【SecretTale】忘却・喪失・謎だらけ
●記憶喪失の理由
エーミールとメルヒオールが拘束され、懲罰房へと入れられることになった。
スヴェンの日記により、フェルゼンが|侵略者《インベーダー》・ミメーシスに身体を奪われた事情がわかった。
ここまでが前回の話。つつがなく、猟兵達によって問題は解決された。
だが、新たに出てきた問題点――『スヴェンは何故記憶喪失になっているのか』が不明なまま。
彼が失った記憶の中にはミメーシスとの会話記録も残されている。そこで何が起きたのか、どんなやり取りを経てミメーシスがこのエルグランデとの繋がりを得たのかを知る必要があった。
エルグランデという世界はどんな世界にでも繋がることが出来る《ゲート》が存在しているため、ミメーシスが何を目的としているのか、どのようにしてこの世界を知ったのかを確認しなければならないのだ。
「ミメーシスってやつの生態についても知りたいけど、まずはこの世界に来た目的とか、そのへんを知らないとね」
「それでオレの記憶か……。時間帯がわかるなら《|過去視《クロノスサイト》》を使えばいいのでは?」
「お前の記憶が無いから、変な挙動する可能性があるってことでナシ」
「そうか……」
エルドレットとスヴェンの2人が色々と考える。
過去を見に行くことが出来るコントラ・ソール《|過去視《クロノスサイト》》を使えばすぐにでもミメーシスの目的が判別出来るかもしれないが、それを行うにはスヴェンの記憶が忘却していることが問題となってしまう。
《|過去視《クロノスサイト》》は『過去を見たい人物の名前と顔』『時間』が揃えば大抵の過去を見ることが出来る優れたコントラ・ソール。司令官システムでは度々使用されることがあり、その仕様についてはエルドレットもスヴェンもよく知っている。
しかし記憶が鮮明でない状態での使用は行われたことはない。エルドレットの考えでは記憶も過去を作るための構成要素である可能性が高く、見たいと思った過去を見ることが出来ないかもしれないのだそうだ。
「さてはミメーシスがオレの記憶を失わせたか? いや、だがそれをやって何の利益になる……?」
ぶつぶつとスヴェンが呟く中、エルドレットは少々申し訳無さそうな顔をしている。
どうやら彼はスヴェンの記憶喪失の理由を知っているようだが、それを彼に話すわけにはいかない様子。
詳しく聞きたければ、スヴェンがいないところでエルドレットに話を聞く必要がありそうだ……。
●ミメーシスの謎
それからしばらくして、猟兵達には『ミメーシスの目的調査』をお願いされる。
現状、ミメーシスと繋がりがあるのはフェルゼンしかいないため、彼に直接話を聞く……わけにもいかず。
拘束されたエーミールが何かしらの情報を持っていないかの確認を取るぐらいしか出来なかった。
しかし、猟兵達は知っている。|もう2人《・・・・》のミメーシスの存在を。
1人はまだ不明だが、もう1人は司令官システムにいるナターシャ・アイゼンローゼ。彼が『自分がミメーシスの1人である』と伝えに来たのは記憶に新しい。
ナターシャ曰く『システムの人間に知られるとまずい』ということで、エルドレットもスヴェンもその存在は知らないままだ。
とはいえナターシャになんて声をかけて話を聞こうか。そう考えている矢先のことだった。
「こんにちは、猟兵の皆様」
「のじゃー」
セクレト機関の入口で思いも寄らない人物と遭遇する。
マルクス・ウル・トイフェル。アビスリンク家の執事長であり……ファムの村の大騒動の折に『|模倣者《ミメーシス》に気をつけて』という言葉を残した人物。その手に握られているのは紙袋。
のじゃー、と声を上げたのはマルクスの隣にいる少女。名をナギサというそうで、今日はオスカーに会いに来た! と声を上げた。
「オスカーがのぅ、『クリーニングに出した仕事着を忘れた』なんて言うから妾達が持ってきたのじゃ! なっ、マルー!」
「ええ、はい。あとはまあ……皆様にお話しなきゃならないことが増えたなぁと思いましてね」
マルクスが猟兵達に話すこと。それが一体なんなのかは今ここで明かすことは出来ないが、今回の件に関して一番喋るべきことがあるのは自分だろうからと機関にやってきたのだ。
とはいえ、まずはオスカーの服を本人に預けなければならないため、少し待ってて欲しいと言われる。このあとオスカーは別の任務が差し迫っているため、それが終わってから会話の機会を作るとのこと。
ぺこり、と小さくお辞儀をした後に、マルクスとナギサはそのままセクレト機関の調査人用休憩棟へと向かう。ナギサが時々振り返っては猟兵達の様子を見て、手を大きく振ってきたのは可愛らしい。
ひとまず、彼の用事が終わってから話を聞いてみることにしよう。
●懲罰房の2人
一方その頃、懲罰房のエーミールとメルヒオール。
怒りが引いて、冷静になっている様子のエーミールは動かないようにと簡易ベッドの上に横たわり、メルヒオールは床に転がってだばだばと両手両足を上下に動かして駄々をこねていた。
「エミさん腹減ったぁ~~」
「私だってお腹空いてます。喋ると逆にお腹空きますよ」
「おでん~~だいこんたべたい~~~」
「ああもう、そういうところだけはエミーリアと一緒なんですから……」
大きくため息を付いてエーミールはメルヒオールを窘める。懲罰房で騒いだところで、食事が来るわけでもなければ誰か話し相手が来るわけでもないからだ。
ところがそんな2人が暇していると知ったエミーリアが懲罰房まで訪れた。兄であるエーミールと弟であるメルヒオールが懲罰房にいる事自体、彼女にはあまりいい気分ではないようで……。
「リアがお父様に掛け合って、2人をお外に出してもらうですの~~」
「せやせやー、姉さんが頑張れば俺ら出られるやろ~~」
「ああ、もう。どうしてこんなに傍若無人なんだこの2人は……いや兄さんのせいか」
駄々っ子が2人に増えただけだとまたため息を付いたエーミール。
|話し相手《猟兵達》がくるまでこの駄々っ子達と付き合うことになったのは言うまでもなく……。
御影イズミ
閲覧ありがとうございます、御影イズミです。
自作PBW「シークレット・テイル」のシナリオ、第11章。
