煮は心のオアシス。
――ということは今回あんまり関係ない。
関係あるとしたら、登場する人物たちは皆『芋煮艇』のクルーである、ということ。
そんでもって皆、美女美少女ばっかりってことである。
言うまでもないけれど、これは猟兵である彼女たちの物語である。
つまり?
いつものってやつ――!
●冬・雪・クリスマス
冬と言えばクリスマス。
いや、まだあるだろ、と言われるかもしれないが年末における一大イベントと言えば、やはりクリスマスである。
クリスマス・イヴ、クリスマス。
そんでもってお正月。
おい、三大イベントじゃねーか、というツッコミは御愛嬌である。
細かいことはいいのである。
とにもかくにも今年一年大変いっぱいがんばりました! お疲れしった! という気持ちがあれば大抵のことはなんだっていいのである。
それくらいに年末っていうのは社会人を含めて多くの人々の心を荒ませるものである。
けれど、そうした大忙し、師走。
お坊さんも走り回ってすってんころりんのおむすび坂を転がり落ちて、雪だるまになっても、ぼかんと雪を蹴破って走り出さねば間に合わぬのが12月である。
そりゃあ、真っ赤なお鼻のトナカイさんだって空を飛べるはずである。
飛ばねば間に合わない。
そういうもんである。
そして、芋煮艇のクルーの一人であるイヌイ・イヌバシリ(飴色の弾丸・f43704)も、大忙しな猟兵の一人であった。
胸に抱くは家訓『世のため人のため』。
そう、年末大忙しであるのならば、書き入れ時。
彼女もまた日夜、街を走り回っているのだ。いや、今回はクリスマス前夜にケーキ売りのバイトに勤しんでいた。
真っ赤なサンタ服に身を包み、何故かミニスカであるところに疑問を覚えながらも、まあこういうもんでありますよね、と納得しつつ彼女はケーキを見事に売り切っていた。
とは言え、ヘトヘトである。
「なんていうか、動き回っていたときの方が楽だった気がするであります」
「そういうもんデスよー」
試作機・庚(盾いらず・f30104)といっしょにやってきていた芋煮艇の別荘であるログハウス。
その室内を今、クリスマスらしい飾り付けでドレスアップしている真っ最中なのだ。
庚は器用にあちこちにキラキラするモールやらオーナメントをくくりつけている。こういう細々とした物を作ったりするのに長けているのだろう。
はえ~、とイヌイは感心していた。
「庚どのは、流石ですな。こういうのってどこから見つけてくるものでありますか?」
「作りましたデスよ。案外簡単デス。ちょっと飾り付け張り切り過ぎてしまった感もないでもないデスが」
「そんなことありません。キラキラしていて、なんだか元気になってきますな!」
ワオン。
イヌイは庚と共に飾りつけを行っていると、レン・ランフォード(近接忍術師・f00762)がログハウスの扉を開けて戻って来る。
肩と頭に積もった雪を払って、ぶるっと身震いすると吐き出す息が白く染まっていた。
「ただいま戻りました。飾り付け、お疲れ様です」
蓮は買い出しの袋を持ち上げてキッチンのテーブルに置く。
「おかえりなさいませでありますよ」
「結構積もっていましたデス?」
二人の言葉に蓮は頷く。
「おかげでさむがりな『れん』は引きこもっちゃいましたけど」
蓮は苦笑いして、あまりの外の寒さに中から出てこない別人格が今も『寒いのやだ……』と呟いているのを聞く。
とは言え、二人が飾り付けたログハウスの中はなんとも綺羅びやかであり、パーティの様相を呈していた。
オーナメントの賑やかな雰囲気は、心が踊る。
「買い出しご苦労。こっちに持ってきてくれるか?」
蓮に呼びかけるのは、キッチンにいたキリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)だった。
彼女はハイネックの白いセーターにタイトロングスカートというお姉さんらしい雰囲気を放っていた。
キッチンにエプロンをして立つ姿は、いつものクールな彼女が纏う空気を幾分柔らかいものにしていたことだろう。
ある意味で完璧な姿であったとも言える。
「あ、はい。食材はこんな感じでよかったですか? 予算内には収まったんですけど」
蓮の言葉にキリカは袋の中身を取り出しながら確認して頷く。
「ああ。構わない。元々多く予算を取っていたからな。こういう時にケチっては台無しだ。気前よく行きたいところだ」
「でも、料理全てお任せてして大丈夫ですか? 大変じゃあ……」
「その代わり買い出しをしてもらったり、飾りつけをしてもらったりしているんだ。これくらいは私の領分だ、ということにして欲しい」
キリカはそう言って笑む。
大人の余裕というやつであろうか。
とは言え、キッチンの奥からは良い匂いがしている。
