踏破せよ、ファンタジックミルキーダンジョン!
アックス&ウィザーズ。そこは猟兵が最初期から活躍している世界である。帝竜ヴァルギリオス、大天使ブラキエルとの戦いを経て、それ以降大きな騒乱とは無縁な状態が長く続いていた。
だが、ここは地にモンスター溢れ、剣と魔法を持ってそれを排し宝を探す冒険の世界。それは猟兵の活動とは一切関係なく在り続ける、この世界のあるべき姿であった。
その世界で今日も四人の女性冒険者が洞窟に挑もうとしている……が、何やら問題が起きているようだ。
「入らせる気ないだろこれ!」
先頭に立つドワーフの少女、コマチが声を荒げた。
「『人の身を超える豊穣の房、人を造る月日を対として備えよ……』人外級のバカでかい乳が10組20個とか揃えられるかそんなもん!」
「神よ、この洞窟を作った者に天罰を……」
入口に書かれた特殊な魔法文字にフェアリーのウィザードであるプリンが蹴りを入れ、神官服を着たいかにも清楚風な人間エイカも額に青筋を立てて神に祈っている。
「こうなればもう我々に打つ手はない。戻るしかないか……」
軽装のエルフ、カメリアが暗い声でそう言って踵を返す。だがそれを阻むように、肉の壁がそこに聳え立っていた。
「皆さん、お久しぶりですぅ」
親し気に声をかけるその肉は夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)。その挨拶の通り、彼女はここにいる冒険者たちと面識があった。
「あ、あぁ……」
だが、冒険者一同はそう返すばかり。何しろ彼女たちがるこるに最後にあったのはもう数年前の事で。その時ですら常識外れに豊満だったるこるの体は、最早その頃がスリムに見えるほどに育っていたのだ。
「何かお困りの様ですが、如何なさいましたか?」
それに唖然とする冒険者たちに動じずるこるが尋ねる。それに対し冒険者たちは、目の前の洞窟がどうあがいても自分たちには入ることすらできなかったと答えた。
「分かりました。こちらもそう言った肉体関係の魔法要素を探しておりまして。その条件なら問題なさそうなので、少々お待ちいただければぁ」
冒険者たちから聞いた条件を容易い事のように言い、るこるは彼女らを残してその場を離れていった。
そしてしばし。るこるは仲間と共に、洞窟の中にいた。
「確かに、我々なら容易い条件にござりますね」
るこるが連れてきた仲間たちの一人、豊雛院・叶葉(豊饒の使徒・叶・f05905)が言う。その言葉通り、彼女を始めこの場にいるのはまさにこの洞窟の入場条件である『人外級の巨乳10人』であった。
「もしもし、聞こえる?」
その一人華表・愛彩(豊饒の使徒・華・f39249)が目の前に浮かぶ水晶玉に話しかける。そこには外に残してきた冒険者四人の顔が映っていた。
「あ、はい、聞こえます……」
未だに戸惑いを隠せない様子でエイカが答える。これは洞窟入口に置いてあったもので、自動で進入者に追随し外部に中の様子を中継するものらしい。
「ライブカメラ付きドローンみたいなものかなぁ?」
「この世界なら原理は魔法でしょうけど」
甘露島・てこの(豊饒の使徒・甘・f24503)と艶守・娃羽(豊饒の使徒・娃・f22781)が、自身の知る世界に置き換えて見当を付ける。科学レベルでは下から数えた方が圧倒的に速いアックス&ウィザーズだが、逆に魔法技術はトップクラス。進み過ぎた科学は魔法と変わらないと言うが、逆もまた然りということか。エイカはじめとする冒険者たちの戸惑いは、洞窟の進入条件を簡単に満たしてしまった一行の体型の方にあるのだろう。
「それで、最初はこれを開ければいいのでぇすかね?」
リュニエ・グラトネリーア(豊饒の使徒・饗・f36929)の前にあるのはいくつもの衣装箱。そしてその向こうには『更衣室』と書かれた扉が壁についていた。
「なんで着替える必要あるんですか、早く行きましょう!」
それを無視し、別方向に見える階段にさっさと歩きだすのはグリモア猟兵ミルケン・ピーチのボディ花園・桃姫。急ぎ足でそこへ飛び込もうとした瞬間、その体が何かに拒絶されるように弾き飛ばされた。
