6
わたしのかみさま

#バハムートキャバリア

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#バハムートキャバリア


0




 ●『わたしの、かみさま』
 一度目は、子供の戯言と。くれた一瞥の冷たい軽蔑を。
 二度目は、不敬虔を抜かすなと。殴り飛ばされた頬の熱と痛みを。
 そうして最期。神の慈悲乞うその咆哮と、疲れ果てたあなたを。

 ●採掘の街《アパシア》
 「犬は、お好きですか?」
 ほんの少し細められた目。穏やかに切り出されたのは、山間のとある採掘街、そこで開かれる闘犬観戦の誘いだ。
 「……闘犬と聞くと構えますよね? 実はドッグレースのイベントでして。障害、難関を主と犬とで息合わせて駆け抜けてタイムを競う、と。堂々、皆の前で絆を証す、それを決闘好きの当地では闘犬と呼んでいる様です」
 グリモア猟兵の説明に心優しい幾名かの猟兵は、ほうと安堵の息を吐く。その様子を見て、仔犬の駆けっこもあるようですよ、と男は薄く微笑みながら付け加えた。
 「或る女性が狼に導かれ山の精霊に出会う。精霊の叡智を得て、のちに騎士となった彼女こそが、アタラクシアという領を興したと――故事に謳われる精霊の地に近い、そのアパシアという街では|肖《あやか》って、住人達の多くが犬を育て、大事にしているようです。山間部という地勢も影響しているのかもしれませんね。
 この祭りは、その狼の忠義と勇敢を讃え、魂を慰めるための祭りなのだそうです」
 一般の鎮魂祭に見られるような行事ごとも勿論並行して行われているが、総じて祭りは明るい雰囲気であると。

 「……それだけのお誘いだったら、良かったのですが」
 グリモア猟兵の、薄く、貼り付けたような微笑もそこまでだった。

 ●拾うもののない手袋
 始まりは二重の遠吠え。
 ぴくと動く犬たちの耳。次第狂ったように猛りだす彼らが最初に引きちぎったのは縄であり、失われるものは絆である。主――家族であったはずの人間たちの|泣き声《絶叫》と、犬たちのけたたましい鳴き声は、新たな二重の吼え声となり、一斉に吹き上がる血の香りと死の気配が街を色濃く覆っていく。

 |獣騎《バルバ》の呪いが、犬を狂わせ、街を殺す。
 それが自分の見た予兆なのだとグリモア猟兵――エルンスト・ノルテ(遊子・f42026)が告げる。

 「所詮は奴隷と唾棄しつつ、街を睨め付ける|獣騎《バルバ》はそれはもう怒りの収まらぬ様子で……」
 彼らのような者どもは、街や城、騎士に決闘を申し入れ、決着までは虐殺など起こさない、敵ながらも正々堂々を規範とするとは、この場の全員の知るところだ。
 それなのに、唐突。このような手法。
 単純な推理、誰か――街の執政者が決闘を承諾しなかった結果なのだろうと猟兵たちは理解する。

 「名は名乗っていました。イキアキ。|百獣族《バルバロイ》、オルトロスのイキアキが来たと。双頭の、あれは、……狼でした」
 狼という単語に、皆が想起したであろうこと――点を繋ぐ細い糸のような――を容易に想像でき、エルンストは、だが皆の方へと首を振る。

 「重要なことは……私が皆さんにお願いしたいのは、この惨劇を防ぐことです。
  祭りの間に街の執政官に決闘の代行を申し出ていただきたい」

 呪いによる惨劇は祭りの3日後、とエルンストがいう。
 その前に代行の了承を得、決闘を実行し、獣騎を廃さねばならない。さもなくば、呪いか、獣騎自身に由るものかは兎も角、街の滅亡は現実のものとなるだろう。

 「……」
 何故、決闘の成立しなかったのか。
 狼を讃える街への狼の百獣族の現れに、何の因果のあるものか。
 知らない、知る必要性もないと告げておいて、だけど、全ては他人事と割り切れるようなら、今この場に自分たちは集っていないのだろうと知っているから、見送る笑顔はほんの少し苦味の滲んで。

 「無事のご帰還を、お待ちしています」

 グリモアが、世界を繋ぐ。


紫践
 新年明けましておめ……え? 二月!?
 わんこ大好き。
 紫践と申します。

 OPは、ああ言ってますがご自由に。
 一章or三章でワンコと遊んで終わり、大歓迎。

 『一章:鎮魂の儀式』
 犬筆頭に生き物供養の祭りです。
 お祭りにありそうなものは何でも。屋台や、屋台。舞台など。
 供養塔的石碑前ではP/S/Wに準拠してしんみり風にお過ごし頂くことも。

 大別して二つの行動が取れます。
 ・執政官と話をする。
 ・お祭りを楽しむ(代行申請済みとする)/お祭り楽しむ(ONLY)

 (+α)
 ・人造竜騎を借りるチャレンジ(執政官)
  →継続し2章に参加の場合、ジョブ/武器に人造竜騎なくとも使用可能。

 『二章:獣騎オルトロス/イキアキ』
 ボス戦です。
 彼からみた《事実》は聞けるかも、しれません。

 『三章:精霊の地』
 わんわんおと精霊の地で楽しいピクニックです。
 精霊からみた《事実》は聞けるかも、しれません。

 エルンストのいうとおりで、過去の《真実》はいまや問題ではありません。
 以上です。
 宜しくお願い致します。
17




第1章 日常 『鎮魂の儀式』

POW   :    舞踊や武芸を奉納する

SPD   :    灯火や花を祭壇に捧げる

WIZ   :    死者の魂の安寧を祈る

イラスト:ハルにん

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

カシム・ディーン
UC常時発動中
やれやれ…わんわんと戯れればいいってか

「慰霊祭みたいなものだよご主人サマ☆わんちゃんの霊も集まってるぞ☆」
そういうの見えるのかおめーはよー

「わふわふっ」(夜影ちゃんも走り回ってる
とりあえず屋台の美味いもん巡りするぞ!
後は…この街の伝承とか今の領主に関する話でも聞いてみるかな

代行申請済み
その時の領主の様子も可能なら確認
執政官についても観察

どういう人物か分析を行う

そして祭りそのものも楽しむ

聖なる決闘…か
「ご主人サマってば気になるの?」
まぁな…僕なりの聖なる決闘ってのもやってみたが…この世界での聖なる決闘ってのは…

…僕はきっとこの世界のその流儀とは相いれない
寧ろ過去の人類側だな僕は



 ●積み上げる優しさ
 堂々と飼い主の前を先行する犬の誇らしい顔つき。
 頼もしいな、と思った次の瞬間、『来てる?』といわんばかりに飼い主を振り返り見上げ尾を振って。その、笑っているようとも、緩みきったようともいえそうな表情と来たら。

 少し前を行く家族連れと犬の様子に、やれやれ、零すのはカシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)だ。
 「わんわんと戯れればいいってか」
 ちょっと|斜《はす》なその言葉に、傍らの少女がくすくすと笑う――だって、言葉ばかりはその様で、カシムのかんばせときたら、先ほどの犬とまでは言わないが穏やかに綻んでいるからだ。
 「慰霊祭みたいなものだよご主人サマ☆」
 一見すれば恋人同士のようにも見える二人だが、カシムと銀髪の少女【|界導神機《キャバリア》】メルクリウス』は……さて、なんといったものか。カシムの感覚ではいまや相棒であるし、メルクリウスの方では、いつかは二人式をあげる予定の愛しのご主人様といった次第。
 そんなところであるから、デート以外の何ものでもない状況に俄然勢い込んでいるのはメルクリウス、愛称メルシーの方であって。
 「わんちゃんの霊も集まってるぞ☆」
 「そういうのもみえるのか、おめー……いや、聞いて?」
 ふわり舞う美しい銀糸は、メルシーの弾む心のままに。わんちゃん(霊)を追って駆けて、カシムの周りをグルグルと。
 「わふっわふっ」
 いつの間に、カシムの影から|出《い》でたか、シバベロスの夜影ちゃんまでそこに加わり、あらあらかわいいなんて、衆目の集まりを感じて、なんだか、居住まいの悪いカシムである。本業盗賊、人の目を盗むほうが得意……。
 「いい加減にしろ! とりあえず屋台巡りするぞっ」
 メシだメシ! というカシムに、ああん、と言いながら首根っこ引きずられるメルシー。あれ、何だか、思い描いていたデートとは少し違う。でもカシムと一緒なら結局うれしたのしのメルシーと夜影であり。
 さて情報収集と参りましょうか、と、一方のカシムの目は細められる。

 ●
  それは森で一等おおきなオオカミでした。
  つよくほまれ高いオオカミでした。

  オオカミはいいました。
  「おさない子、わたしといっしょにおいでなさい」

  おさない騎士さまをみちびいて、オオカミはおおくのけしきをいきました。
  おさない騎士さまをみちびいて、オオカミはおおくのけしきをみせました。

 ●優しさの覆うもの
 「それで、おおかみのまちにいくんだよ!」
 男の子は得意げにいう。そうでしょ、おかあさんと。
 「それで、他の狼さんたちとダンスして、剣をみ……」
 「逆だろぉ! 剣を見てぇ、ダンスしてぇ、それで、しんでんにいくんだよぉ!」
 別の男の子が、母親を挟んだ反対からもう一人をわらう。お兄ちゃんが、アイツが、と始まった戦いを制するのは母親だ。
 「んもう、ケンカするなら仔犬レースいかないからっ」
 仲裁の母親に加勢すべく、教えてくれて有難うと先ほど買ったチョコレート菓子を兄弟に差し出せば、いいの? ありがとうおにいちゃん、とケンカも忘れる可愛い子供たちだ。母親も重ねて礼をいい、ではとにこやかに頭を下げると、三人は仔犬を抱え立ち去りゆく。