香辛料の匂いだろう。オーブンの方から香っているということは、七面鳥の丸焼き的な料理の最中なのかもしれない。
キリカの手際は実際よかった。
蓮が買い出しに出ている間に食事の用意を手早く済ませていて、また追加で買ってきてもらった材料から頭の中では献立に基づいて次なる料理の手順を考えていた。
「良い匂いがしてくるじゃないか」
「キリカの料理楽しみだね」
ログハウスの二階はベッドルームだ。その掃除を終えたヴィヴ・クロックロック(世界を救う音(仮)・f04080)とルエリラ・ルエラ(芋煮ハンター・f01185)が階段の向こうから顔をひょっこりだして、鼻を鳴らしている。
「クリスマスと言ったら七面鳥だよね」
「でもなんで七面鳥なんだろうね」
ルエリラの言葉にヴィヴは頷く。
「世界によっても諸説あるとは思うけれど、元々はアメリカ大陸に移住してきた移民たちに原住民が振る舞ったのが始まりと言われているね」
へぇ、とルエリラは頷く。
移住してきた人々は、持ち込んだ作物がうまく育たず飢えていたのだという。
これを見かねた原住民が七面鳥を贈ったのだ。
そう考えれば、人の和から始まった慣習であるとも言えるだろう。
その後の歴史がより良いものでなかったのだとしても、始まりは人の善意から始まったものであるというのならば、喜ばしいことであった。
「へぇ……でも世界の芋煮は私のものだよ」
ルエリラはきっぱり、そう言い切った。
ちょっと台無しであったが、ヴィヴは、ふ、と笑った。
それはどうかな、とでもいう雰囲気であったが、その笑みの意味を知るのは、もう少し後である。
「もちろん、七面鳥の丸焼きも用意している。肉を休ませねばならないから、今しばらくかかるがな」
キリカは二人の様子を見て笑む。
「暖炉の火は大丈夫か?」
そう言って暖炉を見やれば、ヴォルフスブルク・ヴェストファーレン(鉄の狼・f34026)と有坂・紗良(天性のトリガーハッピー人間・f42661)が掌を爆ぜる火の前にかざして暖を取っていた。
彼女たちも蓮と同じく買い出しに向かっていたメンバーであった。
「もちろんっすよ~あ~……あったかいっす……」
「万事お任せくださ……うひゃあっ!?」
爆ぜた薪の大とにヴォルフスブルグは、ぴょんこと飛び跳ねる。
思わず身をすくめて沙良の身に抱きついてしまう。
大げさだなぁ、と思わないでもなかったが、ヴォルフスブルグのそういうところを沙良は理解していた。
抱きつかれても特に動じていないのだ。
「薪がちょと弾けただけっすよ。ほら、怖くないっすよ」
「ひょ、ひょわ……申し訳ありません、びっくりしちゃって」
「でも薪っていいっすよね。炎がゆらゆらしているのを見てると、心が落ち着くっていうか」
沙良はトリガーハッピーである。
銃をもたせたら、引き金を引かねば気がすまないし、弾倉に弾丸が残っているのならばとにかくぶっ放さなければ、と思う質であった。
大抵のことはブッ放せば解決できると思っているあたり、その気質は言うまでもないことであっただろう。
だが、そんな彼女とて暖炉の火を見つめていれば心が落ち着いてくるものである。
大抵の動物が火を恐れるに対して、人間は火がゆらゆらと燃える様に心の落ち着きを得るのは不思議な特性であると言えただろう。
ヴォルフスブルグもガレオノイドであるが、同様であった。
「そうですね……あ、窓の外見てください。やっぱり降り出してきましたよ」
彼女が指差す先を見れば、曇天の空より舞い落ちる雪。
白くふわりと落ちるスノーフレークは、地面に落ちては溶け消えゆく。
だが、徐々に溶けるよりも早く降り注ぐ新たな雪によって積み重なり積雪することになるだろう。
そうなれば、地面は一面銀世界になることは予想に難くない。
「積もるんすかね?」
「予報では積もるということでしたね。ホワイトクリスマスには丁度良いのかもしれませんが」
二人の言葉に二階からドタドタと織りてきたルエリラは窓にかじりつくようだった。
「本当だ! 明日は雪合戦できるね! ふふふ……正直言って雪合戦でこの私に勝てる人はいないよ、多分!」
「果たしてそうでしょうか? 勝負とは時の運もありますから。その慢心、足をすくわれなければよいですね?」
自信たっぷりなルエリラの前に蓮が立ちふさがる。
彼女はルエリラをライバル視している。逆にルエリラも同様であろう。
何かと負けず嫌いである蓮たちからすれば、ルエリラの巧妙かつ精緻なる仕込み……と言う名のイカサマは許してはおけないのだ。
勝負事となれば、当然のようにイカサマそのものな手練手管を持って勝利を目指すルエリラとは蓮はどうしたって目を光らせてしまうのだ。
「雪合戦は、明日のお楽しみにしておこうじゃない。まずはさ、腹ごしらえしてからでも遅くないでしょ?」
「それは、そうですね」
うん、腹ごしらえは大事だ。
