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観楓会は洞爺の湖畔で

#サクラミラージュ #ノベル #猟兵達の秋祭り2024 #北海道美食シリーズ

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リダン・ムグルエギ



チル・スケイル



水澤・怜



燮樹・メルト



劉・久遠



蔵務・夏蓮



クロア・ルースフェル




 |観楓会《かんぷうかい》――道民達が紅葉にかこつけて温泉宿などにて懇親目的の宴会旅行をすることを言う。
 なお、名前と違って楓は別に見ない事が多い。呑むには何でも良いから理由がいるんだ分かったか!!


「細かい前口上は抜きよ! みんな、グラスは持ったかしら?」
「「「はーい!!!」」」
「それじゃ、かんぱーい!!!」
 リダン・ムグルエギ(宇宙山羊のデザイナー・f03694)の乾杯の音頭と共に、各々のグラスが涼しい音を立ててぶつかり合い、黄金色や赤黒い気泡が宙を舞った。

 ――僅かに時は遡る。
「ふむ……ここが北海道か……」
 到着したその地を難しい顔で見回したのは水澤・怜(春宵花影・f27330)であった。見渡す限りの大自然。本州よりも木々の色付きが早く、視界に見える木々は緑色から黄色や赤色に染まりつつあり、吹き抜ける風も鋭く冷たい。
「というわけで! やってきました北海道!」
 燮樹・メルト(やわらぎちゃんねる・f44097)はスマホ片手に雄大な自然とその景色をバッチリ写真に納めながら、怜の隣にもささっとやって来て一緒に自撮りでハイ☆ピース!
「北の大地と聞いて、よもや冬桜護案件かと……」
 そう思っていた怜はやっと表情緩めて胸を撫で下ろす。持って来ている鞄の中には装備一式。
「そんなことは無いですってー。というか、水澤さんは 休 め ★」
 リダンはにこやかに怜の近くに寄ると顔を寄せた。近い、怖い、圧が強い。
「そうでなくても水澤さんは働き過ぎなんですよ。そこに更にこないだのサクラミラージュの戦争でも相当動いてらっしゃいましたし。皆も頑張ったし、慰労会くらいやってもバチは当たらないんじゃないですか?」
 ビシッとリダンは釘を刺すように言えば、最早この仕事バカは何も言えなくなった。
「そうそう、怜ちゃんは働き過ぎです。ほぉら、こんなに肩も凝って」
 彼の後ろから突如両肩を掴んだのはクロア・ルースフェル(十字路の愚者・f10865)。ぐりぐりとふざけて揉んでみたら、あらやだ本当にガチガチに凝ってるし。
「適度に骨休みしないと……ほら、言うでしょう? 医者の不養生って」
 流石の怜も更に何も言えなくなる。自分の身体の事は良く解っている――医者だし。顔に出さずとも、心身共の疲弊は否定出来ない。そして万全で無い状態で満足な仕事が出来ないと言うのは常々自身が患者に言っている筈である。
「さて、皆さんそろそろお宿に着きますよー」
 そう告げたのは先頭を進むチル・スケイル(氷鱗・f27327)。今回の慰労会兼新人歓迎会の場となる旅館は彼女がここぞとお勧めした場所。北海道の美味しい料理と大自然の中の絶景温泉を楽しめるのだと旅団長のリダンに滅茶苦茶推していたのを団員達は確かに見ていた。
「湖畔を眺めるお宿! うん、ロケーションは最高!」
「メルちゃん、今回も配信するの?」
 キマフュ生まれのリダンはストリーマーな彼女に興味津々で目を向けるも。メルトはううんと首を横に振った。
「今日はせっかくの歓迎会だし、配信はなし! その代わり料理と景色とみんなの写真は撮って記念にする!!」
 みんなの色んな一面が見れるしね!と笑顔を見せながら彼女はシャッターボタンを押すのであった。