 街の住人に聞く伝承というのは、概ね子供らの語るものと変わりなかった。すっかり御伽噺といった感じで、加えるなら、狼が精霊に騎士を預けて、再会を約束する場面が間に挟まれるようだ。それで、再会の地は神殿なる場所であると。街はこの話の中ならば、再会を約束した場所ではなく、狼が騎士を置いていった場所であろうから、やはり問題の|獣騎《バルバ》は話の狼とは違うのだろうか、なんて。どうにも、すっきりしない……。
 「もう少し詳しそうな人物に聞くか」
 腹は充分くちくなった。傍らの少女に声を掛けようとカシムの向いた先。
 「……まだ食うか?」
 「ごひゅいんあまもたべまひゅ?(ご主人様も食べます?)」
 差し出されるドライフルーツやナッツを練りこんだ飴菓子のステック。モグモグやっているメルシーの顔。呆れてそれを三往復ほどして――えぇいとそれを受け取ると、二人と一匹はこの街で一番堅牢で大きな建物へと入っていく。

 「ようこそ、旅の方。私がこの街を領主より預かっておりますテオロゴイと申します」
 祭りは楽しんで頂けていますか? とにこやかではあるが、何だってこんな日に自分に会いに来たのだろうという不思議さをその表情は隠せていない。
 用件を切り出せば、どこでそれをと息を飲み、つまり執政官殿はどこまでも正直者といったような人物とカシムには見受けた。
 「領主はどこに?」
 このことはご存知なのですか? と問えば、領主はアタラクシアの城にいると。
 「馬では判断を仰ぐには間に合わないでしょう。……此度は私の判断であります」
 「|人造竜騎《バハムートキャバリア》でも無理ですか?」
 「間に合い、ます。ですが……この街にも騎士は充分に配されておりますが、人造竜騎を駆るものはこの街では私一人です。こうなった以上、私は街を離れられない」
 それが、希少なものだとは、既に見聞している。
 「なるほど。しかし、そもそも何故、貴方は決闘を断ったのです?」
 「――イキアキは文献に残る《狼》の名です。孤児であったという騎士アタラクシアを精霊の地に導いたもの」
 百獣族であるとは知らなかった、と執政官はいった。狼とその群れの、人の子を育てたのだとアタラクシアの誰もがそう思って――。

 「だが、古にはまつろわぬ民であった人の孤児を別を受け入れ、導いた百獣族が、いたのだと」
 ああそれが歴史の真実であったのだ! なれば、なれば!

 ――今を生きる我々と彼の間には、本当に|決闘《それ》しか道がないのでしょうか?

 ●
 「聖なる決闘…か」
 よぎる、別の面影に知らず寄る眉根、下がる眼差し。その視界に、突然木製のジョッキに入ったジュースが差し出される。カシムが顔を上げれば、常と変わらぬ微笑のメルシーがそこにいる。
 見つけたベンチに腰掛けて、お互い、何となく無言となった間をジュースが繋ぐ。
 「……ご主人サマってば気になるの?」
 やがて切り出すメルシーに聞いていたか、と。さて、なんて返したものだろう。
 「まぁな……。僕なりの聖なる決闘ってのもやってみたが……。
  この世界での聖なる決闘ってのは……」
 執政官テオロゴイの、どこか、熱に浮かされたような陶酔の表情が、脳裏にちらつく。
 真実? 真実だって?
 人を受け入れ、結果仲間を殺されたとみるなら、この話はどうなるのだ?

 「……僕はきっと」
 この世界のその流儀とは相いれない。
 それでも――イキアキは討たねばならない。

 言葉にせぬ思いと決意は、ひと息に飲み干し、腹に収めて。

 「まだ、レースみてないよな?」
 いこうか、と立ち上がりメルシーを振り返るときには、カシムはいつもの、カシムだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ベルト・ラムバルド
アドリブ上等

…犬か
犬は可愛いよなぁ…幼い時に飼っていたっけ…
もう亡くなってしまったが…あぁいかん昔話は寂しくなる!
騎士道の権化たる私がこの騒動をまるっと解決してやるのよ!

行くぞ!まずはお祭り…でなく決闘代行の許可を得ようとも!
UCを発動し存在感といい香り…口臭チェックよし!…後光を放ち執政官と話そう!

失礼!私は流浪の騎士ベルト・ラムバルドであります!実は決闘の許可を…
(中略)
あのね…獣騎が来てあんた達は死ぬんだよ!?
それでもいいんか!分からず屋め!頭カチカチか!?分かるまで言うぞ!
あのね…
(中略)

えぇい!許可は得たが腹が立つ!政治屋め!
あぁ犬だ…犬は可愛いなぁ…痛!甘嚙みされた…でも可愛い💗



 ●むかしのはなし
 懐かしいな、と思う。
 それは、連れて行くというより連れられて行くような――黒と茶のその犬は大人から見てもかなりの大型犬であり、そのリードを握るのは、犬の体高さよりも背の低い、自分の頭の重さにふらつくように歩く幼児である。大きな犬が幼児を気遣い、懸命にその歩調を遅らせるも、何せ歩幅が違う。幼児の方は小走りと立ち止まりを繰り返しながら。傍らには今すぐでもリードを持つのを代わって上げたいらしい落ち着かぬ父親と、見守りましょうと微笑み悠然とした母親と。

 懐かしいと、ベルト・ラムバルド(自称、光明の暗黒騎士・f36452)は、すれ違う親子連れの光景に、穏やかに目を細めた。こんな光景を自分も過ごした。父母の愛は真実で、あの犬は――あの子は、兄であり、最初の友達でもあった。
 思いがけぬノスタルジア。昔日を思う時の、愛おしさと同時のきゅと胸締め付けるような寂しさに、知らず歩みの止まっている。
 「……」
 似て非なる、それぞれの幸せ、がそこかしこに溢れ行きかう道の端。
 自分にも与えられていたもの――そこを、飛び出すのを決めたのは何故だ? そうとも、まだ傍らに老いたあの子がいた頃に読んだあの物語の騎士のように。
 この幸せを受けるものから、護るものへ。
 「騎士道の権化たる私がこの騒動をまるっと解決してやるのよ!」
 敢えて音にした志がベルトの胸に燃える。先までの一瞬の感傷の面影は消え、力強く踏み出す一歩。

 その背を、リードのない一頭がじいと見送る。やがて人波にその背が飲まれ、消えるまで。
 見送った《あの子》はそうして、自分も雑踏へ溶けた。

 ●みらいのはなし
 「失礼! 私は流浪の騎士ベルト・ラムバルドであります!」
 面通しの話は秘書から聞いてはいた。いたけども、しかし、ばばん、と執務室のドアを開けて入って名乗る男の、なんとまぁ……無礼……いや! 自信満ち溢れたその姿、まるで後光の差したよう、神々しくさえあって!!
 「ようこそ、ラムバルド卿! 私はこのアパシアを預かります騎士テオロゴイと申します!」
 同じように大きな声量と力強い笑みでもって、慌てたように席を立ち、ドアまで迎え出るテオロゴイの様子に、内心『決まった!』とベルトの側もガッツポーズ。きちんと口臭ケアまで気をつけて、『|万全の備え《ベルベット・フレグランス》』で挑んだベルトの誠実の雰囲気に、すっかりテオロゴイは魅了されたようである。
 初戦は勝利といったところ。
 応接用の重厚な革張りのソファに対面で掛けて始まる第二戦は、しかし、そう簡単とは、いかなかった。

 決闘の代行を申し出たなら、どこから漏れたものか、と首を捻るテオロゴイは呑気にも思えて。どうなるのかを知らぬからとはいえ、心にうっすらと波の立つのを一応、ぐっと堪えて、ベルトは問う。
 「君、いえ、貴方が決闘の申し出を受けたのですよね? テオロゴイ卿」
 「ええ、ですが……」
 何をか言いよどむ、その騎士らしからぬ煮えきらぬ態度に、どちらかと言えば奔放な性格のベルトの忍耐はあっという間に瓦解する。
 「あのね……獣騎が来てあんた達は死ぬんだよ!?」
 そうだろう、知らぬはずがない。蘇った獣騎や百獣族が各地で何をしているのか。この街に起こるかもしれない具体的な未来は知らなくても、その予想もつかぬわけではあるまい。
 それでもいいんか! 分からず屋め! 頭カチカチか!? 分かるまで言うぞ! と、聞いた他の街の話や、獣騎たちは、決闘でなければ呪いの力を振るうのだという話を怒涛に繰り出して。

 「あのね……貴方には街を護る義務がある、それが騎士というものではありませんか!」

 そう、文官のような存在かと思った執政官は体躯も立派な騎士殿であって。なんだって逡巡するのだと、ベルトのこれは怒りというよりも……悔しさに近い。
 ベルトの述べる騎士の道に、テオロゴイはぐ、と言葉を詰まらせ……それでも、顔を上げなおし、しっかりとベルトの目を見据えて返した。
 「……我々には、彼を、イキアキ殿を引き受ける用意があります。応じさえしてくれるなら。
  |戦わずにすむならば《・・・・・・・・・》、|それが一番《・・・・・》ではありませんか」
 聞いた予兆が蘇る――イキアキは激昂していた、と。
 「イキアキ殿はこのアタラクシア領の起首を導いたお方、人と獣騎の通い合う――かつてそれが出来て……全てを尽くさぬうちに、諦めたくないのです」
 食い下がるテオロゴイに、いいえと机を拳で叩いて、ベルトは叫ぶ。
 どうして分かってやらないのだ。相手は百獣族、その騎士たる獣騎であると。