そんな二人の様子を見ながらイヌイはますますテンションが上がってきたのか、ますます元気になっていた。
ジャージから出た尻尾が左右にぶんぶぶんと揺れている。
「確かにのんびりするのは良いことでありますな。骨休めって大切であります!」
飾りつけを終えて、イヌイも暖炉の前にやってくる。
ログハウスの中は充分にあったまってきているとは言え、作業をしていると指先が冷たくなってくるものだ。
「はぁ~……暖炉って素晴らしいものでありますなぁ」
ほっこりしているイヌイに庚は頷く。
「それにボードゲームもいっぱいもってきてますデス。みなさんで楽しむには事欠かないデスよ」
庚は自分が持ち込んだ荷物……積み上げられた数々のボードゲームを指差す。
そう、今宵はクリスマスパーティなのだ。
皆で一晩中夜更かしをして大盛りあがりをすると決めているのだ。
こういうところは、芋煮艇の風潮というか、クルーらしさである。
そんな積み上げたボードゲームの箱のお山の隣にはクリスマスツリーが設置されていて、根本に数々のプレゼントの箱が積み上げられている。
これもクルーたちがそれぞれ持ち寄ったものだ。
食事をした後は、このプレゼント交換会を行う予定になっている。
そんなプレゼントの山を見やり沙良は、ぴこんと頭上に豆電球を光らせた。
そう、今日はクリスマスパーティである。
パーティである以上、盛り上がることは必須条件だし前提条件だ。
であるのならば、当然必要であろう。
「さーて、こういうイベントごとにはちょっとしたサプライズってヤツが必要っスよねぇ……」
にんやり。
悪い顔である。
ざわ……ざわ……と彼女の背後がちょっと騒々しい気がしたが気の所為である。
沙良はコソコソと皆が窓外の雪に目を取られている隙に自身の持ち込んだプレゼントの箱にちょっとした細工を施す。
ガンスリンガーである彼女にすれば、火薬とはお友達である。
ちょいちょいのちょいで、ちょっとした炸裂音を放つ爆竹めいた装置を取り付けて、サプライズを演出しようとしていたのだ。
それをヴィヴは二階から目ざとく見つけていたが、注意することはなかった。
むしろ、である。
そうしたサプライズをサプライズとして楽しめる度量があるとも言えただろう。
「サプライズ、というわけだ。なら……」
これまたヴィヴも悪い笑顔を浮かべて沙良が何喰わぬ顔でクルーの環に戻ったのを認め、クリスマスツリーに駆け寄る。
彼女が仕掛けたプレゼントは、沙良自身が持ってきたものだ。
であるのなら、とヴィヴは仕掛けを更に別のプレゼントの箱にすり替えほくそ笑む。
「サプライズは、仕掛けた側も驚かなくちゃあならない。その方がきっと楽しいからね」
それがサプライズ返しである。
ヴィヴがさらに仕掛けをすり替えた後、その様、一部始終をさらに見ていた者がいた。
そう、庚である。
彼女は汎ゆる場所に目を光らせていた。
猟兵と言っても女所帯である。どんなアクシデントがあるかわからない。
であるのならば、些細なことにも目を光らせるのが己であると庚は規定していたのだ。
「まったく油断も隙もあったものではないデスね」
安全上、火薬を使ったものを室内で使うのは推奨できない。
であれば、秘密裏に取り外しておくべきだと思ったのだ。沙良が仕掛け、ヴィヴが別のプレゼントに仕掛け直した爆竹。
それを庚はするっと回収しようとして……。
「庚どの~お皿ってどこにあるのでありましょうか~」
イヌイの声が聞こえて、取り外した爆竹がツリーの真下に集められたプレゼントの隙間へと落ちてしいまう。
あ。
そう思った瞬間、落ちた衝撃で爆竹が炸裂する。
凄まじい炸裂音。
それは小さいながらにも強烈な音となってログハウス内に響き渡るのだ。
「ひょわわわわわっ!? な、何事ですか~!?」
「ひえっ!? な、なんでありますか~!?」
「え、なになに!?」
「銃声! まさか襲撃っスか! 襲撃っスよね!? ふてぇやろーっス!」
「命知らずですね」
「本当だね。ここにいるのが百戦錬磨の猟兵って知ってるのかな?」
「おや……?」
「うん、いい味だ」
思わぬアクシデント。
沙良の仕掛けたサプライズは、彼女が意図しないところに転がり込んで二転三転して炸裂してしまったのだ。
庚は曖昧な顔で手を挙げる。
「いえ、その、あのデスね?」
違うのだ、と弁明するつもりであった。
だが、すでにログハウス内は大騒ぎである。
イヌイは尻尾をビーン! と立たせているし、ヴォルフスブルグは大慌てであわあわするばかりである。
沙良は自らが仕掛けたものであると思わずに、これで銃をぶっ放せると愛用の銃を握りしめて構えている。
蓮は蓮でこんな時にと厳しい顔をしている。
キリカは、このメンツなら大抵のことには対処できるだろうと自らの領分であるキッチンからでてこようともしていない。