 通された客間は趣深い畳敷きの大きな和室。団体客向けらしく、襖で部屋を仕切る事も出来るとの事。最近旅館の設備を色々と|改装《リニューアル》したばかりとの事で|藺草《イグサ》の薫りは新しく。大きな窓の向こうには霞がかった先に美しい湖、そしてその中央に浮かぶ中島が紅葉鮮やかに彩られているのが見えた。
 洞爺湖――。アース世界であれば支笏湖と合わせて二つの大きな湖周辺は支笏洞爺国立公園に指定されている一帯であり、大きなカルデラ湖は大昔に火山活動があった名残だと言い。活火山と共に温泉があるのはごく自然であると言えよう。
 洞爺湖の南側、北海道虻田郡洞爺湖町には温泉街が形成され、道内外からの観光客も多い。修学旅行に来た中学生が湖の名前記された木刀を土産に買って振り回すのは最早定番の光景でもある。
「そして今日は無礼講、そして新人歓迎会です」
 宴会と言えばまず乾杯からとチルは皆の飲み物を尋ねて回る。
 ディナービュッフェも楽しいが、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎは流石にご迷惑なのでビュッフェ会場に程近い宴会場を借り受けたGOATiaご一行。
 地酒に地ビール、そして未成年には各種ソフトドリンクも取り揃えられているとかで。
 蔵務・夏蓮(眩む鳥・f43565)はその中に初めてみる飲み物を見つける。栓抜きとガラスコップを手にしたメルトも同じものを見るなり、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「あ、ガラナコーラある! メルはコレにしよ。北海道と言えば!だしね」
「ガラナ……北海道の有名な飲み物なの?」
「あ、夏蓮さんも一緒に飲むー?」
 王冠を栓抜きで外せばシュワッとした音が響く。グラスに注がれていくのは、一見普通のコーラにも似たカラメル色の炭酸飲料。しかしその香りは一般的なコーラと違うもの。道民にはガラナと言う名で親しまれているもの。
 なんでもコーラが普及する前に流通していた名残で北海道では今でもこのガラナ飲料が愛飲されているらしい。
「では、私も同じものにしようかしら。ええ、せっかくだものね」
「うんうん、みんな楽しそうにしてるから、気持ちだけでも一緒になりたいしね!」
 ガラナの実が用いられた炭酸をコップに入れる夏蓮とメルトの未成年組。
「アタシもそのガラナって言うの気になるわね。ね、カクテルとかあったりするのかしら」
 リダンが問えば、メニューとしてはないが……と女将が教えてくれた特別レシピ。余市名産のウィスキーとガラナソーダを割って作るガラナハイボール。甘くて意外と飲みやすいらしい。
 クロアはホップの実がたっぷりと使用された炭酸飲料――即ちビールをコップに注いでいた。此方も美しい琥珀色。北海道は特にビールの生産が盛んなだけあって有名メーカーの工場からクラフトビールまで製造者も銘柄も多いらしい。
「日本酒も仰山種類ありますもんなぁ。ボクは旭川の蔵元のでも頂きますわ」
 劉・久遠(迷宮組曲・f44175)は日本酒のリストを眺め、迷いながらもこれと決めた。大雪山の美味しい雪解け水を使用――とか誘惑ワードが実に心を惹く。小樽や増毛のお酒も肝臓に余裕があったら試したい所である。
「あ、久遠さん……お酌を」
「いや、気にせんと。それに夏蓮さんも歓迎される側やないの?」
「そうそう、ここはお姉さんに任せない」
 チルが久遠のお猪口に酒を注ぐ様子に夏蓮は思わず立ち上がろうとするも、大丈夫と二人に制される。何せ夏蓮、普段はお客をお持て成しするのが生業のパーラーメイド。オマケに故郷で厳しく教育や躾も受けてきた身。己が何もせず、接待を受ける側と言うのはどうにも落ち着かない模様。
(「それに……」)
 夏蓮は共に来た仲間達をそっと見回した。まだ料理も到着する前で宴会も始まっていないと言うのに。こんな賑やかで楽しい旅行も、北海道に来るのも夏蓮にとっては初めて尽くしで。そして皆の笑顔に、彼女自身表情には出ぬものの楽しく嬉しいと感じていた。
「ふむ……普段は酒宴の類いは好かんのだが――この面子ならば面白そうだ」
 怜もお猪口片手に口元に笑みを浮かべていた。この時までは面白そう、とだけ純粋に思ってしまっていたんだ。
 そして、冒頭の如く――リダンの乾杯の音頭と共に慰安会兼新人歓迎会は始まったのであった。