今回は情報の整理と、新たに出た情報の調査を行います。
初めての参加でも「ここ気になるなぁ」等で調査が可能となってますので気楽にご参加ください。
シークレットテイルHP:https://www.secret-tale.com/
今回はNPC達に話を聞きに行くシナリオとなります。
話せるNPCは以下。1プレイングにつき1人までとなるため、指定したNPCが重複した場合は最初にお受けしたもののみリプレイを返し、その他のプレイングは一旦お返しとなります。
『ナターシャ・アイゼンローゼ』 ※ウィンドウ越しのみ
『エルドレット・アーベントロート』
『エーミール・アーベントロート』&『メルヒオール・ツァーベル』
『マルクス・ウル・トイフェル』
この他にも話を聞いてみたいNPCがいるなら、ぜひともお声がけください。
プレイングに書かれていれば必ず答えてくれますので。
皆様の素敵なプレイング、お待ち致しております。
第1章 日常
『プレイング』
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POW : 肉体や気合で挑戦できる行動
SPD : 速さや技量で挑戦できる行動
WIZ : 魔力や賢さで挑戦できる行動
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●Mission-11
シナリオのクリア条件
特になし(話を聞くだけでOK)
情報調査 フラグメント内容
POW:ド直球に話を聞いてみる
SPD:世間話でもしながら話を聞いてみる
WIZ:ご飯やお菓子でも食べながら話を聞いてみる
●ナターシャの場合
『俺に話、ねえ』
ウィンドウ越しに現れる文字列の最後には「Natacia Eisenrose」の名前が書かれており、本人からの言葉であることが証明された。
とはいえ彼がミメーシスである、という事実は大っぴらに喋ることが出来ないため、なんとか以前のような方法で会話できないかと頼み込んでみる。
時間を止め、会話が可能な相手のみを選出して一時的にナターシャが肉体を受理して喋る手法。使用するにはかなりの労力が必要だとナターシャは言うが、可能な限りやってみるとのこと。
『ただ、前回みたいな緊急事態が起きてるわけじゃないから、エルとかアードラーにはバレるかも』
前回は戦闘専門都市ヴィル・バルが緊急事態に陥っていたため、システム内部でもてんやわんやな状態でこっそり抜け出すことが可能だった。
しかし今回は平穏無事な状態での活動になるので、ナターシャが動き出せば自然とエルドレットやアードラーと言った勘の良い人物には動きがバレてしまう可能性が高いそうだ。
それでも話を聞きたいというのなら、彼らにバレることを承知の上で動き出す必要があるとのこと。バレた場合はナターシャも腹を括って、司令官システムの主たる人物達にすべてを話すそうだ。
『ミメーシスの母たる存在……それが俺やアイツを操ってくる可能性があっても、な』
……ナターシャの覚悟は決まっている。
あとは、どんな情報が出るのか……話を聞いてみるのみだ。
●エルドレットの場合
「あー……スーは近くにいないよね?」
エルドレットに話に聞きに行った時、まず最初に聞かれたのがこの言葉だった。
というのも、エルドレットはスヴェンの記憶に関する秘密を持っているそうで、スヴェン本人には聞かせられない話なのだそうだ。
何故スヴェンが記憶喪失なのか。記憶の中に何が残されているのか。それらを知るためには、エルドレットの許可がなければ理由が公開されることはないとのこと。
スヴェンの記憶が判明することでヴェレット家の闇とも言える過去も公開されてしまうため、許可制となっているのだと。
記憶喪失なのに許可制? と疑問に持つ声もあがるかもしれないが、事情が事情なのでそうするしか出来ないのだという。
「あんまり気持ちの良い話ではないんだけどね。それでも、話さなきゃいけない部分はある」
「必要とあらばいつでも話すから、連絡をしてくれ」
そういうと彼は通常業務に戻るため、司令官室へと戻っていく。
システム内部でもこの件に関してはいろいろと賛否両論が出ているようで、彼は虚空に声をかけながら足早に戻っていく様子を見せていた。
●エーミール&メルヒオールの場合
「アカン、俺も腹減ってきた……」
「あーあ、エミさんが駄々こねるから出れんなった」
「俺のせいか!? 俺のせいちゃうやろ!?」
懲罰房でまたしても会話を続けるエーミールとメルヒオールの2人。喋れば腹が空くというのに喋るのが悪い。
2人は現在重要参考人として懲罰房にいるため、彼らと会話をするには司令官補佐のエミーリアがいなければならない。
もちろん彼女はエーミール達が敵になったのはなにかの間違いだ! と言って聞かないので、同行の許可は簡単に出る。
ただ、1つ問題があった。エーミールはエミーリアがそばにいると少々苦痛の表情を漏らす。メルヒオールと2人きりの時には特に問題なく過ごせていたが、エミーリアが近づくと頭痛が引き起こされるようだ。
「エーミールお兄様、大丈夫ですの?」
「……ええ……まあ。何ヶ月も前から、なので」
「はわ……」
頭痛の原因は不明。少なくともエーミールが猟兵稼業から一旦戻ってきて以降に頭痛が起きていることは判明しており、それ以外のことはまだ何もわかっていない。
この頭痛の原因を調べるか、あるいは彼に話を聞いて逆算してみるか。様々な方法で彼から情報を引き出すことが出来そうだ。
●マルクスの場合
「オスカー様、こちらお届けのものです」
「ありがとぉ! 部屋来てもろたけどこのあとすぐ行かなアカン! ごめんな!」
「オスカーも大変じゃのぅ」
オスカーの部屋に向かったマルクスとナギサの2人。オスカー自身はこのあとすぐに仕事があるということで、2人から届けてもらった衣装を片手にそのまま外へと走っていった。
転ばないでくださいねー、だとか、気をつけるのじゃぞー、だとか。慌てているオスカーに向けて執事らしく心配そうに声をかけた後に彼の姿が見えなくなるまで見守ってあげていた。