ルエリラは、そんなキリカの料理をつまみ食いするチャンスじゃんね、とキッチンに近寄っていたが、そんな隙はまったくなかったことに残念そうな顔をしていた。
唯一、ヴィヴだけが全てを察した顔をしていた。
「どうやら悪戯好きな誰かが仕掛けたサプライズが独りでに先走ってしまったようだね?」
ウィンクしてヴィヴは庚に微笑む。
「かたじけないデス」
思いがけないサプライズで幕を開けたクリスマスパーティ。
芋煮艇のクルーたちにとっては、こんなこと日常茶飯事だ。
むしろ、漸く平常運転の機動に乗った、とも言えるだろう。それくらいに騒々しい位が彼女たちにとっては良いのかも知れない。
静かで厳かな聖夜もいいだろう。
恋人たちのクリスマス、と言う者だっているだろう。
家族の団らんとも言うだろう。
多くを受け入れるのがクリスマスの器であるのなら、こんな騒々しくも取り留めのないクリスマスパーティがあったっていいのだ――。
●パーティ・フィースト・ファースト
「なんだか騒々しかったが、気を取り直して」
キリカはイヌイたちとテーブルに作り上げた豪華なディナーを並べ、グラスを掲げた。
無論、飲み物は各々が用意したものだ。
好きなものを好きなだけ食べる。
それが芋煮艇式クリスマスパーティというものだ。
キリカが腕によりをかけて調理した食材の数々は、色とりどりであり華やかなものだった。
豪華絢爛というに相応しいものだった。
これを彼女の一人で作り上げたというのだから、とんでもないことである。
「さあ、乾杯と行こう」
かんぱーい、と姦しいどころではない女子会めいたパーティが始まる。
七面鳥は休ませたことで味わい深いものになっているし、切り分けるだけで香辛料の香りが周囲にを包み込む。
食欲増進にピッタリな食事であったことだろう。
「これ、おいしいであります!」
イヌイが七面鳥の足……つまりはドラムと呼ばれる部位を骨までかじりつきながら夢中になって食べているし、蓮は三人の人格を目まぐるしく入れ替えながら料理に舌鼓を打っている。
「あっ、ちょっと待って、まだ味わってる最中だから……」
「早く変わって」
「もっと食べたい」
そんな蓮の前にヴォルフスブルグは取り分けた料理を置き微笑む。
「まだまだありますから、遠慮なさらないでくださいね」
「ヴォルフスブルグもしっかり食べるデス。さあ、給仕はそれくらいにして、座って座ってデス」
「庚どのも、こちらに~」
イヌイと庚たちは取り分けられた料理を堪能し、グラスを開けていく。
ぐいぐいと進むのは、やはり料理の味わいあってことそだろう。
キリカはそんなクルーの様子に目を細める。
喜ばしいことだ。調理するのも楽しいが、一番の醍醐味は自分が供した料理を誰かが美味しそうに食べている顔を見ることだ。
「全部おいしい。なので、全部私のものってことでいいですよね?」
「まだあるからそんなに囲い込まなくてもいいんじゃないっスか? あ、ケーキもあったんスよね?」
「ケーキ!」
ルエリラの言葉に沙良が頷く。
クリスマスパーティといったらケーキも当然用意しているものである。
「それでしたら、自分がバイト先から頂いてきたものであります! 予約殺到の人気店のものでありましたから、皆さんもきっと気にってくださるのではないかと!」
イヌイの言葉にルエリラの瞳がキラキラ輝く。
完全に尊敬の眼差しであった。イヌイはちょっと照れた。
「ふむ。ケーキまで入るかな」
ヴィヴは豪勢な食事を楽しみながらも、ケーキまである、と聞いて自らのお腹をさする。
今のお腹の具合を考えれば、腹六分目くらい、というところであろうか。
「甘いものは別腹、ともいいますデスからね」
大丈夫でありましょう、と庚はヴィヴに笑いかける。
「それもそうかもしれないね。いや、むしろ女子の本分とも言える、のかもしれないな」
軽く笑ってヴィヴはグラスを傾ける。
味わい深い料理に、親しい友人たち。
集まって楽しむ姿は、普段以上に食欲を増進させるものであったかもしれない。
「いやはや、さっきはサプライズ失敗かと思ったっスけど、なんとかなってよかったっスね。うんうん」
「いや、ちょっとは反省して」
「本当デス」
「てへぺろっス」
これはこりてないな、と沙良の様子に庚とヴィヴは半眼になってしまう。
けれどまあ、ああいう事件もイベントと捉えられるくらいには皆心が広いのだ。
幸いにして仕掛けられた爆竹は火薬の量も極小だったので、ボヤ騒ぎにならずにすんだのだ。
「それじゃあ、そろそろプレゼント交換会と行こうか」
キリカが充分に食事をとって膨れたお腹の具合を見て取って、沙良たちによって思いがけないサプライズイベントとなったクリスマスツリーを指差す。
「そうデスね。では、僭越ながら、ミュージック、スタート、デス!」
