ティタニウム・マキアの聖人夜
薄翅・静漓
海鶴さま、今年もお世話になりました
クリスマスのお話をお願いできたらと思います
『ティタニウム・マキアの超越』で出会った子どもたちに、
『ハイド/IVI/シティ』で貰った模型玩具を贈る静漓
という内容でお任せします
不明点詳細ご自由に
■静漓の心情と行動
サイバーザナドゥで『メリサ』に預けた子どもたち
彼らがどうしているのか、もう目覚めているのかすら解らないけれど
あの子達にクリスマスプレゼントを贈りたいわ
おもちゃや服、子どもの好きそうなものを考えて
なにがいいか、迷っていたけれど
『エイル』博士から貰った……決戦配備『セラフィム』の模型玩具
見た時にこれが良い、と思ったわ
私が『プラクト』の楽しさを知っているからかもしれないけれど
街を守るために活躍する『セラフィム』は、まるで守護天使のようで
誰かの力になりたいという願いを感じるような機体だったから
そういう存在を、あの子達に贈りたいと思ったわ
お守りを渡すような感覚なのかもしれないわね
問題は、私には彼らとの連絡手段がないということ
どうすればいいかしら……
荷物を抱えて歩いていたら、会えるかしら……?
■追記
GGOでハジケられて大変楽しかったです! カオスは心の栄養剤!
静漓も年の最後に『憂国学徒兵』と会えて嬉しかったと思います
さまざまな冒険ができて、お陰様でとても楽しい一年でした
来年もよろしくお願い申し上げます
良いお年をお迎えください
●プレゼント・フォーユー
誰かに何かを贈ることは、真心から発したものだろう。
そこに幸せのお裾分けであるとか、富める者の役目であるとか、そういうものはなかった。少なくとも薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)には、そうしたお題目は持ち得なかった。
必要なかったと言ってもいい。
彼女は真心から、嘗てサイバーザナドゥにて巨大企業群『ティタニウム・マキア』に囚われていた子供らにクリスマスプレゼントを贈りたいと思ったのだ。
ただ、それだけなのだ。
彼らの境遇は辛い現実そのものだ。
後天的な超能力の付与のために薬品漬けにされた肉体。
保護した9人の子供らを猟兵達は、亜麻色の髪の青年『メリサ』へと託した。
その後がどうなったのかは、知り得ない。
けれど、静漓はどうにかして彼らに再び会いたいと思ったのだ。
彼らが目覚めているかはわからない。
贈りたい。
その真心は静漓の中で大きく膨れ上がっていくようだった。
「……喜んでくれるかしら」
最初は、玩具や服、子どもの好きそうなものがいいのではないかと思ったのだ。
それは正しいことのように思えた。
だが、一口に玩具、服と言っても多種多様である。
多く並ぶ品物の数に静漓はめまいを覚えるようだった。どれもこれも同じように思えるし、また違うのだということは理解できた。
その差異にクラクラしてしまっていたのだ。
有り体に言えば、迷っていた、と言ってもいい。
「でも、『エイル』博士から貰った……これなら喜んでくれるかしら、あの子たちは」
想像する。
ふわりとした温かさが胸に灯るような気がして、自然と微笑んでいた。
「――アンタは、そんな大荷物を抱えてどこに行こうって言うんだよ」
呆れたような声色。
その声の主は、亜麻色の髪を揺らして静漓の目の前に現れた。
思った通りだ、と静漓は自覚なき微笑みと共に亜麻色の髪の青年『メリサ』を迎えた。
「なんで笑ってるんだ」
「笑っている? 私が?」
「アンタ以外にいるのか、笑っている人が」
「……そう、笑っているのね、私。少しワクワクしているというのが正しいのかもしれないし、もしかしたら」
もしかしたら?
