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聖なる夜に蕾は綻び

#サクラミラージュ #ノベル #猟兵達のクリスマス2024

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#猟兵達のクリスマス2024


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ジョゼ・ビノシュ



雨倉・桜木




「――ジョゼさん、ジョゼさん」
 微睡の中、暖かな男性の声がジョゼ・ビノシュの耳に届く。
 ゆるゆると瞼を開けば、目の前には桜色の髪の青年の姿。オパールの瞳を瞬かせるとジョゼは慌てて立ち上がった。
「……はっ。ごめん、人を呼びつけておいてうとうとするなんて」
「ん、構わないさ。お邪魔します」
 今日はクリスマス。ジョゼは目の前の彼――雨倉・桜木の二人でホームパーティの約束をしていたのだ。
「シャンパンの飲み過ぎね。桜木くんを部屋に呼ぶのに緊張してたから……大丈夫、まだたくさんあるわ!」
「こんなに色々用意してくれたのかい? ありがとう」
「いっぱい買ってきたのよ。チーズとりんごのキッシュにビーフシチューパイにサラダ、ショートケーキとチーズケーキ」
 二人の目の前のテーブルには封が空けられたシャンパンと、クリスマスにふさわしい料理の数々が皿の上に盛られていた。
「このショートケーキ普通のと違うね」
「ショートケーキはサクミラ流? でいいのかしら。これはサクミラらしくて素敵でしょう」
 ケーキ皿には桃色のクリームの上にふんわり乗った苺が特徴のショートケーキ。薄い桃色に色づいたクリームがサクラミラージュの世界を彷彿とさせる。
「どれも美味しそうだ」
「桜木くんはなに持って来てくれたの?」
「ぼくも色々作ってきたよ。シーザーサラダに、ハンバーグ……」
 桜木は腕の中のバケットから色々な料理を取り出していく。
 シーザーサラダにオニオングラタンスープ、煮込みハンバーグ、ブッシュドノエル。
 そして一番大事なものは、コレ!と、桜木が取り出したのは、
「ローストチキン! クリスマスの主役はやっぱりチキンだろう?」
「チキン焼いてくれたんだ、すごい! リボンまで巻いてある!」
 彼が取り出したのはクリスマスには欠かせないこんがり焼かれたチキン。
 持ち手には赤・白・緑のリボンで飾り付け。特別な装いのローストチキンは自分こそがクリスマスの主役だと主張しているようで。
 ――そんな自身が用意したものはもちろん、桜木が持って来た手作り料理の数々にジョゼは目を輝かせる。
「いっぱい食べようね!」
「そうだね、いっぱい食べよう。そしてお野菜もちゃんと食べるんだよ?」
「お、お野菜?」
 お野菜。その言葉にジョゼの表情は曇っていく。
「ジョゼさん?」
「うん食べる、食べるってば……」
「本当かい? 信じるからね」
 しょんぼりしながらジョゼはローストチキンを一口。
 ああ、しかし――綺麗な焼き色がついた皮のパリッとした食感と、柔らかな肉から溢れたジューシーな肉汁に触れた時、この後野菜を食べないとという憂鬱な気持ちはどこかに吹き飛んでいったのだった。


