悪夢のアスレチック初詣~バグ技を添えて
年の瀬も迫る頃、とある寂れた神社の一角。その境内から、雪のように真っ白な塊がもふもふと集まり、もきゅきゅぴと愛らしいさえずりを響かせていた。
板張りの床にちょこんと座っているのは、どこにでも現れる悪夢のふわもこ。
「もきゅぴぴ、きゅきゅーい」
「ぴーい、もーきゅぴ」
「きゅっぴ、もっきゅきゅい」
車座になった七匹のモーラットナイトメア達、ちっちゃいお鼻を突き合わせて、もきゅもきゅと交わす本日の議題は?
――今年の僕達、ちょっと可愛すぎない?
モーラットナイトメアはオブリビオン。
オブリビオンというものは、本来世界の敵である。
モーラットナイトメアもオブリビオンらしく恐るべき能力を有している。
『トラウマを再現した悪夢や、欲望をかなえる夢を具現化する。とっても邪悪なモーラット』
設定にあるとおり、モーラットナイトメアは邪悪なのだ。
それなのに……。
今年の彼らの悪事といえば、悪夢の果樹園、屋内遊園地、そして昭和ハロウィン。
街中でやられればまあまあ迷惑なのだが、どれも直接人を攻撃するようなものはなく、とっても邪悪かというと、「もーきゅ?」とまん丸ボディを傾けざるを得ない。
「もーきゅ! きゅぴもきゅきゅっぴーい!」
――我らモーラットナイトメア! 今こそトラウマを再現し、とびきり邪悪なことをすべし!
一匹のふわもこが賽銭箱の上にぴょんと飛び乗り、ちっちゃい腕を振り上げる。
他の毛玉達も「きゅっぴもっきゅー!」と次々に参道の意を示し、そして……。
●グリモアベース
「も、も、も、きゅぴいいいいいいっ!」
ふわもこ毛皮を細長く窄めたグリモア猟兵のモーラット、略してグリモラが悲鳴を上げた。
「正月早々モーラットナイトメアが出たのです。しかも今回もとっても邪悪な悪さを企んでいるのです」
はいはい、今度は何かなあ。
大騒ぎするカントには悪いが、猟兵の一人がちょっぴりわくわく顔をした。
なにせ、欲望に忠実なモーラットナイトメア達は、基本的にはモーラットと同じく遊びやお菓子が大好き。よって彼らの欲望を叶える悪夢も大体そんな感じ。
今回も美味しいものを食べてまったりしたらいいのかな?
メニューは何かな? 正月らしく巨大おせち迷路とかお雑煮温泉とかかな?
そんなことを考えていると、カントが眉をつり上げた。
「違うのです! 今回ばかりはとっても悪いのです。迷い込んだらトラウマてんこ盛りの悪夢なのです!」
カント曰く、今回のモーラットナイトメア達は本気である。
本気の本気でトラウマを呼び出す悪夢を顕現させたという。
「とっても恐ろしかったのです……」
予知で見ちゃった悪夢の恐ろしさに、カントが身震いする。震わせる毛の摩擦でパチパチ静電気が出る様子を見れば、それがどれほどの悪夢だったかが窺える。
「場所は鎌倉近くの山にある寂れた神社なのです。普段なら誰も来ないのですが、お正月なので初詣に来る人がいるかもなのです」
モーラットナイトメア達がいるのは、山頂にある神社の中。
神社に向かう参道は、本気の彼らが創り出したトラウマだらけの悪夢のアスレチック場(お正月仕様)となっている。
その恐るべき罠とは――。
飛び石を跳んで渡らないといけない大きな池。池の中にはおめでたい紅白の巨大鯉が大口を開けて待っており、落ちてきた猟兵を丸呑みにせんとする。
巨大臼が並ぶ通路には踏み込むと上から杵が振ってくる罠があり、お餅のようにぺったんされてしまう。
そしてお年玉。金銀パールの三種の大玉が崖の上からプレゼント。
その罠をくぐり抜けたら初日の出。にっこり笑った太陽が、グルングルン回って猟兵を追いかけ、灼熱の体当たりで焼き付くそうとする。
その他にも数々の罠が猟兵達を待ち受けているという。
「しかも罠を無視して山の上まで飛んで行くとか、そういうズルは通用しないのです」
モーラットナイトメアの能力によって、この悪夢のアスレチック初詣を楽しまない行動は全て弱体化されてしまう。山の上まで飛ぶとかテレポーテーションするとか、そういうインチキを試みた猟兵には、突然の突風などで遙か彼方に吹き飛ばされてしまうのだ。
「とはいえ、実はこの悪夢には穴があるのです」
モーラットナイトメアが創り出す悪夢は、その数が増えるほど範囲が広がる。
だが、今回の範囲は小さめの山一つ。七匹でカバーするのは少々難しい。
悪夢のあちこちにはバグのような隙間があり、それを見つけて無理矢理通ればあるいは罠を全部すっ飛ばして頂上まで最速でたどり着けるかもしれない。
それどうやるのかと聞くと、カントは「わからないのです」と体を傾けた。
「階段にお尻を突っ込んで連続ジャンプするとか、壁にめり込んで隙間を抜けるとかなのです?」
とても曖昧な答えだが、それでなんとなく分かる猟兵もいるらしく、数人が頷いた。
まあその中には猶予フレーム数が1とかそのくらい難しい技もあるので、正攻法で攻略してももちろん構わない。猟兵の身体能力を考えれば、普通に回避も可能である。
「とにかく、悪モラ達をなんとかしてほしいのです。よろしくお願いするのです」
もきゅっと鳴いたカントがグリモアを光らせ、猟兵達を送り出すのだった。
本緒登里
●MSより
新年明けましておめでとうございます。
おめでたい七匹のモーラットナイトメア達です。
●シナリオについて
こちらは2章構成のシナリオです。
第1章:冒険『悪夢のアスレチック~バグ技を添えて』
モーラットナイトメアの創り出す悪夢のアスレチックを攻略します。
普通の人間だと死の危険もある罠なのですが、猟兵だと当たったら痛い程度です。
バグ技を駆使して罠をすっ飛ばすというのも可能です。
第2章:集団戦『モーラットナイトメア』
なぜか1680万色に光るゲーミング神社で初詣をします。
モーラットナイトメアと追いかけっこ、おみくじを引く、甘酒を飲むことができます。
モーラットナイトメアを放置して初詣を楽しむことも可能です。
●プレイング受付
物理的に開いている限り、常時受付中です。
オバロ、複数、1章のみ参加等、お気軽にどうぞ。
同行者がいる場合は、同行者の名前とID、もしくはグループ名をお書きください。
第1章 冒険
『悪夢への挑戦』
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POW : 自分自身を信じて立ち向かう
SPD : 体が覚えている技量を使って立ち向かう
WIZ : 友情や憧れを思い出して立ち向かう
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
日の出まであと数時間という頃。
とっても邪悪な悪夢のふわもこ達は、自分たちが創り出した悪夢の出来に満足しながら、山頂で甘酒をペロペロ舐めていた。
「もっきゅ! きゅきゅーう!」
「きゅんきゅいもっきゅ!」
「もきゅぴぴぴー!」
ワビサビすら感じさせられる古びた神社の境内は、いまやモーラットナイトメア好みに1680万色に輝き、山道を登り切ったところに立っている旗竿には、ふわもこ達の姿をかたどった悪夢の旗がはためき、彼らの存在感をしかりと示している。
ぴょんぴょんと旗竿に登って高いところから見下ろせば、階下に広がる罠罠罠!
腹ぺこ巨大鯉の池に、巨大餅つき器、金銀パールのお年玉、そして初日の出。
どれもお正月にふさわしいモチーフで、なおかつ嵌まればトラウマ必須の高難度。
――恐ろしい罠に立派なお城!
――新年にぴったりな邪悪な所業!
――やったあ!
これは猟兵も号泣する恐怖のズンドコドンだと大喜びな悪夢のふわもこ達。もきゅもきゅきゅぴきゅぴ、跳んだり跳ねたり踊り出す。
――年の初めのナイトメア♪ 終わりなき世のトラウマを♪
替え歌を歌う彼らの背後で、甘酒のカップがコロコロ転がって……。
オブジェクトの隙間の作りが甘い部分に引っかかって地中に落ちたり、狂った物理演算ですっ飛んで行ったりしていた。
だが、慢心した彼らはそんなことには気付かず、てんでに歌って踊ってお正月を満喫するのだった。
●MSより
罠はありますが、猟兵の身体能力ならば十分躱すことができる程度です。
オープニングのものは一例なので、他に楽しいものがあればプレイングで指定してくだされば、そのように描写します。
バグ技ですり抜けるのは工夫次第で色々できると思います。
山頂までRTAをするもよし。華麗なスーパープレイで魅せるのもよし。地道にクリアするもよし。
能力判定にはこだわらず、お好きなようにお楽しみください。
ゾルファ・デロジエ
テストテストテストテストテストテストテストテストテストテストテストテストテストテストテストテストテスト
「テストテストテストテストテスト……」
日の出前の薄暗い参道、ゾルファ・デロジェ(シカのパラディン・f45028)は、所々が苔むした石階段に、ひたすらゴリゴリと身体をこすりつけていた。
ゴリゴリゴリゴリ……スッ!
石階段の湿った堅い壁の一部に手応えの無い部分を見つけたゾルファは、マップにその場所の座標をメモする。
「テストテストテストテストテスト……」
そして今度は手応えが違う部分でスクワットを始める。
時折、スクワットの速さを変えたり位置をずらしたりしながら、とことんスクワット。
参道を登るわけでもなく、テストテストと呟きながらひたすらに同じ動作を繰り返しているゾルファだが、これは別に遊んでいるわけではないのだ。
――ススッ!
なんと! ゾルファが吸い込まれるように階段の石の中に入ってしまった!?
そして凄まじい速さで上に向かって落ちていくゾルファ!
かと思えば、なぜか下から現れた!
何をやっているか分からない方のために解説をすると、ゾルファは突貫で創られた悪夢には必ず隙間があると推測し、その隙間を利用して頂上までのショートカットを探しているのだ。
そして首尾良く悪夢の隙間を見つけて入り込めたのはいいが、地面の判定が消えてるため制御が難しく、なぜか上に落ちてマップオーバーフローして下から現れるということになったのだ。
だが糸口はつかめた。後は加速度を蓄積したまま最適な角度で隙間に入れれば、障害物を強引に突破して頂上まで行けるかもしれない。
「テストテストテストテストテスト……」
ゾルファは今度は別の場所でスクワットを始め、壁の角度が違っても壁すり抜けバグができるかどうかを確かめていく。
そしてついに最適な角度で壁抜けが出来る場所を発見する。
「ヤッヤッヤッヤッヤッヤッヤッヤッヤッ」
また壁に身体をこすりつけ、今度は連続ジャンプを繰り返す。壁に阻まれて全く進んでいないように見えるが、これも計算し尽くされた動作だ。
「ヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤッフーーーーーー!!」
十分に加速度を溜め……タイミングを見計らって悪夢の隙間に入る!
奇声を発しながら無を進んだゾルファは、全てのコースと罠をすっ飛ばし、あっという間に参道を登り切ったところにある鳥居前までたどり着いた。
遙か下の方でグルングルン回ってる太陽とか他の猟兵の姿が見える。バグを探す時間があったが、どうやらコーススキップしたゾルファが一番乗りだったようだ。
満足げに頷き、手順をチャートに書き込むゾルファ。
後は油断しきっているモーラットナイトメアを捕まえるだけだが……。
「ではここでコース離脱します」
なんとここでゾルファはグリモア猟兵に連絡を取り、地上まで送り返してもらう。
せっかく登ったのにと思うのは早計である。
先ほどのチャレンジはあくまで試走にすぎない。完璧なタイムを出すためには、トライアンドエラーを繰り返し、1|F《フレーム》でもタイムを削らねばならないのだ。
走者にとって、タイムは命よりも重い。
悪夢のアスレチックコース(Any%)で世界最速を出すために、ゾルファは決して妥協しないのだ。
何度も何度も練習を繰り返し、その度にグリモア猟兵に送り返して貰い――。
ついにゾルファはノーミスで頂上までたどり着く!
「多分これが一番早いと思います」
とっても良い笑顔でタイムを計測し、ゾルファは早速動画を投稿するのだった。
大成功
🔵🔵🔵
スイート・シュガーボックス
明けましておめでと〜ッ!
「あけおめことよろ〜ッ!」
(山を訪れるミミックと神機ギャル形態)
またモーラットナイトメア達が悪さをしてるみたいだね。
新年早々イタズラしてる彼等をわからせないと。そう、お菓子始めでねッ!(ドドンッ!)
「ひゅ〜、スイート君新年から飛ばしてる〜ッ!」
そんなこんなで色々あったけど山頂、初日の出の所まで来たよッ!
「途中マジ大変だったし。でも二人のズッ友パワーがあれば楽勝だし☆」
さあ、初日の出を拝もう。
にっこり笑った太陽が襲ってきたあ!?
なら【心に届け、素晴らしきお菓子】。
巨大なたい焼きの生地を取り出し、太陽の熱で焼き上げる。丁度良く焼けたら太陽の口におりゃああッ!