「いえーい戦争おつかれさん、かんぱーい♪」
「かんっぱ~い!」
 浴衣姿の久遠がお猪口を掲げ、クロアがビール注がれたグラスを合わせるとチリンと涼しい音が響く。
「失礼致しますね」
 と旅館の仲居のお姉さん達が次々と料理を運んでくる。夏蓮はその所作一つ一つをつい食い入る様に観察しているのは最早職業病。だって旅館のおもてなしなんて滅多に見られるものじゃないし、喫茶での接客の参考になるかもだし。
 運ばれてきたのは様々な魚のお造りが鮮やかに美しき舟盛りと、大きな皿に載せられた握り寿司。
「スゴーい! スゴいお料理!!」
 やってきたそれを前に、既にクロアのテンションは爆上がり。そもそも北海道にずっと来たかった彼としては、素敵な景色に美味しいご飯にと楽しみで仕方無かったのだから。いっただっきまーす♪と誰よりも大きく声を弾ませてお箸を手に早速イカ刺しを摘まんで口に運ぶ。美味。
「これ、は?」
「ふふ、こちらの旅館ではシシャモのスシを提供して頂けるのです!」
 チルが嬉しそうに告げるのを聞きながら、見た事も聞いた事も無い寿司ネタに怜が戸惑った表情を見せる。
「この時期だけの美味ですよ。ええ、この為にこちらの旅館を選んだと言っても過言では無く」
「チルちゃん、ホント寿司にかける情熱と知識が凄いわ」
 リダンは思わず感嘆の息を吐いた。彼女のグルメへの造詣――中でも寿司を相当気に入っているのは知ってはいたが。アックス&ウィザーズ以外の世界に疎いと自称するチルが、出身世界でも無い|地球《アース》世界の極東島国の料理を何故こうまで知り尽くしているのか。
「そう言えば『スシカタログ』なんて自作してるんだっけ?」
「ええ、私自ら世界を巡って様々な地方や文化のスシを食し、それを記録しただけですが……」
 リダンの問いかけに僅かに赤面し、慌てて謙遜するチル。
「知り尽くすだなんて、そんな。私はただ、スシと食事が好きなだけです」
「しかし、まあ、シシャモのお寿司って初めて知ったわ。お寿司にもなるのね」
 夏蓮は興味津々に小皿を醤油を入れ、箸で一貫摘まんで間近で改めてそれを見る。魚の大きさはイワシにも近いが、白身魚の白茶色したネタが薄らと銀色を帯びており。グリードオーシャン出身で魚介類を好物とする夏蓮にとっても間違い無く珍しい魚ではあった。
「是非その味と香りを味わって頂ければ」
 チルも箸で一貫を取ると、ゆっくりと口に運び。それに倣う様に夏蓮もネタとシャリを口の中に放り込む。
「……美味しい」
 思わず口に手を当てて、じっくりとその旨味を口の中で反復してしまう。
「見た通り脂が乗ってますね。実に肉厚で甘みも旨味もしっかりと……しかししつこくなくさっぱりとして……」
 熱く語るチル。気が付いたらメルトがそんな彼女の様子をバッチリ撮影していたの図。
「その解説とお寿司の写真、SNSにあげとこ!」
「ちょっ……メルトさん!? 流石に恥ずかしいから私の声は加工して頂けますか!?」
 赤面してチルはそのままのアップを阻止。美味しそうな写真と文字解説にはイイネとリツイが乱打された。
「メルちゃんも出身世界じゃ無いけどキマフュへの情熱とかラブがハンパないわよねー」
 チルの寿司への情熱もなかなかだが、メルトの撮影や配信への情熱もなかなかだと思いながらリダンはふとそんな事を本人に問いかけ首を傾げた。
「やっぱり、こう、好きこそものの的な?」
「んー、もちろん配信で色んなことが発信出来るからかな!」
 ぽちぽちっとお寿司の写真だけアップをしながらメルトは考えつつもそう答える。
「まぁ、メルがここにいるんだぞーって、人生の切り抜きでも良いから、見て欲しいって言うのはあるかな?」
「確かに、いいね貰ったり沢山視聴者がいてくれるって自己肯定感マシマシだものねー」
「あと、純粋に雰囲気が好きすぎる! ポップでキュートなカルチャーだもんね」
 そんな事を話しながら、メルトはようやくお箸を手に取りシシャモ寿司を実食開始。
「あ、ホント美味しい!」
「この時期だけなのが惜しいくらい。水澤さんもよければいかが?」
 リダンもまたシシャモの旨さに目を輝かせ。夏蓮はこの美味しさを皆で分かち合いたいと、怜に声をかけた。
「う、うむ……それでは俺も一つ」
 チルの熱い説明を聞いていたら怜も是非賞味してみたいと思っていた所であった。一貫を指で摘まみ、少しだけ醤油をつけて口に放り込むと。
「……旨い」
 もぐもぐと咀嚼はゆっくり。口の中に蕩ける様な食感と甘みが癖になる美味さである。
「ナニナニ? 生ししゃもスシ? 食べますぅ~! さっすがチル、お目が高い!!」
 珍しい食材の名に既にビールを何杯も飲み干していたクロアは目を輝かせて覗き込み、久遠もまたおや?と首を傾げて面白いモノを見たと言わんばかりの表情でシシャモの寿司を見る。
「チルさんと夏蓮さんは珍しいモン食べてはりますねぇ。嫁さん曰く山椒塩が合うそうやけど……」
 久遠の妻は北海道出身との事で。夏蓮は寿司と一緒に運ばれてきていた小さな小皿にそれを見つけた。
「山椒塩というと。これかしら」
「ああ、多分それやね」
 道民お勧めの食べ方となれば試さない訳が無い。白身にチョンと山椒塩を付け、口に運べば蕩ける食感に僅かに痺れる香味が良いアクセントになってくれる。
「おいし?」
「ウナギに山椒が合うのと似てますね」
「まぁ、本当だわ。こちらも美味しい」
「そかそか、そら良かった♪」
 チルと夏蓮が再びの衝撃に包まれる中、久遠は更にシシャモについて告げるのだ。
「オスとメスとで味違いますよねぇ」
「え、そうなの?」
 夏蓮は更に加わるシシャモのトリビアに驚く表情。こくりとチルは頷き、スラスラと詳しい説明を加えていく。
「アレですよね。お腹の卵に栄養持って行かれるメスと違ってオスの方が身に栄養――旨味の素がいっぱいあるんでしたか。でも丸焼きにした時の子持ちシシャモもまた絶品なんですよね……」
 ちなみに本物のシシャモは流通が非常に少なく、現代地球系世界のスーパーに出回っているのは|カペリン《カラフトシシャモ》で全然近縁ではあるが別種の魚なのだとか。
 そして北海道の海の幸と言えば他にも色々ある訳で。
 クロアが思わず目を輝かせていたのは海鮮丼より尚美しい海鮮ちらし。
「見て見て、甘エビにホッキ貝にイカにカニ! それにイクラも沢山、キラキラとまぁ宝石箱みたいに……!!」
「これは……映えるやつ!!」
 色とりどりの豊富な魚介が勢揃い。美味しそう且つ美しき料理を前に、メルトも後でSNSにアップするべくしっかり写真に納めていた。無論見目だけで終わる筈もなく。
「うっま! コレうっま!」
「イクラが口の中で弾けて、芳醇な甘みと旨味がタマラナイ……!!」
 海の宝石達は見目だけで無く、口の中もこれでもかと楽しませてくれるのである。

