7
終わらないお正月

#サイキックハーツ #ソウルボード

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サイキックハーツ
🔒
#ソウルボード


0




●終わらないお正月
 新しい年に幸あれかしと夢を結ぶ。
 吉夢を見たいのに凶夢を見てしまうことがあるのは、人の心がそれだけ複雑だからか。
 心の隙間に闇は宿る。ほんの僅かな間隙に、闇はつけ入る。
「お節料理もお餅もきらいじゃないけど……もう食べ切れないよ……」
 宴会場のような広い和室で、いま着物姿のひとりの少女が、座卓の上に並べられた正月料理と格闘していた。
 お節料理、焼き餅、雑煮、汁粉……などなど。
 いったい何十人分なのだろう。
 それらすべてを平らげないと夢から出られないとなれば、それはまさしく悪夢であろう。

●イントロダクション
「新年あけましておめでとう。早速だけど、サイキックハーツの世界で貴方たちに解決してほしい事件があるの」
 グリモアベースで待っていた橘・レティシアは開口一番に年始の挨拶を告げると、猟兵たちにそう切り出した。
 語られる予知は、悪夢に関するもの。だが、今回事件を起こすのは、羅刹だ。
「「箕輪御前」鈴山・虎子。聞いたことがある人もいるかも知れないわね。あの羅刹が、或るエスパーの女の子を苛んでいるの。それも面白半分に」

 被害に遭っている少女は名を|渡会・睦月《わたらい・むつき》というらしい。ごく一般的なエスパーだ。
 彼女が見ている夢の中は、宴会場さながらの広い和室になっている。
 そこに座卓が幾つも設えられていて、その上に、色々なお正月料理が並べられているらしい。

「料理を食べ切らないと目覚めることが出来ない……睦月さんはそんな風に苛まれているみたい。だから、助けてあげて。具体的には……食べるのを手伝ってあげてほしいの」

 お餅もお雑煮もお節料理も食べ放題である。玉露も抹茶も飲み放題だ。
 和室からの景色もなかなかのものである。
 悪夢だと言うのに名もなき山は雪化粧をしていて、和風庭園はまるで春のような麗らかさだ。

「ある程度、料理の数を減らしていくと、敵は妨害するために眷属を繰り出してくるわ。眷属は、獅子舞とか、鏡餅の怪物みたい」

 それらを倒すことができれば、しびれを切らして、首魁である鈴山・虎子が出てくるだろう。
 |復活ダークネス《オブリビオン》たる鈴山・虎子を撃破すれば、少女を悪夢から解放できる。

「お正月気分が抜けない、なんて言葉があるけど……それどころの話ではないわ。解決のために、みんなの力を貸して」

 言うと、レティシアはサイキックハーツの世界に猟兵たちをいざなう。


相馬燈
 新年あけましておめでとうございます。
 お正月が終わっても、終わらない悪夢があるようです。
 今回は、ソウルボード内で事件を解決するお話になります。

●第一章
 救出対象の少女、|渡会・睦月《わたらい・むつき》の|精神世界《ソウルボード》に入り込み、座卓に並んでいるお正月料理の数々を食べるのを手伝ってあげましょう。イメージとしては、大宴会場にずらりと並んだ料理をひとりで食べようとしている状況です。
 完食も不可能ではないでしょうが、ある程度食べ進めるだけでも、敵が妨害のために出てくると思われます。
 リプレイは睦月の|精神世界《ソウルボード》に入った直後からのスタートとなります。

●第二章
 妨害のために出てきた眷属たちを撃破しましょう。
 眷属は獅子舞や、鏡餅に手足が生えた(羽子板と門松っぽい竹槍で武装した)正月チックな化け物のようです。

●第三章
 事件の首魁である『「箕輪御前」鈴山・虎子』と戦うこととなります。
 撃破できれば、事件解決です。

 それでは、御縁がありましたらどうぞよろしくお願いします。
58




第1章 日常 『寿命を伸ばそう!』

POW   :    体にいい物を食べて寿命を伸ばそう

SPD   :    尊い作品を鑑賞して寿命を伸ばそう

WIZ   :    リラクゼーションで寿命を伸ばそう

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「……もう食べ切れないよ……」
 宴会場さながらの広い和室で、和服をまとった|渡会・睦月《わたらい・むつき》は正月料理と格闘していた。雑煮に焼き餅、お節は鯛に海老に蒲鉾、なます、伊達巻、田作り、栗きんとん……福が重なるようにと重箱にこめられた食材はどれも美味らしいが、大食は命の取り越し、食べきれない量の食事は却って寿命を縮めそうだ。エスパーであっても、寿命が来ればお仕舞いである。
 だが、それも小柄で食の細い少女の話。
 猟兵ならば、並べられたお節もお雑煮も、楽しく平らげることが出来てしまうだろう。
箒星・仄々
ご馳走が沢山!
とはいえ
全部を食べないといけないとなると
本当に悪夢です
睦月さんがお可哀想です
解放して差し上げましょう

私たちが一緒に食べますから
大丈夫ですよ

まずはおせちからです
焼き魚の鯛に卵焼き
蒲鉾に栗きんとん
数の子にローストビーフ
フカヒレに伊勢海老
フォアグラにキャビア

和洋中と様々なおせち料理を堪能します

勿論その後はお雑煮です
こちらも色々なお出汁がありますね
鰹と昆布出汁
煮干し
あご出汁
鶏ガラ
白味噌

日本全国色々なお雑煮を味わいますけれども
お腹と相談しながら
無理のない範囲でいただきます

小豆の雑煮を
ぜんざいっぽく
デザートがわりにもぐもぐした後は
腹ごなしに庭園を眺めながらリートを奏でます
睦月さんのリクエストにもお応えをして
もし睦月さんが
食べ過ぎで体調を崩されている時は
治癒します

これから少々騒がしくなります
どうぞ隠れていてくださいね



 ふわりと降り立った和の空間は、まるで元日という時の一点に縛り付けられているかのようだった。
 落ち着いた色の座卓には、多種多様なお正月料理が所狭しと並んでいる。
 お節料理の詰まった重箱などは、まるで宝石箱もかくやだ。
「わあ、ご馳走がたくさん!」
 その光景を|翠玉《エメラルド》のような瞳に映して箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)は声を上げた。
 なんとも贅沢な景色だ。
 けれど、小柄な少女がひとりでこの量を食べることを強いられているとすれば、紛れもなく悪夢である。
 声と気配に気がついて視線を向けてきた渡会睦月に、仄々は心配そうな表情を返した。
(「このままでは、睦月さんがお可哀想です。解放して差し上げましょう」)
「……?」
 状況が呑み込めていない睦月に、仄々はゆったりとした歩調で歩み寄る。
 大きな帽子を被った童話の騎士そのもののケットシーに、睦月は少し驚いたようだったが、
「大丈夫ですよ。私たちも一緒に食べますから、安心してくださいね」
 穏やかなその声に、睦月の瞳に安堵の色が兆した。
 それを見ると、仄々は少女の隣の座布団に座った。背が小さければ、座布団を重ねればそれで事足りる。それから仄々は、重箱の上段を持ち上げた。中身を覗いてみれば、そこには彩り豊かなお節料理がびっしり。美しく整えられた品々は見るだけで心が踊るが、その量はさすがに圧倒的だ。
「まずは焼き魚の鯛からいただきましょうか」
 縁起の良い白木の祝い箸を手にして、仄々はおもむろに魚の身をほぐしにかかる。
 口に運べば、香ばしく豊かな味わいが広がった。
「美味しいですね」
 ケットシーである仄々が上品に魚を口にするさまは、面白い取り合わせだ。
 睦月は箸を進める彼をしばらく見つめていた。如何にも美味しそうに食べるので、見とれている感じだ。
「良かった……私だけじゃとっても……」
「無理は禁物ですからね。少し休んでいてください」
 それにしてもなかなかに頼もしい仄々の食べっぷりであった。
「卵焼きも蒲鉾もよくできていますね。栗きんとんなんて、本当に宝石みたいです」
 時折、うんうんと頷いて。
「数の子にローストビーフ、伊勢海老にキャビアまで……本当に豪華ですね」
 美味しそうに食べる姿は、周りも楽しい気分にさせるもの。
 睦月の顔にも、しだいに笑顔が戻りつつあった。
「最初は贅沢だなって思ったんですけど……」
「分かります。とても食べ切れないですよね」
 たくさんの料理が食べ放題というのは、それだけを見れば良い夢と言ってもいい。
 けれど過ぎたるは猶及ばざるが如し。ひとりで全部を、なんてことになれば、やはり酷い悪夢だ。
「どれも美味しいものばかりで、まだまだ食べられそうです」
 睦月を安心させるように言うと、仄々は食べ進め、栗きんとんを口に運んで。
 次に手を伸ばしたのはお雑煮の盆だ。
 そう、盆である。
 盆の上に、漆塗りの椀が幾つも載っているのだ。
「さて、次はお雑煮ですね」
 椀の蓋を開けると、湯気とともに食欲のそそる匂いが漂う。仄々はくんくんと鼻を動かし、ちょっと贅沢にひとつひとつを味見しながら、出汁の違いを楽しむ。そうした彼の姿は、まるで味比べをする美食家のようだ。
「すまし仕立ても味噌仕立ても美味しいですし、これは小豆雑煮ですか。白味噌も鶏ガラ出汁もそれぞれ個性が際立っていていいですね」
 鰹と昆布出汁は香り高く、あご出汁、煮干し出汁もまた美味だ。
 雑煮というものは、それぞれの地域の特産物が用いられた、地域色豊かな料理と言える。
 日本全国の雑煮を楽しんで、仄々は舌鼓。
 決して無理はせず、卓上の料理を美味しそうに賞味する仄々。
 心細さにも襲われていた睦月からすれば、その頼もしさはまさに|騎士《ナイト》だ。
「こちらも甘すぎず、絶妙な味わいですね」
 最後に小豆雑煮をぜんざいのように楽しんだ仄々は、デザートを口にしたあとのように一息ついた。
「ひとまず休憩といたしましょう。……少し音楽でも奏でましょうか」
 腹ごなしとばかりに、仄々は蒸気機関式竪琴――カッツェンリートを抱えた。
 猟兵たちが続々とこの悪夢に足を踏み入れている。彼らの心を鼓舞するのにも、音楽は役立つだろう。
「何かリクエストはありますか?」
 不思議な楽器に目を奪われていた睦月は、仄々の言葉に少々遠慮がちに思案して、
「お正月っぽい曲がいいな……」
 仄々は頷き――彼の手で爪弾かれる音色が、夢の和室を優しく包み込む。
 音楽を奏でながら、仄々はふと外の景色に目をやっていた。
 整えられた和風庭園や、その背後の雪化粧をした山ももちろん見事だけれど。
 縁側に差す日差しは、いかにも暖かそうで。
 ここが悪夢でなくて、日向で丸くなってのんびり昼寝でも出来たら、さぞ気持ちがいいに違いない。
 仄々はそんな風にも思いを巡らせながら、穏やかで雅な楽音を響かせる。音は悪夢を塗り替えるように|精神世界《ソウルボード》を彩り、体調が良くなってきた睦月は、いつしかリズムを取るように体を揺らしていた。
 余韻を残した演奏が終わり、笑顔を浮かべて拍手した睦月に、仄々は穏やかな表情を返して。
「これから少し騒がしくなると思います。でもどうかご安心を。何があっても私たちが守りますからね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

緋薙・冬香
うーん、お正月は食べ正月……
食べるのは楽しみだけど、過ぎたるは猶及ばざるが如しってやつね
やっぱり美容にも寿命にもストレスは大敵……
美味しいごはんはもっとゆっくり食べたいわ。
でも食べないといけないなら食べましょう
ウーロン茶あるかしら?

お餅系は数が消費できないからパス
おせちから攻めましょう
お家ならちゃんと全品制覇するんだけどね?
量を食べるのが大切なら品数絞りましょうか
かまぼことか伊達巻とか美味しいわよね
ところで栗きんとんは関東風?関西風?
関西風なら栗きんとんも数いけるはずよ!結構好きだもの!
エビは合間に箸休めに

太るのは良いけど体型の維持はしないとね
この後、全力で『運動』できるといいんだけど?



 正月と言えば好きなものを食べてゆっくり休んで、憩いのひとときを過ごすのがメジャーだ。季節の風物詩とも言える正月料理の数々は独特の風情もあり、新たな一年の始まりを彩るのに相応しい。
 そういう意味で、一見すれば悪夢とも言えないような光景だったが、
「うーん、お正月は食べ正月……」
 |精神世界《ソウルボード》 に入り込んだ緋薙・冬香(針入り水晶・f05538)は、新年会の会場めいた和室に広がる光景を見渡していた。おせち料理の華やかな色彩など目にも楽しく、かなり高級そうにも見える。
 とは言え、
「食べるのは楽しみだけど、過ぎたるは猶及ばざるが如しってやつね」
 大食短命、適食養生、腹八分目に医者いらず――食べ過ぎについての諺も四字熟語もたくさんある。正月太りなんていう、あまりに恐ろしい言葉も。
 冬香はゆったりとした足運びで和服姿の少女――睦月のもとへと歩み寄った。
「えっと……」
 睦月が、冬香に視線を向ける。冬香は百点満点の柔らかな笑みを返すと、座布団の上に美しい所作で正座をした。その姿勢の良さも横顔も、睦月が見惚れてしまうほどだ。
「美味しいごはんはもっとゆっくり食べたいわよね。やっぱり美容にも寿命にもストレスは大敵だし……でも、食べないといけないなら食べましょう」
 あなたは無理せず休んでいてね? と睦月に声をかけ、冬香はすこしきょろきょろと。
「烏龍茶あるかしら?」
「あ、多分あれだと思います」
 祝い箸を手に取る前に、冬香が求めたのが烏龍茶だった。烏龍茶は食前食中に飲むと脂肪の吸収を抑えられるという。流石はモグラ女子、そのあたりもぬかりない。
「量を食べるのが大切なら品数絞りましょうか。お餅系は数が消費できないからパス」
 そう、なにも完食を目指す必要はない。この悪夢を見せている張本人の目論見を妨害して、苛立たせればそれで必要十分だ。
 いただきます、と告げると、冬香はおせち料理の中でも好きな品々に箸を伸ばした。
 初日の出を表しているとされる紅白かまぼこ。そして、知性の象徴とされる伊達巻。しっかり作戦を立て、クレバーな食べっぷりを披露する冬香には、まさに似合いの品だ。
「ところで栗きんとんは……流石というか、関東風と関西風の両方あるみたいね?」
「そんな種類があるんですか……? あ、でも確かに違うような」
 睦月は首を傾げたが、よく見てみれば、確かに見た目にも違いがある。
「関西風なら栗きんとんも数いけるはずよ。結構好きだもの!」
 そう言って、冬香は関西風栗きんとんに箸を伸ばす。
 甘いものはなんとやら。
 食べるものを絞った冬香は、効率よく箸を進めていき――時々、箸休めのエビをぱくり。
「どれも味は悪くないわね」
 どれもこれも絶品で、もしそれらを好きなだけ味わっておしまい、というのだったら良い夢とさえ言えたかもしれない。
 けれど、もちろんそれだけでは終わらない。
「太るのは良いけど体型の維持はしないとね……」
 優雅に食事を進め、烏龍茶を口にしながら、冬香は周囲の気配にも気を配っていた。今のところ殺気めいたものは感じないが、事が起こるのも時間の問題だろう。
「この後、全力で『運動』できるといいんだけど?」

大成功 🔵​🔵​🔵​

桂・真志
弟分の|所在《ありか》(f43975)と

実際の世界は余り動けなかったし
折角猟兵にもなったからにはせめてだ
それに
「お前は万年欠食児童だから丁度良いだろう?」
目を輝かせる所在をからかう
だが当たり前の弾んだ声で同意が戻って頬が緩んだ
「なら行くとしよう」