【アドリブ歓迎】
「明けましておめでと〜ッ!」
「あけおめことよろ〜ッ!」
夜明け前の紺色をした空の下、薄闇を吹き飛ばすように明るい声が響き渡る。
山の麓でビシッと仁王立ちして新年の挨拶を交わすのは、スイート・シュガーボックス(おかしなミミック・f41114)と、その|相棒《ズッ友》の『ディオニュソス』ことディオちゃん。
「おめでと~ッ」「ことよろ〜ッ!」「と~ッ」「よろ~ッ!」と、声が響いて木霊して、ついでに山頂の方から「もきゅー!」と小さなお返事も聞こえてきた。
「またモーラットナイトメア達が悪さをしてるみたいだね」
腕代わりのリボンをヒラヒラ、もう何回目かなと指折り(?)数えてみてみれば、これで四度目となる悪夢のふわもことの遭遇。
「新年早々イタズラしてる彼等をわからせないと。そう、お菓子始めでねッ!」
「ひゅ〜、スイート君新年から飛ばしてる〜ッ!」
自信たっぷりスイートがドドンッとお菓子箱の蓋を開ければ、隣で神機ギャル形態のディオニュソスが口笛を吹いてはやし立てる。
実はスイートはモーラットナイトメア|対応《わからせ》のプロである。悪夢の果樹園、屋内遊園地、そして昭和ハロウィンと、これまでモーラットナイトメアが関わった事件を悉く解決に導いてきたのだ。
なので今回もスイートは真正面からアスレチックに挑む!
だが今回のモーラットナイトメア達は本気の本気。トラウマ必須の悪夢を二人は超えられるか!?
とはいえ……。
「そんなこんなで色々あったけど山頂、初日の出の所まで来たよッ!」
「途中マジ大変だったし。でも二人のズッ友パワーがあれば楽勝だし☆」
山頂付近。割と余裕ありげな様子で、スイートとディオニュソスはズバンとサムズアップ!
いかにトラウマ必須の凶悪な罠でも、|相棒《ズッ友》がいれば大丈夫!
でも、それだと味気ないので、どんな感じだったかリプレイで振り返ってみましょうか。
「わわっ君達もお腹が空いてるのかいッ!?」
いかにも美味しそうなスイートを囓ろうと一斉に飛び出してくる腹ぺこ巨大鯉達。
水中から飛び出してくる巨大鯉を避けて小さな飛び石の上を渡るのは至難の業だ。
「ここはウチにお任せ~! 鯉ちゃん達、正月のお屠蘇だよ~! ほーら、飲~んで飲んで飲んで~♪」
が、しかし、神機形態に戻ったディオニュソスがお酒を噴出しながら池の上を飛び、飲んでコールで場を盛り上げる。ついでにスイートが取り出した麩菓子も振る舞って、鯉のお腹をたっぷり満たしてやれば、もはや鯉達は敵ではない。
「紅白でおめでたいし! 初エモいっただき~ッ!」
思わぬごちそうに大喜びで池の上をぴょんぴょん跳ねる鯉達をバックに、指ハートのズッ友ポーズで自撮りを決める二人!
「いや~大変だったね! でもここまで来たらあとちょっと」
うっすら白み始めた東の空を見やり、スイートが感慨深げにリボンを揺らす。
二人がいるのは開けた展望台のような場所。そろそろ日の出の頃合いだ。
「さあ、初日の出を拝もう」
石段に並んで腰掛け眺めれば、金色の光が山の端から顔を覗かせる。
光が空にすじを投げかけ、夜明けの空を染める光が段々と鮮やかになり?
「ちょい眩しすぎじゃね?」
光芒というには少しくっきりしすぎな気がして、ディオニュソスが首を捻る。
その間も太陽はすっすっすと昇り……?
――ニヤリ!
「にっこり笑った太陽が襲ってきたあ!?」
ギラつく笑顔に光と熱の棘。もう少しだからと階段を駆け上がって逃げる二人の後を、太陽はしつこく追いかけて来る。
「ああもうッ、しつこいなあ……なら|心に届け、素晴らしきお菓子《デリシャススイーツシュート》」
何度目かの突撃を伏せて躱したスイートが取り出すのは、二つの大きな鯛焼きの型。
「ディオちゃん!」
「はいよッ!」
素早く生地を流し込んだ片方をディオニュソスに渡し、太陽が突撃してきたところを両側から型で挟み込む。
太陽の熱で型がジュウジュウと音を立てる。力を緩めたり締めたりして火力調節しながら、まずは片面焼き上げて。それから餡子とカスタードを入れて、くるりと型を回転させてもう片面も焼いていく。
いい具合に焼けたところで型を外してやれば、中から現れるのはホッカホカの狐色をした鯛焼き。しかも初日の出で焼いたのだから、正月に相応しい『おめで鯛』縁起物だ!
「俺の自慢のお菓子を召し上がれッ!」
ニヤつく太陽のお口の中に『おめで鯛焼き』をおりゃああッ!
これには太陽もにっこりで、もぐもぐと鯛焼きを頬張るのに夢中。
「ねーねー、こっちはどうするん?」
「ん、それじゃ半分こしよっか」
残った一個の鯛焼きを半分こして二人で味わえば、ほんのり甘みを帯びた生地の温かさが伝わる。
冬の朝に嬉しい優しい味を堪能しながら、二人は参道を登っていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
鳥羽・白夜
八坂(f37720)と。
なぁ…俺らついさっき初詣行って来たばっかだよな?(後輩に誘われ鶴岡八幡宮に年越し初詣してきたばかり)
はあ…すごい屁理屈だな。
言っとくけど俺、ゲームも下手くそだからな。バグ技駆使するとか無理(きっぱり)
お前も登るんだよ!
まあUC使うくらいはいいだろ、イグニッションもしとくか…
|起動《イグニッション》!し紅い刃の大鎌を手に。
『ミストファインダー』を適宜使用、降りかかる罠の運動エネルギーを10分の一に減らし回避、さらに大鎌で【切断】しながら進む。
なんかあの初日の出?昔よく戦ってた地縛霊に似てる気がするんだが。どっちみち嬉しくない初日の出だ…(切断しつつ)
お前元気だな…
八坂・詩織
白夜さん(f37728)と。
でもモーラットナイトメアもほっとけませんし…
えっとほら、例年は戦争とかでなかなか初詣行けなかったですし纏めて行ってもいいんじゃないですかね?
…ところでバグ技とか分かります?私普段ゲームとかあまりやらないもので…
じゃあ正攻法で行くしかないですね。頑張ってください!
そうですね、|起動《イグニッション》!
髪を解き、瞳は青く変化。防具『雪月風花』を纏う。
『ファンガスプリズン』展開、罠も運動能力を奪ってしまえば怖くありませんから。
たしかにどこか似ている気も…灼熱の太陽は極寒の冷気で冷やしてしまいましょう。
結晶輪で【凍結攻撃】。
さて、頂上までもうひと踏ん張りしますか!
夜明け前の凍てつく寒さの中、黒々とした木々の隙間からうっすら1680万色の輝きが見える。山頂にある神社に続くのは長い長い石段の坂道。
激混みの鶴岡八幡宮での年越し初詣をした後なのにまた山登りをしなきゃならないのかと、鳥羽・白夜(夜に生きる紅い三日月・f37728)は、それはそれは深ーいため息をついた。
「なぁ……俺らついさっき初詣行って来たばっかだよな?」
ちろり、恨めしげな視線を隣にいる八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)に向ける。寝正月ならぬ寝大晦日を決め込んでいた自分を外に連れ出したのは彼女なのだ。
「でもモーラットナイトメアもほっとけませんし……」
「もうちょっと早く出てくれたら一回ですんだんだけどな」
後輩から正論が返ってきたのだが、さすがに二回目は億劫だとブルゾンのポケットに手を突っ込んで白夜はぼやく。
「えっとほら、例年は戦争とかでなかなか初詣行けなかったですし纏めて行ってもいいんじゃないですかね?」
「はあ……すごい屁理屈だな」
確かに猟兵にとってこの時期はとても忙しい。クリスマスやバレンタインデーには何かしら誘われていた気がするが、初詣という形で出かけるのはもしかして今回が初めてかもしれない。
もし隣に八坂がいなければ、俺の人生は季節の行事とは無縁だったかも。
少し面倒だが、後輩が心なしか浮かれて心弾ませているのも悪い気はしない。
でも初詣って纏めて行くなんて神様的にオッケーなのだろうか?
とにかく、さっさと捕まえて帰ろうと白夜は山道を歩き始める。
「ところでバグ技とか分かります? 私、普段ゲームとかあまりやらないもので……」
歩き始めた白夜の少し後ろで、詩織が首を傾げていた。
「俺もよく知らねーけど、なんかすげーのがあったぜ」
「へえ、どんなのです?」
「マップの画面端の隙間を利用してワープしてた」
テレビもない白夜の部屋では、年末にやることはスマホで動画を見るくらい。
暇を持て余した白夜が見ていたのは年末恒例のゲームの祭典。スライディングや二段ジャンプを駆使したスーパープレイの数々が繰り広げられ、ぼんやり見るには悪くない。
「言っとくけど俺、ゲームも下手くそだからな。バグ技駆使するとか無理」
あんなの練習したってできる気がしないし、したくもない。
やってみてくださいとワクワク期待を込めた後輩の視線に気付き、真顔できっぱり白夜は首を振る。
「じゃあ正攻法で行くしかないですね。頑張ってください!」
小紋の袖をひらりと揺らし、にっこり笑顔の詩織がポンと手を打つが……。
「お前も登るんだよ!」
まさか俺に押しつける気かと思わず声を上げて早く来いと手招きをすれば、足取り軽やかに石段を駆け上がってきた詩織が隣に並ぶ。
二人並んで参道の階段を上れば、冬の空気の中に白い息が混ざっていく。
隣には少し覇気の無い白夜のいつもの横顔。
それを横目に映して、詩織は胸の中でこっそり呟く。
――白夜さんのそばに居たいってお願い、さっそく叶えてくれたのかな。
後輩として、猟兵の仲間として……。
彼は多分、自分のことを頼りにしてくれているはず。
その形はずっと変われないのかも知れないけど、でも今はこれで……。
しんしんとした夜気の冷たさを雪女の自分はあまり寒いとは思わないけど、それでも彼の隣を歩けることに温もりを感じながら。
詩織は白夜の隣に並んで歩いて行く。
さて、そんなこんなでやって来たのは、いくつもの巨大臼が並ぶ罠の道。
道幅と同じ幅の臼の上からドッスンドッスン振ってくるのは、巨大杵。
通り抜けるタイミングを見誤れば杵に押し潰されてぺったんされてしまうし、しかも臼の中にはたっぷりと粘つくお餅が入っていて、通る者の足を鈍らせるのだ。
「うわ殺意高いな」
「これはモーラットナイトメアも本気ですね」
今回の彼らの悪夢はそれこそトラウマ級。猟兵といえど、当たれば結構痛そうだ。
無理矢理駆け抜けるか、タイミングを見計らって少しずつ進むか……。
二人視線を交わし合って、罠の対応を考える。
「まあUC使うくらいはいいだろ、イグニッションもしとくか……」
「そうですね。小紋ですけど、着物汚したくないですし」
自分の力で罠に対処するのは許容範囲だろうと、イグニッションカードを取り出す二人。
|起動《イグニッション》と声が重なり――。
瞬時に纏うのはいつもの出で立ち。
三日月の刃持つ大鎌『ブラッディサイズ-Red moon-』を駆る白夜の紅と、流れる黒髪に冷気を宿し瞳を凍てつかせる詩織の蒼。
「八坂!」
猟兵として何度共に戦ってきただろうか。
声をかけ合えば、互いにすべきことは分かっている。
二つの色が重なり、互いに埋め合うように罠の中を駆けていく。
杵が上がりきった瞬間を狙い、臼の縁を蹴って餅を飛び越える。そのままトントンと駆けながら、二人は次々と巨大臼が並ぶ餅つき罠を突破していく。
順調に進む二人だが……。
「……っと危ね!」
次の臼に飛び移ろうとした白夜の目の前で、それまでリズム良く繰り返されていた杵の動きが突然変わった。
咄嗟に踏みとどまった白夜の鼻先を杵が掠め、ドスンと重い振動が伝わってくる。
それぞれの杵の動きが完全ランダムになり、上がりきる前に振り下ろされたり途中で速さを変えたりと予測しづらいものに変化する。
「あいつら本気すぎだろ」
思った以上に本気の本気、トラウマを引き起こすような悪夢の罠に、白夜が額の汗を拭ったその時――。
「白夜さん!」
背後から詩織が警告する声が鋭く響いた。
目線を上げれば、次の杵が上がらぬ前だというのに頭上から杵が振り下ろされようとしていた。
「うわっとと!?」
単純なスピードだけでは超えられないモーラットナイトメア達の邪悪な罠だが、白夜は頭上に霧のレンズを浮かして罠の運動エネルギーを押しとどめ、『ブラッディサイズ』を一閃!
運動エネルギーが鈍ったところで柄の部分を切断され、杵が吹き飛ぶ。
ふぅと胸をなで下ろして、次の杵も一つずつ『ミストファインダー』で動きを弱らせて進んでいくのだが……。
「これは反則だろ……」
「やりすぎですよね……」
もうじき餅つきの罠を抜けるかというところで、目の前に広がる光景に絶句する二人。
臼が道に置かれているだけとは限らない。
上下左右に置かれた臼の間を四方八方から杵が行き交う地獄の餅つき会場。
さすがにこれだけめちゃくちゃやれば破綻も出るらしく、置かれた臼のあちこちが景色に干渉してジジジと欠けたり、時々杵が変な方向にすっ飛んでいったりしていた。
「どうする? ワープできそうなバグを探すか?」
「いえ、変なところに落ちたら抜けられなさそうですし……罠も運動能力を奪ってしまえば怖くありませんから」
そう言って詩織が翳した掌の上に現れるふわふわした菌糸の塊。
桃色の花と蝶の袖をはためかせて詩織が呼び出したファンガス達が網になって、ぶわりと辺りを包み込む。
網に絡め取られ、杵達の動きが次々に止まっていく。
「白夜さん、今のうちに!」
詩織の声に白夜が跳ぶ。
通り道を塞ぐ杵を大鎌で切り飛ばして道を開いて駆け抜ければ、後ろから詩織が続く。
罠を抜けるまであともう少し!
