トナカイさん代行記
●真っ赤なお鼻の
ウトウトとした午睡。
それはいつもどおりのお昼寝であった。
けれど、ヒポグリフ『霹靂』は何事か、予感めいたものを覚えて瞬く二つして目を覚ました。
横たえた体躯。
後ろ足に力を入れて立ち上がると自然と背骨が伸びて、一つ身震いする。
羽が力強く三つ、羽撃く。
「クエ?」
そこで漸く『霹靂』は己の眼の前に困り果てた白髭の老齢の男性と包帯を巻いたトナカイがいることに気がついた。
「困った……これは本当に困った」
白髭の老齢の男性は本当に困った、という表情をしていたし、包帯を巻いたトナカイは、申し訳無さそうな顔をしていた。
『自分! 不甲斐ないせいで申し訳ないッス! すんませんッ!!』
そんな声が聞こえてくるようであった。
その様子があまりにも真に迫っていたものだから『霹靂』は、一体どうしたことだろうと小首を傾げる。
すると白髭の男性は、うん、と一つ頷いた。
此方の言葉がわかるのだろうか。
「いや、それはわかるよ。トナカイと意思疎通を行うことができるのだから、ヒポグリフの言葉を解することは出来て当然ではないかな?」
そういうもんかな、と『霹靂』は思った。
まあ、そうなのかもと同時に納得もしていた。
「うん、そうなのだよ。実は彼……来る日に向けて特訓に勤しんでいたのだがね、特訓に力が入りすぎてしまって足をやってしまってね」
『自分やれるッス!!』
「いいや、やれないよ。その怪我では無理をさせられないのは当然のことだが、空を走ることはできやしない。世界中の子供たちには悪いが、今年は……」
『クッ……!』
トナカイは男泣きである。
性別が雄なのかはわからないが。
「これから配達なのに、どうしたものか……」
チラ、と『霹靂』へと意味ありげな視線を送るより早く『クエッ!』と鳴き声が響いた。
『手伝うよ!』
正しく『霹靂』はそう言葉にしていた。
しかし、突然の申し出である。
そもそも仕事の内容もよくわかってない。
「本当かね。しかし……このソリを引く仕事なのだよ。空を飛ばねばならないし、それなりに速度を出さねばならない。距離も相当に長い。それでも……」
「クエッ!」
「そうか、決意は固いようだね。では、君の熱意と厚意に甘えるとしよう」
そう言うと白髭の男性の身なりが変わる。
キラキラと銀雪が舞うのと同時に、そのふくよかな体躯を包むのは赤い衣であった。
「クエッ!?」
「ふぉふぉふぉ。驚いたかい。けれど、驚いている暇はないよ。さあ、早速行こうじゃあないか。世界中の子供たちが待っている!」
その言葉と共に『霹靂』はトナカイの角つきカチューシャを付けてソリを引いて空を飛ぶ。
夜空に舞うヒポグリフとソリ、そして赤い衣の男性。
まるでお伽噺にでも出てくるような一幕と共に――。
●ツリー
「……クエ?」
『霹靂』は、そこで午睡から目を覚ました。
パチクリ。
うん? と首を傾げる。
今まで起きていたはずだ。なのに今目が醒めたということは? あれ? どっちだっけ? これ夢? 現実?
どうにも頭がはっきりしない。
いや、やっぱり夢だったのだ、あれは。
二つ瞬き、一つ身震い、三つ羽撃く。
いつものように起きて『霹靂』は屋敷の居間に飾られたクリスマスツリーの根本に一つ、見慣れぬプレゼント包装をされた箱を見つける。
だが、誰に尋ねても知らないと言う。
「『霹靂』へとかいているのだから、あなたへの贈り物なのでしょう」
そう告げられて開けると、そこには『トナカイの角を模したカチューシャ』と『ヒポグリフ用のおやつ』が入っていた。
「クエ……!?」
そう、あれってもしかして夢じゃあなくて。
いや、それよりもあれって――!
成功
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