入ると…確かに限界だな
食べ過ぎか顔色も良くない
近くに座り片端から食べて行こう
「目の前に山盛りでげんなりするのは分る」
任せてほしいと声を掛ける
俺のガタイで怖がるかもだが
人懐っこい笑顔の所在が場を助けるだろう

景色は良いし食事は旨い
確かに正月気分になれる
幻かもしれないが良いものだ
「何が起きても俺達が対処するから心配しないでくれ」
安心もさせ今はご馳走に興じよう


凶月・所在
兄貴分のまさにー(f43974)と

まさに―も多分同じ気持ちだよね
猟兵として力を持ったから
僕達の世界の事も助けに行きたい
「あ、酷いんだよー。でもめっちゃ食べる!」
ちょっと肩に力入ってたみたい
まさに―に言われてちょうど力も抜けたんだよ
「うん!いこっか!」

「わ、わー。これは凄いんだよー」
どれもおいしそうだけどこんなにあったら
それに終わらない事にも辛いよね
「大丈夫!僕達に任せてね!」
実は僕結構大食いだしね!
お餅とお雑煮からどんどん食べる

いい景色と沢山の美味しい料理で幸せ!
母様のご飯には負けるけど
それでもお餅も御節もいくらでも食べれちゃう

まさにーが言ってるけど勿論僕も力になるよ
「だね。僕達が守るからね」



 少女は眠っていた。
 その顔が時折、うなされているように歪む。
 心が、軋みを上げているのだ。
 このような事件は|この世界《サイキックハーツ》 でたびたび引き起こされてきた。
 |精神世界《ソウルボード》で為される悪事。それにより齎される様々な悪夢。
 それを打ち破ってきたのが灼滅者だ。そして今も武蔵坂学園のシャドウハンターの力を借りて、桂・真志(新世界に光望む者・f43974)と凶月・所在(優しい殺人鬼・f43975)は、悪夢の中に飛び込もうとしていた。
 ダークネスと戦ってきたかつてのように。
 だが二人は、今や猟兵だ。
 夢に囚われている|一般人《エスパー》を救けることができるのは、やはり|猟兵《かれら》なのである。何しろこの事件を引き起こしているのは|復活ダークネス《オブリビオン》 なのだから。
 猟兵として力を持ったから、僕達の世界の事も助けに行きたい。
 エスパーにして殺人鬼である所在は、心の中に自らの声が響くのを感じた。
 ひとつひとつの事件を解決していくことが、この世界を救うことになる。
 それも、あの頃と同じだ。
 ――まさにーも多分同じ気持ちだよね。
 ちらと横顔を見やると、真志は応じるように口を開いた。
「あの頃は余り動けなかったし、折角猟兵にもなったからにはせめてだ」
 真志は言って目だけを動かして所在を見ると、少しだけ口角を上げた。
「それにお前は万年欠食児童だから丁度良いだろう?」
「あ、酷いんだよー。でもめっちゃ食べる!」
 兄貴分の軽口に、所在は肩の力が抜けるのを感じる。本当は少し緊張していたのだ。こんな風に、真志はここぞというときに緊張をほぐしてくれる。
 そしてそれは、真志にとっても似たようなものだった。
 弾んだ声を響かせた所在に、自然と真志の頬は緩んで。
「なら行くとしよう」
「うん! いこっか!」
 精神世界に、二人は飛び込んでいく。

「わ、わー。これは凄いんだよー」
 目の前に広がるのは、一見すれば、悪夢とは思えないような光景であった。
 さながら新年会の会場のような広い和室に、|座卓《テーブル》が並び、美味しそうな正月料理が所狭しと並べられているのだ。ハラペコな人がこれを目にしたら、天国のような光景に見えたかもしれない。
 しかしこれは正真正銘の悪夢。
 被害者である少女――渡会睦月は、たったひとりで膨大な量の正月料理を食べさせられていたのである。
「確かに限界が近いようだな。こんな量を一人で食べ切れるわけがない」
 睦月の表情から、すぐに真志が見て取り、所在と共にそばへと歩み寄る。
 鋭さのある面差しの真志に、やはりと言うべきか、小柄な睦月は一瞬だけ怯えめいた様子を見せたものの、
「どれもおいしそうだけど、こんなにあったら。それに終わりがないのも辛いよね」
 人懐っこそうな笑顔を見せた所在が、一瞬にして中和した。
 睦月がこくりと頷く。
 食欲というものは、満たされなければ辛いもの。でも、満腹になってしまえばどんなに美味しい料理だって体が受け付けなくなる。それでも食べなければならないなんて、一言で言えば地獄だ。
「目の前に山盛りでげんなりするのは分かる」
「大丈夫! 僕達に任せてね!」
 行動で信頼を勝ち取ろうとするように、二人は席につくと、さっそく正月料理との戦いに打って出た。

 縁起のいい白木の祝い箸は、この場合、敵の牙城を崩す双剣である。
「実は僕結構大食いなんだよね」
 所在の言葉そのものが、睦月を安心させる効果をもたらした。自信満々な姿が、不安定な少女の精神を支える。
 自らの言葉を裏付けるかのように、所在はお餅の載った平皿と、平盆に載っている漆塗りの艷やかな椀の数々を引き寄せた。椀の中身は、お雑煮だ。
「いっただきまーす」
 食事の前に手を合わせて、お餅をぱくり。もぐもぐと味わって、そして温かいお雑煮を口にする。
 その顔がぱっと輝いてしまうくらい、料理は美味しかった。
 開け放たれた障子の向こうの美景が、その席からはよく見える。整えられた日本庭園の奥に、富士山とも見紛う雪化粧をした山が映え、空は抜けるような快晴であった。
 真志も祝い箸を手に、おせち料理を食べ進めていく。ガタイの良さも、こうなると頼もしいことこの上ない。
「……美味いな」
 鯛は身も柔らかく味付けも上品で、数の子は口に放り込むだけで独特な良い香りが広がる。伊達巻も栗きんとんも甘すぎず、他の品々と調和していた。
「これで酷い味なら目も当てられないところだが」
 それが真志の率直な感想であった。
「本当だよね」
 所在が苦笑混じりに同意する。
「景色は良いし食事は旨い。確かに正月気分になれる。幻かもしれないが良いものだ」
 世界は輝かしいものだけで成り立っているわけではない。それを真志は知っている。そして光と闇の戦いの中で、ひとときの安らぎを得ることの意味も。
「いい景色と沢山の美味しい料理で幸せ!」
 所在も気持ちは同じのようだ。
 母様のご飯には負けるけど――そう思いながらも、その箸が今度は鮮やかなお節料理に伸びていく。
「何が起きても俺達が対処するから心配しないでくれ」
 真志の低い声。
 その中に優しさと穏やかさを感じ取ったか、睦月はこくりと頷いた。
「だね。僕達が守るからね」
 緊張はいつしかほぐれ、少女の瞳には希望の光が宿っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミーガン・クイン(サポート)
 はぁい♪
サキュバスの魔女、ミーガン・クインよ。

 私のユーベルコードの拡大魔法や縮小魔法、
アイテムの巨大化薬や縮小薬で色んなものを大きくしたり小さくしたり。
きっと楽しいことが出来るわね♪

 サポートに不思議な魔法の力はいかがかしらぁ?
私のことを好きに使ってみてね♡



 悪夢の舞台は、宴会場のような広い和室だった。
 部屋の奥までずらりと並べられた黒い座卓の上には、何十人分とも知れない正月料理が連なっている。席の中ほどで、座布団に正座している和装の少女こそが、この悪夢に苛まれている|一般人《エスパー》だ。
 名を、 |渡会睦月《わたらいむつき》 という。
 この部屋の料理を全て食べ切らなければ、この『悪夢』からは抜け出せない。悪い夢にはありがちな謎ルールだが、睦月はそれ縛り付けられているのだ。
 だが幸いに睦月は、猟兵たちの来訪で、ひとりで食事を食べ続けなくて良くなっていた。そのためか、すこしだけ食欲も戻ってきたようである。
「わたしもちょっと食べてみようかな……」
 そう呟きながらも、やっぱりちょっと躊躇ってしまう。
 美味しい正月料理も、これだけあるとやはり暴力である。
「はぁい♪ サキュバスの魔女、ミーガン・クインよ」
 そんな少女に、ミーガン・クイン(規格外の魔女・f36759)が声をかけてパチリとウインクしてみせた。
「不思議な魔法の力はいかがかしらぁ?」
 呆気にとられている睦月に、ミーガンは魔女らしい提案をする。
「確かに貴女の|サイズ《・・・》だったら、これだけの量を食べきるのは大変よね。でも、料理がミニチュアサイズだったらどう?」
「ミニチュア、ですか……?」
 鸚鵡返しに言いながら、睦月は卓上に広がる食事に、ちらと横目を向けた。確かに、これが人形遊びに使うようなサイズであったなら、きっと食べるのもそんなに難しくないだろう。
「そう、だからあなたが大きくなればいいのよ♪」
 睦月の下に、魔法陣が浮かび上がる。
「それじゃ、おおきくなぁれ♪」
「わ、わわっ……!」
 睦月の小柄な体が、みるみるうちに大きくなって、まるで巨人のようになった。着物まで巨大になっているところがユーベルコードである|拡大魔法《マキシマムスペル》 の凄さの一端だろう。
「嘘、私、本当にでっかく……!?」
 両手を交互に見て、それから見下ろせるほどになったお正月料理の数々を見渡す。和室にしては天井が高いつくりだったのも幸いした。
 巨大化した睦月からすれば、眼下に広がる食事の数々など、本当にミニチュアのようなものである。お雑煮なんて、一口で食べきれてしまうほどだ。
「さあ、これなら食べられるでしょう?」
 頷いた睦月が、人形サイズのお餅やお雑煮を次々に平らげていく。
「なんだか面白いかも……!」
 食事の量に圧倒されていた睦月は、先程までとは打って変わって楽しげだ。
 これが現実世界の出来事なら、睦月とて警戒もしただろうしもっと驚いたかも知れないが、何しろ夢の中である。こうした展開――規格外の魔女が救けてくれるという状況も、不自然ではない。
 ――こんな|妨害《コト》をされたら、悪夢を見せているオブリビオンもきっとカンカンでしょうね♪
 巨大化した和服姿の少女がお正月料理を味わう――そんな光景を眺めながら、ミーガンの美しい唇が笑みを形作った。

成功 🔵​🔵​🔴​

木元・祭莉
双子の妹、アンちゃん(f16565)と!

お正月のご馳走ツアーに参加ー♪
ソウルボード?
昔、父ちゃん母ちゃんが入ってたヤツ?(両親はサイハ出身)

アンちゃんについていって、こっそり反対側に座ろっと。
うん。今回は流離いの爆食い猟兵なんだって!
おいらもアンちゃんも、見かけに依らずいっぱい食べるよ。
和食いいよね、和食!(サムエン民)
お重は目にも美味しいし♪

睦月ちゃん、どれが美味しかった?
黒豆も卵焼きも、家庭の味が出るよね♪
おいらは甘いのが好き!
香ばしいのもイイね♪

食べ疲れたら、少し運動しよっか。
歌ったり踊ったり、ゲームしたり。
どぉ、気持ちアガってきたでしょー?
その調子で寿命も伸ばそー♪(人狼)


木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

…ん、ここが睦月のソウルボード
まつりんは初ソウルボード?
ソウルボードは人それぞれに違うみたい

睦月を見つければすそそそ、と傍に寄り、並んで座ってみようかな
こんにちは?わたしは杏。知る人ぞ知る爆食いハンター
何故ここに居るって?
そこに美味しいがあらば立ち止まり食す、それがわたし達
おせち料理、美味しく頂こう

大海老に黒豆にごまめ
卵焼きと煮物、数の子も旨し
洋風な唐揚げや牛肉ステーキ
中華的海老チリ、炒飯に肉まん
おもちはお雑煮にきなこに海苔巻き
食べても食べても飽きない不思議

睦月の分も美味しく頂くね、ありがとね

ふふ、皆で食べたら独りより美味しい
無限に食べられそう(至福の笑顔



 悪夢の中は、その光景だけを見ればなんだか吉夢のようであった。
 漂うのは新しい畳の香りに、正月料理の匂い。黒い座卓と座布団が和室の奥の方にまでずらりと並んでいて、開け放たれた障子の向こうには、日本庭園の美しい景色が広がっていた。
「お正月のご馳走ツアーに参加ー♪」
 そんな和室の畳にしゅたっと降り立って、木元・祭莉(ちょっと影のあるかっこよい感じ・f16554)が元気のいい声を響かせた。
「……ん、ここが睦月のソウルボード」
 木元・杏(杏世界の真実・f16565)がゆっくりと目を開けてみれば、その金色の瞳に精神世界の光景が映る。お正月に縫い止められてしまったかのような世界が。
「まつりんは初ソウルボード?」
 そわそわしている祭莉に、杏が問うと、
「ソウルボード? 昔、父ちゃん母ちゃんが入ってたヤツ?」
 かつて|この世界《サイキックハーツ》で活躍した灼滅者たちは、ソウルボードに潜むダークネス――シャドウと幾度も激闘を繰り広げてきた。その話を、聞いたことがあるのだろうか。
「ソウルボードは人それぞれに違うみたい」
 杏が言いながらあたりを見回した。既に幾人かの猟兵たちが救けにきているが、その中で、この悪夢に苛まれている少女――渡会睦月を見つけるのは簡単だった。
 目が合うと、睦月は不思議そうにぱちぱちと瞬きする。
 あまり警戒されていないことを感じ取ると、杏はすそそそ、と睦月の傍に寄っていった。
「こんにちは?」
 そして睦月の隣に座る。結構な早業である。
 祭莉は、こっそり杏の正面に座っていた。
「わたしは杏。知る人ぞ知る爆食いハンター」
「あ、あの……」
 疑問符を浮かべた睦月がおずおずと名乗り、そしてまた別の疑問符を浮かべる。
「何故ここに居るって? そこに美味しいがあらば立ち止まり食す、それがわたしたち」
「うん。今回は流離いの爆食い猟兵なんだって!」
 祭莉が楽しそうな笑顔を見せながら杏の説明に言葉を添えた。
「おいらもアンちゃんも、見かけによらずいっぱい食べるよ」
 というわけで、杏も祭莉も、箸を手に取って。
「おせち料理、美味しく頂こう」
「いっただきまーす!」
 声を合わせて二人は|食事《たたかい》を開始するのだった。

