●銃
それはたった一つの力だった。
引き金を引けば、膂力の差はひっくり返る力の象徴だった。
何故、そんなものに己が手を伸ばしたのかという理由は、語るべくもないことだった。
己が愛おしいと思うものは、全て柔らかく傷つきやすいものだったからだ。
世界は、美しいが優しくはない。
あるのは理だけだ。
だからこそ、不条理も横行するし、理不尽は降りかかる。
「わかっている。これは守るために使うべき力だってことは」
容易く生命を奪えるもの。
それが銃だ。
初めて引き金を引いた時のことを思い出す。
指にかかる鉄の感触。
降りる撃鉄の音。
銃口から迸る光。
燻る白煙。
いずれもが、記憶の奥底に眠っている。
「家を、愛おしい家族を守るためには、誰かを傷つけることを厭うことはできない」
牙を研ぎ続けるのと同じだった。
確かに引き金を引けば、銃は弾丸を放つ。
だが、放たれた弾丸は己の狙った相手を貫くとは限らない。
僅かな反動を抑えきれなかったブレが、弾道を大きく逸らすことなど日常茶飯事だった。
それた弾丸が、己の大事なものを傷つける可能性だってあった。
だから、死ぬ気で修練に励んだ。
音楽と家族の存在が心の慰めだった。
誰に理解されずともいい。
力を持って、力に抗することがどれだけ無意味で虚しいことなのかもわかっている。
だが、それでも、なのだ。
守るための力を常に求めていた。
ヴァンパイアのプロパガンダ。
その旗印が己だった。
名家と言われても、己にはぴんとこない。
捨てろと言われれば、ためらいなく捨てることができただろう。
「……全ては闇を打ち抜き、光の道を切り拓くためだ」
初めて引き金を引いた日から、今日に至るまで変わらない。
修練は一日として欠かしてはいなかった。
己の人生は多くが間違えることばかりだった。
恥の多い人生であったと言えるだろう。
けれど、まだ生きている。
己の道は血と闇にまみれた轍が背後を見れば続いている。
「あの子らのためにも」
そう、雄々しく戦う家族たちがいる。
並び立つとは思いもしなかったが、こうして今ある喜びを捨てることはできない。
「今度こそ間違えない」
銃口を向ける先も。
討つべき敵も。
今は、光に照らされている道がある。
暗闇の中を歩むのだとしても、その先にあるのは未来だと信じたいのだ――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