先に抜けた白夜が振り返り、詩織に手を伸ばした時!
最後の一本の杵がブチリとファンガスの網を突き破った!
止まってやり過ごす? それともくぐり抜ける?
一瞬の躊躇が判断の遅れを生んだ。
思ったよりも速い速度で飛んできた杵が詩織の眼前に迫り、このまま跳んだとしても間に合わない。
思わず目を閉じようとした詩織だったが、
「――八坂、跳べ!」
手をさし伸ばしたまま白夜が叫ぶ。
迷っている暇はない。その声に押されるように詩織が地面を蹴り――。
詩織の跳ぶ先に霧のレンズが展開された。
運動エネルギーを減らすのではなく、増幅する霧。
くぐり抜けた詩織の身体がふっと軽くなったかのように速度が上がる。
杵が落ちる寸前にすり抜けて宙を抜ける詩織。その手を白夜が掴んで引き寄せる。
「……あ、ありがとうございます、白夜さん」
「まったくなんて罠だよ」
ドキドキと心拍数が上がるのは、寸前で罠を抜けた安心からだろうか。
それとも――。
息を落ち着けるために深呼吸を繰り返せば、すがすがしい冬の空気が胸の内に広がる。
ともあれ罠は抜けたのだから、早く山頂を目指さねば。
何もなかったかのように進みはじめた白夜の隣を、詩織は小走りで駆けていく。
山頂まであと少しというところで、邪魔をするのはニッカリふてぶてしい笑みを浮かべた御来光。
「なんかあの初日の出? 昔よく戦ってた地縛霊に似てる気がするんだが」
「たしかにどこか似ている気も……」
まさかアイツもオブリビオンとして蘇ったのかと思いつつ、こないだその場所に行った時はいなかったなあと昨年を振り返ってみる。
よく見れば鎖もなく元気にグルングルンしているので多分別物なのだろうが、真冬にも関わらずジリジリと灼熱の炎を纏って体当たりしてくるのは、それだけでもかなりの驚異だ。
「灼熱の太陽は極寒の冷気で冷やしてしまいましょうか」
詩織が投げつける結晶輪『風花』が雪の結晶を纏い、夜明けすぐの空気を凍てつかせる。
回る初日の出の周囲に円を描いて飛び、ギラつく太陽の黄金色を黒く冷やしていく。
「早起きして見るのがコレとか、嬉しくない初日の出だ……」
言って振り下ろされるのは夜の名残の紅き三日月。
振り下ろせば邪悪な初日の出を両断し、打ち払えばその断面を吹き散らしていく。
偽物の初日の出が消えていく頃、東の空に浮かぶのは本物の太陽の光。
もうじき夜が明けるのだろう。
「さて、頂上までもうひと踏ん張りしますか!」
「お前元気だな……」
夜型だから徹夜は辛くない。だが一晩中あちこち出歩けばそろそろ眠気も襲ってくる頃で、白夜は欠伸を一つ。
対する詩織はこれからが本番だと山頂を指差す。後もう少しだからと白夜を励まして目指すはモーラットナイトメア達がいる神社だ!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アミリア・ウィスタリア
モーラットナイトメアさんたちの恐ろしい罠……!
……これは本気の本気、本当のトラウマを作ってやるという気概を感じます……!
けれど隙間があるのですよね?
であれば――もきゅっとモーラット変身です!
モーラットナイトメアの皆さんも自分たちが罠にかからないように行動していたはず……
モーラット変身すれば安全に通れる場所があるのではないでしょうか!
危険地帯でもモーラットサイズなら罠も作動しないかもしれませんし!
バグ技?にも挑んでみましょう!
細かいやりかたは良く分かっていないのですが……
モーラットの毛で当たり判定?をどうにかできないでしょうか
……もきゅっ!?
……あ、行けそう……でしょうか?
「モーラットナイトメアさんたちの恐ろしい罠……!」
モーラットといえば、思い浮かぶのはイタズラ好きで愛らしいふわもこの姿。
オブリビオン化した彼らが創り出すトラウマ必須の罠とは一体どんなものだろう。
持ち前の好奇心と初詣への期待を胸に宿したアミリア・ウィスタリア(綻び夜藤・f38380)が、夜明け前の薄暗い石段をテクテクと上っていけば、山の中腹に見えるは大きな池だった。
ちゃぽん。
水飛沫を上げて、紅白の巨大な錦鯉が池の上を跳ねた。
「まあ……」
碧の瞳をくるんと丸くして、ほんわり微笑みを残したまま小首を傾げるアミリア。
それはまるで昼日中の公園でまったり過ごす人が上げるような、おっとりしたもの。
だが、今跳ねた魚も、それが池の上に立てる波紋も、通常では考えられない特大サイズ。
餌を強請るように水面から顔を覗かせてパクパクと口を開けているが、その口の大きさは人一人を軽く飲み込んでしまえるほどに大きい。
しかも巨大鯉は一匹ではない。水面に映るアミリアの影を目敏く見つけて寄ってくる何匹もの魚影が見えるではないか。
飛び石を渡る足を止めれば飛び出してきた巨大鯉に食いつかれ、焦りから足を踏み外せば池の中に落ちて鯉に丸呑みにされててしまうだろう。
「……これは本気の本気、本当のトラウマを作ってやるという気概を感じます……!」
こくりと息を呑み、アミリアはこの罠をどう攻略しようかと考えを巡らせ……。
「けれど隙間があるのですよね?」
隙間とは何だろうかとくるりと辺りを見渡してみて……。
ふと閃くのはモーラットの身体の大きさとその性質。
「モーラットナイトメアの皆さんも自分たちが罠にかからないように行動していたはず……」
好奇心旺盛で遊び好きなふわもこ達が、創った悪夢で遊ばないはずがない。
だがさすがに彼らも食べられるのは嫌だろう。ならば――。
「モーラット変身すれば安全に通れる場所があるのではないでしょうか!」
導き出した結論にポンと手を打てば髪飾りのリボンもご機嫌に跳ねる。
「であれば――もきゅっとモーラット変身です!」
そう言うやアミリアの身体が消えて、もっきゅんころりん現れるのは真っ白でふわふわなモーラット。
柔らかな尻尾に長いお耳、ちんまりした手足。
深い海を映す瞳の色だけは同じだけれど、その口から零れるのは「もきゅ」という愛くるしい鳴き声に変わっていた。
モーラットに変化したアミリアは、ぴょんと跳ねて飛び石の一つに飛び乗ってみる。
飛び石は人間には小さいがモーラットの身体には十分な大きさ。しかも石の上で伏せていれば水面にアミリアの姿は映らず、獲物を見失った巨大鯉達は水中を無為にウロウロするだけ。
時折闇雲に水から飛び出してくるのには気をつけないといけないが、焦らずゆっくり進めるというだけでも難易度は大幅に下がっていた。
「もっきゅ! きゅぴぴぃ!」
まあるい眉毛をきゅぴっと引き締め、アミリアは尻尾を一振り。
綿毛のようにころころほころぶ毛玉が、水の上をぴょんぴょんぴょん。
適度なスリルを楽しみながら飛び石の上から見上げれば、紅白の巨大鯉が尾びれをくねらせて跳ぶ様が間近に迫る。
お正月に相応しいダイナミックな光景に、「きゅー」と渦巻きほっぺを引き上げ、目を細めて楽しんでしまう。
もうちょっとこの景色を堪能していたいという気持ちもあるけれど、アミリアにはもう一つやりたいことがあった。
「きゅっぴ! きゅいきゅんもきゅー!」
――バグ技?にも挑んでみましょう!
細かいやりかたは良く分かっていないのですが……と思いながらも、グリモア猟兵から聞いた言葉を手がかりに悪夢の隙間を探していく。
もふもふ、もっふん。
池を抜けた先、また石段が続く坂道のあちこちにアミリアはそのふわふわな身体を擦りつけていく。
「(モーラットの毛で当たり判定?をどうにかできないでしょうか)」
最初に思いついたのが、極上の手触りのもふもふ毛皮を利用すること。
モーラットのふわふわな身体は剛体と柔軟体が複雑で、物理演算の設定が難しい。
「……もきゅっ!?」
階段の一部分、身体は引っかかるのに、ぱたつかせた手が堅いはずの石をすり抜けていく。
「(……あ、行けそう……でしょうか?)」
鼻先を押し込んでみればそれも手応えがなくて、どうにか隙間に潜り込めそう。
もふもふを膨らませたり窄ませたりして当たり判定を誤魔化しながら、もっきゅもきゅと押しくら饅頭の要領で身体をねじ込んでいけば……。
――スッ。
悪夢の隙間に潜り込んだ身体が、地面をすり抜けてころんと転がり込む。
「も、も、もきゅーん!」
地面の中に居るはずなのに息も苦しくないし、見上げれば土と石で阻まれているはずの視界すらクリアに見える。
そのままころころ転がって罠もなにもかもすっ飛ばして進めば、これまで見たことのない不思議な光景に、にぱっとおちょぼ口を開いて見入ってしまう。
新年の始まりに相応しい素敵な体験。
悪夢のふわもこが創り出した夢を楽しみながら、アミリアはそのまま山頂まで進むのだった。
大成功
🔵🔵🔵
シモーヌ・イルネージュ
初詣アスレチックか。なかなか粋なことするね。
お正月とあって、体を動かす機会も減っていたから、このぐらいのアスレチックなら体慣らしにちょうどいいかな。
楽しんでいこう。
UC【聖衣着装】を発動。紫水晶のガントレットを装着して臨もう。
罠については正面突破!
バグ技探すとか、めんどくさい。
避けられるものは避けるけど、邪魔なものはガントレッドでさらに強化された【怪力】で【吹き飛ばし】ていこう。
せっかく作った罠を壊しちゃって、悪いね。
新年の花火だと思えば気にならないよな(?)
「初詣アスレチックか。なかなか粋なことするね」
参道のあちらこちらに設置された罠の数々を見上げ、シモーヌ・イルネージュ(月影の戦士・f38176)は、屈伸をしながらストレッチをする。
「お正月とあって、体を動かす機会も減っていたから、このぐらいのアスレチックなら体慣らしにちょうどいいかな」
くいっと腕を回して、肩関節を伸ばしていく。
いつもならこの時期はあれこれ忙しいのだが、今年は珍しく大きな事件は起こっていない。
一般人なら命の危険もあるモーラットナイトメアのトラウマ満載の罠も、シモーヌにとってはお正月のちょっとしたスポーツ大会気分。
最後に指を組んでしっかり腕の筋肉を伸ばしてから、冬の空気のように凍てつく銀の色をした長髪を高く結び直す。
「楽しんでいこう!」
タンッと足音も軽く、シモーヌは山道を駆け上がっていく。
ハッハッと規則正しい呼気が、夜明け前の参道に白い靄を投げかけていく。
「大分登ってきたな。手頃な坂道でいい運動になる」
山の中腹から見下ろす鎌倉の夜景。通常の初詣に行く一般人もいるのだろう、街のあちこちの灯りが小さな星々のように輝く。
その景色を楽しむ余裕を見せながら、颯爽と山を登っていくシモーヌの眼前――!
石段の合間からニョキッ!
見上げた坂の先に、丸々と膨らんだ大きな白い袋が幾つも現れた。
水引イメージなのだろう、袋を飾っていたおめでたい紅白のリボンがシュルリと解け……。
ゴロリ……ゴロンゴロンゴロゴロゴロゴロッ!
坂の上から転がってくるのは、金、銀、乳白色に輝く沢山の大玉。
玉の大きさはソフトボール大から一抱えほどの大きさまで。
金銀パールのお年玉のプレゼントが石段で跳ねて転がって、上を飛び越えるのも下をくぐり抜けるのも難しい。
小さい玉がぶつかるのは覚悟の上で無理矢理突破するにしても、質量の高い金の玉に当たってしまえば相当なダメージになる。
「我の求めに応じ、姿を現せ」
地響きを上げて転がってくる大玉を見上げ、シモーヌは慌てず騒がず力を解放する。
「――着装!」
たちまちシモーヌの両腕を紫の輝きを放つガントレットが覆う!
冷水のように透んだ碧眼が、目の前に迫る銀色に輝く人の頭ほどの大玉を見据え――。
「おりゃあっ!」
足を踏ん張り、腰だめに構えたガントレットを思い切り突き出す!
持ち前の怪力を更に増幅させる紫水晶のガントレットが重い大玉に突き刺さり、ピンポン球のようにめきょりとひしゃげさせる。
運動エネルギーを殺された大玉がポロリと地面に落ちて鈍い音を立てた。
罠は嵌まって正面突破!
聖衣を黒炎のブーツにすれば、あちらこちらに潜む悪夢の隙間に潜り込みやすいのだが、ちまちまとバグ技を探すなんて柄じゃないし、めんどくさい!
小さい玉は逆手のガントレットでなぎ払い、大きな玉は正面から打ち砕く!