 おせち料理の重箱は、めでたさや福が重なるようにという意味が込められているらしい。詰め込まれている料理の数々も、それぞれ縁起ものばかりだ。
「和食いいよね、和食! お重は目にも美味しいし♪」
 サムエン民な祭莉にとっては、馴染みのある食べ物ばかり。キラキラした黒豆や栗きんとん、かまぼこは紅白の色がつき、ねじり梅の人参も鮮やか。祭莉の銀色の瞳もキラキラしていた。
「大海老に黒豆にごまめ。卵焼きと煮物、数の子も旨し」
 箸を伸ばして口に運んでは、うんうんと頷きながら賞味する杏。どれもこれも、高級品と言って差し支えない味わいだった。海老は風味豊かで、黒豆は程よい甘さ。煮物の加減も絶妙だ。
 睦月はといえば、自分が食べようとしたお重に視線を落としていた。控えめながら責任感が強いらしく、自分も食べないと、と思ったらしい。
「無理しないで。もらっていい?」
「いいんですか?」
 頷く杏。
「睦月の分も美味しく頂くね、ありがとね」
 お重を受け取った杏が食べ始めると、睦月は安堵の溜息をついた。
「睦月ちゃん、どれが美味しかった?」
 一人でお腹が苦しくなるほど食べてきたのだ。もう無理なんてする必要はない。気負いをほぐすように祭莉が問うと、
「伊達巻とか、栗きんとんとか、黒豆とか……あと卵焼き」
 甘いものばっかりが返ってきた。
「黒豆も卵焼きも、家庭の味が出るよね♪ おいらも甘いのが好き! でもこれだけあると別腹ってわけにもいかないよね。少し休んでて。おいらとアンちゃんで食べるからさ!」
「和風だけじゃないんだね。バリエーション豊かで良き」
 もぐもぐ、もぐもぐ。
 話している間にも杏が重箱の城を次々に攻略していく。ゆっくり、ゆったり味わっているように見えるのに、箱の中身が消えていくのは速い。
「こっちは洋風な唐揚げと牛肉ステーキ。中華的海老チリ、炒飯に肉まんもある」
 そのスピードが緩まることは決してない。
 しかも、しっかり味わっているときている。
「おいらも負けてらんない!」
 祭莉が猛烈な勢いで追い上げにかかった。二人揃って、実に美味しそうに食べるのである。
「睦月ちゃんの言ってた伊達巻おいしい! 黒豆も止まらなくなるね♪」
 ぽいぽい口に放り込んでむしゃむしゃと味わう。良い意味で育ち盛りの男子の食べっぷりである。
「ピリッと辛い海老チリも癖になりそう」
 杏が最後の海老チリを食してさくっと重箱を空にしてしまうと、今度はお盆に載った椀の数々に目を向けた。艷やかな漆塗りの椀の蓋をひとつ開けてみれば、香ばしい匂いをのせて湯気が立ちのぼる。
「こっちはお雑煮だね。あっちはお餅。種類も豊富」
 お雑煮の椀をあっという間に空っぽにした杏は、箸休め(!)とばかりにお餅をぱくりぱくり。草餅、きなこ餅に、それに海苔巻き――。
「食べても食べても飽きない不思議」
 ……これだけ食べてお腹いっぱいにならないのもけっこう不思議である。
「ふふ、皆で食べたら独りより美味しい。無限に食べられそう」
 これも夢だし。夢だから体重とか気にしなくていいっぽいし。
「すごい。本当に爆食いハンターなんですね……!」
 うむ、みたいな感じに頷く杏。
「いっぱい食べたから、ちょっと運動しよっか♪」
 祭莉が提案すると、腹ごなしとばかりに余興が始まった。
 和室を探すと、都合よく羽子板と羽根が飾られていたのだ。正月の雰囲気を演出するためか知らないが、首魁である羅刹もまさかそれが使われるなんて思ってもみなかっただろう。
 和風庭園に出た祭莉が、まず舞いを披露し、食べ疲れていた睦月を癒やして。
「どぉ、気持ちアガってきたでしょー? その調子で寿命も伸ばそー♪」
 笑う門には福来たるというもので。
 かこんかこん、と小気味の良い音とともに、庭園に笑い声が響き渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

山吹・夕凪
雪音さん(f29413)と

また新しい年を迎え、更なる幸あれと夢を見るものです
が、それが醒めない悪夢であればどれほどに苦しいものでしょうか
けれど大丈夫です
この悪夢を斬り開き、この新しい一年は福なる道としてみせましょう

確かに、こちらの汁粉は素晴らしきもの……と、雪音さん、そのお体で、その丁寧な所作で、凄まじい勢いで食べられて……
なら私は睦月さんの傍により、大丈夫ですよとお声かけを
全てをひとりで背負うから悪夢
でも今は違います
苦しさからは視線を逸らして美しい雪景色を眺めるようにと

雪と春の儚き美の共存
それを理解する者が元凶とは悲しきものなれど
悪夢を紡ぐ心の闇を払うべく――今はただこの美しさを感じましょう


月白・雪音
夕凪様(f43325)と

…年が明けるは目出度きものなれど、それを祝う料理を悪夢と為そうとは何と皮肉であることか。

これらを平らげねば渡会睦月様…、彼女が悪夢から覚め得ぬとあらば助力させて頂く他ありませんね。
所作はあくまで丁寧に、されど器を高く積み上げて参りましょう。

…夕凪様、こちらの汁粉は特に美味です。悪夢に抗する為なれど、今はこの味と景色を楽しむと致しましょう。
此処は悪夢の中なれど、渡会様。共に新年を祝わば良き初夢となりますれば。

春めく庭園に雪積もる山々。些か噛み合わぬ取り合わせなれど美しいものですね。
此度の元凶は移ろう季節の有する情緒もまた解する者であるのでしょう。
…何とも遺憾なものです。



 新たな一年を祝ぐ日。
 その時の一点に、少女は縛られていた。
 香りの良い畳は張り替えられたばかりのようで、落ち着いた色合いの座卓は宴会場を思わせる和室のずっと奥まで続いている。卓上の料理は、それこそ盛大な饗宴を思わせるものだ。
 線の細い|一般人《エスパー》の少女ひとりで、完食できる量ではない。
「……年が明けるは目出度きものなれど、それを祝う料理を悪夢と為そうとは何と皮肉であることか」
 吉日を台無しにする悪行を羅刹は愉しんでいるのだろうか。月白・雪音(月輪氷華・f29413)は悪夢に足を踏み入れると、その紅玉めいた瞳に正月料理の品々を映した。広がる光景は言わば仮初の幸い。飢えた者には極楽にも見えようが、過ぎたるは猶及ばざるが如しだ。
「また新しい年を迎え、更なる幸あれと夢を見るものです。が、それが醒めない悪夢であればどれほどに苦しいものでしょうか」
 さいわいを不幸に転じさせようとする悪夢もオブリビオンの暗躍も、看過できない。山吹・夕凪(雪色の吐息・f43325)は雪音と並び立って言葉を紡いだ。
 美味嘉肴の椀飯振舞となれば、それはまるで昔話に描かれるような夢。
 ここを外界と隔絶された異郷と考えたなら、かの物語に登場する龍宮のようなものとも言えるかもしれない。心地よく腹を満たすだけの夢なら、まだ良いのだが。
「これらを平らげねば渡会睦月様……彼女が悪夢から覚め得ぬとあらば、助力させて頂く他ありませんね」
 雪音が決意を新たにする。
 参集した猟兵たちのお陰で、既に睦月はひとりきりではなくなっていた。が、それまでのあいだ孤独の中で悪夢と戦っていたことを思えば――夕凪は慮る。その辛さは如何ばかりだったろうかと。
 ――この悪夢を斬り開き、新しい一年は福なる道としてみせましょう。
 二人の来訪に気づいた睦月が、おずおずと会釈を返してきた。
 夕凪は柔らかな笑みを含んで応じる。雪音は対象的に無表情に見えるが、それは穏やかな春光を浴びた新雪のように美しく、また険のない相好であった。
「同席させて頂いてもよろしいですか?」
「此処は悪夢の中なれど、渡会様。共に新年を祝わば良き初夢となりますれば」
 夕凪と雪音の言葉に、睦月は首を縦に振った。
 二人はそっと傍に歩み寄り、座布団の上に美しい所作で腰を下ろす。
 その姿を目にした睦月は、見惚れるように吐息したのだった。

「見事な料理が目白押しですね」
 雪音が言って食前の挨拶を口にすると、まずどれに手を伸ばすかを寸の間、思案する。
「やはり、この量を一人でとは酷なこと」
 夕凪もまた卓上を見渡していた。
 さいわいが重なるようにとの願いを込めた重箱。その一段一段には、縁起物の料理が所狭しと詰め込まれている。目にも鮮やかだが、それは食事を楽しめる状態にある者の所感である。
 ――所作はあくまで丁寧に、されど器を高く積み上げて参りましょう。
 雪音は雪白の繊手で箸を操り、縁起の良いおせち料理の品々を口に運んでいく。
 それから艷やかな漆器の椀を引き寄せた。蓋を開ければ甘やかな香りが立ち上る。
 目を伏せて味わうと、上品な甘さに、これはとばかり雪白は目をしばたたかせた。
「……夕凪様、こちらの汁粉は特に美味です」
「確かに、良い香りもしますね」
 まさにご馳走と言って差し支えない。折角の料理を食べきれないという思いも、睦月を苛んでいたのだろう。ならば……美味も美景も共に楽しんでしまえば、それだけで首魁である羅刹への反撃となり得る。
 それにしても、と夕凪は雪音の健啖に内心、感服していた。
 ――雪音さん、そのお体で、その丁寧な所作で、凄まじい勢いで食べられて……。
 つやつやと輝く栗きんとん、黒豆、数の子、ねじり梅の形をした人参などを次々に賞味する雪音。その姿勢の良さといい、整った横顔といい、絵になるという言葉がぴったりだ。
 食べ進めることは雪音に任せるとして、夕凪は救うべき睦月に声をかけることにした。まだ少し不安そうにしていたから。
「大丈夫ですよ」
 形の良い唇から紡ぎ出された柔らかな言霊は、睦月の心に染み渡るようで。
「はい……あの、ありがとうございます。私ひとりでは、とても食べ切れなくて……」
「全てをひとりで背負うから悪夢。でも今は違います」
 夕凪は目線を上げて和室を見回した。猟兵たちがみな、睦月を救けようと料理と格闘している。否、皆が楽しみながら敵の目論見を崩そうとしている。
 ――悪夢に抗する為なれど、今はこの味と景色を楽しむと致しましょう。
 そんな雪音の想いも、皆と軌を一にしていると言って良い。
 そう、楽しむことそのものが、やはり悪夢と、そこに潜む|羅刹《オニ》への抵抗となるのだ。
「それに、時には苦しさから目をそらすことも必要です。心を楽しませるものは他にもあるのですから」
 夕凪の視線の先を追っていった睦月は、開け放たれた障子の先――日本庭園が借景としている雪嶺を見た。一富士二鷹三茄子。あれは富士ではなかろうが、ここが夢であれば、目に映る光景は縁起が良いとも解釈できる。
「春めく庭園に雪積もる山々。些か噛み合わぬ取り合わせなれど美しいものですね」
 冬と春の狭間にあるような佳景を眺めて雪音が言えば、
「本当に。雪と春の儚き美の共存。心に沁みるものがありませんか」
 夕凪の言葉が続き、睦月が静かに頷きを返して微笑んだ。すうと気分が楽になったように。
「……此度の元凶は移ろう季節の有する情緒もまた解する者であるのでしょう」
 そうした雪音の思いは夕凪と響き合うものだった。睦月の心象が影響しているとは言え、花鳥風月の味わいを夢に表し、炊金饌玉で彩るような真似は、それらを佳きものだと感じる者ならではの所業に違いない。踏みにじるのも、美を解すればこそか。
「そのような者が元凶とは悲しきものなれど」
 小さくかぶりを振った夕凪は、美観を映す双眸の青に、嫋やかな意志の光を湛えていた。
「悪夢を紡ぐ心の闇を払うべく――今はただこの美しさを感じましょう」
 穏やかな時が過ぎていく。
 だが平穏そのものの情景など、睦月を苛む羅刹が許すわけもなく。
 戦いのときは、刻一刻と迫っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『跋扈する眷属』

POW   :    力ずくで実行犯を止める

SPD   :    罠を仕掛け、眷属を捕縛・無力化する

WIZ   :    事件の内容から、黒幕の思惑や弱点を推測する

イラスト:みささぎ かなめ

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「もう許せぬ!」
「これ以上の妨害はさせぬぞ!」
「させぬったらさせぬぞ!」
 これが宴会であったら、宴もたけなわになった頃。
 猟兵たちが正月料理を次から次へと食べて仕舞うのを見て、羅刹の眷属たちが何処からともなく飛び出してきた。
 文字通り、四方八方からである。

 その内訳は、獅子舞や、鏡餅に手足が生えたどこかコミカルな怪物たち。
 鏡餅怪人(?)も成人男性くらいの大きさがあり、羽子板と、門松っぽい竹槍で武装している。
 獅子舞は噛みつき攻撃を。
 そして鏡餅怪人は竹槍による攻撃のほか、羽子板で羽根を飛ばして遠距離攻撃する技もユーベルコードにまで高めているようだ。

 更に厄介なのが、思いも寄らぬ場所より現れること。
 そして、|戦う力を持たない睦月を狙ってくる《・・・・・・・・・・・・・・・・》ことだ。
 だが、猟兵たちは怪物たちが出現する前兆――燃え上がるような黒い影が形を取る様を捉えることが出来るだろう。
 そのまま広い和室で戦ってもいいし、日本庭園に降りてもいい。

「ここからが本当の悪夢よ!」
「小癪な妨害者どもに、目にものを見せてくれる!」
「くれるったらくれるぞ!」
 ……外見からして緊張感のない敵ではあるが、睦月を狙ってくる以上、あまり気は抜けない。
 ともあれ――この戦いはきっと腹ごなしにもなるに違いない。
木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

ふう。庭で羽根つきしてたらお腹空いてきたね
…む!
気配に気付けば睦月に【あたたかな光】を与えて臨戦態勢

まつりん、おかわり(鏡餅怪人)が羽子板持ってやって来た
ふふ、わたしの羽子板の腕を知らないね?
打てば予測不可能な場所へと飛ぶこの魔球(※要はド下手)、受けてみるが良し

まずは一球
とおっ!
怪力込めた羽子板で羽根をずぱーん
何処に飛ぶかは運試し
どんな魔球でも打ち返す、それがわたしの知る羽根つきのマナー。マナー守って?
魔球が獅子舞ジャストミートしたらば獅子舞も参加カモン

ところで鏡餅さん
割れたらどのようにおもてなしして欲しい?
あんころ?安倍川?
希望通り美味しく食してあげる(ふ)


木元・祭莉
アンちゃん(f16565)、獅子と餅が来た!
お雑煮コンビだね♪(食い気)

ふむ。影が見えたら、移動してアタック。
(びゅん)(カチン)←羽子板
ん、だいじょぶ。なんか掴んだ。
タイミングばっちり、任せといて!
(びゅん)(カチン)←羽子板

庭園におりて、ゆべこ発動!(もわもわ~ん)
ん、ここがコートね。睦月ちゃん応援ヨロシク!
視界の悪い中だけど、華麗なる双子ダブルス羽子板をくらえー!