「ぎゃっ!?」
全身の様々な肉を揺らして倒れる桃姫。
「これは結界、かな?」
「指示には従わないと駄目、ですね」
鞠丘・麻陽(豊饒の使徒・陽・f13598)と鞠丘・月麻(豊饒の使徒・月・f13599)がその様子を見て言う。どうやら先に進むためには着替えるしかないということで、一行はそれぞれ適当な箱を選び、更衣室へと入っていった。
そしてしばし。
「これは変わった格好ですねぇ」
着替えて来た一同が更衣室から出て来た。それぞれ種類は違うがいずれも豊満な体を強調する極端なものばかり。
「こんな状態でもすんなり着れましたの」
絢潟・瑶暖(豊饒の使徒・瑶・f36018)の衣装は目の粗い網のようなビキニ。元々緑をイメージカラーとする彼女が着れば、それはメロンについた網目のようにも見える。
「どうやらこの程度は想定されていたようで」
叶葉のが着ているのは鈴のついた赤い紐を垂らしたような、服と呼べるかも怪しいもの。普段の服を縁だけ残して中抜きしたような衣装を引き当てたのは偶然か。
そしてその体は、元々巨大だったのが入る前から全員一回りは膨れていた。
「どうやら更衣室にいる間中少しずつ膨れる効果があったみたい、だよ」
「でもこれくらいなら問題ない、です」
月麻と麻陽がそれぞれ赤と白の茨が巻き付いただけの自分の体を検分して言う。経験上この程度なら誤差の範囲だし、衣装もそれに合わせてどこまでも伸縮するようだ。
しかしやはりこいつは喚く。
「いや問題大ありなんですけど!?」
桃姫だけは胸が他と比べても大きな割合で巨大化、その体に張り付いたハート型の薄布が引き伸ばされてもうはち切れんばかりだ。
「えぇと、その肉……いえ、肉に張り付いている布、どうやら呪いがかかっていますね。作った人を呪ってやりたい……」
中継の向こうで、まだ微妙に震えた声でエイカが言う。彼女の見立てでは、更衣室の仕組みも呪詛の一種であり、衣装の一部にそれと共鳴して体系を極端に肥大化させる『はずれ』があったらしい。クレリックである彼女は解呪目的で呪いの知識も豊富なようだ。聖職者にあるまじき最後の言葉は聞かなかったことにしよう。
「どうやらはずれを引いてしまったようでぇすね。さすが桃姫さんでぇす」
腹を絞り出すようなハーネスのリュニエが、それをピンポイントに引き当てる桃姫のやられ体質は確かなものと褒める。もちろん桃姫はそれで落ち着くことなどないが、それでも動けるレベルでまだ済んでいるということで背中を押してさっさと進む。
こうして第一階層『豊衣の階層』を抜け、一行は本格的な探索を開始するのであった。
そして階段を降りた先。そこは大きな部屋であった。部屋の手前半分は何もない空間だが、奥には大きな人形のようなものが何体も立っている。
それを見つつ奥へと慎重に進もうとすると、部屋の中ほどまで進んだ所で突然何人かの肉が空中でつぶれるような形を取った。
「な、何これ?」
全身を極薄のフィルムのようなもので包んだ愛彩が驚いたように言う。彼女の肉も一瞬でかなりたわんだのだが、それでもその衣装が破れるようなことはないあたり、見た目に反してその伸縮性は相当なものなのだろう。
「これは、透明な壁があるみたいですねぇ」
全員が潰れたあたりをフリルリボンだけを急所に垂らしたるこるが触れて確認する。なお触れさせているのは手ではなく早くもそれよりリーチの長くなった胸である。
「上に何か書いてあるんだよぉ」
一見全身にクリームを塗ったように見える、謎の軟質素材の衣装姿のてこのが天井に何かを発見した。一同の視線と一緒に中継用水晶をそちらに向けると、プリンがその文字を解読しはじめた。
「えっと、壁を挟んで同じ位置に立てばあっちにあるゴーレムを動かせるようになるから、それで人形の足元にある板……タイル? をめくらせればいいんだって。で、当たり一個につき一人下に進める。ただし外れを引けば当然ペナルティ。ほんとはもっとめんどくさい言い回しで書いてあるけど、大体こんな感じ」