吹き飛んだ玉や玉の欠片がキラキラと輝いて、ダイヤモンドダストのように空を彩っていく。
お年玉の罠を吹き飛ばす小さな竜巻のようになったシモーヌは、坂道をどんどん駆け上がっていく。
さて、順調に罠を突破し、もうすぐ坂の終わりが見えてきたというところ……。
「おっと、こいつはデカいのが来たね」
けたたましい地響きと共に転がってきたのは道幅ギリギリの黄金の玉。
その質量で石段を砕きながらゴロンゴロンと向かってくる。
これがモーラットナイトメア達の本気!
怪力だけでもスピードだけでも打ち破れないトラウマ必須の罠が頭上より迫る‼
「いいね、どっちが強いか力比べといこうか!」
――ちょっと物足りないと思ってたくらいさ。
ギラリと目を輝かせ、シモーヌは口角を上げて不敵に笑う。
地面を踏み込み、肘を内側に入れて両腕のガントレットでブロッキング!
電車の衝突にも等しい巨大なエネルギーを、シモーヌは腕で受け止める。
ガントレットで強化されていてもズンと重い手応えが大地を揺らし、足にグッと力を込めて押しとどめれば、踏ん張る勢いであたりを覆い隠すほどの土煙が上がる。
「新年に相応しい輝きで、めでたいね」
土煙を縫うようにシルエットが浮かび上がり、その中からシモーヌの声が響く。
腕に力を入れればその内に宿す魂からぶわりと力が迸り、土煙を巻き上げ、束ねたポニーテールが銀の翼のように広がった。
「――ぶっ飛べ!」
グワッと大玉を引っ掴み、思い切り振りかぶってぶん投げる!
坂を逆走した巨大な玉が坂の上に残っていたお年玉袋にぶつかって、全てを空高く吹き飛ばす。
新月の空に黄金色の玉が流れ満月のように辺りを照らして輝く。
続いて、袋に残っていた金銀パールが袋から零れ落ち、宙に大輪の珠の花を咲かせていく。
たまさか上がった真冬の打ち上げ花火が新年を祝うように空を彩り、その美しさにシモーヌはしばし足を止めて見蕩れる。
「せっかく作った罠を壊しちゃって悪いが、新年の花火だと思えば気にならないよな」
明け方前の暗い空に溢れた花火は、星のようにチラチラと輝いて消えていく。
それを見送り、シモーヌはまた坂を上っていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
劉・久遠
野良モラ捕獲は経験あるけどオブリビオンのモラは初めてやなぁ
道術で悪夢の切れ目を見切って連続スライディングで抜け……うーん、せっかくやしアスレチック楽しんでこかな
飛び石は鯉さんが厄介……待てよ?
UC使って【楽器演奏】に合わせて跳ねたくなる【誘惑】を鯉さんに与えつつ
【ダンス】で攻撃避けたり飛び石跳んだり
それをドローンに載せたスマホで録画したらうちの子ら大歓喜やない?
そしたら紅白鯉さん、共演しーましょ♪
何やかんやでもうすぐ初日の出……って暑苦しっ
新年のありがたみが迷子になっとるやないか
【残像】で躱しつつUCで高めた【楽器演奏】を|お見舞いしたろ《【音響攻撃】》
Take2や出直しといで!
アドリブ歓迎
「野良モラ捕獲は経験あるけどオブリビオンのモラは初めてやなぁ」
はんなりまったりとした言葉が明け方前の参道に流れていく。
野良モーラットの保護は、かつて銀の雨降る時代の能力者なら誰しも一度くらいはしたことがあるといってよいほどメジャーなお仕事。
かつて能力者として戦った青春の日々。その中には最愛の妻との思い出もあった。
今回は罠だらけの道と邪悪なオブリビオンということで少し違うが、それでも妻と共にモーラットを追いかけたときの懐かしい記憶が蘇り、劉・久遠(迷宮組曲・f44175)はうっすらと笑みを浮かべて石段を登っていく。
「悪夢の隙間って、あそこの切れ目のことやろか?」
パッと見はただの暗い山道に過ぎないが、気の流れを読むことに長けた久遠が道術で観察してみれば、何もないように見える景色のあちこちに不自然な切れ目のようなものが見えた。
無秩序な悪夢のつなぎ合わせに見えても、人為的に創り出されたものであればそこには除霊建築学と似た法則のようなものがある。
久遠の知識から推測すれば、ズサーズサーズサーと連続スライディングを繰り返しながら悪夢の隙間にムッと勢いよく突っ込み、狂った物理法則を利用して別の切れ目まで跳躍しながら落ちることで、三十秒とかからず一気に山頂までたどり着けそうなのだが……。
「……うーん、せっかくやしアスレチック楽しんでこかな」
除霊建築士という職業柄か、オブリビオンのモーラットが創るお正月モチーフの罠に少し興味もある。急ぐ依頼でもなし、楽しむのも悪くないだろう。
道端に見える悪夢の隙間をひょいと跳び越え、久遠は軽やかに道に沿って進んでいく。
そしてやって来たのが、黒々とした水を湛えた大きな池の畔。
石段の小道は池の手前で途切れ、橋の代わりに小さな飛び石が点々と続いていた。
ぴょん……どぼん!
大きな波紋が水面を揺らし、池から飛び出してくるのは紅白の巨大な錦鯉達。
人間を一呑みにできそうな大口を開けて跳躍し、動く物全てに食らいつく勢いだ。
「飛び石は鯉さんが厄介……待てよ?」
恐ろしいが動き自体はどことなくコミカルな鯉を見ていて、久遠の頭にピカーンと電球が光るように閃きが浮かぶ。
鯉、紅白でおめでたい。
「これ、うちの子ら大歓喜やない?」
モーラットナイトメア達の悪夢は、そんじょそこらのSFX以上のリアリティ。
お家で待っている愛しい双子達にパパの仕事ぶりを見せてあげれば、喜ぶこと間違いなし!
「そしたら紅白鯉さん、共演しーましょ♪」
カツンと靴の踵を軽やかに鳴らし、久遠は最初の飛び石の上に飛び乗る。
踵で六拍子のリズムを刻みながら池の中央まで進めば、踵から伝わる振動が水面を軽快に揺らしていく。
その音を聞きつけ、水中からどばーん! 出てくる出てくる池の鯉!
尾びれをくねらせ波蹴立て、久遠に齧り付こうと迫ってくる。
「さぁさぁ、今日も楽しんでいっとくれやす!」
イグニッションカードから取り出すのはスラッシュギター『Labyrinth Suite』。
その弦を爪弾けば、疾走する旋律が鯉達の心を高鳴らせ、リズムの迷宮に誘いかける。
タカタ、タカタ♪ タカタ、タンッ♪
リズムに合わせて久遠が跳べば、巨大鯉達も飛び石を掠めて飛ぶ!
右へ左へ、また右へ。
いつのまにやら鯉たちは久遠が奏でる音楽の虜。
頭上を飛ぶドローンのスピーカーから響く音波がドゥンと水面を揺らせば、その波紋に合わせて鯉達が飛び跳ね、次々に池の上に現れる輪が花の様な幾何学模様を描いていく。
その中央で久遠が踵を打ち合わせて躍る。
赤と白が跳ねる中、銀の髪が煌めき、景色に彩を与えていく。
光条鮮やかに、繰り広げられるは音と彩の共演。
「鯉さん達、おおきになぁ」
無事に池の対岸まで渡りきり、久遠は子供達に良い土産ができたとほくほく顔で次に進んでいく。
「何やかんやでもうすぐ初日の出……」
さてもうすぐ山頂といったところで、時刻は進んで東の空がうっすら白んでくる。
せっかくだから御来光でも拝もうかと振り返った久遠の視界の先に見えるのは……。
ニッカリ!
スパイクをギラギラさせた太陽がグルングルンと回りながら久遠に向かって来るではないか!
「……って暑苦しっ! 新年のありがたみが迷子になっとるやないか」
遠くから見るから神秘的なのに、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて突っ込んでくるのではムードもへったくれもあったもんじゃない。
熱風を纏いながら突っ込んでくる太陽。
それが久遠の身を焼きジュウと音を立てた――かと思った。
「――Showtime!」
笑みを貼り付けたままの太陽の上、宙に飛び上がった久遠が構えるギターの弦がギュインと鳴る。
悪夢の隙間を抜けて張り巡らせた音が、太陽を取り囲むように反響する。
「Take2や出直しといで!」
フリッカーの力で最大まで高められた久遠の旋律。
それは新年の始まりを告げる音になって、世界ごと太陽を揺さぶり、かき消していくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『モーラットナイトメア』
|
POW : もふもふナイトメアイベント!
小さな【もふもふな悪夢 】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【悪夢のイベント会場で、催し物を楽しむこと】で、いつでも外に出られる。
SPD : もきゅっとナイトメア祭!
レベルm半径内を【悪夢のお祭り会場 】とする。敵味方全て、範囲内にいる間は【お祭りを楽しむ全ての行動】が強化され、【お祭りを邪魔する全ての行動】が弱体化される。
WIZ : きゅぴきゅぴナイトメアパーティー!
戦場内を【悪夢のパーティー 】世界に交換する。この世界は「【パーティーを全力で楽しむこと】の法則」を持ち、違反者は行動成功率が低下する。
イラスト:熊谷狼
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「もきゅ!? きゅいぴっぴぴーい!」
「もっ!? きゅううううっ!」
「もももも……もきゅぴぴーっ!」
1680万色のゲーミング神社の境内、悪夢のふわもこ達がわちゃわちゃ慌てて走り回っていた。
――あの恐ろしい罠を突破したの?
――あんなに邪悪なのに!
――やだー!
罠があるからとすっかり油断していたモーラットナイトメア達。猟兵達が次々と山を登ってくるのを見てびっくり仰天!
お互いの尻尾を追いかけくるくる回って、「ぴぃぴぃきゅーきゅー」と鳴き声を上げる。
「もきゅー! きゅうぴぴもっきゅ!」
みんな、まだ慌てる時間じゃない! 今こそ我らの必殺技を見せる時!
リーダー格のふわもこの声に、慌てふためいていた他の子達が動きを止める。
――|七悪巳《しちわるみー》、出動!
モーラットナイトメア達、ちんまりおててで前の子の尻尾を掴んで列を作る。
七つの心を一つに合わせ、にょろりと今年の干支『巳』の姿を取る。
最後尾のふわもこが、尻尾にくくりつけたラジオのボリュームを最大に上げる。
――年の初めのナイトメア♪ 終わりなき世のトラウマを!
大音量で奏でられるロックアレンジされたお正月の歌。
ドゥンドゥンとテンション上がるテーマ曲をバックに、悪夢のふわもこ達が年の初めの大騒ぎを始め出す!
●MSより
この章は、モーラットナイトメアを追いかけたり、遊んだりすることができます。
彼らはたっぷり遊べば満足して骸の海に還るので、無理に倒す必要はありません(倒しても構いません)。
追いかけて捕まえる、罠にかける、お菓子でおびき寄せるなど、大体野良モーラットと同じ対応で大丈夫です。
また、ゲーミング神社で初詣をすることもできます。
こちらでは、おみくじを引く、甘酒を飲むなどができます。
おみくじの結果は、おまかせでも指定でも構いません。
このほかにも、初詣でできそうなことは大体何でもできるので、お好きにお楽しみください。
スイート・シュガーボックス
七悪巳、敗れたりッ!その状態には致命的な弱点がある。
その状態じゃ先頭の子しかお菓子始めを味わえない…ッ!(ドドン!!)
更にミミック箱の中から『キッチンカー』を取り出して、キッチンカーの中から杵と臼を持ち出し…そう餅つきさッ!ディオちゃん、お餅ひっくり返すのお願い。
「ガッテン承知☆」
ぺったんぺったん、君達用の踏み台も用意した。でもその状態じゃ餅つきに参加出来ないよ。さあ、どうするッ!?(ドドン!!)
つきたてのお餅は、キッチンカーで醤油、餡子、きなこにずんだ、美味しいお餅に大変身。更にコトコト小豆を煮込んだ…そうおしるこだああッ!さあ召し上がれッ!
「ウチの力で甘酒も用意したよ♪」
【アドリブ歓迎】
やたらとビカビカする神社を背景に、互いの尻尾を掴んだ悪夢のふわもこ達が、もきゅもきゅにょろにょろと爆走する。
それをじーっと見つめて……クワッ!
「七悪巳、敗れたりッ!」
スイート・シュガーボックス(おかしなミミック・f41114)がお菓子箱の中から覗く眼を光らせて開眼!
「その状態には致命的な弱点がある」
ばびゅーんと目の前を通り過ぎる七悪巳に向かって、さっき焼いた鯛焼きの欠片をほいっと放ってみせる。
ぱくりっ!
先頭のふわもこがお口で鯛焼きをキャッチ。あっという間に飲み込んで、ほんのり温かい生地の甘みにぺろりと口元を舐める。
もう一つ、ぽいっ。
また先頭の子がぱくりと咥えて、後ろに並んでいたふわもこ達が一斉に「きゅきゅー」と不満の鳴き声を上げた。
「その状態じゃ先頭の子しかお菓子始めを味わえない……ッ!」
ドドン!!
集中線を浮かべてスイートが断言すると、ふわもこ達はガーンとまん丸おめめを見開いた。
しかし、ふわもこも負けては居ない。
「きゅっぴぴ! もーきゅきゅーっ!」
――チェンジ! ナイトメア!