それからしばらくするとオスカーもいなくなり、しんと静まり返った廊下だけがお目見えする。
この時間帯はほとんどの|調査人《エージェント》が仕事でいないのだろう、部屋から誰かが出てくる様子はなかった。
「じゃ、帰ろうかナギサ。食堂でご飯食べていこう」
「のじゃー。妾はオムライス食べたいのじゃー」
「ああ、あそこのオムライス好きだもんねぇ。今日は大盛りにしてもらおうね」
そう言ってナギサの手を取り、セクレト機関の食堂へと向かうマルクス。
猟兵達と再会するまでに、マルクスは焼き魚定食(炊き込みご飯付き)を、ナギサは大盛りオムライスを食べていた……。
響納・リズ
うーん、これは悩みますね。ここはひとつ、フェルゼンさんと近しい間柄のスヴェンさんのことを聞いてみるのが良いかもしれません。
【エルドレット】様の話を聞きに行きますね。
あっと、タダでとは言いませんわ。事前に美味しいケーキとステーキ、ハンバーガーセットを用意いたしましたの。好きなものを好きなだけお取りくださいませ。私も持参したクッキーと紅茶を頂きますわね。
少しでもフェルゼン様の事、分かるのと良いのですが……。
今、どちらにいるのか、心配ですわ……。
●Case.1 スヴェンの記憶
「うーん、これは……悩みますね」
響納・リズ(オルテンシアの貴婦人・f13175)は悩んでいた。フェルゼンの無事を願う彼女にとって、どこから攻めて情報を獲得していくか。エルドレット、ナターシャ、エーミール、マルクス。この4人の中なら、誰が一番フェルゼンを助ける方法を知ることが出来るのか。
数ある選択肢の中からどれか1つと言われたら、やはりフェルゼンの父であるスヴェン・ロウ・ヴェレットの記憶の行方について知っているであろうエルドレットに話を聞きに行くのが妥当ではないのかと考えが固まっていった。
「でも、タダで……というわけにはいきませんわね」
重要そうな話を聞けると言っても、手ぶらで行くのは失礼ではないかと考えたリズ。そこでセクレト機関購買部でエルドレットが好きそうな食事を見繕い、包んでもらった。
ちなみに購買部のおばちゃん曰く『エルドレット司令官は何でも食べる』そうで、あれもこれもとおばちゃんは袋に詰め込んでくれていた。
司令官室……ではなく、エルドレット・アーベントロートの私室。
今回は話の内容が内容なため、司令官システムの干渉を受けてしまう司令官室では話すことが出来ず、干渉が断絶され休憩が出来るスペースで話をすることになった。
「ちょっと狭いけど、悪い、我慢してね」
「いえ、構いません。こちらこそ急に押しかけてしまって申し訳有りません」
エルドレットの部屋は休憩用の個室なのでそれほど広くはない。せいぜい人が横になれるベッドが1つと机が1つあるだけで、それ以外は特に用意されていないのだ。
リズは持ち込んだケーキとステーキ、ハンバーガーセットなど購買部で用意してもらった品々を机において、好きなものを好きなだけお取りください、と声を掛けてリズ自身は持参したクッキーと紅茶で会話を繋ぐことに。
「……で、スーの話だよな?」
「はい。フェルゼン様のことを知るには、一番早いかと思いまして……」
「間違ってないな。……とは言え……」
スヴェンの記憶については場合によってはリズ自身の心にもダメージを受ける内容の可能性が高い。それでも聞く? とエルドレットが尋ねれば、リズは毅然とした態度で『はい』と答えた。話を聞かなければ、フェルゼンを助けるための道筋を知ることが出来ないかもしれなかったから。
「スヴェン様には悪い、とは思うのですが……」
「まー俺も悪いとは思ってるけど、ゼンのためだもんな。ってことで、どこから話そうかな……」
あれこれと考えて、数分。エルドレットはスヴェンの記憶の中でも最も今回の件に関わりのある部分――ミメーシスと呼ばれる存在と接触した時期前後を語り始めた。
スヴェン・ロウ・ヴェレット。
ヴィル・アルミュールでは宇宙学専門で教鞭をとっており、また自身の子供達に対する学術への熱意が凄まじく子供達への躾という形で手を出すことが多かった。いわゆる虐待を行っていたのだ。
フェルゼン、キーゼル、マリアネラ。この3人が自分と同じく、否、自分よりも上位の研究者としてセクレト機関で仕事が出来るようにと、昼夜問わずの勉学を行わせていた。
だがそれは薬物による中毒症状により、精神的安定が取れなかったことが原因だったと後に明かされている。この頃にはスヴェン自身は気管支系疾患を持っており、それを緩和するための薬を飲んでいたが……。
「奥さんのザビーネが持ってきた薬物がいわゆる危険薬物ってやつでな。精神安定が出来ない状態で子供達の世話してたわけ」
「まあ……ではミメーシスとの交信は……?」
「その時はまだ薬物症状は出てなかったはずだが、どうだろうな。俺が実際に過去を見てきたが、判定が怪しいんだよな……」
「? 見れないのでは……?」
「んや、それはアイツに見に行かないようにするための方便。実際は見れるんだ、記憶がなくても」
《|過去視《クロノスサイト》》という力には記憶の有無は関係ない、というのが実際の力の中身だ。しかしスヴェンが見に行けば彼が行動不能になる可能性も高いため、司令官システムの処理演算能力が1つ減ることを考えると見せないほうがいいという結論に至ったそうだ。
「それで、内容は……」
「教えてもらった日記の内容と実際に見てきた過去には特に違いはなかったな。が、スーにはわからなくて俺はわかる情報が1つあったんだ」
ここで休憩、と言わんばかりにハンバーガーを食べ始めたエルドレット。機械の身体に消化ができるのか? という疑問が上がるかもしれないが、そこは置いといて。
スヴェンにはわからなくて、エルドレットには分かる情報。それがなんなのか、クッキーと紅茶を交互に口に運びながら考えるリズ。色々と考えたが、エルドレットが知りえている情報と言ったらこれしかないのでは? と口にした。
「……もしかしてエルドレット様は、ミメーシスのことをご存知なのでは?」
リズの問いかけに対し、エルドレットは……小さく首を縦に振る。そこに一切の否定の様子は見せることはなかった。
●Case.2 誰が消した?