 さて、海の幸を頂いたあとは山の幸と言う事で。
「ふふふっ、食べてみたかったのよね、本場のジンギスカンっ!」
 リダンは運ばれてきた本格的な七輪と、兜の様な不思議な形したジンギスカン鍋に心弾ませていた。
「今日はたらふく共食いタイムよっ!」
「と、共食い……!?」
 そんな事を言い放つリダンに対し、夏蓮が目を丸くした。北海道の色々なものには馴染みがないが故、ジンギスカンも初めて目にし耳にする彼女は出て来た肉とリダンを思わず見比べる。
「これ、山羊の肉なの?」
「あはは、ジョーダンよ。驚かせてゴメンねカレンさん。これはヒツジの肉」
 そう言うリダンは宇宙ヤギ。お肉は士別特産サフォーク種高級ラム。もしかしたら近い種類かもだけど共食いじゃないから一安心。そもそもキマイラだし。
「ジンギスカン~コレコレ~食べたかったんですよ~♪」
 クロアは前にも食べた事があるのだろうか、手際良くモヤシやキャベツなどの野菜を熱せられたジンギスカン鍋の上に載せ、その上に更に肉を重ね広げて蒸す様に焼く。その様子を夏蓮は興味津々に見つめ、肉を引っくり返したりと経験する事も忘れない。
 少しレアなくらいが美味しいと言う話。僅かに赤みの残るその肉を取り、個々の器に入ったタレにくぐらせて。口に運べば牛とも豚とも違った甘い味わいが口いっぱいに広がった。
「これがジンギスカン……!」
「臭みも全然無いし、凄く美味しい……!」
 夏蓮もメルトもその味わいに大満足。一緒に焼いた玉ネギも道産の品種との事で、しっかり火を通して味わえば強い甘みが口の中に蕩けていく。
「あ、鹿もある、鹿肉ジンギスカン食べる人ー?」
「鹿!!??」
「鹿肉ジンギスカン!? いくぅ!!」
 久遠がラム肉とはまた違った色味の肉を見て皆に問いかけながらそれを鍋の上に載せていけば、夏蓮は驚きの声を上げ、クロアは親指立てて景気良く応答した。
 羊以上に聞き慣れないその肉はエゾシカ肉――つまりはジビエ。本州の鹿より大きなエゾシカの肉はかつてのアイヌ達の主食の一つであり、今は食害から自然を守る為に狩られた命を美味しく頂こうとこうして供されているらしい。
「ほいほい、焼けたら載せてくさかい……お皿寄越し?」
 と久遠は夏蓮やクロアの小皿を貰っては肉と野菜を手際良く載せて行く。エゾシカ肉の色はラム肉よりも色が黒に近く、その歯応えはなかなか強く、そしてどこかレバーにも似た鉄分の多さ感じさせる風味。厳重に処理された肉は臭みなどは無いものの、自然の中に生きた命だけあって野性味溢れる気がする味わいを齎すのだ。