 「覚悟を決めた者の申し出た決闘を避けるのは、その誇りを踏みにじるのと同じだ!」

 ●いまのはなし
 結局のところ、ベルトの能力――芳しき香り纏うその圧倒的存在感が導く信頼。それをもって代行を押し切った、日時や場所は聞くことは出来た。
 『街側の意志を出来るならば伝えて欲しい』の一言は添えられたけども。

 「……えぇい!許可は得たが腹が立つ!政治屋め!」
 堪えきれず、憚らず声に出して憤るものだから、ぎょっとした視線が集まるのだけれど、何せ怒り心頭中。ベルトの方では気づきもせず、足取り荒く、街をゆく。
 それが善意であっても。善意であるならなおのこと。掲げる志が、全く違う理屈でもって認められない、通らないその苦しさをベルトは良く知っている。

 だから。
 彼――イキアキが百獣族だから、獣騎だから、オブリビオンだから、ではない。
 相対するなら、自分だけでも、騎士として。

 決意し止めた足元に、すんすんと擦り寄るのは、迷子となったか一頭の犬。
 見上げるその犬の顔に懐かしい面影をみれば、心のささくれ立ったものが、すぅと収まるのを感じた。
 「……犬は可愛いなぁ」

 差し出す手を犬が甘く噛む。
 それでも痛みある道を選ぶのなら、と――励ますように。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロラ・ゴブラン
連携・アドリブ歓迎
決闘の代行申請済みとしお祭りを楽しみます
なるべくUCを発動させないように外套のフードを被り人目を避けながら行動します

ぶ、無事執政官さんとのお話しが終わりました
緊張でどんな話をしたのかまるで覚えていませんが……、わ、私おかしなこと口走ってないですよね!?

そ、それにしてもお祭りなだけあって賑やかですね
……どうしましょう、空いていそうな屋台を探してみましょうか

アパシア、良い街ですね
ワンちゃんたちも住民の方々もとても幸せそうです
……護らなくてはいけませんね、この街と絆を

祭壇の蝋燭に火を灯し、鎮魂と精霊の祝福を祈ります


クローネ・マックローネ
NGなし、絡みOK、アドリブ歓迎
【POW判定】
真剣口調でいくよ

…このテの昔話というのは、語り継ぐ者達にとって面白い、或いは都合の良い内容になっていくものだと思っているけど
いっそ真実を知らないまま、今回の件を終わらせてしまうのも一つの選択ではあるかな
ま、聞くけどね、ワタシは
真実がどうあれ、|敵を殺す《やる》事は変わらないし

執政官と話をして、決闘の代行申請について了承を得るよ
それと…執政官が決闘を承諾しなかった理由を【コミュ力/誘惑/情報収集/伝承知識/演技】技能を使って聞き出しておこうか
どんな理由だろうと、特に言う事はないよ

UCは『クローネちゃんの愛用品★』
【コミュ力】技能を100レベルにするね



 ●
 己の意図を越え、人目を引いてしまう|泣きぼくろ《ヘイターズマーク》。それを隠してくれるフードの外れぬよう、端を手につまむことは忘れずに。ロラ・ゴブラン(引籠の乙女・f44788)は、今出てきたばかりの石造りの堅牢な庁舎を振り返り、暫し仰ぎみる。庁舎に負けぬその身の固まり方こそは彼女の緊張の名残であって。

  ――……私、おかしなこと口走ってないですよね!?

 父の|人造竜騎《ダンドリオン》を引継ぎ、それを駆る騎士の地位を叙されてどれ位たったか、しかし、いまだ新米騎士といって差し支えない彼女にとって、一つの街を預かるような騎士との会談は何分心理的なハードルが高かった。
 ほぉ、と大きく息を吐いてようやく解く緊張――それでも、やった。成し遂げた。
 『……ゴブラン卿、お申し出に感謝します』
 執政官は確かに言っていた! あの、他は、その、何も思い出せないけども……これだけは間違いなく聞いた。

 ……正確には、うんうんと執政官テオロゴイの話を聞くだけ聞いて、それは緊張で右から左。話に頷いていたのは何だったのか、流れをぶった切り、言わなきゃ言わなきゃと頭にあったフレーズ『決闘の代行を致します!』と申し出たものだから、『え、俺の、割といい話風の、今頷いて、あれー……?』みたいな顔をテオロゴイはしていたのだけれども。
 ともあれ、だ。ロラとて人造竜騎を駆る騎士ならば、同じ立場のテオロゴイはその意志に敬意と尊重を示した。

 耳の内に蘇る、ゴブラン卿、のその響き。騎士としての扱い。
 じわじわと身の内に染み渡る、ファーストミッション成功の実感。
 両手をグーに、できました、と小さく腕振ってささやかに喜びを爆発させる。浮かべた笑顔がフードの影の中なのが残念なくらい。
 そうして、街に繰り出すロラである。
 次なるミッションは――。

 ●
 通りを満たす美味しそうな香りにすんすんと鼻を鳴らすのは何も犬達ばかりではない。小麦粉を溶いて甘く焼き上げた一口サイズのプチケーキは、鉄板の型のままに、さながら小さなお人形さん。抱えた紙袋から、ひとつ、また一つと摘ままれたそれがロラの口の中へ消えていく。食べ歩きなんてお行儀が悪いけども、きょ、今日はお祭りですから! ね?

 (そ、それにしてもお祭りなだけあって賑やかですね)

 すれ違う人が持つ肉串に、あれも美味しそうという気持ちと、どうぞ転んだり人にぶつかりませんようにという気持ちと、ロラの心もお祭りに負けず劣らず軽やかに忙しい。
 さぁ、次はどうしようか。串を探すのもいいし……カフェの出張か、テラス席を構えているような屋台だって散見される。どこか空いている屋台があるなら、ちょっと腰を落ち着けるのもよいかもしれない、なんて。

 「お待たせ致しました~♪」
 笑顔の女性がテーブルに置いてくれるのは、とぼけた顔の犬のラテアートがふるりとゆれる、ホットラテだ。
 「わぁ! ありがとうございます!」
 かわいい、と声を上げずにいられようか。ロラの様子に、店員は思わずふふ、と声を漏らす。何かございましたらお気軽にお声掛け下さいませ、と笑顔で会釈して下がるその背を見送って、思う。
 (アパシア、良い街ですね)
 人見知り気味なロラは、そんなに沢山の住人と言葉を交わした訳でもないのだけれど。こんな山間にあって冬場に小麦に困っている様子もない豊かさ。丁寧で明るい気持ちのいい店の人々。隣のテーブルでは、届いたアレコレに手をつける前に、まず、地面に置いたボウルに届いた水を注いであげる青年が見える。自分よりも、|相手《いぬ》から――。
 「……いい街です」
 喜んで水を飲む犬の脇に、今度は用意された食事をどのタイミングで下ろしてあげようかと、測るように伺いながら微笑む青年。彼が漸く自分のカップに手を付けるのをみて、釣られたようにロラもラテを一口含む。寒空に思うより冷えていた体。暖かさがじんわりと染み渡る。

 (……ワンちゃんたちも住民の方々もとても幸せそうです)

 暫く、その一人と一匹の愛らしいデートの光景に幸せのおすそ分けを貰いながら、ほこほことした気分でラテを飲み干したロラは、そうして最後に巡るべき場所へ向かうべく、席を立つ。

 ●火を繋ぐ
 そこは、この祭りにあっては静かな一角。街の端、墓地の区画に、一際大きな巨岩が立っている。何かが掘り込まれた石碑ではない、慰霊と鎮魂の祈りの為の素朴な石柱。
 ――今、一つの蝋燭を点した老婆はその蝋を台座の石に垂らすと、冷め切らぬ前に器用にその中に蝋燭を立てて、両の手を組み頭を垂れる。その手に挟まるのはいつかの|家族《いぬ》の|首飾《くびわ》だろうか。厳かな主の祈りの様を、今その脇にいる犬が静かに見上げている。

 二つ目のミッションを、果たしたとロラは思う。
 充分にみた、体験した。
 己は何の、誰の為の、剣となるのかを。

 (……護らなくてはいけませんね、この街と絆を)

 祈りの蝋燭を受け取って、点す火に、ロラが誓う。

 彷徨う魂に安寧を、生けるものに精霊の祝福を。
 ――この火を繋ぐ騎士たらん、と。

 ●今はすれ違う道も、いつか
 二つの石柱は、ここより先は眠れる者の為と示す門である。
 祈りを終えて出てきたのだろうフードを被った女性が小さく会釈をし、道の端に避けるなら、同じく軽い会釈でもって礼を示して。
 高く結んだポニーテールを揺らし、祈りの場に向かう女性の、堂々と歩くその背を、何とはなし、足を止めて見送って――フードは再び明るい歓声に満ちる街へと紛れていく。