「っつっても、俺は残党だけ知ってるって状態なんだがね」
そう言って紅茶を飲んで一息ついたエルドレット。エルドレットが幼い頃には既にミメーシスの大元は撤退しており、大元から派遣された『ペディ・ミメーシス』のみが残っている状態だったという。
フェルゼンの身体を奪っているミメーシスはおそらくこの派遣された方のミメーシスであり、エルグランデという世界の情報を大元――『ミテラ・ミメーシス』に送り続けている状態だとエルドレットは目星をつけたそうだ。
「では、フェルゼン様の日記に書かれていた流れは……」
「星を見ていたところで派遣されたミメーシスが右目に入り込んだ……というのが正しい流れかもな。右目がああなっているのも、ミメーシスが入っているという示唆なんだろうよ」
「ということはスヴェン様はフェルゼン様の様子を確認して、発狂して……」
「それから薬の影響で精神が安定しなくなってあんな日記の書き方になった、か」
スヴェンの無くなった記憶から紐解かれた事情。ミメーシスはエルグランデには2度目の侵略ということだが、この情報についてはエルドレットから得られるものは少ない。彼にわかるのは『今から200年前に侵略戦争が起こった』『ミメーシス側の侵略速度は恐ろしいほど早い』『だけど初回は|何故か《・・・》撤退した』という情報だけとなる。
「それなら、スヴェン様の記憶はどなたが消したのでしょうか?」
リズが次に気になったのは、スヴェンの記憶を消したのは一体誰なのか、という話だ。
エルドレットが消したにしては過去を見に行くまでに時間があいているし、かといってスヴェン自身の防衛本能ならエルドレットがこうして自室にリズを招くなんて真似はしないだろう。
であれば、彼の記憶を消した人物が別途必ずいるはず。そう考えたリズはエルドレットに問いかけたが、どうしたもんかと悩む様子の表情がエルドレットに浮かんでいた。
「どうされました?」
「ああ、いや。|彼女《・・》の存在を公にするかどうかで今ナタに連絡入れてさ。かなり渋めの反応もらっちった」
「彼女……もしかして」
リズはここまでの流れを見て、もしかして、と閃いた。
スヴェンの精神状態を知っており、かつ記憶が残っていては彼の精神状態がどん底に落ちることを知っている人物。生きている息子のフェルゼンとキーゼルでは不可能であり、娘のマリアネラは後からシステムに入ったのならば、残るは伴侶である人物。
「その通り。ザビーネ・アンヘル・アイゼンローゼ……」
その名を告げようとした瞬間、エルドレットとリズの間に割って入るように薄青のウィンドウが開かれ、文章が書き込まれた。
――ちょっと、その名前はダメって言ったでしょ。
――ザビーネ・シェン・ヴェレット。私の今の名前は、そっち!
――Sabine sien Velet.
「たはは、ごめんなザビィ。呪いは解けたんだよな」
軽く笑って、ウィンドウの主――ザビーネに謝罪の言葉を入れたエルドレット。昔の名前は名乗りたくないというのがザビーネの気持ちらしく、以降彼はザビーネの名はきちんとした正式な名前で呼ぶことに。
「ザビーネ様。はじめまして、私は……」
『大丈夫、お話は聞いているわ』
挨拶もそこそこに、ザビーネが加わって3人でスヴェンの記憶についての情報を確認する。エルドレット、ザビーネの2人の認識に間違いがないかを確認し、リズは疑問に思ったことを繰り返し問いかけていく。
スヴェンの記憶を失わせた方法はザビーネの持つコントラ・ソール《|忘却《オルビド》》によるもので、ザビーネが願えばその記憶はそっくりそのままスヴェンに戻す事ができる。
が、彼に戻さないのはザビーネが『全ての元凶が|自分《スヴェン》だと知ってしまったら、スヴェンが発狂してしまう』と判断してのもの。もともとザビーネが表に出てこなかったのも、彼の記憶を封じたという自責の念とフェルゼン達への虐待を引き起こしたのが自分であることから檻の中に閉じこもっていたのだそうだ。
『だから、ね。私が表に出ることでキーゼルやマリィが怖がるかもしれないし、スヴェンが真実を知るかもしれないしで、エルドレットやナターシャを困らせちゃうかもしれないの』
「なるほど……フェルゼン様も場合によっては……」
『うん。ミメーシスがいても、怖がっちゃうかもしれないわね』
そう告げた時のザビーネは文字だけの言葉だったが、少し寂しそうにする様子が見えた。虐待を引き起こすことになった原因は間違いなくザビーネにあるため、怖がられるのは仕方ないのだが。
だが、それでも。リズはなんとかしたいと考える。この世界のためにも、そして……。
「……フェルゼン様のためにも、解明しないと」
今、何処にいるのかわからない彼のことを想う。
フェルゼン・ガグ・ヴェレット。既に肉体的にも危険な状態にある、彼のことを……。
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・スヴェンの記憶の一部が公開されます。
→フェルゼン、キーゼル、マリアネラへの虐待歴あり。
→ただし、上記の虐待は『危険薬物』によるもの。
→これにより精神的にも安定していなかった。
→ミメーシスとの通信時はどうだったかは不明。
・スヴェンの記憶を失わせた人物が判明しました。
→司令官システムメンバー「ザビーネ・シェン・ヴェレット」が公開されます。
→会話時、別途彼女から話を聞くことが出来ます。(※情報が出ないときもあります)
・200年前にもミメーシスが侵略しに来ていたことが判明しました。
→侵略速度が恐ろしく早かったが、『何故か撤退した』とのこと。
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大成功
🔵🔵🔵
黒木・摩那