天井の魔法言語をウィザードの知識で解読し、噛み砕いての説明。元々10人いなければ入れないこの洞窟で当たり一つにつき一人ずつという脱落や裏切りを誘うような条件は、この洞窟がやはり何かしらを隠す試練の場だということの証か。
だがもちろんそんなことをするつもりは誰にもない。全員がマネキンゴーレムと対になるような位置に立ち、人数分のあたりを引き当てるべく人形を動かし始めた。
「念じるだけで動かせるのはありがたいですの」
「ええ、ですがどうやらそれ以外の事は出来ないようでぇ」
るこるは探査用祭器などを利用しタイルの中を確かめようとしたが、人形操作以外の一切が壁の向こうには届かなかった。恐らくただ見えないだけでなく相当に強力な魔法の防壁でもあるのだろう。
こうなればもうただ運に任せるほかない。全員が手当たり次第にタイルをめくっていくが、そのほとんどには何も書かれてはいなかった。
そして、人形を動かしていたメンバーの胸が震え始める。
「こ、これはやはり……」
普段の高級そうな和装とは逆の、村娘風の服を着た娃羽の胸が唐突に大きくなる。それは素朴な服を思い切り引き延ばし、下はもちろん襟ぐりの部分からも乳房の上側が大量にはみ出して一本の線のような形としてしまった。
もちろん他の面々も一気に胸が大きくなっていく。元々直径が腕の長さを超えてはいたが、さらに足の長さ、身長さえ超え、比較対象が見つからないサイズまであっという間に肥大した。
「い、いくらなんでも早すぎませんか!?」
このサイズになったことは何度もあるが、それにしたって速度が早すぎる。桃姫が乳を突き出し言うと、るこるがのんびり答えた。
「ええ、どうやら使っておいたUCが作用したみたいでぇ」
今回も『色々』に備えて各自UCを重ね掛けしておいたのだが、その作用で本来の
影響の10倍ほどの効果が出てしまったらしい。
そしてそれはここにも。
「「おぉぉぉぉぉぉっ
!!?」」
喘ぎ声の二重奏。月麻と麻陽の巨大乳房から、白い奔流がクロスビーム状態で噴射されていた。
「え、ちょっと、いきなり真っ白になったんだけど!?」
それが水晶を飲み込みこちらの様子が一時的に冒険者たちに見えなくなったのは不幸中の幸いか。どうやら外れの中の『大外れ』を引いてしまったらしい二人の噴射を止めるべく、残りのメンバーは急いでタイルをめくる。
そして辺りが肉と白乳の海となった所で10枚目のあたりが引かれ、この『魔札の階層』は攻略となった。
早速強烈な洗礼を受けたうえでたどり着いた三つ目の階層。先の階層だけで最早全員が乳が動いていると言っても差し支えないような状況になっているが、移動スペースに関しては何も問題は起きていない。
「どうやら空間が足されているようで、これは相当に強い法力で作られている様子」
元々入ってきた者の体を膨らませることに特化している故、それに合わせて空間が拡張されるようになっているのだろう。言葉にすれば簡単だが言うなればフェアリーランドを超強化状態で維持しているようなもの。性癖はともかくここを作った者は相当な魔法技術の持ち主だったのかもしれない。
改めてこの場所の危険性を認識しつつ下りて来た第三の階層。そこに入った瞬間そこには乳白色のガスが充満していた。
「これは……!」
とっさに口を押える全員。だがそのガスは呼吸器よりもむしろ圧倒的に拡張された肌面積の方に取り付き、そこから染み入るように彼女たちの体を侵し始めた。
そしてその効果はすぐに現れる。
「やっぱりこういうのなんだよぉ」
もりもりと盛り上がっていく全員の乳。この程度はもう既定路線として慌てることなく、むしろこれなら吸い込んでも大事ないと全員が口元を開けるほどだ。
「疲れたので少し休みましょう」
そしてやっぱり根性のない桃姫が、壁際に置かれていた椅子に無防備に腰かける。するとその瞬間に触手のようなものが湧き出て乳を中心にがっしりとその全身を拘束した。
「な、なんですかこれ
……!?」
