仲良しもふもふ、お披露目会
春夏秋冬、くるりと巡る季節を一緒に過ごしてきて。
楽しいって思うことは、本当に色々いっぱいあるのだけれど。
でも……その中でも、特に今日は。
「今年もこの日がやってきたわ!」
年に一度しかこない、待ちに待った日!
だから、今日のルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)はやる気満々なのだ。
そう――何せ今日は、わくわく楽しみな。
「パパは今年はどんな格好かしら」
パパとの毎年恒例、ハロウィンの仮装お披露目会なのです!
毎年恒例ということで、勿論昨年も各々の仮装をお披露目し合ったのだけれど。
その時のことを思い出しつつも、うきうきと。
「去年のパパは黒ヒナさんの着ぐるみで可愛かったのよね。ルーシーもうんと気合いを入れて準備したし、喜んで下さるといいな」
……とっても楽しみ! って。
あれこれいっぱい、うんとたくさん悩んだり考えたりして。
ばっちり用意した今年の仮装に、着替え始めるルーシー。
そしてやはり、同じように。
「ルーシーちゃんはどんな衣装でしょうか?」
一足先に、仮装へと着替えを終えている朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)も、彼女の今年の仮装がとても楽しみで仕方なくて。
ふと思い出す姿は……パパ! 今年は頑張ったの! 楽しみにしてね! なんて。
仮装に着替えに行く直前の、気合十分な愛らしい娘の姿。
そしてそう笑顔で宣言されれば、自他ともに認める堂々たる親ばかとしては、楽しみ以外のなにものでもないわけであるのだ。
そんな娘の仮装が楽しみなユェーであるのだけれど。
彼女の準備が終わるのを楽しみに待っている彼の今年の仮装はドクター。
でも、普通の医者では面白くないから、なんて。
待機しているその手に握られているのは、独特な色の薬が入ったあやしい試験管や、ユェー自身の背丈と同じくらいの大きさの超巨大注射……!?
そう、ドクターはドクターでも、今年の仮装はサイコパスドクター。
いえ……試験管の中身は、実は美味しいジュースなのですけれど。
そしてルーシーも早速、張り切って着替え――ようと、したものの。
「……う?」
いざ着替えるとなったその時、ようやくハッと気づいたのだった。
――これ、ひとりで着るのとっても大変! って。
けれど今日のルーシーは、やる気も満々に漲っていて。
早くパパと仮装のお披露目会をしたくて、わくわくしているから。
めげることなく、えっちらおっちら。
関節の限界まで使って、何とか今年の仮装――着ぐるみを着込むべく悪戦苦闘。
頑張って少しずつ着れてはいるのだけれど……でもまだもう少しだけ、完全に着替え終わるには時間がかかりそう。
そしてそんな、ルーシーが一生懸命着ぐるみを着用している間に。
――ぴぃーー。
ふいに、まんまるもふもふボディーをぷるぷると震わせる黒雛。
いや、黒い方のユェーならば、黒雛に怯えられそうなことをしかねないのだけれど。
「どうしましたか?」
そう不思議そうに肩に乗る黒雛を見ているのは、白い方のユェー。
それでも、ぴぃーーとぷるぷる震える黒雛だけれど。
じいとその様子を見ていたユェーは察する。
「あぁ、注射が怖いのですか? 大丈夫ですよ、君に治療なんかしま……」
だが――その時だった。
紡ぎかけた言葉を言い終わる前に、ガシィッ! と。
「ぴぃっ!?」
「……何だ、実験体にしてやろうか?」
黒雛を鷲掴みにしたのは、ユェーはユェーでも、いつの間にか交代した黒ユェー!?
そしてニヤリと笑うその顔を見れば、ますます震え出す黒雛。
それから、ふと。
「ぴぃーーー!?」
『この人、ドクターじゃなくてアサシンだー! 僕、殺される!?』
黒雛の鳴き声とは別に声がした、足元を見遣れば。
煩く鳴いているのは、鷲掴みしている黒いのと同じ姿の黒い物体。
けれど、そんな黒雛そっくりさんな黒子も――がしぃっ!
『!!?』
「お前も実験体になりたいのか?」
二匹とも鷲掴みにしてやりつつ、やはりニヤリと笑む黒ユェー。
そんなことがまさに今、起こっている最中。
「……これ、パパ、よく着てたわね……すごいわ」
ようやく何とか着ぐるみを装着したルーシーは、そうしみじみと呟きを落としつつ。
気を取り直して顔を上げれば、力強くこくりと頷いて。
「でもコレで良し! さあパパの所へ行きましょう」
逸る気持ちとは裏腹のヨチヨチ歩きではあるのだけれど、着替え部屋を出て、待っているパパの元へと向かうべく。
廊下に出た瞬間――瞳を大きく見開いてしまうルーシー。
「黒ヒナさんと黒コさんの声!?」
切羽詰まったような、二匹の鳴き声が聞こえた気がして。
だから、声をした方に耳を澄ませると、さらにぱちりと瞳を瞬かせてしまう。
だって、確かに聞こえたのだから。
「何ですって、アサシンがいる!?」
――ドクターじゃなくてアサシンだー! なんていう声が。
けれどルーシーは、そのアサシンとやらの正体が容易に予想できるのだ。
「きっと黒パパがまた悪さしてるのね」
パパの仮装を楽しみにしている一方で、もしかしたら黒パパが出てきて黒ヒナさん達に悪さをするかも……と実は考えていたところで。
そう考えていたら彼方から聞こえる、黒ヒナさん達の鳴き声!