はっ、背後からの殺気!?(ひらり)
アンちゃん、ちゃんと狙ってー!(流れ羽根を避ける)

向こうの前衛は必殺技(噛み付き)を持っているから、コッチも対抗するよー!
羽子板をすちゃっと構えて。
カウンターホームラン!(羽根ごと吹っ飛ばす)



 眷属たちが出現する少し前。
 ぽかぽかした日差しは、ここが悪夢の中であることを忘れてしまうほど心地よかった。三人で羽つきを楽しんだあと、木元・杏(杏世界の真実・f16565)は、一息ついて、
「ふう。庭で羽根つきしてたらお腹空いてきたね」
 事情を知っている人ならば目を丸くしてしまうであろう言葉を口にした。あれだけ食べたのにまだ……みたいな突っ込みを入れる者はしかし、ここにはいない。
 というわけで座敷に上がった杏は、残ったお餅をぱくり。
 お餅はそれでなくなったので、お汁粉をすすって糖分補給をしていると、
「……む!」
 殺気を感じ取った杏は正座したまま、庭先に鋭い視線を送った。
「これ以上の邪魔はさせぬぞ!」
「お前らも永遠の正月に囚われるがいい!」
 なんだか恐ろしいことを言っているような、そうでもないような。獅子舞はキランと輝く上下の歯をガッチガッチと噛み鳴らし、鏡餅怪人は竹槍と羽子板を構えてカッコいい(?)ポーズを取った。
 本人たちは精一杯、威圧しているっぽいのだが、なにしろ見た目が見た目である。全然締まらない。
 それどころか、
「アンちゃん、獅子と餅が来た!」
 眷属たちの姿を、めちゃくちゃ端的に言い表す木元・祭莉(ちょっと影のあるかっこよい感じ・f16554)。燃え上がる影を見るや否や、彼は手にした羽子板を思いっきり振って羽根を打っていた。
 びゅん。唸りを上げた羽子板が勢いよく羽根を叩き飛ばす。
「あいたっ!」
「あいたたっ!」
「……あっ」
 勢いよく振りすぎて羽子板まで飛んでいった。そして当たった。
「おい、やめろや!」
 打ち返せばいいのに、芸人みたいなノリでブチギレる鏡餅怪人。
 そこでおもむろに立ち上がる杏。
「おかわりが羽子板持ってやって来たね、まつりん」
「お雑煮コンビだね、アンちゃん♪」
 その目は御馳走を見る時となんら変わりなかった。
「お、お前ら、まさか……」
「俺たちを食う気じゃなかろうな!」
 鏡餅怪人たちがジリジリッと後ずさる。
「……」
「……」
「「「黙ってないで否定してくれ!」」」
 叫ぶ鏡餅怪人の隣で、首を傾げる獅子舞たち。
「こうなったら……うおおお!」
 鏡餅怪人たちが羽子板を構え、次々にサーブ!
 なんだか映画とかで強大な敵に怖気づくあまり拳銃を連射してしまう警官みたいだった(伝われ)。
 強キャラっぽく殆ど動きもせずに躱していく杏。
 その黒髪が物凄い球速(?)の羽根にひらりひらりと揺れた。
 一方の祭莉は、拾った羽子板で、飛んできた羽根をべしばしと弾き落としてしまう。
 なんだか映画とかで銃弾を次から次へと叩き落とすなにかの達人みたいだった。
「だいじょうぶ、まつりん?」
「ん、だいじょぶ。なんか掴んだ」
「なん、だと……!?」
 眷属たちの驚愕をよそに、祭莉は軽々と庭園に跳び降りる。そして爽やかな早春の光を浴びながら、すかさずおひさまのような白炎を展開した。
 それはまるで、
「ん、ここがコートね!」
 コートだった。実は羽つきという遊びにも結構厳密なルールがあるらしいのだが、そもそもコートがあるということさえ知らない人も多いに違いない。
「睦月ちゃん応援ヨロシク!」
「が、がんばれー」
 手をメガホンにして一生懸命に応援する睦月。杏のユーベルコードである、|あたたかな光《マモリノカベ》でしっかり守られているので、安心だ。
「ククク、我ら鏡餅怪人と羽根つきで勝負しようとは、笑止千万!」
「ふふ、わたしの羽根つきの腕を知らないね?」
 カッコよく羽子板を構える杏。
「打てば予測不可能な場所へと飛ぶこの魔球、受けてみるが良し」
「ま、魔球だと!」
「慌てるな! 鏡餅怪人の恐ろしさを見せてやれ!」
 思いっきり真に受けているが、杏の言う予測不可能ってのは……いやこれ以上はやめておこう。
 というわけで、多くの鏡餅怪人たちを相手取っての羽根つきが始まった。獅子舞たちはちゃっかり観戦モードだ。
「スマーッシュ!」
「ぐべえ!?」
 祭莉の放った強烈な羽根が直撃し、体をヒビ割れさせながらスローモーションのように倒れていく鏡餅怪人A。
「くっ、鏡餅怪人たるものが羽つきで負けるものか!」
 別に鏡餅と羽つきは関係ないのだが、どうもそういう矜持があるらしく勢いよくサーブする鏡餅怪人B。だがその羽根は祭莉に命中せず、それどころか明後日の方向に飛んでいった。
「とおっ!」
 杏も、すぱーんっと一球目を打ったものの、羽根はどこかその辺の地面にずぼっと突き刺さった。

「「視界が悪い!」」

 思わず声を合わせてしまう杏と鏡餅怪人B。
「ごめんってー」
 もわもわした白炎で視界は良いとは言えないものの、それは眷属たちも同じ。白炎の効果でやる気を吸収されている分、向こうのほうが圧倒的不利であり、
「それじゃ、もう一球!」
 杏の声が響くと同時、前衛の祭莉が背に殺気を感じてぶるりと震えた。
「っぶなっ!?」
 ひらりと身を躱す祭莉。
「げふう!?」
「アンちゃん、ちゃんと狙ってー! って……あれ?」
 すんでのところで祭莉は避けたわけだが、羽根はそのままとんでもない弧を描いて観戦していた獅子舞の真眉間に直撃、昏倒させていた。あわれ獅子舞。
「どんな魔球でも打ち返す、それがわたしの知る羽根つきのマナー。マナー守って?」
「あんなの返せるかあっ!」
 確かに魔球といえば魔球である。
「が、がんばれー!」
 睦月がユーベルコードで守られていて本当によかった。
「ぐぬう俺たち獅子舞は見ているしかない……|手がない《・・・・》からな!」
「口は出せるが」
「手は出せぬ!」
 わなわなする獅子舞たちだったが、そこでハッと気がついた。
「そうだ、コートなんぞがあるからすっかり釣り込まれていたが!」
「そもそもルールに縛られる必要などないではないか!」
 ……だいぶ今更だったが、そうと分かればと、獅子舞たちが猛ダッシュで祭莉や杏に噛みつき攻撃を仕掛ける! 睦月を狙うという話はどうなったのか。
 鏡餅怪人も援護射撃とばかりに羽根を飛ばしてくるが。
 祭莉の表情は不敵な笑みだ。
 羽子板をすちゃっと構えて、待ってましたとばかりに、
「カウンターホームラン!」
「ぐえぇ!」
 羽根ごとふっとばされる鏡餅怪人と獅子舞。
 それを目の当たりにして、羽子板を構えたまま固まる鏡餅怪人。
「ところで残りの鏡餅さん、割れたらどのようにおもてなしして欲しい? あんころ? 安倍川?」
 圧をかける杏。
「希望通り美味しく食してあげる」
 ふ、と笑う少女に、鏡餅怪人はぞわぞわと怖気を震った。

 |戦闘《しあい》終了後、庭には鏡餅怪人たちの破片が鏡開きみたいに転がっていたそうな。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
しっかりと守り抜きます
睦月さん、大丈夫ですからご安心くださいね

眷属さん方のお姿は
お正月らしくて賑やかですね
ですので再び起動したリートで奏でるは
やっぱりお正月っぽい曲です
眷属さん方の動きとリズムを合わせながら
コミカルに演奏します

勿論BGMだけが目的じゃないですよ
メロディを具現化した光の五線譜が
四方八方へと拡がって行きます
眷属さん方は五線譜に絡め取られれて
出現した場所から動けなくなります

そして段々と眷属さん方の動きのリズムが
判ってきましたら
燃え上がるような黒い影の起こりも捉えて
黒い影の段階で足止めしちゃいます

因みに羽子板そのものも足止めして
遠距離攻撃も防ぐつもりですけれども
それが叶わない時には
飛んでくる羽根を宙に足止めして防御します

万が一
何かの攻撃で睦月さんが狙われた時には
猫ジャンプで軌道に入って庇います
ご心配なく
私は大丈夫です

足止めされている眷属さん達を
魔力のメロディで次々と倒して行きます
確かにいい腹ごなしになりました
海でゆっくりお休みくださいね



「お前たちは永遠に正月に囚われ続けるのだ!」
「めでたいめでたい、ああめでたい!」
 鏡餅怪人が松飾りのような三連竹槍を天高く掲げれば、獅子舞が顎をガッチガッチと鳴らす。どこか気の抜ける風貌ではあるけれど……言っていることは恐ろしいと箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)は思う。
「なにやら、お正月らしくて賑やかですね。ですが好きにはさせませんよ」
 ちらと一瞬だけ後ろに視線を流せば、睦月は青ざめていた。眷属たちが次から次へと出てくるのを見て、流石に怖くなってしまったのだろう。
 仄々は優しく、それでいて凛とした声色で彼女に告げた。
「約束した通り、しっかりと守り抜きます。睦月さん、大丈夫ですからご安心くださいね」
 怯え混じりの頷き。しかし言葉は確かに届いていた。少女の瞳には信頼と、すがるような光が揺らめいている。今度は仄々が頷く番だった。そうして敵に向き直ったケットシーの頼もしさは、まさにマジックナイトと呼ぶに相応しい。
 そして仄々は同時に、シンフォニアでもある。
「さあ、再び音楽を奏でるといたしましょう」
 
 殺気立つ眷属たちに、まるで舞台に上がった演奏家のように一礼してみせた仄々は、|蒸気機関式竪琴《カッツェンリート》を抱えていた。この悪夢の雰囲気に合わせて奏でられるのは、
 ――やっぱりお正月っぽい曲がいいですね。
 雅な和の音階が緩やかに響き渡る。ちゃんちゃかちゃんちゃか――コミカルなリズムに獅子舞が思わず体をくねらせながら伸び上がり、鏡餅怪人も危うく踊りだしそうになっていた。
「よいぞよいぞ! ああ快い!
「こいつは愉快、あら愉快」
「ま、惑わされるな! ノッている場合ではないッ!」
 ハッと我に返った眷属たちは、仄々に一斉攻撃を仕掛けた。まずは彼らにとって耳障りな音楽を止めようというのだろう。獅子舞は突っ込み、鏡餅怪人は羽子板を構えて遠距離攻撃の構えを見せる。
 だが、彼らは明らかに出遅れた。
 それに、仄々の攻撃はまだ終わってはいない。
「音と光の守護を――」
 緩やかな和の旋律を具現化した光の五線譜が、仄々と睦月を中心にして波のように拡がっていく。
「なっ、なっ……!」
「こはそもいかに!?」
「これは動けん、動けんぞ!」
 優しい光を放つ五線譜は眷属たちの動きを完全に拘束していた。あんぐり口を開けたまま固まった獅子舞やら、羽根を打ち出そうとサーブの構えを見せたままで止まった鏡餅怪人やら。それらはまるで、お正月を彩る置物のようだ。
「この程度で調子に乗るなよ!」
「まだまだ戦いはこれからよ!」
 敵の出現は止まらない。影が炎のように燃え上がったかと思うと、四方八方から眷属たちが襲いかかってくる。
 不安げに周囲を見回す睦月。
「大丈夫ですよ。どうか私の傍から離れないでいてくださいね」
 言いながら、仄々はリートを抱えて身構えた。
「それにしても次々に出てきますね。数で攻めるのがこの悪夢のやり方なのでしょうか」
 一体一体は大したことがなくとも、集まれば脅威となる。数を頼りに次々と打ち出されるのは羽つきに使われるような羽根だ。その殆どは狙いも滅茶苦茶であったものの、幾筋かがこちらめがけて飛んでくる。
「させませんよ」
 落ち着いてそれを見極めた仄々は、猫ジャンプしながら咄嗟に腰の魔法剣を引き抜いた。宙に閃光を描く|両刃細身の魔法剣《カッツェンナーゲル》。跳んでは斬り跳んでは斬る。着地して剣を鞘に納めるのとほぼ同時に、飛んできた羽根のすべてがすぱりと切れて地に落ちていた。
「すごい……」
 心からの感嘆を口にしたのは、もちろん傍らで守られていた睦月だ。
 一瞬、幸運が敵に微笑むかと思えたけれど……全く危うげなく仄々は睦月を守りきっていたのである。
「さあ、二曲目です。皆さんのリズムも掴めたことですし、盛り上げていきましょうか」
 奏でられる旋律は、ここでも共に戦う猟兵への援護となっていた。
 魔力を込めた五線譜に囚われた眷属たちは、流れ来る音符にべしばしと叩かれてそのたびに間抜けな呻きを上げ、黒い塵となって消滅していく。
「に、逃げろや逃げろ!」
「あれに捕まってはたまらん!」
 二曲、三曲と演奏する内に、仄々は眷属たちの動きや出現パターンまでしっかりと把握していた。燃え上がる影が形を取った直後に五線譜に捕われ、無事だったものも攻撃する|暇《いとま》なく逃げ出す始末。全周囲に流れる五線譜から逃げ出すことなど、不可能と言っていい。
 悠揚迫らぬ態度と口調で仄々は告げた。
「これは確かに、いい腹ごなしになりそうです。骸の海でゆっくりお休みくださいね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

桂・真志
弟分の所在(f43975)と

…頓痴気だな
言いようがないが敵は敵なりに大真面目ではあるか
と…いかん、彼女が怯えている

「絶対に守る。信じて貰えないか」
十二分に勝機はある
パニックで逃げだすなどが一番危険だし
可能な限り柔らかい声で伝えよう

「倒れる事もないと約束しよう」
殺戮・極を詠唱したら武器を持つ限り俺は死なない

実体化の影は絶対に見落とせないから
気や血は使えないな
「所在、近寄せるなよ」

殺しを彼女に見せるのは気が引けるが
相手は化物
「このまま此処で!」
目の端で実体化しかけた影を両断する

所在の糸は変幻自在
彼女を守りつつ攻勢もかけられる
それに目も早い

的確な指示でより確殺を期せる
湧き出さなくなるまで闘い続けよう


凶月・所在
兄貴分のまさにー(f43974)と

なんだかわいわいしてるし
ちょっと可愛い気がしちゃうね
あ、でも夢って見てる人からすると
良くわかんない方が怖いんだよね

「大丈夫。僕達が必ず守るからね」
まさにーと一緒に声をかけてから
周囲に糸を漂わせて広げるよ
糸に触れれば死角だろうと僕には解るし
そのまま絡めとって捕縛の罠にも

「まさにー!準備おっけだよ!」
殺戮の流儀で不死になったら
後は糸からの感覚と視覚に集中して
睦月お姉さんを守りながら戦うよ

予兆の黒い影も絶対見逃さないよ
常に周りを見ながら対処して
まさにーの死角の場合はすぐに言うよ
「まさにー!4時と7時の方向から二体!」

襲撃が終わるまできっちり
絶対に触れさせないからね



「これ以上の妨害は許さんぞ!」
「お前らも終わらない正月に囚われるがいい!」
 獅子舞と鏡餅怪人たちが寄り集まって気炎を吐いていた。
 台詞はともかくそのイマイチ迫力のない姿に、凶月・所在(優しい殺人鬼・f43975)は思わずくすりと笑ってしまう。
「ご御当地怪人みたいだよね、あれ」
 この世界で戦ってきた者ならば、そんな連想も決して不自然なものではない。もちろん鏡餅|怪人《・・》と言っても、ご当地怪人のたぐいではないのだが。見た目といい雰囲気といい、かなりそれっぽかった。
「……頓痴気だな」
 ぼそりと呟いた桂・真志(新世界に光望む者・f43974)も敵の在り様をよく言い表している。
「なんだとー!」
「馬鹿にしおってからに!」
 放たれた矢のようなその言の葉が耳に届いたらしく、獅子舞が伸び上がって口をガチガチさせた。本物の獅子舞は中に人が入っているが、目の前の連中に、もちろん中身などありはしない。
「なんだかわいわいしてるし、ちょっと可愛い気がしちゃうね」
「あれでも敵は敵なりに大真面目ではあるのか」
 些かならず気が抜ける相手だが――思いつつ真志が背後を気にすると、睦月は意外に蒼白な顔をしていた。
 ――と……いかん、彼女が怯えている。
「夢って見てる人からすると、良くわかんない方が怖いんだよね」
 どうやら所在の言う通りのようだ。
 これも悪夢らしいといえば悪夢『らしい』。
 目が爛々としている獅子舞に射竦められるようにして、睦月は確かに怖がっていた。
 ――獅子舞って、そういうところあるのかも。
 所在が、ちらと思う。
 子供にとって獅子舞というのは恐怖の対象となり得る。頭を噛まれて大泣きするなんてよくある光景だからだ。睦月は噛まれて泣くほど幼くはないようだが、もしかすると、幼い頃のトラウマが刺激されているのかも知れない。
「大丈夫。まさにーと僕が必ず守るからね」
「ああ。絶対に守る。信じて貰えないか」
 どこか楽しげでもある所在の声。
 そして真志の低く柔らかな声が続く。
 一拍置いて、睦月が深く頷いた。
「……信じます」
 ――……よし。
 真志としては、睦月がパニックを起こして逃げ出すのを最も警戒していた。敵が何処から出てくるかわからない以上、逃げた先で襲われる可能性は高い。
「十二分に勝機はある」
 棟に呪文が刻まれた巨大な刀――斬艦刀闇断を構える真志。
「倒れる事もないと約束しよう」
「大丈夫だから、じっとしていてね」
 そして微塵も気圧されることなく立つ所在。
 二人の背中のなんと頼もしいことか。