 ●
 墓地の区画も今日この日は、行きかう人の尽きることがない。祖霊祭は別であるため、簡単に縁者の終の棲家を掃除し、祈りを捧げたものが向かう先。
 最奥に種を超えた『家族』たちの為の巨石のあるのが入り口からでも良く見えた。誰かが足を踏み入れるたび、そこから跳ねるよう飛び出す光は、やがてぼんやりとした輪郭をとって、クローネ・マックローネ(闇ダークネスと神デウスエクスを従える者・f05148)の脇を駆けてゆく。
 ある者の肩ではその頬に身を擦り付ける鳥のように。ある者の周りでは1頭2頭と足に絡みつく犬ように。ある墓では、ちょこんとおすまし顔で座り祈るその人を見つめる猫ように。
 自分に縋る魂はいない――そのことが、とてもあたたかくて、とても心地よい。
 いつか彼らを憶えている人もまた土に還り、誰の心からも消えたならば、健やかにどこかへ旅立つことが約束されている魂たちに、固かったクローネの表情、その緊張がほんの少しだけ、ほぐれた。それでも頬笑みを浮かべるまでは至れない。死霊術士にしてシャーマンたる彼女にとって、安らぎの為のこのような場所は、どうしたって安らいだ気持ちで歩ける場所では、ないのだ。
 そんなわけで、油断なく周囲へ注意を向けるならば、彼女は気付く。大きめの木箱、その前面だけを外したものが、いくつも置かれていることに。
 ある箱の中は毛糸で吊り下げる月の夜であり、布の林に、子供の人形と灰の狼の人形が連れ立って。
 別の箱では家の中で子供と狼は食事を取り。子供を庇って犬がなにか分らぬソレに吼えている、のかもしれない場面もある。他と違う銀色の林に囲まれたそこでは、子供と狼と、精霊が輪となって――。
 あちらこちらに置かれたのジオラマの前で、丁寧に足を止め観察するクローネに、優しくこんにちはと声を掛けてくるのはご老人だ。
 「旅の方ですか」
 「うん」
 「これを飾る時にはああ祭りだな、と子供の時からワクワクしたもんです」
 よく出来ているでしょう、と誇らしげだ。子供の仕事なのだという。慰めるべき狼の魂、その旅路を讃えて、祭りの時にはこれを作り、飾るのだと微笑む老人。その足元で伏せている輪郭の曖昧な光は、大きく口を開けて欠伸する。
 曖昧に頬笑みを返し、とってもかわいい、と返せば、違いないと老人が笑う。

 (……このテの昔話というのは、語り継ぐ者達にとって面白い、或いは都合の良い内容になっていくものだと思っているけど)

 こんな風に、優しく可愛い物語で、終わらせてもいいかもしれなかった。
 少なくとも、このご老人には、或いはこれを作った子供たちにとっては、この先もずっと。

 そうあり続ける為には、すべきことが、ある。
 巨石の前に立つ。吹き降ろす山風は点された火を容赦なく消し、人々はそれを気にした様子もなく、また火を点して継いでゆく。
 その前で、クローネの奉納するものは、許しを得て舞う剣舞。

 (真実がどうあれ、|殺す《やる》事は変わらないし)

 それでも、と石を見据える。
 御伽噺に押し潰されるを良しとせずあげる声があるというなら。
 そうとも。クローネは死霊術士で、シャーマンだ。

 ――アナタの言い分、聞いてあげてもいい。
 振るう剣の起こす風が、蝋燭の火を消した。

 ●噛みあわない言葉
 このような日にわざわざ私を訪ねて見えたということは、と、その男は幾分か疲れた声でいう。
 「決闘の件でしょうか」
 執政官も騎士なれば、人目みてクローネの常人ならざる熟達を見てとったというのも大きい。単刀直入に切り出された本題。
 先行者たちは男――執政官テオロゴイと、どのように話をしたものか。
 クローネは彼を気遣うような柔らかい微笑すら浮かべて、その件もあるけれど、と敢えて言葉を一度切り、彼の意識をこちらへ引く。
 普段から敵対しない者へは明るい彼女ではあるけども、今は|ブラックスライムの加護《ブラック・アイテム・クリエイト》も得て、目の前の男の好みそうな穏やかさで切り出す。
 「執政官の話も聞きたいんだよ。どうして決闘を断ったのかな」
 「断った――結果的にそう受け取られてしまったかもしれません。
  私は、共にあることは出来ませぬかと。貴方の恩寵、ご高名は、このアタラクシアに息づいておりますとご説明したのです」
  だけれど、イキアキ殿は、とテオロゴイは首を振る。
 「祭りは見て回られましたか?
  かつて騎士アタラクシアに街を、戦いを、神を拝するものの生き様を教え、精霊の地に導かれた《狼》の名をイキアキ、と。精霊の地に近いここに巨岩を据えアパシアを興したのはアタラクシア様にございます。その日より以来、我々は恩寵への感謝を捧げる事を忘れたことはございません」
 今日は正にそのための祭りなのだ。
 連綿とつないできた。イキアキとアタラクシアの|真実《ものがたり》を、それが生んだものを。

 言葉を挟まず、それでも時に緩く頷き、目を合わせて。聞いてもらえるという心地よさに、テオロゴイは酔ったようにそこまでを言い切ってから、辛そうに眉根を寄せた。
 (褒めてほしかった、子供みたいだな)
 それは言わずに、別を聞く。振られたことは分っているけども、気になる。
 「イキアキは何て言ったの?」
 「騎士アタラクシアの名を出した時には、息を飲まれて……。
  どちらが真か決闘にてと、日時だけを告げて」
 話を聞いて頂きたくお探ししているのですが、と彼は言う。
 「日時はいつ?」
 「明後日の正午です」
 「なるほどね。行くおつもりは」
 「……話を聞いて頂きたく、赴くつもりではありました。
  共に在れぬとしても、百獣族なれば、表立っては――今の世ではお過ごしされ辛いでしょうから、その、他の案だってあるのです!」
 意気込んでテオロゴイが言う。
 それがきっと失敗した、そうしてイキアキは翌日には街を呪うのだ、と理解する。
 「どちらが真、というのは何の話かわかるの?」
 「分りません、何をもってそう仰られたのかは」

 アナタの代わりに行ってもいいかな? と問えば、私の浅慮が招くかもしれない事態については他の希望者からも充分に聞いた、と彼は項垂れる。それでも諦めきれないのだろう、顔を上げて乞う様に彼はいった。
 「本当に他の道は――希望は、ないのでしょうか?」
 「アタシたち、同じ言葉を話しているけど」
 にっこりとクローネは微笑む。

 「だけど、それが通じるってことじゃない」

 彼に届く|闘い《ことば》は、アタシが届けてあげる。
 ――告げるその手が、愛用の宝珠を優しく撫でた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『獣騎オルトロス』

POW   :    オルトロスバイト
【超高速機動】で対象に接近し、【双頭の鋭牙】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    オルトロスクロー
【超高速機動】で対象に接近し、【両手の鋭爪】で近接攻撃する。低威力だが、対象が近接範囲から離脱するまで何度でも連続攻撃できる。
WIZ   :    オルトロスラッシュ
【超高速機動】で対象に接近し、【鋭爪】【鋭刃尾】【脚部】による【超高速連続攻撃】【そして、強靭な鋭牙による噛みつき攻撃】を組み合わせた、レベル回の連続攻撃を放つ。一撃は軽いが手数が多い。

イラスト:落葉

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠バルタン・ノーヴェです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ●『――でも、何処へ?』

 「ふざけやがって」
 「奴隷の分際で」

 苛立ちを形に、傍らの木に拳をぶつける。撓む巨木は振動を枝葉に伝え、驚く鳥達はぎゃあぎゃあと騒ぎたてながら、飛び去っていく。不穏。自分が仕出かしたその一連に、イキアキは酷く肩をビクつかせ、慌てたように油断なく周囲を見回してから、……|頭《かぶり》を振る――もう、終わったことだ。今はもう。
 そうとも、と、一人で二頭は大きく息を吸って、ゆっくりとそれを吐き出した。

 |やり直す《・・・・・》、|すべて《・・・》。

 あの時、駆け抜けた森。追われて、惨めに。
 同族殺しは大罪だ――その不名誉を他に知られぬ為に掛けられた追っ手。

 俺は齎すはずの者だった、決闘を制し一族から王を立てる、その栄光を。
 オレは選ばれた者だった、それを為す為に、神から獣騎たる力を。

 それなのに、アイツが。だから俺は。
 アイツが。アイツが。アイツが。

 「「ふざけやがって」」

 あの頃にはなかった街、アイツと同じ赤い髪のニンゲン、あの頃と変わらぬ不敬虔。
 馬鹿が、まつろわぬ民の癖にと吐き捨てて、のろのろとイキアキは彷徨う。あの頃と変わらぬように見える森の中を、時々後ろを振り返りながら。『ついてくるな』といったのは、確かにこの森の中で。

 何もない|後ろ《ソコ》を睨みつけながらイキアキは誓う。

 今度こそ、オレは自由になる。|獣騎《チカラ》は、いまだ俺にある。
 纏わるすべて、絡むすべてを消してやる。なかったことにすればいい。
 オマエも、もういないのだから。それで仕舞いだ。

 やり直す。取り戻す。
 あの時と同じ科白を、新たな誓いと共に。

 「オレはいく。一人でだ」
カシム・ディーン
機神搭乗

よぉ……決闘をしにきたぞ。(けして…|聖《・》なるという言葉は付けなかった
僕はおめーの事は知らねぇ
だが…おとぎ話ってのは隠したい事を上書きするって事もある
今判るのは…おめーを止めなければ…あの街は皆死ぬって事だ
なら…止めねーとな
…僕はカシム・ディーン
「界導神機『メルクリウス』だぞ☆宜しくね☆」
…結局…自由も…命も…尊厳も…障害を打ち破らなければ手に入らねーんだろ
おめーにとって自由は命よりも大事だったって事だ
そういう価値感は知ってはいるさ
だから結局此奴は…決闘なんだろうよ…だが…|聖《・》なんぞつけさせねぇ!決闘とは!醜く!無様で!惨い殺し合いでしかねぇんだよ!
【情報収集・視力・戦闘知識】
イキアキの動きと戦い方を冷徹に分析
【空中戦・念動力・弾幕・属性攻撃】
UC発動
超絶速度で飛び念動障壁を纏い火炎弾を乱射して蹂躙
【二回攻撃・切断】
超高速近接戦闘開始
鎌剣による連続斬撃を正面から叩き込む
相手の鋭爪も正面からぶつけ合い
ずたずたに切り裂く迄止まらない

正面からぶつかり刃を叩きつけ続ける!!