ということで……待っていて黒ヒナさん達! って。
いつものちょっと黒雛たちに意地悪する黒ユェーから二匹を救うべく、いざ颯爽と――駆け出そうと、踏み出した瞬間。
「……!?」
――ころんっ。
あっという間に躓いて転がってしまうルーシー。
着慣れぬ着ぐるみ姿に、意外と豪快に、ぽてんっと転んでしまったのだが。
「き、着ぐるみのお陰で痛くはないけれど、なかなか起き上がれないわ」
幸い、着ぐるみのもふもふに守られて、痛くとかはないのだけれど……ころころじたばた、起き上がることが難しい。
そんな、うまく身体の自由が利かない今の状況に置かれて、ルーシーは改めて知るのだった。
「着ぐるみってすごく動きづらいのね……」
だが、しかし!
「でもこんな所で寝転がってる訳にはいかないわ」
白の時も黒の時も、どちらも大切なパパなのだけれど。
黒雛達に対する黒パパの意地悪は、ちょっと度が過ぎると怒ることもよくあるから。
「早く黒ヒナさん達の元へいかないと!」
――走れルーシー! 着ぐるみの姿で!
何とか起き上がれば、ぽてぽて着ぐるみダッシュ!
「ぴぃぴぃ!!! ぴぃーーー!?」
『ボクはクロヒナのシキガミ! クロヒナをマモルのはボクだ! でもやっぱりコワイーーー!?』
いよいよ切羽詰まっているような二匹の声に、よちよち急いで向かう着ぐるみルーシー。
だって、囚われの哀れな黒雛姫と黒子姫を護れる騎士はそう、ルーシーだけなのだから……!
……いえ、黒くてもふもふな子たちは、どちらもオスなのですけれど。
ということで、ようやく辿り着いた扉をバーン!!
開け放った部屋の中を見回せば……うん、大体予想通り! と。
「ふたりともいらっしゃい!」
そう黒雛と黒子に声を掛けてから、びしっ! と。
「黒パパ! 黒ヒナさんと黒コさんに意地悪したらルーシーが許さないわ!」
雑に二匹を掴んでいる、やはり思った通りの黒パパに言い放てば。
「ぴぃぴぃ! ぴぃぴぃ!」
『騎士様、カッコ良いーー!』
「騎士様? ルーシーが? ……ちょっと嬉しいかも」
二匹を奪い取り、護るルーシーの姿はそう、騎士そのもの!
そんな騎士様なんて言われれば、ルーシーもえっへん。
「ふふーもう大丈夫ですよ、姫君たち!」
囚われの姫たちを颯爽と助け出して。
助けられた二匹の姫は、頼もしい少女騎士の胸の中で安堵してスリスリ。
いえ……その姫君たち、オスなのですけれど。
そんなルーシーの登場に、またちびっこいのこか、なんて目を向けた黒ユェーだけれど。
「あぁ? なんつー格好してるんだお前?」
その騎士様の姿は、蒼いうさぎのララの着ぐるみ。
とてとて歩く姿は騎士?? とはまた、黒子が言うのとは印象が違う感じだけれど。
でも、二匹を護るさまは、凛々しい着ぐるみ騎士様です!