何とぐるんと輪を描いて繋がって、再び切り離された時には一番前にいた子が後ろに回り、隊列を入れ替える。
「きゅっぴ!」
さっきまで二番目にいた子が「お菓子ちょうだい」とスイートに手を伸ばす。
「むむむ……」
全員がお菓子を貰えるよう、交代するだって……?
そちらにもお菓子を投げてやりつつ、スイートが唸る。
普段ならお菓子の誘惑に即堕ちなのに、今回のモーラットナイトメア達は中々に手強い。
「じゃあ、これはどうかな?」
全員が鯛焼きを味わい、もぐもぐしながらスイートの周りを再び爆走し始めたふわもこ達。だがこの程度は序の口。スイートにはまだ秘策がある。
「俺のとっておき、新年ケータリングサービスだよッ!」
ミミックの箱の中から、ドドンと飛び出す大型キッチンカー!
まだ暗い神社の前で銀色に光る調理台が真昼のように辺りをピッカピカに照らし出し、その輝きにはわわと目を眩ませるモーラットナイトメア達。
「オープンッ☆」
ギャル形態のディオちゃんがガスコンロの上で湯気を立てる蒸籠の蓋をとれば、もふわっと立ち上る湯気と炊きたての餅米の香りが辺りを包み込む。
「もーきゅ? きゅきゅ?」
眼をぱちくりさせるふわもこ達の前に、ドンッと勢いよく置かれる木製の臼と杵。
これは悪夢のアスレチックでも出てきた……。
「……そう餅つきさッ!」
いつものリボンをキリリとした鉢巻きに替えて、スイートが餅米を臼にセット。
「ディオちゃん、お餅ひっくり返すのお願い」
「ガッテン承知☆」
杵を振りかぶれば、合いの手のディオニュソスも臼の側に立つ。
ぺったんぺったん。リズムよく響く杵の音。
スイートが力一杯お餅をつけば、ディオニュソスが手早くひっくり返してこねる。|相棒《ズッ友》の息の合った連携に、真っ白なお餅がくるりと丸まり、臼の中で踊り出す。
……ちらちらちらーり。
おやおや、ふわもこ達が横目でスイート達の様子を窺っているぞ。
尻尾を握る手は離さず、でも視線は美味しそうな真っ白お餅に釘付け。
そしておや、あそこにある小さな台は?
「君達用の踏み台も用意した。でもその状態じゃ餅つきに参加出来ないよ?」
スイートがちょいちょいと手招きをして呼びかける。
「も、も、も……きゅううううっ!?」
尻尾を握らなければ、合体できない。
尻尾を握ったままでは、お餅つきができない。
二律背反に、モーラットナイトメア達が走り回りながら悲鳴を上げる。
彼らが通った後の石畳の上に、ぽたり、ぽたりと小さな|水滴《よだれ》の跡が垂れている。
「さあ、どうするッ!?」
ダメ押しにスイートがドドンと呼びかければ、ふわもこ達は「きゅいいいいっ!」と縦に長細くなって……。
「もきゅうううううっっ!!」
尻尾を握る手を放し、七匹の毛玉達がスイート達に向かって飛んできた。
「それじゃみんなで餅つきだッ!」
ぺったんぺったん、スイートのかけ声で悪夢のふわもこが杵を握る。
つきたてのお餅を手の中で転がし、ちぎって丸めて……。
「もきゅー!」
目の前に並ぶはころころまん丸お餅の山。
「醤油に餡子、きなこにずんだもあるよ」
スイートがキッチンカーから取り出してきたのは、魅惑の具材。醤油を塗って海苔を巻いたいそべ、さらりと甘くて香ばしいきなこ、しっとり上品な甘さの餡子、そして枝豆のつぶつぶ食感と優しい風味。ちょっと変わったところでは大根おろしやバター醤油もある。
「味変したらいくらでも食べられるしー☆」
「もきゅぴぴ、もきゅーん!」
つきたてのお餅はそのままでも美味しいけど、味をつければ味わいが七色に変化する。
「更にコトコト小豆を煮込めば……そうおしるこだああッ!」
スイートが手にしたお盆の上には蓋付きのお椀。柔らかく煮た粒あんのおしるこに箸を差し込めば、柔らかお餅が伸びる伸びーる!
「さあ召し上がれッ!」
「ウチの力で甘酒も用意したよ♪」
ゲーミング神社の境内に二人と七匹が並んで腰掛け、おしること甘酒で心も体も温まる。
ゆっくり昇る初日の出を眺め、スイート達は皆で新年の幸せを味わうのだった。
大成功
🔵🔵🔵
オヴィリア・リンフォース
豚玉・もんじゃ(f36181)と一緒に参加。
出遅れてしまった上におかしなモーラットまで
ついて来てしまったのです。
南瓜をかぶっている姿にもうハロウィンは終わったと
ツッコミせずにはいられないのです。
そして7体合体するナイトメア達の様子に
3体1組が基本じゃなかったのですかと
またツッコミしてしまいそうになるのです。
そしていきなり現れた一旦木綿にびっくりしてしまうのです。
すぐにその正体に気付いて、私を驚かせてどうするのですかと
またしてもツッコミを入れてしまうのです。
とにかくナイトメアにけしかけてからナイトメア達を
取り押さえるのです。
追いかけっこなら負けないのです。
って何故もんじゃまで逃げるのです!
豚玉・もんじゃ
オヴィリア・リンフォース(f25140)と一緒に参加。
もきゅもきゅとモーラット語しか話さない悪戯っ子。
ハロウィン用の南瓜の衣装で登場。
オヴィリアについていって何とか罠を突破してきた。
まずはトリプルどろんチェンジで一反木綿に化けて
銀猫に巻き付いてびっくりさせる。
怒られた後はナイトメア達に「もきゅもきゅ」と突撃する。
一緒に合体して8体合体を狙う。
速さが足りないなら一旦、一反木綿に変身して追いかける。
冷たくあしらわれたのなら提灯お化けに
変身して驚かせて逆襲を狙う。
あまりの悪戯ぶりにナイトメアと間違われたり
一緒に捕まってしてもご愛敬。
アドリブ、返り討ち歓迎
「もきゅー!」「きゅぴぴ!」「もっきゅきゅー!」
1680万色に光るゲーミング神社の周りをグルングルン回る悪夢のふわもこ達。
「出遅れてしまったら、ナイトメア達、すっかり暴れ回ってるのです」
豊かなタフトを蓄えた銀色の耳をぴくぴくと動かし、オヴィリア・リンフォース(銀色の魔女猫・f25140)が「にゃあ」とため息をついた。
彼女がため息をつくのは、新年早々悪モラが暴れ回っているからもあるが、実はそれだけではなかった。
「それにおかしなモーラットまでついて来てしまったのです」
「もっきゅ!」
呟くオヴィリアの足元を真っ白なふわもこがころんころん転がりながら駆けていった。
ちんまり細い尻尾は薄橙色で、モーラットナイトメアの紫の尻尾とは色が違う。
そう、これは普通の野良モラ――いや、元野良なのは間違いないけど今は立派な猟兵モーラットの豚玉・もんじゃ(モーラットのどろんバケラー・f36181)だ。
モーラットらしい持ち前の好奇心とイタズラ心から、オヴィリアの後をついて来ちゃったこのもんじゃ、どうやらかなりのちゃっかりさんのようで、オヴィリアが罠を無力化した隙にぴょいぴょい山を登ってきたのだ。
それどころか、勝手にその辺をつつき回って罠を発動させたりとやりたい放題、悪戯三昧。
「もうハロウィンは終わったのですよ?」
「きゅぴぴぃ、もきゅーう!」
もう一月だというのにハロウィンのカボチャを被ったモーラットに、オヴィリアのツッコミが冴え渡るが、もんじゃはそんなの関係ないよと帽子代わりのカボチャの蓋を持ち上げて「もきゅ」と鳴く。
もしかするとハロウィンじゃなくて冬至のカボチャなのだろうかとも思ったが、それでもやっぱりちょっと季節外れ。
「もしかして身体とほぼ同じ大きさのカボチャのフィット感が心地よいのです?」
モーラットは詰まるもの。
ジャストフィットしたカボチャの隙間からちょろんとはみ出るもふもふが、オヴィリアの鼻先をくすぐって通り過ぎていく。
オヴィリアがくしゅんと小さなクシャミをして、ボーリングのように転がるカボチャモラを見つめれば、その先にはお互いの尻尾を掴んで七体合体する悪夢のふわもこ。
尻尾を持つ手は離さずに転がるもんじゃをぴょいと飛び越え、神社中を爆走する。
「三体一組が基本じゃなかったのです?」
しましま尻尾をくねらせ、またもオヴィリアのツッコミが冴え渡る。
合体も様々だが、海陸空の全地形対応型の三体合体、胴と四肢の部位事にパーツを担当する五体合体がよく見られるパターン。だが今回のモーラットナイトメア達の合体は、七福神や七草粥にちなんだ正月らしいおめでたい七体合体だ。
「もきゅっぴーぴぴー♪ もきゅっぴーぴぴー♪」
「もっきゅーきゅもーきゅぴぴー♪ もきゅきゅぴきゅぴーぴぴー♪
「きゅきゅぴぴぴぃぴぴ、きゅーぴぴもっきゅぴ♪ もーきゅーぴぃぴぃぴー♪」
先頭の子はピカピカ真っ赤なサングラスがちょい悪なふわもこ。
三体一組と言われたので、そのリクエストにお応えして、ご機嫌で歌まで口ずさみながら神社中を駆け抜けるもふもふ達。
今日の彼らもやりたい放題だ。
「別に歌って欲しいと言ったわけじゃないのです」
神社中に爆音を流しながら通り過ぎていく悪夢モラ達の蛇車、略してモラカーを金のジト目で見やり、呆れ声になるオヴィリアだったが……。
ミ@`・ω・´@ミノノ"★ミ!!
「うにゃあああああっ!?」
突如身体にニョロリと巻き付く白い布と耳元で打ち鳴らされるパパン!!という音に、オヴィリアは悲鳴を上げて、やんのかステップで飛び上がる。
オヴィリアが地面にごろんと寝転んで巻き付いた白い布に爪を立てようとすれば、布はニュルンとしましまの前足をすり抜けて空中に逃げてひらひらと舞う。
「もっ! きゅっぴぴぴー!」
愛らしい鳴き声を上げる白い布の真ん中には、オメガのお口とまん丸おめめ。
そして胸元にある特徴的なギザギザハートの模様。
「……って、私を驚かせてどうするのですか!」
それがモーラットナイトメアよりも悪戯なモーラット、もんじゃが変身した一反木綿の姿だということに気付いて、オヴィリアは背中の毛を逆立ててフシャーッ!
「もきゅん!」
どこまでも傍若無人なもんじゃは、てしてしと繰り出されるオヴィリアの猫パンチを避けて、今度は一反木綿形態のままモーラットナイトメア達に突撃!
「もきゅー!」
爆走する悪夢のふわもこ達に併走ならぬ併飛して、もきゅっと手を振ってご挨拶。
「きゅうううっ!?」「きゅーきゅー!」「きゅぴーっ!」
――僕達よりも邪悪なモーラットだって!?
自分達を上回る悪戯モーラットの存在に、ライバル心をかき立てられたモーラットナイトメア達は、もふもふを逆立てピワッとちっちゃい歯をむき出して威嚇する。
しかしそんなことで、悪戯なもんじゃが怯むわけもなく――。
どろろんくるるん元のモーラットの姿に戻ったもんじゃは、七体合体する七悪巳の背中の上をてってってと走って先頭の子のサングラスを取り上げて自分でかける。
「きゅぴぴぴいいっ!」
怒った悪夢モラ達が、おててをふりふり地団駄踏んで、しっしともんじゃを追い払う。
そのままスピードを上げて、もんじゃをふるい落として神社の方へ走り去る。
ころころもふっと転がったもんじゃは、ぐるぐるおめめでオヴィリアの足元まで戻ってきて。
「何やってるのですー!?」
今日幾度目かのオヴィリアのツッコミ。
自由気ままなモーラットにツッコミを入れるのは慣れているが、これはちょっと度が過ぎているのですと、小首を傾げて前足でヒゲを撫でる。
「も、もぎゅうううううっっ!」
すげなくあしらわれたもんじゃは怒りの声をあげてほっぺをまん丸に膨らます。
「「「もーきゅっきゅっきゅ、きゅっぴー!」」」
もんじゃの緑色の瞳の先には、勝ち誇り神社の石畳の上をぐるぐると回っている七悪巳。
蛇のように鳥居にまきついて登ったり降りたりして、縦横無尽の走りを見せている。
「こうなったら連携して捕まえるのです」
ポンと肉球の前足でカボチャを押さえ、オヴィリアはもんじゃに作戦を説明する。
このゲーミング神社にはどんな悪夢の仕掛けがあるかも分からない。ならばここは協力して捕まえようと呼びかける。
「もきゅもきゅ!」
おめめをはうっとさせて頷くもんじゃが作戦を理解しているか微妙だが、怒りに燃えるモーラットなら、多分相手を追いかけるはず。
最悪、囮にすればいいのです。
そう考えたオヴィリアが、尻尾を振ってあっちから回り込むのですと指示をだす。
ぴょんぴょこてくてくと、モーラットと縞々にゃんこの共同戦線。
見た目はとっても愛らしい二人の行く先は……。
「追いかけっこなら負けないのです」
オヴィリアが東側の参道の入口から追いかけ、そしてもんじゃは西から回り込む。
真ん中に七悪巳を追い詰め、挟み撃ちで捕まえるというオヴィリアの完璧な作戦。
……だったのだが。
「きゅいきゅうぴぴーい!」
またまた一反木綿形態に変化したもんじゃは、作戦など無視して七悪巳を追いかけ回す。
――また来たの? もう一回返り討ちにしてやるんだよ!