メルヒオール&エーミールとは戦い合った仲ですから、エーミールからお話を聞きます。
以前にも会ってお話もしてますからね。
まずは牢の前で差し入れを食べて、口を滑らかにしましょう。
何事もギブ&テイクです。
お腹が空いてる隣で食べるご飯は、視線が痛いですけどね。
頭痛の原因はスマートグラスで診察してみます。
頭の中に変なのが付いてないといいのですが。
世界の敵については前に聞いてますから、別れてから何してましたか? 何をするつもりだったんですか? ということを尋ねます。
エミーリアさんにはお話の間は静かにしてもらいましょう。
話がややこしくなりますしね。
●Case.3 頭痛の原因
「エミさーん、腹減ったぁ~」
「俺も腹減っとる~」
セクレト機関の懲罰房。大罪を犯した者のみが入ることになっているが、現在はエーミールとメルヒオールのみが入っているようだ。2人の腹減ったの声がガンガン響いている。
「エーミールお兄様、めるめる、面会のお時間ですの~」
そんな中、エミーリアが2人への客人――黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)を連れてきた。彼女の手には差し入れと思われるジャンクフードの数々があるが、それを彼らに差し出すようなことはしない。
なんと摩那はそのままジャンクフードの袋を開けると、エミーリアと2人で牢の前で食べ始めた。換気のために回っている天井のファンが今だけは憎らしい。
「何事もギブ&テイクですからね。食べたかったら、いろいろと答えてもらいましょう」
「うぐぐぐっ……あのっ、ポテト、ポテト1本だけでも!」
「駄目です。喋るのが先です」
「うぐぐぐぐぐ」
情報を提供しなければ食べれないという、腹減り状態には何とも苦痛な状況。お腹が空いて集中できない! と叫ぶエーミールとメルヒオールと、食べたければ情報ください状態の摩那。拮抗状態だったが、エミーリアがご飯を渡そうとして寸前で食べるという極悪卑劣な手法を取り始めたので、エーミールは渋々と語り始めた。
「では、まず質問ですが……何をするつもりだったんですか? 別れてから」
「……何を、と言われると……そうですね。エルドレットを停止させて、殺すつもりでした」
きっぱりと、エーミールは何をしようとしていたのかをはっきり告げた。己が怒りを抱えている相手であるエルドレット・アーベントロートの息の根を止めること、それが最終的な目的だったと。
ただ、それにしては彼がエミーリアに近づくと頭痛を引き起こす理由に説明がつかない。確かにエルドレットとエミーリアは育ての親とその娘という関係はあるが、何故そこにエーミールが入るだけで頭痛が引き起こるのか、と。
これには何らかの外的要因が発生している可能性が高い。そこで摩那はジャンクフードをそこそこに食べ終えて、スマートグラス『ガリレオ』を使いエーミールを診察してみることに。
「ふむ……少し診察しても?」
「どうぞ、誰もまだ見ていませんし。喋ったんで食べていいですか?」
「まだダメです」
「むぐぅ……」
しょぼくれるエーミール。ドヤ顔のエミーリア。頑張って手を伸ばすメルヒオール。そんな3人を尻目に、摩那はスマートグラスを通して見たエーミールの身体にある異質な情報が存在することに気がついた。
外見上はエーミールに同化しているソール物質。しかしその実態は何かの刻印のようにもなっており、細かく紐解いていくとそれはソール物質によって形成された『痛みの呪詛』のようなものであることが判明する。
詳しく検査してもらえればその正体がわかるだろうが、現状エーミールを檻から出すことは出来ないためこの場でその力の正体を探る必要があった。
「呪詛をつけることが出来るコントラ・ソールってありますか?」
「うーん……俺はあんまり詳しくないんよなぁ。エミさん知っとる?」
「《|呪術師《マーディサオン》》辺りが怪しいかなと。アレは最初に発現したスヴェンさんだけでなく、その息子であるフェルゼンも持っていますから」
「ふむ……数ヶ月前から頭痛があった、ということは……数ヶ月前に接触した時にはもう呪詛を付け終えていた可能性が高いですね」
あれこれと呪詛の調査を進めていくが、この時点では呪詛を剥がす方法は無く《|呪術師《マーディサオン》》の使用者に剥がしてもらうか、別のコントラ・ソールを使用して呪詛を消してもらうしか方法はないようだ。
ただ、この呪詛はエーミールの頭に直接付与されているものであり、彼の記憶にも直結している代物。下手に引き剥がせば記憶障害を起こす可能性が高く、場合によってはそのままにしておいたほうが良さそうとも言われた。
「場所によりますが、脳の一部にソール物質が溜まっているということは、私の記憶を保持しているのもソール物質という可能性もありますからね……」
「その辺りは金宮さんや他の方との相談の上、ですね」
現状手出しの出来ないエーミールの頭の中に残されている呪詛。
これをどうするかは、また後日燦斗やエルドレットと相談の上で処遇を決めることとなった。
●Case.4 恨む理由
「それで、エルドレットさんを殺そうとした理由ってなんなんですか?」
「え」
呪詛の話をそこそこに、摩那は核心を突いた。先ほど聞いた『エルドレットを殺すつもりだった』というのは、この呪詛以外にもまた別の要因があると見て間違いないと摩那は気付いたらしい。
らしい、というのは呪詛が『エーミールの憎悪を増幅させるもの』であることも判明したからで、もともと持っている憎悪の感情がなければそもそも発動しない代物なのだ。
ならばもう、本人に直接聞いてみるしかない。ということで上記の質問となる。
エーミールはため息を付いて答えてくれた。『兄さんを捨てたのが理由』だと。幼い頃に燦斗を捨てて、また父親としてふんぞり返っているのが理由だと。