そして桃姫の目の前に石板がせり上がってくる。それはまるでモニターの様に発光し、表面にどこかの家のような光景を映し出した。そこはアックス&ウィザーズの少し広めの屋敷のようなもので、中央には上の改装で動かしたものに似た人形が立っていた。
拘束されて動けない桃姫が視線だけを動かすと、その視線を追うように人形が動き、それにつれて室内の表示範囲も変わる。そしてテーブルの上に置かれたフルーツ籠が映った瞬間にそこを凝視すると、そこから一個のバナナを人形は持ち上げた。そしてさらに見つめるとその皮をめくり、中からは果肉ではなくなぜか鍵が現れた。
「これは随分と懐かしいものですわね」
「故郷では安心安全の即死罠とかつけたリアルの方が定番でぇすね」
娃羽とリュニエが察した通り、これは脱出ゲーム。昨今流行りののリアルの方ではなく、古式ゆかしいスクリプトのブラウザゲームのようなものだ。
そしてもちろんただのゲームではなく、先へ進むための『試練』なのは見て分かること。全員が用意された椅子について拘束され、部屋の中にそれぞれに色分けされた
人形がいくつも現れた。
そして広大な屋敷の中を10人が手分けして探し始める。
「アックス&ウィザーズでメタバースとかどんな発想した人が作ったんだろうね、これ」
「つくづく謎が深まるんだよぉ」
そのリアルな仮想空間に、科学技術の発展した世界出身の者ほど、この洞窟の特異性に首をかしげていた。その空間内で、一般家庭にはいささか仰々しすぎる、あからさまに怪しい祭壇を叶葉が探索する。
「こちらは神棚、に類するものでしょうか。神職の方のご意見を窺ってみるのも……」
そう言って祭壇に体を入れてみると、突然そこから大量のガスが噴き出した。もちろん画面内の事なので直接影響はない。しかし、それに連動するように全員を拘束する触手が胸の先端に進入、そこに何かを注ぎ込みだした。
「ほぉぉぉっ!?」
特に注入量の多いらしい叶葉が大きな声を上げる。それと同時にその胸が呼吸するように周囲のガスを吸収、一気に二回りほどその大きさを増した。
そして他の面々も、叶葉には劣るものの一回りほどの膨乳をしている。どうやらあちら側にあるのは探索の鍵になるものだけでなく、罠やダミーアイテムなどもふんだんに用意されているようだ。それらに引っかかれば引っかかったものを中心に、連帯責任的に全員に薬が注入される。そしてそうでなくても時間をかけるほどに周囲のガスに晒される時間も増えるわけで。
「これは慎重に行かないと、です」
「でも急がないと動けなくなっちゃうかも、だよ」
焦ってあちこち調べるのも無暗に時間をかけるのも、どちらも悪い結果を引き寄せるという寸法であった。その状態でとりあえず祭壇から離れようとする叶葉を、中継水晶からの声が止めた。
「待て、もう一度その祭壇を調べてみるんだ」
カメリアが今しがた罠が発動したばかりの場所を調べるように指示する。それに従いガスの噴出してきた穴に叶葉のアバターが手を入れると、何か取っ手のようなものがあった。それを引くとなんと祭壇自体が真っ二つになり、その後ろからはは輝く門のようなものが現れたのだ。
「一度調べた場所は心理的にもう調べなくなる。罠があればなおさらだ」
本業シーフであるカメリアの助言によって開かれた出口。そのままその門の中に叶葉のアバターが吸い込まれ、その直後祭壇は元に戻っていた。
「これで脱出、でございましょうか。しかし……」
脱出できたのは叶葉だけ。そして祭壇はもうどこを弄っても何の反応もない。そして叶葉本体の拘束も解かれないまま。
「これはワルい仕掛けでぇすね」
一つの脱出口から出られるのは一人だけ、しかも出てしまった者はゲームから除外され、残るメンバーを手伝うこともできずただ見ているのみとなる。
「これだと謎を解くほど人数が減って大変になっていきますの」
「おいてかないでくださいね……」
瑶暖の言葉に縋るような眼で見る桃姫。そこからも何度となく罠を引き、その都度嬌声と共に乳に薬を流し込まれながらもなんとか全員が仮想空間からの脱出に成功。それと同時に一気に触手が引き、全員の拘束が解かれた。