 クリスマスの料理とケーキも楽しんだ後。桜木はふと、部屋の隅にあった『ソレ』が目に入った。
「そういえばあそこにあるのって……」
 視線の先は何も飾り付けられていないモミの木が一本。
 ああそれね、とジョゼがグラスのワインを一口飲んでからモミの木に近づく。
「クリスマスツリーはね、飾り付けを一緒にやろうと思ってまだハダカなのよ。一緒にやりましょう」
 部屋隅のオーナメント入った箱を超能力で引き寄せながら、ジョゼは心なしそわそわしている桜木を手招いた。
「やるやる! 一回、やってみたかったんだよね! お宿でも飾っているけれど小さいものでね」
 箱の中のオーナメントはぴかぴかの新品ばかりだと気付いた桜木がはたと気付く。
「もしかして……今日のために用意してくれたのかい?」
「そうだよ。買い集めるの楽しかった〜。丸いの、四角いの、色々あったの」
 赤、黄色、青、丸い、四角い……説明しながら箱から飾りを取り出していく。
 そして最後に取り出したのは透明な球状の物。
「見てこれほら、桜のスノードームなのよ、凝ってるでしょ」
 彼女の手の中のスノードームにはサンタではなく桜の木が、白い雪ではなく桃色の花弁が舞い踊っていた。
「桜のスノードーム!あるんだねぇ……うん、ひょっとしてぼくを意識して? なんてね」
「ふふっ、どうかしらね~……さて、飾っちゃいましょうか?」
 ジョゼの説明を嬉しそうに頷きながら一つ一つ聞いていた桜木が冗談めいた軽口を叩けば、ジョゼは含みのある笑みを浮かべて。
「飾ろう飾ろう。あ、星って天辺だっけ!」
 桜木が金色に輝くその星を箱から取り出し、ツリーの上に乗せようとした――瞬間、その腕はぐわしっ!とジョゼに掴まれた。
「ちょっと待って、星はまだ! 最後に一番上に」
「え、あ、うん、わかった、じゃあ星は最後に。一緒に飾ろうっか」
 提案を受け入れた桜木が箱の中のモールを見つける。
「この、ふわふわキラキラしたやつ、ツリーにぐるって回すように飾るんだよね?」
「モール飾ってみたいの?」
「やっていいかい?」
「もちろんよ。巻き方はお任せするわ」
「分かった。折角なら綺麗に巻きたいよね……」
 目をきらきらっと目を輝かせて角度に拘りながらモールを巻いていく桜木を、ジョゼは微笑ましく見守るのだった。


「綺麗だねぇ」
「そうね……」
 飾り付けられきらきらと輝くツリーを見つめる桜木に対し、ジョゼはふぅと小さなため息を吐くとぽすんとソファーに腰を下ろした。
「疲れたのかい?」
「ううん。酔いが回ってきちゃった……ねえ桜木くん? やってもらいたいことがあって」
「なんだい?」
 彼女の横に腰を下ろした桜木にの方へジョゼは少しだけこてん、と首を傾けた。
「頭を撫でてほしいの」
「いいよ」
 躊躇いもなく了承すると、桜木はジョゼの頭を撫でる。
 少し角ばった手が月光を纏った髪をさらりさらりと往復すればジョゼは気持ちよさそうに夕暮れ色の双眸を細めた。
「……気持ちいいわ。これからも時々撫でてよ」
「うん、ぼくでいいならいくらでも撫でるさ。膝枕もするかい?」
「えっ、ひ、膝!?」
 突然の提案にジョゼは細めていた眼を見開く。
「流石にだめかな」
「ううん、やってやって!」
 すぐさまに体勢を変えるとジョゼはぽすんと桜木の膝に頭をのせる。
「どうかな?」
「う~ん、気持ちいいわ」
 膝と髪を撫でる感触、そして彼の体温が気持ちいい。あまりの心地の良さは大きな木に体を預けている様。
 ふと、ジョゼがゆるゆると目を開けると、自身を覗き込む赤い瞳と視線が合った。
「……かわいいな」
「――っ!」
 ぽつり、桜木の口から無意識に零れた言葉にジョゼは一拍開けて顔が真っ赤になった。
「ジョゼさん?」
「な、何でもないわ」
「でも顔が赤い……」
「酔いが回ってきたのかも!」
 顔が真っ赤な事を悟られまいと慌てて体の向きを横に向けた。
 自身が放った言葉に気付かずに、桜木は再び頭を撫でる。
 降り注ぐ優しい撫でる感触に、ジョゼはうとうと眠りの世界へと旅立ったのであった。


「……寝ちゃったかい?」
 言葉に反応せず穏やかな寝息を零すジョゼを見て桜木は猫の契約悪魔であるキュウダイを呼び出し毛布を持って来てもらう。
(「彼女が起きるまで、このまま朝まで寝てしまおうかな」)
 彼は八重紅枝垂桜の精。人間の様に神経も血液も本物ではなく、膝も痺れる事はない。
 そして何より桜の木であるから、じっとその場にいる事は得意だ。
 幸せそうな寝顔の少女に、桜の精は愛おしそうに双眸をゆるゆると細めた。 

「……かわいいなぁ」

 零した小さな言葉が、静かな部屋に響いた。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2025年01月25日


挿絵イラスト