以前から何度も同じことを言っているために新しい情報ではないのだが、会話を続けていく中でエーミールはあることを思い出した。
「……もしかしたら、エミーリアに近づくと頭痛がするのは……エルドレットが兄さんの研究を勝手に使って作り出したコピーチルドレンだからかもしれませんね」
エルドレットに結びついてしまっているから、エミーリアも憎悪の対象となって頭の中の呪詛が働いてしまっている可能性があると、エーミールは結論づける。
だがその前に、コピーチルドレンという存在が改めて出てきたため、情報の整理が必要になってしまった。そこで摩那は1つずつ紐解くため、エーミールとメルヒオールに少しずつ質問をしていくことに。
「コピーチルドレンというのは……」
「兄さんが持つ《|無尽蔵の生命《アンフィニ》》というコントラ・ソールを移植するための研究によって生まれた子達です」
「エミさんは完璧な成功例やけど、俺らは一部失敗で諸症状が出るんよな。俺は戦闘衝動持ち、姐さんは12時間毎の頭痛持ちやったっけな。エレン達も厄介なの持っとったはず」
コピーチルドレン研究は燦斗の《|無尽蔵の生命《アンフィニ》》を移植する方法を探る研究であり、エーミール、エミーリア、メルヒオールは生まれたときからその研究のために身体を使っている。
だがエミーリアだけは燦斗直下での研究ではなく、エルドレットが独断で研究を流用して作り出したコピーチルドレン。そのため彼女だけは家族というには輪から外れている部分がある、とエーミールは付け加えた。
「では、呪詛が働いているのはエミーリアさんがエルドレットさんが作ったから?」
「おそらくは。……確かに私は彼女を認めてませんでしたし、兄と呼ばれるのもあまり好きではありませんが……憎悪を発生させるにはあまりにも小さすぎる理由だとは思います」
エミーリアが嫌いなのは確かだが、それは本人の気質やエーミールが認めていないのが関係しているものであってエルドレットは一切関係ない。関係があるとすればやはりエミーリアの生誕理由にエルドレットが関わってくるという非常に小さな理由なため、呪詛が発動するには足りない。
しかし摩那は今のエーミールの話を聞いて逆転の発想へと辿り着いた。|小さいのなら大きくすればよい《・・・・・・・・・・・・・・》という、気づきそうで気づかない発想へ。
「小さかった憎悪を大きくした結果、エルドレットさんを機能不全に陥れようとした。それをやって得をするのは……」
「……フェルゼン……?」
はっと、エーミールは唐突にぶつぶつと何かを呟く。自分が頭痛を起こし始めた時期がいつだったか、その頃にフェルゼンと何をしていたかを思い出したようだ。
ただ、呪詛の影響が強くなっているのか記憶に障害が出始めている。そのため彼はエミーリアに許可を取り、ペンと紙を貰って時系列を書き出しながら情報を共有してくれた。
|侵略者《インベーダー》・モルセーゴによるセクレト機関への強襲事件。
その後にフェルゼンとエーミールによって外にもゲートが出来ていないかを確認する作業を入れている。
その瞬間ならば、エーミールは無防備のままにフェルゼンの《|呪術師《マーディサオン》》による呪詛を受け取るタイミングがあったのだと。
「ところでまだ|それ《ジャンクフード》食べちゃだめですか?」
「まだです」
「ちぇ……」
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・エーミールの頭の中にソール物質で出来た『呪詛』が埋め込まれていることが判明しました。
→この呪詛は『エーミール本人の憎悪を増幅させるもの』となっており、彼の記憶を保持している可能性が高いです。
→またエミーリアに近づくと頭痛が起こる原因となっています。
→現状は《|呪術師《マーディサオン》》の使用者が外すか、別のコントラ・ソールで外せる状態です。
・エミーリアが『エルドレットが独断で作り出したコピーチルドレン』だと判明しました。
→このことによりエーミールの呪詛が強く反応しています。
・呪詛を埋め込んだタイミングが『モルセーゴ強襲事件の直後』だと判明しました。
→公式サイトの《過去話》→第一部→4.謎多き事例→『consideration』がそのやり取りとなります。
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大成功
🔵🔵🔵
秋月・那原
尚人少年(f01298)と同行する
※アドリブ、他の猟兵との絡み大歓迎
POW
アルムは未だに記憶が戻ってないんだっけ?
で、スヴェンのおっさんも記憶喪失…
さらに侵略者《インベーダー》に『リベリオン・エネミー』に『ミメーシス』とその『母なる存在』
…情報多過ぎね?
しかも全部『点』な情報であって『線』で結べてねぇし…
…ん。考えるのめんどいから食堂行って【マルクス&ナギサ組】に…
「なんでもおごってやるから知ってること全部はけぇっ!」
(で、注文した料理を見せびらかし、匂いだけ嗅がせて)
「食いてぇか? この旨そうな料理を食いてぇよなぁ~! 食いたくば情報をすべからく吐くがよい♪」
…って感じに恐喝(?)しよう
日野・尚人
秋月(f30132)と参加
秋月が体調崩してたせいでエルグランデに来るのも久し振りだよなぁ。
(不在の間の出来事を纏めた資料に目を通しつつ)
んー、確かに情報が取っ散らかってるから現段階で彼是考えても憶測にしかならないか。
それじゃ俺たちは接触が容易なマルクスから話を・・・って、秋月ぃ!?
秋月のぶっ飛んだ行動を<コミュ力>と|<急所突き>《秋月へのツッコミ》でフォローしつつ話を聞くぜ;
例のメモの件、増えたっていう話さなきゃいけない事、後は世間話もするかな?