 イライラしていたのは、攻撃の機を窺っていた眷属たちだ。
 所在と真志に|圧《お》されて、うかつに動けないらしい。
 睦月がいるので所在も真志も抑えているが――もし二人が全力で鏖殺の気を解き放っていたら、彼らはそれだけで腰を抜かしたかも知れない。
「守るだと! やれるものならやってみるがいい!」
「そうだそうだ、痛い目を見るぞ!」
 威嚇していても埒が明かないとばかりに、眷属たちが動いた。
 獅子舞が突進し、その後に鏡餅怪人たちが続く。
 ――派手に攻めてきたね。もしかしてオトリ、ってやつかな?
 所在は襲いかかってくる眷属たちの攻撃を躱しながら、周囲に目を配っていた。鏡餅怪人の門松みたいな竹槍を紙一重で避け、バックステップで獅子舞の噛みつきを躱す。舞うような身のこなしを披露しつつ敵の動きを窺い、そして。
「所在、近寄らせるなよ」
「大丈夫、準備おっけだよ!」
 真志の弟分への信頼は揺るぎない。
 ――実体化の影は絶対に見落とせないから、気や血は使えないな。
 思いながら、突っ込んできた敵を真志は斬艦刀の一振りで塵へと変える。
 一閃一殺。
 剣風が唸るところ、間の抜けた眷属たちがこれまた間の抜けた悲鳴を上げて文字通り|斬り飛ばされる《・・・・・・・》。
 ――殺しを彼女に見せるのは気が引けるが、相手は化物。
 他の猟兵が正月らしい曲を奏でて、殺伐たる戦場を彩ってくれているのは救いだった。
 見た目からして油断を誘う敵だったが、気を抜くような真志ではない。
 ――奴らの脅威は、数だ。
 そう見て取った真志は、敵が出現する前兆である燃え上がる影の炎を目の端で捉え――実体化しかけたそれをも両断してのけた。
 形をなす前に吹き飛ぶ眷属。
 それでも敵の増援は止まらず四方八方から攻めてくる。
「まさにー! 4時と7時の方向から二体!」
「応!」
「ば、馬鹿な! なぜ対応できる!?」
 近づいた敵から屠っていく真志は、すぐに別の個体を追跡し、斬撃を|飛ばした《・・・・》。
 その卓越した技倆を以て振るわれる剣は、戦場に嵐を巻き起こすかのようだ。
 眷属としては大勢で攻めかかるよりほかないが――真志の思った通り、その出現数が減る気配はまだない。
「ぐぬう、だが戦いは数よ!」
「押しつぶしてくれる!」
「……眷属ごときが、調子に乗るなよ」
 まるで激流のように押し寄せる眷属どもを、逆に蹴散らす真志。その鋭い視線が所在に向けられた。
「ふはははは、これは防げま……ぐああああっ!?」
「ちょっと甘く見すぎなんじゃない?」
 睦月に近づこうとした獅子舞の頭と胴体がすぱりと泣き別れになり、四方八方から襲いかかった鏡餅怪人が食べやすそうな大きさにカットされる。ついでに鏡餅怪人が羽子板を使って飛ばしてきた羽根も、二つに分かれて地に落ちていた。
「こ、これは……!」
「見えぬ……!」
「何をしたというのだ!?」
 ヒュオ、となにかが空を裂く音だけ響いた。落ち着いてみれば虚空を奔る輝線を捉えられたかも知れないが、慌てふためいている眷属たちにそれを求めるのは酷だろう。
 |それ《・・》が月鋼糸であると気付く間もなく、眷属たちは斃れている――。
 なぜ所在が敵の接近を精確に伝えることが出来たのか。種明かしをされぬまま眷属たちは切り刻まれるほかない。
 ――糸に触れれば死角だろうと僕には解る。
 故に、
「睦月お姉さんには、絶対触れさせないからね」
「悪夢の中だからと言ってまさか無尽蔵ではあるまい。湧き出なくなるまで闘い続けよう」
 これぞ|殺戮・極《サツリクノキワミ》。
 そして|殺戮の流儀《サツリクノココロガマエ》。
 巧みな連携で、二人は睦月を守り抜く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

山吹・夕凪
雪音さん(f29413)と

思惑から外れれば暴力とは
この風雅な景観に似合わない者達ですね
なら、私たちは武を以て悪夢を払うのみです

影の前兆を感じて庭園へと降り立ちましょう
同時に風を操る術にて雪と花を舞いあげ、その中に私と雪音さんが溶け込むように
儚き冬と春の美しさと共に参りましょう
「雪と花を纏うは、さながら雪月花。悪夢を払う幻想の美をご覧にいれましょう」

睦月さんに迫る相手は特に操る風の雪と花で視界を奪い
更には白と薄紅の景観に、この白い身を溶け込ませながら早業での斬撃で片付けて参ります

心眼で隙を捉え、花風と共にUCで敵群の間を駆け抜けながら擦れ違い様に高速斬撃
睦月さんに脅威及ぶより速く、勝負を決します


月白・雪音
夕凪様(f43325)と

…正月の祝いを原型とする配下を扱うも、或いは祝うべき年明けを悪夢と刻ませるが為でしょうか。
それが戯れなれば無粋に過ぎると言う他無し。


庭園に降り、UC発動にて怪力、グラップル、残像での無手格闘にて戦闘展開
夕凪様の舞わせる雪花に紛れ敵性を殲滅致しましょう。

敵の攻撃は野生の勘、見切りにて感知し
獅子舞が食らい付かんとすれば顎に拳を叩き込み、羽根を飛ばされれば手近な相手の羽子板を奪い怪力、カウンターにて打ち返し
渡会様に向かう敵はアイテム『氷柱芯』を飛ばし絡め、怪力で引き寄せ急所に一撃を

美とは無縁の殺しの業なれど、雪花を纏い流れるが如く型を繋がば些か美麗には映りましょうか。



「こいつら……つ、強いぞ……!」
「だが、まだ終わったわけではない!」
 眷属たちも必死だった。
 獅子舞に鏡餅怪人の群れとなれば、些か間が抜けているものの、次から次へと湧き出てくるのは如何にも厄介だ。流石に無尽蔵というわけではないはずだが、敵も持てる力を最大限に発揮して妨害者たる猟兵を押し潰そうとしているのだろう。
「思惑から外れれば暴力とは、この風雅な景観に似合わない者達ですね」
 山吹・夕凪(雪色の吐息・f43325)が長い睫毛に縁取られた目を細める。
「……正月の祝いを原型とする配下を扱うも、或いは祝うべき年明けを悪夢と刻ませるが為でしょうか」
 その隣では月白・雪音(月輪氷華・f29413)が白に映える赤の双眸を、群れなす眷属どもに向けていた。敵のどれもが形だけを見れば正月を盛り立てる縁起もの。|実《げ》に祝と呪は紙一重。めでたい一日を打ち毀すことで、羅刹は少女を苛もうとしているのか。
「それが戯れなれば無粋に過ぎると言う他無し」
 言った雪音の視線の先。
 既に形をなしていた眷属の周囲で、更なる影が燃え上がった。
「参りましょう、夕凪様」
「ええ。私たちは武を以てこの悪夢を払うのみです」
 凄まじい数を誇る敵を前に、二人は風を思わせる軽やかさで庭園へと跳んだ。
 ふわりと舞い上がったのは雪と花。
 白と薄紅に包まれながら、蝟集する眷属の前に降り立った夕凪と雪音。その有り様は去りゆく冬と訪れる春の美しさを、このひとときに表しているかのようだ。
「いざ」
 瑠璃めいた瞳に光を湛え、抜き払ったは『涙切』。濡れたかのように艶やかな黒、それを湛える|一水《ひとふり》を、夕凪は凛と脇構えに。
 並び立つ雪音は拳を構えると不可視の気を放つ。その凄まじさは、無粋な眷属の群れをぞわりと震え上がらせるほど。心に秘めるは獣の衝動、それを律する武は磨き抜かれ、構えは飽くまで美しい。
「雪と花を纏うは、さながら雪月花。悪夢を払う幻想の美をご覧にいれましょう」
 夕凪が可憐な唇で言葉を紡ぎ終えるが早いか、風に舞う雪と花が眷属どもの視界を美麗な紗幕さながらに覆った。悪夢とは思えぬ光景だが、或いは夢の中だからこそ、その技は華麗さを増しているのかも知れない。
「ぬう、小癪な」
「このような小細工で我々を止められると思うてか!」
 気炎を吐く獅子舞と鏡餅の怪人だが、彼らにはこの状況を打開する策がない。
「その白を血に染めて」
「この顎で噛み砕いてくれるぞ!」
 加えてどうやら眷属たちは、やはりと言おうかなんと言おうか、風雅を解する心さえ持ち合わせてはいない様子。
 夕凪と雪音を取り囲んだ獅子舞が歯をガチガチ鳴らし、鏡餅の怪人が門松さながらの竹槍を構えて突っかかってくる。
 だが眷属たちは、舞い広がった雪と花に、我と我が身を飛び込ませる以外にない。見目には美しい光景も、飛び込めば嵐の如し。
 がぶりと獅子舞が噛みついたが、鳴ったのは歯と歯が噛みあう音のみ。鏡餅怪人の竹槍は雪を貫き花を飛ばしたが、ただそれだけだ。
 ――美とは無縁の殺しの業なれど。
 そして攻撃が失敗に終わった刹那、獅子舞の顎が――いや顔面そのものが、振り上げられた掌底に文字通り粉砕されていた。すぐさま他の眷属に拳を見舞いながら、雪音は睦月を案じる。
 ――雪花を纏い流れるが如く型を繋がば些か美麗には映りましょうか。
 身のこなしに合わせて、雪音の白絹のような髪がふわと揺れ、
「二手に分かれましょうか雪音さん」
「そう致しましょう、夕凪様」
 背中合わせに頷きあった両者が弾かれるようにして敵の群れに突っ込む。余りにも圧倒的だ。切られ、砕かれ、塵と化した眷属は万花飛雪の中に消えていく。
「……綺麗…………」
 その身を守られながらも先刻から眷属と猟兵との戦いを目の当たりにしていた睦月は、超常の美景と体術・剣術を前に、恐らく本能的な感嘆の声を口にしていた。
「おのれ……!」
 接近戦は不利と見て取ったか、羽子板で羽根を打ち飛ばしてくる鏡餅怪人。羽根が雪と花を貫くのを見たその眷属は、だが次の瞬間、驚愕の声を発していた。それも無理からぬこと。
 ――飛び道具は少々厄介ですが。
 征矢の如くに飛んだ羽根はあろうことか雪音の手で|掴まれ《・・・》、即座に投げ返されていたのである。悲鳴。鏡餅怪人が鏡開きさながらに体を砕かれて背から倒れる。
「目に頼りすぎるからそうなるのです」
 一体一体は、その程度の敵なのだ。対して雪音の持つ野生の勘は全く以て尋常なものではない。眷属たちが如何に仕掛けようとも、先手を打ってその目論見を粉砕する――!
 超常の絶景の中で雪音がその拳技を振るい、割れ砕かれた眷属たちが瞬く間にその数を減らしていく。
 それでも敵の数はなお圧倒的だが、
「数で圧してこようが、それぞれの隙を見い出せば」
 冴え渡るは|白妙の月影《シロタエノツキカゲ》。雪と花に包まれた眷属の群れに夕凪が分け入ったかと思うと、不可視の斬撃を以て斬り飛ばしていく。目にも止まらぬ早業とはまさにこのこと。幾多の戦いを経て磨き抜かれた剣技によって、夕凪は群集する眷属どもを瞬く間に屠り、黒い塵と化させる。
 まさに無双の剣と拳。
「なんという武よ……!」
「こ、こうなれば……!」
 残る眷属たちは最後の賭けに出た。大部分を雪音と夕凪に向かわせ、僅かなものが睦月を狙う。戦う力を持たぬエスパーごとき、一体でも届けば事足りる……!
「……行かせると思いましたか」
 雪音の声。
 それを聞き取った鏡餅怪人は直後、|氷柱芯《ワイヤーアンカー》を背に突きたてられていた。そもそも夕凪の舞い上げた雪と花が怪人の視界を封じ、睦月の発見を遅らせていたのである。
 哀れな鏡餅怪人はじたばたともがいたが、雪音の怪力に抗えるはずもない。
 瞬時に引き寄せられたと見えた瞬間、ヒュオと拳が空を裂く。
 刹那、怪人の体は粉々に打ち砕かれていた。雪のようにその破片を散らしながら。

 薄紅と白に、黒が混じって消えていく。
 風が二人の髪をふわりと撫でたその後に、眷属の姿は影も形もない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『「箕輪御前」鈴山・虎子』

POW   :    箕輪崩し
【鋼糸】が命中した敵の部位ひとつを捕縛し、引き寄せる。
SPD   :    虎殺し
【羅刹の気を帯びた鋼糸】が命中した対象を切断する。攻撃前に「【あんたの命、いただくよ】」と宣告すれば命中率上昇、しなければ低下。
WIZ   :    羅刹喝破
戦場内に【羅刹の気迫】を放つ。[羅刹の気迫]は弱者を逃走させ、戦場に残った強者の居場所を【刺青の疼き】で把握する。

イラスト:姫子

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「数だけは揃えた筈だが、だらしないもんだねえ」
 |初春《はつはる》の日差しが麗らかな日本庭園に、どこか雅さの漂う声が響き渡った。
 しゅるりと和服を衣摺れさせてどこからともなく現れしは『箕輪御前』鈴山・虎子。
 刺青羅刹の名を冠し、同族の刺青を奪っては力を増してきた鬼である。
 その羅刹が、なぜシャドウのような事件を起こしているのかは判然としない。
 どのみち、訊いたところで満足な答えなど返っては来まい。
「ちょいと気に入ったんでねえ、苛めて優しくして手元に置いてやろうかと思ったんだが、まさか邪魔が入るたァ思わなかったよ」
 ここに現れた虎子は過去のことなどどこ吹く風だ。ただ自らの無聊を慰めるために少女を苦しめ、支配しようとしている。
「死合うんだろう? なら名乗っておこうか。あたいは、鈴山・虎子。赤城山のトラたぁ、あたしの事さ。さぁ――派手に戦おうぜ」
 手を振る動きとともに、その得物たる鋼糸が空を裂いた。
桂・真志
弟分の所在(f43975)と

羅刹佰鬼陣で見たな、こいつ
刺青事件もか

「可愛がるだけ、か」
答えは返らんかも知れんが
生きるも逃げるも目的があった
今回も目論見があっておかしくはない

尤も受け答えの内容がどうであれ
「死合うしかないのは同意だ」

刃を構える
名乗られたからには名乗らんとな
「桂真志という…元は灼滅者だ」

「君は隠れてくれ」
今一度可能な限り優しい声音で
「守り抜くと約束しよう」

仮に俺が出遅れても
所在の糸は彼奴と同等に早い!