すると七悪巳達は皆でもふもふを膨らませ、大波のようにうねってもんじゃを振り落とそうとする。
だがもんじゃは仮にも猟兵だ。同じ手を二度も食うわけがない。
「も……きゅっぴぃっ!」
先頭の悪夢モラの前で、もんじゃはバアッとどろんチェンジ。
お得意の化け術で自身の身体を燃える悪魔の火の玉に変え、コスチュームも相まって大きなカボチャのランタンに変身!
季節外れのジャックオーランタンの灯火が、悪いもふもふ達の眼を眩ませる。
思わず七悪巳を繋いでいた手を離してしまい、バラバラになって散らばって……。
そこでもんじゃがカボチャからはみ出た尻尾をふりふりしてアピールすれば、炎に目が眩んだ悪夢のふわもこは、目の前にある尻尾が誰の者かも気付かず掴んでしまう。
「もっきゅー!」
ついに念願の合体を果たしたもんじゃが雄叫びを上げる。
「もっきゅぴぴぃぴぃ、もっきゅぴぴぃぴぃー! もっきゅっきゅー!」
「もきゅ!」「もきゅ!」「もきゅ!」「もきゅ!」
パパン!!と手を打ち鳴らしたもんじゃに、追随する悪夢のふわもこ達。
七体合体だった七悪巳が末広がりの八体合体になって、そのおめでたさは百万パワー。
猟兵とオブリビオンの悪夢の合体、超常奇跡モラ達の加速はもう誰にも止められない!
キキーッとドリフト走行で土煙を立てながら峠を攻め、このまま下界に繰り出さんと、山道に続く階段を目掛けて走り――。
「……いい加減にするのです!」
そこに一筋流れる銀の流星――ならぬ、銀色のしましま猫。
鳥居の上からダイブしてきたオヴィリアが、黒い肉球に込められた猫魔力を全開にして、暴走するもんじゃの頭をぺしっとはたく。
「も、もきゅー!?」
その勢いで頭に被っていたハロウィンのカボチャ帽子にぴしりとヒビが入る。もんじゃが慌てて押さえようと立ち止まるが……。
気をつけろ、モラ車は急に止まれない。
追従していたモーラットナイトメア達のブレーキが間に合わず、どっしんもっふんと次々にもんじゃにぶつかっていく。
「きゅ、きゅうううぅ~?」
前からはオヴィリアの肉球パンチ、後ろからはモーラットナイトメアの体当たり。
これにはさしものもんじゃも堪らない。眼を回してふーらりふらーり。
ぺしん!
そこにオヴィリアの猫パンチが突き刺さる。
地面を蹴る勢いも利用して、ぺしぺしぺし!
もんじゃの次は、後ろにいた悪夢モラ達を前から順にはたいていく。
「まったく、これで八匹全部捕まえたのです」
もんじゃもナチュラルに数に入れ、オヴィリアは眼を回したモーラットナイトメアを悪さができないように捕獲し、モラ籠に突っ込んでいく。
たっぷり遊んで悪さもして満足した悪夢のふわもこ達は、骸の海へ。
悪戯しまくる|野良モラ《もんじゃ》は、銀誓館学園のプールに。
それぞれを在るべき場所に送り返し、一仕事終えたオヴィリアは「にゃーん」と毛並みを整えるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シモーヌ・イルネージュ
新年からいい運動した! さすがに疲れたー
もう運動する気にはならないな。
このあと、このモーラットを倒すのか……正直弱すぎて討伐する気にもならないな。
光って回ってるだけだし。
年も明けたんだから、新年早々に物騒なこととはなしってことで。
じゃれるモーラットは適当にあしらって、腹ごなしに甘酒とお餅をもらおう。
そうそう、せっかくここまで来たのだから、初詣もしないとね。
新年あけましておめでとうございます!
「新年からいい運動した! さすがに疲れたー 」
山の頂上、派手にビカビカ光るゲーミング神社の鳥居の下で、シモーヌ・イルネージュ(月影の戦士・f38176)は、爪先で石畳の床をトンと叩いて、身体をほぐすように伸びをする。
「もう運動する気にはならないな」
額の汗を拭って眼下を眺めれば、登ってきたアスレチック参道が小さく見える。
仕掛けられたトラウマ級の罠の数々を身一つで真正面から突破してきたのだから、いくら体力に自信があるシモーヌも運動はもうお腹いっぱいというところだろう。
モーラットナイトメア達も自分達が遊ぶ神社付近には罠を仕掛けていないようで、やたら光るネオンに囲まれていたり、彼らが食べ散らかしたお菓子の欠片や甘酒のカップが落ちている程度。
ここはのんびりと初詣を楽しもう。そう思いながらシモーヌが拝殿の方へ向かうと……。
――年の初めのナイトメア♪ 終わりなき世のトラウマを♪
やたらドゥンドゥンと喧しい、悪夢のお正月の歌が辺りに響き渡る。
「出たな、モーラットナイトメア」
シモーヌが音のする方に耳を澄ませれば、賽銭箱の後ろの扉がパカッと開いて、飛び出してくるのは七匹がにょろりと連なった悪夢のもふもふ達。
「「「きゅきゅぴ、もっきゅー!」」」
ぴょーんと飛び出した|七悪巳《しちわるみー》達、お揃いのピカピカ真っ赤なサングラスをかけた|悪《ワル》な出で立ちで、シモーヌの周りをグルグル駆け回る
「うーん……」
騒ぐ悪夢のふわもこ達を目で追い、シモーヌはどうしたものかと思案顔。
ついと足先を伸ばしてみれば、ふわもこ達はぴょんぴょんとその上を飛び越えていく。
たまに鈍くさいのもいて、伸ばされた足に引っかかりそうになって慌てて他の子に引っ張ってもらったり。
「このあと、このモーラットを倒すのか……」
わちゃわちゃと騒ぐふわもこ達を見下ろして、シモーヌは小さくため息をついた。
悪夢を操るという能力はあれど、本体の攻撃力という点ではモーラットナイトメアは野良モーラットと大して変わらない程度の力しか無い。
そしてその悪夢も万能ではなく、初めのコンセプトから大幅に変えるには時間がかかる。
今回、トラウマ級の罠があったのは山道だけで、神社の方はモーラットナイトメア達が遊ぶためのものだけ。
「正直弱すぎて討伐する気にもならないな。光って回ってるだけだし」
時々、もふもふと体当たりをしてきたり、幅寄せ煽り運転を仕掛けてきたりするが、防御力に長けたシモーヌにはそれはじゃれられているのとあまり変わらない。
オブリビオンとはいえ、無邪気に遊ぶふわもこを問答無用で退治するのも気が引ける。
「まあいいか。年も明けたんだから、新年早々に物騒なことはなしってことで」
確かこいつらは遊んで満足したら還るんだったか。
モーラットナイトメアは昨年に何度も出現しており、その対処方法も大体分かっている。
人が多いところで悪夢を展開されれば危険だったが、この場所なら彼らが逃げないように見張っていれば大丈夫だろう。
そう判断したシモーヌは、念のために強化動力甲冑『アリアージュ』を変形させて防御力を高める。
「も、もきゅぴー!?」
足元をちょろちょろ駆け回る悪夢のふわもこ達が、甲冑の脛当てにぶつかって、七匹が連なったままころころと弾き飛ばされていく。
「ほいほいっと……なっ!」
黒槍『新月極光』の柄の部分を突き出して振るえば、ふわもこ達は縄跳びの要領でそれを「もきゅっ」と飛び越えたりくぐったり。
すっかりその遊びが気に入ったふわもこ達。もっと遊んでとせがんでじゃれてくるのを適当にあしらいながら、シモーヌは拝殿の脇にある授与所へと向かう。
そこはちょっとした休憩スペースになっており、緋毛氈が掛けられたベンチの側には、湯気を立てる甘酒が入ったお鍋と炭火で炙ったお餅の串が用意されていた。
紙コップに甘酒を注ぐと、ほんのり温かい熱が手に伝わって心地よい。
「ほら、一時休戦だぞ」
「もきゅーん」
モーラットナイトメア達の分も注いでやれば、ふわもこ達は尻尾を掴んでいたおててを離して散らばり、大人しくカップを受け取る。
みんなでベンチに並んで腰掛けて、のんびり甘酒をいただく。
昇りかけた初日の出が、東の空に作り出す紺と橙のグラデーション。
その色彩を眺めながら甘酒を啜ると、米粒の食感とお米本来の優しい甘みが口の中に広がる。砂糖醤油を塗ったお餅も熱々で香ばしくて、早朝の寒さに冷えた身体を内側から温めてくれる。
「そうそう……」
まったりと新年の始まりを楽しむ心持ちで、シモーヌは立ち上がる。
すっかり懐いた悪夢のふわもこ達もぴょんぴょこ跳ねてシモーヌについて来る。
目指すは神社の拝殿。
「せっかくここまで来たのだから、初詣もしないとね」
モーラットナイトメア好みにやたらとキラキラビカビカ光ってはいるが、神社は神社だ。
吊り下げられた鈴緒を引っ張れば、カランカランと澄んだ鈴の音が空まで届けと響き渡る。
「新年あけましておめでとうございます!」
パンと柏手を打つ音と朗とした声が、新年の始まりを寿ぐように響くのだった。
大成功
🔵🔵🔵
劉・久遠
……宮大工の血筋としてはゲーミング神社、めっちゃ気になる
伝統建築も好きやけど、こういうヘンテコ建築見るの好きなんよねぇ
ひとまず参拝してから色々見て回ろかな
神さんに失礼ない程度に中も見れたらええな
あ、御神籤やお守りもゲーミングやったりすんのかな?
ウケる、家族の分も買うて帰ろ♪
(御神籤の結果はお任せ
さっきから響く正月ロックはこれかー
ふむ……七悪巳やったっけ? なかなかええ音出しとるやない
もう一つ、腹にビリビリ響く生の重低音加えてみぃひん?
(ギター取り出しクールに笑んでライブのお誘い
遊びやお菓子に夢中になるよう仕向けたれば、そのうち満足しやるやろ
さぁ、鯉さんの次は七悪巳とコラボしよか!
アドリブ歓迎
「……宮大工の血筋としてはゲーミング神社、めっちゃ気になる」
石段を登り切った先にある鳥居を一礼して見上げ、劉・久遠(迷宮組曲・f44175)は好奇心に眼を細めた。
見上げた先にあるのは、横柱の両端が上側に反った明神鳥居。だがここにあるものは、よく見られる朱塗りではなく、やたらめったらビカビカ光るゲーミング大鳥居。
モーラットナイトメア達の悪夢の力で作られた鳥居は、それ自体が内側から発光しており、めまぐるしくグラデーションを描いては一時も同じ色を留めない。
「こういうヘンテコ建築見るの好きなんよねぇ。ひとまず参拝してから色々見て回ろかな」
所変われば建築様式も様々。各地の変わった建築を見て歩くのは、猟兵として活動する楽しみの一つ。
今のところ悪夢モラの姿も見えず、彼らを探すついでに見て回るのも興味深い。
辺りを見渡しながら、久遠はのんびりと本殿の方へと足を進める。
「はぁ……これはモラ達、えらい頑張ったなぁ」
日の出直後の薄闇の中、目を凝らさなくともその存在感をアピールする光る建物を眺め、久遠は小さくため息をついた。
おそらく元からここに在った建物を利用したのだろう、意外にも神社の造りは伝統的な建築様式に則っていた。本殿は拝殿と繋がった権現造り。左右対称に張り出した屋根が重厚感を醸し出し、素朴ながらも手の込んだ龍の彫刻が破風を飾る。
そしてそこにモーラットナイトメア達は悪夢の限りを尽くして魔改造を施していた。
本来ならば趣ある茅葺きだった屋根は、その樹皮の一つ一つがLEDを仕込んだように光を放ち、1680万色の輝きが作る綾が複雑に折り重なる。あちらこちらの装飾には、悪夢モラ達を象った飾りがかくれんぼし、みつけ遊びも楽しめるようだ。
「中も見れたらええな」
神様に失礼のないよう拝礼してから階段を上ると、拝殿扉は悪夢モラ達が出入りするのに開けっぱなしになっており、中を覗き込めた。神様を祭る為の祭壇もやはりピカピカ光っており、お供え物はモーラット好みの甘い菓子類が多い。
「あ、御神籤やお守りもゲーミングやったりすんのかな?」
ひとしきり拝殿を眺めて好奇心を満たしてから脇にある授与所に立ち寄れば、光る箱に入った絵馬やお守り、おみくじが入った箱が眼に留まる。
さすがに絵馬やお守りまでは光らないが、そこに描かれた悪夢のふわもこ達の絵は、金銀の糸や箔押しホログラム加工で煌びやか。
「ウケる、家族の分も買うて帰ろ♪」
商売繁盛? それとも健康祈願?
