えにしの星々を飾ると、そこにはやさしき銀河ができました
――シャンシャンシャン♪
一番星が輝き始める頃、サムライエンパイアの地でベルの音が鳴る。
「アンちゃん、雪、降ってる!」
ぱあっと明るく照らすような木元・祭莉の声に、ぱちぱち目を瞬かせて木元・杏はほわり微笑んだ。
「ふふ、これからどんどん寒くなってくる。明日、積もるかな?」
立ち止まって眺める木元村の風景。明るい時間帯であれば、少しずつ白へと染められていく様が見れたことだろう。
垂れ耳付きのふわふわ毛糸の帽子を被った杏は跳ねるようにして一歩を踏み出した。
和風のミニスカートがひらり舞うも、暖かいコートの裾がお転婆な動きをフォロー。
数歩分前に出た杏がくるり振り向き見た祭莉のふわふわ頭に、雪の花弁がひとひら、ふたひら。
「まつりんもお帽子被る?」
「んーん、まだいいや~」
ふわふわとした狼耳をぴぴっと跳ねさせて、祭莉はハンドルを押す。力を籠めて歩んでいけば、屋台風荷車『木元村』から再びベルの音が零れ流れた。
買ったばかりの傘を抱えた杏の足取りも音色に合わせて弾む。
シャンシャンシャン♪
屋台には他の世界で譲り受けた荷物がたくさん乗っている。
キマイラと制作した『クリスマス★theバズリ動画』のお土産は美味しそうなクリスマスケーキやターキー。煌びやかな包みの子供向けシャンパン。
UDCアースではなんと、邪神ツリーを造るという怪しい組織の『解体』を手伝ってきた。UDC組織に収容できない一般的な小道具……たくさんのクリスマスグッズを貰い、今は祭莉が曳く屋台の中に。
――今回も、無事に帰ってきました。
手を合わせ、きちんと木元村の神社に報告した、双子の帰路。
季節折々に舞い降るは春の山桜、夏の陽射しと蝉の声、秋の紅葉。
今日は増えていく星々、新雪。見上げれば冬の枝々が天地を遮り一時の夜模様を描いている。
滑らないように歩む道は神社と家を繋ぐもの。
その途中には六道巡りのお地蔵様が並んでいた。
双子はお地蔵様にも手を合わせ――ふと、杏は気付く。舞い降る雪は等しく、六体のお地蔵様たちにも積もっていくのだろう。
今宵は寒さも増す。
お地蔵さまは冷たく、
「……ちょっぴり、寂しい、ね」
だって今日はクリスマスの夜だ。しょんぼりとした双子の妹の声に、何かを思いついたのか祭莉は「そうだ」と声をあげた。
「ね~みてみて、アンちゃん」
祭莉はその場でくるりん。今日の彼はサンタクロースコーデ。
「お地蔵さんにもクリスマスプレゼントあげてこーよ♪」
だって今日のおいらはサンタクロースだからね。
祭莉がにぱっと笑って、オーナメントが入った箱を持った。
屋台に乗っていたうさみん☆もふぁふぁなモールを手にぴょんと降りて。
祭莉の笑顔は、いつだって杏の気持ちを後押ししたり引っ張っていってくれる。
杏は嬉しそうに大きく頷いた。
あるお地蔵様には寒桜が描かれた儚く淡い色の傘を。
お地蔵様には毛糸の帽子とマフラー。
あるお地蔵さまには、
「こっちも、どうぞ?」
ストールやブランケットを杏は被せて整えて。
お地蔵さまにお供えされていくのはクリスマスケーキ。カラフルな包みのシャンパンや、ステンドグラスクッキーたち。
「ぬいぐるみたちはお祓い済みだから安心安全デ~ス」
祭りが飾っていくたくさんのぬいぐるみはサンタクロースやトナカイ。クリスマスver.のキャラクターたち。
うさみん☆が木から木、枝から枝とモールやオーナメントを飾っていけばガーデンライトの光を反射してほんの少しずつ場が明るくなっていく。
お地蔵様をあったかく包み、周囲を飾る時間は夢中になるもの。
頭上には輝く星々。降る雪は積もり始めていて、きっと翌朝は銀世界だ。
「へくち……!」
ちっちゃな杏のくしゃみに「わ」と呟いた祭莉が弾むように荷車へと飛んでいった。
水筒の温かいスープをカップに注いで「はい」と杏へ手渡した。
そこへ「コッ……コッ……」と近付いてくる鳴き声。杏としては聞き慣れた、祭莉としては反射的に姿勢を正すニワトリのもの。
「……たまこ!」
たまこの姿を見た杏の顔がほわっと綻ぶ。
「むかえにきてくれた? ありがとう」
「コケケッ」
「あ、遊んでたわけじゃないよ……!」
ほら! と言い訳をする祭莉が示すはクリスマスの世界。
木々にはモールとカラフルだったり玩具だったりなオーナメント、ジンジャーブレッドマン。
自動点灯のガーデンライトに照らされたお地蔵様の周囲は賑やかだ。
しばし首を傾け眺めたたまこは「コッコッ、コケ~」と鳴いた。よくやったとか見逃してやる、とかそんな感じの声。
「コケ」
「ん、帰ろう」
杏の言葉にヨシと体を揺らしたたまこは来た道を戻っていく。
追いかけるはうさみん☆を抱えた杏と再び荷車を曳く祭莉。
――シャンシャンシャン♪
優しき光ある場から三つの足跡、轍が木元家へと続いていく。
家に、あたたかな灯宿るまで、あとすこし。
成功
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