鋼糸の鈍色の音が皮切りだ
飛び退り糸を躱してから
黒炎蝕焼斬を詠唱

鏖殺の気と灼熱の血も湧き立たせ纏い
全速で急降下
全ての攻撃手段で削り
彼女には攻撃させず所在の攻撃の隙を作る
「逃すなよ所在!」


凶月・所在
兄貴分のまさにー(f43974)と

まさにーの言う通り
あの事件を引き起こした敵だね

「渡会お姉さんは渡さないよ」
あの頃僕はとっても弱かったんだ
だけど今は強く前に進める
殺して終わりの殺意だけじゃなく
誰かを守る為の殺意で戦うよ
「僕は、元灼滅者の凶月所在だよ」

同じ糸使いとして戦いも負けない
手を振るような大きな動作は要らないんだ
指をつっと動かして、殺意を込めて
それだけで月鋼糸は応えてくれるから
まさにーにも渡会お姉さんにも触れさせない
「負けないよ!」

それにまさにーが絶対
隙を作ってくれるのも解るんだ
だから僕は、今度は逃がさない為に
全力の殺意を込めて
自分が傷つくのも構わないで
ゼロ距離で技を放つよ
「貴女を殺すね」



 ここが正月に縛られた悪夢であるならば、和服姿の羅刹はさほど不似合いではないかも知れない。だがその殺気といい、肌を彩る刺青といい、嫣然たるその女が人の心を打ち壊さんとする人外の存在であることは明らかだ。
 そうでなくても、元・灼滅者である猟兵たちにとってみれば一目瞭然である。
 眼光鋭く斬艦刀闇断を構えながら、桂・真志(新世界に光望む者・f43974)は在りし日の戦いを回顧する。赤城山山麓に広がる大戦場。あの修羅の巷を戦い抜いた記憶を。
「羅刹佰鬼陣で見たな、こいつ。刺青事件もか」
「まさにーの言う通り、あの事件を引き起こした敵だね」
 赤城山を住処としていた女羅刹は、他の羅刹から刺青を奪うことで力を増してきた。それこそが眼前の『箕輪御前』鈴山・虎子だ。凶月・所在(優しい殺人鬼・f43975)も、その凶行は記憶にある。
「訳知り顔だねえ。でも、あたいにとって過去のことなんざどうでもいいのさ。大事なのは|今《・》ってことさね」
 フン、と真志は鼻で笑った。
 真っ当なことを言っているようにも聞こえるが、やっていることはただの弱いもの苛めだ。
「渡会お姉さんは渡さないよ」
 兄貴分と共に強大な羅刹を前にしながら、所在は思う。
 こんな風に対峙することなんて、きっと|あの時《・・・》は出来なかったに違いない。
 ――あの頃僕はとっても弱かったんだ。だけど今は強く前に進める。
 瞳に宿るは堅き意志。気圧されることなき心の証。
「羅刹らしいといえばらしいが。可愛がるだけか」
 探るような、否、真実を抉るような真志の視線が虎子を射抜く。
 ――生きるも逃げるも目的があった。今回も目論見があっておかしくはない。
 あの戦争で、虎子は死の宿命を付与されながらも、しぶとく生き残った。生き延びるという点において、この羅刹は傑出していたといっていい。
「さてねえ? でも悪夢に入り込むのも悪くないってことがわかったよ。持つべきものはなんとやら、だねぇ」
 なにかを隠しているのか、或いはただ言葉で弄んでいるだけなのか。
 何にせよ、闘気を発する真志を威圧し返すだけでも、この羅刹の実力のほどが窺える。
「ああそうだ、その娘にも刺青を入れてやろうかねぇ? なァに、なんとでもできようさね」
 刺すような視線を向けられて、真志の背後に守られていた睦月が震えた。
「君は隠れてくれ」
 優しい声色。それが、彼にできる限り最大の努力の賜物だと、睦月は気付いたようだった。そう、この二人は信頼できる。何度も証明してもらったのだ。
「守り抜くと約束しよう」
 深く頷く少女の瞳には、確かな光が宿っている。
 あとは眼前の羅刹を討つのみ。
「それじゃ、命を奪い合うしかないねえ」
「死合うしかないのは同意だ」
「殺して終わりの殺意だけじゃなく、誰かを守る為の殺意で戦うよ」
 虎子が構える。
「桂真志という……元は灼滅者だ」
「僕は、元灼滅者の凶月所在だよ」
 真志と所在の声が連なる。
「ほう、そりゃあいい。こっちも名乗り直そうかい。あたいは赤城山のトラ、鈴山虎子だ。どっちが強いか、力比べといこうか!」

 戦いに身を投じる者にとって、自らの得物の特性を理解し活かすことは必要不可欠だ。如何なる戦場でも自由自在に武器を操れるのが灼滅者であり猟兵であるが――だからといって装備それぞれの特性がなかったことになるわけではない。
 その点、真志の斬艦刀闇断は初動において確かに鋼糸に劣る。
 ――出遅れるのは承知の上だ。
 |理解《わか》っている。
 なぜならば弟分が得意とする武器もまた、鋼糸だからである。
 ――所在の糸は彼奴と同等に速い!
 特徴的な風切りの音。
 糸と糸がぶつかり合い、弾かれる音。
「やるじゃないか。あたいの糸を凌ぐとはね」
「同じ糸使いとして負けられない」
 虎子の舞うような動きとともに放たれる鋼の糸は、戦いの心得を持たないものならば――いや、たとえそれなりの技を持つ者が相手でも瞬時に斬り殺せる程のもの。
 となれば一瞬の油断が命取りだ。所在は心を研ぎ澄ませて応戦する。全神経を集中させ、食い止める。
 ――手を振るような大きな動作は要らないんだ。
 指を動かし、殺意を乗せる。
 ――それだけで月鋼糸は応えてくれるから。
 培った技、使い慣れた武器への信用、そして兄貴分への信頼。
 揺るぎない思いと共に操る鋼糸が、虎子の攻撃を上回る!
 ――まさにーにも渡会お姉さんにも触れさせない!
 バシリとひときわ大きな音を立てて、月鋼糸が襲い来る鋼糸を弾き飛ばした!
「チィッ! なんだってんだい!」
「負けないよ、絶対に!」
 それに僕は一人で戦ってるんじゃない――虎子の鋼糸を弾いてしまうと、所在は横っ飛びに跳んだ。それこそ在りし日の灼滅者を彷彿とさせる戦いだ。前衛を担う真志がここぞと虎子の間合いに踏み込む!
 研ぎ澄まされた聴覚が風切る音を捉える。
 こういう時、目よりも耳の方が、より速く情報を伝えてくれるものだ。
「当たりはしない」
 真志は幾度目かの斬撃の後で、鋼の糸が自らの得物を狙っているのを看破した。
 腿力を込めて跳ぶ。
 後ろへ、高く――!
 その身に纏いしは燃え上がる黒炎の闘気――鏖殺の気と灼熱の血が混ざり合い、黒々とした業火と化しているのだ。武器と術理を注ぎ込んだそのユーベルコードこそ、まさしく|黒炎蝕焼斬《コクエンショクショウザン》!
 見上げた羅刹の女、その表情に浮かぶのは――驚愕。
「黒炎で蝕み、焼き……断ち斬る!」
「来るってのかい。やってみなよ、できるものならね!」
 猛烈な急降下――からの息もつかせぬ斬撃、斬撃、また斬撃! 剣風は触れただけで五体を斬り飛ばす竜巻めいて、これはたまらじと虎子は舌打ちとともに飛び退いた。打ち続く重い斬撃を紙一重で躱しながら虎子は鋼糸を飛ばすが、それさえ真志は剣風で吹き飛ばしてしまう。否、斬撃そのものを飛ばしているのだ!
 振り下ろし、斜め袈裟斬り、横薙ぎ、刺突、唐竹割り――巨大な武器を操っているとは思えぬ速度で繰り出される斬撃の連鎖。
 そして、
「|逃すな《・・・》よ所在!」
「大丈夫!」
 逃げ足の早い羅刹だ。それを知っているからこその真志の言葉でもあった。応じた所在が一瞬の内に虎子の懐に飛び込む。接近すら気付かせないその足運び、踏み込みは、まさに殺人鬼の技倆。
 ふわりと柔らかな金髪が揺れ、所在は虎子の耳元で死を告げた。

「貴女を殺すね」

「!?」
 瞠目。虎子得意の鋼糸もこの距離では大きな力を発揮しない。
 とすれば月鋼糸もまた同様に――? などと考えるのは早計というもの。
 そう、回転の予備動作とともに踏み込んだ所在は|違う《・・》。
 ザザザンッッ――殺意を込めて投じた月鋼糸が螺旋回転する波動を放ち、零距離で刺青羅刹の体を切り裂いた。横回転しながら吹き飛んだ虎子の体が、内側から爆ぜる。
 距離が近いほど威力を増す|螺旋切断の流儀《ラセンセツダンノココロガマエ》が虎子を完璧に捉え、大ダメージを与えたのだ!
「ガ、ハッ……!」
 派手に血を吐いて、虎子が雅な着物を鮮血に染めた。
 元・灼滅者の二人。
 その連携は今や、名高き刺青羅刹を凌ぐほどに強い――!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

ぴりっとする殺気
もぐもぐしているお餅も呑み込む勢いで素早く羅刹と相見えよう

まつりん、羅刹とシャドウって仲良かった?
おかあさん達、そゆこと言ってたっけ?
何はともあれ、女の子を虐めて喜ぶ変態おばさんは許さない
睦月、少し部屋に隠れてて
睦月とは離れるように庭園で勝負を挑むよ
睦月に代わり、おしおき。いざ覚悟

うさみん☆は小ささを活かし陽動担当
庭園の灯篭や縁側の柱を足場にジャンプ&ダッシュ
逃げ足も活用しつつ、虎子の周囲を動いて視界を邪魔してね
わたしはまつりんと波状攻撃を仕掛けるように動いてく

口上上等。わたしこそ、お命頂戴
【鎌鼬】
虎子の目を狙い投刀
まつりんの攻撃の手助けするよ


木元・祭莉
アンちゃん(f16565)、なんかスゴいおばちゃん出た!

羅刹?
うーん、うずめ様は聞いたコトあるけど……刺青コレクターの人たちだよね?
おばちゃんの刺青は、何モチーフ?
桜吹雪とか似合うと思うな!(お気楽)

ん、睦月ちゃんはお部屋で待機!
やぶさか☆ツインズが相手だゾ☆(横ピース)
そちらが赤城山の虎なら、こちらは木元村の狼だーい♪(がおう)

ふわり回って、舞妓さんチェンジ。
鋼糸を舞扇で打ち払いつつ、しずしずと舞を舞いながら、白炎を放射。
こちらに注意を引き付けて、アンちゃんの陽動やろーっと☆
和服はエレガントに着こなさなきゃね♪

あーあ、お節で伸びた寿命がまた縮んじゃった。
仕方ない、続きやろー♪(まだ 食べる)



「……んっ」
 赤茶の髪と同色の狼耳が、気配を敏感に察知してぴょこりと跳ねた。
 しゅると衣擦れの音を立てて殺気を放つのは『箕輪御前』鈴山・虎子。
 その姿を銀の瞳に捉えると、ついさっき新たな称号を獲得したばかりの木元・祭莉(銃弾を次から次へと叩き落とすなにかの達人・f16554)は思ったままの言葉を口にした。
「アンちゃん、なんかスゴいおばちゃん出た!」
「お、おば……!?」
 あまりにもテンプレな反応を見せる虎子。純真な言葉って恐ろしい。二人と戦う前から(心に)結構なダメージを受けてしまった羅刹の女は、青筋を立てて恐ろしいほどの気を揺らめかせる。
 ――ぴりっとする殺気。
 流石に、先程まで戦っていた眷属たちとはわけがちがう。そう見て取った木元・杏(杏世界の真実・f16565)も、祭莉と同じく羅刹の前に躍り出た。
 残像を描くその敏捷さたるや、お餅の早食いもかくやだ。……いやどんな喩えだって突っ込みが入りそうだが、それだけ|速い《・・》ということである。そして杏は実際にお餅をもぐもぐごっくんしていた。ちなみにこれは爆食いハンターならではの業なので、一般人、特にお年寄りは絶対に真似をしてはいけない。その餅を何処から切り取ってきたのかとかも突っ込んではいけない。
「随分とまた楽しんでくれたじゃないか、ええ? まさか、あんたたちみたいなのが来るとは思わなかったよ」
「うん、美味しかった」
「そういう意味じゃあないんだよッ!」
 虎子としては、タダで御馳走を大盤振る舞いしてやったようなものである。イライラするのも当然だったが、その苛立ちは杏にも祭莉にも全然伝わっていないようだ。
 そんなことより、
「まつりん、羅刹とシャドウって仲良かった? おかあさんたち、そゆこと言ってたっけ?」
「羅刹? うーん、うずめ様は聞いたコトあるけど……刺青コレクターの人たちだよね?」
「ホウ、よく知ってるじゃないか。それになかなか察しもいい。そうさ、刺青羅刹とはあたいのことさね」
「で、|おばちゃん《・・・・・》の刺青は、何モチーフ?」
 さらりと傷を抉りにかかる祭莉。彼自身に悪気はまったくない。
「おのれ、一度ならず二度までも! 見てわからないのかい?」
「名前は虎なのに、刺青は鬼みたいだよね」
 今度は杏がぽつり。
「うん。桜吹雪とか似合いそうだよね、アンちゃん!」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!」
 戦う前から完全に手玉に取られている虎子であった。
 なんだかとんでもなく殺気が高まっているようだが、それを向けられても、至ってお気楽な祭莉と全く動じない杏なのである。
「私がこれだけ殺気を向けても平気の平左ってやつかい。その肝っ玉は褒めてやるよ。だけどねえ、邪魔をするなら容赦はしないよ!」
 まるで火に油を注いだかのようだ。怒りの炎を燃え上がらせる女羅刹は、流石に鬼気迫るものがある。
 でも――だからなんだというのか。
「何はともあれ、女の子を虐めて喜ぶ変態おばさんは許さない」
「そうだ、許さないっ!」
「変……おば……!?」
 やっぱりありがちな反応を見せる虎子。
 怒りの炎にドバドバ油を注いでいくスタイルの二人に、和室に逃げていた睦月がさっきからハラハラしていた。
「睦月、少し部屋の奥に隠れてて」
「ん、睦月ちゃんはお部屋で待機! ここからはやぶさか☆ツインズが相手だゾ☆」
 二人して横ピースを決める杏と祭莉。
 それにしてもこの双子、息ぴったりである。
「頑張って……!」
 二人の後ろから届いたのは、さっきの応援とはまた少し異なる、心からの信頼と願いが込められた言葉。それをしっかりと受け止めて、杏と祭莉は強力な羅刹といよいよ戦いを開始する。
 お正月は本来、新しい一年を祝い、幸あれと願う日。
 それを台無しにして、心を壊そうとするなんて許せない。
「睦月に代わり、おしおき。いざ覚悟」

