福が膨らむ袋を識る
アイザック・アインツ
こんにちは、いつも色んなうちの子でお世話になっているものです。
今回キャラにつられて時期的にノベル内容も思い浮かんでしまい……! キャラがまだ定まらない中のノベルをお願いする形になります!
場所:ケルディバ世界のどこか
面白いものを探して歩いていたアイザック
ふと、福袋に長蛇の列を見つける。
「ふむ、さしずめ群集心理と射幸心に引き寄せられたと言ったところか、なんとも非効率的で……いや?」
悪態をつきかけて思い返すのは過去の事。心が芽生えた不穏分子は何をするか分からないと隙をつかれての一斉射撃をされボロボロにされたあの時
「ふ、ダモクレス達に比べれば、何があるか分からないギャンブル性すら楽しむ人類の方が少しは上等で面白みがあるではないか」
というわけでアイザックも福袋売り場に行く事に。お目当てはジュエリーの福袋。
「ふむ。こうして長蛇の列に並ぶことで人類達は期待値を高めているわけだな」
分析しつつも並び、福袋購入。
何が当たったかは……MS様にお任せします。
大丈夫、いいものでもそうでなくてもこの人、「そういうのを楽しむもの」として受け入れるので。
キャラクターについて
人間に対してちょっと上から目線だけど興味津々。機械らしく分析的でもある。
今回はSっ気はあんまり作動しないみたいです。
アドリブ等も大歓迎です!
よろしくお願いします!
●福袋
文明というものは、文化と社会を包括的に示した言葉である。
端的に言えば、である。
しかし、内情は複雑だ。怪奇であるとも言える。
予測不能であるし、不条理であるし、理不尽だ。理があるように見えて、支離滅裂でもある。かと思えば理路整然とした精緻なる美しさすら見受けられる。
そんな揺らぎめいたものが見せる模様こそが分明なのだとアイザック・アインツ(レプリカントのブレイズキャリバー・f45039)は思う。
随分な上から目線な物言いである。
が、しかし、事実己のほうが上であるとアイザックは思っていた。
「ワタシを楽しませることこそ文明の真髄よ。しかし、人類の文明を多く見てきたが……ふぅむ。ここらで頭打ちだろうかな」
あらかた見て回ったとアイザックは自負している。
数多の決戦都市を渡り歩いてきたのだから、それもそのはずである。
地域ごとに決戦都市も様々だ。
無論、デウスエクスと戦うための都市なのだから、迎撃システムなども似たようなものだった。
この湾岸の決戦都市も、今日までだな、とアイザックは別れを惜しむでもなく、ただ自分が定めたルールに則って行動しているだけだ。
いわば、今はロスタイム。
もう見るところはないとわかっているのだが、もしかしたらという淡い期待もまた抱いていた。
「面白いものはないか……ん?」
アイザックは決戦都市の街路を歩みながら、何故か人々が長蛇の列を成している光景を見つける。
それは彼からすれば無駄そのものたる行為だった。
何かを求めて並ぶ。
それは整然としていたし、アイザックからすれば己の出自たる機械兵の統率の取れた動きを想起させるかもしれない。
僅かに歯噛みするようだった。
「なになに……福袋? なんだそれは」
「あら、知らないの?」
ん? とアイザックが長蛇の列を形成している人々の一人の言葉に視線を向ける。
その一人……女性がアイザックに声をかければ他のご婦人方……と言って差し支えのない年齢の女性たちや、妙齢の女性たちがまくしたてるようにして福袋とはなにかを説明しだすのだ。
「つまり、だ。中身がなんであるのかを伏せた状態で購入させる販売形態の一種、というわけだな?」
「かいつまんでいうと、そうね」
「何が入っているのかもわからないものを買おうというのか、お前たちは」
アイザックは心底呆れた。
愚昧極まりないではないかとすら思ったのだ。
「でも、合計金額を考えたらお得なのよ。もしかしたら、良い商品が入っているかもしれないじゃあないの」
「それに急がないと売り切れてしまうもの」
「ふむ、さしずめ群集心理と射幸心に引き寄せられたと言ったところか、なんとも非効率的で……」
いや、とアイザックは思い直す。
確かにご婦人方の行動は非効率かもしれない。
欲しいものがあるから、購入するという動機は理解できる。
それは求めるものが明確だから成り立つことだ。
なのに、何が入っているかもわからない。ほしいものが手に入るとも限らない。
ただ可能性ばかりに目を取られて、幸福という目に見えぬ不確実なものに手を伸ばしたがるのは、理解しがたい。
アイザックの態度は悪態と言っていいものであった。
だが、彼は思い直していた。
己は過去、嗜虐心を心の萌芽と認定されて処分されようとしていた。
不穏分子としての処分は群体からすれば当然のことかもしれない。
だが、アイザックには嗜虐心が芽生えていた。それを邪魔立てされることは、発した心が言うには『むかっ腹が立つ』というやつであった。
「ふ、ダモクレス達の画一的な思考のくそつまらん思考から比べれば、何があるかわからないギャンブル性すら楽しむ人類のほうが少しは上等で面白みがあるではないか」
「上からね」
「無論よ! ならば、ワタシもこの列に並ぶとしよう! 最後尾のプラカードを寄越すがいい!」
「最後尾なのにどうしてそんなに偉そうになれるの!?」
「ワタシが上位であるからだ! さあ、冬の風は冷たいぞ! プラカードはワタシに任せろ!」
「急に優しい」
アイザックの態度に首を傾げつつ、ご婦人方は福袋の列に並ぶ。
もちろん、最後尾はアイザックである。
だが、アイザックはご満悦であった。
人類の文化、福袋。
その真髄を今彼は堪能していた。
何が入っているかわからない福袋。
そして、さらに長蛇の列に身を置くことで手に入れることができるか、できないか。そもそも中身はよいものなのか、それともくだらないものなのか。
得をするのか損をするのか。
そうした思考が己の期待値を底上げしていることを実感したのだ。
「ふっ、よいぞ。ワタシの胸も高鳴っている!」
ご婦人方はちょっとうるさいなぁって思ったが、アイザックが期待に胸を膨らませているのならば、まあ仲間だろうと言う意識が芽生えたのだろう。
何故か飴をアイザックに握らせたりと、謎の世話焼きを始めたりするものだ。
「福袋はこちらでーす! 押さないでくださいー! 走らないで!」
そうこうしている内に福袋を販売するデパートが開場する。
アナウンスの必死な声が響く中、ご婦人方は飢えた豹の如きスピードで駆け抜けていく。
「なんとも! 身体能力が向上しているではないか! ふっ、面白い! 福袋にこれほどん効果があるとはな!」
多分気の所為。
だが、アイザックは笑いながらデパートの中を飛翔する。
「飛ばないでくださーい!」
「ワタシを止められるものか!」
そう言ってアイザックは制止を振り切って一気にジュエリー店の福袋を一つ掴み取る。
「ふむ。これがそうか」
アイザックは購入した福袋を早速開封する。
そこには時計やリングと言った貴金属が収まっていた。
アイザックにとってはどれも無価値であったかもしれない。
けれど、アイザックは満ち足りていた。
福袋の中身を見るまでの期待値、高鳴る胸。
そして、中身を確認する時の高揚感。
何より、これを手に入れるために逸った心。
いずれもがダモクレスたちの中にいては味わえぬ、幸福そのものだったのだ。
それを実感して、アイザックは煌めく貴金属の輝きに笑むのだった――。
成功
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