ロラ・ゴブラン
動作は……正常。よ、よし、準備、完了です
ダンドリオン、力を貸してください。そして、どうか私に戦う勇気を

過去があり、今がある。そして、身勝手な理由で未来が潰えようとしています
だ、断じて赦せません!私は、騎士として彼らを、彼の地を、必ず護ってみせます!
あなたの誓いと私の誓い、どちらが強固か。け、決闘で決しましょう!

高い【操縦】性を活かして敵の攻撃を【盾受け】し続けます
感情に任せた攻撃であれば必ずどこかに隙があるはずです
もし甘い攻撃を見切ることが出来たのなら、【ジャストガード】と【咄嗟の一撃】を駆使しUCでカウンターを狙います

誓いがある限り、私は敵を前にして退くことはありません!


ヘルゲ・ルンドグレン
ままならないっていうのはきっとこういうことを言うのね
……それでも、アタシたちがやることは変わらない
いきましょう、ウロボロス!

我が名はヘルゲ、そしてその愛騎たるウロボロス!
義によって聖なる決闘へ助太刀に来たわ!
名乗りなさい!
キミに騎士の誇りが残されているというのなら!

高速機動と手数の多さは厄介だけれど、そのどちらかでも封じられれば……!
敵の片腕を炎の蛇で拘束し、手数を抑えつつ、残った腕の攻撃は魔法障壁で受け止める……!
さぁさ、我慢比べといきましょうか!
キミが焼かれるのと、アタシが引き裂かれるのがどっちが先か!
でも、お生憎様!
魔法使いだからってそう簡単にやられないわよ!



 ●捲る、御伽噺の一頁を。
 獣騎たるソレの表情というのは、いうなら機械的で感情を読み取るには向いていない。
 それでも。
 足のスタンスは広めに、背を丸め、前傾の姿勢。軽く地に着けてみえる左手と、僅か浮かせてある右手。低く下げられた二つの頭部は、勿論礼の為ではないと知れた。頭部に走る黄色の二重線。彼の瞳だろう、後頭部へと流れるように繰り返される発光は間断なく、食いしばった牙の隙間から漏れる息遣いは酷く荒い。

 宣誓しておきながら、名乗りを受けるつもりがあるとは思えぬ――臨戦の構え。

 (……|執政官《あのひと》を留守番させて正解だったわ)
 ヘルゲ・ルンドグレン(魔導騎士・f44787)が、三角坊の陰で眉を顰めたのを伏せるようにつばを下げたなら、ロラ・ゴブラン(引籠の乙女・f44788)はフードを脱いで猛い瞳で獣騎を見据える。
 二人、じっとしていられなかったから。
 だって――やりきれない。
 執政官の想いが届くなら、叶うなら。だけれど、今、ギリギリのライン上に立つ姿を前に、騎士として届けるべき言葉はやはりそれでなかったことを知る。

 不信と怒りの発露――それでも獣騎は待つ。
 目の前に居並ぶ小さきものたちが、何を発するものか。
 《聖なる決闘》の規範を、頑なに守って。

 「よぉ……決闘をしにきたぞ」
 その様な僅かの沈黙を破ったのは、カシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)だ。
 軽い口調と裏腹の油断なき冷徹な瞳は、ロラの硬く握りこまれた拳をちらりみて。敢えて騎士の如くに高らかと言葉を継ぐ。

 其方、イキアキと見受ける、と。

 そして、ヒトが、猟兵が、ここに来たとおのおのが告げる。決闘の為に。
 応える最初のものは銘々の愛機であり、鎧であり。続いて応えるものは、臨戦の構えを解いて、身を起こした百獣族だ。見下ろす存在であったヒトらは、今自分と変わらぬ《守護者》の様相で前に立っているから。

 「ヒトが……」
 「神を拝した……?」
 零された言葉、そしてにわかに笑い出す。それでか、なるほど。ヒトの世の続いた理由を知ってひとしきり。

 「如何にも。俺がオルトロスの獣騎、イキアキ」
 「お前たちが、人類の|守護者《カミ》というならば」

 「「この《聖なる決闘》にてお前たちを討ち、再びの世の栄光を、我らに!!」」

 ●紡ぐ、御伽噺の一頁を。
 イキアキが多対一を物ともしないのは、時に四足を使って跳ね、駆けるイキアキ自身の圧倒的なスピードと――意外にも互いの大きな機体のせいであった。安易に群がれば、それぞれの機体の繰り出す圧倒的な攻撃は味方をも巻き込みかねない。あちらは自由に対象を選べるが、此方は息を合わせ入れ替わり攻撃を繋げていかねばならなかった。

 そのように相対して暫く。それは思いがけない問いだった。
 「貴様、妖精族か?」
 機体に――神タイタニアの残滓のようなものをみたのか。
 いつの間に斜め上、落下を乗せて振り下ろされる爪に辛うじてあわせるヘルゲの魔法の障壁は、人造竜騎《ウロボロス》を抉る事を許さないが、続けざまの爪に攻撃に転じられない。詠唱を切り替えられない。
 「そこだっ!」
 今また振り下ろされんとする爪を弾きあげるのは――弾きあげるまで止まぬ連射の火炎弾だ。纏まれぬなら遠距離からの援護を。戦況を、相手を捉えんと凝らされる|盗賊《カシム》の目はいまやイキアキのスピードに追いつきつつある。

 一頭はそのカシムをねめつける様に、一頭はヘルゲに向けられたまま、イキアキが飛び退いて。

 「決闘には関せぬと息を潜めていたというのに」
 「ヒトと妖精と――弱者の同士で手を取り合ったか」
 仕切りなおしの状況で|双頭《イキアキ》が問う。
 お前たち、知っているのか。妖精どもは|虐げられる《ヒト》ものを盾に、他の|百獣族《もの》の関心から隠れ回っていたのだぞ――語る声は嘲りに満ちて。

 「過去があり、今があるっ……!」
 行けますよね、と人造竜騎《ダンドリオン》と心重ねて、オラクルソードの切っ先は左に。駆け出すのはロラだ。イキアキのいう過去の真偽は知れない。先ほどまで傍らにいた|女性騎士《ヘルゲ》の素性もしらない。それでも、我らここにいるのだ。振り下ろす誓いとは、《護る》ために――それが今、私の|真実《・・》。
 勢いのまま振り下ろす剣の初撃を、イキアキが軽やかに交わして、繰り返す二度三度。
 「若いな」
 一頭が太刀筋を嗤えば、もう一頭がこれを待っていたと、その口を大きく開けた。剥きだされる鋭牙がその右肩を捉えて。
 「っあ……!」
 心通わせるからこそ、鎧に食い込む牙の齎す痛みはそのままロラの痛みとなる。そのまま噛み千切らんとするイキアキの動きが――止まる。
 首に巻きつく、火炎の蛇の為だ。
 手繰る人造竜輝《ウロボロス》は、妖精かと問われたヘルゲの。

 「アタシはっ……!」
 可能なら引っ張って体勢を崩させたいが、イキアキは首を焼かれながらもソコまでは許さない。捉えられた首がヘルゲを睨む。それに返す視線は自信を湛え笑みにも似る――かつては自分を追い詰めた家柄は、血筋は、今は騎士ヘルゲを支えるものなのだ。
 「半妖精よ、人と妖精と――キミのいう通り、人と妖精は手を取り合った、その証!」
 「……嘘、あああああああ!」
 ダメージか、半妖精という存在を知ったためか。イキアキの一頭の目が、衝撃に黄より金に近い色で明滅するをみる。それも篭められた魔力にいやさか燃え上がる炎に飲まれる前の一瞬のこと。
 魔法使いと侮らないで。
 「さぁさ、我慢比べといきましょうか!」

 初めてまともに成る足止めは大きい。
 この機を逃せない。いつもだったら、痛みに、目の前のことに動揺していたかもしれないロラは、けれどこの実戦で適切になすべきをなした。今は引く。騎士の猛い瞳に揺らぎはない。
 そこにカシムが――界導神機《メルクリウス》が入れ替わる。

 近距離戦こそは最も得意とするところ――メリクリウスだよ、宜しくね☆ と告げる彼女は、機を待っていたのはイキアキだけはないとばかりに、主カシムの望むままの軽やかさで望む以上の鎌剣を振るう。イキアキの側が頭の一つであればそれで致命傷を狙えたかもしれないが、もう一頭が軌跡を捉えるから、爪と鎌剣、硬質の打ち合う音と火花の散る数瞬。
 「つるんで、悪いか?」
 例えばヒトと妖精族。例えば、カシムとメリクリウス。そして多分、かつてのコイツと……騎士アタラクシア。
 誰もが己に出来る事をと、精一杯にもがいた先のその形は、自由と、命と、尊厳の為に。
 「生きるってのは、決闘だろうよっ……!」
 爪の上を滑る鎌剣の刃が、擦れぎぃぃと嫌な音を立てる。
 もしイキアキが最初から《聖なる決闘》でなく呪いを手段としていたら。それをカシムは許さないだろう。同じように立ちはだかるだろう。けれど、それだって一つ、闘いのやり方で。
 いっそイキアキが身も世もなく恨み叫びあげる、そうしてくれていたなら――。