「赤城山のトラに挑むなんざ、とんだ命知らずだね。いいさ、その命――あたいがいただくよ!」
「そちらが赤城山の虎なら、こちらは木元村の狼だーい♪」
 がおう、とポーズを取る祭莉。
「口上上等。わたしこそ、お命頂戴」
 杏は両手で持っていたうさみみメイド・うさみん☆を地に落とした。うさ耳付メイドさん人形は着地の瞬間、くるくるとバレエ・ダンスのように回転して。
「さあさあ、とくとご覧あれー♪ 」
 祭莉がユーベルコードの力で変身を遂げる。うさみん☆といっしょにくるくる回転すると、白い花弁っぽいキラキラしたエフェクトに包まれて舞妓姿に変わったのだ。
 まさにこの戦場にうってつけの|白蓮の舞《フェスティバル・オン・ステージ》。
 ――これでアンちゃんの陽動やろーっと☆
 呼吸を合わせて、
「行って、うさみん☆」
 うさみん☆が真っ先に地を蹴って跳ぶ。
「チッ、小細工を……!」
 虎子は苛立たしげに鋼糸で切り裂こうとするも、そうは問屋がおろさない。確かに風切りの音を立てて飛ぶ鋼の糸は、うさみん☆を無惨に引き裂くだけの力を持っている。だがそれは、まともに当たればの話だ。
 うさみん☆は和風庭園という地形を活かし、灯籠や縁側の柱、そして瓦屋根へと跳び移り、跳躍跳躍また跳躍。身軽さを活かして、飛んでくる鋼糸を躱していく。そうして勢いそのまま虎子のそばに着地すると、周囲を高速で飛び跳ねるようにして妨害を始めた。
「チッ!」
 虎子は舞うように鋼糸を操るも、糸は一向に手応えを寄越さない。
「そっちばっかりでいいの?」
 杏の手の中で、白銀の光が変形自在な剣へと変わる。灯る陽光を振るえば、穏やかな春の光が花弁となって舞い散り、虎子の体勢を崩す。
「和服はエレガントに着こなさなきゃね♪」
「あたいが着こなしてないとでもいいたいのかい!?」
 それにしても今日の祭莉の言葉選びは実に冴えている。いっそそういう攻撃なんじゃないかと思えるほどに(しかし本人は至って無邪気に)虎子の胸をグサグサ刺していくのだ。確かに虎子は、和服を着崩しすぎている。怒ったあたり地味に自覚があるらしいが、案外……というかかなり被害妄想の気があるようだ。
「舐めるんじゃあないよッ!」
 理不尽な怒りとともに戦場に放たれるは、羅刹の気迫。
 弱者が触れたなら腰を抜かして|転《まろ》ぶように逃走するであろう|それ《・・》は、強者のみを炙り出す羅刹の術法だ。戦場に在り続ける二人は、当然のように|後者《強者》であった。
「ああ、この刺青が疼くよ。アンタたちは確かに強い。それは認めてやる! でもね、あたいに勝つことなんてできやしないんだよ!」
 大げさなムーブに目をパチパチさせる祭莉。
「……アンちゃん、あのおばちゃんもしかして中二病とかっていうやつ?」
「……うん、多分そう」
「なにをこそこそ喋ってるんだい!」
「なんであんなに怒ってるんだろうねアンちゃん?」
「もしかすると更年」
「そこまでにしなッ!」
 怒声と共に飛んでくる鋼糸を、祭莉は舞いながら舞扇でバシリバシリと打ち払う。さすがは銃弾を次から次へと叩き落とすなにかの達人である。
 しずしずとしたその舞いには、全く隙がない。円を描けば戦場を彩るように白炎が燃え上がり、舞扇を向ければ炎が白蛇さながらに襲いかかる。
 そう、今年の干支は蛇だ。断じて虎などではない……!
「チィッ!」
 寿命を削ることさえ厭わぬ攻撃だ。
 これには流石の虎子も両腕でガードするしかなかった。
 だがそれこそが致命的な隙。
 虎子は双子を相手にしているのであり、
「おそいよ」
 杏はまだ、自らの手の内を明かしてはいない――!
 そう、うさみん☆は陽動に過ぎないのだ。
 虎子が祭莉にも攻撃の手数を割いたところを狙って、杏はここぞと|何か《・・》を投じた。
 光芒が奔り――悲鳴が上がる。
 虎子にさえ、|それ《・・》は見えなかった。
 それほどまでに疾かったのだ。
「ア……アアアァァァァァアアァァッ――!」
 目を押さえた虎子、その手のひらから鮮血が溢れる。
 引き抜かれたモノがカランと地に落ちる。
 うさ印の護身刀だ。
 |復活ダークネス《オブリビオン》たるもの、これで絶命はしないだろうが、片目を潰されたのは大きい。
「やってくれたねッ! 許さないよ……絶対に……!」
 自らのやってきたことを棚に上げて怒り狂う虎子。
 その怒声が、双子を怯ませることなどありはしない。
「あーあ、お節で伸びた寿命がまた縮んじゃった。仕方ない、勝ったら続きやろー♪」
「うん、睦月も誘ってみよう」
 悪い夢は、良い思い出で塗り替えてしまおう。
 もう、この夢の結末は見えているのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

山吹・夕凪
雪音さん(f29413)と

気に入ったから暴力でねじ伏せようとしたと
この繊細な和の情景が織り成す場の風情を知りながら、荒々しきこと……
いえ、それこそが羅刹の趣向という事でしょうか

ならば、私も刃を以て返答致しましょう

「さいわいへと連なる夢を護る刃として、山吹・夕凪――相容れぬ鬼よ、いざ勝負」

対峙するは真っ向より
宣告に要する一息の間に、妖刀『涙切』の刀身より紡ぐは、風を操る術と凍結攻撃を合わせた氷霧
周囲に漂わせて視認し辛い鬼の爪たる鋼糸の軌道、前兆を捉えます

心眼で鋼糸の攻撃を見切りながら隙を伺い、鋼糸を弾きましょう

武心を懐くモノとして、虎子と斬り結ぶ事に静かに燃える心はあれど
これは壊す鬼の武ならば、斬るのみと

更に心を練り上げ、刀身に纏うは鬼を屠る為の破邪と妖魔殺し
確実に挙動を捉えれば、身かわしと共にカウンターでUC『白夜の無想剣』
羅刹が鋼糸は尋常ならざるモノであれ、鬼の角を斬るかのように一念を込めて確実に斬り棄てて、虎子へと至る道を斬り拓き

そして出来た隙へ
「さあ、雪音さん。トドメは託しました」


月白・雪音
夕凪様(f43325)と

…聞き及ぶに本来羅刹とは斯様に夢を領域とする種とは異なる筈でしたが…。
或いは既に本来の能力を有する種の手勢という事でしょうか。

自らの手で貶めた相手を上辺ばかりで慰め勾引かそうとは、卑劣と言う他無し。
闇に堕ちた手を以て今を生きるヒトを脅かすとあらば、猟兵として立つこの身の責務を全うさせて頂きます。


UC発動にて見切りで相手の動きを読みつつ野生の勘、加えて殺人鬼としての本能を以て殺意を感じ取り死角からの斬撃を感知
込める殺意を口にする事で精度を上げる刃とあらば、殺人鬼たる我が眼にはその殺気の流動がより克明に『視え』ましょう。
夕凪様の付与する氷霧にて軌道の見切りを助けられた鋼糸の攻撃を間隙を縫い、残像の速度にて肉薄

…承知致しました。
我が武を以て、虎を狩らせて頂きます。

夕凪様が糸を断ち切き虎子の態勢を崩した隙を逃すことなく
落ち着き技能の限界突破、無想の至りを以て己の気配、音、存在そのものを全て遮断しつつ極限まで業を練り
羅刹とは対極、『殺意を感じさせぬ一撃』を以て急所を打ち抜く



 日本庭園は殺伐とした気配とは対照的に飽くまで麗らかであった。
 春光を浴びる枯山水の向こうには堂々たる雪嶺があり、猟兵と刺青羅刹との争闘、その帰するところを静かに見守っているかのようだ。
 激闘。
 庭園で繰り広げられているのはまさにそれである。
「いいねえ、命の奪り合いってのはこうじゃなくちゃあ。それでこそ切り裂き甲斐があるってもんだよ」
 あでやかな刺青羅刹の着物は、いま鮮血で彩られていた。
 一方の眼窩から流れる血で、その白き片頬も染まっていたが、羅刹の女は傷を負うほどに戦意を高め、今や文字通り鬼気迫るの感があった。
「この繊細な和の情景が織り成す場の風情を知りながら、荒々しきこと……」
 気に入ったから暴力でねじ伏せようと――山吹・夕凪(雪色の吐息・f43325)の鏡のような瞳は、血染めの狂花とでも言うべき羅刹の心の闇をも映し出すかのようだ。
「いえ、それこそが羅刹の趣向という事でしょうか」
 鬼たるものの支配欲と嗜虐心が、この羅刹の歪んだ人格を形成しているのか。
「……聞き及ぶに本来羅刹とは、斯様に夢を領域とする種とは異なる筈でしたが……」
 拳を構えながら月白・雪音(月輪氷華・f29413)も鈴の鳴るような声で言葉を紡いだ。ソウルボードに潜んで悪事をなすのは、羅刹ではなくシャドウの領分である。
「或いは既に本来の能力を有する種の手勢という事でしょうか」
 雪音の言葉に、羅刹の女は口の端を釣り上げた。
「随分と察しがいいじゃないか。おっと、これ以上は喋れないねえ。でもまあ、別に小難しいことはないさ。あたいはただ好きなようにやるだけなんだからねえ!」
 心の赴くままに罪なき少女を苦しめ、自らの快楽の贄にしようとした。血に彩られて凄艶な美を際立たさせる『箕輪御前』鈴山・虎子だが、如何に着飾ろうとも、その心根は醜い。
「自らの手で貶めた相手を上辺ばかりで慰め勾引かそうとは、卑劣と言う他無し」
 かつて同胞とも言える刺青羅刹から、皮膚ごと刺青を引き剥がすという挙に出た虎子だ。その性質はサディズムに傾倒している。
「好んだものは力ずくで奪る。奪ったものは好きにしていいってのが道理だろう? 力で勝りゃ誰も文句が言えないんだからねえ」
「それが言い分ならば、私も刃を以て返答致しましょう」
「我らが武を以て、その目論見を砕く迄です」
 夕凪と雪音。間違いなく達人の域にある二人の声が重なる。
 夕凪は抜き払ったままの黒刀『涙切』を正眼に。悲しみより紡がれたとされる一振りは、暴虐なる羅刹の女を、その凶手がもたらす悲哀ごと断ち切らんと光る。なんという剣気、そして気魄か。張り詰めた気は凛冽として身を切る冬の凍気を思わせ、音に聞こえた赤城山の虎をも身構えさせる。
 共に立つ雪音も気を湛えているが、その構えはどこまでも自然体。雪白の髪や装束がひらひらと揺れるが、それは悪夢に吹き渡るそよ風か、それとも闘気のなせる業か――虎子にも判別しがたいものがあろう。
 享楽のために人を殺めることさえ辞さぬ羅刹の女にも、雪音の武の深奥は見透せない。弛まぬ鍛錬、練り上げられた闘気に包まれた、恐るべき衝動は。
「闇に堕ちた手を以て、今を生きるヒトを脅かすとあらば――猟兵として立つこの身の責務を全うさせて頂きます」
「さいわいへと連なる夢を護る刃として、山吹・夕凪――相容れぬ鬼よ、いざ勝負」
「面白い。赤城山のトラ、鈴山・虎子。お前らなんぞに遅れはとらないよ!」
 刹那、手振りとともに、猟兵の体さえも切り裂く鋼糸が投じられた。
 夕凪はザリと地を擦るような足運び、そして体捌きと共に黒刀を振るう。見切り難い輝線の綾をそれでも見切って弾き飛ばす。
 尋常な鋼の糸ならばそれですぱりと斬られていよう。
 だが糸に練り込まれた羅刹の気がそれをさせない。
 十指にて操られる鋼糸は、まるで一本一本が意思持つ蛇さながらだ。如何なる手技によるものか、糸は夕凪に弾かれると、一拍置いて、変則的な軌道を描いて雪音にも襲いかかる。常人相手なら文字通りの瞬殺――だが夕凪の剣に弾かれたこともあり、雪音は鋼の糸が白き肌を切り裂く前に残像を描いてその場から消えていた。跳んだのだ。最小限の動きで。
 ――羅刹でありながら、用いる技はさながら殺人鬼。鬼という意味では異ならぬということでしょうか。
 思いながら素早く拳の一撃を見舞おうとするも、虎子は飛び退きざま、鋼糸を網の目のように展開して牽制した。踏み込めば肌を、そして骨を断つ死の罠。踏みとどまったのは雪音が秘めたる野生の勘、その賜物だろう。攻防一体の糸を操る虎子の手並みは常識を超えている。
「流石に突っ込んではこないねえ。勘が鋭いというか。まるで獣だね」
 雪音の表情からその感情は窺えない。何を言われようとも、戦いの中で凪いだ心に波紋が生ずることなどないのだろう。間違いないのは、この程度の攻防では雪音もそして夕凪も息一つ切らさず、汗の一雫さえ流さぬということ。
 ――武心を懐くモノとして、このような相手と斬り結ぶ事に静かに燃える心はあれど。
 争闘に心を酔わせてはならぬと夕凪は心気を整え、研ぎ澄ます。
 心の制御という意味で、雪音も全く乱れてはいない。
 黒く燃え上がる衝動のままに戦っているのは、羅刹の方だ。
「命の取り合いすらも享楽と成すのが羅刹ということでしょうか、夕凪様」
「ええ、恐らくは。ですが、これが本気とも思えません」
 雪音と夕凪はこの鉄火の間にあって、虎子の技前を冷静に見定めていた。なんという二人の胆力か。よほど修練を積んだ者であっても切り抜けられなかったであろう猛攻を事もなげに凌ぎ、敵がまだ本気ではないことをも見破ったのだ。
「おうさ、今のはほんの小手調べ。随分腕に覚えがあるらしいね。気に入った。ここまで勝ちたい、踏みにじりたいと思った敵は珍しいよ」
 ――決めた。
 虎子の総身に、そして引き戻した鋼糸に、かつてない程の気が漲る。

「――あんたたちの命、いただくよ」

 引き裂かれた空気が、金切り声めいた悲鳴をあげる。瞬く間に対手の肌を裂き血花を散らせる虎殺しの絶技。どれだけ疾く刀を振ろうが、どれだけ疾く地を駆けようが、十指から放たれる糸すべてを凌ぐことなど不可能――!
 壱、弐、参、肆、伍、陸、漆、捌、玖、拾――それぞれが対応する指に操られて蛇のようにうねくり、首を、そして足の動脈を狙う。
 虎子はしかし、糸が手応えを寄越す前に目を瞠ることとなった。

 ――思いて願い、求める心を澄み渡る剣として。

 正眼から、霞の構えに移っていた夕凪。その得物たる『涙切』の刀身から目に見える程の冷気が漂い、迸ったのである。
 氷霧は風操の術法にて戦場を包み、邪を断つ技を込めて放つは|白夜の無想剣《ビャクヤノムソウケン》――羅刹の気に包まれた鋼糸も、鬼の角を斬るかのように切り裂けば、氷霧の中に鮮やかな火花が散り、断つと同数の音が鳴り響く。琴の弦でも断つかのように。
 これで伍までの糸は潰え、
「まだまだッ!」
 精妙極まる鋼の糸が先ほどとは比べ物にならぬ疾さで雪音にも襲いかかる。陸から拾。糸はどこに逃れようと執拗に追いすがり、獲物を捕らえ、切り刻まずにはおかない。
「貰ったよッ!」
 そもそも拳と伸縮自在の鋼糸では間合いに決定的な差がある。如何に疾風さながらに駆け跳ぼうと、それだけで凌げるものではない。拳が届く距離まで近づくことなど以ての外である。
 だというのに、
「さあ、雪音さん。トドメは託しました」
「……承知致しました。我が武を以て、虎を狩らせて頂きます」
「……!?」
 虎子はまず我が耳を疑い、そして我が目を疑った。確実に捉え、八つ裂きにした筈の雪音はするりと網の目を抜けていたのだ。残像。糸は虚しく空を切り、雪音は気配すら感じさせぬまま虎子に迫っている。
 何故、と驚愕に目を見開く羅刹の女。
 道理はこうである。

 込める殺意を口にする事で精度を上げる刃とあらば――殺人鬼たる我が眼には、その殺気の流動がより克明に『視え』ましょう。

 鋼の糸を包む羅刹の気は殺気と同義。爆発的に増したその気の流れを見切るのは、鍛錬にて殺戮衝動を律してきた雪音にとって不可能ごとではない。
 すべてを躱すというその凄まじい芸当は、もちろん夕凪が周囲に漂わせた氷霧によるところも大きい。鋼糸が飛ぶ際の僅かな空気の揺れを、氷霧は雪音に伝えていたのだ。
 ――もし壱から拾までの鋼糸がすべて健在であったなら。
 雪音は思う。結果は違ったかも知れないと。
 夕凪を信ずるが故、一切の迷いなく動くことができた。
「あ、あたいの『虎殺し』を、凌いだッてのか……!?」
 更に虎子を驚かせたのは、糸を掻い潜った雪音の気配が|掻き消えている《・・・・・・・》 という認めがたき事実だ。足音も呼吸も虚空に溶け込み、存在そのものを感知させぬ|拳武《ヒトナルイクサ》。
 懐に入って打ち込むは、羅刹とは対極、『殺意を感じさせぬ一撃』――!
「ガ、ハッ……!?」
 脾腹を撃ち抜かれた虎子が驚愕の表情を浮かべたまま吹き飛び、転がった。残心して息を吐く雪音も、『涙切』を構えた夕凪も、今の一撃が後々にまで響く|致命傷《・・・》 であることを確信する。
 これぞまさに箕輪御前の『虎殺し』が敗れた瞬間であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

緋薙・冬香
あら、よく似た得物で親近感
まぁ、私は『殺人鬼』だったから?
あなたの気持ちはよくわからないけれども
どうせなら|悲鳴をあげてくれる《鳴いてくれる》方がいいんだけれども
どうかしら? 虎子さん?