クリスマスの夜は続いていく。
賑やかな音楽。
リズムが奏でられる度にクルーたちの間をプレゼントの箱が渡っていく。
「ちょっ、これ誰っスか?! なんかやけに大きいのに軽いんスけど!」
「え、何、これ? うわ、本当だ軽ッ」
「それは音楽が止んでからの楽しみだろう? おっと、これはなんとも可愛らしいな」
「わ、なんか包装紙かわいいであります! それにちょっと思い出ありますな~」
「回すのも一苦労だね、これ」
「わ、わわわっ、待って待ってください~回すの速いです~」
「慌てないで、ゆっくりでいいですから」
ひとしきりプレゼントを回しきった後、音楽が止まる。
その時点で手にしていたものが、その人のクリスマスプレゼントになるのだが、ヴォルフスブルグが回すのに手間取っていて渋滞を起こしている。
「ひょわわ……ご、ごめんなさい~……!」
「大丈夫大丈夫。ほら、こっちに順番で渡してください」
「逆にこれ、渋滞しているのヴォルフスブルグさんのでいいのでは?」
「いや、それは困る。私の手元にプレゼントがない」
そんなやり取りと共にクルーたちはそれぞれのプレゼントの封を切る。
人によっては、なんだこれ! となるものもあっただろうし、思いがけないプレゼントに喜ぶ者もいただろう。
さらに言えば、自分が買ってきたプレゼントを手にした者だっていたかもしれない。
だが、それも良い思い出になるだろう。
それにパーティはこれからだ。
食事もそこそこに落ち着けば、次は娯楽に走るのが常である。
食欲が満たされたのだ。
であれば、当然次は、となるのは自然な流れであろう。
「そういえば、『れん』が色々とゲームを持ってきていたんですよね。折角ですから遊びませんか?」
蓮はテーブルの端に積み上げられていたテーブルゲームの箱を指差す。
それは庚もまた持ち込んできていたものであった。
「勿論です。まあ、私は不正防止のために参加しないほうが良さそうデスけど」
庚の言葉にキリカは頭を振る。
「何を言っている。当然、みんな参加するものだ」
「そうデスかね? できれば、皆で遊べるものがいいデスよね?」
キリカの言葉に庚は持ち込んだボードゲームの類を眺める。
「これなんかどうですか? コウテイピラミッド。コウテイペンギンの描かれたカードをピラミッドの形に並べていくゲームなんですけど」
「なかなかおもしろそうデスね」
「このウルフっていうゲームは……どんなゲームなんですか?」
「それは、引いたカードを額に掲げて、その数字をみんなの表情を見て当てるゲームですね。お手つきする度にポイントが溜まって、そのポイントがたまり切る前に自分の引いたカードの数字を言い当てるっていうゲームなんです」
「む、難しそうですね……」
「相手の表情を読むのに長けていないといけないですし、相手にさとられないように表情を作らないといけなかったりとシンプルですけど奥深いゲームですよ」
クルーたちは、それぞれに興味のあるゲームを物色し始める。
こうなると始まるまでが長い。
それにルールを把握する時間だって欲しい。
そうなるとどれもこれもとは行かないだろう。
であれば、最もポピュラーなものが良いだろうという判断に落ち着くのは、当然と言えば当然であった。
「ふむ、であれば、この開拓競争ゲームが一番良いのではないか?」
キリカの言葉にクルーたちは頷く。
そう、開拓競争ゲーム。
それは自分達が無人島に飛び込み、開拓していくゲームである。
当然競争要素はあるし、また自らの領地を街へと成長させ、さらに道を拡張していくボードゲームだ。
またプレイヤーの間で取引や交易を行うルールも存在していて、ただ拡張路線をひた走れば良い、というわけでもない奥深さがある。
そう、プレイヤーの性格によってプレイスタイルが変化できる、というのがこのゲームの面白さでもあり、肝でもあると言えるだろう。
「なら、決まりっスね!」
「ふふ……こんなときのために私、ちゃんと皆さんの分のコマを用意してきたのデス」
庚が取り出したのは、クルーたちを象ったコマであった。
絶妙にデフォルメされてシンプルデザインに落とし込んだコマ。
されど、皆の特徴をしっかりと捉えたコマである。それを一人ひとりに手渡して庚はボードを広げる。
「わっ、これすごい……え、庚、これ作ったの?」
「そうデスよ。せっかく遊ぶなら、こういうのが会ったほうが皆さん楽しいだろうと思ったデス」
「すごいであります……! これは負けられないでありますな!」
イヌイはもうやる気満々である。
ぶんぶんと振られる尻尾が感情の高さを教えてくれるだろう。
ヴォルフスブルグは少しルールブックを眺めて確認をしていた。入念なチェック、と取れる姿であったが、残念なことにふわっとした感じの理解しかしていない。
見た目とのギャップ!