「それにしても地酒もなかなか美味しいものね」
 程々にセーブしながらもリダンは久遠が呑む日本酒をお猪口で少しずつ味見。お酒を嗜むのは好きなのだ、強くないだけで。一方、怜は久遠やクロアに勧められるまま、グイグイと酒を頂くものも顔色はさほど変わっていない。どうやら底無しのザルらしい。
「怜ちゃん、戦争お疲れサマ~」
「む……」
 そも、旧知の仲であるクロアに勧められれば断る理由など無い。職場の同僚達相手は不得手であるが、こうして気のおけぬ仲間と共に酌み交わす事には一種の憧れすらあったのだから。
「サクミラの戦争でしたもんね。やっぱり心労とかあったんじゃないです?」
「まぁ、そうだな。色々感慨深いものもあるが……」
「ええ、ええ……想いは色々あるでしょうし遠慮無く吐き出しておしまいなさいな」
 どんどん酌をしつつ、幾らでも話を聞いてやるとクロアは微笑み一つ向けた。本当はその心境が心配なのだが、そんな素振りを見せぬのも彼の優しさなのだ。
「この大雪山の美味しいお|水《酒》、めっちゃ合うルイベと合う……うま、最高やわ……」
 久遠もそそっと怜の前に鮭のルイベやニシンの燻製などのご当地酒肴を差し出して。冷酒でチビチビ頂きながらも彼の話に耳傾ける。怜はそんな二人の優しさが嬉しくて。頂くお酒も肴も美味しくて。ついつい酒も進み、色々と溢れる想いを口にして聞いて貰って――労って貰って。
(「たまにはこんな風に飲むのも良いな……」)
 だがしかし。そう思いながら和んでいられた時間は、あっと言う間に過ぎ去った。
「そんなお疲れを! 吹き飛ばす! わたしの美しい裸体をご覧あれ!!」
 ばっ!! 突然立ち上がったクロアは浴衣の袖から両腕を抜き、遠山奉行もビックリな勢いで上半身諸肌脱ぎ。
「キャー!?」
 思わずビックリした女性陣が悲鳴を上げる。メルトは慌てて回していた動画撮影を止め、チルは己の目を覆う。
「――はっ!? ……おい待て、脱ぐなクロア!!」
「あっはーん♪ ほっかいどーはでっかいど~♪」
 慌てて止めに入る怜だったが、既にクロアは歌いながら踊り出し、帯に手をかけてその太股から尻までも露わにし。よくよく聞くと歌に合わせて妙に色艶めかしいギターの音。久遠が爆笑しながらギターで「ちょっとだけよ~」といった感じのムードたっぷりな曲を演奏して悪ノリに拍車をかけていた。
「あんたも好きねぇ~♪っと」
「久遠まで煽るんじゃない!」
「えー、だって怜さんが止めてくれるやろ?」
「そんな信頼は 要 ら ん」
 壮絶なボケツッコミの応酬がなされるのを夏蓮はどこか楽しそうに、しかし光景からは少し視線を外しながらも表情を和らげて呟いた。
「ルースフェルさんのようなとても見目良い殿方が、お酒で艶やかな姿になるなんて。世が違えば絵画の題材になって、名画として飾られそう」
「♪でっかいどーのめいぶつは~ かに! いくら! どれもビューティー……!!」
 褒め言葉と取ったのか。クロアはますます調子に乗ってその艶めかしい足を天に掲げるセクシーポーズをキメ。
「うーん、ホントにビューティー! って、名画はないわー!」
 リダンは思わず大爆笑をしていた。ただでさえ酔っ払って笑いの沸点がダダ下がりしていると言うのに、この美形どもの面白可笑しい姿|+《プラス》夏蓮の大真面目なボケは見事にツボにクリティカルヒット。チルやメルトも雰囲気に呑まれたか釣られてクスクス笑い出す。
「いい加減にしろぉぉ!!」
 結局この騒ぎを収束させたのは物理であった。怜はクロアが脱ぎ捨てた浴衣を引っ掴むとその頭の上から思い切り被せてストリップタイムは強制終了。久遠からはギターを強奪し、二人を隣の部屋に転がし追いやるとビシャッと襖を閉めて女性陣の目からシャットアウトした。
「あぁ……いつものやつだ……」
 頭痛が痛い。コメカミ抑えて怜は大きく息を吐く。
(「コレ、ツッコミ役の水澤さんは休みになってるのかしら……」)
 漸く笑いのツボから脱出したリダンは改めて彼の表情を見るも。
 何故だろう。疲労どころかその口元に僅かに笑みが浮かんで見えた。
(「最近忙しすぎたし、ツッコミどころがある時の方が気が休まるかもしれないわね」)
 と、重く受け止める必要の無い事に安堵するリダン。
 そして。どうも不思議と嫌ではない――と、怜自身、そう感じていたのであった。

