スノーフレーク・ドリームは降り積もる記憶
●アルダワ魔法学園
冬の恒例行事の一つにクリスマスマーケットがある。
今年も学園の広場を丸ごと使って、多くの学生や関係者たちによる有志のバザーが行われている。
その様子を見ながら、コルネ・ナッツ(チョコ・f08366)は束ねた髪を頭の後ろで軽く跳ねさせるように歩んでいた。
賑やかなものだと思っただろう。
過去の記憶はないが、彼女の猟兵としての記憶は毎年確実に重ねられてきている。
「何か掘り出し物は、あるのじゃろうか」
古めかしい言葉遣いである。
コルネはマーケットとなった広場の出店の一つ一つを興味深げに覗き込んでいく。
このアルダワ魔法学園は、蒸気と魔法が発達した世界だ。
それ故に蒸気機械と魔法を合わせたガジェットの発展がめざましい。
となれば、このマーケットでは他の世界では見られない珍しい物品があるかもしれないと期待してしまうのは無理なからぬことであった。
「おや、これは?」
「ああ、ヒガンバナっていう花を機械細工で作ったものだよ」
「なるほどの。茎の中に歯車が仕込んでおるようじゃな。ゼンマイを回すと……ほう」
出店の一つに刺してあった機械仕掛けの花をコルネは手にとった。
花開くようにパーツが展開していくのだ。
花が咲くのを機械仕掛けにした、謂わば工芸品なのだろう。
「クリスマスらしいか、と言われたら、ちょっと首を傾げるところじゃがの」
店主は手厳しいな、と笑う。
「ならさ、クリスマスらしいと言えば、お嬢さんこういうのはどうだい?」
差し出されていたのは、水晶球だった。
透明な水晶球の中で雪が舞っている。
キラキラとフレーク状になっているのは、氷の破片だろうか。
中々に綺麗だ。
「魔力を込めると水晶球の中の水分が凍結してフレークになって雪に見える、と。わしを驚かすには……」
足りない、と言いかけてコルネは水晶球の中を見て驚くだろう。
雪舞う水晶球の中を真っ赤な服を着た老人……サンタがステップを踏んで踊っているのだ。
これも機械仕掛けか。
「中々いいではないか」
「でしょ、今なら……」
提示された金額は、ちょっとお高いものであったがコルネは薦められたものを断り難い性格だった。
「まあよいか」
手にした水晶球を眺めながら、コルネはクリスマスマーケットをさらにぶらつく。
それは他愛ない日常の延長線上だったけれど、今年もまた新たな記憶となって彼女に刻まれていくのだった――。
成功
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