「おほっ!?」
薬注入用に差し込まれていた触手が抜けた時は思わず全員声を上げ『中身』を溢れさせてしまうが、ともあれどうにか全員そろってこの『脱出の階層』を抜け出すことができたのであった。
さらに下った次の階層。そこは今までとかなり趣の異なる場所であった。
「おぉ、これは凄いのでぇす」
そこは広大な広さを持つ食堂。豪勢な家具や美術品の並ぶ、まるで王侯貴族の城か館に迷い込んだような絢爛豪華な大食堂であった。
もちろん今の彼女たちの体型で普通の席に着くことなど出来ない。それは想定されているということか、一つが炬燵板ほどもある巨大トレーがまるでフロートボードのように浮かんで一人一人の前に飛んできた。
もちろんその上には食事が山積み。さらに体型上最低限の動きで食べられるようにとの配慮か、ハンバーガーやシュークリームなどの手づかみで食べられる品ばかりが乗っていた。
「今度はこれを食べきればいいんですね、分かりました!」
やっぱり最初に手を出すのは桃姫。しかしそれには全員が同意するところであり、皆各々の前にあるトレーから思い思いの品を手に取った。
「それでは、いただきますぅ」
というわけで食事開始。全員がそれ用のユーベルコードを事前に使っていたということもあり、ものすごい勢いで食べ物は消えていく。
「意外とスイーツはあるんだよぉ」
てこのが取るのはやはりスイーツ類優先。シュークリームの他クッキーのような焼き菓子系、アイスのように作るのに技術が必要なものも用意されている。
「そう言えばプリンさんが以前お食べになられていましたねぇ」
ピザは一つ一つは巨大ながらきちんとカットされており、
「ファンタジー飯と言えばこれなのでぇす」
「上手に焼けてますわね」
そして食事系の定番と言えば肉。パンに乗せる、挟むなどしたものの他、ただ切り出しただけのものもある。
その中でもいわゆるマンガ飯、あるいはファンタジー飯の大定番であるマンガ肉の存在感は圧巻であった。
「これはちょっと辛口であったまる感じです」
「冷製のもあるのが以外、だよ」
同じ肉でも味付けが違い、体温に与える影響も真逆。そんな状況で食事を楽しんでいたが、ふと愛彩がトレーを見てあることに気づく。
「あれ、何か増えてない?」
全員で相当な勢いで食べているはずだが、トレーに乗っている量が思ったより減っていない。どういうことかと訝しんでいると、目の前で湧き出るかのように肉の山が高さを増した。
「おや、これはありがたいですねぇ」
それをのんびり受け入れるるこるだが、そんな楽観できる状況ではないと部外者は見る。
「この手のものはどんどん注ぎ足されるぞ。特に主賓席になど座ろうものなら酌とおかわりの順番待ちが並ぶほどだ。無理だと言っても遠慮だ謙遜だ言われて余計に増やされる!」
ドワーフであるコマチが警告するように言う。ドワーフは何かにつけて宴会したがる種族な上に、彼女の故郷は外との交流がほとんどなく振るい慣習が未だ残るところだ。勧められたら断れないとかたくさん食って飲むほど偉いとかそういう最近問題視されがちな風潮が現役で残っているのかもしれない。
現に一定時間ごとにトレーは満載の状態に戻っている。さらにはその食べ物自体にも当然のように入っている者があり。
「食べれば食べる程肉になっていく感じがありますの」
「それでもこっちに飛んできてくれるから食べやすいままなのは嬉しいね」
食べた者は即座に腹ではなく胸の方に肉として蓄積されていく。だが、食って膨らむなど最早彼女たちには日常。この程度異変の内にも入らない。
やがて、トレーの上の食べ物は当然のように全員の腹の中へ消えた。
「ところでここ、結局何だったんでしょう?」
「休憩ポイント……とか?」
ここは膨れていく胸と腹に苦しめられつつ感触を目指さなければならない『飽食の階層』。そんなことにも気づかず、実質試練なしの階層のように通り抜けていくのであった。