「メルちゃん、あっちの牧場ミルクのソフトクリーム、自分でトッピングできるんやって」
 デザートだけはお隣のビュッフェを利用出来るとの事で。偵察に行った久遠からの報告に全員が目を輝かせた。
「……あ、気になる人多い感じ? ほんなら映えるヤツ作りに行ってみぃひん?」
「久遠さん、ナイス!」
「クオンナイス~!」
 メルトがサムズアップし立ち上がると、何故かクロアも立ち上がる。
「こういうの良いよね……ちょっと口直しに甘いの、メルも好き」
「行きましょう、是非、美しき甘味の芸術を!」
「「「 まずは服を着ろ!!!! 」」」
 ――とクロアが全員に取り押さえられて浴衣の帯をグルグル巻きにされたのもまたご愛敬。
 一同が向かった先、デザートビュッフェの片隅にはソフトクリームマシーン。器に自分でくるくると巻いて盛るのが難しく、そして楽しい。人によっては妙に傾いてみたりそもそも巻けてなかったりもあるが。メルトもクロアもお店みたいに綺麗に巻いて器に盛れてご満悦。
「贅沢って感じがするよね……! 映えるの作ろう、トッピングいっぱいの!」
「ええ、わたしが作るモノは美しくなければなりません」
 様々な果物やソース、トッピングを一生懸命に盛り付けるメルトに、とにかくいっぱい盛り付けるクロア。
「ほら、怜さんも一緒にどうですか?」
「え……? そ、そうだな……」
 チルがソフトクリームとイチゴを可愛く盛り付けた器を手に、怜にそれとなく勧めてみれば。彼は遠慮がちに……しかし付いてきたからには気になっていたのだろう。器にソフトクリームを載せ、チョコソースをかけて一口。
「……旨い」
「でしょー?」
 ポツリと呟いた怜の反応に満足げなチルは、良く見たらメルトに向けて優しい笑みを浮かべつつ手を振っていた。
「は?」
「怜さん、甘味の証拠写真頂き!!」
 パシャリと端末がシャッター音を鳴らす。よくよく見ると、怜の頭から伸びる桜の枝が何故だかニョキニョキいつもよりも伸びているような。
「は、恥ずかしい……」
「はぇー、良いじゃん。お酒のあとの〆パフェとかフツーだよ、フツー」
 流行りの締めパフェ文化とは北海道の札幌から発信されたブームなんだし、と言いながら。さてとメルトは自分がトッピングを施したスペシャルソフトクリームにカメラを向けた。
「おや、メル。自分が写ってないのもったいなくない?」
 クロアはすっとその手を伸ばしフフッと笑みを浮かべて告げた。
「撮影いたしますよ、貸してくださいな」
「あ、クロアさん……!? ありがとう、そうだよね、メルも写っていないとね」
 その申し出に一瞬目をぱちくりさせ、そして次の瞬間には嬉しそうに照れ笑いを浮かべてメルトはタブレットをクロアに手渡した。
「美しく撮影するのはま~かせて★ あ、他の皆さんもちゃーんと写して差し上げますから。怜は逃げるな★」
「くっ……」
 撮影範囲から外れようとした怜はしれっと押し戻され。メルトと彼女の作った|作品《パフェ》は、皆に囲まれ共に写真という形で残されていく。
「あっ! ちょっと右寄って、そうそう。笑顔くださ~い♪」
 クロアの合図で記念写真となるピンナップが次々と撮られていく。その間、メルトは皆の温かさに優しさに、そして賑やかさの中に――ちゃんと自分も存在しているのだと言う安心感を覚え、何だかとてもホッとしていた。
(「なんか……そう、せーしゅんってかんじだー!」)
 居場所がある、そんな嬉しさにメルトは満足げに笑顔を浮かべ。
「あぁ、今日も美しい仕事をしてしまいました……」
 と、クロアは特に意味も無くセクシーポーズを決めていたのであった。

 ――かぽーん。
 宴会の後はホカホカ温泉タイム。洞爺湖温泉の泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物温泉……俗に言う美肌の湯。保湿性に優れ、肌を柔らかくした上で汚れも皮脂も綺麗に洗い流す事が出来る。
「お肌がスベスベになりますね」
 チルは湯に浸かった己の腕をさっと撫でてそう微笑んだ。ドラゴニアンの繊細な鱗肌であってもしっとり艶々である。
「私、露天風呂もあまり経験がないので何か作法があれば教えて頂けるかしら……?」
 そう心配そうに夏蓮が問うと、チルは大丈夫ですよとその手を引いた。
「内湯と何も変わらないと聞いてます。はしゃいだり大声を出さなければ問題ないですよ」
 もっとも夏蓮の性格からそんな心配は無い。ガラス戸を開けて外に出れば秋の夜の冷たい風が火照った身を一度に冷やし、どこか心地良く感じられる。
 そして再び湖に面した湯に身を浸せば、水面がまるで湖に続いているかの様な錯覚すら感じさせた。
「綺麗……」
 秋分を過ぎた空は夕焼け色と夜の色とが混ざり合って神秘的な紫色を作り出す。大海広がる世界で生まれ育った夏蓮であったが、大きく広がる大地から紅葉溢れる山々の上に見上げる空に思わずすっかり見とれていた。
「あら、もしかしてあれが……」
 夜の帳がすっかり降りた天で明るく輝くは月。その光を遮る様に雲がゆっくりと流れてきたかと思うと、美しい輪状の光が月の輝きを綺麗に飾った。
「あれがお話に出ていた月暈……きれい」
 ……果たして、あれを空から見たら、どんな風に見えるのかしら。同じように見えるのかしら。
 そんな事を思いながら、夏蓮は初めての露天風呂、そして月見湯を満喫していたのだった。