そこから何かに気付く事も・・・あ、難しい話にナギサが飽きないよう構ってやるか♪
(|義妹兼恋人《シェイ》で年下の女の子の扱いは得意)
●Case.5 世界の敵 マルクス・ウル・トイフェル
「秋月が体調崩してたせいでエルグランデに来るのも久しぶりだよなぁ」
「そうだな。なんか色々と起こったらしいじゃないか」
久々にエルグランデへと訪れた日野・尚人(あーちゃんの早朝襲撃に断固抵抗する会終身(?)会長・f01298)と秋月・那原(Big Cannon Freak・f30132)の2人。いなかった間に手に入った情報を片手に、2人で情報整理を行っていた。
「アルムは未だに記憶が戻ってないんだっけ?」
「戻ってないみたいだな」
「で、スヴェンのおっさんも記憶喪失……さらに|侵略者《インベーダー》にリベリオン・エネミーにミメーシスとその母なる存在……多すぎね??」
「確かにとっ散らかってるから、現段階であれこれ考えても憶測にしかならないか」
集まっている情報を2人で考えてみたところで、点と点を繋げる線が作ることが出来ない。何処から何処に繋げばいいのか、誰の情報とどの情報を繋げればいいのかが全く見えてこないのだ。
「どうする? 少年」
「こうなったら、一番接触が簡単そうなマルクスに話を聞いてみよう。食堂にいるんだよな、確か」
「食堂か。よーし」
セクレト機関の食堂で休んでいるというマルクスの話を聞いて、何やら企む様子の那原。急いで食堂へと向かった後、彼はマルクスとナギサの席に近づいて……。
「ようマルクス。なんでも奢ってやるから知っていることを全部はけぇ!!」
「ええーー!?」
「のじゃーー!?」
なんと唐突に2人に対して取引を持ちかけた那原。あまりに唐突すぎる出来事にマルクスとナギサは驚きの声しか上げられず、そんな2人を尻目に那原はどんどん厨房に注文を入れて食事を見せびらかす。いわゆる『これを食べたければ情報落とせ』というアレだ。
とはいえ2人は既に食事を終えていたので追加の食事は必要ない……のだが、ナギサが食べたそうに目をキラキラ光らせていたため、マルクスは彼女のためにも条件を飲むことにしたようだ。
「……それで、何を語ればいいんでしょう? 僕がミメーシスの1人であること? それとも200年前に僕がこの世界に来たこと? それともアルム様の記憶が何処にあるかについて? それとも……」
「待て待て待て、色々出しすぎ。ってか今なんて??」
「マルクスが……ミメーシスの1人?? もしかして以前出したメモに関係あるのか?」
唐突に出てきた新しい情報。『マルクス・ウル・トイフェルはミメーシスである』という、誰も予想がつけられない情報があっさりと出てきた。マルクスはそのことに訂正を入れることはなく、YESの答えを返してお茶を一口飲み喉を潤す。
何がどうなってんのかよくわからん、と言った様子の那原。どうにかこれまでの情報と繋げようとする尚人。どちらも悩む様子を見せていたため、マルクスが1からすべてを話してくれた。
マルクス・ウル・トイフェル・ザイゼ・ユーバーシャールという名前は、彼がこの世界に降り立ったあとに付けられた名前。彼自身には本当の名前は無く『ペディ・ミメーシス』と呼ばれる存在であり、ミメーシスの中でも斥候部隊として派遣される存在なのだという。
彼がこのエルグランデにやってきたのは丁度今から200年前のこと。当時は侵略者として大地に降り立ち情報を収集して母なる存在に情報を与えていた立場だったそうだ。
「ん? でもそれがなんで、こうやってここにいる?」
「色々ありましてね。まあ、1番は『|何故か《・・・》撤退した』ところを置いていかれたというのが大きいでしょうか」
「侵略は順調で、めちゃくちゃ早かった……んだっけ?」
「はい。それはもう、凄い勢いで侵略しました。だけど|母《ミテラ》は撤退の指令を出し、大半のミメーシスはエルグランデから撤退しました」
「なんで撤退したんだろうな……?」
先ほどの情報で1番の疑問となるのは、何故ミメーシスが順調だった侵略を止めてまで撤退したのか。200年前に何かが起こったからこそ侵略を止めたと考えるのが1番だが、マルクス曰く『何もなかった』そうだ。
何も無いなんてことはないだろう、と那原と尚人がツッコミをいれるも、マルクスは神妙な面持ちのままに『何もなかった』としか言えないと繰り返す。200年前の記憶が薄れている可能性はないのかと問いかけても、彼は記憶の保持をある特別な方法で行っているため薄れることはなく、やはり何度も『何もなかった』というしかないのだ。
「だとしたら、なんで撤退したんだろうな? そのまま続けてれば完全に侵略が出来たのに」
「そうですね……これは僕の憶測ではあるんですが」
憶測である、と強調したうえで、マルクスは1つ持論を展開した。ミテラ・ミメーシスが侵略を行わなかった理由の1つとして『欲しかったものが時間を置いたら出来上がると判断した』が上げられるのではないか、と。
当時はセクレト機関という組織はあったが、司令官システムの確立からさほど時間が経っておらず、現代のようなスムーズなやり取りも不可能な状態。|調査人《エージェント》という存在もなければ司令官システムがやりたい放題という無法地帯な存在だったため、ミテラ・ミメーシスも見限った可能性が高い。
だが現代になって、再びエルグランデに目をつけたミテラ・ミメーシス。いくつもの斥候を送りつけては地上の情報を探り、ようやく目的のものを見つけたのかもしれない。
「目的のものって……」
「《ゲート》作成方法、特定のコントラ・ソール、エルグランデにしかない技術……この辺りだと思われますが、僕ではなんとも」
「うーん、また新しい謎が増えたなあ」
追加注文した食事を食べながらも、新たな謎に頭を悩ませる那原と尚人。そのうちマルクスがお腹すいたというので、2皿目の食事へと突入した。
●Case.6 ミメーシスの生態
ここで、ナギサへと目を向けた尚人。難しい話ばかりで飽きてないかな? とちょっと気になったようで、隣に座ってかまってあげることに。
「と、ナギサ。暇してないか?」
「大丈夫なのじゃー。妾もミメーシス、この話はきちんと聞いておくべきなのじゃ」
「えっ、ナギサもミメーシス!? って、そういえば……」
ふと思い出すのは、アルムを探してヴィル・アルミュールへと訪れた時。当時はアビスリンク家にいたのはマルクスだけで、ナギサの姿は何処にも見当たらなかった。隠れているのかと思っていたが、そうではないらしい。
ミメーシスという存在は|母《ミテラ》から生まれ細胞分裂のように存在を増やし、異常が見つかった時にはその個体を|母《ミテラ》が強制的に操る力を持つ。
そのためマルクスは猟兵達がミメーシスの存在を認知した時点で、非常事態――自分が|母《ミテラ》に操られた時に備えて|母《ミテラ》の介入が出来ないミメーシス・ナギサを作り出していたのだ。