そして降りた先、そこにはまたも今までと違う光景が広がっていた。
「これは……」
中央部の祭壇に『水晶板』が飾られた、水平線が見える広さの『温泉』。その湯は暖かく、超巨大な10人の乳房を優しく包んでくれる。だが同時に、最早当然の如くその湯には膨乳効果があった。
全員の乳房が今まですらも凌駕する速度で膨らんでいく。暖かな湯の海が柔らかな肉の海へと埋め立てられていくが、それでも溢れる様子はない。
「さて、これから何が起こりましょうや……」
ここからどうなるのかと全員が身構えていると、突然これまで追随してきた水晶玉が温泉の中へ自ら飛び込んだ。そしてその代わりのように、そこから大きな水晶板がせり出してくる。その板が眩く輝くと、そこから四つの細い体……地上で見守っていたはずの冒険者たちが飛び出してきた。
「な、何だ!?」
彼女たちもどういうことか分からないらしい。だが彼女たちがこの洞窟に挑む前に事前に調査した情報を改めて聞くと、今の状況が大体理解できた。
「なるほど、ここが最深部だったのですねぇ」
この『水晶板』こそこの迷宮の核となるマジックアイテム。その能力は『空間形成』と『体型保持』であり、無限の空間を作りつつそこで膨れ上がった肉をこの場に『記録』として置いておくことで外に出た時の影響を最小限にとどめることができるのだ。
「下に行くほど簡単になっていくのは意外だったんだよぉ」
本来は自分の体よりも大量の食事、常人でも4桁に達するほどの膨張と知恵や力で何とかできないもののはずなのだが、余りにも相性が良すぎた結果そうなってしまったのだろう。
「よろしければ皆様もおくつろぎくださいませ」
促され、服を脱いで温泉に浸かる冒険者たち。その周囲は乳肉の海であり本来彼女たちにとっては忌むべき状況なはずなのだが、ここまで差がありすぎれば逆に意識することすらできなくなるのかもしれない。
「おお、あったぞ!」
「早く、早くあけましょう!」
そして湯の中から宝箱を引き上げ、乳肉の上に乗せて開けていく冒険者たち。しかしてその中身は。
「カップ倍増ブラ……AAがAになったところで!」
「成長要素超分泌剤? 0は何倍しても0だっつーの!」
奇跡の豊乳アイテム。ただし、元々ある程度あることが前提の、であった。
落胆して湯に沈む冒険者たちの隣で、桃姫が自分の乳の上の宝箱を器用に近づけて覗き込む。
「それで、例のアイテムはどこに?」
「え?」
その言葉に使徒たちが首をかしげる。
「ほら、食べても太らない薬とか……それを取りにここに来たんでしょう?」
「いえ、違いますがぁ?」
確かにるこるがアックス&ウィザーズに来たのは桃姫が求めるそれの情報を探してだ。だがこの洞窟に入ったのは、顔見知りが困っていたので善意の手助けで仲間を連れて来ただけのこと。それとこれとは全く別の話なのだ。
「そんな、じゃあ、今回のこれって……」
桃姫も冒険者たちと同じように湯に沈んでいく。その代わりのように押し出されて浮き上がって来た冒険者たちだが、その手には一枚の石板が。
「簡単に言うと『クリアおめでとう』的なことが書いてあるけど……」
「最後に署名がありますね。製作者の名前でしょうか」
「そういえばあの大食堂の様式、以前の天空城に似ている気がするな」
「石板なら私の故郷に持ち込めば材質の部分からも調べられるぞ」
次の冒険を見据えた目でそれを見つめる冒険者たち。もし必要なら持っていっていいと告げれば、四人で礼を言って乳肉の大地の上に裸で立つ。
「そう言えばあの人たち、このお湯に入っても胸が膨らんでないんだよ」
「麻陽ちゃん、それは言っちゃだめ、です」
「ヒーローと逆に冒険者はそう言う人が多いのかな?」
「多分それも誤解ですの」
猟兵は圧巻の乳肉を、冒険者は次の冒険を。ダンジョン制覇の末に確かにその報酬を得て、今回の冒険は終了となった。
そして望むものがある限り、世界を渡る冒険はまだまだ続いていくのだ。
成功
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