 「だから結局此奴は……決闘なんだろうよっ!
  だが……|聖《・》なる、なんぞつけさせねぇ!
  決闘とは! 醜く! 無様で! 惨い殺し合いでしかねぇんだよ!」
 
 首に食い込む込んだ一撃目。
 そこに間髪入れぬ二撃目が|殺意《コトバ》の通りに一つ――イキアキの首を、跳ねとばした。

 ●
 焼かれ落ちた首は、身の解放への捧げもの。
 炎の蛇から、鎌から逃れたイキアキが狙うのは、先ほど仕留め損ねた獲物――。
 「誓いがある限り、私は敵を前にして退くことはありません!」
 その甘い見立てを、一族と彼女の誇り。《ダンドリオン》が、《盾》が、受け――肩のダメージゆえに万全とはいえぬ反撃は、けれど渾身の剣突。
 
 腹に刺さるその剣ごと、イキアキの下がる先が。
 ――この御伽噺の、最終頁。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クローネ・マックローネ
NGなし、絡みOK、アドリブ歓迎
【SPD判定】
真剣口調でいくよ

言い伝えられてきた物語に、何が欠けているか、嘘が混ざっているか
何が真実なのかは、ワタシにもわからない
確かなのは…三つ
一つ、イキアキは街の人々を殺そうとしている事
二つ、ワタシ達の役割は、イキアキを|骸の海へ還す《再び殺す》事
三つ、この決闘の結末は、イキアキが死ぬか、街の人が死ぬか、そのどちらか一つだけだよ

…一応、確認はしておこうか
|アナタ《イキアキ》視点での|真実《言い分》を

ワタシは猟兵、クローネ・マックローネ
|死者《オブリビオン》の行いを否定する者
例えどんな理由があっても…その行為は、見過ごせないね

サイキックキャバリア『|黒御姉《クローネ》』に乗るよ
|聖なる決闘《トーナメント》の定めに基づき、正々堂々戦うね

UCは『ワタシの飛翔形態変形』
回避力5倍の【機動力特化型飛翔】形態に変形して飛翔状態になり、距離を取りながら【ホーミング】する【エネルギー弾】を放って攻撃するよ
敵の攻撃は【第六感/見切り/身かわし/空中機動】で避けるね


ベルト・ラムバルド
アドリブ上等

来たか百獣族イキアキ!
貴様の過去に何があったか…人間連中に何をされたのか異世界から来た私は詳しくは知らん…
だが…怨念と化した貴様を決闘で倒す為にベルト・ラムバルドは来たのだ!行くぞ!

キャバリア操縦し大剣と盾を構え突撃!盾受けで防御し攻撃を避ける!
爪の一撃は大したことないが…速い!さすがに何度も浴びれば装甲がもたん!
このままでは防戦一方だ…ならば一気に攻めるのよ!

盾を投げつけ敵の鼻先に叩きつけたらその隙にカリブルヌスとセイバーの二刀流で切り込みUCを発動!

二振りに大剣による斬撃を浴びせ鎧砕きと鎧無視攻撃で装甲破壊し尽くして切り刻む!

貴様は強かったぞイキアキ…だが私のほうが上だったな!



 ●記す、最終頁を。
 「……|おかえり《・・・・》」
 腹に刺さる剣を躊躇いなく引き抜いて、投げた先――その切っ先を交わしてクローネ・マックローネ(闇ダークネスと神デウスエクスを従える者・f05148)がいう。

 この女の前に来た事を指して?
  それとも。
 「|骸の海《あの世》へかえれと?」

 舐めるなよと、駆けるスピードにはいまだ衰えは見られない。闘いの高揚は痛みを凌駕して、イキアキは一族の先頭に立ち決闘を請け負う獣騎であるから。
 スピードも相まって、黒いボールの跳ねるよう。右、左を不規則に、さぁどこからその爪を振りかぶる――だけれど、クローネがそれを考慮する必要があるだろうか?
 サイキックキャバリア。彼女と同じ音をもつもの、PSY-C|黒御姉《クローネ》が飛翔の形をとるならば。

 では、イキアキの爪が空を裂いたか。
 否。

 「ベルト・ラムバルドは来たといったぞ! ……怨念と化した貴様を決闘で倒す為に!」
 大盾がしかとその爪を、イキアキを受け止める。そのまま両の爪と剣が目まぐるしくに打ち合って。
 「怨念? 俺が? 笑わせるなよ」
 ニンゲン如きをこの俺が恨むかよ、と尊大に言うだけはある、そのスピード、その手数。傷を受けて尚、それを当たり前として足を止めることなく戦えるのは、イキアキが歴戦を生き抜いてきた戦士だからだ。受け流す為の盾の損耗は早い。
 「……では、何故狙う! あの街を!」
 ベルト・ラムバルド(自称、光明の暗黒騎士・f36452)はそもそも異世界からの来訪者だ。この世界の人の罪もベルトには実感のあるものではない。だが、それにしたって、可笑しいではないか。
 人など問題ではないと吐き捨てる、その言葉の違和感――彼の過去、は分からない、だが。
 「俺はっ! 今度こそ! 完璧に!」
 やり遂げるんだよ!! そう返すイキアキはベルトの一瞬の思考の逸れを逃さない。渾身の爪が盾の縁を捉えて、飛ばさせまいとするベルトとせめぎ合う一瞬。

 ――ドンッ!

 盾は守るだけではない。せめぎ合い、横と印象つけた力の方向を、前へ。ベルトが鼻面へぶつけんとばかり全力で盾ごと、イキアキを押し飛ばす。
 身一つなら兎も角キャバリア用の大盾が体勢を整える邪魔をして上手くいかず遂に尻をつく。継戦と興奮とにイキアキの息は荒い。

 「……いるんだろうが、俺のような、やつが。
  ……全部だ。人間も、他の百獣族も、全部全部消して!!
  |百獣族《オルトロス》が王となる! この世界を統べる王の一族に!」

 吼える頭上から、声は降る。
 「それなのに、アナタは|帰ってきた《・・・・・》、此処に。」
 弾かれたように見上げるイキアキに、追って降り来るのは容赦ないクローネのエネルギー弾だ。|死者《オブリビオン》の行いを否定する者の行動に感傷の甘さはない。事実、5機を相手に気後れの一つもなく、首を一つ失い、腹を刺されて、吹き飛ばされて尚――降りてこいと、その脚力で飛び上がり目の前で振られるイキアキの爪を交わして、胸の裡で反芻する。
 イキアキは街を滅ぼさんするものであり、|猟兵《ワタシ》はこれを|骸の海に還す《コロス》ものであり。
 ――この決闘の結末は、イキアキが死ぬか、街の人が死ぬか、そのどちらか一つだけ。

 バハムートキャバリアの人々が人類の|守護者《カミ》を願った時、描いたその姿は空より舞い来るものだった。図らずも、同じく宙にいるクローネを、地を這うものがねめつける。
 クローネの言葉を継ぐは、這うではなく、そう、大地を踏みしめ立つもの。
 「アタラクシアがどうなったか、知るために。……違うか?」
 腑に落ちたベルトが問う。駆る機体《パロメデス》は、今、二刀――カリブルヌスとセイバーの両の切っ先を左右に下げて。

 聞こえたその名に、イキアキは暫くグウウウと唸る。
 「人は神を持たない。神を持たないものは世界の理の外だ。
  ……人は突然殺されても当然の下等っ!」
 四足で迫り来るイキアキに、すかさず左右に振りぬかれたベルトの二刀からの斬撃が応対し、避けて飛んだイキアキは始めからそのつもりだったかのように、クローネへと爪を振る。
 「っ!」
 僅かに応対の遅れ、腿に刻まれる三条の筋。
 アレは特別頭が悪かった、とイキアキは嗤う――ああ、お前たちもか。
 「パンをやった。帰り道。捨て置かれたドロ団子みたいなそれに。一つ決闘に勝って駒を進めて、その日は気分が良かった」
 着地を決めて。だが、音もなくとはいかないのはイキアキの体力の削れの現われだろう。ゆらりと身を起こすイキアキはうつむいたままだ。名前から連なり蘇る記憶の奔流に飲まれたようにして。
 僅かな沈黙――彼の中で出会いから此処に至るまでの旅路がなぞったか。
 「……お前の親兄弟を殺したのは俺かもしれん、といった。此処で」
 もううんざりだったと零した声は、疲れ果てた人のそれ。

 「アレはなんて返したと思う? なぁ。馬鹿の一つ覚え。ガキの頃と同じ」
 くつくつと肩を揺らして、イキアキがようやっと顔を上げる。

 ●『それでも――あなたが、わたしのかみさま』
 身を切り刻むベルトの剣撃をそのままに、振り上げる爪はいまや欠けさえみられて、けれどこの勢いならば充分な威力。それを許さずベルトの後方に舞うクローネが支援弾を撃つ。

 もんどりうって転げ伏せるイキアキに、その機体の影がかなさる。
 「貴様は強かったぞイキアキ……」
 騎士が命を賭して為すのがこの世界の聖なる決闘だというならば、騎士として応えよう。
 だが、俺の方が強かったと宣告し、首に躊躇いなく振り下ろす一刀こそが、騎士ベルトが獣騎イキアキに送る手向けならば。

 クローネは胸の裡に記す。
 零された幾ばくかの|死者《かれ》の真実。
 死霊を駆るものにしてシャーマンたる彼女の、それが手向けであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『精霊の地』

POW   :    昼寝や軽食で体力を回復する

SPD   :    自然の中で遊び、リフレッシュする

WIZ   :    瞑想を行い、魔力を高める

イラスト:みささぎ かなめ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ●テオロゴイの提案
 「……そうですか」
 猟兵達の勝利報告に、ぽつりと返すテオロゴイは顔をあげ、窓の外をみた。街を囲む森の中に、何かを見出そうとするかのようだ。
 それも僅かのことで、改めて猟兵に向き直った時には、真剣な表情で有難うございましたと当地の騎士式に礼をする。その後には皆様を手ぶらで返すわけにはいかない、と執政官らしい事務的なやり取りを――報酬のようなことや、報告書の為の詳細の確認など――して。
 入れられた珈琲やお茶もなくなり、では帰ろうかという猟兵達にテオロゴイがあの、と声をかけた。