逆にヴィヴは、にこりと微笑んでダイスをすり替えていた。
そう、彼女がすり替えたのはグラサイ……磁石であったり重石などで特定の目がでやすいサイコロである。いわゆるイカサマダイスだ。
「私はこのダイスを使わせてもらおうと思う」
まるで、そのゲームボックスの中に付属していたダイスであったかのように、巧妙にヴィヴはイカサマダイスを手に取ったのだ。
だが、次の瞬間、その手を掴む手が二つあった。
一つは庚。もう一つは蓮であった。
「そのサイコロ、改させて頂いても?」
「怪しいデス」
「……」
言いがかりだ、とヴィヴは誤魔化そうとしたが、このメンツである。どう考えても即座に看破されるのはある意味当然の帰結であった。
「ほらやっぱりデス!」
「息するようにイカサマを!!」
「まあまあ、いいじゃない」
ルエリラは、二人をたしなめる。
彼女にしては珍しい態度であった。むしろ、まっさきにイカサマに走りそうなのに、と蓮はジトっとした目でルエリラを見た。
「ふふふ……この私ほど真摯にゲームに臨んでいる者もいないよ。いざ、正々堂々勝負だよ!」
言ってることは真っ当なのだが、なんか信用ならないな、と蓮は思っただろう。
その勘は正しい。
ルエリラはこう思っていた。
自身はアーチャーであり、シーフである。
つまり、どういうことかというと、裏でこそこそイカサマしようがなにしようがシー0フであるというだけで許されるのだ。
シーフの正々堂々はズルするのが正義なのだ。大正義なのだ。大本営発表もそう言っているのである。
であれば、イカサマもバレなければ正義なのだ。
正義とはルエリラのことを言うのだ。
勝利してしまえば、大抵のことは水に流されるっていうのは、歴史が証明している。
であれば、このゲームぶっちぎりで勝利してしまえば、ルエリラのイカサマを警戒していようがバレないままに収めれば何もかもが大正義として語り継がれるのだ。
汚い。汚すぎる。
だが、そういう汚れた道を往くのもまたシーフってもんである。
アーチャーであるから、まっすぐに目的に直進してしま矢らしくていい。
「いえ、普通に怪しいです。ちょっと、その資源カードシャッフルするのやめてもらっていいですか」
蓮がぴしゃりとルエリラのシャッフルしているカードを手に取る。
「えーいいけどー?」
と言いながらルエリラはカードをぱっくんとサメグルミに飲み込ませる。
「あー!」
「はい、サメの胃袋にないないしたのでありませーん」
「いやいや、それないとゲーム始められませんから!」
「しかたないなー」
そう言ってルエリラは、サメグルミの中からイカサマしようとしていた痕跡を抹消してカードを蓮に手渡す。
庚と蓮によるイカサマダブルチェックをかいくぐるのはどうやら難しそうだ、とルエリラは核心する。
下手に小細工を打つよりも、ここは真っ向から勝負したほうが却って歩がよいのかもしれないと判断してのことだった。こういうクレバーな切り替えができるのもルエリラの強みであったことだろう。
「では始めようか」
キリカの温度でそれぞれが広げられたフィールドボードの上のスタート地点にコマを置く。
庚・作のコマのお陰で視覚的に誰のコマなのかわかりやすくていい。
「それーであります!」
イヌイは勢いよくダイスを振ってフィールドの上を邁進していく。
とは言っても良いのは勢いだけであった。
やる気は満々なのだが、どうにも実力が伴っていない。序盤の戦略として資金を貯めつつ自陣の基盤を固めていく、という戦術がどうにも取れていない。
やたらめたらに鉄道線路を拡充しまくって、資金がすぐに底をついてしまうのだ。
「うわん!? お金がないでありますよ!?」
「おっと、よければ資金援助しようか?」
そんなイヌイにすり寄るルエリラ。
親切心からではない。当たり前であるが。
そう、このゲーム、他のプレイヤーと協力することができる。信頼に基づいたルールに認められた行為である。
がしかし、信頼に基づく、ということは裏切りもまた発生するのだ。
「イヌイさん、ちょっと待ってください。ちゃんと約款を確認してからでないと、身ぐるみ剥がされますよ!」
蓮の言葉にルエリラがニッコリ笑む。
「だいじょうだいじょうぶ。トイチだから」
「ヤッカン? トイチ?」
「あー! 駄目です、騙されちゃいますからー!」
そんな三人のやり取りの端で沙良はふむ、とルールブックを片手に頷く。
確かにルエリラと蓮はこういう戦略も必要とされるボードゲームには強いのだろう。納得できる。
だが、さりとて、こういうゲームには運の要素も多少なりと含まれてくる。
戦略を覆し一発逆転の目なんていうのは、そこら辺にゴロゴロしているものだ。