 ――かっぽーん。
「へ? 脱ごうとしてた? またまた~ご冗談を~」
 僅かに時は遡り。こっちは男湯方面。脱衣所で浴衣を脱ぎながら、クロアは手をヒラヒラさせケラケラ笑う。
「本当に覚えてないのか……?」
 最早酔いが醒めているらしい事も驚きだが、その間の事は全く覚えていないのだと言うクロアの言葉に、怜は己のこめかみに青筋が走るのを確かに感じていた。そして同じく浴衣を抜いた怜の身体を見た久遠は思わず小さな舌打ち一つ。
「ええガタイしてはる……」
 着痩せするタイプだと言うのは本人の談。鍛えられ引き締まった筋肉。その肌には先日の戦争で受けた傷痕が残り、服を脱ぐのに躊躇している様であったが、そんなのどうでも良い。自分の痩身の身体と見比べたら何だか腹が立ってきた。
「……脱いだら凄いんですってか」
 ピッシャーン!! 怜の背中に思い切りビンタを張った久遠。盛大な音に比例するだけの痛みが走ったらしく、悶絶しながら彼は少し涙目で振り返り叫ぶ。
「何故だ……ッ!」
「そんなん八つ当たりに決まっとりますやん。はは、背中にエエ感じの紅葉が色付きましたなぁ」
 しれっと笑いながら久遠は先にお湯頂きますわ、と風呂に向かい。
「――解せん」
 叩かれた背中を擦りながら怜は久遠の後に続く。受難(?)も続く。
「怜っちゃ~んお背中流してあげましょ。わたしはお兄ちゃんですからね!!」
「はい??」
 今度はクロアに謎の弄りをされる。どんなネタだよと聞かれてもそういうネタらしい。再び解せぬの顔する怜。
「ほらほらこちら座ってこっち背中向けて。疲れも何もかも全部洗い流してしまいましょ」
「いや、洗われるのも傷に浸み――」
 痛ひ。しかし怜は歯を食いしばって耐える。甘んじて受ける。二人のこれらのご無体は決して悪意で行われているのではないと知っているから。変に気張っている自分の気持ちを解す為の気遣いなのだと理解しているから。
「そういやここ、美肌の湯とか打ち身擦り傷に効くとか書いとりましたねぇ」
「美肌の湯!? ちょっ、ソレ早く言ってくださいよ!!」
 久遠が思い出した様に温泉の効能を告げれば、クロアは突然鼻息を荒くして真っ直ぐ湯船にぼちゃんと浸かる。
「ちょっ、背中終わったのか!?」
「あとはすすぐだけですよぉ~♪ はぁぁぁぁスベスベになりますね本当にっ!!」
 放置された怜はザブンと湯を被るとクロアの後を追って湯に浸かりに行く。久遠が言った通り、泉質は肌に優しくてぽかぽかして、心も体も優しく癒されるような温もりすら感じていく。
「あ゛ー……あったまるぅ……」
 久遠も湯船に浸かり、骨の髄まで温まるのを感じながら。ふと外を見ればすっかり日も落ちて月明かりが湖を照らし出している事に気が付いた。
「なぁ、露天も勿論行きますやろ? この感じなら、条件合ぅとれば月暈出るはずやけど……」
「前に話してたあれか」
 怜は頷き、クロアもまた行きましょ!と微笑んで。三人は湖に面した露天風呂へ。
 北国のどこか乾いた空気は冷たさは湯上がりの肌を一瞬刺すも、再び湯に浸かれば優しく包み込まれるかの様。
 湖面に続く様な露天風呂。ぽっかり浮かぶ中島の影が夜空より降り注ぐ月明かりに映し出されていた。
「ほらほら、二人ともアレ見ぃ」
「あれが……月暈か」
「アレが月暈。初めて見ました……」
 薄い雲に覆われて尚も明るく白く輝く月。その周囲にリング上に広がる光の造形。
 大自然と相まってのその美しさに、二人は思わず息をするのも忘れそうになっていた。
「んふふふ、なんかぼーっと見ちゃいますね。キレイ」
「ああ、本当に……」
 クスクスと笑みを漏らすクロア。少し切なげに目を細め、感心して見つめていた怜。そしてそんな二人が感動している様子を満足げに眺める久遠。
「教えてくれたクオンには感謝いたしませんと」
「ふふ、めっそもないことやわ」
 クロアがお礼を述べれば、久遠もまた微笑んで浴槽に凭れ掛かり、ぽつりと呟いた。
「いつか白虹も見に行きましょね」
「ええ……けど今は、もうちょっとだけ、見させてくださいな」
 さっきまでワイワイ騒いでいたとは思えない程に。三人は静かに月見の湯を楽しんでいくのであった。