 「住人たちに呼びかけて来たい者のいれば一緒に。近いうちに、戦場を訪ねようかと、思うんです。
  もしお時間の許すのならば、ですが――ご一緒頂けませんか」

 ●
 あの場所こそは、イキアキからアタラクシアを引き継いだ者のいるところ。
 即ち伝承にある妖精の住む地なのだとテオロゴイがいう。

 「私もこの地を預かるものとして、祭事で何度も赴いて、……当の妖精族には会えた事がないのですけどもね。だから、子供たちなどには、彼らは妖精から精霊になったのだよ、なんて」
 苦笑いで彼は続ける。妖精族は不老不死の種であるから会えぬというならば去ったということ――街の大人の多くはそのように考えているが、それでも、だ。居ようが居まいが、大事な場所には違いない。此度は随分と騒がせてしまったから、詫びをしたいのだと彼はいった。

 「あの地の妖精は賑やかなのが好きだと伝えられていていましてね」
  ……ははは、こうなると、その話も当てになるかは分りませんが、と軽く肩を竦め。それからにこりと猟兵に向き直る。
 「でも皆さん程の方々がおいで頂けるなら、もしかしたら妖精族も顔を出してくれるかもしれません。……いいえ、|望めば《・・・》、|きっと《・・・》」
 出会えたら叡智と幸運を授かれるのですよ、皆さんはそれに相応しいと私は思うからと胸叩く勢いで言い切るテオロゴイは、此度の一件を経ても相変わらず、|なんとも善人《ロマンチスト》のようだ。

 「住人には目的の意義のは告げず、犬たちを遊ばせないかと誘うつもりです。
  春呼びのイベント、なんてどうだろうか。此方持ちのメシつきで」
 今知りえたところまでの話は住人には明かさないと言外に。

 「……命の取り合いをしたばかり、その場所で、不謹慎と思われるかもしれませんが。でも……」

 どう説明したらと言いあぐねる執政官のけれど気持ちの分かるような気がして幾人かが小さく頷く。
 これで終わりは確かに寂しい気もしたし――今あるこの街、今此処に生きる住人は、イキアキが望んだ栄光ではなかったかもしれないが、彼の紡いだ物語の続きなのだ。住民たちはこれまで通りの御伽噺に生きるとしても、彼の、妖精の、人の繋がる一瞬を。
 テオロゴイはそれを手向けとしたいのだろう、戦闘で騒がせた妖精族への侘びと兼ねて。

 「お友達などいらっしゃればどうぞお気軽にご一緒に。堅実な執政はこういう時の為ですから」
 蔵を開けますよと笑うテオロゴイの表情は、ふっきれたように晴れ晴れとしていた。
ロラ・ゴブラン
連携・アドリブ歓迎
なるべくUCを発動させないように外套のフードを被り人目を避けながら行動します

イキアキと対峙した場所で戦闘を振り返ります
悔しい、です。
……あの時、助けがなかったら、きっと私は嚙み殺されていました
あの時の未熟な剣技、そして、死を前にした時の恐怖心を、今でも思い出してしまう自分が。弱くて、悔しい

……ふぅ、だ、駄目ですね、折角の楽しい場なのですから楽しまないと!
よ、よーし、ワンちゃんたちと戯れて元気を分けてもらいましょう!
って、わわわ!フ、フードは脱がさないでください!あぁ、黒子は見ないで!
ひゃ、ひゃあ!だ、だれか助けてくださーい!



 ●これが貴女の紡いだもの
 万事用意は整えておくと、執政官のいっていた通り。
 野原の両脇には今、春の花に先駆けて色とりどりのパラソルが咲いている。出店の数々、憩う人々もいれば、開けた中を奥へと向かう主人とペット達も見受けて。何より、今日は日差しも招かれたか、温かく柔らかい。

 (蔵を開けるっていってましたものね)
 胸を叩き張り切っていた過日のテオロゴイの様子。今すれ違った、親子連れの楽しそうな笑顔。暖かい日差し、その全てが胸の裡にほんのりと温かさを点すのに、ロラ・ゴブラン(引籠の乙女・f44788)から漏れ出てきたのは、は、と継ぐ短い息の音だ。

 知らず詰めていた息。
 今目の前の光景と、ほんの数日前の寂しく、苦しかった、戦場の姿とを上手く重ねられない。
 立ち止まる足元に走る茶色――イキアキが、自分たちが、大地に幾条も刻んだ溝を急ぎ埋め戻したのだろう。まだ周りの灰色の土の色と馴染めずにいる土の色だけが、見つけ出せた唯一のあの日の名残だ。

 「こんにちは、ゴブラン卿」
 掛かる声に肩を跳ね上げ振り返るならば、ロラの弾かれたような様子に、すみません、驚かせてしまいましたか、とテオロゴイまで釣られ焦った様子で、他意はないと両の手のひらを振るものものだから。
 「ち、ちがうんですっ」
 「そ、それならよかったですっ」
 ぺこぺこと双方がやりあう、当人達は一生懸命で、周りからみたら平和な光景。けれど、普段見られない執政官のそのような姿に周辺の衆目が集まるから、自分ではないと思いつつも落ち着かず。移動しませんかと申し出たのは、今一度フードの端を引くロラだった。

 「……やはり、《彼》と剣を交えた貴女には、この空気感は、お辛いか」
 仮ごしらえのベンチに座るロラに、そろそろ名残の季節となるか、柑橘のモクテルを差し出すテオロゴイは浮かぬ様子をみて取り、そう声を掛けた。そも開催の逡巡が彼のうちにもあったから――立ったまま、今自分が来た道、大通りと化しているあたりへと目をやる。
 釣られるようにフードの影からロラが見るそこには、くるりと巻いた髪も可愛い女の子が手綱をもって足止めている。手綱の先では、少女と同じくクルクルと巻き毛の可愛い一匹。すっかり地面に伏せて俺はここから動かないぞとストライキ中のようだ。ねえったら。プール、おいで。もう、……ねぇ、どうして? と愛犬に語りかけ、困り果てながらも最後には強情な愛犬に噴き出した彼女は、遂にお抱え作戦を決行した。
 去っていくその背を見送るロラの両手は硬く握られて、小刻みに震えている。
 「……悔しい、です」
 思わず零す言葉。
 目の前の場所に重なる光景に落差があればあるだけ、人々が生を喜ぶ姿の分だけ、先鋭化されるのはあの時感じた死への恐怖。

 (……あの時、助けがなかったら、きっと私は嚙み殺されていました)
 振り返る己の未熟な剣技、振り払えない己が死のヴィジョン――弱くて、悔しい。

 ――ワン、と何処かの犬が太く吼えた。

 その声に、思考のスパイラルが霧散する。
 「あの! ……いえ、その、違うんですっ」
 何が悔しい、と聞かれたらなんという? これだからいけないのだ――いつだってそう、自分自身だけで精一杯。
 慌ててテオロゴイを見上げたロラに降る言葉は、今日はおいで頂き感謝致しますというもの。テオロゴイは今だ往来へ目を向けたままだ。

 「――|卿が命を賭して為したことが何であったか《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》、今日、貴女にご覧頂けて、私は嬉しいです」
 途切れ、解けかけたものも、束ね、縒り、紡ぐなら、それはきっと前より強く太い縄となるでしょう。|猟兵《あなた》たちの闘いという新しい糸も加わるならば尚のこと。

 思いがけない視点の提供。悔しいというこちらの言葉の後に続けるには、なんだか少しちぐはぐなその科白たちが、じわじわと染みて……ロラは、フードの端を引き下げると、その中で、ふふ、と小さい笑い声を漏らした。
 振り返れば最初から。この執行官殿とは上手く会話の噛みあわなかった気がする。緊張で記憶の飛び飛びとなったあの日の執務室を思って、そっと目を拭う。

 正しく、思いは、感謝は伝えられただろうか。多分、今度こそはきっと。
 だってロラは笑っている様子。ほっと胸撫で下ろすテオロゴイに忍び寄るもの ――。

 『格好つけて終わらせるものか』と思っているのかは分らないが、穏やかでもしんみりとしたその空気をぶち壊すのは、かわいさの固まりだ。
 小さな手足を一生懸命に。駆けているつもりでポテポテと。
 二つの毛玉が背後からテオロゴイのかかとにダイレクトアタック。奮戦むなしく執政官にして歴戦の騎士のかかとを前に跳ね返って――転がる毛玉たち。
 「おや、勇ましいな。お前たち」
 転げて身を捩る二つの毛玉に遅れてきた一匹がぶつかって、またこける。それが次から次へ。積み重なって転げてまわって。
 目の前で突如起きた玉突き大事故に、ああ、とロラが歓声とも悶えともつかぬ声をあげる。ベンチから立って駆け寄り、抱えあげるなら、クーともキューともつかぬ声を上げていた仔犬は安心しきって大人しくなり、ロラへ顔を擦り付けてくる。

 湿る鼻先の冷たさも、腹から伝わる温かさも。触れて実感する、命の温度が齎す幸福感と肯定感。
 そうとも、やれるだけはやった。
 ――良かったの。生きているもの、この子も、……私も。
 
 すみませーん!
 大きな声にその方向を見遣れば、慌てたように手を振り遠くから駆け寄ってくる男性。
 仔犬の短い前足を借りてふりふりと応えるが、果たして彼に見えただろうか? 頑張って3匹も仔犬を抱いて可愛いと笑うロラ。男性の方へ小走りで向かう彼女の後ろを自分もまた残る仔犬を抱き上げて、テオロゴイがついていく。

 春呼びの祭りは、まだ始まったばかりだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベルト・ラムバルド
アドリブ上等

戦いは終わったが…
聖なる騎士は悪い化物を倒しましたとさ!めでたしめでたし!
…すっきりせんがな…この世界の騎士道とは何と罪深いものよ

まぁテオゴロイのお願いだ…精霊様の地とやらに向かおうか
悩んでも私は騎士のベルト・ラムバルドだからな…!