「じゃあ、サイコロ振りますね……えいっ」
その隣でヴォルフスブルグがダイスを降る。
彼女の戦略は手堅いものだった。
地道に開拓を行い、食料自給率を上げてから線路の拡充を行い、人足を集めてじわじわと追い上げようというのだ。
実際、彼女の基盤を築くやり方は定石とも言えた。
が、沙良が感じたように、このゲームは運の要素が過分にあるのだ。
つまり、ダイス目がよろしくなければ、どんなに手堅く基盤を築いたとしても、あっさりぱっきりと基板ごとへし折られる、ということもなくはないのだ。
「そんな滅多なことじゃないっスけどね……ってえええええっ!?」
沙良の見ている前でダイスを振ったヴォルフスブルグが出した目は1のゾロ目。いわゆるファンブルであった。
大失敗。
そう、ヴォルフスブルグの悲しいところはどんなに手堅い戦略をとっても、彼女の持つ幸運値というものが底値を叩きまくっている、というところにあったのだ。
「ひゃえぇぇ……な、なんでファンブルでちゃうんですかぁ!? えっ、この場合は~……えぇぇ……?」
「なになに、大不作で恐慌が起こって一揆勃発?」
ヴィヴはヴォルフスブルグの出したファンブルの結果を読み上げる。
なんとも容赦のない文面でるし、泣きっ面に蜂どころではない内容である。もうちょっとこう、手心っていうのは……となる結果である。
「ひゃわわわ……」
「だ、大丈夫でありますか、ヴェストファーレンどの!?」
「な、なにもかも失っちゃいました……」
べそべそするヴォルフスブルグをイヌイはよしよしと頭を撫でる。
いや、だが同時にイヌイは思った。
この調子でいけば、自分ではなくヴェストファーレンどのが最下位になるのではないか?
それならば良いかもしれない。
チラ、とそんなよくない考えが頭によぎってしまう。
「あ、でも、ここ見てごらん。ファンブルの場合は、資金で補填して失敗のレベルを一つ上げることができるみたいだよ。ヴォルフスブルグ君は地盤を固めていたから、資金だけはあるだろう?」
「え、あ……本当です。これなら!」
首の皮一枚で繋がるどころではない。
八人の中では真ん中くらいまでは浮上することができるではないか。
そんな九死に一生を得るようなヴォルフスブルグの華麗なる浮上劇に沈むのは、イヌイであった。
ヤバイ。
どう見てもヤバイ。
このままでは最下位なのでは!?
ぐるぐると巡る思考。だが、悲しいかな。このイヌイ・イヌバシリ。ゲーム弱々ドッグであった。
開幕線路拡充でトップをひた走っていたはずなのに、資金難に悩まされ、さらには周囲からはカモネギとばかりに資金の貸付を持ちかけられ、正しく転落人生である。
自力での勝利はもはやありえない。
そう、その目はないのだ。
地盤を固めていたり、産業を起こしていたのならば一発逆転の目もあったことだろう。
だが、そうはならなかったんだよ、イヌイ。という状態なのである。
もうここからは他のクルーたちのダイス目次第なのだ。
救いはないのか。救いはなないのか。
大事なことなので二回祈る。
どうしたって最各位になりたくない! 何をどうしても、ここから這い上がるのは無理筋なのだ! ちょっと可哀想だけれど、可哀想は可愛いからね。仕方ないね。
そんなイヌイをよそにヴィヴはクレバーにもゲームを進めていた。
割りと順調である。
「ふむ。手札は揃ってきたが、鉱山、か」
「おや、その鉱山購入されないんでしたら、ボクがもらっても良いっスかね?」
「何がでてくるかわからない土地だよ? 博打が過ぎないかい?」
「ふふ、ボクの場合はこっちを狙った方がアドバンテージがデカイんスよ! であれば、ボクが狙うはゴールドラッシュのみィ!」
「そう上手くいくかな?」
ヴィヴの言葉に沙良は笑む。
むしろ、こういうところにこそ運が回ってくるっていうものなのだ。
「ダイス判定……っと、ほらでました! えっと……石炭? えっ、金じゃなく?」
「案外いい目じゃあないか。石炭が出れば、線路を走らせる蒸気機関車の燃料は確保できる、ということだ。ある意味で目標に一つ近づいたとも言えるだろう?」
その出目を見たキリカは頷く。
そして、こうも切り出すのだ。
「とは言っても、沙良、お前のスタート地点では蒸気機関車を工面できないだろう? どうだい、その石炭の三割ほどを融通してくれるのならば、私のところで作っている蒸気機関車を都合してもいいが?」
キリカは主に工業方面で成長路線に入っていた。
だからこそ、鉄鋼の加工技術などに優れたアドバンテージを持っている。が、しかしエネルギー事情、蒸気機関車を走らせるための燃料である石炭の不足に悩まされていたのだ。
そこに沙良が石炭鉱山を掘り当てたとなれば、渡りに船である。