もうじき小学校に上がる双子達のために学業成就……これは気が早いかも。
迷った末に久遠が家内安全と書かれたお守りを手に取れば、そこにつけられたモーラットナイトメアの顔が描かれた鈴がチリンと可愛らしい音を立てた。
「お支払いは甘いもので……オブリビオンでもモラやもんなぁ」
モーラットナイトメアの世界は菓子本位制。
微笑ましく思いながら支払い台の上にお饅頭を置いてやると、どこからともなく「もきゅん♪」と鳴き声がして、箱からポンとおみくじが飛び出す。
くるりと開いてみれば『小吉』の文字。
――少しの困難はあれど、それを乗り越えることで幸運が訪れる。友人や家族とおいしいものを食べ、感謝の気持ちを伝えると良し。
「せやね、今年も良い年にしていきましょか」
道を切り開くのはあくまで自分の努力。
愛する家族や親愛なる友人達との一年が素晴らしいものとなるように、久遠は新年の決意を胸の内で温める。
「ところで、モラ達どこ行かはったん?」
先ほどから正月ロックが響いているが、肝心の彼らの姿は尻尾の先すら見えない。
隠れているなら探すのが大変そうだと思いながら、久遠が辺りを見渡すと……。
「……あ」
先程お饅頭を置いた台。そこに紫色の鉤爪がにゅっと伸ばされているではないか!
「……もきゅ?」
久遠の藍色の瞳とふわもこの紫の瞳が見つめ合う。
「きゅぴいいいいっ!?」
けたたましい鳴き声を上げるふわもこ。
その声に他の六匹がぴょんぴょんと集まり、尻尾を掴んで合体、|七悪巳《しちわるみー》!
最後尾の子のラジオから威嚇するようにドゥンドゥンと荒々しいリズムが鳴らされる。
「ふむ……七悪巳やったっけ? なかなかええ音出しとるやない」
遊びやお菓子に夢中になるよう仕向けたれば、そのうち満足しやるやろ。
そう考えて、ギター取り出しクールに笑み、奏でるは空まで届く新年の祝い。
リズムにつられてモーラットナイトメアが瞳をキラン!
「もう一つ、腹にビリビリ響く生の重低音加えてみぃひん?」
掴みはOKと久遠が手首を揺らせば、生音でしか味わえないリアルで立体的なビブラートがビリビリとふわもこ達のもふ毛を揺らし、心まで熱く奮い立たせる。
「さぁ、鯉さんの次は七悪巳とコラボしよか!」
久遠が奏でる音の波に乗って、モラ達は頭をふりふり、リズムを刻んで踊り始める。
七匹連なって身体を傾け、もきゅっと一糸乱れぬモラウェーブ。
もきゅきゅぴ、もきゅきゅぴ♪
心躍るロックのリズム。
ドローンのアンプから流れる重低音に悪夢モラ達の愛らしい高音が重なる。
ゲーミング神社では、神に捧げる神楽もロック調。
すっかり即興の新年フェス会場となった神社で、久遠は悪夢のふわもこ達と大いに新年を盛り上げるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
鳥羽・白夜
八坂(f37720)と
やっと頂上着いた…けどやけに目ぇチカチカする神社だな、どういうセンスしてんだよ。
まあ、モーラットナイトメアは無理に倒さなくてもいいだろ。満足すれば勝手に帰るだろーし(イグニッション解いて大鎌しまう)
それよかちょっと休憩しようぜ、初詣連チャンはさすがに疲れる…
俺甘酒苦手なんだけど。
そんな飲み方があったのか!?
じゃあ早速こいつで作るか!
『トマトジュース万能説』で出した絞りたてのトマトジュースと甘酒を混ぜ一口、うまっ…!UCの効果もあって疲労回復効果抜群だ…!
ほら八坂の分も出してやったぞ。え、お前ら(モーラットナイトメア)も飲みたいのか?仕方ねーな、これ飲んだら大人しく帰れよ。
八坂・詩織
白夜さん(f37728)と
若干、サイバーザナドゥっぽい神社になってますよね…今回のモーラットナイトメアはよっぽどゲームがしたかったんでしょうか。
それもそうですね(イグニッションを解き、普段の姿に)
夜から連れまわしてしまってすみませんでした。
ええと…じゃあ甘酒でも飲みます?
そんな白夜さんにおすすめの飲み方があるんですよ、甘酒とトマトジュースを1:1で割る…
(予想通りの食いつきですね)
甘酒は飲む点滴と言われるくらい栄養豊富ですし、リコピンも体に嬉しい成分ですからね。
あ、ありがとうございます。
たしかにさっぱりして飲みやすいですね。
(一応、オブリビオンなんですけど…回復させちゃっていいのかな?)
山際から薄く顔を覗かせるオレンジが群青の空を染めていく。
「やっと頂上着いた……」
冷たく白む夜が少しずつ遠のいていく中、新年を迎える温かな日を背に受けて、鳥羽・白夜(夜に生きる紅い三日月・f37728)は、やれやれと肩を落とす。
「けどやけに目ぇチカチカする神社だな、どういうセンスしてんだよ」
目をしばたかせた白夜の視線の先、そこにあるのは、はたはたとはためく悪夢のふわもこ達が描かれた旗。そして刻一刻と色を変え1680万色に輝くゲーミング神社がドドーンとそびえていた。
「若干、サイバーザナドゥっぽい神社になってますよね……」
八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)が思い出すのは、昨年友人と行ったサイバーなお花見のこと。
和の文化とサイバーの融合。モーラットナイトメアが創る悪夢とテクノロジーが生み出す拡張現実は、原理こそ異なれど現れる事象は似ているのかもしれない。
ただサイバーザナドゥのお祭りとは違い、こちらは悪夢のふわもこ達の欲望を反映して、アセットを好き放題並べたような無秩序さも感じられる。
「今回のモーラットナイトメアはよっぽどゲームがしたかったんでしょうか」
首を傾げながら詩織が辺りを見渡すと、闇の先からキラリと赤く光るにょろにょろが現れた。
「もきゅー! きゅっぴっぴー!」
ちょい悪な真っ赤なサングラスを掛けた粋な姿のふわもこ達。前の子の尻尾を掴んでぐねぐねと蛇行運転で走り回り、二人の前で「きゅっぴ」と鳴く。
が、ただそれだけ。
別に悪さをするわけでもなく、ドゥンドゥン鳴るお正月の音楽をBGMに土煙を上げて爆走しながら去って行く。
「行っちゃいましたね」
「まあ、モーラットナイトメアは無理に倒さなくてもいいだろ。満足すれば勝手に帰るだろーし」
一応追いかけますかと言いかけた詩織の前で、白夜はすっとイグニション解除して大鎌をカードにしまう。
これまでモーラットナイトメアの悪さを何度も解決してきた白夜達にとって、彼らの大体の行動は読めている。|七悪巳《しちわるみー》に合体して走り回ることでほぼ満足しているのかもしれない。
「それよかちょっと休憩しようぜ、初詣連チャンはさすがに疲れる……」
億劫そうにトントンと肩を叩きながら、白夜が大きく息をついてため息をつく
なにせ寝正月を決め込むどころか初詣を二回も行い、一晩中動き回ったのだ。猟兵とはいえさすがにそろそろ疲労も回ってくる。
「それもそうですね。夜から連れまわしてしまってすみませんでした」
新年を一緒に過ごしたいという気持ちが先走って、無理をさせてしまったかもしれない。
瞳を伏せて軽く頭を下げてから、詩織も雪女の姿から椿柄の着物姿に戻る。
「いやまあ混んでたのはダルかったけど……」
確かに人混みも山登りもダルいのだが、別に嫌だと思ったら行かなければよいだけ。
トマトという言葉で釣られても、なんだかんだ一緒に行動するのは嫌……ではないのだと思う。
だけどそれを言ってしまうと、今以上に連れ出されそうだなという予感もするし……。
思い浮かび掛けた感情が、眠気に攫われてするりと抜けて行く。
これは本格的に眠いかもと、白夜は欠伸をする。
「ええと……じゃあちょっと休憩します?」
見渡せば、神社近くの授与所の隣には休憩スペースが設えられ、緋毛氈が掛けられたベンチが置かれていた。
モーラットナイトメアが山から下りないように見張るついでに、あそこで休むのも悪くないだろう。
真っ赤な野点傘の下、並んで腰掛ける二人の間には少しばかりの距離。
少し距離が近いかも……?
詩織がちらりと横目で窺えば、白夜は距離など意識の外というようにだらんと足をぶらぶらさせて伸びをしていた。
「ん、どした?」
「いえなんでも……あ、甘酒もありますよ」
詩織の視線の先に重なる蒼い視線。
絶対気付いてないだろうけど、なんとなく気持ちを読まれたようで気恥ずかしくて、詩織は慌てて立ち上がり、授与所そばに置かれた甘酒の鍋の方へ向かう。
「ええ……俺甘酒苦手なんだけど」
甘すぎるし、ツブツブが喉に引っかかる感があって慣れないんだよなとぶーたれる白夜。
すっかりアンニュイモードに入ってしまった白夜だが……。
「そんな白夜さんにおすすめの飲み方があるんですよ、甘酒とトマトジュースを1:1で割る……」
「そんな飲み方があったのか!? くれくれ!」
詩織の「トマト」の一言に、すかさず白夜が起き上がりばっと手を伸ばす。
「(予想通りの食いつきですね)」
わかってはいたが、これほど簡単に食いついてきたことに、詩織は少々困惑する。
普段はやる気なさげだがトマトを絡めれば好奇心と探究心を発揮してくれ、先程、詩織はは渋る白夜をトマト鍋で初詣に連れ出すことに成功していた。
トマトで喜んで貰えることは嬉しいが、それは自分と過ごすことはトマトのオマケなのかもしれないという寂しさや、白夜のトマト好きにつけ込んでいるような罪悪感もあり、詩織としては少々複雑な気がしないでもない。
「じゃあ早速こいつで作るか!」
だけど、子供のように目を輝かせながらトマトを絞っている白夜の様子を見ていると、そんなところも魅力の一つで、そんなところに惹かれたのだろうと思う。
手の中でふんわりと温もりを伝えてくる甘酒のカップ。
トマトジュース割りにするなら冷えていた方が良いかと思い、詩織が濃いめの甘酒に氷を入れて一混ぜすれば、緩やかに溶けていく氷が気怠げにグラスの中で回り、カランと音を立てた。
「トマトジュースうめぇ」
味見と混ぜる前に飲んでいたりするが、ユーベルコードで出すのだから飲み放題。
だが早く渡さないと、トマトジュースだけで満足してしまうかもしれない。
「はいどうぞ」
「サンキュー」
詩織から渡された甘酒にゆっくりとトマトジュースを注げば、比重の違いから甘酒の白とトマトジュースの赤が層を作って、紅白のおめでたさを醸し出す。
ニッと笑みを浮かべた白夜がスプーンでかき混ぜれば、紅白が混ざって薄紅色を作り出す。
「見た目もいいけど味は……うまっ……!」
疲れからさっきまで半目になっていた白夜の瞳がカッと見開かれる。
甘酒のトマトジュース割りは、意外性にもお互いの良さを引き立てる独特な味わい。
米麹由来の優しい甘みとトマトジュースのすっきりした酸味が絡み合い、山登りで疲れた身体に染み渡る。
もちろんユーベルコード『トマトジュース万能説』の効果もあるけれど、それがなくてもたっぷり運動した後の飲み物の効果は格別だ。
グラスを持ち上げて余韻を楽しむ白夜の顔に笑顔が浮かぶ。
「甘酒は飲む点滴と言われるくらい栄養豊富ですし、リコピンも体に嬉しい成分ですからね」
理科教師らしく栄養素について解説を入れる詩織の言葉に、へぇと白夜が頷く。
「ほら八坂の分も出してやったぞ」
「あ、ありがとうございます」
白夜がぐいと差し出すカップには、詩織の分のトマトジュース。絞りたての新鮮なトマト果汁の爽やかな香りが、早朝の空気に広がる。
自分が味わったトマトの新しい味わいを、後輩にも教えてあげたい。
そんな素朴な優しさが伝わってきて、それが何よりも詩織の心を澄み渡らせていく。
「たしかにさっぱりして飲みやすいですね」
こくりと味わえば、甘酒の粒がトマトジュースと混ざり合い、口の中で仄かに感じられる舌触りが心地よい。
カップを手に、しばし二人で並んで味わい……。
「もきゅー!」
甘酒のトマトジュース割りに夢中になっていた二人を、小さな声が引き戻す。
尻尾を握って|七悪巳《しちわるみー》形態を取ったままのモーラットナイトメア達が二人の前に停車していた。
ふわもこ達の14の瞳は揃って二人が持つカップに向けられていて、思わず顔を見合う白夜と詩織。
「え、お前らも飲みたいのか?」
「もきゅ!」「もきゅきゅーい!」「きゅっぴー!」
白夜の問いかけに、食いしん坊で珍しい物好きのふわもこ達が一斉にもきゅもきゅと鳴いて、ちょうだいと片方のおててを伸ばす。
「仕方ねーな、これ飲んだら大人しく帰れよ」
「きゅぴるる、もきゅーん!」
詩織が入れた甘酒に白夜がトマトジュースを注ぎ、前の子から順にカップを渡していく。
七悪巳達、ドライブスルーの要領で、一人ずつカップを受け取って前に進んでいく。
甘酒のトマトジュース割りをペロペロ味わい、モーラットナイトメア達は美味しさにまん丸おめめをぱちくりさせて、「きゅっぴ!」と喜びの鳴き声を上げた。
白夜のユーベルコードとトマトのリコピン効果で、もふもふ達は疲労回復元気いっぱい。
ツヤツヤピカピカ毛艶も良くなり、微風に吹かれてもふ毛が揺れる。
「(一応、オブリビオンなんですけど……回復させちゃっていいのかな?)」
「(いーんじゃね? 満足させた方が早く帰るだろうし)」
詩織が小首を傾げて小さく呟けば、トマトジュースのコップを持ったままの白夜からささやき返される言葉。
目の前のジュースに夢中の悪夢のふわもこ達。飲み終わった紙コップをその辺にぽいっと放り投げようとするから、それはもふんと軽くはたいて止めさせる。
いつの間にか真円の姿を明らかにしていた初日の出が、空に金色のベールのような光芒を投げかける。
そのまぶしさに目を細めて空を眺めれば、細くたなびく雲が薄紅を映していた。
悪夢が創り出す鮮やかな色彩と、自然が創り出す繊細な色彩が混ざり合う。
それはまるで手に持つカップの中で混ざり合う甘酒のトマトジュース割りのよう。
きゅぴきゅぴと囀るモーラットナイトメア達。その声が新年の始まりを祝うように広がっていく。
夜勤明けの空にも朝焼けはあったのだろう。
だけど、こんなにゆっくりと空を眺めることは果たしてあっただろうか。
白夜の目に朝焼けの朱が映る。
太陽の光が徐々に強まり空が朱から青に移る中、隣にいる後輩の瞳が太陽の朱の名残を残して柔らかな光を浮かべていた。
それを何となしに眺める白夜の瞳は冬空の澄んだ青。
二人で過ごす、今年二度目の初詣。
朝焼けの刻々と色彩を変える空が、今年の行方を示すようにどこまでも二人の頭上に広がっていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アミリア・ウィスタリア
賑やかな神社!