おお~犬だらけだな!ちと喧しいがまぁ犬だしな…元気だな~
…っと!犬の落としものか…
まぁ犬だしな…ちゃんと飼い主は持って帰りなさいよ…もう…!

…百獣族の屍の上でこの世界の人間達は生きている
根絶やしにした張本人連中はもう居らずその子孫達が今を生き死んでゆく…
無常だし非情だが…人の生って奴だな
…精霊…もとい妖精達が過去の事実を知るのみか…長生きも辛いもんだな…



 ●そして貴方は捲る、新たなる一頁を
 炭火で焼き上げた肉に、千切りの冬キャベツ。スライスされたゆで卵。レードルを器用に振って紐が降りてくるかのように掛けられるのは、うす緑のトロリとしたソース――聞いたところ、春先のほろ苦い山菜とチーズをベースにしたソースだとか――それを、とうもろこしの粉で作られたシートでくるり器用に巻く店主に掛けられる賞賛。
 「おお! お見事!」
 さらに紙に包まれたそれを受け取り、先日、あたたかくなったばかりの懐から気分よく財布を出そうとすれば、今日はお代は結構だよ! と笑う店主。
 そういえばそんな事を言っていたっけ――ベルト・ラムバルド(自称、光明の暗黒騎士・f36452)は、蔵を開けるという執政官の発言を思い出す。
 「いやいやいや、幾らなんでもこんな大盤振る舞い、大丈夫? テオロゴイ、アイツ……」
 「あっはっは。なぁ、大丈夫なんだかねぇ。ま、オレとしちゃあ、御代は誰が払ってくれても同じだからね!」
 あっけらかんと笑う店主に、アナタはねと笑みを返して。冷める前に喰いなよ、兄ちゃんと見送る言葉に背を押され、ベルトは今日限りの往来へと身を翻した。

 食べ歩きながらいくそこは、先日の祭りに劣らず活況だ。
 ひときわ、気を、いや、耳を引いたのは。
 「お~お~、元気だねぇ」
 ぎゃわわんと甲高い犬の吼え声。犬にも相性があるからこのように行きかう時には仕方ない、時折起こる犬同士の素直な感情の発露。白く小さい犬が勇ましく吼えるなら、迎えうつ黒く体高の大きな犬は、その顔に困惑を浮かべて。それでも一応、前足を折り肩を下げて前傾すると一度だけは勇ましくワンっと返してみるものの、治まらぬ白い子の剣幕にすぐに体勢を戻して落ち着かない。ウロウロと遂には飼い主の後ろに回りこむようにして――ありがちな光景。すみませんねと苦笑いを浮かべあって頭を下げる双方の主人。二人が一瞬だけリードを引いて愛犬の注意を自分に取り戻すなら、治まってしまう程度の諍い。

 見るともなしに見た一部始終。中身を全て胃袋に納め、ただの紙筒と化したそれをぐしゃりと握りつぶして、当て所もなし、再びベルトは歩み始める。
 なんとも言いがたい、すっきりとしない心持。さっきの光景は、それ自体は、お互い噛み付くでもなくて、いうて躾も出来ていたじゃないか。いい光景だった。誰にでも起こりうる諍いも、あんな風に治められるならと願いたくなるくらいに。

 けれど、野生なら犬達だって――そうして人の世界ならなおのこと、そんな風には出来ていない。
 それじゃあ、といって。戦うしかないのだとして。
 (……聖なる騎士は悪い化物を倒しましたとさ! めでたしめでたし!)
 なんて――そう〆るのは簡単だが、先日、御伽噺の行間を垣間見たばかりなのだ。
 |親切で優しい狼《イキアキ》さん、の身も世もなく、取り戻せないものを手繰って掘り返そうとした抗いは、どこへいけばいい?
 (――あ、私たちか)
 斬った張ったの先、背負う、背負わせる。背負う者は今を生きる者。
 ちょっと待て。
 では生きる、生き残る私のやるせなさは、どうすればいい? 語るに語れぬこの……――。
 はぁ……と思わず大きく嘆息して、思い出すのは昔読んだ騎士道物語。キラキラと誇らしく輝かしかったそれ。当時には知る由もなかった行間を、身を以って、今知る。

 ――騎士道とは何と罪深いものよ。

 継いで、ははは、と空笑い。
 その、唐突なベルトの笑いに、ぎょっとして、彼を伺いながら擦れ違う女人。
 「ん、んんっ」
 思い出し笑い野郎とでも思われたかしらん、と咳払いで誤魔化して、その視線を避けるように。落とす目の先、……っとぉ?
 危ない、犬の落し物に気がつけたのは、そうとも。この騎士ベルト・ラムバルドの|高潔な行い《・・・・・》に何者かが応えたに違いないのだ。
 そう、正に高潔なる騎士ゆえに、この所業は許せない。勿論、ワンちゃんは悪くない。ワンちゃんがそうしちゃうのは仕方ないのだ。生きているって、こういうこと込み込み。悪いのはそう――。
 「……ちゃんと飼い主は持って帰りなさいよ……もう……!
  テオロゴイのヤツ、街への指導がなってない!」
 「はい、すみませんっ!!」
 「うわぁああっ!?」

 危ないって!
 当の本人が急に後ろから声を掛けてくるものだから、驚きにたたら踏んで、見えている危険を踏みそうになった。いつの間にこの政治屋、私の後ろにと。ベルトがキッと眼光鋭く振り返るなら、腐っても騎士、気配を滲ませぬ執政官テオロゴイは、相変わらず分ってない顔で、ご意見有り難く賜りますとか、分ってない事を言っている。
 最初の邂逅でガツンといわれたのが記憶に新しいか、敬礼でもしかねない直立不動も、だが一瞬のこと。
 「今日はおいで頂きありがとうございます」
 向けられる笑顔と手に、しょうがないねと肩を竦めて、視線を緩めると握手を返す。ホッとした様子のテオロゴイが横に並ぼうかとするから、貸し付けとくことにする。
 「まぁアンタが来て欲しいというから。精々恩に着なさいよ……あ、そこ、犬の落し物」
 「うわぁああっ!?」

 処理を若手に頼むテオロゴイを置いて、ベルトが進むなら、あぁ、ちょっと? と追いかけてくるのをしたいようにさせて――向かう先、野原の縁。

 「急ごしらえにしちゃ、なかなか立派だね」
 森の木を背に、イキアキと対峙した最後の場所は、充分なスペースをとって、しっかりと据えられた柵に囲われていた。
 中では犬達が思い思いに駆け、跳ね、或いは好きなだけ地面のにおいを嗅ぎながら、つかの間の自由を謳歌する。外では不測に備える筈のサーコートの騎士たちも飼い主に混じって、突如始まる犬たちの駆けっこに歓声など上げている、その様。

 屍の上に。
 イキアキの屍の上に、犬たちは遊び、今、笑顔が溢れているという現実。
 ここだけではない、この世界のどこもかしこも。

 「……かわいいじゃないか。アイツ、あれ」
 「ん、どれでしょう? あの子かな」
 独り言に、横の誰かが会話の気で音を出すからベルトは苛々する。
 「あの子に似てる……子供の頃に飼ってた……」
 そして今、立派な騎士となったベルトの横には、もういない犬の代わりに、気の合わないおっさんが立っているのだ。苛々する、やりきれない、なんという悲劇。だから――少しくらいは嘆きたくも、なる。
 「……あぁ無常だ。無常で非情……人の生ってやつは」
 「はぁ……犬でなくて、すみません」
 |睨《ね》めつけてくるベルトの視線に、困ったように眉尻を下げて笑う男は、相変わらず分ってないようなことを、だけれど、きっと分った上で言っている――この政治屋は騎士というにはロマンチストの甘ちゃんだから。

 「いやになるわ、男二人で犬眺めてさ。
  けどまぁ、……妖精だか精霊だかは気に入ってくれるか、な?」
 「えぇ、きっと」
 「……ずっと、憶えているものかな。ここにいた妖精たちは。不老不死っていうんなら」
 そう在るのならば、こんな思いは抱かないのだろうか。時間に消え去りそうな|行間《おもい》を背負い続けていられるのだろうか――それとも。
 「……忘れたくて、何処かへ旅立ったのかも」
 真面目と思っていたテオロゴイの予想外の返答に、ベルトは思わず噴き出した。
 「おぉ、先祖の恩師に不敬ではないか? 執行官殿!」
 ゲシ、と執政官のふくらはぎを蹴れば、すみません、調子に乗りました、と。くつくつと男二人肩を揺らして。

 御伽噺の全てを知ったわけではない。知りたいわけでもない。欠けていくものがあるというならそのままに。
 そうとも、忘れたって、捨てたって、いいじゃないか――少なくとも、今日のような楽しい日には。
 ウサ晴らしだ、精々アンタの金で飲み食いしますか、と踵を返したベルトと、その後ろで、何卒お手柔らかにと付き従う男の背を、柵の向こうから、一頭の犬が見送って――。

 次の瞬間には、そんなことはもう忘れたように、再び、駆けていく。
 親しい者たちの元へ、自分なりの日常へ、明日という新たな頁へ向けて。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2025年03月03日


挿絵イラスト