 温泉ですっかり身体が温まったところで、一行は旅館の外にある湖に面した遊歩道に足を運んでいた。
「こちらの温泉街では夏の間に毎日花火大会が行われるとの事ですが――」
 皆に説明したチルが視線をリダンに向けると、彼女はコクリと頷き満面の笑みを見せた。
「今回は事前にお願いしといたのよ。特別な花火!」
「おわ! 花火も準備してくれたって!? 見よみよ! どういうの上がるの?」
 メルトは驚きながらも急いでタブレット端末を起動させる。最高のプレゼントをしっかり動画に収める為に、録画モードに変更完了。
「ふふ、それは上がってからのお楽しみよー」
 ちなみに今回のお金の出所は会社の売上金。キマイラフューチャー出身なリダンは、お金なんて楽しむ為に全部使うべし!が信条である。使わないと経済だって回らないのだ。
 そして花火大会開始。夜空に広がる大輪の花。ひゅるひゅる……っぱぁぁぁん!!と言う音が重なりながら、赤黄緑青と色とりどりの光が宙に広がり、閃光が皆の顔を次々照らす。
 まずは普通の花火が何十発も打ち上がり――そして。
 パァァァン!!!
「上がった!! あ、もしかして、今の!?」
「……あ、今のは燮樹さんのお顔ではなくて? 花火でもかわいらしい……!」
 空に浮かんだ光の粒はまるでメルトの顔を象っていたのだ。そこで初めてリダンはネタばらし。
「今回は新入団員なメルちゃんにカレンさん、そしてクオンさんの顔をイメージした花火をお願いしてたのよ」
「ふふふ、やっぱりキャッチーな感じのイメージ戦略成功って感じかな!?」
 夏蓮のかわいい、と言う感想に、思わず顎に手を当ててにんまりし、花火が消える前に一緒に自撮りするメルト。
「おぉ……仕掛け花火か。さすがリダン、すごいな」
 メルトを真似てか、普段は使わぬスマホを一生懸命空に向ける怜はどうにも操作に手こずって、花火の光も滲むわピンボケだわと機能を殺しに掛かっている。違う意味で凄いが無論凹んでいた。
「わざわざ花火を用意していただいていたなんて……風情があって素敵。あちらは久遠さんね」
 次の花火の音と共に広がる顔を見て夏蓮は天を指し示すと。
「え、アレがボク……? ちぃと目が細過ぎやおまへん……?」
 歓迎の意にはとても感謝をしつつも。特徴を捉えすぎた糸目顔にとうの久遠はしょっぱい顔を見せており。
「今回は顔写真を元にお願いしたんだけどねー」
「似顔絵って特徴を強調するものだと言いますよね」
 リダンはそんな久遠に苦笑いし、チルもフォローになっているのかどうかな事を呟いてみたりして。
「でも、こうして花火で顔が表現出来るなんて、すごいわね」
「っと、最後のあれは蔵務さんとちゃいます?」
 空に描かれたのは夏蓮を模した花火。長く伏せがちな睫毛が印象的で、無表情な本人より少し豊かな表情を、笑みを口元に浮かべたアレンジがなされており。
「うんうん、実に可愛らしいわぁ」
「だね、夏蓮さんのもチョーキュート!!」
「あれが私……なんだか照れちゃう」
 久遠やメルトの称賛に夏蓮自身は思わず頬を赤く染めてみたりして。そこにリダンはふと口にした思いつき。
「船形態イメージの花火とかもかっこよさそうねー」
「……はい?」
「カレンさん、今度是非、船姿撮らせてくれない? いっそ今変形して舟盛り(物理)とかしてみる?」
「舟盛りだなんて。そんなことを言われたのは初めて」
 さっきの宴会で出て来たお刺身のアレを思い出しながら言われたそんな冗談に。夏蓮は思わず目をぱちくりと数度瞬いてクスクスと小さく笑う。
「……可笑しい。この場に18メートルの舟は大きいのではなくて?」
「いや蔵務……さすがに18メートルの舟盛りはキツいだろ……主に食う方と財布役が」
 ついマジでツッコむ怜はちらっとリダンを見て肩を竦め。だが、夏蓮はそのまましれっとリダンに向けて告げるのだ。
「……その。他にどなたもいない時であれば。お世話になっているし」
「いやいやいや、カレンちゃん冗談だからね? 本気でやらなくて良いのよ!?」
 更に高度な冗談のお返しに、リダンはたまらず降参して夏蓮を止めるのであった。


 夢の様な時間はあっと言う間に過ぎ去り。疲れ果てて一晩暖かいお布団で寝たら朝。
 朝靄のかかる湖の景色も絶景で、クロアを筆頭に何人かは再び美肌の湯へ朝風呂を頂きに行き。
 豪華すぎる朝ご飯も皆で美味しく頂いて。満ち満ちたところで楽しい旅行も帰り支度。
「北海道はお菓子もいいわねぇ」
 チェックアウトした後、温泉街の土産物屋を見て回るご一行。今回一緒に来られなかった仲間へのお土産なども――と見て回り、この洞爺湖畔に本店を置く北海道銘菓のお店で沢山買い込んでいたリダン。
「多めにお願いしてるし、お子さんのお土産にしていいわよクオンさん」
「おや、そしたらお言葉に甘えて」
 お菓子の入った紙袋を渡され、おおきに――と久遠は一言礼を述べる。
「このお菓子は嫁さんも子供らも好きでしてねぇ」
「ああ、北海道出身って言っていたものねぇ、奥さん。懐かしの味なのかしら」
「3人で頬袋作って食べてるんが愛らしゅうてほんま天使で……」
 この流れは良くない気がした。リダンは大きな紙袋を両手一杯に引っ掴むと、グルッと文字通り尻尾を巻いて|脱出《ダッシュ》。
「あ、お礼の惚気はいいから。さっきも十分聞いたからーっ!」
「あ、ねーさんもうちょい聞いたって! あと30秒!!」
 そんな良くある光景もまた、日常と変わらず。遠くから眺めていた仲間達はクスクスと笑みを浮かべていたりして。

 美しき秋の風は、一足早い冬の訪れを告げながら――七人の帰路を見送る様に静かに謡うのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2025年01月03日


挿絵イラスト