ここで彼女との同盟めいたパイプを構築することができれば、トップに踊り出ることもできなくはない状況なのだ。
「さ、三割っスか?」
「譲歩はできないがね」
「いや、あの、もうちょっとまからないかな~とか」
「では、やめるかね」
あ、これは腹芸ではキリカには勝てないと沙良は悟ってしまう。
眼力胆力自力。
いずれもがキリカはゲームの盤面以外での力を発揮しまくっている。こうなっては要求を飲んでコバンザメ作戦を行うしかないだろう。
ともあれ、沙良はまだまだ逆転の目を残している。
キリカという覇道を歩む者の後ろについていれば、自ずとトップに躍進することだって可能性としては残されているのだ。
そんな協力、譲歩を行う傍らでは、蓮、ルエリラ、庚によるイカサマとそれを見破るいたちごっこが繰り広げられていた。
「今の手札、チェックさせていただいても?」
「いいよ~でも、イカサマじゃなかったらどうしてくれるのかな~?」
「何もしませんよ。そう云う揺さぶりは効きませんから」
「そのダイス、さっきと形が違うデスよ?」
三人は、互いに互いを意識していた。
蓮はルエリラがイカサマをしないか見張っていたし、庚は不正がないか目を光らせていた。
当然そんなダブルチェックを受けているのだからルエリラは下手には動けない。
逆にブラフを仕掛けて、庚と蓮との間にもしかして、この人も? という疑念を植え付けて回っていたのだ。
まさに心理戦である。
そのためか、三人は常に泥んこプロレスみたいな泥レースを繰り広げていたのだ。
「ほら、何もしてない」
にこ、とルエリラは笑む。
だが、この泥んこプロレスめいたレースから一抜けするのは自分だと信じて疑っていない。
己がイカサマをする、という認識に二人を引きずり込んだ時点で彼女の一抜けは確定していたのだ。
だが、それを許さぬのが蓮である。
彼女はルエリラとのライバル関係にある。
特に勝ちたい相手でもあった。
例え自分が一位になれなくても、彼女の上に立てればいい。そう思っていたのだ。
だからこそ、彼女は常にルエリラの一挙手一投足を見ていた。
庚は庚で不正はあってはならないと思っていた。
二人の様子を見ていれば、なにか不正が怒るのではないかと思わずにはいられなかったのだ。
そんな三人をヴィヴは微笑ましげに見ている。
彼女たちは確かに上位だ。
けれど、自分だってその下に付けている。なら、一気に三人ごぼう抜きにだって出来る射程圏内なのだ。
「ふふ……最後に勝つのは私さ」
ヴィヴは静かに燃え上がるタイプであった。
一見、朗らかにゲームを楽しんでいるようであったが、虎視眈々と一位の座を狙い続けている。
そのためには順調に領域を拡大し、覇王路線を邁進しているキリカを如何にかしなければならないだろう。
キリカが黒い瞳を細めて笑む。
どうやらこちらの意図は知れているらしい。であれば。
「遠慮なく来るといい」
「では、鋼材ではなく、家畜のカードを頂きたいんだが、どうかね」
「家畜のカードは此方には潤沢とは言えない。であれば、ほかを当たるのが……」
キリカはそこで気がついただろう。
ヴィヴはこちらの状況、つまりはウィークポイントである一次産業である食糧事情に目をつけてきていたのだ。
確かにキリカは工業を発展させてきた。
だが、一つが抜きん出れば、ほかが疎かになる。
その疎かな点を交渉という会話から見抜き、トップに出るために必要な方策として得たのだ。
「やるじゃないか」
「ふふ、どうせならゲームでも勝利したいと思ってね」
そんな思惑が渦巻く開拓競争ゲーム。
「あ、ヴィヴさんの所の牧場に自分のところのオオカミたちが飛び込んだみたいッす」
「んえっ!?」
沙良の出目によって発生したオオカミ狩り。
その影響が隣接するヴィヴの街にでたのだ。うまく行っていると思っても、他のプレイヤーの出目次第で状況が一片してしまう。
そんな予測不可能なボードゲームの趨勢は、未だ決定づけられていない。
わいわいといつものように騒々しい芋煮艇のクリスマスパーティは、さらに混沌たる様相を見せていく。
「ひょわ……これ、一体どうなっちゃんでしょうか……」
「わ、わからないであります! ですが……」
ヴォルフスブルグとイヌイは混沌たるゲームの中で互いに祈ることしかできなかった。
「さあ、ゲームを続けますよ。私がダイスを振ります!」
皆が固唾をのむ中、蓮がダイスを振る。
転がる賽の目は如何なるものか。
それはきっと、これから続く聖夜の夜明けまで続くことになるであろうし、その結果はまだ誰にもわからない――。
成功
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