『メリサ』は怪訝な顔をしていた。
「あなたとの連絡手段がなくて途方に暮れていたのだけれど、荷物を抱えて歩いていたら、あなたから会いに来てくれるのではないかと思っていたの。それが正しかったから、笑ったのかも知れないわ」
その言葉に『メリサ』は頭をかきむしるようだった。
調子が狂う、とでも言いたげだったのかもしれない。
「そりゃ、そんな荷物を抱えていればさ。目立つだろ。普通に」
「迎えに来てくれたのよね」
「違うって。興味本位だよ。アンタが何をどうしようっていうのには、興味がない」
「でも」
静漓は抱えていた箱を『メリサ』に押し出すようにして手渡す。
「おい」
「あの子達が何処にいるのか、あなたは知っているでしょう? あの子達にこれを贈りたいの」
「なんだよこれ。やけにかさばる割には軽い。中身何これ」
「模型玩具よ。知らない?」
静漓は、ケルベロスディバイド世界にて事件を解決する際に参加したパーティで、とある湾岸の決戦都市の責任者である亜麻色の髪の女性『エイル』から、決戦配備の自律人型戦術兵器『セラフィム』の模型玩具をワンカートン受け取っていたのだ。
結局、子供らに何を贈ろうかと考えた時、これが良いと思ったのだ。
静漓自身がアスリートアースの未公式競技である『プラモーション・アクト』――通称『プラクト』の楽しさを知っているからかも知れない。
あの世界にて販売されている『憂国学徒兵』シリーズの『セラフィム』とは異なるものであるが、しかし、ケルベロスディバイド世界の『セラフィム』は決戦都市を護るために活躍している。活躍しきれていない、というのが正しいが、今は割愛しておこう。
「……――知らないね、俺は」
「そう。でも、きっとあなたも気に入るわ」
「それはない」
「なぜ? この『セラフィム』は、まるで守護天使のようで、誰かの力になりたいと言う願いを感じさせるような機体だったわ」
静漓はそう感じていた。
だが『メリサ』は違うようだった。
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
「何処まで言っても兵器だろうが、こんなのは」
「『あなたは』そう感じているのね」
その言葉に『メリサ』は頭を振って、苦虫を潰したような表情をかき消した。
「一般論ってやつだよ。人を守るためでも、人以外の誰かを傷つける。兵器っていうのは、そういうものだ。その宿命から、その呪縛からは逃れられないんだよ。そういうのは偽善だって言うんだ」
「それでも善よ。偽りであっても」
この願いに偽りはない。
例え、謗られるのだとしても、真の心は傷つかない。揺るがない。
静漓の青い瞳に気圧されるように『メリサ』は、一歩後退った。
「……アンタは」
「そういう存在を、あの子達に贈りたいと思ったの。お守りを渡すような感覚なのかもしれないけれど」
静漓は、あの子供たちに健やかに生きてほしい。
生まれたからには、幸せであって欲しい。
例え、待ち受ける運命が過酷そのものであっても。
「運命は決まっていて、そのとおりに進むのだとしてもか。それが破滅しか待ち受けていないのだとしてもか」
「そうよ」
静漓は言い切った。
『メリサ』は、深く息を吐き出した。
それはまるで迫りくる濁流を前に諦観したようでもあった。
「……わかったよ。ついて来なよ。あいつらに会わせてやるから」
「ありがとう。荷物、持つわ」
「アンタが俺に押し付けたんだろ!」
静漓は『メリサ』に案内されるままに、一つの施設へと足を運ぶ。
いくつかのセキュリティが施されたビルのようであった。
内部を進むと其処にいたのは、9人の男女の子供たちであった。
「……こいつらだろ、アンタが会いたいと、贈り物をしたいと言ったのは」
『メリサ』の言葉に9人の少年少女たちが群がる。
「なになに、おくりものってんだよー!」
「静かにしてください。眠っていた子もいるのに」
「やや! この箱がそうなのか! 胸がドキドキするな!」
「あ、ああの、お、おおお落ち着いて」
子供たちにはそれぞれ特徴があった。
静漓は息を呑む。
猟兵たちが救出した9人のサイコブレイカー。
誰しもに面影を見出してしまう。
「この子達の名前は?」
「ない。だから、数字で呼んでいる。元の名前を思い出せないから、思い出すまでの便宜上だが」
喉が震える。
まさか、という思いがある。
「私は『アイン』! んで、こいつが『ツヴァイ』! やかましいのが『ドライ』! おどどしてるのが『フィーア』、あのちっこいのが『ゼクス』! ぼんやりしるのは『ズィーベン』!」
「だから、騒々しくしないでください。『アハト』が漸く眠れたんですよ」
「うむ!『ノイン』が診てくれていたからな!」
「ど、どうしました、『ツェーン』?」
小さな『ツェーン』と呼ばれた少女が静漓の抱えた箱を見つめている。
「……それ」
ぽつり、と呟く言葉に静漓は膝を折って目線を合わせた。
「あなたに、よ」
「……」
手渡す箱を受け取った『ツェーン』と呼ばれた少女は不思議な顔をしていた。
「……こういうときは、『ありがとう』っていうんだよ」
『メリサ』の言葉に『ツェーン』と呼ばれた少女や、他の子供らも笑顔を浮かべて口にする。
その言葉を。
「ありがとう――」
成功
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