これってゲーミングっていうんですよね!
モーラットナイトメアの皆さんの流している音楽もロックですし……
なるほど、新年から全力で行くという意思表示ということですね!
ワルな皆さんにはこんなことを言うと怒られてしまうかもしれないけれど
……とっても可愛いです♪
七悪巳の皆さん
私と追いかけっこしましょう?
ミラが勝ったら――お願い、聞いてくださいな♪
えっと
こういうのは十数えるのが定番ですよね
え?
モーラット流は百数える?
(と言っているような気がした)
……わかりました、百数えますね!(騙された)
流石に百も数えたら見失ってしまいました……
でも、諦めません!
ミラにも策があります!(UCで可愛い蛇型クッキーを作る)
きちんと干支の事を考えていた皆さんですもの
きっと気になるはずだわ
皆さん集まったら早速お願い
一緒にゲーミング神社でお参りして欲しいんです!
きちんと二礼二拍手一礼、ですよね
あ、見てください、ゲーミングおみくじですって
皆で引いてみませんか?
うふふ、きらきらぴかぴか
どんな結果でも楽しいですね♪
「賑やかな神社!」
神社までの長い階段を上りきった先に広がる煌めく光と色の奔流に、アミリア・ウィスタリア(綻び夜藤・f38380)は疲れも忘れてぱあっと笑顔を浮かべる。
「これってゲーミングっていうんですよね!」
電気店で見かけたスタイリッシュで近未来的な光と、伝統的な和の建築様式の融合。
闇に閉ざされたダークセイヴァーでは、溢れんばかりの光は好まれない。
古き和の文化が残るシルバーレインでも――だからこそか、その侘び寂びに人工的なデジタルが織りなす蛍光は含まれない。
思ってもみない組み合わせがアミリアの目に物珍しく映り、ぱちくりと瞬きをすれば、その瞳に輝くのは鮮やかに澄んだ碧。
もう少し近くで見てみましょうか。
そう考えて辺りの景色を眺めながら拝殿の方へ歩を進めれば、ドゥンドゥンと鳴り響くロックなリズムがアミリアのショールを軽く揺さぶり、ふわりとミモザの香りを漂わせた。
「モーラットナイトメアの皆さんの音楽でしょうか?」
アミリアが首を傾げて耳を澄ませれば、拝殿の裏から「もきゅもきゅ」と親しんだご機嫌な鳴き声が聞こえてきた。
彼らを驚かさないように壁に手を添えてそっと覗き込んでみれば、やや紫がかった綿花のような悪夢のふわもこ達が互いの尻尾を掴んで列を作ってクルクル走り回っている楽しそうな光景が映る。
「もきゅー!」「きゅきゅぴっぴー!」「ぴきゅーん!」
右へ左へ、跳ねて飛んで。ふわも達はヘアピンカーブをドリフトで回って大爆走。
チカチカと色を変える神社の屋根や柱の色も、彼らが流す音楽と共に変化している。
「なるほど、新年から全力で行くという意思表示ということですね!」
ここで合点がいったとアミリアはポンと手を打つ。
ロックとは反体制や自由、解放の象徴でもある。お正月の歌や神社をロックでサイバーにアレンジする彼らは、正月や神社という伝統を過ごしつつも自分らしく楽しんじゃおうと欲望全開で遊んでいるのだと理解する。
「ワルな皆さんにはこんなことを言うと怒られてしまうかもしれないけれど」
小さなふわもこ達が無邪気にはしゃぎ回る姿は微笑ましくて……。
「……とっても可愛いです♪」
目を細めて微笑みを浮かべる花のかんばせ。
自分も混ぜて欲しいと、アミリアはタッと踏み出して悪夢のふわもこの前に進み出る。
「七悪巳の皆さん」
「もきゅ? もーきゅ」
胸元で手を揃え、柔らかくたおやかに微笑むアミリアの姿は、ゲーミングな光とロックの音の激しさとは対照的。爆走という表現で悪夢を楽しんでいたふわもこ達が、互いの尻尾から手を離し、こてんと動きを止めた。
「私と追いかけっこしましょう?」
森羅万象を魅了する花びらのごとき唇からお誘いの言葉が掛けられれば、ふわもこは「遊んでくれるの?」と期待に尻尾をぴこぴこ振る。
「ミラが勝ったら――お願い、聞いてくださいな♪」
そう言って、アミリアは顔の前で掌を揃えて、こくり首を傾げて甘く微笑む。
「もきゅ、もきゅーん!」
アミリア渾身のお願いの仕草にすっかり魅了されたモーラットナイトメア達はぴょんぴょん大賛成。
「えっと、こういうのは十数えるのが定番ですよね」
「もきゅもきゅ」
悪夢のふわもこ達が身体を振ってこくこく頷きかけ……。
先頭の真っ赤なサングラスを掛けていた子――「僕達、|悪《ワル》だぜ」とそっくり返ったふわもこが、「きゅっ!」と鳴いて隣の子をつつく。
「もっ!?」
つつかれたふわもこ。はっと目をぱちくりするその顔にニヤリ、邪悪なもきゅきゅ笑いが浮かぶ。
ほんわり笑顔を浮かべるアミリアから見えないように悪夢のふわもこ達が顔を見合わせてうんうんと頷き、ひょいと向き直って両手とそして尻尾をピンと立てる。
「きゅるもっきゅ、きゅいぴぃきゅー!」
「え? モーラット流は百数える?」
そんなに長かったかしらと、アミリアは幼い頃の遊びの記憶を辿る。
だけど幸せな思い出はどこか朧気で、目の前のふわもこ達が自信満々胸を張って「もきゅもきゅ」と鳴いているのを見ると、そうだったかも……と上書きされてしまう。
「……わかりました、百数えますね!」
素直に「いーち、にー、さーん」と数え始めだすアミリアに、とっても邪悪なモーラット達は上手くいったとほくそ笑む。
「流石に百も数えたら見失ってしまいました……」
数え終わって顔を上げたアミリア。きょろきょろと辺りを見渡しても、当然そこに悪夢のふわもこ達の姿はなく、早朝の薄明かりにピカピカの神社だけが浮かんでいるだけ。
「モーラットナイトメアさん、どこですか?」
ふわりとドレスの裾をなびかせてゆったり歩くアミリアの声が響けども、悪夢の不和もこの姿はちんまりお耳の先すら見えない。
――かさり、かさかさ。
アミリアの背後で小さな気配と木々の葉が擦れる微かな音。
振り返ってみれば、葉っぱが一片揺れながら落ちて、地面にはまだ温かさを残した甘酒のカップが転がっていた。
近くにいるのは間違いない。でも、ラジオを消してこっそりひっそりかくれんぼしている小さなモーラットを見つけるのは難しそうだし、闇雲に走り回っても追いつけないかも……。
「でも、諦めません! ミラにも策があります!」
シルバーレインのモーラット達と過ごした素敵な日々が、こういうときにどうしたらよいかをアミリアに教えてくれる。
好奇心旺盛で食いしん坊のモーラットが心惹かれるのは、甘くて見た目も可愛いお菓子。
「おいしいクッキーを焼きましょう♪」
おあつらえ向きに、すぐ近くの授与所には甘酒を温める用の小さなコンロとお餅を焼くオーブンが置かれていた。
これを使えば簡単可愛いクッキーができるはず。
薄力粉と砂糖をふわふわかき混ぜ、牛乳とバターも混ぜてこねこねこねこね。
アミリアの白い指先の間で生まれる新年を祝うお菓子の魔法。
クッキー生地を細く長く伸ばして、紐状の生地をくるくる丸める。
その真ん中を少し盛り上げて、竹串で目と口を描いてあげると……。
「できました!」
オーブンの中からほわっと温かな湯気と共に現れたのは、くるりととぐろを巻いた蛇型クッキー。
「きちんと干支の事を考えていた皆さんですもの、きっと気になるはずだわ」
先頭の蛇さんのクッキーの目には赤い飴で作ったサングラスがキラリと光る。
まあるいお目々が可愛いくて、ほんわりバターの香りも嬉しいクッキーは、作ったアミリアも思わず食べたくなっちゃうほど。
その誘惑に軽く首を振って、アミリアはお皿の上に蛇型クッキーを七つ並べていく。
クッキーのお皿をベンチに置いて、アミリアもその隣にちょこんと腰掛ける。
先程モーラットナイトメア達が流していたお正月の歌を鼻歌で口ずさみ、待つこと数分。
「も……もきゅ……」
「ぴきゅ……ももももきゅ……」
「きゅーう……ぴぴるきゅ……」
あらあら、どこからか小さな囀りが。
アミリアが声のする方に視線を向けると、灯籠の影から小さな七対の瞳が覗くのが見えた。
ふわもこ達、クッキーが食べたくて食べたくて。
だけどアミリアが隣に座っているので近寄れない。
クッキーの香りにお鼻をひくひく、ちらりと開いたお口の隙間から食欲の滴が垂れる。
「(うふふ、とっても可愛いです!)」
ちょっぴり意地悪心が頭をもたげ、アミリアは気付かないふりをして自分用のクッキーを一つ摘まむ。
――ぱくり!
見せつけるようにお口に入れれば、サクッと軽い音が静けさに包まれた神社に響く。
「……もっ!」
もうふわもこ達の瞳はクッキーに釘付けで、一匹がちろり足を踏み出し――。
「……もきゅーん!」
一匹でも踏み出してしまえば、もう誰も食欲を止められない。
アミリアの前に七匹の悪夢のふわもこが一列に並び、クッキーちょうだいと手を伸ばす。
「それなら追いかけっこはミラの勝ちでいいですか?」
焦らすようにクッキーのお皿を持ちあげてやると、お菓子につられたふわもこ達は「もきゅ」と素直に負けを認める。
さくさくとクッキーをいただき、ふわもこ達がお腹を撫でる。
「皆さん集まったら早速お願い、一緒にゲーミング神社でお参りして欲しいんです!」
そのタイミングを見計らって勝者のアミリアが告げるお願いに、モーラットナイトメア達は仕方ないなあと了承する。
だけどよく見ればちっちゃなお耳がぴょこぴょこご機嫌に動いている。
再びラジオから賑やかなお正月の歌が流れ出す。ドゥンドゥンリズムに足取り軽く、一人と七匹は皆揃って拝殿へと向かう。
「きちんと二礼二拍手一礼、ですよね」
モーラットナイトメアが創り出したゲーミング神社だが、礼儀は大切。
手水場で手と口を清めてから、アミリア達はお賽銭箱の前に列を作る。
――今年もたくさんの『素敵』がいっぱいの一年になりますように。
軽く瞳を閉じてこれからを願う気持ちに、パンパンと手を打つ音が重なる。
日の出から少し時間が経ち、うっすら蒼に変わっていく空を見上げれば、きっと今年も幸せな年になるんだろうなと心が温かくなる。
「あ、見てください、ゲーミングおみくじですって。皆で引いてみませんか?」
ふわもこ達を引き連れて神社を歩き回れば、目につくのは『おみくじ』と書かれたやらた光る箱。
「うふふ、きらきらぴかぴか」
箱に手を突っ込んで引き出すのは、キラキラネオンが輝くみくじ棒。
くじに書かれた番号で貰えたのは、『吉』と書かれた光るアクリルプレート。
――旅は吉。新しい出会いや発見があなたを成長させる。心を柔軟にし、謙虚な気持ちで臨めばさらに良い方向へ進む。
「どんな結果でも楽しいですね♪」
アクリルプレートをポケットにしまい、ほわり浮かぶのは花がほころぶような笑み。
悲しみの記憶、痛みの記憶は消えないけれど、それ以上に世界は広い。
アミリアが持つ夜色の本。その白紙のページのように、真っ白な世界のページにはいくつもの『素敵』が浮かび上がる。
――さっそく一つ、『素敵』を見つけました。
指先で触れるのは『吉』と刻まれた鮮やかな色彩のプレート。
今日この日のモーラットナイトメア達との奇妙で素敵な初詣の記憶。
アミリアの心に浮かぶ幸せの感情が、今日の思い出を優しく色鮮やかに心に刻み込んでいくのだった。
大成功
🔵🔵🔵