そしてじいと自分を見つめるユェーに、ちょっぴり得意気に。
「この格好? ふふー、去年のパパは黒ヒナさんの着ぐるみだったでしょう? だから今年はルーシーが着ぐるみにしたの」
――お揃いね! なんて、うきうき嬉しそうに言えば。
「あっ? 去年の俺が黒い物体の着ぐるみだったからお揃い?」
「今日のパパはアサシンじゃなくてドクターさんだったのね。とっても……何だかとっっても、お似合いだわ」
まじまじと自分を見つめては、何だか思い切り納得している様子のルーシーに、こくりと頷いて返し笑うユェー。
「あーー、似合う似合う。うろちょろ動いてる姿は小動物そのままだな」
そして――それに……と。
ユェーが何か言葉を続けんとした、その時だった。
言葉が途切れ、ゆら、と頭を揺らしたその様子を見て、ルーシーは悟る。
黒パパから白パパに戻った事を。
でも戻ったはずなのに、瞬間、再び大きく瞳を見開いてしまったのは。
「ルーシーちゃん!!! な、なんて可愛いだ!!!」
「ごきげんよう……わ、わあ?」
「天使!!! その姿は誰よりも天使に近い! いや、天使よりも可愛い!!!」
(「喜んで下さったのはうれしいけれど珍しい位のテンション!?」)
先程の黒パパの反応とは違った、ララの着ぐるみ姿の自分を見たゆぇパパの、親ばか的な急激な滾り具合に。
そして色々と感情が弾けたまま、ぷるぷると。
「その姿は誰にも見せれない!! あっ、でも……」
そう今にでも出そうな言葉を口を押さえているその姿を見ながら。
最初はちょっとびっくりしちゃったけれど、すごく喜んでくれているのを見れば、ほわほわと嬉しくなるルーシー。
それからゴホンと咳払いをして、すーはーと大きく何度も深呼吸をして。
何とか呼吸を整え、ようやく少しだけ落ち着いたユェーは、改めて告げる。
「今年はララちゃんの着ぐるみなんですね。とても可愛らしいです」
いや、娘のあまりの可愛らしさに、思わず我を忘れるほどテンションが上がってしまったのだけれど。
でも同時に、とても嬉しく思ったから。
「去年の僕と合わせてくれて嬉しいです。作るのも着るのも大変だったでしょう?」
黒雛の着ぐるみの仮装をした去年の自分のことを、覚えてくれていて。
さらには、それに合わせてお揃いで、ララの着ぐるみを用意してくれたということに。
だからいっぱい褒めてあげたくて、頑張りましたねと頭も撫でてあげれば。
「えへへ、頑張った甲斐があったかしら」
そう笑う眼前の娘は、やはり天使……いや、天使以上に可愛すぎる尊さ。
仮装のお披露目会のはじまりは、黒パパの出現でドタバタにはなっちゃったけれど。
「パパのお医者さん姿もステキよ! 風邪をひいてもきっと安心ね」
「カッコ良いですか? ありがとうねぇ」
無事に今年も、お互いの仮装をこうやってちゃんと見せ合いこできたし。
……その前に風邪など引かせませんけどね、なんて。
にこにこ笑むユェーの金の瞳は、やはりガチの親ばかのものです。
でもやはり、ルーシーの気持ちがすごく嬉しかったから。
「ちょっと待ってください」
「う、どうしたの?」
ふとそう告げて何故か再び部屋に戻るユェーに、ルーシーは首を傾けるけれど。
言われた通り、大人しく待っていれば――。
「……わああ! 黒ヒナさんの着ぐるみ姿!」
戻ってきたユェーを見た瞬間、思わず声を上げてしまう。
だって、パパが着替えたのは去年の仮装、黒雛の衣装であったのだから。
そしてぽてぽてと、でも難無く歩み寄って。
ユェーは自分を見つめるルーシーに微笑んだ後、続ける。
「記念に一緒に写真を撮りましょうか?」
「うん、お写真とりたいわ!」
それから、黒雛なユェーに、ララの衣装のルーシー。
黒雛、黒子、それに勿論ぬいぐるみのララも一緒に。
「家族大集合ね!」
家族が皆、勢揃いで並んで――はい、ポーズ!
「想い出の一枚が撮れましたね」
「ふふー、ええ! 素敵な想い出になったわ」
もふもふやかわいいがたくさん。それに何より、嬉しくて幸せな気持ちがいっぱい。
そんなとっておきの家族写真も撮れて、記念撮影も大成功。
今年のお披露目会も、すごく楽しかったから。
「来年のハロウィンが楽しみですね」
「ありがとう、パパ! 来年も楽しみよ」
また来年のお披露目会が、今からとっても楽しみ。
そして、来年はどんな仮装をしようかなんて、ちょっぴり気が早いけれどわくわく思いながらも。
「……あ、そうだわ」
ルーシーはふと、隣を見上げて。
おや? と首を傾けるゆぇパパに訊いてみるのだった。
「着ぐるみで素早く動くコツ、良かったら教えて下さる?」
同じもふもふでも、何だかとてもスムーズに動いているように見えるから。
そしてそんな問いに、ユェーは金の瞳を細めて。
「ふふっ、えぇ動きは任せてください」
着ぐるみウォ―キングのコツを伝授する――その前に。
「それよりも転けて怪我してないか見せてくださいね?」
……転げたのを僕が気づいてないとも? なんて。
天使より可愛い大切な娘に、堂々と過保護するユェー。
そんな言葉に、一瞬ぱちりと瞳を瞬かせるも。
相変わらずな親ばかに、ルーシーは思わず嬉しくも笑ってしまって。
「まあ、ふふ! お医者さまは何でもお見通しね?」
「えぇ、僕はドクターですから」
今はドクター姿ではなくもふもふまんまるな黒雛ではあるけれど。
着ぐるみで素早く動くコツを伝授してもらうためにも。
まずは黒雛ゆぇパパの、入念な親ばかドクターチェックからのようです。
成功
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