「だから、まあ。僕が操られた時には、僕の記憶が全て彼女に流れるように手筈を整えています」
「なんかあったら妾がお手伝いする係なのじゃー」
「へー、ちっこいのにやるじゃん」
那原がナギサを褒めると、えっへん、と胸を張ったナギサ。誕生したばかりで間もないが、自分にも出来ることがある、というのが誇らしいようだ。
ここで尚人はナギサの顔とマルクスの顔が若干似ている事に気づいた。泣きぼくろの位置がそっくりそのまま、トレースしたかのように同じ位置に存在しており、まるで『生きた写し身』とも呼べる状態になっている。
これはどういうことなんだ? とマルクスに問いかけると、|彼《・》は少し悩んだ様子を見せた後に事実を告げてくれた。
「ナギサは僕の身体の一部を使って肉体を作ってます。ですので、ええと……」
もごもごと、言いたいけれど言えないという様子のマルクス。ここで那原がマルクスとナギサを交互に見やって、2人の違いについて指摘を入れた。
「……あれ?? 性別……」
マルクスは男で、ナギサは女。身体を作るにしては……性別の差をどうやって乗り越えた? と。
ナギサがミメーシスなのはわかった。彼女がマルクスの身体の一部を使って作られたのはわかった。だがそれで性別が切り替わるのは少しおかしくないか? と。
それに対してマルクスは観念したかのような表情で『もともとの肉体は女性のものだった』と告げる。ミメーシス体だった頃の200年前に、ある人物から身体を貰い受けたのだと。
「誰から貰ったんだよ」
「フェルディナンド・ウル・アビスリンク様の奥方様のものです。それを、その……僕のミメーシス体の時の力を使ってこう、性別周りをねりねりと」
「ねりねり」
「ねりねりしたにしては長持ちしてるな??」
「それもミメーシスの特性のひとつなんですよ。寄生した相手が死んだら、永久保存が出来ちゃいます」
「こわ」
マルクスがこうして200年もの間同じ身体で生き続けているのも、ミメーシスが『種の保存』という形で肉体を永遠に維持する手法を持っているため。|母《ミテラ》が死なない限りはマルクスも死ぬことはなく、永久に同じ身体で生活が出来るのだそうだ。
ミメーシスという存在は『種の保存』を目的に星を渡り、永住できずに滅ぼし、次の星へと向かう。完全永住ができる星を見つけるまではマルクスが今こうして肉体を保存しているのと同じように、|母《ミテラ》の身体を保存しながら星を渡り歩くのだと。
「遊びに来たのに気に食わないからって家を壊すようなもんじゃん」
「そうですね。……何故か、この世界は壊さなかったみたいですが……」
「200年前について知ってる人って、他にいないのか?」
ターニングポイントとなりそうな点は、やはり200年前になにかがあったと推察する尚人。
司令官システムにいる誰かなら200年前のことについて知っているんじゃないか? と考えたようで、マルクスは思い当たる人物を頭に浮かべていく。
司令官システムの中で猟兵と出会った人物は……エルドレット、スヴェン、マリアネラ、アレンハインツ、エスクロ、アードラー、ザビーネ、そして……。
「……あ。ナターシャ様なら、もしかしたら何か知っているかも?」
ナターシャ・アイゼンローゼ。自身もミメーシスの1人だと告げてきた、司令官システムの内に眠る1人。彼は今挙げたメンバーの中でも最古の司令官システムメンバーなので、当時何が起こったのかを知っている可能性があるそうだ。
ただ、ナターシャがいつに生まれたのか、何処から何処までを知っているかはマルクス自身も想定がついていない。200年前と言ってもざっくり計算な部分もあるし、そもそもナターシャがミメーシスである理由についてもマルクス自身はよく知らないのだ。
「向こうから教えてくれねぇかなぁ……」
「あるいはこっちから直接行く、って感じかな。今日は……もう無理かな」
尚人が時計に目を向けると、既に夕暮れ。ナターシャは眠っているかもしれないし、ということで今回はマルクスからの情報だけに留めることになった。
「オレンジジュースおかわりなのじゃ!」
「すげーいっぱい飲むな、この子。ここもマルクスの受け継ぎ?」
「いや、僕はここまで飲まないです……」
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・マルクスの正体が判明しました。
→200年前に訪れたミメーシスであることが公開されます。
→その肉体は『フェルディナンド・ウル・アビスリンクの妻のものを編集した』そうです。
・ナギサの正体が判明しました。
→マルクスの身体の一部を使って作られたミメーシスとなります。
→彼女は唯一、ミテラ・ミメーシスの介入を受けません。
・ミメーシスの生態について一部判明しました。
→『ミテラ・ミメーシス』が本体であり、『ペディ・ミメーシス』は斥候部隊のようなものです。
→『種の保存』が行える種族であり、肉体や記憶など様々なものを保存出来るようです。
→マルクスの肉体はこの保存を利用して200年同じ姿で保たれているとのこと。
→それでもなお、200年前に何故撤退したのかは不明なままです。
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『忘却・喪失・謎だらけ』 complete!
Next Stage →
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●Case.EX ミメーシス・アールツト
「だぁれも来なかった~」
誰もいない暗がりの中でからからと笑うナターシャ。脳だけしかない彼は現在、言語機能は別の方法を用いているようだ。
語る相手はナターシャと共存しているミメーシス。彼の名は『アールツト』と呼ばれており、医者の名を冠する者。何故その名をつけられたのかは、今は定かではない。
『s@4d94 q@ed@ufud w@gutZq,』
「そうだなぁ。マルクスのことが判明したし、お前のこともちゃんと話しておきたかったんだが……」
『e\yu6fud z/qo 0tyuhu.my,』
「だな。一旦は|ここを見ている奴ら《・・・・・・・・・》に任せよう。俺は……」
そこまでナターシャが告げた時、彼の意識の深層へと到達した者が声をかけてくる。
「やあ、ナターシャ」
アステリ・ラス・ヴェレット。つい最近目覚めたばかりの男が接続してきた。
彼はコントラ・ソール《|解答者《アンサー》》によって、答えを導き出したようだ。
「……やっぱり、そうなるか」
どこか観念した様子のナターシャ。アステリの声を聞いて、|その時が来た《・・・・・・》と判断したようだ。
彼らの間に取り交わされるやり取りは、ここでは語られず。
何処か別の、隠された場所にて行われる――。
大成功
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