当時はあまり刺青羅刹には関わっていなかったけれども
良い思い出ないのよね
だから当たりがきつくなってもごめんなさいね?

それじゃ、緋薙・冬香、いくわよ

どうせなら鋼糸同士で戦いましょうか
『ベシュトラーフング』を十指に
さぁ【人の『闇』を狩る者】をとくとご覧あれ

第六感を直感みたいに活用して
鋼糸同士をぶつければ致命傷はもらわないはず
……私のベシュトラーフングが切れちゃうかしら?
まぁでも鋼糸は囮で、本命はこっち
虎子の鋼糸に私のベシュトラーフングを纏わりつかせるようにして
動きを徐々に拘束
ほら、隙が出来たわよ?
武器をベシュトラーフングからナールに持ち替え
暗殺は背後を取るのが基本よね

「冬の香りがもたらすのは、あなたの|眠り《死》よ」


さぁ、悲鳴を聞かせて?
そしてまた闇に還るといいわ
もう戦う必要はないから
ゆっくり……おやすみなさい



 穏やかな春の光が、見事な松や枯山水を照らしている。
 そうした景色だけを見れば平穏そのものだが、漂う空気はピンと張り詰めていた。
 さながら触れたものを容赦なく切ってしまう細く硬い糸のように。
「お前も切り裂かれたいらしいね。いいさ、獲物は多いほうがいいからね」
 『箕輪御前』鈴山・虎子――その白地の着物は鮮血の朱に彩られていた。片目も潰れ、少なからぬダメージを負っているようだが、戦意は弱まるどころか却って強くなっている。血化粧した顔には凄絶な笑みが湛えられ、虎子は前に歩み出た猟兵を睨んだ。その指に結んだ鋼糸は、先の猟兵との攻防で断たれていたはずだが、サイキックエナジーのなせる業なのか、すでに元の十糸を取り戻している。
「あら、よく似た得物で親近感」
 鬼気を漂わせる和装の羅刹と、対峙するのは緋薙・冬香(針入り水晶・f05538)。
「へえ、あんたも|糸《・》を使うのかい」
 過去から浮かび上がりし強者たる鈴山・虎子も、眼の前に立つ猟兵が決して油断できぬレベルの使い手であることを瞬時に見て取ったらしい。
「まぁ、私は『殺人鬼』だったから? あなたの気持ちはよくわからないけれども」
 他者の苦しみなど知らん顔で、好き放題に暴れまわる。それが悪しき羅刹というものだ。嗜虐心のままに虎子は少女を苛んでいたのだろう。
「それに刺青羅刹には良い思い出ないのよね」
 当時は余り関わっていなかったけれど――追懐しながら冬香は軽く笑みを浮かべた。
「だから当たりがきつくなってもごめんなさいね?」
 空を裂く糸。
 ヒュオと空を裂くベシュトラーフング。『私刑』の名を戴く黒きカーボン製の糸は、復活ダークネスたるこの刺青羅刹を狩るのに、これ以上ないほど相応しい。
「少しは楽しめそうだねえ」
 虎子の血で彩られた凄艶な唇がニヤと上がる。
 もちろん気圧される冬香ではない。
「どうせなら悲鳴をあげてくれる方がいいんだけれども。どうかしら? 虎子さん?」
「できるものならやってみな! 悲鳴をあげるのはそっちだと思うがねえ」
 張り詰めた空気が更に緊張の度を増した。常人ならまともに立っていられないほどの気のぶつかり合いだ。
「それじゃ、緋薙・冬香、いくわよ」
「赤城山のトラを狩ろうなんざ大したタマだ。いいじゃあないか。後悔しても知らないよッ!」

 見えざる糸が空を裂く。
 だが常人の域を遥かに超えた猟兵と羅刹の目は、それを確かに捉えていた。飛び交う輝線は疾く鋭く、舞い踊る使い手に操られれば、光の文様さながらの残像を描く。その応酬は、拮抗しているがゆえに美しい。
「やるねえ。思ったよりずっとさ!」
「本気出さないとすぐに終わっちゃうわよ? あなたの負けでね」
 取り戻した灼滅者としての記憶を思い起こせば――冬香は思う。虎子をはじめとする刺青羅刹にやはり良い思い出はない。自然、言葉は尖り、針さながらの物言いが虎子を苛立たせる。
「大きく出たもんだね。安心しな、ここからが本気さ。あんたの命、この鈴山虎子がいただくよ!」
 烈声と共に、虎子の操る鋼糸が更にその勢いを増した。特定の言葉を口にすることで精度を上昇させる虎殺しの絶技がここにきて遂にその本領を発揮したのだ。一度に十糸。鋼の糸がそれぞれに意思を与えられたかのように、冬香を八つ裂きにせんと四方八方から襲いかかる。
 これは避けきれまい。笑壺に入った虎子は瞬間――余裕の笑みすら湛えた冬香の顔を目の当たりにして目を見開いた。

「さぁ【人の『闇』を狩る者】をとくとご覧あれ」

 美しく響く声。
 風よりも疾い鋼糸を相手取るには、尋常な感覚を総動員してもまだ足らぬ。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚――それに当てはまらぬ感知能力、即ち第六感さえも冬香は注ぎ込んでいた。
 バシリッ! ある種、電磁的にさえ聞こえる音が鳴る。
「なにっ!?」
 虎子の驚きも当然のこと。ここまで互いにすれ違うように飛んでいた硬い糸と糸が、空中でぶつかりあったのだ。冬香の技により互いの糸が軋りを上げる。
「やってくれるじゃないか!」
 虎子は思うに任せぬ状況に歯噛みして、力ずくで糸を操ろうとした。
「あなたと私では糸の使い方が違うみたいね」
「どういうことだい!?」
「わからない? ほら、隙が出来たわよ?」
 指から伝わる異変を感じ取った虎子が、驚愕の表情を見せた。鋼の糸が動かない。まるでなにかに押さえつけられているかのように――。
「まさか、糸で糸を……!?」
 一度、弾いて見せたのは、そういう防ぎ方をすると見せかけるためだった。
 つまり囮だ。
 本命は、|絡め取る《・・・・》こと。
「冬の香りがもたらすのは、あなたの眠りよ」
 そして――冬香の武器はベシュトラーフングだけではない。
 鋼の糸は虎子の指に結びつけられている。冬香が糸を引っ張れば、当然に虎子はバランスを崩し、
「さぁ、悲鳴を聞かせて?」
 つんのめった刺青羅刹の背に、鈍色に輝く鎧通し――|愚者《ナール》が突き刺さった!
「ア、グウッ……!」
「また闇に還るといいわ。もう戦う必要はないから」
 崩折れる虎子を見下ろして、冬香の形の良い唇が言葉を紡ぐ。
「ゆっくり、おやすみなさい」
 闇は闇へ。
 過去は過去の中で眠れと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
イジメはダメ、ゼッタイ、ですよ〜
海へと導きしょう

念入りに自身をぺろぺろして
摩擦抵抗をいい感じに操作して
スケーターの如く滑走して虎子さんへ迫ります

鋼糸を
スケーターの如く
華麗なターンやジャンプで回避

猫のお目目やお耳、お髭も大活躍で
鋭い五感で
糸やそれによる空気の動き
風切り音を察知して
にゃんぱらりっと掻い潜ります
風の魔力も使っていますからね
このくらいはへっちゃらです

万が一
糸が当たっても
摩擦抵抗を極限まで減らした私の体は
つるつる〜と受け流しちゃいます

もし糸で呪縛しようとしても
やっぱり無駄ですよ
つるっとして抜け出します

懐に入って
得物や虎子さんをペロペロすれば
糸のついた指輪がつるっとすっぽ抜けたり
虎子さんもすってんころりんと転倒します
摩擦をほぼゼロにしました
起き上がることはもう叶わないですよ

ジタバタする虎子さんへ
摩擦減による超絶技巧の指さばきで
竪琴を演奏して
放つ魔力で倒します

戦闘後も演奏を続けて鎮魂とします
海で静かにお休み下さいね

睦月さんんもお疲れ様でした〜
今年も善い歳にしていきましょうね



 永遠に続く正月に、罪なき少女を閉じ込める。
 そんな酷いことを許せるはずがない。
 猟兵との激闘で着物を朱に染めた『箕輪御前』鈴山・虎子を前にして、箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)は身構える。
 かつて|この世界《サイキックハーツ》において、ダークネスたる羅刹は思うがままに振る舞い、好奇心を満たす存在だった。
 箕輪御前を名乗る鈴山・虎子は、まさにそんな軽い気持ちで睦月を苛んでいたのだろう。
「イジメはダメ、ゼッタイ、ですよ〜」
 毅然と告げた仄々に、虎子は目をやった。
 口の端から血を流しているが、受けたダメージをよそにまだ羅刹の女は笑みを浮かべることさえできた。恐らく、死の瞬間まで、その存在を燃焼し尽くすことができるのだろう。それは闇に堕ちた者の恐ろしさとも言えるのかも知れない。
「ほう、可愛らしい客もいたもんだねえ。でも、あたいの邪魔をするなら容赦しないよ」
「そんな風に脅しても引き下がりませんよ。海へと導きましょう」
 前に出る仄々。その毛並みが良くなっていることに、和室に逃れた睦月は気付いていた。先程から仄々は自分の体をぺろぺろと舐めて、毛づくろいをしていたのである。猫にとって毛づくろいは、心を落ち着かせる意味もあるが、今回は別の意味を持つ。
 即ち――摩擦抵抗の操作だ。
「行きますよ〜」
 猫らしく跳んでくるものと思っていた虎子は、我と我が目を疑った。それもそのはず、地を蹴った仄々が、まるでスケーターのように滑ってきたではないか! その速度たるや尋常なものではない。極限まで摩擦抵抗を減らした仄々は、まるで高速でホバーするように駆け、そして舞う。
 摩擦抵抗を失くしたのではなく|低下させた《・・・・・》というのがポイントだ。
 ユーベルコードで滑りを制御すれば、仄々の動きは氷上を行くよりなお疾い!
「チィッ!」
 虎子が鋼糸を繰り出すも、その反応は驚きのあまりに一拍遅れていた。鋼の糸が横滑りするように飛んでくるが、仄々は猫の反射神経を存分に活かしジャンプ。足の下を糸がかすめていく。身を捻って着地すると、華麗なターンを決めて鮮やかに虎子の背後を取る。
「舐めるんじゃないよ! あんたの命、あたいがいただくよ!」
 虎子もまた舞うような足さばきで、鋼糸を操った。自らを中心に円を描くように、である。かすっただけでも肉を裂く恐るべき鋼の糸はしかし、いたずらに空を裂くだけで手応えらしきものを寄越さない。
「当たるわけには参りません。どんなに速く飛ばしてきても」
 猫の五感を甘く見てはいけない。
 大きな瞳も耳も、そして空間把握を司る髭も総動員して仄々は舞い滑り、死の糸を回避していく。しゃがめば頭上を通り過ぎ、飛べば真下をかすめる鋼糸――風切りの音を読んで動けば、どんな死線も何のその。にゃんぱらりっと掻い潜り、風の魔力で輝線を逸らす――!
 虎子がいくら糸を操れど、不思議と攻撃が当たらない。
「このくらいはへっちゃらです」
「な、なんだってんだい!?」
 虎子は全力を傾注して糸を飛ばし、左右から仄々の体を絡め取らんとした。今度こそ捉えた――! 驚愕の中に一抹の安堵を含んで虎子が笑いかけるも……その表情は、再び驚きに塗りつぶされることとなる。
「捕まえようとしても無駄ですよ」
 如何に締め付けようとも、摩擦抵抗を減らした仄々の体を、糸は捉えることができないのだ。まるでつやつやの氷。面白いように、するりとすっぽぬけてしまう。
 そこからの仄々の攻撃は、まさに電光石火の如しだった。
「さあ、今度はこちらの番ですよ~」
「なっ、なにをするんだいっ! く、くすぐったいよやめな!」
 虎子の手や足をぺろぺろ舐め始めたのだ。猫がじゃれているようにも見えなくはないが、これもれっきとした攻撃である。
 それを証明するように、反撃に出ようとした虎子がすってんころりん。
「摩擦をほぼゼロにしました。起き上がることはもう叶わないですよ」
 そうして仄々は、懐中時計の形状からボタン一つで|蒸気機関式竪琴《カッツェンリート》を展開した。奏でれば、魔力そのものの音符がメロディとともに虎子に襲いかかる。
 だがその音色は、猟兵たちとの激闘を経て傷だらけになった羅刹の体を包み込むかのようで――。
「ああ……あたいもヤキが回ったね……まあ、でも、ここまで楽しめたんだ。悪かない、か……」
 どこか安らかな顔をして、塵と化し、過去へと還っていく『箕輪御前』鈴山・虎子。
「海で静かにお休み下さいね」
 音楽とともにその言葉を餞とすると、仄々は和室の方を振り返った。障子の影から恐る恐る顔をのぞかせていた少女に、軽く手を振る。
「睦月さんもお疲れ様でした〜」
 緊張が続いたあまりぺたりとその場にへたりこんだ睦月に、縁側まで上がった仄々はそう言って労った。
「ありがとうございます。本当に……皆さんが助けてくれなかったら、私、どうなってたか……」
 睦月は心からの感謝を、仄々だけでなく、その場の猟兵全員に告げた。奇跡のような出会い。それは睦月にとって、幸運という以外にないものだ。
「これでこの悪夢ももう終わりです。さあ――」
 手を差し伸べる仄々。
 頷き、その手を取る睦月。
 夢の世界が光りに包まれる。
 もうすぐ、目覚めだ。
「今年も善い歳にしていきましょうね」
 優しく希望に満ちた仄々の声が、夢の終わりを彩った。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2025年02月03日


挿絵イラスト